魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

78 / 218
第七十七話

 ヘスティアファミリア本拠、廃教会に未だかつてない程の数の神と人が集まっていた。

 集まったのはヘスティアファミリア主神ヘスティア。教壇の上で目を瞑り懺悔を聞く女神の様に静寂を纏い、()らの出会った出来事についてを聞き終え、静かに口を開いた。

 

「そうか。そんな事があったのか」

「申し訳ないヘスティア、まさか俺の眷属()らが助けられておきながら俺がそれを知らなかったとは」

 

 深々と頭を下げるタケミカヅチファミリア主神タケミカヅチ。その後ろに一列に整列して同じように頭を下げるタケミカヅチファミリアの眷属六名。

 

 事の始まりは昨日。ヘスティアファミリアの眷属ベル・クラネルとミリア・ノースリスの二名とヘファイストスファミリアの眷属ヴェルフ・クロッゾ、そしてサポーターのリリルカ・アーデの四名と+α二匹のパーティが中層進出した所から始まる。

 中層域で上手くモンスターを捌いていた彼らだったが、付近で負傷者を発生させたタケミカヅチファミリアのパーティを発見。その援護を行うべく合流した。

 したのは良いのだが、余りにも多すぎるモンスター。そして狙いすましたかの様な迷宮の崩落。様々な出来事が重なり結果としてタケミカヅチファミリアのパーティが重傷者を二名を抱え、戦闘員の半数を失い危機的状況に陥る事となった。

 このままタケミカヅチファミリアを庇いながらの戦闘は不可能。撤退も危険と判断したヘスティアファミリアのミリア・ノースリスの意見を聞いたベル・クラネルがタケミカヅチファミリアのパーティのみの撤退。ヘスティアファミリア側パーティがその場に留まりモンスターの足止め及びに囮を買って出る事となった。

 

 ヘスティアファミリアのパーティと別れたタケミカヅチファミリアは疲労困憊状態でありながら上層を次々に突破していったが、七階層に到着した際に新米殺しの名でも呼ばれるキラーアントの処理に失敗。数多くのキラーアントに囲まれて絶体絶命の危機に陥りかけるも辛くも突破。しかし体力の限界に陥っていた者が気絶し結果としてレベル2であった桜花とミコト以外が意識を失う結果となり、ほうほうの体で五階層から四階層へ続く連絡路まで辿り着くも其処で力尽きてしまった。

 

 運良く他のファミリアのパーティに助けられるも疲労困憊状態での強行軍が祟って今朝まで目を覚ます事は無かった。もし意識が残っていればヘスティアファミリアのパーティが危機的状況に陥っている事を伝え、救援依頼を出すはずであったにも拘わらず。

 今朝早くに目覚めたミコトは目覚めると同時に本拠を飛び出してギルドに駆け込み依頼を発注しようとしたところでちょうど依頼を発注したヘスティアと鉢合わせした。

 

 その後次々と目を覚ましたタケミカヅチファミリアの眷属達の話を聞いたタケミカヅチが慌ててやってきて、話のすり合わせが行われた。

 

「つまり、彼らの負債を肩代わりした結果。ベル達は帰って来れなくなったのだな」

 

 話を聞き終えた所で眷属のナァーザを傍に控えさせたミアハが彼ら、タケミカヅチファミリアの眷属を見て呟いた。その呟きに彼らは身を竦ませ再度深々と頭を下げる。

 負債を肩代わりさせた挙句、自分たちはベル達の願いを聞き届けられなかった。もしこれでベル達が全滅でもしていようものなら切腹も辞さない勢いだ。

 

「先に言っておくよ。僕は君達を恨まないし、憎まない。ベル君とミリア君がそうすると決めた。そして行動した結果だ。君たちが気に病む事ではない」

「ですがっ」

 

 生真面目に、今回の出来事に重責を感じているミコトが反論を口にしようとしたところでヘスティアは振り返った。青みがかった瞳で六人を見回し、微笑む。

 

「むしろ、お礼を言わせて欲しい」

 

 その毅然とした眼差しと、その女神の口から放たれた言葉に驚愕し動きを止める。

 

「君たちが無事でよかった。ベル君達の行いが無駄に終わらなかった事、本当に感謝している」

 

 静かに、慈悲深い女神の様に、タケミカヅチファミリアの六人を見下ろして微笑む姿に息を呑む。

 

「そして、その上で僕は君たちにお願いがあるんだ。どうか、ベル君達を探すのを手伝って欲しい」

『────仰せのままに』

 

 ヘスティアの言葉に一糸乱れぬ動きで六名全員が(こうべ)を垂れた。

 静かに頷いたヘスティアは長椅子の一つに座っていた眼帯をした女神、ヘファイストスの方に顔を向けて深々と頭を下げた。

 

「ヘファイストス。すまない、僕の眷属の我儘を聞いた結果。パーティに入っていた君の眷属まで危険に晒した。なんと謝れば良いか」

 

 パーティのリーダーはヘスティアファミリアのベル・クラネルであり、その選択をしたのはリーダーである。パーティに加入したヴェルフ・クロッゾはベルの選択によって危機に晒されている。其の事を謝罪するヘスティアに対し、ヘファイストスは肩を竦めて見せた。

 

「────別に、気にする事ではないわ。だって、その子達の話にもあった通り、ウチの子に『タケミカヅチファミリアとの撤退』を推奨してたんでしょう? それにも拘わらずベル・クラネルって子の選択に乗ったのはヴェルフ本人。ヴェルフの責任であって、ベル・クラネルの責任ではないわ」

 

 話の中で、ミリア・ノースリスがヴェルフに対してタケミカヅチの眷属と共に撤退する事を推奨する発言を行っていた。もしそれが無ければ無責任なリーダーに付き合わされて眷属を危機に晒されたと憤る所ではあるが、ヴェルフ本人が危険を承知で彼らに従ったのであれば、そうはならない。

 ヘファイストスの言葉にヘスティアがごめんと呟く。

 

「それよりも本題に入ろう。捜索隊を結成するという話だが」

「そうだね。早ければ早い方が良い。ヘファイストス、君の所は?」

「申し訳ないけど、ロキファミリアの遠征に付き合ってて主力メンバーは全員出払ってるの。残ってる子達は中層に長時間留まるのは不安が残る子ばかりね」

 

 ヘファイストスの言葉にヘスティアが目を細める。集まった主神達の中では最も規模が大きいファミリアではあるが、その本質が冒険者ではなく鍛冶師である以上、致し方のない事ではある。

 

「俺の所からは桜花とミコト、サポーターに千草が行ける。だが他の三人は足手まといにしかならない」

 

 残るミアハの眷属ナァーザは過去のトラウマによってダンジョンに潜る事が出来ない。故に現状頼れるのはタケミカヅチの眷属達のみ。

 人手不足感は否めず、かといってギルドに発注した依頼で人が集まるまで待っていれば、未だ微かにつながる眷属との恩恵の繋がりが消えうせかねない。時は一刻を争うのだ。

 むむむっと唸りながらヘスティアが腕を組む。と、との時だった。

 

「俺も協力するよ、ヘスティア」

 

 壊れかけの扉をバターンと勢いよく開け──開け放たれた扉の蝶番が壊れてバタンと音を立てて倒れた──飄々とした仕草で優男の神が現れたのは。

 

「ヘルメス!」

「お前!? 何しに!」

 

 驚きに目を見開くミアハやナァーザを他所にタケミカヅチをあしらう様に笑いながらヘスティアの前に立ったヘルメス。彼の後ろには眷属のアスフィが静かに付いていた。

 

「何、神友が困っていると聞いて駆け付けたのさ」

 

 訝しむ様な表情を浮かべるヘスティア、そして集まった主神達。飄々とした雰囲気の優男の神は懐から一枚の羊皮紙────ヘスティアの発注した冒険者依頼(クエスト)の用紙を取り出す。

 

「俺も手を貸すよ。ベル・クラネルとミリア・ノースリス、そして仲間の捜索をね」

 

 茶目っ気でも出したかったのかウィンクまでしているヘルメスの姿にヘファイストスの呆れた声を上げた。

 

神友(しんゆう)とか言って。貴方、下界に来てから碌にヘスティアと関わりもってなかったんじゃない」

「確かに」

「随分といい加減な友ではあるな」

「あれあれ、これは手厳しいなぁ」

 

 ヘファイストスに続いてタケミカヅチやミアハまで呆れの伴う声を上げ、芝居がかった仕草でヘルメスが肩を落とす。眷属達を置き去りにした神々のやり取りにミコトやナァーザは口をつぐんだ。

 

「でも、ヘスティアに協力したいというのは本当さ。俺もベル君とミリアちゃんを助けたいんだ」

 

 芝居がかった仕草をやめ、唐突に真面目な表情を浮かべる優男の神。呆気にとられたヘスティアの前でヘルメスは自身の眷属、アスフィの肩を抱いて口を開いた。

 

「捜索隊にはこのアスフィも連れて行く」

「はぁっ!?」

 

 アスフィも想定外の発言だったのか驚きの表情でヘルメスを見上げるがヘルメスは取り合わずに微笑みをヘスティアに向けた。

 

「ウチのエースだ。安心してくれ」

「……はぁ」

 

 主神の意見に反対はしないのか、諦めた様な深い溜息を零してアスフィが軽く会釈する。

 その様子を見ていたタケミカヅチが胡乱気な視線をヘルメスに向けたままヘスティアに問うた。

 

「どうする? ヘスティア」

「今はベル君達の救助が最優先だ。少しでも人手が欲しい。頼むよ、ヘルメス」

「ああ、任されたよ」

 

 芝居がかった仕草で了承するヘルメス。胡乱気な視線を向けるタケミカヅチ、ミアハ、ヘファイストスの三人と、探る様な呆れた様な視線を向けるアスフィ。向けられた本人はへらへらとした笑顔を浮かべていた。

 

「準備ができ次第、出発ね。今夜辺りかしら」

「うむ、今夜が目途だな」

「桜花、お前たちは直ぐに準備しろ」

『了解!』

 

 ヘファイストス達が話を進める中。アスフィに物陰に引っ張り込まれたヘルメスは膝を抱えてアスフィと向き直っていた。

 

「おいおい、何だよアスフィ」

「ヘルメス様、先程私を『連れて行く』と仰いましたが……。まさか」

「ああ、俺も同行する」

「なっ!?」

 

 驚愕し過ぎて眼鏡がずれ落ちるがそれを直す事もせずにアスフィが焦りのまま小声で捲し立てる。

 

「神がダンジョンに潜るのは禁止事項ではっ!?」

「バレなきゃ良いのさ。迂闊な真似をするのが不味いってだけでね」

「……はぁ、最初からその積りで」

「ははは、俺の護衛(おもり)を頼んだぞ」

 

 眉を逆立てて頬を引き攣らせるアスフィに、ヘルメスがニヤニヤと囁いていると、すっとヘスティアが椅子の向こうからヘルメスたちを覗き込んだ。

 

「僕も連れて行け」

『ヘスティアッ!?』

 

 感情の高ぶりを示す様にツインテールを逆立たせて覗き込む姿にヘルメスとアスフィが驚く。

 

「落ち着けヘスティアッ! 神がダンジョンに潜るのは禁止事項でっ! だから、その」

「────バレなきゃ良いんだろ」

「ぐぇ……」

 

 自身の使用した言い訳を使われて言葉を失うヘルメス。

 

「僕もベル君達を助けに行く。彼らの事を誰かに任せっきりにするなんてできない。僕も付いていく。いいね?」

 

 真っ直ぐに見つめられ、一歩後ずさりながら頬を引き攣らせて眷属に助けを求めるヘルメスだったが、アスフィはプイとそっぽを向いて主神の助けを無視した。諦める様にヘルメスが項垂れる。

 騒ぎに気付いたヘファイストス達が呆れ顔を浮かべながら近づいてくる。

 

「あんたねぇ」

「すまないな、俺の所為で」

「それはもういい」

 

 ヘスティアは呆れ顔のヘファイストスと申し訳なさそうなタケミカヅチから視線を外して胸に手を当てる。

 

「感じるんだ。ベル君達は生きてる。僕の与えた恩恵は、どちらもまだ消えちゃいない」

 

 ヘスティアの意思が固い事に気付いたヘファイストス達は苦笑を浮かべた。

 

「ヘスティア、ヴェルフに会ったら渡してほしい物があるの。私の伝言付きで、いいかしら?」

「ああ、構わないよ」

 

 ヘファイストスから布で包まれた大きな物を受け取るヘスティアに背を向け、壊れた扉から外に出て夕焼けを眺めたヘルメスは吐息を零した。

 

「アスフィ。俺とヘスティア、一人で両方守れそうか?」

「流石に保証しかねます」

「だよなぁ」

 

 夕焼けに染まる街並みを眺めつつ、優男の神は当てを脳裏に描いて呟いた。

 

「もう一人連れてくるか」

 

 

 

 

 

 ポタリと、汗が地面に落ちた。雫が頬を伝う気色の悪い感触を味わいつつも、後ろから響く苦悶の声が精神をガリガリと削っていく。

 中層特有の湿った空気は、何処か日本の夏場を思い起こさせる様な不快感がある。炎を扱うモンスターが居るからか、それともこの階層は気温が高いのか。滴る汗は留まる事を知らない。

 確かに汗の不快感は凄い。凄いのだが、それ以上に精神を削るのは────鼻に突き刺さる悪臭である。

 

「きふぁくぁ……」

「おええ……」

「うぷっ……」

「キュィ……キュィ……」

《モンスターが近い。主、おい主よ、聞いているのか?》

 

 現在階層は十六階層、のはずだ。キューイの案内の元、推定十五階層から一階層下に降りた所である。

 鼻に突き刺さる悪臭の正体は、リリが手にした小袋。名を強臭袋(モルブル)と言う代物。リリルカが発案し、ナァーザさんの手によって発明された悪魔の発明品。

 

「……っ、おいリリ助、この匂いはどうにかならないのか」

 

 死にそうなヴェルフの声にリリルカがビクンと跳ね、ヴェルフに小袋を突き付けて捲し立て始める。

 

「お言葉ですがっ。リリの方が発生源の近くに居るんですよっ」

 

 振り回された小袋から臭気が漏れ出て鼻に突き刺さる。思わず口元を抑えてえずく。やめてくれリリ、それは生命線であると同時に、俺達の死を呼び寄せるアイテムなんだ。

 ギャーギャーとリリが喚く中、俺はリリの手をがしっと掴んで止める。

 

「り、リリ、それ、振り回さないで。お願いだから」

 

 その匂い袋はモンスターとの遭遇を回避するというアイテムだ。ダンジョンの素材からそういった物が出来ないかとナァーザさんに相談し、完成した代物。なお試しに匂いを嗅いだナァーザさんが凄まじい痴態を晒す羽目になったとだけ言っておく。そういった薬品の匂いになれたナァーザさんですら悶絶して痴態を晒す危険物。俺達がどうなるかはわかり切った事だが……効果は絶大であると同時に、危険度を跳ね上げる代物でもあった。

 

「その効果が切れたら、モンスターに袋叩きにされるから」

 

 俺の言葉にリリが動きを止め、じぃーと文句ありげにヴェルフを睨み。そして前を向き直った。

 この強匂袋(モルブル)、しつこく付きまとってきた中層のモンスターがピタリと近づくのをやめるというすさまじい効力を持っており、最初こそ喜んだ。

 喜んだのもつかの間。その効力は諸刃の剣でもあった事に気付いたのは数分後。

 

 モンスターが俺達を中心に一定範囲に集まりつつある。

 匂いを避ける様に、俺たちの動きに合わせてモンスターが避ける様に動くが、逆に匂いにつられてモンスターが一定距離を置いて取り囲む様に集まってきてしまったのだ。

 そう、俺達は今無数のモンスターに囲まれていた。遠くの方を見れば苛立ったような赤い瞳がいくつも確認できる。だが一定以上には決して近づいてこない。

 

 匂いで半ば死にかけのキューイレーダーは役立たずではある。が、それすら必要なく感覚の鈍い俺でも気付く程の殺気が、行く先からも、後ろからも、全方位から向けられる。

 全員で顔を見合わせて頷き、歩き始める。

 

「それが私たちの命綱でもあり、同時に余命宣告でもあります」

「効果が切れたら周りを取り囲んでいるモンスターが一斉に……」

「そう言う事です。なので早く次の階層に進む縦穴を見つけないと……」

 

 縦穴探しはキューイの仕事。だが残念な事に強臭袋(モルブル)の所為でキューイがダウン。最初にキューイに大雑把な位置だけ教えて貰ったのを頼りに、辿り着いたその場所には穴が無かった。

 時間経過で消えてしまったのだ。

 

 最悪なのはそこから。キューイが使い物にならなくなった所為で縦穴を自力で探す必要が出てきた挙句、モンスターが一定距離を置いて取り囲むように動いているのに気付いたのはついさっき。

 つまり自らの首を真綿で締める行為をしていたのだと、漸く理解した所だ。

 一度使い始めたら最期、使い切る前に違う階層に移動しなくては効果が切れた瞬間に匂いにつられたモンスターに袋叩きにされてしまう諸刃の剣。最悪な事に、既に手持品の殆どを使い切り、残り一つしかないという笑える状況だ。早く縦穴見つけないと不味い。

 

「……縦穴、見つからないね」

「ヴァン、わからない?」

《無理だ。俺様にその手の技能は無い》

 

 唯一の救いは──救いと言って良いのかわからんが──ヴァンの鼻が潰れていた事。

 度重なる戦闘の中で、ヴァンの鼻は完全に潰れており匂いをかぎ取れなくなっていた。そのおかげでヴァンがキューイを背負って運ぶことができているが、同時にヴァンが索敵出来ない状態に陥っている訳で。

 メリットとデメリットが変な風に釣り合いが取れている状態だ。むしろマイナス方面に偏り切っている気はするが。

 隊列を組み歩いていると視界の端、横穴の奥でチカッと炎の残滓が零れ落ちたのが見えた。三匹のヘルハウンドが今まさに口から炎を吹かんと体を大きくのけぞらせている姿勢をとっているのが見えた。

 

「ヘルハウンドっ!」

「任せろっ!」

 

 慌てて剣の切っ先を向けようとする前に、ヴェルフが叫んで手を向けた。

 

「『燃え尽きろ、外法の(わざ)』『ウィル・オ・ウィスプ』」

 

 紡がれた短文詠唱の魔法。ヴェルフの右腕から放たれた空気の揺らぎ、陽炎が真っすぐにヘルハウンドに命中する。だが、当たったはずのヘルハウンドはダメージを負った様子はない。

 が、次の瞬間にはその口蓋の内にため込んだ炎が体内に逆流し、体が風船のように膨れ上がり、爆炎を上げて爆ぜた。一匹のヘルハウンドの肉体が内側から爆ぜ、残りの二匹を吹き飛ばして壁に叩きつけ、行動不能に陥らせる。

 

 恐ろしい魔法だ。対魔力魔法(アンチ・マジック)と言う種別の魔法。効力は至って単純『対象の魔法を強制的に魔力暴発(イグニスファトゥス)させる』と言うモノ。詠唱待機状態の俺が食らえば一溜りもない魔法であるらしい其れ。ヴェルフが仲間で本当に良かった。そうでなければ対ミリア最終兵器と化していただろう。

 

「ヴェルフ、魔力に余裕は?」

 

 既に何度も同じようにモンスターを撃退している影響でヴェルフがふらつく。

 此処に来るまでに、何度も同じ様に遠距離から炎で攻撃しようとしてくるヘルハウンドが数多くいた。そのどれもが匂い袋の効果範囲ギリギリの射程から此方を狙い打とうとしてくるのだ。

 即応できるのはベルの『ファイアボルト』か俺の『ガン・マジック』のどちらか。

 

 だが、最大戦力のベルを消耗させる訳にもいかず。マインド切れかけの俺もマガジン消費を抑えたい。そう考えていた所でヴェルフがその魔法を使って迎撃すると言い出した。

 あまりステイタスが成長していない影響か、既にマインドダウン寸前の頭痛が発生し始めているヴェルフだが、ニヤリと笑みを浮かべて『余裕だ』と返事を返してきた。

 

 此処に来るまでの消耗は、極めて少ない。強臭袋(モルブル)のおかげで道中のモンスターとの戦闘を回避できているのは非常に大きい。消耗しているのはヴェルフの魔力のみ。

 すでに精神力回復特効薬(マジック・ポーション)は無い為、ヴェルフの回復は出来ない。しかしヴェルフはこの階層ではモンスター相手に優位に戦えないのでこういった事でしか役に立てないと気張っている。

 

「さ、進もうぜ」

「うん」

 

 緊張を伴いつつも、超至近距離での仲間の魔力暴発(イグニスファトゥス)に巻き込まれて瀕死の傷を負った黒焦げのヘルハウンドの横を通り、奥へ進む。

 

 ちなみに、ヴェルフはその対魔力魔法の『ウィル・オ・ウィスプ』を試射した相手はファミリアの仲間だったらしい。仲間から疎まれてるのってそういう部分ちゃうん?

 

 足が震え、呼吸が乱れ、間近に迫った『死』に叫びそうになる中、頭の中でヴェルフのちょっと変わった部分にツッコミを入れつつも後ろを振り返る。

 

 顔の半分が炭化し、翼の片方が折れ千切れ骨と肉の覗く断面を引き摺り、片目で仕切りに周囲を見回すヴァン。その背に背負う様な形で匂いにやられて朦朧とした意識で『臭い臭い』と呟くキューイ。

 

 キューイ、縦穴の位置を教えてくれ……。そんな願いは今のキューイには届かない。匂いを取り除けばキューイに縦穴の位置を探してもらえるだろう。だが、同時にそれは数えきれないモンスターに襲われる事を意味する。

 

 後ろに続くヴァンとキューイの更にその先。暗闇に包まれた進んできた道に、夥しい数の赤い瞳があった。あれ、数いくつぐらいいるんだろうか? 百? 二百? 数える気なんて更々ないが、つい目で追ってしまう。

 

「ミリア様、進みましょう」

「うん、わかってる。ヴァン、もう少し頑張って」

《…………》

 

 ベルは戦えるだろう。俺は残りマガジン14個、余裕はない。ヴェルフは魔法多用の影響で動きが鈍り始めてる。リリは戦力外。キューイは昏倒中。ヴァンは満身創痍。

 

 あの数のモンスターを相手どったら、どうなるだろう?

 

 早く、早く縦穴見つけないと、最後の一つの強臭袋(モルブル)の効果が切れる。焦る気持ちばかりが先行する中、目的の縦穴の姿は影も形も無い。

 

 生きて、帰らなくては。ヘスティア様に会わせる顔が無い。せめて、ベル達だけでも……。

 




 1巻から14巻まで取り揃えたので黒いゴライアス以降も書けます(書くとは言ってない)

 6巻のアポロンファミリアとの戦争遊戯前のやり取り見た上での感想。
『あ、これミリアちゃん容赦なく射殺しそう』
 本拠襲撃? 対人(PvP)ゲーム出身の子にそんな事したら眉間に風穴開けまくるに決まってるじゃん……。だんまち世界での殺人ってどうなの。冒険者同士のいざこざならしゃーなしって感じなのかね。

 と言うかカサンドラちゃんの予言を考えるのも面倒だしなぁ。


 でも対人(PvP)ゲーのキャラになったって設定で、なおかつそのゲームをやり込んでた系オリ主だし、対人メインの戦争遊戯は書きたいね。

本作品内の好きなオリ主・オリキャラは?(オリ主以外人外しか居ない件)

  • TS魔法幼女『ミリア・ノースリス』
  • 恋するポンコツワイバーン『キューイ』
  • 真面目な紳士系ワイバーン『ヴィルヘルム』
  • 誇り高き普通の小竜『ヴァン』
  • 竜種追加希望枠

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。