魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第七話

 語学の勉強をしよう。と言っても文字の成り立ちはどうでも良いんですよ……

 

 とりあえず、最低限の文法を覚えて、後はただひたすらに単語を頭に捻じ込む。それで何とかなる。

 

 まぁ、それは良い。

 

 とりあえず文字を覚えるのは最優先と言う訳ではないが教えてもらえるのなら教えて欲しい。

 

 と言う訳で教えて貰っている訳だが……一応、二時間と言う設定をして。

 

 ……うむ。成程、エイナさんは教えるのに向いているタイプらしいな。かなり解りやすく纏めてある。

 

 …………えっと、そうだな。ベルくん。ベル君だよ。えっとだね……最初の三十分は良かったがそれ以降やる気がみるみる失われている。

 

 まぁ、わかるよ? ベル君、まだ中学生ぐらいだもんね。

 

 興味の無い事柄に関して勉強してもねぇ……英雄志望だから、きっと強いモンスターの情報とか欲しいんだろうね。

 

 ダンジョンの安全な歩き方もかなり重要だとは思うが、英雄になるのに必要無さそうと言うか、あんま重要視してなさそうだしね。

 

 英雄志望のベル・クラネル……そう考えるとベル君は中二病でも患っているのでは? と思ったんだが……

 

 レベルアップで二つ名が貰えるらしく……えっと……有象無象(エリミネイト)だとか装弾瀑布(スモーキーコラプション)だとか……えっと、控えめに言って中二病全開の二つ名を貰っているらしい。

 

 しかも、その二つ名を『カッケエェェェェェエ』と超大興奮で嬉しそうに語るのが冒険者らしい。

 

 …………ヤベェ、冒険者全員中二病じゃネェか…………

 

 

 

 

 

 冒険者ギルドの講義室の一つ、ベルとミリアは並んで座り、勉強をしていた。

 

 講義室の直ぐ横には、情報が詰まった書庫があり、冒険者はギルドに申請書を提出すれば中身を見放題だと言う。パッと入口から中を眺めたが図書館……市立よりも上ぐらいの蔵書量だと思われるぐらいの量の書物が入っていた。

 

 一般公開枠だけでこれであり、ギルド側が厳重に管理しているモノも複数あるが、其方も条件が揃えば閲覧可能だと言う……どういう区分がされているのかわからないが……

 

 ミリアの横にエイナが立ち、文字の意味を教えてくれている。

 

 片やダンジョンの地形やモンスターの勉強。

 片や共通語(コイネー)の勉強。

 

 真剣な表情で文字と意味を頭に捻じ込むミリアを余所に、ベルは早くダンジョンに行きたいなとうずうずしていた。

 稼ぐ必要がある以上、丸一日を勉強に費やすのはもったいないので、二時間と言う長いようで短い時間ではあるが、はやくダンジョンに行きたい。

 それだけが理由ではないが……一日でも早く、強くなりたい。

 

 そうベルが考えていると、ミリアが溜息を吐いてベルを見て半眼になった。

 

「ベルさん」

 

「えっと……何?」

 

 そろそろ飽きてきたか? だが基礎を叩き込んでおかないと痛い目を見るのはどんな役職も一緒だしなぁ……特に冒険者なんて今、ベルに対してエイナさんが口頭で説明しているダンジョンの危険を少し聞きかじった程度で『ヤベェ』って感想が出るくらいには命が危ない職業である。そう考えると基礎を蔑にしがちと言うか、すぐにでも無茶して強くなりたいなと思ってるきらいのあるベルくんは少し危なっかしい。

 

 ミリアは一つ頷いてから、ベルを見据えて口を開いた。

 

「まず、勉強につき合わせてしまっている事は謝罪します。すいませんでした……ですが、この勉強は無意味ではないですよ。昨日……私が言うのはアレですが、ベルさんは死にかけましたよね? あの時、剣を持ったゴブリンを最優先で倒せば……ゴブリンを全て排除してからキメ顔をすれば……そもそも真正面から突っ込むのではなく一番後ろに居た個体から個別撃破すれば……あの三匹相手に余裕ぶって突っ込んで危機的状況に陥っていた私が言えばブーメランではありますが、あの時にベルさんは命の危機に陥る事はありませんでしたよね?」

 

「えっと……その……」

 

 まくしたてる様に言えば、ベルは困惑した様子で視線が泳ぐ。

 

 確かに、ミリアの言う通りだと思う。あの時剣を持ってたゴブリンは動きが鈍かった。体の大きさに対して剣は成人男性用に作られており大きさが大きくて動きが鈍っていた。だが剣の危険度が高いので最優先に倒すべきだったし、ミリアとゴブリンの間に割り込むのではなく、後ろから攻撃していれば必然的に挟み撃ちにできた。

 

 そんな風に言われた言葉を少しずつ理解して頭の中で噛み砕いているであろうベルに、これだけは伝えておいた方が良いとミリアは口を開いた。

 

「それに、コレを言うと私が最低な人間になりますが……あの時、ベルさんが馬乗りにされた際、私は逃げる事もできましたよ?」

「え?」

 

 ミリアの言葉にベルは思わずミリアを見るが、ミリアは何一つ冗談を言っている雰囲気は無く、真剣そのものである。

 

 と言うか本当に冗談でもなんでもなく、あの時、若干錯乱気味で状況がよく分っていなかったから『助けに来た人のピンチ→助けなきゃ』と言う訳のわからない構図が出来ていたが……ぶっちゃけ自分が正常だったら助けようでは無く『ラッキー、囮にしよ。とりま逃げ逃げと……』とでも考えて即時撤退を考えただろう。……いや、冷静に自分が迷子であると判断して助ける……だろうか? ダンジョンと言うモンスターの坩堝だと知らない俺は、きっと壁や天井からモンスターが沸くなんて考えずにベルを囮にした可能性もあるしな……まぁ、if(もしも)を考えた所で仕方が無いんだがな……

 

「あの時、私がベルさんを見捨てて、逃げていたら……ベルさんはどうなっていました? 勿論ですが、私はそんな事は……しない、ですが……」

 

 嘘だ。ここに神様が居ないのでバレはしない……がもしかしたらエイナさんが実は……なんて事はないだろう。神聖な雰囲気ないし。神威だっけ? そんなんが漏れ出てないから……若干、視線をそらしつつ呟く。

 

 あの時、ミリアがベルに馬乗りになった剣を持ったゴブリンを杖で殴ってどかしてくれなかったら?

 ベルが防御の為に構えたナイフ毎、ベルの頭は剣で叩き割られていたに違いない。

 

 そんな考えでもしているのだろう、ベルの顔色が真っ青になって体が震えている。

 

 すまんな少年……君は良い子である。それもかなり善良で前向きな……()()()()()()()()()()()()()ぐらい純粋無垢な……俺はソレを()()()()と言うのだがな。

 

 そのままだと、絶対に痛い目を見る。流石にな……少し脅すぐらいしておかないと、一緒にいるこっちが不安になりそうだからな……本当にスマン。

 

 …………すっげー青褪めて、俯いて、震えた後、ごめんと小さく呟いたベル君に、罪悪感が凄い事になって……吐きそう。

 

 言い過ぎたな、これ……

 

「ベルさん、話は変わりますが……ベルさんは英雄になりたいんですよね」

 

「……うん、でも今のままじゃダメだよね……あはは」

 

 力なく笑うベル君に、罪悪感がー……あぁ、ほんとヤバイな。エイナさんはずーっと黙って顎に手を当てて考え事中。ベル君を援護してあげて欲しいが……無理っぽいなぁ……

 

「では、ベルさんは自分が英雄だと思いますか?」

 

 ここらはペテン師的やり口だが、まぁ俺からすりゃペテンも詐欺も違いは金品なんかを奪うか奪わないかである。

 

「え?」

 

「もう一度聞きますが。ベルさんは自分自身が英雄であると、胸を張って言えますか?」

 

 言える訳無い。もし自分が英雄だと思うのなら()()()()なんて思ったりなんてしないしな。

 

「ううん、僕は英雄じゃない……」

 

「そうですね。私から見てもベルさんは英雄ではないと思います」

 

 俯いたベル君に罪悪感が刺激されるが……

 

 ベルはきっと自分が英雄になれないと言われてると感じている事だろう。だが言いたい事はそうじゃないんだなぁこれが。

 

「では、ベルさん、貴方が英雄になるのには何が足りていないと思いますか?」

 

「え?」

 

 薄らと否定する振りをしつつ、質問をする。そこから若干の肯定。そして否定。更に追撃の肯定。言葉選び次第だが相手を落としてあげてを繰り返せば、思い通りに動かせる事は多い。

 まぁ、相手次第だし。下手を打てば激怒させてしまうし、心がぽっきり折れる。加減が難しいが……そう言う意味では精神面が強く。その上で純粋無垢で騙しやすいベルは詐欺師の入門相手としては素晴らしい逸材だろう。まぁ笑い事じゃないし、仲間……家族か。家族になった以上、ベルがそう言った詐欺に引っ掛からない様に注意しないとなんだが……はぁ……

 

「何が足りないと思います?」

 

「力……かな?」

 

 ほほぅ、力か。

 

「では、力を得るのには何が足りてないと思います? もしくは何が必要だと思います?」

 

「えぇっと……努力?」

 

 努力? 曖昧だな。まぁベル君は今若干混乱してるしこの回答も予測はできてたが……

 ……まぁ、失敗したら嫌われるだけだし。嫌われたら、どっか適当なファミリアにいけば……このステイタスなら……あぁ、偽名使ってる時点で他の神に頼るのは難しいか? と言うか神様全員がヘスティアみたいな性格じゃないだろうしなぁ……ギリシャ神話だっけ? あそこら辺……いやごめん嘘、日本神話でもヤベェ性格の神様結構出てくるし。

 

 近親相姦をするのは神の特権。神が特別であるが故に近親相姦もオッケーと言う様な思想もあったっぽいし、何より怖いのは『娘を父親から奪う力がある男こそ、その娘を嫁にする権利がある』と言う女性差別的思考を植え付ける教義もあった臭いしな。女性の権利が低い国ってのは大体がそんな神話が多い。

 

 男は父親を殺してでも娘を攫って自分の嫁にするのが正しい。日本人的価値観どころか、世界的に見ても殺してでも奪い取るを肯定するのはどうなんだっていう神話もあるしなぁ……

 

 ……まさかだが、この世界においても『他の神様の眷属を、主神を殺してでも奪い取る』する神様とか居ないよな? まっさかぁ……まさか……ない……よな?

 

「努力、模範解答ですが……そうですね。これは私の考えですが。英雄に必要なのは『運気』だと思います」

 

「運気?」

 

「運ですね。何故、と思われるかもですが……戦いの中で運はとても重要なステイタスですよ。まぁ、ファルナでは変動しないみたいですが……どれほどの強さがあろうが、運次第ではあっけなく死にますよ?」

 

 ミリアちゃん、竜人……そう。ライフル弾を弾ける竜翼を持っていたとしても、敵が対物ライフルやロケラン、筋肉を持ち出して来ればあっけなく死ぬ。

 召喚できれば無双確定の召喚(ケットシー)型の使う最高位召喚魔法『古の竜の根源(エンシェントドラゴニアノーツ)』も、筋肉にかかればあっけなくぬっころだからな……

 

 マジ筋肉は害悪だよな。

 

「ベルさんは、自分が英雄に足る運気の持ち主だと思いますか?」

 

 悩む様に視線を泳がせるベルは、小さく呟いた。

 

「無いと、思う」

 

「なら、足りない運気を何で補えば良いと思いますか?」

 

「補う?」

 

 ……足りないモノは別のモノで補う事が出来る。無論出来ないモノもあるが……大体のモノは代用可能である。

 

「運はここぞと言う時に使って、後は地道な努力でどうにかする……足りないからこそ足りないソレを補う為に基礎があるんですよ」

 

 常に運勝負? 運が良いなら良いだろう。だがどれほど運が良かろうと、命中率99%であっても100回に一回は外すし。敵の命中率33%の攻撃が外れた所を見た事が無いんだが……と言うか100%でも外れる事があるんだよなぁ……

 

「今、勉強しているのはその足りない基礎です……蔑ろにしていると、死にますよ? まぁ、自分の運に自信があるのなら言う事は無いですが」

 

 ベルははっとなった様に此方を見てから、それから自分の中で何かの考えを上手く纏めたのか大きく頷いた。

 

「うん、ごめん。やっぱ基礎は大事だよね。僕は英雄になりたいから……足りない分もっと頑張らないと」

 

 おおー……スゲェやる気でてんじゃん。さっきの落ち込みっぷりが嘘みたいだ……

 

 ……ところで、このやり取りをしている間、ずっと顎に手を当てて此方をジィーッと見つめるエイナさんはどうしたのかな? かな? ……なんか悪寒がするぞ。おっかしーぞぉー……待って、俺さっき割とヤバイ情報零してんじゃん。

 

 ファルナ無しでダンジョンに居た事バレてね?

 

「ねえ、ミリアちゃん。昨日ワタシと別れてからファルナを授かったのよね?」

 

 うゎあぁぁぁぁぁあ!?!? ヤベェ、めっちゃ怒ってるぅううううううううううう!!??

 

 目が、目が割とヤバイ。これ怒ってるよ。めっちゃ怒ってる。

 

 そりゃそうだよねエイナさんクッソ真面目そうな子だもんね。人を凄く心配するからこそ、無茶をしたりする人に対して怒ってしまうんだよね。心配の裏返しの怒り。それはきっととっても素晴らしい感情だよ。苛立つからなんて自分勝手な感情じゃなくて、相手を心配するからこそ怒ってる。エイナさんはとっても素晴らしい人だよ。だって初対面の俺を心配しちゃう人だぜ? そうだよね怒るよねでも待って俺にも言い訳させて気がついたらダンジョンだよ? 其処がダンジョンなんて知らなかったんだ。ファルナ無しでゴブリン三匹に突撃するなんて死にたいのかって話なのは分かるけど言い訳を――

 

「ミ・リ・アちゃん?」

 

 ……ベルくん助け――おい視線を逸らすな。体を此方から逸らすな!! なんでだよゴブリン三匹相手には助けを求めてないのに颯爽と駆けつけて助けに来てくれたのに、助けを求める今は無視ですか、そうですか……

 

 ……仕方ないよね、エイナさんの顔見たら無理だよね、だって般若みた――

 

 肩をがっしり掴まれた。

 

「ちょっと、詳しく話、聞かせて貰って良いかしら?」

 

「アッ、ハイ」

 

 

 

 

 この後、めっちゃ説教された。


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