魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第五十九話

 糞失礼なエルフちゃん。と言うと流石に言い過ぎであるが、レフィーヤ・ウィ()()()()()……ウィリディ()()……。

 レフィーヤと言うエルフを入口に置き去りにして地下室の扉を開く。彼女の名前は発音し辛いんだよ。なんだよウィ()()、ウィリディ……()()。ウィリュデス……うん、レフィーヤさんで良いね。

 

 ともかく、発音し辛い姓を持つ彼女は、まぁ悪い子じゃないと思うんだがなぁ。

 

 地下にある生活空間を見せつけて『ここが住処です』と言い放ってやりたいが、ホームの中まで案内するのはちょっとって感じ。他のファミリアの人だし?

 まぁ、アイズさんに鍛錬つけて貰ってる奴が何言ってんだって話なんだが。

 

 さて、トランクケースに立て掛けておいた俺の剣と杖を回収してー、と考えていた所で違和感に気付く。

 なんか部屋の中が血生臭いのだ。後序に俺の剣と杖が無い。

 

 何処に行った? と言うかなんだこの血の匂い。

 

 部屋を見回す。ボロボロのソファーにヘスティア様用のベッド、後は簡易な水場にー、うん? シャワー室の方から音がする。キューイが見当たらないし、なんか勝手にやってんのかよ……つか、剣と杖をどっかにやったのはキューイなのか?

 

 

 

 

 

 あー、うん。悲鳴を上げる事こそしなかったが。とりあえずキューイが心臓に悪い事してた。

 血塗れのシャワー室。転がる俺の剣と杖、そして自分の尻尾を噛み千切って溢れ出る血を剣と杖に塗りたくるキューイの姿。血濡れのシャワー室を見た時点で悲鳴をあげかけた。

 よくホラー系の映画であるだろう。曇りガラスの向こう側で蠢く何か。曇りガラス越しに見える血の赤さ。何故か聞こえるキューイの機嫌よさ気な鼻歌が何とも言えないあの異空間の前でたっぷり深呼吸して扉開けたら想像通りの真っ赤な光景が広がっていて。うん、悲鳴を上げる事も出来ない光景ってああいうのを言うんだろうな。

 

 とりあえず、キューイの血に塗れた剣と杖をしっかりと洗って、キューイに事情を聴く事になった訳だが。

 

「で、なんであんな事を?」

 

 シャワー室がキューイの血で惨劇状態なんだが。後片付けの為にさっと水洗いして、血を洗い落とす様の洗剤をたっぷり使う羽目になった。剣と杖も酷い有様だし。

 テーブルの上に置かれた剣と杖は赤かった。しっかりと洗ったのだが、赤色が落ちない。正確に言うなれば金属特有の鈍色の光沢が緋色に染まっている。赤銅色と言うには銀色に近いと言うか、赤銀色?と言うべき色。

 

「キュイ? キュイキュイ」

 

 うむ。血で強化? 竜の血を浴びると云々?

 

 あー、キューイ曰く。竜の血と言うのは特別な力が云々。なんかの竜殺しの英雄も全身に血を浴びたおかげで凄まじい力を手に入れる事が出来たとかあったな。ニーベルンゲンの歌とやらのジークフリドだったかが、竜殺しを成し遂げた際に全身に血を浴びたおかげで、鋼鉄のごとく硬く、いかなる武器も通用しない不死身の体となったとかどうとか?

 それなら俺が血を浴びるとどうなの? って言う疑問はあるが、キューイの血はそこまで馬鹿げた能力は無いらしい。

 

 と言うかキューイは俺の魔力から産まれた存在だから、キューイの体からとれる素材、鱗や牙、爪なんかは俺の魔力と親和性が高く、血も当然の如く親和性が高い。

 んで俺の持つ剣は元々只の鉄製で魔力の浸透率が悪く、爆発寸前にまで擦り減っていたのだが、俺が魔法の触媒となる剣を欲していたので丁度いいからその剣を血に浸して触媒として使える様にしたとか。

 

 ……俺の為にやってくれたことなのはわかったんだが。とりあえず良いか?

 

「あの、シャワー室、血塗れなんですけど……」

 

 もしかしてシャワー室そのものが俺の魔力に対する親和性の高い魔法の触媒になったって事か? あほらしいぞ。

 

「キュイ? キュイキュイ、キュイ」

 

 ……あー、シャワー室で魔法使うと威力を跳ねあげてくれるらしい。あのシャワー室は俺の魔法の威力を引き上げる()()()として完成したとかどうとか。アホか、シャワー室で魔法なんて使うか。

 

「キューイ、今度はちゃんと私に話を通してくださいね……。とりあえず、触媒化してくれた事はありがたい事なのでお礼は言います。もう一度言いますけど、くれぐれも勝手な行動は控えてください」

「キュイ?」

 

 嬉しくないの? 嬉しいよ? でもさ、俺って血が苦手なのよ。ほら、血塗れの両手が──

 

 

 

 

 

 お昼ご飯なににしようかななんて考えていたが、とりあえず食欲は失せて消えた。キューイはおいてきた。うん、とりあえず何かを口にできる状態じゃないな。マーライオン化してるし。

 部屋の惨状を片付け、緋色に染まった剣と杖を手に廃教会を出た所で、レフィーヤはまだ待っていたらしくお昼ご飯に誘われた。

 

「こんな()()本拠だなんて知らなくてごめんなさい。よかったらお昼ご飯奢りましょうか……? 並行詠唱についてアドバイスも貰っちゃいましたし」

「あー……すいません。ちょっと食欲無くて」

「え? 何かあったんですか?」

「ちょっと、色々と……」

 

 家に帰ったら血塗れの惨劇の場に出くわしました。なんて言えずとりあえず誤魔化しておく。

 と言うか俺の杖は鉄の長棒みたいな感じの代物だが、レフィーヤの持つ杖はなんというか()って感じがするな。

 

「どうしたんですか? 私の杖が気になりますか?」

「え、えぇ。私の杖って、ほら、只の棒っぽいんですけど、レフィーヤさんの杖って杖っぽいっていうか」

 

 ファンタジーに出てくる杖、まさにそんな感じで魔法の触媒っぽいのでちょっと気になった。とは言え今の俺の杖も緋色に染まっていてちゃんと()()()()()として使える様になっているらしいが。キューイ曰くだけど。

 

「見てみます?」

「良いんですか?」

 

 差し出された杖を受け取って観察してみるが。装飾といい、雰囲気がファンタジーっぽさがにじみ出てる。

 

「森のティアードロップっていう私の杖でして。『白聖石(セイロス)』を本体の材料に、魔法石には『千年樹の(しずく)』が使用されてるんですよ」

「へぇ」

 

 すごそう、と言うぐらいしか感想が出てこない。いくらぐらいしたんだろうか?

 

「これ、どれぐらいの値段なんですか?」

「えっと、37,800,000ヴァリスだったと思いますよ」

 

 ……。うん、その、なんだ。とりあえず。

 

「返しますね」

「はい」

 

 大よそ三千七百万。無理だな、高すぎる……。

 

「はぁ……」

「どうしたんですか?」

「いや、魔法用の触媒となる杖ってやっぱり高いんだなぁって」

「そうですねえ。魔法用の触媒となるとどうしても値段が張りますよね。魔法の触媒としては低質ですけど、『樫』と低品質の魔法石辺りなら数万ヴァリスでなんとかなると思いますけど」

「それでも万は飛ぶんですね」

 

 まぁ、そのぐらいにはなるのか。うーん。

 

「ミリアさんの杖はどんなものを? 見せて貰っても良いですか?」

「どうぞ、安物の鉄の長杖ですけど」

 

 見る価値なんてないだろうなぁ。ただの鉄の棒にキューイの血を振りかけたもんだしなぁ。

 

 緋色の鉄の長杖を手渡すと、レフィーヤはうっと息を詰らせてから恐る恐る此方を見た。なんだ? 実はとても良いモノになってたとかか?

 

「……あの、これ、凄く血生臭いんですけど」

「…………あぁ、うん。モンスター殴ったりしてますからね」

 

 なんだかんだ凄い希少な長杖じゃないですか! みたいなのを期待してたけど、そう上手くはいかないか。

 

 

 

 

 

 

 外壁へ続く階段を上る入口の辺りでレフィーヤさんとは別れた。アイズさんと顔を合わせにくいとかどうとか。まぁ、俺は気にしないがベルの方は焦るだろうし良いか。

 階段を上りつつ考えるのは、ベルの事。

 

 このままだと不味いんだよなぁ。ベルは一人でどんどん強くなっていってるし。俺はおいて行かれない様に頑張ってるんだが……なんだかんだ言いつつも、『ショットガンマジック』で足止めからとどめ差しぐらいしかできないし、そのとどめを刺すのも戸惑う事が多い。

 肉を貫き、骨に刃が掠った時のあの感じ。ギシギシって言う刃先から伝わる固い物と接触した感触は、何とも言えない。背筋がゾクゾクってなる様な感じがする。黒板に爪を立てた感じと言えば伝わるか。

 

 ともかく、肉を斬る感触はなんとかなりそうなんだが、骨に剣が当たった時のあの感じはまだダメなのだ。血の匂いも苦手だし、手に血が付いた時なんかは手元を見ない様にしないと吐き気がする。手が濡れてる感触もまだ苦手だし……返り血を浴びない上手い切り方が出来ればなんとかなりそうなんだが、そこら辺はアイズさん曰く()()しかないらしいし。

 なんたって生きた生き物を斬らないと返り血云々は練習にならん訳で……ともかく、そこら辺もしっかり頑張っていかなくては。

 

『ほわぁぁぁぁあっ!?』

 

 ふむ。ベルの悲鳴か。

 階段を登り終え、外壁の上部の入口からこっそりと眺めてみればベルが慌てて跳ね起きて正座するさ中であった。状況からして、膝枕されていたんだろう。よくある。

 膝枕したアイズさん、気が付いたベルが悲鳴を上げて跳ね起きる。そんな光景は何度か目にしたし。

 

「……聞いても良い?」

「え? 何をですか」

 

 ほむ? アイズさんの方から語りかけるのは少し珍しいな。ベルが立ち上がろうとした所でアイズさん方から声をかけてるし。

 

「何か、悩み事でもあるの?」

「へ?」

「……さっきから、凄く焦っているみたいだから」

 

 悩み事? ベルに? アイズさんに鍛錬つけて貰うさ中にベルが悩みねぇ。伸び悩んでる? 訳無いよな。だって凄い勢いで強くなっていってるし。

 正座したまま向き合う二人。お見合いかな? 冗談はさておき、ベルの悩みには少し、いやめちゃくちゃ興味ある。盗み聞きは少しはしたないが、気付いてないしちょっとだけ。

 

「…………」

「どうしたの?」

「あの、ミリアの事で少し」

 

 ……俺の事? はて、何か仕出かしてしまっただろうか? 今日は昼までかかってしまったが、心配してたんかな?

 

「ミリアが、どうしたの?」

「……僕、最近気付いたんです」

 

 何時もミリアに頼り切りだった事。援護を常に任せていた事。死角は常にミリアが見ていてくれた事。

 その所為で(ミリア)が実力を出せていない事。

 

 ベルの口から並べ立てられる事柄は、俺からしてみれば信じられない様な事ばかりである。俺を頼ってくれていたんだって思うんだが……なんだかなぁ。

 

「僕がミリアに援護を任せる所為で、ミリアが実力を出せて無くて……ミリア一人で戦っているのを見たら……僕なんて全然で……魔法だって上手いタイミングで使えないし、モンスター複数に囲まれたらよく怪我するし……」

 

 ……。あー、なんつーか。そう、こそばゆい。とは違うか。

 ベルはベルで、俺が上手く戦っているのを見て焦りが生まれていたと。俺は俺でー、ベルを見て焦っていたと。

 

 ベルは俺が援護に徹していた所為で実力を出せずにいたから、今度からは援護しなくても良い様に動こうって頑張ってるのに、時折打撃を喰らって怪我したりしてて、俺に回復魔法を使って貰ったりしちゃってるのを気にしてて。

 俺は俺で、援護を必要としなくなった事に焦りを覚えて、ベルが攻撃を喰らう度に回復魔法を使って、ベルがまだ俺を必要にしてくれてると、不謹慎ながらベルが怪我をする度に安堵してて。

 

 これはー、擦れ違ってるなぁ。どうするか。

 

「……ミリアに、置いていかれそうで」

 

 そんな事は絶対にしないんだが。むしろ置いて行かれそうだって感じてるのはこっちだってのにさ。何とも言えない気まずさがあって──アイズさんの視線がこっちに向いてるんだけど。

 

「ミリア、この子はこう言ってるけど」

「え? ミリアっ!?」

 

 ベルが跳ねる様に立ちあがってこっちをみた。アイズさん気付いてたんかい……。仕方ないので影からベルの元へ歩いていく。太陽がまぶしいねぇ。

 

「えっと、ミリア、その……」

「ベル、とりあえず先に謝っておきます。ごめんなさい」

「え?」

 

 ベルが怪我をする度に、不謹慎ながら“まだ俺が必要である”と安心していた事。

 援護を必要としなくなった事に不満を抱いていた事。

 

 ヘスティア様の言う通りだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だから、何かあったらしっかりと言葉にしてほしいって。なんとも言えない話である。

 要するに、言葉を交わさなかったからしょうもない擦れ違いしてた訳で……。

 

 ベルはベルで俺に置いて行かれてると感じて、俺は俺でベルに置いていかれると感じた。向いてる方向が別々な所為で、それに気付かなかっただけである。話がわかってみれば只の笑い話。そんなもんだった訳だ。

 

「そっか……僕もごめん。ミリア一人で戦ってる方が上手く戦えてたから」

「そう見えました? 結構焦ってたんですよ。数が多いと『マジックシールド』で消耗しますし」

 

 ベルの方は直接“怪我”と言う形で見えるんだが、俺の場合はやせ我慢で“魔力”を誤魔化せるから余計ベルは勘違いしたんだろう。自分は怪我しちゃうのに、ミリアはへっちゃらそうだって。

 

「そっか……」

「もし、一人でどうにもならないときは遠慮無く援護頼んでくださいね。私もベルを頼るので」

「わかった」

 

 悩みが、消し飛んだと言うかなんというか。うん、ここで話せてよかったよ。今度からは抱え込まない様に……出来たらいいなぁ。

 

「……二人に、質問しても良い?」

「はい、どうぞ」

 

 おぉっと、アイズさんの存在を忘れてた。とりあえずアイズさんのおかげですれ違いはどうにかできそうだし。お礼になんでも質問に答えよう。

 

「どうして二人は、そんなに急に強くなっていけるの?」

「えぇ? そんな、僕は強くなんて……」

 

 答え辛い質問だな。というか……俺って強いのか?

 

「すいません、質問を質問で返すのはアレなんですけど……私達って強くなってます?」

 

 ベルが強くなってるのはわかる。だが俺も?

 

「うん。並行詠唱が元から上手だったけど、今のミリアなら一人でも十二分に戦えるぐらい強くなってる。最初はそんなでもなかったけど、剣の腕も着実に上手くなってるから」

 

 ……第一級冒険者に褒められるぐらいに伸びてる。かぁ……『家族/眷属(ファミリア)』の影響だろうなぁ。

 どう説明すべきか。

 

「……どうして?」

「ベルから答えてくれません? ちょっと言葉を纏めるので」

「え? あぁ……うん」

 

 悪いベル。俺はちょっと言葉を選ばせて貰う。流石にありのままを話すのは──恥ずかしいし。

 

「ただ、その、えっと……。どうしても追いつきたい人がいて、何がなんでも辿り着きたい場所があるから……。だと思います」

 

 その場所は、彼女の隣であろう。ベルの事だから、間違いないな。それをアイズさんに伝えたベルの羞恥はいかほどのものか。

 

「ミリアは?」

 

 俺は、そうだなぁ。

 

「そうですね。さっきもちょっとすれ違ってましたけど、どうしても置いて行かれたくないんですよ。今まで、ずっと一人だったので。オラリオでヘスティア様に出会って。()()が出来て。その家族が凄く頑張ってて、前に前に進んでいくんで置いて行かれない様に必死に頑張ってる。ただそれだけですね」

 

 スキルには触れないでおこう。とはいえ()()()()なんて恥ずかしくて言えないわ。迂遠な表現だが、これが限界。

 

「そっか……家族の為に」

 

 ……アイズさんが何を考えたのかは知らないが。彼女が幼い頃から迷宮に潜っていたのは、彼女の家族が関わっているのだろう。

 俺が触れるべきじゃないし、触れたいとは思わない。俺は俺で、家族(ベル)の背中を追うので忙しい。

 置いて行かない。手におえなかったら協力する。そう約束したけど、ベルはこれから強くなる。それに、置いて行かれない為に、俺はもっと頑張らなくてはいけない。

 

 並行詠唱が上手い。魔法剣士としての才能がある。魔法の扱いが上手い。それだけじゃダメだ、上手い、才能がある? ベルはもっと凄い、もっと上手い、もっと才能がある。置いていかれるのが嫌なら、もっと、もっと努力しなきゃならない。

 

 ベルが超えるべき敵、シルバーバックも、ミノタウロスも、その先の敵も、どれも俺よりも強いだろう。だから、俺は家族(ファミリア)で有り続ける為に。強くなる。




 次回、VSミノタウロス

 リューさんとのやり取りやら、アイズさんの関係やら。そこらはかっ飛ばそうと思う。どうしても必要かって言われるとアレだし……ほら、話数が嵩んでるだろう? 進行遅いし、ちょっと飛ばしてかないとねぇ。

 それにしても、上手く書けるかねぇ。戦闘シーンって凄く苦手なんだけど(遠い目)

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