魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第六十話

 異常なステイタスを記録した紙を片手に立ちすくむヘスティア様。俺はどうするべきだったのだろうか。

 アイズさんのランクアップ報告がギルドに張り出され、ベル君の焦りが最高潮に達している。自身のステイタスの更新した紙を見もせずにダンジョンに向かうベル。

 本来、基礎アビリティである『力』『魔力』『耐久』『敏捷』『器用』の最大値はS 999のはずであるが、ベルのステイタス上ではSSと言う表記になり、4桁……つまり999の先、1000を超える数値をたたき出していた。

 

 ……まぁ、俺もそうなんだけどね。

 

 とは言え、ベルの方は力、敏捷、器用の三つがSSで、他二つがSであり。

 俺の方は──魔力がSSに成った物の、他のはお察し状態。力? Eですが? 耐久? 聞くなよ、照れる。Fだよ文句あんのかよ……。

 

 急いで出て行くベルを見てから、ヘスティア様を振り返る。

 

「いってきます」

「ミリア君、ベル君の事頼むよ」

「わかってますよ」

 

 大丈夫。リリも居る。安心して帰りを待っていてくれ。

 

 

 

 

 

 リリと合流して第九階層までやってきたが。何かがおかしい。らしい。

 キューイ曰くだが『変、あの日と同じ』だとの事。

 

 ()()()ってのが何なのかわからんが。ベルも違和感を感じているのかしきりに周囲を見回しては首を撫でている。

 リリもそれに気付いたのだろう。足を止めて口を開いた。

 

「ベル様? ミリア様? お二人ともどうなさったのですか?」

「リリは、何か感じない?」

 

 何か、ねぇ……。うーん。キューイが黙ったままなんだよなぁ。どうしたんだよキューイ。って、服の中で縮こまって震えてるし。どうしたんだよ。

 

「ミリア様? どうしました?」

「え、なんかキューイが縮こまって動かないし、何も言ってくれないのよ。キューイ、モンスターは?」

 

 そう言えば、この階層に入ってからなんでかキューイが黙って動かなくなったんだよな。でもモンスターに出会ってないし、モンスター居ないから何も言わないんじゃね?

 

「反応無いですね。モンスターが居ないみたいで……いなさすぎじゃないですか?」

「……そう言えばそうですね。確かに全然モンスターが居ません。いつもならこんなに出会わないなんて珍しいんですけど」

 

 リリと話し合っていると、ベルが困惑した様に口を開いた。

 

「ねぇ、二人は視線を感じない?」

「視線? 特には何も」

「さぁ、視線についてはわからないですけど。確かに違和感はありますね」

 

 ベルは考え込み始めるし。どうしたんだか。

 

「キュイッ! キュイキュイッ!」

 

 うわっ、急にキューイが服の中で暴れ出した。鎖帷子があるから衝撃だけだが、腹や胸やらをひっかきまくってくる。ギャリギャリっと金属をひっかく音を響かせて暴れ狂うキューイを慌てて引っ張りだして放り捨てる。

 

「ちょっとキューイ、急に暴れないでよ。びっくりするでしょ」

「キュイキュイッ! キュイッ!」

 

 あん? 逃げろ? 今すぐ? オェスッテルが殺しに来るけど、逃げなきゃダメ? いや、意味分らん。

 

 いや、オェスッテル? オッタルの事だったか? そいつが殺しに来るって、一体なにを――

 

「ミリア、どうしたの?」

「え? ヤバイのが来るから逃げろって暴れ出したんですよ。とりあえず大人しくさせるので──ベル?」

「それ、本当?」

 

 肩をガシリと掴んで此方を見るベル。表情が青褪めてる。なんだ?

 

 

 

 

 

 ミリアの台詞に、言葉を失った。 違和感はあった。この階層に来てから、モンスターにも冒険者にも全然出会わなくて、あの日と同じだなって思った矢先だった。

 あの日も、キューイは言っていた。『ヤバイのが来る』と。

 

「逃げよう」

「へ?」

「ベル様」

 

 今すぐ逃げなきゃ。だって、もし僕の予測が間違っていなければ、此処に()が居るから。

 ミリアとリリの手をとって走り出そうとして、足が止まった。何かが来る。

 

 足を止めた僕を不審そうに見上げるリリと、足元で震えながら縮こまって脅えたようにキュイキュイ鳴きはじめるキューイを抱え上げるミリア。

 

「……キューイ? ちょっと大丈夫? 殺さないで? いや、殺さないけど……オェスッテル? いや、オッタルの事だっけ? 本当にどうしたのよ」

 

 ミリアは、なんでそんなに落ち着いているんだろうか。 あの日はミリアも居たのに。

 

「ミリア?」

「何? ベル、と言うか顔色悪そうね。大丈夫? この階層でヤバイのって……インファントドラゴンぐらいじゃない?」

「インファント……十一、十二階層で出るレアモンスターですか。九階層まで出てくる事はー無くはないですね。今のままじゃ歯が立たないですけど、逃げるのは難しくないかと。この階層ならそこまで広さはないので動きも鈍ってるでしょうし」

 

 違う、違うんだ二人とも。そうじゃない。なんで、何でミリアはこんなにも落ち着いてるんだ。あの日は、あの日は────

 

『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオッ!?』

 

 迷宮に響くその咆哮は、忘れもしないあの日に聞いたそれと同じで。脳裏によみがえるのは拳を振り上げ、今まさに僕を殴り殺そうとするあのモンスターの姿。

 

 ダンジョンの奥から、大剣の切っ先で地面をひっかきながら、悠々とした仕草で歩いてくるソレの姿を見て、足が竦んだ。真っ赤な、真っ赤な体躯。前に見た個体とは全く違う、全身が真っ赤に染まった、けれども見覚えのあるその姿。

 牛頭人体の怪物。ミノタウロスだ。

 

「なんで、九階層にミノタウロスが……」

 

 リリの困惑した声、ミリアは──目を見開いたまま硬直していた。

 

 

 

 

 奥から、歩いてくる。キューイが逃げろって叫んでる。ベルもリリも怯んで動けなくて、俺は──守らなきゃ。

 

 前に、前に飛び出す。────骨の折れる音が響く。

 

「『ショットガン・マジック』ッ!!」

 

 銃魔法を唱える。あの時とは違う。あの時は魔力もほぼ初期値だった、今の俺なら──いけるのか?

 

「ミリア様ダメですっ! そのミノタウロスは強化種で────

 

 リリが何かを叫んでいるが。大丈夫、魔力SSとか言う有り得ない数値まで伸びたんだ。今なら勝てる。あの時は────骨が臓腑に突き刺さる感触がする。

 

「『リロード』ッ!!」

 

 大丈夫。勝てる。勝たなきゃ、()()()()()。あの時は無理だったけど──あの時? 何時の事だろうか。

 

「『ファイア』ッ!!」

 

 放たれた散弾が、視界を埋め尽くして────俺はこの光景を見た事がある。知ってる。だってあの時も────

 

 土埃がはれた其処には、変わらぬ姿の化物が居て。

 

 ────体の奥から響く、骨の折れる音。ボキボキって音だ。そう、握りつぶされるあの感触。骨が折れて、内臓に突き刺さって、目の前で獣臭い息を吐く牛頭があって、それで、それで──俺はあの時何もできずに殺されたのか。

 

「アァアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 今度こそ、守らなきゃいけないのに。()()()()()()()

 

 

 

 

 

 前に飛び出た金髪の、小柄な彼女。被っていた魔女帽子を落としたのにも気が付かず、金髪をたなびかせ、目の前に──アイズさん?

 

 魔法を放ち、ミノタウロスを止めようとしてる彼女を見て、気付いた。アイズさんでは無い。彼女は、ミリアだ。

 そういえば、あの時もミリアは僕を助けようとしてくれたんだっけ。

 魔法が効かず、叫びながら魔法を連発するミリアの姿を見て、ようやく我に返った。

 

 何をしてるんだ僕は。今度ミノタウロスが現れたらかっこよく倒すなんて言っておきながら、脅えて逃げ出そうとしていた。ミリアは──放心して座り込んでしまっている。リリが傍に駆け寄って声をかけて肩を揺さ振るが、反応が無い。

 

「ミリア様っ! ミリア様しっかりしてくださいっ! 魔法が効かないのは当然ですっ! あのミノタウロスは()()()なんですよっ! 逃げましょうっ!」

 

 強化種。確か、普通の個体よりも強いんだっけ。

 ミリアの魔法を受けて無傷のミノタウロスは、こちらを見ていた。鼻で笑う様に、そして──腰を落として、突進の構えを見せた。

 不味い、あのまま突進を繰り出されたら、ミリアとリリが……いや、僕も含めて全員が死ぬ。二人を、助けなきゃ。

 

「ミリア様っ!」

「リリっ! ミリアっ!」

 

 二人の腕を掴んで──放り投げた。次の瞬間には何かに跳ね飛ばされた衝撃と共に、意識が飛んだ。

 

 

 

 

 

 地面を転がる。ベルに腕を掴まれて──投げられたんだっけか。キューイが逃げてと騒ぎ続けてる。何があったんだっけ。確か、魔法を使って──あれ? 俺、此処で何してたんだっけ?

 

「ぐぅっ」

 

 リリルカが、叩き付けられた。何が起きたんだっけか? ぼんやりと考える。思い出せない、霧がかったような思考。一体俺は何をしていたんだろう。

 

「ミリア様、大丈夫ですか。ベル様は──ベル様ぁっ!?」

 

 リリルカが、慌てたように目を見開いて、悲鳴の様な声を上げる。どうしたんだろうか。ベルに何かあったのか? 俺は此処で何してたんだっけ。いや、確か何かが起きて。キューイが逃げてって叫んでて。

 視界を動かす。ぼんやりとした思考のさ中、壁際に倒れた白髪の少年を見つけた。

 

 アレはー、ベルだ。そう、ベル・クラネル。この世界に来て、同じファミリア(かぞく)になった少年。ヘスティア様に様子を見る様に言われてたっけ。何で倒れてるんだろうか。

 リリルカが、クロスボウを構えて放ってる。何に?

 

「ベル様に近づくなぁっ!!」

 

 ボルトの放たれた方向を向けば、でかい化物が居た。牛頭人体の化物。あ、知ってる。ミノタウロスって言う怪物で────体中の骨の軋む音がした。

 あれ、何してたんだっけか。ミノタウロス、中層のモンスター。ここ中層だっけ? 思考が上手くまとまらない。

 ミノタウロスは、飛来する短矢(ボルト)をうっとおしげに払い除ける。リリ、その攻撃効いてないからやめたら? ────だって、あのモンスターは魔法を浴びせたのに、無傷で現れたし。

 

「あっ」

 

 ミノタウロスが、石ころを投げた。近くに居たリリルカの姿が搔き消えて──ゴシャリって音が後ろで響いた。振り返れば、壁に叩き付けられて、背負っていたバックパックの荷物がぶちまけられたリリルカの姿があった。

 なんでリリは吹っ飛んだんだろうか? あぁ、石ころを投げられて、ぶつけられたのか。凄い力だな────俺の胴を握りつぶせるぐらいの力はあるから当然か。

 

 いつの間にか、その力持ちの怪物が目の前に居た。あぁ、何で俺を見てるんだ。鼻で笑って、手を伸ばしてくる。あの日も、こんな感じだったっけ? そう、たしか────ミノタウロスと初めてであったあの日も。

 

 赤い、小さな、何かが俺の腕の中から飛び出して行った。ミノタウロスの腕に噛みついて、咆えて、握られた。

 

 叫ぶ小さなソレ、ミノタウロスはうっとおしげに片手に握り、高々とソレを掲げる。

 

 何をしてるんだっけか。そう、ミノタウロスに襲われて、それでーベルが倒れてる。リリが倒れてる。赤くて小さい何かがミノタウロスの手の中で暴れてる。

 

 何を、しているんだっけ?

 

 見上げたミノタウロスが、此方を見下ろしている。何かを言いたげな表情だ。何だろう?

 

 赤い小さいのは、叫んでる。何かを、叫んでる。

 

 ────早く逃げてって、叫んでる。

 

 

 

 

 

 強くなりたい。あの強者との戦いが忘れられない。もっと強く、相応しい戦いの場を用意すると強者は言った。大人しく箱に入り、待つ。

 強者が言った相応しい戦いの場を、だがそれは訪れなかった。

 

 箱から出た時、目の前に居たのは三匹の弱者。赤い液薬を飲んで『これでお前もなんとかなる』等と言って斬りかかってきた奴等。弱過ぎて、何も感じなかった。

 最後の一匹が『偽物を渡しやがったなあの糞餓鬼』と誰かを罵りながら投げつけて来た赤い液薬。浴びた途端に世界が変わった。強くなった。でも、まだ全然弱い。

 いままでより、一つ、何かの壁を乗り越えた気がする。けれども、あの強者に敵うかと言えば、そうでは無い。自分は強いと思っていた。けれどもあの強者が其れは違うと現実を叩き付けて来た。

 もっと、強くなりたい。彼の強者に敵う程の力を欲した。

 其の為にも戦う必要がある。彼の強者が用意すると言った相応しい戦いの場。

 

 力を着け、それに挑むべく足を踏み出した。渡された鉄製の大剣を片手に。

 

 だが、現れない。相応しい戦いの場に居るべき相手が居ない。居るのは路傍の石ころと大差ない弱い者ばかり。簡単に捻り殺し、潰し、終わる。

 

 三匹、小さいの一匹と、とても小さいの二匹。これが相応しい戦場かと首を傾げ、途端にとても小さい、金色の方が飛び出してきて何かを放ってきた。視界を埋め尽くす光の玉が飛来して、痛くもかゆくもない。

 呆れ返る程弱いそのすごく小さい金色のは、何度もそれを駆使して、ついには座り込む。弱過ぎて話にならない。

 潰そう、さっさとこんな弱いのは潰して、相応しい戦場を探さなくては。強くなる為に。

 

 白い小さいのが跳ね飛んでいく。とても小さいの二匹を逃がして、白いのだけが当たった。面倒な事をしてくれた。しかもまだ死んでない。咽びながらも、立ち上がろうとしている。さっさと潰そう。

 そう思った矢先だ、小さな何かが飛来する。羽虫の攻撃の様な何か、金色とは違うとても小さいのが、腕から繰り出す何か。弱過ぎるを通り越して、ただうっとおしいだけのそれ。

 足元の石ころを投げつけてやれば、呆気無く吹き飛んで沈黙する。何がしたかったのかさっぱりわからない。

 

 よく見れば、金色のが座り込んでる。そうだ、まず金色のを殺そう。最初に攻撃してきたのは奴だから、最初に殺すのが良いだろう。

 

 歩いて近づいても、反応が無い。腕に赤い何かを抱えてたまま、此方を見上げている。攻撃をしてきた癖に、何をするでもなく見上げてくる。弱過ぎて戦いにもならない弱者。

 興味も無いが、攻撃されたのだから、潰そう。

 

 手を伸ばして──其れが腕に抱えていた何かが噛みついてきた。

 

 痛くも、痒くも無い噛みつき。どうして弱いのに噛みついてくるのか。理解出来ない。だが、攻撃してきたのだから、潰そう。

 

 左手に握り締め、掲げる。弱いくせに、噛みついてきたからこうなるのだ。弱い奴に興味はない。強者との戦いにのみ赴きたい。だが邪魔するのなら、潰す。

 

 金色の何かが、呟いてる。『やめて』と、何を言うのか。鼻で笑う。

 

 やめて欲しいのなら()()()()()()()。出来ないのなら()()()()()()()

 

 手の中の、赤色を握りつぶした。あっけなく、目の前の金色は力ずくで止める事も出来ない。こんなに弱いのに、時間をかけるなんてもったいない。さっさと殺して、強者と巡り会わなくては。




 キューイが死んだ、この人で……人じゃないね、ミノタウロスだね。




 Q.ミノタウロスが強化種ってどういう事?
 A.竜力薬(完成版)をミノタウロスが使ってしまった。(正確には偽物扱いしたカヌゥが完成品をミノタウロスに投げつけた)

 Q.どうしてそうなった
 A.カヌゥが悪い(根本の原因はミリアにある。つまり自業自得)

 状況を説明すると、原作通りイシュタルファミリアといざこざを起こしたさ中にオッタルがミノタウロス入りのケージを奪われ、カヌゥ達が解放。
 竜力薬(未完成品)を使って倒せばランクアップ並のパワーアップできるし三人がかりならいけるだろと挑むも、効力が糞雑魚ナメクジ並強化だったのであっけなくモブ二人死亡。
 カヌゥ君はミリアが渡した薬が偽物だったと思い込んで最後の一本(完成品)をミノタウロスに投げつける。

 ミノタウロス君強化→『カ/ヌゥ』 カ君とヌゥ君になりましたとさ。(適当)


 ベル一人じゃなくてベル&ミリアで挑むのでミノタウロスには強化されてもらいましたが、フレイヤの意図とは別な感じでの強化となっています。
 フレイヤの意図としてはミリアは途中から魅了で戦闘から離脱させてベル一人で挑ませる積りだったけど、ミリアの魅了が解けてるので離脱させれません。

 が、ミリア本人は初めてミノタウロスと会った時に殺されかけたトラウマ(本人は今まで忘れてた)が発症。SANチェックからの無気力状態にと言った感じ。

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