魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
昨日のベルの覗きの一件は全て神ヘルメスが悪い。と言う結論に至った、と言うかそれで誰しもが納得した。
普段の神の行いからして、神ヘルメスが悪道へとベル・クラネルを落とす為の傍迷惑な
後、ベルにはとりあえず見知らぬ神……いや、例え知り合いだったとしても
一人一人、覗いた相手に土下座して回ってたし、わざわざあの場に居た俺にまで謝罪に来るとは……俺の事見てなかったよな? 別に悔しくはないが、かといって謝られてもって感じではあった。
男性団員、えっと親衛隊? なる謎の組織がアイズさんやティオネさん、ティオナさん等の幹部陣の裸体を覗いたベル・クラネルに報復せんと動こうとしていたらしいがアイズさんが説得してくれたおかげで事無きを得たとか、いろいろな事があった訳だがそこらへんは全て解決済みだ。
んで問題は、其処じゃないんだ。全く違うし関係ないというか……ただの嫉妬に狂う狼さんがですな。
「こんの兎野郎ッッ!! よりによってアイズを覗いただとッ! テメェッ、俺にも出来ねぇ事やりやがってぇッ!!」
片付けをし始めたロキファミリアの野営地の中心部。これから出発するらしい先行組が武装などを準備している所を見ていた
…………ただの嫉妬だよなぁ。覗きたきゃ覗けよ、嫌われても知らんがな。
覗きする勇気────勇気じゃなくて蛮勇か────も無いのに人に文句言うなよ。……いや。人としては正しいんだけどね?
少なくともヘスティア様含め数多くのロキファミリア団員等から厳重注意されてんだからもう許してやってくれないかね。
懸想してる相手の裸体見られたからって……そんなに怒るか? ……普通は怒るのか。
「うるさいなー、もういいの」
「ヘルメス様が全部悪いって事で話はついたでしょ」
「放せバカゾネスッ! っていうか何でアイツは此処に居んだよっ」
「ベトベトしつこいわよ」
「そだぞー」
さしたる第一級冒険者の狼人も、アマゾネス二人がかりには勝てんか。ズルズルと引きずられていくベート・ローガの姿を見送っているとアイズさんがやってきた……遠くの方のレフィーヤがメロメロになってるように見えるんだが、何アレ?
ベルに気付いたアイズさんが足を止めた。剣と鎧を装備した完全武装状態を見るに、これから出立するっぽい?
「ア、アイズさん!」
「……ベル? ミリアも、どうしたの?」
今からモンスター、それも
「もう、行くんですか?」
「うん、先に出るパーティに組み込まれたから」
ロキファミリアクラスの大きさの遠征隊ともなれば、その人数はかなりの数に上る。
ダンジョンの通路等の中には比較的広い場所なんかも存在するが、下に進むための
他にもあまりにも大人数で動くと単純に
と言っても中層の中間地点である18階層までの話で、19階層以降は一塊で動くらしいのだが。
……いずれ、ヘスティアファミリアも同じように遠征を行うのだろうか。だとするなら今の内から技術や遠征行動を学んでおくべきか?
「あ、あの……気を付けてください」
気落ちした様な、彼我の差を見せつけられてやるせない気持ちになりながらも、早く追いつかなくてはと言う焦燥と憧憬に身を焦がすベルの姿。そんな姿見せつけられたらこっちも焦る。また跳躍して何処か遠くへ行ってしまいそうだ。
「……君も、気を付けて」
口元をほのかに綻ばせて笑みを浮かべたアイズさん。心配されて悪い気はしないらしい。
自分の実力に自信がある者というのは心配されると怒るっていう者も居るが、アイズさんは別らしい。むしろ心配される事を喜んでる?
「ミリアは?」
「んー、たかが上級冒険者なりたてが第一級冒険者にかけられる言葉なんてそんなにないですけど……」
あー、これ頼むのってどうなのかね。でも、今の俺の実力じゃ返り討ちに遭うのが関の山だし少し頼んでおこうかなぁ。
「そうですね。出来るならば
「……? 何かあったの?」
「そりゃ追いかけられて酷い目に遭いましたからね……」
いずれ、自分であの顔を吹き飛ばしてやりたい所ではある。が……いつになる事やら。
頷いたアイズさんがまたねと小さく手を振って去っていくのを見送る。姿が見えなくなるまで見送ってから、ベルの袖を引いた。
「私たちも準備しましょう」
「うん、そうだね」
その憧憬の瞳は、いつも遠くを見ているなぁ。飛翔する様に進む姿は見ていて凄いと焦がれると同時に、追いかける身からするといつ追いつく事が出来なくなるのか少し不安になる。
リヴィラの街の物価は阿呆みたいに高い。まぁこんな危険地帯で取り扱う消耗品だ、高くて当然だと思う。
ぼったくりだなんだと言ってはいるが、需要と供給の関係がある以上仕方ない事だ。
「そら、ミリアも貸せ」
「おねがいします」
俺の銃剣型の杖と言う変わった武装をヴェルフに手渡す。作成者はヴェルフなのだが、やはり変な表情を浮かべている。
砥石やその他武装整備用の道具を使って手慣れた様に銃剣部分の刃を研いでいく。刃先の部分が欠けているのに気付いたヴェルフが口をへの字に曲げて呟いた。
「あー、欠けてやがる。地上に戻ったら作り直した方が良いな」
「他の部分はどうです?」
「そうだな、此処の部分の耐久が気になるな。要求通りに
一見、ライフル銃の様な見た目に、銃剣を装備した様な杖。ヴェルフに無茶言って作って貰ったが鍛冶師からすると不満点ばかりらしい。まぁ、彼の作品のほとんどは実用性重視だからか、装飾の様にもとれる
「ま、地上に戻ったらもっと改良したのを作ってやるさ」
「それは頼もしいですね」
本当に設計図を渡してから作るまでが早い上に、要求通りの形に仕上げてくれるヴェルフには頭が上がらん。
とはいえ作り直すならまたキューイに血を頼まないといかんなぁ。
「結局、道具は『リヴィラの街』で買ったのか?」
「……いや、
桜花の質問に苦々しげに答えるヴェルフ。
ヴェルフの同僚、と言うか先輩? の椿という名のハーフドワーフの鍛冶師の女性。オラリオ最高峰の鍛冶師とヴェルフが知り合いっていうのには驚いたし、俺がヴェルフに作って貰った武装に興味深々で弄り回そうとしてきたりして面倒だったし、『ヴェル吉』等と言う呼び方でヴェルフを弄っていたので苦手意識があるのだろう。
俺も正直あのノリは少し苦手だ。距離感ガン無視で一気に詰め寄られるからどう接して良いのかわからん。
「所で、ヘルメス様とアスフィ殿は?」
「せっかくだからまだ観光していく、だそうです。リリ達は先に帰って良いとアスフィ様が疲労の濃い顔で伝えにきました」
……神ヘルメス、か。色々と探ってきていたし、あの手の神って神話通りに面倒な『試練』を人の子に与えてたりとかしそうなんだが。なんか企んでそうで怖い。特に、夜間に抜け出して行ってたのは気になるんだよなぁ。
リューさんの方は適当に一人で帰ると言っていたので心配はないが。
ロキファミリアから借りた天幕を覗き込むが誰も居ない。首を傾げつつも外でヘスティア様を探してるベルの方に声をかけた。
「こっちにも居ないわ」
「何処に行っちゃったんだろう……」
ヘスティア様が居ない。
帰還の準備を終えて皆で集まろうという話になり、ミコトと千草が桜花を探しに行き、ヴェルフとリリが荷物の片付けを、俺とベルでヘスティア様を探しているのだが……。
見当たらない。ベルがステイタスを更新したテントの中にも、野営地の中にも。
「野営地から出るとは考えにくいんですけど」
いくらなんでもモンスターうろつくこの階層でヘスティア様が一人で行く訳無いしなぁ。其処ら辺ちゃんとわかってるだろうし。だとしたら何処に?
周囲にある天幕も殆ど片付けられて残ってないし、残ってるも天幕も今まさに解体中だ。木々も生えているがヘスティア様が隠れられるほどじゃないし、このタイミングでわざわざかくれんぼなんてしやしないだろう。
二人がかりで探しても見つからんってのは困るな。ロキファミリアが残っている手前、キューイとヴァンを動かすのもアレだしなぁ。
「キューイ、ヘスティア様何処に居るか探してくれません?」
「キュイ? キュイキュイ」
んむ? あっちの方?
17階層に繋がる道とは真逆の方向に首を向けて『あっちに
「キュイ?」
さぁ? いや、待て。キューイ、其れは知り合いか? 違う? なんで止めなかったっ!? 糞っ! ロキファミリアの目があって動けなかった、って仕方ないっちゃ仕方ないが、ヘスティア様が攫われんの知ってて動かなかったのかよっ!?
「ミリア、どうしたの?」
「ベル、大問題が起きました……ヘスティア様が何者かに攫われたみたいです」
「え?」
誰だ、誰がヘスティア様を────待て、モンスターに警戒する為に歩哨を立てているロキファミリアの野営地から、誰にも気付かれずに神一人を攫う? どうやって?
「ベル、きな臭いです。とりあえずあっちの方の探索を、私はロキファミリアに話を通してきます」
慌てたベルがヘスティア様の名を呼びながら走っていったのを尻目に、近場を歩くロキファミリアの団員に声をかけるが────やはり、警戒は怠っていなかったらしい。神が攫われたと伝えると眉を顰めつつ『在り得ない』等とのたまいやがる。
「悪いが、他の派閥の神が攫われたとして────
あぁ、わかってた。ロキファミリアの責任とは言い切れない。あくまでも“天幕を貸し与えた”だとか“物資の提供を行った”だとか、その程度の間柄。身柄の安全は自分たちで確保するのが当然なのだから。
「ヘスティア様捜索の為にキューイとヴァンを動かします。文句はないですね?」
「……好きにするといい」
承諾は貰った。ロキファミリアの目がある以上動かせなかった二匹を使って────にしてもベルが戻ってくるのが遅い。何か見つかったら戻って来る様に伝えたんだが。
先程ベルに調べる様に行った野営地の外れまで走っていけば────誰も居なかった。
「キューイ、ベルは?」
他の誰かに伝えに行った? それはない。少なくとも俺が一番近い位置にいたはずだ、なのに俺を無視してリリやヴェルフの所に向かう理由がない。
「キュイ」
行った? 何処に? 一人で? 一人、ひとり……まさか、ロキファミリアの警戒網を抜けてヘスティア様を攫って、ベルをおびき出す────ヘルメスとアスフィだ、あの二人しかありえない。 神のいたず……ら?
…………キューイは
糞、決めつけるのは早い。とりあえずあの二人に連絡──キューイ、飛べるか? ベルを追う。近くに誰か──桜花っ!
大柄な男性、桜花が素振りをしているのを見つけた。とりあえず桜花に『ヘスティア様が攫われた事』と『ベルが一人でおびき出された事』を伝えて、『俺はベルを追う』ことも皆に伝える様に一方的に言い含めてからキューイの足にしがみつく。
「キューイ、とりあえず最優先はベル。ヘスティア様は神だから、危害を加えるのは無いと思う。けどモンスターもうろついてるから急いで、ヴァンは全力で追いかけてきて」
人の子が神に手を出すのは殆ど在り得ない。時折
とりあえずその威力抑えめのピストルマジックで撃ちまくろう。殺してしまった場合、ファミリア同士のトラブルに繋がりかねない。ただでさえ所属してるのが上級冒険者2人しかいない最下級のファミリアでしかないヘスティアファミリアだ。ファミリア同士のトラブルになったら目も当てられん。
死なない様に注意はしてやるが────
いくらベルの敏捷が高くとも、空を飛ぶキューイが追い付けない程ではない。
……いや、追いつくのに結構時間がかかった時点で相当アレなんだけどね? それにヴァンが完全に追い付けずにおいてきてしまった。一応、此方の位置は把握しているっぽいので後から合流するはずだ。
ヴァンの敏捷もそこそこ高い気がするんだが、ベルは本当に別格過ぎるな。
中央樹の周囲をすさまじい勢いで駆けているベルの姿を見つけて声をかけてなんとか足を止めさせた。
「ベルっ!」
「ミリアっ、神様がっ、僕一人で一本水晶の所まで来いってっ」
ベルが手に持っていた紙切れ。
内容は『【リトル・ルーキー】女神は預かった。無事に返してほしければ中央樹の真東、一本水晶まで一人で来い』って……うぅん? 真東? ダンジョンの中で方位磁石が役に立たないのに方位で説明すんなよ……。
いや、中央樹の外周を走り回れば見つけられるっちゃ見つけられるけどさ。
「今すぐいかないと!」
「ベル、落ち着いて」
「でも神様がっ」
落ち着け。こういう時こそ一度落ち着いて行動すべきだ。
普通の地上の人間なら間違いなく女神を傷つけるなんて恐れ多くてできない。中には『やんちゃ』な奴らも居るが、そういうのはイヴィルスとかいうのに所属する者ぐらいで、こんな目立つ真似はしないはずだ。
それよりも心当たりはないか。誰かと言い争いをしたとか、リヴィラの街で喧嘩吹っ掛けたとか。
「えっと……豊穣の女主人で『パーティに入れてやる』って言ってきた冒険者の人たちと会ったけど」
「…………上級冒険者? 嘘でしょ、ロキファミリアの警戒網を抜けるなんて無理だし、誰かが手引きする────ヘルメスか」
「ヘルメス様?」
ベルは何の疑いももっちゃいないのか。少しは疑う事を覚えた方が良い。神ってのは娯楽の為なら自分の眷属を地獄に突き落とす事だって平然とする。当然、他の神の眷属だって娯楽の為なら滅茶苦茶にする神も居るって話も聞くし。
神ヘルメスが手引きした可能性が非常に高い。
タケミカヅチファミリアの人たち、ミコト、桜花、千草の三人は少なくとも此方に危害を加える真似はありえないし、ヴェルフとリリも裏切るなんて事は絶対にない。
このタイミングで別行動してる時点でかなり怪しいぞ、神ヘルメス。
「私とキューイ、ヴァンでヘスティア様を保護してから援軍に向かいますので、それまでは一人で耐えてください。出来れば時間稼ぎを────最悪、殺しても構いません。手を出してきたのは向こうですから」
序に神ヘルメスも探すか。どっかで高みの見物してるなら────遠くから威嚇射撃だけぶち込んでやる。
「殺っ!? いや!? 殺すのはやりすぎじゃっ」
「ヘスティア様を攫う不届き者に慈悲は必要無いわ。それに私が優先するのはヘスティア様とベル、貴方達だから。最悪の場合は殺すわ」
ヘスティア様やベルが死にかねない場合は、容赦なく殺すぞ。ファミリア同士のトラブルになれば不利なのは此方だが。手ぇ出してきたのは向こうだ、もしもの時は徹底抗戦してやる。最悪、俺一人で相手ファミリアと刺し違えるぐらいはするぞ。
神ヘルメスはアスフィ・アル・アンドロメダの守りがある以上難しいだろうが、たかが上級冒険者程度なら遠くから『ライフル・マジック』で仕留められる。
「それでもっ、殺すのはダメだっ」
…………。優しい、と言うよりそれは“甘い”だけだ。その甘さは命取りになりかねんぞ。
あぁ、糞、ベルが殺しに反対なら仕方ないか。
「わかった、殺しはしない。でも手足の一本ぐらいは貰うのは許してください」
遠くから肩か、腿の辺りをぶち抜く。いや、中途半端なダメージは
「でも」
「此処で問答してても仕方ないので私はヘスティア様の保護に向かいます」
「ミリアっ」
問答する時間がもったいない。すぐにヘスティア様の保護、それからベルの援護────高みの見物してたらヘルメスに威嚇射撃もぶち込まなくては。
桜花は皆に情報を回してくれただろうか。もし情報を正しく共有してくれたなら、此方を捜索し始めるはず。
リューさん辺りを引き込みたいが探す時間がない。次はヘスティア様の保護っ!
従えてる飛竜の能力。
A~Fの六段階
『キューイ』
近接能力 E→E
耐久力 D→C
敏捷 B→A
《魔法共有》《索敵》《炎無効》《飛行》
・備考
ブレス攻撃特化。魔法共有によってミリアの扱う魔法も使えるが威力は低くなりがち。近接能力は低めで耐久も実はそこまで高くない。飛行能力を含めた敏捷は高めだが活かすには広い空間が必要で活躍の場が限られる。
成人男性一人程度であれば空輸可能。ミリアの様な小柄な人物ならそれなりの高機動で動ける(なおミリアが耐えられない為振り落とされる模様)
封印解除する事で全能力が大幅に上昇するも、近接能力は上昇無し。
SSRよりは
『ヴァン』
近接能力 A→A
遠距離《ブレス》 F→F
耐久力 C→B
敏捷 B→B
《忠実》
・備考
耐久そこそこあり近接戦闘能力特化。
遠距離攻撃に難あり。忠実に命令に従い主人の身を守ろうとしてくれる。
しかし特殊攻撃は一切無く、
封印解除する事で耐久が一段階上昇するが、それ以外に変化は少ない。
ぶっちゃけ特徴不足のシンプルなタイプ。ソシャゲならギリギリ