魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第六話

 ふぅむ。ファルナによって習得できる魔法の最大数は3つまでらしいぞ。つまり三つ習得したミリアちゃん勝ち組なんだよなぁ……

 

 ミリアちゃんが『ニンフ型』の魔法やらスキルやらを習得したのは、もういい。

 

 ぶっちゃけダンジョン内で飛行魔法使うの厳しいと思うからね……ね?

 

 べっ、別に悔しくネェし。

 

 飛行魔法とガトリングマジックで無双とか考えてないし。ほんとだし。

 

 それよりもベルもヘスティア様も、どっちもそうだがお人好し過ぎだろ……普通に歓迎会開いてくれるとか、泣きそう。

 

 ベルがゴブリンを倒した記念と俺の歓迎パーティーをしてもらった訳だが、じゃが丸くんとか言うじゃが芋を潰して形を整えて衣をつけて揚げた食べ物が豪華な食べ物だったらしい。

 

 いや、普通に美味いんだが……豪華ってなんだろうな。

 

 1個30ヴァリス、子供のお小遣い程度の値段らしい。

 

 ヴァリスってなんだよ……流石異世界だよなぁ……ミリカンだと枢軸と連合がクレジット、帝国が鉄片、魔道国がシャードだったが。詳しい物価は分らなかったんだよなぁ。

 

 後ヘスティア様から絵本を貸してもらった。絵本である。時間がある時に読み聞かせてくれるらしい。何それ超恥ずかしい。

 

 んで、後は寝るだけーってなったんだが……どうやらベルくんとヘスティア様は同じベッドにINしている訳ではないらしい。

 

 ベルくんがソファー、ヘスティア様がベッドで寝ていたらしく。俺の寝床をどうするかと言う話になったが。

 

 最悪壁際の所か、上の教会で寝ると言えば、それは絶対だめだと言われた。

 

 …神様と同じベッドで寝るのか……なんて思ったが、吐いたり泣いたり、色々と感情に振り回された結果として疲労が凄まじく、ヘスティアに半ば強引にベッドに寝かされた次の瞬間には寝落ちしてた。

 

 目覚めは、ヘスティア様の胸の中だったよ……窒息しかけた。とだけ言っておく。

 

 

 

 

 

 若干疲れた表情をしているミリアに声をかければ、ミリアは半笑いを浮かべて答えてくれた。

 

「ミリア、大丈夫?」

 

「えぇ……心配してくれてありがとう。大丈夫……」

 

 朝、ベルが目覚めるとベッドの方でぺしぺしと何かを叩く音が聞こえたので、そちらに目をやるとミリアが神様に抱きつかれていて、あの胸で窒息しかけてた。

 あわててミリアを助け出したおかげで大丈夫だったけど、ミリア曰く『胸で窒息しかけたのはこれで三度目ですね。胸がでかい人とは何か縁があるのかもしれません。碌な縁では無さそうですが……』と遠い目をしながら言っていた。

 

 廃教会の地下から出て、荒れ果てた内装を見回しながら、ミリアはぽつりと呟いた。

 

「何よりまずお金が必要そうですね……じゃが丸くん? でしたっけ? アレで()()と言うのは、少しさみしいですしね」

 

 若干、呆れた様な目で周囲を見回して『ここの修繕もしたいですし』と呟いているミリアは、けれども少し楽しそうだった。

 

「うん、僕も、神様の為にもっとお金を稼ぎたいんだけど……」

 

 神様の為にお金を稼ぎたいとは思う。昨日、初めてダンジョンに潜って得た金額は1800ヴァリス。故郷に居た頃なら十分な大金だけど、オラリオではそうではない。

 

 初心者用装備セットだけで6000ヴァリスはしたし、ポーションは1本で500ヴァリスはする。

 そう考えれば今の稼ぎのままでは不味い。

 いずれ大きくて豪華な本拠にしてあげたいと思うのだけれど……

 

「……とりあえず今日はどうしましょうか。ヘスティア様はまだ寝ていますし」

 

「うぅん……日用品を買いに……行きたかったけど、お金がなぁ」

 

 ミリアの服や日用品を買いに行きたい。しかしお金が全く無い。昨日の稼ぎ分だけでは到底まかない切れないし……

 

 そんな風に考えているベルを余所に、ミリアは床の擦り切れて穴の開いた赤っぽいカーペットに視線を落としながら、顎に指を当てて考え事をしながら呟く。

 

「神というのが何処まで嘘を見抜けるかが焦点か……嘘を言わずに人を騙すのはそう難しくないけど、多分神相手だと意味無い。亀の甲より年の功。無駄に数億年生き続けてるなんてありえないだろうし……むしろ嘘を言う方が()()()()()()……それに()()()()()()()()なんて詐欺師として間抜けにも過ぎる。かといって個人を当たろうにもこの世界の常識を知らない以上へまやらかす可能性が高すぎる。事前情報も無しに嘘を言わずに騙そうなんて臍で茶が沸かせそう。そもそも今の容姿も問題。『ミリア』なんて容姿が整い過ぎてるし、子供だと思われるから騙しやすい? むしろ子供の様な容姿だから容易に言葉が()()()()()()()。信じて貰えない可能性も高いし……それに明らかに()()()()()()()。もっと地味目な容姿なら……いや、端っから誰かを騙そうとする必要も無いか。もう()()()()()()()()()()……はぁ……」

 

 昆虫を思わせる様な無機質な瞳で床を見つめながら何事かを呟くミリア。ふと、その瞳に光が戻り溜息を吐いて肩を竦めたのを見て、ベルは首を傾げた。

 

「どうしたの?」

 

「え? あぁ、何でも無い」

 

「?」

 

 何を言っていたのかはさっぱり分らないが、何か難しい事でも考えていたのだろう。

 

「即金が必要。即金、話に聞く限りではダンジョンに潜るのが早そうですが……ついでに魔法についても調べたいですし」

 

 話を逸らす様に呟かれた言葉に、昨日のミリアのステイタスを思い出したベルは興奮を抑えられないとばかりにキラキラした瞳でミリアを見た。

 

「魔法どんなのなんだろうね。僕、魔法見るの初めてなんだ」

 

「一応、どんな魔法かは想像が付くけど……ベルはピストルって言う道具を知らないんだったよね?」

 

 ミリアの言葉にベルは頷いた。

 ピストル、または拳銃という道具。

 火薬を触媒に用いて金属の矢を飛ばす武器の一種。

 

 少なくとも、ベルが今まで暮らして居た故郷でそういった武器は見なかったし、オラリオでもそう言った武器類を見た事は無かった。

 

 しいて言うなら遠征中に使用される『信号照明弾発射装置』の様なモノだろうか?

 

「あぁ、フレアガンはあるのか……あれ? じゃあなんで銃が無いの……?」

 

「えっと……僕が知らないだけでほんとはあるかもだから……」

 

 田舎暮らしで、英雄譚を読む事と土を弄る事、後は時折村に訪れる吟遊詩人や商人から『オラリオ』での冒険者の活躍などの話を聞くぐらいでしかなかった。故に自分はいささか無知な所があるので、知識を当てにされると少し困ってしまう。

 

「まぁ、良いわ。とりあえずダンジョンに向かう前にヘスティア様に一声かけておきましょ……起こすのは気が引けますが」

 

「あー……確かに。でもダンジョンに行くなら一応挨拶は必要かな……無いとは言えないけど……その、死ぬかもだから」

 

 気持ちよさそうに眠っている神様を起こすのは確かに気が引けるが、神様も言っていた。

 

『ダンジョンに行くなら叩き起してでも良いから声をかけておくれよ。最後の姿を見送る事も無く寝こけてたなんて間抜けにも程があるだろう? 僕だって寝て起きたら眷属が死んでたなんて最後は嫌だからね』

 

 無論、死なないのが一番だが、迷宮に潜る以上死ぬ危険性はある。現に一階層で調子に乗っていたベルはミリアを助けようとして死にかけた。あの時ミリアが助けてくれなければ……

 

「ベル?」

 

「あぁ、うん。なんでもない」

 

 あまりにも情けないあの時の姿が脳裏を過って思わず眉を顰めてしまった。

 

 

 

 

 

 ふむ。ヘスティア様に声かけたら、『気を付けてね。行ってらっしゃい』と軽く送り出された。

 命の危険がある所に送り出すのにソレは軽くないか? と疑問を覚えたが、ベル曰く『あまり仰々しい言葉で送り出すと逆に足枷になるから、ほんとはもっと色々言葉をかけたいけど軽くで済ますのが神様流儀らしいよ』との事。

 成程、変に仰々しい言葉で着飾った送り出しの言葉は眷属を縛ってしまうと……神様、凄すぎだろ。

 

 ……俺が死んだら、哀しんでくれる人はいるだろうか? 誰も居ないに違いない。むしろ『ざまぁみろ』なんて嗤われそうだ。

 

 そんな冗談をベルに言ったらベル君を怒らせてしまったらしい。そんな事言っちゃダメだと強い口調で言われた。

 あんま言いたくないけど、ベルくんは弱そうに見えるけど、なかなか精神面強そうな気がする。

 

 まぁ、そんな事は良くて、昨日魔石やドロップアイテムの換金を行っていた『ギルド』と呼ばれる施設まで来た。正しくは『冒険者ギルド』と言う組織の施設『万神殿(パンテオン)』と言う所に到着した。

 

 昨日の綺麗なエルフ……ハーフエルフさん? がベル君の専属アドバイザーと言うモノらしい。

 

 冒険者登録を行って、新米冒険者には専属アドバイザーが着くと……ほほぅ。

 

 後ギルドは、冒険者に必要な基礎知識が数多登録されているらしい……必要があれば閲覧できると。

 

 ……え? マジで? えぇ……(困惑)

 

 だって情報だよ? そんなん公開してんの? って思ったんだが。

 

 うむ。この迷宮都市『オラリオ』の利益につながる様に動いてる組織らしく、新米冒険者をより育成する事で最終的に『オラリオ』に利が出る為に新米冒険者の支援を行っているらしい。

 

 駆け出しセットと呼ばれるナイフ、軽装系鎧、初心者用ポーションを売ってくれるらしい。

 値段はだいたい6000ヴァリス前後。

 

 武具の目利きはした事無いからわからんが、ベルくんのナイフはかなり良い物だと思う。

 前世において美術品も少し取り扱った事があるが、美術品の刀剣よりも切れ味は格段に良さそうだし、そもそも美術品も刀剣類は刃が殺してある事も多かったからぶっちゃけ何とも言えないが……

 いや、ガチの刀剣も取り扱った事があるが……このナイフぐらいの切れ味だったと思う。

 

 だって、現に興味本位で指先をすーってやったら指先が結構深々とスッパリ切れたし。

 

 手、血の組み合わせで吐き気が……と思ったが。そうでもなかった。一晩寝た事で慣れた? という訳でも無さそうだ。どうもファルナを授かると精神的にも少し強くなるっぽい? あくまでも推測だが。

 

 ベルが慌ててポーションをくれたが……『レッサーヒール』を試す意味でもあったし、人前で魔法使うのは良くないらしいから道を外れてためしに使ったが。うん、まぁ……え? って思うような性能だった。

 

 『レッサーヒール』秒間、HP回復1%/消費MP50

 駆け出し魔法使い御用達、無いよりマシ程度の回復効果しかない魔法。

 

 魔法少女達の最大MPが軒並み1000~2000程度である事を考えると、最大で20~40%程度しか回復できず、ぶっちゃけ効率は悪い。

 MP0まで魔法を使い込むと魔力切れと言って一定時間MPが回復しなくなるし……

 MPは選んだ素体に応じた回復速度で回復するから殆どMP0にはならないんだが……

 

 ちなみに最速の回復速度を持つのは『アウラウネ型』の一人、完全に下半身が植物になっていて凄まじい鈍足さを誇る子ではあったんだが、MP回復効率がMP1000/秒とか言うキチガイ的速度だったからなぁ……通常はどんぐらいか? ミリアちゃんがMP50/秒である。マガジンクラフトが大体1発辺りMP1~2なのでそうそうMP切れは無いが……竜翼等の高位飛行魔法はMP50/秒なので回復速度と消費速度が拮抗する感じではあったんだがなぁ……

 

 あぁ、話が逸れたが『レッサーヒール』を発動したらじわじわと秒間1%ぐらいの割合でHPを回復するんだが……

 使い方はミリカンとほぼ同じで杖か手かのどっちかに癒しの光を纏う感じだった。

 手をかざして魔法使ったら淡い水色っぽい光がパッと弾けて、すぐに消えた。怪我は治っていた。

 ……じわじわ回復するんじゃなくて、即時回復になってね?

 

 怪我が小さすぎるのか?

 

 わざわざ魔法効果確かめる為に大きな怪我をするっていうのはアレだしなぁ……まぁ、迷宮に潜ってればその内大怪我もするだろうし、その時だな……手遅れとか効果不足だったら嫌だなぁ……

 

 

 

 

 

 冒険者ギルド、通称『ギルド』と呼ばれる冒険者を支援したりする組織の管理している施設『万神殿(パンテオン)』。

 

 昨日はあんま余裕なくてハーフエルフの巨乳ちゃんが凄く可愛かったぐらいしか覚えて無かったんだが……

 

 なんかすっげー綺麗な所である。冒険者向けの施設、食事処や汚れを落とすシャワー等はダンジョンの直ぐ上に立っているバベルに集結しており、ここ『万神殿(パンテオン)』はどうも書類関連やドロップ品の換金がメインで他には新米冒険者の育成コースなんかがあるだけらしい。

 

 朝っぱらだと言うのに数多の冒険者が集い、夜中組だったのかかなりの実力者の雰囲気を纏った者達が換金所を利用していたりしている。

 

 ぶっちゃけ冒険者ってもっと荒くれ者っぽいのが沢山居るのかと思ってたが、どうも違うっぽい。

 

 変なコスプレ集団だよコイツ等ェ……

 

 象を模した様な仮面を付けた集団とか、すんげーひらひらした意匠の凝った可愛らしい防具に身を包んだ剣士っぽい冒険者とか……

 

 えぇ……もっと、こう、血生臭いと言うか……帝国の兵士っぽいのを想像してたら予想以上に華やかと言うか……

 

 ……いや、ミリアちゃんも装飾の多いローブで戦う姿じゃネェけど、コレはゲームのキャラだったからだし、此処にいるガチの冒険者達もなんかコスプレっぽい姿ばっかなんだよなぁ……

 

 特に褐色の肌をした踊り子を思わせる露出の多い衣類の女性。何アレ? みんなおっぱいでかくない? ベルくんなんてどこに視線向けていいか分らずに横を通り過ぎる時に俯いてるぞ。

 ずっと疑問に思ってたけど似た様な恰好をした人が街中にも居たし。アレってなんかの部族? にしてはなんかほんとに数多いぞアレ……特定ファミリアに所属してると象の仮面つけてたりするらしいし、あの褐色のエッロい女性達は皆同じファミリア所属?

 

 そんな事を考えながらギルドの入口から中に入るベル君に続こうとしていたら中から見上げる程の大男が出てきてベル君とぶつかった。

 

「おう、悪ぃ」

「あ、すいません」

 

 大剣を背負った筋骨隆々としたまさに冒険者っぽい人物。と言うか『筋肉』である。『筋肉』は死ね。氏ねじゃなくて死ね。

 

 内心そんな事を考えつつその人を避けてギルド内に入り、ベル君がきょろきょろとアドバイザーの姿を探し始める。

 ……エイナ・チュールさんだっけ? かなり有能そうな人だったし、そういう人は大抵中央に配置されるはずなんだが……あぁ、予想通り、受付カウンターの真ん中で笑顔で冒険者の対応をしている。

 

「あっ、エイナさーん」

 

 ぶんぶんと手を振って存在をアピールする兎君。エイナさんの受付にいた冒険者が迷惑そうに眉を顰めている。

 エイナさんは苦笑を浮かべているが、あんま人混みの中で声をあげない方が良い気がするが……日本人的感覚だから俺が間違っててベルが正しいのか、それともこの世界においてもベル君の行動が褒められた事じゃないのかがわかんないんだよね。どうにかしないとなぁ……

 

 エイナさんは冒険者に頭を下げて他の事務員っぽい人に対応を任せてからこちらを手招きして別の空いてる受付に入ったので、そこにベルと向かう。

 おぉ、踏み台が完備された受付じゃないか。俺の顔みて受付の場所を決めていたっぽいからかなり気遣い出来る人である。有能過ぎ。

 

「おはようベル君、ミリアちゃん……ミリアちゃんは大分調子が良さそうね。昨日は少し青褪めてたから大丈夫か心配してたんだけど」

「おはようエイナさん」

「おはようございます。心配していただきありがとうございます。昨日は色々ありまして……ベルくんや神様に大分助けられました」

 

 綺麗な笑顔を浮かべて対応してくれるエイナさん、マジ天使やなぁ……しかも、()が無い。

 

 美人な人、特に俺に近づいてくる美人なんて碌な奴じゃなかった。金目当てに股開く奴が沢山集まってきたからなぁ……一回抱いてやって適当に金渡して近づくなって言っとけばよかったが。

 あいつらはすっげー美人で、笑顔はすっげー綺麗だ。テクニックもあるし体つきも男が好みそうな感じではあった。そんな女性達に迫られれば誰だって嬉しいだろう。だけど目を覗き込むとソコに在るのは『金』に対する執着心染みたナニかである。

 

 エイナさんはソレが全くない。最初に会った時等は凄く心配そうな目をしてくれた。初対面で相手を心配出来るなんて、俺が調子悪そうにしてたらアノ女共は『どうお金を搾り取ろうか』と目の中の奥の方にそんな感情を隠しつつ、優しい声色で、優しい態度で、俺を籠絡しようとするだろう。

 

「それは良かった。実は心配で眠れなかったのよねぇ」

 

 苦笑を浮かべつつ、そんな事を言うエイナさんは、ほんとに眠れなかったのか少し疲れている様な雰囲気がしている。優しすぎだろ……

 

「それはご迷惑をおかけしました」

「いや、気にしなくても良いわよ……それで、今日はどうしたのかしら?」

 

 笑顔を浮かべて対応してくれるエイナさん。良い人だなぁ、この人。

 

「はい、ミリアがファミリアに加入してくれたので冒険者登録に来ました」

「あら? ミリアちゃんも冒険者になるのかしら? 成程……ミリアちゃん本当に冒険者になる気?」

 

 『何オマエそんなチビっこで冒険者になるわけ?』なんて喧嘩を吹っ掛けてきてる訳じゃ無く『大丈夫? 危険だよ』と此方を心配しての言葉だろう。心配そうな瞳の奥に他の感情が隠れている様子は無い。

 

「はい、即金が必要なので……」

「即金?」

「……着の身着のままだったのでお金になりそうなモノが杖しかないんですよね……あの杖は手放したくないので」

 

 チュートリアル用の装飾だけは立派な杖だが、ぶっちゃけ手放すのは惜しい。と言うよりあの杖はミリアちゃんの『ノースリス家の家宝』であったはずだ。なんとなくロールプレイ用に手にしておきたい。

 

 ちなみに、杖はファミリアの本拠、ヘスティアが寝ているベッドの横に置いておいた。性能は殆ど玩具みたいなモンだが、それでも見た目が見た目だ。

 頭がおかしい日本並の治安をこのオラリオに求めるなんて間抜けはしない。あんな『盗んでください』と言う札を下げて歩き回る気は無い。ほんとはローブも安いモノに取り換えておきたいがお金がないのだ。

 

「なるほど……じゃあ登録書を……これと、これ、後はこれ。あぁ筆記具はこれを使って」

 

 エイナさんは受付の下にあるらしい書類を取り出して笑顔で差し出してきたので、筆記具を手に取って……手に……とって……あぁ、そうか。共通語(コイネー)ワカンネェんだっけ……

 

 筆記具片手に書類を見てどうにか意味を理解しようとしてみるが……ダメだな。そもそも自分の名前の綴りすらワカンネェ。

 

「ミリア?」

「ベルさん、すいませんが代筆お願いできますか?」

「あ、そっか。ミリアって共通語(コイネー)わからないんだっけ?」

 

 そうなんだよベルくん。申し訳ないが代筆を……

 

「ミリアちゃん、共通語(コイネー)が分らないなら私が教えてあげようか?」

 

 え? マジで?

 

「えぇっと……講習費はいくらになりますか?」

「お金はとらないわよ。文字の読み書きを教えるのと冒険者に必要な講義をするのは無料だから」

 

 ……え? えぇ!?

 

 文字だよ? 言葉だよ? 教えるの無料?

 

 義務教育とかいって基礎教育をしていた日本ですら学費は必要だったんだよ?

 

 ましてや読み書きを教えるのって相当時間かかるし、教える側にもかなりの負担がかかるはずだ。給金はちゃんと支払われているっぽいし……

 

 ……何このギルド、羽振り良すぎじゃない? なんか裏でこそこそやってそうじゃ……

 

 ………………いや、ソレは無いな。魔石産業の利益がそれだけ大きいって事だろ。

 

 ついつい裏を考えてしまう癖、どうにかしないとなぁ……


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