魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第五十四話

 リリをヘスティア様に紹介しようと言う事で、今日は昼で迷宮を切り上げた。稼ぎは上々。

 真昼と言う事で冒険者は絶賛ダンジョン探索中であり、目に映るのは冒険者では無い一般市民の奥様方。そんな街の大通りを俺、ベル、リリで三人仲良く並んで歩いている。人通りが多いと言う程では無いので三人並んでも余裕で歩けるぐらいだ。

 

「ふぅぅん、ベルさまぁ」

「あっ、ごめん、つい」

 

 ……何を横でラブコメやってんですかねぇ。と言うかベルには不用意に獣人の耳とかに触らない様に教えたのに。

 まぁ、気になるのもしゃーないか。

 

 リリの持つ魔法『シンダーエラ』は自身の姿を偽ると言うもの。触った時の感触もしっかりと再現されるし、姿形を変化させる物である。元となる自身の姿からかけ離れた姿に変身する程に消費する魔力が跳ね上がるそうだが、耳と尻尾を生やして獣人に扮する程度なら一日変身しっぱなしでも平気らしい。

 はっきり言ってチート過ぎるとは思うんだが、神が嘘を見抜くこの街では有用性は低いらしい。とは言え普通の冒険者程度なら騙したい放題なのはチートだと思う。

 

「リリはこのままでいいの?」

「はい、ベル様とミリア様が私の事をご存じなら」

 

 ……無駄に信用されてるっぽいんだよなぁ。確かに全力で助けには行ったんだが。

 

「それよりも、良いのですか……?」

 

 不安そうな色の混じるリリの声。何か不安、不満に思ってる事でもあるのか?

 

「リリはお二人を騙したのですよ、それなのに……このまま許されてしまったら……リリは」

 

 ……。あぁ、罪悪感が残ってるって話か。簡単にリリを責めるなりなんなりすりゃ解決する様な問題なんだが……。俺も似た様なもん抱え持ってるしなぁ。普通にリリにお仕置きでもすりゃ良いのかね。

 

「大丈夫だよ。さ、行こう」

 

 ……ベルにはわからんだろうな。悪い事をした後はしっかり怒られないと罪悪感が残り続けてしまうなんて。悪い事をするなんて考えないベルにはわかるまい。ある意味で最も残酷な事をしているが、リリにとっては良い薬か? 俺にとっても良い薬だしな。嘘を吐いた事を責めて貰えないのは正直キツイ。ヘスティア様は怒る時は怒ってくれるが、ベルは赦してしまう。赦すだけでは解決できない事もある。そこら辺を教えた方が良いのか……。

 

 いや、それはベルの特色だろう。それを打ち消すのはやめるべきだ。ヘスティア様に任せよう。俺がしても良いが、演技してでもそれをするのは……。

 

 

 

 

 ヘスティアファミリア本拠、廃教会の壊れた祭壇前に仁王立ちするヘスティア様に、懺悔する様に跪くリリ。ヘスティア様の左右に控える俺とベル。

 

「リリルカ・アーデです。初めまして」

 

 上ずった挨拶をするリリルカに対し、高圧的な雰囲気を纏ったヘスティア様が胸を張って見下ろす。

 

「君が噂のサポーター君か、ベル君とミリア君から話は聞いてるよ」

「僕、下でお茶でも入れてきます」

 

 ベルは気を利かせてお茶を淹れに行くのか。俺も行こうかなぁ、どうしようかな。ヘスティア様とリリのやり取りも気になるんだよなぁ。

 

「あ、でもコップが三つしかないです」

「なぁに気にする事は無いさ。僕とベル君が一緒に使えば良い」

 

 あー、最初はコップ二つしかなかったから俺とヘスティア様で兼用したっけなぁ。なつかしい。追加で買った時に客用のコップぐらい買っとけばよかったか。

 

「あはは、神様もそう言う冗談言うんですね」

「がーん……」

 

 目をギラギラ光らせてアピールするヘスティア様に対してのベルの反応は淡泊であった。最悪、俺のコップをリリにつかわせりゃ良いだろ。むしろ他二つのコップって割と古びてるし、一番きれいなのって俺のコップ……やっぱ新品はヘスティア様が使うべきだと思うんだけどなぁ。割と頑固と言うかなんというか。思い入れでもあるんだろうか。

 

「さて、まずは君の覚悟を聞こうじゃないか」

 

 ふざけた雰囲気が消え、神威こそ出していないものの、しっかりと圧をかけた言葉を口にするヘスティア様。

 

「サポーター君、君は二度と同じ過ちを繰り返さないと誓えるかい」

「はい、誓います。ベル様に、ミリア様に、ヘスティア様に……、何よりリリ自身に。リリは、ベル様に救われました。ミリア様には三度も救って頂きました。決して裏切りません、裏切りたくありません」

 

 ……三度? 三度も助けたか? えっと……裏路地で死にかけていた時は、俺の所為だしカウントしないでしょ? 昨日のキラーアントの時は俺も一緒にベルに救われた感じでしょ? 俺はカウントしたくないけど、リリからしたらその二つをカウントするのはわかるんだけど、三度目? 何処で?

 

「わかった、その言葉は信じよう」

 

 うぅむ。わからん。キューイ、なんか知ってるか? あ、知らない? だよね。

 

「正直言うよサポーター君。僕は君の事が嫌いだ」

 

 ばっさり言うね。まぁ、むしろ罪悪感を抱いたまま潰れない様にする気遣いだから優しい言葉なんだが。

 優しく、相手を傷付ける言葉を弄せるとか、やっぱヘスティア様は凄いな。

 

「僕から言わせれば、それはただの甘えだね」

 

 ……そっかぁ、俺の抱えてるこれも甘えっちゃ甘えなのかぁ。

 

「良いだろう。ベル君は君を責めないだろうし、ミリア君には余計無理だろうから、僕が代わりに裁いてやる」

 

 …………うん、俺には無理だ。裁かれる側だってずっと思ってる俺には、リリを捌く立場には立てない。いや、立てなくはないが、演技の上での話になるし、そんなの俺が耐えられない。

 

『ミリアー、お茶の缶ってどこだっけー』

 

 ふむ? ベル君のお呼び出しだな。しゃーない、行ってくるか。お茶の缶? 戸棚に仕舞ってなかったっけか?

 二人のやり取りが凄く気になるが、ベルが困ってるみたいだし行くかぁ。

 

「ヘスティア様、ちょっと下に行ってきますね」

「あぁ」

 

 

 

 

 

 ミリア様が居なくなり、ヘスティア様と二人きりになってしまった。

 どんな裁きが下されるだろう。リリは……二人を騙して、優しさに着け込んで取り入ろうとしている。ヘスティア様の言う通り、嫌われて当然だ。

 

「……ベル君とミリア君の傍に居てやってほしい」

「え?」

 

 ……何で? 下されるはずの裁きが、おかしい。

 

「ベル君が変な奴に引っ掛からない様に、お目付け役さ」

 

 ずっと俯いていた所為で、気が付かなかった。此方を見下ろすヘスティア様の目を見て、確信した。この神様もとても優しい人なんだって。あの二人の主神なんだって、漸く理解できた。

 

「……それに、ミリア君の方も色々あるのさ」

 

 ミリア様に?

 

「詳しくは話せないし話さない。この事を君に話すかどうかはミリア君が決める事だ。だけど、ミリア君にも事情がある。もしかしたら君を不愉快にさせる事をするかもしれないし、これまでしてきているかもしれない。だけど、断言できる。ミリア君は君を害する積りは無い」

 

 何の話だろう。ミリア様がリリに不愉快になる事を? 七階層、キラーアントに囲まれたあの状況での話だろうか?

 

「言っとくけど、君の為じゃないぞ。僕は今回の事で確信したんだ。ベル君はほっといたらまた誰かに騙される。ミリア君はそれに気付けるけど……その所為で余計な傷を負ってしまう」

 

 余計な傷? リリがした事でミリア様を傷付けた?

 

「罪悪感なんて、自分が自分を赦せるか赦せないかでしかないんだ。君が心を入れ替えたっていうなら、行動で証明してみせろ」

 

 …………何が、ミリア様を傷付けてしまったのだろう。

 

「パーティへの加入は許可する。ベル君のお守も任せるし、ミリア君が余計に傷つかない様に見てやってほしい」

「おまたせしましたー」

「っ! くれぐれも、出過ぎた真似だけはしないようにしてくれ」

 

 

 

 

 あー、リリとヘスティア様の話、終わってるな。戸棚に仕舞ってあったはずの茶缶が別の所にあったのが少し気になるが、まぁいいか。

 

「遅くなってすいませ──っ!? 神様っ」

 

 ベルの腕に抱き付いて胸を押し当てるヘスティア様。リリに見せつける様に行われるその行為にベルは顔が真っ赤。未だに慣れないのかね。リリは口をあんぐりあけて硬直してる。

 リリに見せつける行為。まぁ、ベル君に惚れただろうし。泥棒猫(ヘスティア認定)に対するあてつけかなんかだろう。

 

「さぁて、改めまして。初めましてサポーター君()()ベル君が世話になったねぇ」

 

 副音声として『後からのこのこしゃしゃり出て来た分際で、僕のベル君に手を出すんじゃない。この泥棒猫』ってのが聞こえた気がした。まぁ、その通りだしね。

 でも、注意しとかないとベル君はどんどん女の子をホイホイ惚れさせそうな気はするが。

 

 次の瞬間、覚悟を決めたらしいリリが外套を脱ぎ捨ててベルの腕、ヘスティア様とは反対の腕に胸を押し当てる様に引っ付いた。

 

「いえいえ此方こそ、ベル様にはいつも()()()お優しくしてくださりますから」

 

 こっちもなんか副音声聞こえるんだが。なんだかなぁ。ベル君の顔色がヤバイよ。あそこまで攻めるとベル君は引いちゃうだろうなぁ。おっと、リリの外套が降ってきた。回収して畳んでおいておこう。

 

「リリ、外套此処に置いときますね」

 

 二人とも火花散らしてまぁ……ベル君モテモテですなぁ。片やロリ巨乳小学生。片やロリ巨乳幼女。なんか巨乳率高いよな。アイズさんもそうだし、エイナさんも巨乳じゃん? 貧乳って俺だけ?

 

「そうだっ! エイナさんにギルドに行って会わないとっ!!」

 

 二人ががっしりと腕を抱いていた筈なのに、一瞬で抜け出すベルの技量ってスゲェ。

 

「ベル君ぅん」「ベル様ぁ」

「君の所為でベル君が逃げちゃったじゃないかっ!」

「なんですってっ、神様だって────

 

 俺はどうするかなぁ。此処で二人のキャットファイトを眺めても良いかも知らんが、ベルの方も気になるしな。

 

「あぁ、ミリア君、君はベル君と一緒に行ってくれ。どうせまた女の子を引っ掛けてくるだろうからね。あのギルドのアドバイザー君も怪しいもんだよ」

 

 あぁ、うん。了解。エイナさんが怪しいって……まぁ、そうか。ベル君モテるしね、可能性はあるよね。

 

「わかりました。では行ってきますね」

 

 

 

 

 

「さて、ミリア君が行ったから漸く話せるけど」

「……はい」

「ミリア君を傷付けたのは君の所為でもある。だが、君だけの所為じゃない」

「…………」

「ミリア君は嘘を吐くのが上手くて、大嫌いなのさ。人の嘘に直ぐ気付く、気付いてしまう」

「じゃあ、最初からミリア様は気付いて……」

「ベル君が騙されそうになってる時、ミリア君はそれを教えなかった。何故だかわかるかい?」

「わかりません」

「ミリア君も君と同じだったからだ。君と同じで、自分が()()()だと思ってる」

「でも、ミリア様はとてもお優しい方で」

「そうだ、ミリア君は優しい、優し過ぎるんだよ。だから、君に手を伸ばしてしまった」

「…………」

「悪い事じゃない。ミリア君が自分でやりたいと思った事だ。応援もするし、背中も押そう。でもね……傷を負う事を躊躇わなくなってしまうから、心配なのさ」




『ピストル・マジック』射程中・威力中・消費低
『ショットガン・マジック』射程低・威力高・消費中・範囲中
『ライフル・マジック』射程長・威力高・消費大

 追加の魔法を覚えさせるって案もあるけど、ぶっちゃけこれ以上はいらないと思う。
 だけど、このままだとミノタウロス戦はまだしも、それ以降の黒いゴライアス辺りが辛いと思ってる。

 だって、アレってレベル4相当の強さなんでしょ? リューさんが倒せないぐらいだし?
 どう考えてもミリアの攻撃が通用しないし、シルバーバック戦みたいに攻撃に対してブラッドボーンみたいに銃パリィ染みた事もできんだろうし。

 かといってこれ以上の強化は思いつかんし……近接戦も交えて? あの巨体相手に近接戦挑める訳無いじゃん? どうすりゃ良いのか思いつかん。

 キューイの真の力でもぶっぱさせるか……?

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