魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
森林の上空、と言うとおかしいか。森林の上を飛ぶキューイの足に掴まって下を見回す。
所々水晶の突き出た鬱蒼と生い茂る森林地帯。上空にはガン・リベルラなどの飛行能力を持つモンスターが飛んでいたりするが、特に此方を襲ってくる様子はない。
地上の木々に生えた果実を探しているっぽい?
「ベルはここら辺にいるの?」
「キュイ」
うぅん。水浴びに飛び込んできたベルがそのまま全力逃亡してしまい、覗き犯をボコる為にベルを囲もうとしたロキファミリアの女性団員を振り切ってしまったのだ。
んで飛行能力のあるワイバーンを借り出して『ベル・クラネルを捕まえてきてくれ』と頼まれたので断るに断れずにこの安全階層を飛び回る羽目になっているのだ。
ちなみにベルが覗きした原因は神ヘルメスにあるっぽい? 木の上に居るところをアスフィさんが指摘した結果、見張りの女性たちによって引き摺り下ろされて逆さ吊りにされてタコ殴りにされていた。
一応、ベルは神にはめられただけっぽいとはいえ、一応覗かれたという事実もあるので捕まえてこなければいけない訳だ。
「キューイ、何処?」
「キュイキュイ」
足元に居る。って言われてもなぁ……。枝木の天蓋によって地上が全く見えん。声を上げても届かないだろうなぁ。
んむ? あぁ、近場に水場があるっぽいな。其処だけ天蓋が途切れてるっぽいし一度そこに降りて歩きでベルを探すかな。
キューイに指示を出してその水場の所に着地するべく近づこうとした所でキューイが慌てて翼を羽ばたかせて────突然、マジックシールドが粉々に砕け散り、キューイの右翼の皮膜にぽっかりと穴が開いた。
「は?」
「キュイッ?!」
モンスターの攻撃っ!? さっきまで何もいなかったはずだろっ!?
ガサガサと枝木をへしゃげ折りながら落ちるさ中。キューイが下敷きとなってくれたおかげか怪我らしい怪我はない。地面に叩きつけられたキューイがクルクルと目を回している。
やばい、マジックシールド一撃で粉砕する遠距離攻撃持ちのモンスターとかヤバすぎる。周囲を見回しつつも息をひそめながらキューイの体を引っ張る。
近場の木の根に隠れつつも周囲を窺っていると、バタバタと誰かが駆け寄ってくる音が聞こえた。
「今の音は……」
「ベル?」
「ミリア? どうしてここに────ひぃっ!?」
やってきたのは白髪の少年。ついさっきまで探していたベル・クラネルその人だったのだが、唐突に両手を上げて硬直してしまう。俺の後ろに誰が────ひぎゃっ!?!?
長く尖った耳、肉付きの薄い体。細い肢体を晒す全裸の女性、その両手に持たれた武骨な投擲用の短剣だけが鋭利で物騒な輝きを灯していた。その瞳に映る色合いは『警戒』と『殺意』。
振り返ったそこにいた女性の姿に俺も思わず両手を上げた。
「……ミリアさんにクラネルさん? それとキューイですか」
怪訝そうな表情を浮かべたリューさんがすっと身を隠して此方を窺う。瞬間──ベルが目にもとまらぬ速さで土下座、の様なモノを披露した。本場の土下座と比べると多少不格好ではあるが。
「…………すっすいませんでしたぁああああああ」
「あの、えーと、ごめんなさい」
俺も頭を下げると、リューさんは困ったような表情を浮かべて視線を逸らした。
リューさん曰く『近くにモンスターの気配を察知したのでナイフを投げて打ち落としたらミリアさんとキューイでした』との事。
近くを飛行するモンスターに気付いて気配を消してたけど、離れる気配が無い処か近づいてきたので危険と判断して対応したら、俺とキューイでしたと……。
んで近くで何かが落ちた音がしたので気になったベルが様子を見に来た所にリューさんまでやってきて────今日一日でベルはいったい何人の女性の裸体を眼にしたんだか。
隠す気配の無かったアマゾネス二人の肢体は余す所無く見た事は確かだろうなぁ。後ヘスティア様とリリ、あの二人は確信犯……か? リリの方は驚き過ぎて硬直してただけっぽいけど、ヘスティア様は確信犯だろうなぁ。
「此方こそすいません。まさかキューイとミリアさんだとは……お怪我はありませんか」
「いえ、キューイの翼に穴が開いた以外は特に……」
キューイ本人は特に気にした様子はない。と言うかもう再生が始まってるので十分ぐらいしたら完治するだろう。……再生能力高すぎひん?
「そうですか。それでお二人はこんな奥地まで何をしに?」
「えっ!? そ、その、ですね、えーと……」
経緯について説明すると色々アレだな。女性たちの水浴びを覗きに行って見つかって、逃げ出した先でリューさんの裸体を堪能しましたーって相当アレだぞ。運が良いなベル。
たどたどしく自分の経緯を話すベル。嘘は一つも混じっていない本当の事を話している。普通に聞かれたらなんだそりゃって反応になるだろうし、軽蔑されかねない事柄のはずだが、それでも嘘一つ無く自分の事を話せるのは凄いな。
「なるほど、クラネルさんの事情はわかりました」
「許してくれるんですか……」
「貴方には非がありません。私が責めるのはお門違いでしょう」
「僕が嘘を吐いてるとは……?」
ベルが嘘ねぇ。むしろこの状況で嘘一つ無い言葉を放てるベルが嘘吐くってのは考えづらいよなぁ。
「クラネルさん…………謙虚なのは美徳でもあるのでしょうが、自分を貶めるような真似はやめなさい。貴方の悪い癖だ……ミリアさん、貴方にも言っているのですが」
どうして途中でこっちに飛び火するんですかね。自分を貶める発言なんて────滅茶苦茶してますね? うん、反省します。
「それで、ミリアさんの方は?」
「神に嵌められて水浴びの覗きに加担させられた挙句、見つかって逃げ出して此処までー。っていうベルを私がキューイと一緒に探してました」
んで、森の木々が邪魔で降りれないから、近場にあったぽっかりと空いた空間、水場の所に着地しようと近づいたらなんか察知不可能な攻撃が飛んできて打ち落とされたと。
「なるほど、おかしなモンスターだとは思いましたがそう言う事でしたか」
水晶と木々の間を慣れた様に歩いて行くリューさんの後ろに続きながら、俺とベルは顔を見合わせる。
野営地まで送ってくれるそうだが、どっか寄り道するらしい。
「あっ、遅くなっちゃいましたけど、わざわざ助けに来て頂いてありがとうございました。こんな所まで…………」
「そういえば、わざわざ助けに来てくれたんですよね。ありがとうございますリューさん」
ミアさんが凄く怒りそうなモノなんだが。大丈夫なんですかね?
……リューさんの顔色が若干悪くなった辺り、割と怒られることさせてしまったらしい。
「気にしないでください。それに遠からずこの階層に足を運ぶ用事もありました」
気を使っている訳ではなく、本当に用事があるらしい。元冒険者だって言う話だし────仲間の遺影でもあるのかも知らん。
「神ヘルメスから私の話は聞きましたか?」
「いえ、何も……」
「特には聞いてないですね。強いて言うなればミアさんにどやされるのも厭わずに駆け付けてくれたってぐらいですが」
今回の同行してくれた経緯は聞いたが、それ以上は何も聞いていない。特に過去に関しては────あの店の店員は何かしら裏がある人が多そうだし。おちゃらけた態度のアニャクロエの二人も何かありそうだしなぁ。特にクロエさん、あの人暗器使いなのか何処からともなく鉤爪みたいなナイフ取り出したり、気配が消えうせたりすることあるし。
……いや、アーニャさんも何かモップを短槍みたいに扱うし、ルノアさんの拳はヤバい威力だし。厨房の調理人達もいつの間にか気配無く背後に回り込んだりしてくるときあるし?
あの店の人たちってやっぱり訳ありなんだろう。そういう意味ではシルさんは一般的な戦闘力しか持ち合わせて────もしかしたら猫被ってる可能性もありそうだけど、その事に言及するとヤバそうだしね?
「私の素性を知る者が現れたなら、いずれ貴方達にも知られるでしょう。……自らの口で話せなかった事を、後悔したくない」
身勝手ですが聞いてくれますか、かぁ。本人が納得してるのならそれでいいと思う。こっちは聞きに徹するだけだしね。
リューさんの口から語られる過去については、まぁ……否定できないというか、何とも言い難い気持ちになった。というか
経緯としてはリューさんが復讐をしているさ中に闇派閥にかかわりを持っていた幾つもの商会が合同で報復を恐れて出した賞金だったのだが、その後の調べでガネーシャファミリアが叩き潰したらしい。
……フレイヤファミリアからの
元が善性の、正義を掲げたアストレアファミリアの眷属にして、常に身元を隠して行動する謎の覆面冒険者。【疾風】とはそういう人物であったと、別に復讐する事を否定はしないし、俺が言える事は何もない。
俺だって似たようなモンだろ。元はゲーム好きの一般人、糞女の所為で詐欺師に、その女を見殺しにして────あ、俺って残った糞女の伝手使いまくってたじゃん。報復として潰すでもなく手足の如く使ってたし。吐き気する屑じゃん。
歩みを進めるさ中、辿り着いた場所は水晶と木々に囲まれた猫の額程の小さな広間。中央に盛り上がる土の中央には朽ちた旗。描かれていた筈のエンブレムは読み取れない程に朽ち果ててしまった旗の成れの果て。
周囲を囲む様に突き立てられている様々な武器。戦斧、杖、曲剣、長剣、短剣、刀、弓、細剣、杖、大剣。
過去に存在したアストレアファミリアはダンジョン内で罠に嵌められ、リュー・リオンを残して全滅。
主神はオラリオの外に逃がされ────逃がした理由は女神の身柄を守る為ではなく、これから下劣な行為に及ぶ己を見て欲しくない為であったらしい────復讐に囚われた元正義を掲げた冒険者は、復讐鬼へと堕ちた。
その復讐劇は凄惨に過ぎた。関係を持った者まで殺し尽くさんとする狂おしい憎悪に塗れた、下劣な行い。
自らの胸に宿る憎悪を晴らさんと、ただひたすらに
途中から自分でもおかしいと気づきながらも、それでも途中で止まれなくなったリュー・リオンの最期。
冷たい雨の降る、人気の無い裏路地。対象が雇っていた護衛の反撃を受けて傷ついた身のまま、次の復讐対象を頭に思い浮かべようとしても、全く出てこず。これで復讐は終わったのかと自問自答を繰り返すさ中に感じた
復讐したはずなのに、どれだけ殺しても胸にぽっかりと穴が開いた空虚感だけしか残らない。狂おしい程の激情が抜け落ちた結果────生きる気力も失った。
自分でもわかる程に自分の行いが愚かだったと気付いて、此処の暗く、冷たい裏路地で朽ち果てる姿こそ自分にふさわしいのだと目を閉じた所で────シルさんと出会った。
「それで豊穣の女主人に……」
「はい。ミア母さんは全てを知った上で、受け入れてくれました」
冒険者時代において常に覆面を被っていた事が幸いし、髪を染め、【疾風】の名を捨てるだけで隠れる事が出来た。顔を知る者が居ないからこそ、それが可能だった。
「……耳を汚す話を聞かせてしまって、すいません」
「そっそんな……」
「詰まる所、私は恥知らずで、横暴なエルフという事です」
そうかな。そうは思わないが。リューさんが恥知らずで横暴だというなら、俺はどうなるんだか。
「お二人の信用を裏切ってしまうような」
ベルが拳を握り締めている。俺は────どう言えばいいのかわからん。
「リューさん。……
リューさんの台詞まんまだね。まぁ
「これは、一本とられましたね」
振り向いて優し気な笑みを浮かべたリューさんの顔を見て、肩を竦めた。
「私が何を言ってもブーメランなので、私からは何も言えないですね」
でも────俺なんかよりよっぽど
「ミリアさん?」
「ミリア?」
ベルの怒ったような表情が、此方に向いた。けれども、厚顔無恥な行動をとっているのはリューさんだけではない、俺も同様だ。
「リューさんは、私の過去についてはご存知ですか?」
「…………店で、【
初めて豊穣の女主人に出向いた日。【
元は、憧れのあの人の子として在った温かな日々。糞女が全てを打ち壊して何も出来ずに引きずり込まれたドロドロに濁り切った人を騙し、陥れる塵屑に劣る下劣な日常。
いつの日にか
そして────唐突にやってきたその日常の終焉。
しょうもないミスからの、報復による糞女の死亡。目の前で殺される糞女を、笑うでもなく、嘆くでもなく、雇った殺し屋に『依頼取り消しするから取り消し料いくらになる?』って電話してたんだ。
一言、たった一言『あいつらを片付けろ』と言えば、救えたはずの命。恨みもあったし憎んでもいた、けれどもあの場において感じたのは、脱力感だった。
その後に俺がとった行動は、復讐に燃えるでもなく、すっぱりと足を洗うでもなく、惰性で人を騙し陥れる日々。屑に堕ち切った俺は、既に抗う気力も、光ある
そんな俺からすれば……復讐ですら高等な行為だと思うのだ。殺し屋すら雇って殺す寸前にまでいっておきながら、『まだ早い』『明日には』『あと数日待ってくれ』と依頼を先延ばしにしていたぐらいだし。
────殺しても死ななそうだなって思ってはいたけれど。
「結局、私は崖から落ちて意識を失うまで……ヘスティア様やベルと出会うまでずっと、人を騙す事をやめられませんでしたよ」
────『ミリカン』のサービスが終了していなくて、自分がかつて使用していたアカウントが抹消されていなかった事に気付いて、飛びつく様に『ミリカン』を再開したりはしたが。蛇足、だろうなぁ。
『ミリカン』の公式大会。優勝者には
まぁなんでもって言っても
あの公式大会で優勝した者はこれまで『ミリカン』制作者代表の白野氏と直接会話し、ゲーム内に実装してほしい物なんかについて話し合う事が出来た。
例えば────フェアリー型のキャラ全員に超ごっつエロい
他にも様々な願いがあったが、その殆どがゲーム内に反映されて実装されていた。
ミリア・ノースリス用のエロい
他にもなんか
まあいくらなんでも
まぁ、其処ら辺の
俺も優勝すれば、あの人と会えるって意気込んで────五年かかって優勝までこぎつけたのは良いが。その頃には老衰であの人は死んでいたって訳だ。笑えるわ、もっと早く普通に正面から会いに行けばよかったものを。
「ミリアさん、貴女は自己否定の気が強すぎる」
「いや、リューさんに言われたら立つ瀬がないんですが……」
リューさんも大概じゃない? 俺も大概だけどさ。ベルが怒った様にじーっと見つめてくるのに対して、肩を竦めるぐらいしかできない。
怒るのもわかるが、こればっかりは……ね。やっぱ、根本の所にある過去の一連の流れは、否定できない。
「ミリア、僕は────」
「でも、こんな私でもベルは
「────うん」
ミリア・ノースリスであるが、過去は変えられない。否定できない。過去があるから今が在る訳で……だからこそ。俺は手を差し伸べてくれた二人に何かをしたい。
薄汚れた、人を騙して手にする汚れたモノじゃなくて、自分の手で生み出したなにかを残したい。
「こんな私でも
ヘスティア様もそうだし。ベルだってそうだ。俺みたいなリューさんと同じ、それ以下かもしれない屑に堕ちていても、手を差し伸べてくれた人がいた。その手を取れた。
過去に想い馳せるのは仕方ない。俺だっていまだに気にしてしまう事がある。だからこそ、できうる限り前を向く。
「豊穣の女主人、良い所じゃないですか」
あの場所があるなら、リューさんは一人じゃない。
俺もヘスティアファミリアがあるからこそ、一人じゃない。
「それじゃダメですかね」
「それは……そうですね」
苦笑を浮かべたリューさんの表情。
「クラネルさん、貴方は優しい。ミリアさん、貴女は汚れてなんていない」
汚れてない、は言い過ぎだ。過去を否定は出来ない。あの頃の自分は本当に汚い人間だった。人に相対した時に『騙しやすそう』とか『こいつは面倒そうだ』とか評価下してた事があるんだぞ。まあ、わざわざ口にして否定すると今度こそベルが怒るからしないが。
「貴方達は尊敬に値します」
尊敬される程の人物じゃないさ。やりたい事を見つけて、それに手を伸ばしてるだけでね。
悩みばっかり抱えて、どうすりゃいいのかわかんなくてあっちこっちふらふらしてる迷子の子供。
大人ぶった考えは出来ても、感情が子供っぽいのはヘスティア様とベルの影響か、それとも……あの人から引きはがされたあの日から全く成長できていなかったのか。
「其処まで言われると照れますね……」
「
なぁキューイ、今お前なんて言った? 下らない事ってお前さぁ……。竜にはわからんよなぁ。
お気に入り3000超え記念(OVA回まで早く書きたいだけ)
Q.ミリカンの公式大会ってどんなん?
A.一対一のルール。
ガンスリンガー形式の予選から、トーナメント形式の二回戦に進出する形。
Q.強キャラ・弱キャラの差が激しそう
A.バランス? なにそれおいしいの? な運営なので強キャラ・弱キャラの差は激しいです。
Q.フェアリー・ドラゴニュート『ミリア・ノースリス』は強キャラ?
A.サポート系のドリアード型を除けば下から数えた方が圧倒的に早い。ぶっちゃけ浪漫キャラ。