魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第七十六話

 アイスキャンディーを片手に商店街を冷やかす神ヘルメスの後ろを付き従う眷属のアスフィは調べる様に指示された二人の冒険者のプロフィールを読み上げつつも鼻歌を歌うヘルメスの姿に目を細めた。

 

「件の【未完の少年(リトル・ルーキー)】と【魔銃使い】についてですが、やはり他の冒険者から否定的な意見が上がっている様です」

「例えば?」

「【未完の少年(リトル・ルーキー)】の方については強化種ミノタウロスの討伐についても、実は援護を担当したのは駆け出しではなく第一級冒険者であっただとか、長文詠唱相応の威力の魔法が偶然当たっただけだとか、もともと瀕死に近い状態のミノタウロスであっただとか」

「もう一人は?」

 

 街中で時折聞こえる噂話に聞き耳を立てつつも眷属の言葉に反応したヘルメスは店先の奇妙な置物を見ながら口を開く。アスフィは壊さないでくださいねと小声で呟き、続きを口にした。

 

「【魔銃使い】についてですが。駆け出しでありながら長文詠唱相応の威力の魔法を使用できるという噂があります。ですが、普段の戦闘スタイルの方では短文詠唱の魔法を多用している。と言う噂があり……。其の上で回復魔法が使用できる。と言う話も上がっています。魔法使いとしては最上級の能力を保持しているといえますが」

「だとするとおかしいねって話になるよね」

「はい。神会において発表された『竜を従える魔法』と言うモノも含めると、四つ以上の魔法を習得している事になります」

「それはまた……」

「他にも様々な噂が飛び交っていますが、特に言われているのは『竜が居なければ何も出来ない』と言う噂ですね」

 

 ヘルメスがくすくすと肩で笑い。おかしいねと呟く。

 

「竜を従える魔法。ガネーシャの説明だと『自身の付近で死んだ竜種を配下として召喚できる』『召喚は出来ても主として認められなければ指示に従おうとしない』『主として認めて貰うには一度倒す必要がある』って話だったよね」

「はい。そういう話になっていますね」

「だとしたらだよ? 少なくとも竜種、今回で言えば上層の迷宮の孤王(モンスターレックス)相当って呼ばれてる小竜(インファントドラゴン)を自力で倒したって事になるんだけどねぇ」

 

 卵が先か、鶏が先かって話にならないかな。ヘルメスの言葉にアスフィが眼鏡の位置を直しつつも答えた。

 

「最初に召喚されていた紅い飛竜、此方が相当な能力を持っている……にしては変ですが」

「だよねぇ。だってミリア・ノースリスって言えば、ベル・クラネルのミノタウロス討伐の際に援護を担当した魔法使いだって話だし? あの時に竜の力を使っていればベル・クラネルのランクアップなんてなかったって事になるし」

 

 手に取っていた露店の商品を元の場所に戻し、店主に愛想笑いを浮かべて人の流れに身を任せながら、再度口を開いた。

 

「偶然なんてモノでランクアップさせるほど、神々の恩恵は甘くないんだけどねぇ」

「ランクアップの所要日数を誤魔化しているという話もあります。【剣姫】の記録を抜けるはず等ないと」

「皆厳しいなぁ。でも聞けば聞くほど興味がわいてくるねぇ。早く会ってみたいものだ」

 

 主神の言葉にアスフィの眉間に皺が寄る。

 

「どちらに、ですか?」

「どっちも、だよ」

 

 普段通りのニヒルな笑みを浮かべた主神の姿に眷属が溜息を零しかけた瞬間、ヘルメスが挟み込む様に言葉を放った。

 

「それで? ミリア・ノースリスの素性については何かわかったのかい?」

 

 ヘルメスの言葉を受けたアスフィは軽く首を横に振る。その行動に予想外だとでもいう様にヘルメスが驚く間にも、アスフィは口を開いた。

 

「素性、と言うモノについて調べる事が全くできませんでした。最も古い彼女の記録はベル・クラネルの冒険者登録の次の日にファミリア登録と冒険者登録を行ったというモノのみ。その他については一切不明です」

「ふぅん。孤児かな?」

「それもないかと。調査可能な孤児院全てで聞き取り調査を行いましたがミリア・ノースリスについて覚えが無いと」

「じゃあダイダロス通り出身だ」

「それも無いです」

「あれれぇ?」

 

 おどけた様な仕草をしつつも真剣な眼差しを浮かべたヘルメスは顎に手を当てつつも呟く。

 

「オラリオの出入国記録は?」

「該当する人物。小柄で、金髪、小人族の中でも特に幼い容姿をした人物の出入りは確認できませんでした」

「へぇ、じゃあ正規の方法でオラリオにやってきた訳じゃないのかぁ」

 

 オラリオに違法品を持ち込むといった事を防ぐための関所である門を通過していない。

 オラリオ内部で身分不明と言えば孤児、ダイダロス通り出身の浮浪者のいずれか。其処に該当する人物ではない。つまりミリア・ノースリスはオラリオの裏側から侵入した人物という事になる。が、其方の方面においては基本的に彼女の様な非力な存在は人身売買に巻き込まれた『奴隷』程度の身分になる。

 

「まぁ、奴隷だったら奴隷だったで偽装された身分が出てくるはずだからねぇ」

「犯罪者、でしょうか」

「それも考えづらいんだよね。だって身分を用意しない意味が無い。でも、怪しい。もしかしたら犯罪者の中でもとびっきりヤバいのかも? ほら、犯罪者連中からもドン引きされるぐらいの」

「だとしたら、真っ当な主神として知られる神ヘスティアが眷属にした理由がわかりませんが」

 

 アスフィの呟かれた言葉にヘルメスが即答する。

 

「犯罪者だった。けど、ヘスティアが認めるって事は相応の子だったって事だろうね」

 

 笑みを浮かべたヘルメスが歩みを再開しようとした姿勢のまま停止し、楽しそうな笑みを浮かべて呟いた。

 

「もしかしたら、どこかの神が隠し育ててた秘蔵っ子かもしれないね

 

 冗談とも、本気とも取れないヘルメスの言葉にアスフィが懐疑的な視線を向けると、ヘルメスは笑みを浮かべたままアスフィの方を向き直った。

 

「と言う訳で、引き続きミリア・ノースリスの素性調査頼むよ」

「此処まで調べて何も出てこないんですよ! 調べるって後は何処を調べれば良いんですかっ!!」

「それはまぁ、アスフィが考えるとして」

 

 誤魔化す様に頭を撫でてくる主神の前、眷属であるアスフィの深々とした溜息が零れ落ちた。

 

 

 

 

 

 硬い地面に寝かされていた。枕代わりのポーチ。血の臭い漂う小部屋。

 目を覚ませば、状況が一転して全て解決しているのではないかと言う希望観測は夢の中で笑うヘスティア様の顔と共に粉々に砕け散った。

 

「ミリア様、目が覚めましたか」

「えぇ、気分は最悪だけどね」

 

 目を覚ませば血の匂いの漂う小部屋の中。キューイの『お腹減ったー』と言う空腹を訴える声が響く小部屋内ではベルとヴェルフが壁に背を預けて俯いている姿が確認できた。

 

「……ミリア?」

「目が覚めたのか!」

 

 驚いた様子の二人を見つつも、リリに肩を貸されて起き上がる。強かに体を打ち付けたからか、体中に鈍痛を感じる。軋む音がしそうな動きに心配そうにベルが駆け寄ってくるのをみつつも、薄暗い小部屋の中を見回す。

 

 キューイが壁際で蹲り『お腹減ったー』と呟き続けているが、その姿は言葉とは裏腹に凄惨極まりないモノである。片翼が潰れて千切れかけた状態で地面に投げ出され、胴体部分の鱗の隙間から流れ出た血が固まって地面を赤黒く染めている。明らかにヤバい負傷状態に思わず息が詰まった。

 お前、その怪我で『お腹減ったー』とか。どう考えても痛々しい姿でありながら気楽そうな声出してんなよ……。

 

「よかった、暫く目を覚まさないって言ってたからもっとかかると思ってたよ」

「……私ってどれぐらい気絶してた?」

「一時間半程ですね」

 

 思ってたより回復が早くなってた? と言うより俺の怪我の具合はどんなんだ? 鈍痛が全身を覆っている以外には、マインドが思ったより回復してない感じはしてる。

 

「私の容体は? 私の感覚では全身が鈍く痛いのと、マインドが全然回復してない感じはするんだけど」

「崩落した際の場所が良かったのか、痣が幾つかぐらいで骨折するほどの怪我はしていませんでした。ただ、頭部を強く打ち付けたのか額が切れていましたので……」

 

 リリの言葉と視線から、頭になんかあったっぽい。確認がてら頭に手をやってみれば、包帯でも巻かれているのか若干の湿り気を帯びた布が頭に巻かれていた。

 

「よし、ミリアも目が覚めた事だし。これからどうするか考えるか」

「ミリアが回復しきってないんじゃ……」

「申し訳ありませんが、これ以上の回復を待つのは下策かと。既に何度かヴァン様がモンスターを迎撃していますから」

 

 お目覚めと共に動け、かぁ。余裕が無いので仕方ないっちゃ仕方ないか。

 マインドの回復した感覚が無い原因は、多分マガジンの自動作成の方で消費されたからだろう。マガジンは最大数である15になっているが、回復魔法に回せるマインドが残ってない。と言うかこの状況で良く一時間半程度で目が覚めたな。

 あ、そういえば落ちる寸前に精神力回復特効薬(マジック・ポーション)を飲んでたっけ? あれがなかったら今も気絶中だった事だろう。ある意味では運が良かったか。

 

 ともかく、現状整理だ。と言うかキューイは何時まで『お腹減ったー』って呟いてるんだよ……。

 

「まず持ち物確認は終わってるのよね?」

「はい。まずリリについてですが……回復薬が4本と解毒剤が1本、後は非常食類が幾つか残っているぐらいです。ディアンケヒトファミリア製のヒーラーバッグについてですが、申し訳ありませんがタケミカヅチファミリアの治療に殆どを使い切ってしまっていて、残っているモノはミリア様の治療に使ったので、胃薬ぐらいしか……」

 

 あぁうん。タケミカヅチファミリアの治療に全部使ったか。残ってた包帯類も俺が使ったと、頼りになるバッグであったが、中身がなきゃただの袋だ。

 リリの荷物は、崩落の際にヴァンが破棄させたらしい。転落するさ中、バッグを下にして落ちるリリを見て肩ひもを切り裂いてリリだけをキャッチ。バッグはそのまま崩落諸共転落し中身の大半が岩に潰されてしまったらしい。とはいえ、リリ+大型バックパック+ベルではヴァンが助けきれないと判断しての行動だったので仕方ないっちゃ仕方ない。ついでに言えばリリの小型クロスボウも無くしたらしい。

 

「僕はポーチに回復薬が2本だけ」

 

 ベルがヴェルフに新調してもらった小盾(バックラー)と短剣を無くしたのと、リリのバックパックに固定してあった大剣はもれなく岩の下敷きになってへしゃげて使い物にならなくなっていたらしい。

 

「悪い、俺は全滅だ」

 

 ヴェルフの方は、キューイに庇われたとはいえ転落の際にポーチの中身が全滅。大刀は無事だが、ヴェルフ用の調整のなされた武装なのでベルに使わせるのも難しいか。

 

「最後は私ね……」

 

 ポーチの中身はー……ははぁん。なるほどなるほど。うん、こりゃぁ……。

 

「ヴェルフと一緒。リリが治療に使ったのよね? 全部無いわ」

 

 中で瓶が砕けてる訳でもないっぽいので多分リリが使ったんだろう。確認すれば頷いてるし。

 後は武装関連か……竜鱗の朱手甲は無事。若干土埃に塗れてるがそれぐらいならまぁいいだろう。

 そして、特注の銃剣状の杖は無し。と……崩落のさ中に手放してたしね? 崩落現場を再度調べれば見つかるかもしれないが、危険を冒すまでの事ではない。

 剣二本は無事といえば無事。だが片方が半分程から折れてしまっているので片方は銃魔法の補助用としてしか使えないか。

 

 その他については。まずキューイ。

 飛べない。動くの辛い。お腹減った。林檎食べたい。ミリアの馬鹿! だそうだ。

 怪我の度合いは不明。飛竜の体の作りがわからないのでなんとも……なけなしの回復薬使うかとも悩んだが意味ないからいらないとキューイに拒否られた。代わりに残っていた食料類をキューイの口に放り込んでおく。缶詰肉も、乾パンも同じようにバリバリ食べてたので、見た目は酷いがどうやら平気っぽい? 呼吸がおかしいってリリとベルが言ってたがお腹空き過ぎておかしくなってただけらしい。なんだそりゃ……。

 

 次いでヴァン。こっちは怪我は少ないが翼の一部が焼け焦げていたり、目が片方白濁してたりと想定外に酷かった。なんでも入り口に陣取ってベル達を中から出られない様に威嚇して外でモンスターを片っ端から迎え撃っていたのだ。しかも滅茶苦茶怒ってた。

 

 小部屋の中に入る様に指示をしたらようやく入ってきた姿にベルが心配してるが、ヴァン本人、本竜? は俺を強く睨むばかりで何も言わない。

 

「あの、ヴァン? 怒ってます?」

《別に》

 

 いや、声色からして怒ってるだろ。何をそんなに不機嫌になってるんだ……?

 

「キュイキュイ」

「うん?」

「キュイ、キュキュ、キュイキュイ」

 

 あー。キューイ曰く『ミリアの命令が気に食わなかった』らしい。

 命令には絶対服従だから文句は言わない。と言うより()()()()のだが、どうやら俺が最後に命令した事が気に食わなかったっぽい。

 

『キューイっ! ヴァンっ! 私は良いから、ベル達をっ!!』

 

 最後に俺が命令した内容である。

 これはー、ヴァンからすりゃキレるのも無理ないか。

 

 俺が死ねば、キューイとヴァンも消える。キューイはただ消滅するだけだが、ヴァンはまた()()()()()()()事になるらしい。それが気に食わないが、命令に対しては絶対服従を誓う身。故にベル達を()()事を優先してくれた。だが、本人からすれば自分の命と同等の主の命を蔑ろにしろという命令は受け入れがたいのだ。

 それでも文句を口にしないのは負けて服従しておきながら遠吠えを上げる事を良しとしないかららしい。要するに竜種のプライドが文句を言うのを阻害してる。心の中では俺に対する罵倒の言葉が飛び交ってるっぽいが、決して口にはしないらしい。

 

 あの、思いっきり雰囲気が『俺様、超不機嫌』って言ってるんですけど……?

 

 まぁ、ヴァンの不満に関しちゃいまは構ってる余裕はない。とりあえず十四階層から上の階層を目指す方法を探さなきゃなんだが。

 

 とりあえず魔石を燃料として動くランタンの頼りない灯りの中、四人で額を突き合わせて十三階層の地図を眺める。

 

「リリ達の現在位置は不明です。闇雲に階段を探し回るのは下策も下策。ですが対処法が無い訳ではありません」

「どう言う事?」

「はい、ベル様いいですか? これが十三階層の地図となります」

 

 広げられた地図を見てみると、その地図の中に複数個所記号が書かれている事に気付いた。確か食糧庫(パントリー)とか採掘ポイント類も記載されてるんだったか。十九階層以降の大樹の迷宮とかでは植物の採取ポイントも記載されてるとかどうとか。

 だが、リリの指さした記号はどれにも当てはまらないモノである。

 

「この記号の意味は?」

「縦穴です」

 

 縦穴? ランダムに現れるそれを地図に書いても仕方ないと思うんだが。

 

「いえ、普通の縦穴と違う()()()()()()()です」

 

 大部屋型の縦穴? あーっと、そういえば俺達が落ちたあの部屋は大部屋で、縦長の大部屋が上下階層をつなげてるんだったか? それがー……待てよ。普通の縦穴は落とし穴程度の大きさしかないんだよな? ランダムで現れる奴。こんなバカでかい空間がランダムで現れたり消えたりするか?

 

「ミリア様の想像通りです。この大部屋型の縦穴は位置が完全に固定されています」

「……? えっと、だからなんなんだ? この地図は役に立たないんだろ?」

 

 ヴェルフが眉を顰める中、ベルはジーっと地図を眺めて別の大部屋型の縦穴記号を指さした。

 

「こっちにもあるね」

「此処にもあります」

 

 つられてリリが別の記号を指さす。それを見ながらヴェルフは意味がわからないと首を傾げている中、俺はキューイの方を伺う。お腹一杯と言える量ではなかったが空腹が収まったのか静かに床に寝転んでる。寝てないよな?

 

「なあ、意味がわからんのだが」

「良いですかヴェルフ様。この大部屋型の縦穴は()()()()()()()()()。そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 リリの説明にピンとこなかったのか唸りだすヴェルフ。モンスターの咆哮が遠くから響いてきたのを聞いて全員が一瞬で黙り込んだ。流石に軽く説明だけしてさっさと動くべきだろうな。

 

「今私たちは()()()()()()()()()()()()。ですが()()()()()()()()()()()()()()()

 

 落ちた大部屋を起点にして周囲を探索し、固定された大部屋型の縦穴を見つける。一か所だけわかっても方位磁石の使い物にならないダンジョンの中では意味が無いが、では十三階層と十四階層で共通するランドマークと呼べる物があったとしたら?

 

「……なるほど。十三階層の地図には十四階層に通じる階段の位置が記されてる。大部屋型の縦穴の位置を一個ずつ調べて位置関係を割り出せば」

「大雑把にですが十三階層と十四階層を結ぶ階段の位置を把握できます」

 

 大雑把に割り出せば後は簡単。大体その位置まで足を運んでキューイに探して貰えばいい。キューイは風の流れっぽいモノを読み取って階段の位置。と言うよりは上の階層に通じる風の流れを読み取れるのだ。それを利用すれば階段発見も早まるだろう。

 

「それもこの場で簡単に周辺の把握も出来ますしね。キューイ、感知できる範囲で良いんで大きな風の流れを教えてください」

 

 問題はキューイの分かりづらい表現を俺が正しく読み取れるかって所なんだが。頑張るっきゃない。生存率に関わってくるからな。

 

「キュイキュイ、キュイ」

 

 ほうほう? リリが広げた地図の横に大雑把に石ころを並べて穴の位置を把握していく。

 

「キュイキュイ」

 

 此処ら辺にあるのか。距離は、こんなもんか? 一つ目に比べて近い? 方角は?

 

「キュイ、キュキュイ」

 

 ふむふむ。なるほどなるほど……。

 

 

 

 

 

 

 凡そ三十分程かけてキューイの言う大きな風の流れの位置を石ころで示したモノを見ながら、俺達は結論をだした。此処は十四階層ではない、十五階層であると。

 

「此方の縦穴部屋の位置がおかしいのでは?」

「それが起点になってるんだけど」

「じゃあこっちの方がおかしい?」

「キューイ、どうなの?」

「キュイ……」

「位置関係は間違ってないらしいわ」

 

 十三階層にある縦穴部屋の位置と、今いる階層の縦穴部屋の位置がどう照らし合わせても合わないのだ。

 んでヴェルフが気付いた。地図に記された記号の横に小さく数字が書かれているのに。

 

 俺達が落ちた縦穴部屋。その記号のすぐ横に書かれていたのは、その縦穴部屋が二階層分ぶち抜いた大部屋である事を示す記号であった。

 

 要するに、なんだ……。

 

 十三階層の地図から割り出すとかいう知的なアイディアは、何の役にも立たないゴミと化した訳だ。

 

 現在階層は推定十五階層である。その推定が確信に変わったのはその五分後である。

 壁の色合い、光源の乏しさ、そして何より……ミノタウロスがうろついているというキューイの報告によって確定した。

 ミノタウロスの出現階層は十六、十七階層。そしてモンスターは上下一階層まで移動する事が確認されている。つまり十六階層で出現したミノタウロスが、十五階層に出てきてると考えればもう答えは一つだ。

 

「十五階層だと……」

「そんな……」

 

 一番冒険者がやってはいけない失敗を仕出かした。自分の居場所がわからない。階段の位置もわからない。調べようにも風の流れを読むキューイでは縦穴に翻弄されて階段だけをピンポイントでは見つけられない。

 『詰み』って言葉が脳裏を過る。

 

「……救援を待つってのはどうだ? ほら、タケミカヅチファミリアが助けに来てくれるんだろ?」

 

 ヴェルフのすがる様な言葉には申し訳ないが、それは()()()()()

 

「無いです」

「はぁ?」

「無いですよ。彼らの戦力からして十五階層まで足を運ぶのは難しいです」

 

 それ以前の話として。

 

「それに彼らがうまく地上まで逃げれた保証もないですし」

「ミリア、それってどういう事?」

 

 ベルが驚いた表情をしてるが。気付いてなかったのか?

 

「ベル、怪我人二人を抱えた六人パーティが十二階層から地上に帰還できる割合がどれくらいかわかります?」

「……どれぐらいなの?」

 

 ステイタス次第だが、戦える人員がレベル2二人なら凡そ9割。

 戦える人員がレベル2一人と実力のあるレベル1一人なら凡そ7割。

 

 ただし、戦える人員は一切疲弊していない事が条件である。

 

「疲弊してたら?」

 

 んなもん……。2割もあれば良い方じゃね?

 

 モンスターの位置を特定できる索敵スキルがあったっぽいけど、ミコトの疲労状態から考えて当てに出来るもんじゃないだろうし。闘える人員と言っても疲弊度合いが酷過ぎて足が覚束なかったんだ。

 下手すると1割未満だ。

 

「でも、お前らの主神はお前たちの捜索依頼を出すだろ?」

 

 出された所でなぁ。

 

「依頼料の相場知ってます?」

「……上層で五十万、中層で二百万前後」

「うちのファミリアにある総資産は凡そ四十万が良いところです」

「竜の素材売ってるんだから余裕とかないのか?」

 

 それは本当に申し訳ないが、ヘファイストスへの借金返済に充ててて最低限しか貯蓄できてないのだ。ガネーシャファミリアにも恩義があるしそっちの方にもキューイとヴァンから得られる資金を当ててしまっているし。

 

「ミリアはガネーシャファミリアと繋がりもある。リリだってファミリアが探してくれるんじゃないか?」

 

 ……ないな。うん、それはない。

 

「まずガネーシャファミリアについてですが。無理です」

「なんでだよ、規模がでかいんだからそれぐらい」

「ごめんなさい。私の所為です」

 

 ガネーシャファミリアは現在オラリオでの『無償奉仕活動』に従事している。要するにギルドの許可なく行動出来ないのだ。団員をダンジョンに潜らせるのではなく、ギルドに溜まった冒険依頼(クエスト)の処理を任されている。主に中層下部の植物採取類の依頼や、オラリオ外でのモンスター退治等。必要最低限の人員を残して他が出払っている。

 中層で行方不明者を探せる実力者が本拠に残っていないのだ。ガネーシャ様の気質からして探すのを手伝おうとはしてくれるだろうが、動かせる人員が居なきゃどうにもならない。

 

 リリの方は言わずもがな。リリはファミリアから雲隠れ中なのだ。

 それに、そもそもの話ファミリアがリリを探してくれようとするのなら、もっと前、キラーアントに襲われたあの日から捜索依頼が出されるはずだ。それが無い以上、ソーマファミリアはありえない。

 

「逆に、ヴェルフの所は?」

「……悪い、主力メンバーは全員ロキ・ファミリアの遠征に行ってる」

「神ヘファイストスは依頼を出さないので?」

 

 苦虫を噛み潰した表情のヴェルフ。凡そ察しはつくが……。

 

「他の鍛冶師から疎まれてる俺を優遇してたら不満が産まれるからな」

 

 だろうな。と言った感想しか出てこないわ。ベルも青褪めてるし、ヴェルフは唇をかみしめてる。俺は意味も無く石ころをコロコロ転がしてる。どうすりゃいい?

 頭の中で何かないかと色々探し回るが、自力で戻る以外に方法が無い。地図も無く、現在位置もわからない状態で、化け物渦巻く迷宮の中を生還しろと? 無理ゲー過ぎるだろ。

 

「リリに、一つだけ案があります」

 

 頭を抱えているさ中にリリが口を開いた。藁にも縋る思いでリリの方を伺えば、意を決した様に口を開く。

 

「十八階層を目指しましょう」

 

 あぁ、ついにリリまで壊れてしまったか。またモンスターの咆哮が響いてる。ベルとヴェルフも冗談だとでも思ったのか聞き流してるし、もっと建設的な案が欲しい……。

 

「ミリア様、そんな憐れむ様な目はやめてくださいっ! リリは本気で言ってるんですっ!」

「いや、十八階層って言ったって……十八階層には……十八階層?」

 

 思わずリリを二度見した。十八階層。そう十八階層だ、ガネーシャファミリアの主力メンバーが十九階層以降の大樹の迷宮に薬草類を採取しに行く足掛かりとして利用してる階層。安全階層(セーフティポイント)っていうのがある。其処までいければ間違いなく冒険者が居る。リヴィラの街だかっていう迷宮の中に出来た冒険者の街があるって話もどっかで聞いた。

 

「なるほど十八階層」

「なるほどって何だよ」

 

 うん。多分だが、生還率は十八階層目指す方が遥かに高い。闇雲に位置もわからない階段を探すよりはモンスターを避けて十七階層へ行って、そこからキューイに風の流れを読んでもらって十八階層へ続く階段を見つけて貰う。十七階層より下の階層へ通じる縦穴は一個も無い、つまりキューイが見つけた下の階層への風の流れは確実に階段ってわけだ。

 

「そうですね、十八階層を目指すのは在りですね」

「リッリリッ、ミリアッ、待って。此処からさらに下の階層を目指すなんて」

「敵は強くなる一方だぞ」

 

 確かに、モンスターは強くなるだろう。だが、現状を鑑みればわかるが、現在階層でモンスターと戦うのも、下の階層でモンスターと戦うのも、どっちもリスキーである事に変わりはない。

 位置もわからない階段を探し、上の階層を目指すさ中に戦う回数は何回? 運良く冒険者と出会う確率は? さらにその冒険者が助けてくれる善人である確率は?

 位置が確定してる階段目指して下の階層を進むさ中に戦う回数は何回?

 回数は後者の方が圧倒的に少なそうである。

 

「十八階層はダンジョンにいくつか存在する安全地帯。安全階層(セーフティポイント)です」

「そこまでいければ、地上に戻る上級冒険者に助けを乞える。無論、報酬は要求されるでしょうけど、ディアンケヒトファミリアからエリクサー 1ダースを貰ってるし、それを突き付ければ確実に要求は通るでしょうし」

 

 困惑したベルと、驚いた表情のヴェルフ。此処で迷っていても始まらない。助けが来る保証が無い以上、自ら動くしかないのだ。

 

「どうやって」

「縦穴を使います。縦穴なら、そこら中にありますから」

「リリの持ち物にロープもあったからなんとか下りれるでしょ」

 

 キューイは平気だよね? え? お腹一杯食べれればいい? いや、そういう意味じゃないんだけど……。飛び降りれるかって話。翼ダメになってるけど、一階層分ぐらいなら……。あ、大丈夫なのね?

 

「階層主はどうする。十七階層だろう。例のデカ物がいるのは」

 

 ガチの迷宮の孤王(モンスターレックス)、階層主である『ゴライアス』か。こっちも問題は無い。

 

「ゴライアスならロキファミリアが遠征の際に討伐してるはずです。復活するインターバルを考えても今ならギリギリ間に合います」

「そうでなくてもガネーシャファミリアが中層の依頼で行くさ中に出現してたら片づけるって話もしてたわ。確実に居ないって考えても平気よ」

 

 ロキファミリアが討伐してた場合、約二週間前なのでかなりギリギリ。ガネーシャファミリアが討伐していた場合は確実に出現していない期間だろう。

 遠征の際に邪魔になるゴライアスをロキファミリアが無視する理由は無いが、無視しててくれた方がこっちとしてはありがたい……。

 

「あくまで、選択肢の一つです」

「そうね、じゃあ選択肢を纏めましょう」

 

 まず一つ。来るかどうかもわからない救援を待つ。

 この小部屋に立てこもって、モンスターが来ないか怯えながら耐える。食料は殆どキューイが食べ尽くしたが、水はある。冒険者の体は意外と丈夫だし、二三日食事をとらなくても死ぬ程じゃない。

 

 二つ目は上の階層を目指す。モンスターの強さはそこそこ、下に進む方に比べれば弱いモンスターを相手どると言えばそうだが、キューイレーダーも使い物にならない階段探しをする必要がある事。片っ端から上の階層に続く風の流れる地点を調べる方法もあるが、階段に当たるかは未知数。

 他の冒険者を探すのも難しいだろう。中層に挑む冒険者の数は上層の20分の1ともいわれてる。時刻と相まってほぼ会えないと考えていい。

 

 三つ目は下の階層を目指す。モンスターは今の階層より強くなる上、ヴェルフとリリは完全に足手まとい。ミノタウロスも出現する以上、戦力は俺とベル、後はヴァンの三人。キューイが死ねば階段を探せなくなるのでキューイを死なせない様にしながら進む必要がある。

 

「さて、どうする? ベル?」

 

 生還率は降りる方が高そうだが。どれを選んでも危険度は変わらないしなぁ。

 

 しいて言うなれば、『待つ』のと『上に戻る』のはどっちも運が絡む。『下に進む』のは実力が問われる感じか? ベルが選んだ方ならどっちでも全力は尽くすが……。ベル?

 

 青褪めて震えるベルが俯いていた。きつく握りしめた手からギチギチと言う音までしている。ベルが震えながら口を開いた。

 

「僕は……」

 

 絞り出す様な声。重責に押しつぶされそうになっている姿に、思わず声が出た。

 

「ベル、大丈夫?」

「ベル? どうしたんだ?」

「ベル様?」

 

 俺、ヴェルフ、リリの三人の問いかけに、ベルが震えながら顔を上げた。

 

「僕は、気付いてなかったんだ」

 

 何が? 思わずヴェルフとリリを見るが、二人も訳がわからないと首を傾げる。

 

「このパーティーのリーダーは僕だったんだ。ずっと、今までもそうだった……」

 

 震えながら青褪めた表情のまま、きつく握りしめた拳を地面に押し当てて絞り出すベルの声。

 

「僕は、選んだ。助けるって、囮になるって……でも……」

 

 仲間がいたのに。パーティのメンバーが居て、わくわくしながら中層に挑んで。

 僕が選んだ選択によって、皆が命の危機に晒されていて。ようやく気が付いたんだ。僕が選んだ結果がこれなんだって、僕が皆を危険な目に遭わせてるんだって。

 

「ごめん。僕が」

「謝るなよ」

 

 ベルの謝罪の言葉をヴェルフが遮る。

 

「なあベル。なんで俺がお前のパーティを組んで、こんな所まで一緒に来たと思ってるんだ? 逃げる事だってできたのに、だぞ? …………お前の事を認めてるからだよ。お前がどんな選択したとしても、俺はお前を恨まない」

「ヴェルフ」

 

 タケミカヅチファミリアと共に、逃げる事だってできた。あの時、逃げていれば生存率はどれ程違ったか。それでもヴェルフ・クロッゾと言う男はベルと一緒に行くと決めた。あの時点でベルに全てを捧げてる。

 

「ヴェルフ様ではありませんが、リリも同様です。謝る必要はありません、ベル様。リリも恨みはしませんよ」

「リリ」

 

 リリルカ・アーデも同様だ。逃げられるタイミングはあった。あっちの方が生存率が高かったにも拘わらず、ベルの選択を尊重した。

 

「同じパーティを組んで、ファミリアに居ながらずっとベルに責任を押し付けていた私が言うのもなんですが。私も恨みませんよ。ただベルが選んだ選択が上手く行くように、手助けがしたいから此処に居ます」

「ミリア」

 

 俺は、ベルに死んでほしくない。其の上で、ベルの選択を尊重したい。ある意味では無責任な事をしている。ベルに正しく注意すべきだったという場面が幾つもある。それでいながら、ヴェルフやリリが一緒に来る事に安堵もしていた。どれ程危険なのかを理解しつつも、二人を強引にタケミカヅチファミリアと共に行かせることをしなかった。

 

「もし、もしベルが辛くて、苦しくて、やめたいっていうなら。私が代わりましょうか」

 

 ベルが、やめたいと言うなら。俺が此処でリーダーを代わろう。俺が選択しよう。皆の命を握りしめて、一世一代の賭けをしよう。

 リリとヴェルフを伺えば、二人はニヒルな笑みを浮かべ返してきた。信用は、されてるって事かね。

 

「どうしますか。選びたくないのなら、私が代わりに選びます。だから」

 

 俯き、涙をこらえていたベルが顔を上げた。仲間の命を握る重責を感じながら。それでも、先程までの弱弱しい姿ではなく、まっすぐ前を見据える男らしい瞳をもって、ベルが大きく宣言した。

 

 

 ────進もう




 OVA回の水着、ミリアちゃんなら『スク水』だろうなぁ。

 『白スク水』? 『普通のスク水』? それとも……絆創膏?

 いや、流石に絆創膏はネタですが。

 考えてもみてくださいよ。ヘルメスが用意した水着の中にミリアちゃんの分が無い。
 からのヘルメスが笑顔で絆創膏三枚を差し出す。

 ミリアちゃんキレますよ。

本作品内の好きなオリ主・オリキャラは?(オリ主以外人外しか居ない件)

  • TS魔法幼女『ミリア・ノースリス』
  • 恋するポンコツワイバーン『キューイ』
  • 真面目な紳士系ワイバーン『ヴィルヘルム』
  • 誇り高き普通の小竜『ヴァン』
  • 竜種追加希望枠
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