魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
ヘスティア様はすぐに見つける事ができた。
ベルが向かった一本水晶、そのすぐ近くにある崖の下の森の中。木に縛られたヘスティア様とそれを見張る二人の冒険者。あいつら見た事あるぞ、酒場で絡んできた阿呆の仲間だった奴。
森の中を姿勢を低くしながら駆けていれば、簡単に見つけられた。隠蔽も何も施さずに、ヘスティア様を木に縛り付けるだけ。モンスターうろつくこのダンジョンであんな風に縛り付けられる危険性を何も考慮していない阿呆め。
木々が邪魔で狙撃しにくいが────頭、じゃない、腕、でもない。足だ、足を撃つ。
「『ピストル・マジック』……」
いや、待て。今のクラスチェンジはファクトリーだ。なら『麻痺弾』や『睡眠弾』なんかが使える。
《耐異常》で防がれる可能性を考えて『衝撃弾』も用意しとくか。
クラスチェンジを行った事により、《魔導》によって俺の足元に映し出された魔法陣が邪魔臭い。隠密に不向き過ぎるだろうに……。それだけにとどまらず
俺の足元に生み出された魔法陣は大円の中に六つの小円が均等に並んでいる。知識のある者ならすぐにわかるだろう、まるで
「『
装填する度に、六つの小円に光が灯る。傍から見れば残弾数を足元に表示した阿呆である。
勘のいい奴が見れば一発で露見する弱点だ。
それに加えての装填の遅さ。特殊な魔弾が使えるっちゃ使えるが…………。勘の良い奴や察しの良い奴相手には使えんなぁ。
「『
足元の魔法陣、シリンダーに六つの光が灯ったのを見つつも相手を伺う。どうやら警戒らしい警戒は一切していないらしい。キューイ、一応回り込んでくれ。
貫通弾は念の為だ。もし麻痺弾も衝撃弾もダメだった場合は……頭を撃ち抜く。それで即死しなきゃ困る訳だが……。
ベルに嫌われる云々以前に、ヘスティア様に二度と会えなくなるなんてごめんだ。
中央樹の東の森、水晶は少なく茂みが広がっている一本の木の下にヘスティアは縛られていた。
見張っているのはヒーターシールドとモーニングスターを持つ男と、小剣を持つ身軽そうな男。そしてこの場に居ないモルドと言う男。
不可視化を可能とするマジックアイテムを保有した彼らが【リトル・ルーキー】、ベルに対する『指導』をする為に誘き出す目的の為に攫われたのだ。
「この縄を解け!」
「ぎゃーぎゃーうるさい女神様だ事」
「元気が有り余ってるみたいだねぇ」
じたばたと暴れるヘスティアを眺めつつも、二人は退屈そうに溜息を零す。
「しっかし、本当に暇だ」
「俺達も上に行きたかったよなぁ」
「ぐぬぬ、『指導』なんて訳の分からない事にベル君を巻き込むなーっ!」
縄を軋ませて叫ぶヘスティアに対して二人は眉を顰めて顔を見合わせた。
「面倒だし、気絶させとく?」
「神を殴るって?」
「っ!」
凶悪なモーニングスターを見せつける様にヘスティアの前に突き付ける。怯んで口を閉ざしたヘスティアを見ていた男が面倒臭そうにつぶやいた。
「大人しくしてりゃ乱暴はしませんよ」
「そうそう、だから大人しく────ひぎぅっ!?」
パァンッと言う乾いた音色。木々の間をすり抜けて飛来した
「なっ!? てき────ひぎゅっ!?」
盾を構えた瞬間、盾の守りから飛び出していた足の部分を魔弾が穿つ。着弾と同時に火花が弾けてその体を麻痺させ、男は小刻みに痙攣しながら倒れ伏した。
「なっ!? 二人ともどうしたんだいっ」
唐突に倒れ伏した二人の姿にヘスティアが驚いていると、茂みを掻き分けて一人の小人族の少女が呆気にとられた様な表情のまま現れた。
「えぇ、思ったより効果的じゃないですか。なんていうか、もうこれ一本に絞ってた方が楽だったのかも」
「ミリア君っ!」
古びたローブに皮ブーツ。左手の竜鱗の朱手甲がやけに目立つミリアが倒れ伏した男に近づいてその背中に
「『ファイア』『ファイア』」
響くのはパンパンという乾いた音色。倒れていた男達がカエルが潰れる様な声を出して気絶したのを確認してから、ミリアがヘスティアに近づく。
「助けにきました。ヴァンがもうすぐ到着しますんでヘスティア様はヴァンと一緒にキャンプ地に戻ってください。私はベルの方の応援に向かいますから」
落ち着いた声色でこれからの予定を口にする姿にヘスティアが一瞬眉を顰める。
「この子達は放置していくのかい?」
「……
非常に嫌そうな表情を浮かべてミリアが気絶した二人に吐き捨てる。
えぇ、ヘスティア様もかよ……。予想外に簡単に仕留めれたのでこのままヘスティア様をヴァンに保護して貰って帰還させて、俺はベルの方に行きたいんだが……。
「申し訳ないのですが、ヴァンに三人を護衛させるのはちょっと……無駄が多いと言いますか」
「…………わかった。ごめん、無理を言ったね」
危害を加えてきたとはいえ、
とはいえ本当に保護する余裕はない。念には念をで気絶させたが……モンスターに食われたら、まぁ自業自得って事で諦めとけ。俺を恨むなよ?
一応、茂みで隠れる様にはしといてやるけどさ……。
木々を掻き分けてヴァンが追い付いてきたのを確認してから、ヘスティア様に向き直る。
「では、私はベルの方に向かいますので。ヴァン、ヘスティア様を護衛してキャンプ……いえ、リリ達と合流してください。探しに来てくれてるはずなので、当然ですがヘスティア様に怪我なんてさせない様にしっかり護衛するように」
俺はキューイに飛んでもらってすぐにベルの方に向かわないと───なんか上の方から歓声が聞こえる。ベルも其処に居るらしいが、
「ミリア君、気を付けてくれ。相手は『
「了解……最悪、殺しますが」
ヘスティア様は殺す事に関してはどう思ってるんだ? 流石にベル君みたいに『殺すのはダメ』とか言われると非常に困るんだが。
「……積極的に殺すというのは良くないけど、非常時なら仕方ない」
「わかりました」
よかった。ヘスティア様まで不殺主義だったら流石にきつい。
一方的な戦いが繰り広げられている水晶の決闘場を見下ろしながら、ヘルメスは眷属の批難の声を浴びていた。
「悪趣味ですね……面白いですか。こんなものをみて?」
「きついなぁ、アスフィ」
高い崖の上から見下ろす二つの視線の下。ベルが透明状態となっているモルドによって一方的に痛めつけられ、その様子を興奮の雄叫びを上げて観戦する無法者達。
「ベル・クラネルに何か恨みでもあるんですか」
「んー、むしろ俺なりの愛かな? ベル君は人間の綺麗じゃない部分を知らなさ過ぎる。悪趣味でもなんでも知ってほしかったのさ」
決闘場にて今まさに踏みつけられているベル────モルドの姿が不可視な為、ベルが地面に倒れているだけにしか見えない────それを見下ろしながらヘルメスは
「人の一面を────ま、娯楽が入っている事は否定は────」
ヘルメスが気楽そうに肩を竦めようとした瞬間。彼の帽子が吹き飛んで宙を舞う。
遠くに響く甲高い
「…………」
「ヘルメス様、今のは……」
「いやぁ、どうやら相当怒らせちゃったみたいだ」
ヘルメスが手に取った帽子。
その帽子に空いた三つの風穴を通してヘルメスの橙黄色の瞳が小型の飛竜の脚にしがみついて中空を行く小人族の少女の姿を捉えた。
「なぁ、アスフィ」
「なんですか、ヘルメス様」
「……彼女と同じこと、出来る?」
「無理です」
彼女からの無言の警告にヘルメスが頬を引き攣らせて呟いた。
「いや、彼女は本当に恐ろしいね」
崖の上から悠々と見下ろす
小さな台地。多少の凹凸は見て取れるが、殆ど気にならない程度。
平地と言ってもいい7M程の広さの一段隆起した舞台。まるでステージの様にも見受けられる其処にベルは居た────と言うかベルしか
「キューイ、位置はわかります?」
「キュイキュイ?」
むしろわかんないの? だってよ。キューイ相手だと不可視化って意味無いっぽいな……とはいえ俺から見るとベルが一人で勝手に転げまわっている様にしか見えん。狙撃しようにも難しいか。
……突っ込むしかないな。ヘスティア様の安全は確保してきたし、後はもう知らん。麻痺弾ばら撒きながら突っ込もう。
「『
観客として雄叫びを上げているのは総勢二十人ほどの上級冒険者。九割が近接系、一割が魔法系と言った感じか。見た目からの判断だがどうだ、魔法使いっぽいのは三人しか見えん。
ん? あの坂を駆けあがってきてるのは────ヴァンの合流に時間をかけすぎたか、もしくはヴェルフ達が早かったのか。ヴェルフと桜花、ミコト、千草が武器を手に駆け上がってきているのが目についた。良い感じに攪乱するか。ベルの方は不可視の敵相手に防戦一方とはいえ戦えている。むしろ見えない敵相手に防戦を続けられるのは凄いな。もう少し耐えてくれ、ヴェルフ達の方が数的に不利過ぎる。援護しないとレベル1のヴェルフが危険だ。リリの姿が見えないのはヘスティア様の方に行ったからか?
観戦していた上級冒険者の最後尾。飛来した矢を叩き落として後方より迫る【リトル・ルーキー】の仲間の姿を視認した者達が各々の武器を引き抜いた瞬間────連続する乾いた音色と共に体を痙攣させながら倒れ伏した。
「なんだっ!」
「おいっ! あいつら毒なんか使いやがったのかっ!?」
驚きの声を上げる上級冒険者達。【タケミカヅチ・ファミリア】が毒物などを使用するタイプのファミリアでない事は周知されている為、不自然に倒れた仲間に警戒を強める彼ら。
それに対して桜花達も眉を顰め────ヴェルフが空を駆る翼を指さした。
「ミリアだっ」
「上から援護するわっ」
にこやかな笑顔を浮かべながら、緋色の小飛竜の脚にしがみ付いて宙を舞うミリア・ノースリスの姿を確認した無法者達が声を上げた。
「【ドラゴンテイマー】だぞっ」「飛竜を連れてやがるっ」
「射落とせっ!」「魔法で打ち落としちまえっ!」
魔法使いが各々構えをとり詠唱を始め、弓を持つ者が矢を番えるが、それより早くミリア・ノースリスの放った魔弾が降り注ぐ。
「『ピストル・マジック』『リロード』『ファイア』『ファイア』ッ」
「ぐぁっ」「あいつ、詠唱が早ぇ」「だが威力は低いぞっ!」
弓を手にした者に的確に魔弾が降り注ぎ、弓を破壊して攻撃手段を失わせる中、魔法使いの詠唱が完了したのか空を駆るミリアの方に魔法を発動しようとして────ヴェルフの
「『燃え尽きろ、外道の業』」
『ウィル・オ・ウィスプ』が発動し、今まさに魔法を発動せんとしていた三人の魔法使いを強制的に
強制的に爆発させられた冒険者が口から煙を拭きながら黒焦げになって倒れ伏す。
「おかしな魔法を使う奴が居るっ」「あいつから潰せっ」
ヴェルフに迫ろうと冒険者二人が足を踏み出した瞬間、無数の魔弾が降り注いで出鼻を挫く。
「糞っ」「さっさと【ドラゴンテイマー】を仕留めろっ!」
「弓が全部壊されちまったっ!」「魔法も無いぞっ!」
遠距離攻撃を真っ先に潰され、空を舞うミリア・ノースリスを仕留める手段を失った無法者達が次々に沈められていく。
ある程度数は減ったか。
空を駆けながらの射撃。威力低めで撃った所為か舐められまくったが、かといって無視できる威力ではないという微妙なラインを狙ったおかげかこっちを警戒して桜花達がやりやすくなったはずだ。
ベルの方は────ナイフ二本で相手の剣をへし折ったらしい。くるくると宙を折れた刀身が舞っていた。
「でぇやぁっ」
「がああっ!?」
回し蹴りがヒット。頭部に装着されていた兜状の
キューイ、其処の水晶の辺りに下してくれ。
「ぎッ、ぐがぁ……クソガキがぁぁぁっ……」
「其処までにしてください」
撃つぞ。それ以上ベルに攻撃するなら。撃つ。
今まさにベルに飛び掛かろうとしているモルドに
「それ以上、余計な事をすると撃ちます」
「ぺっ、黙ってろっ、竜が居なきゃ何も出来ないガキがっ! 撃ちたきゃ撃てっ、どうせ大した威力なんてねぇ癖にでけぇ口叩いてんじゃねぇぞっ」
ベルがナイフを構えたままモルドを睨み、モルドが俺を警戒しつつもベルの方に向いたままこちらに怒鳴ってきやがった。おいおい、あんま嘗めるなよ。
「私の魔法の威力、大したこと無いって言ってましたかね」
「あぁ?」
「『ショットガン・マジック』『リロード』……そうですね、この水晶とか良い感じそうです」
人の胴よりはるかに太い水晶。丁度よさげな所にあったのでキューイに近場に下して貰ったのだ。
先程までの魔法は加減していた。威力は低く、貫通力も下げて、詠唱の精度を落として、消費が少ない代わりにモンスターなんて殆ど殺せやしないちんけな威力の魔法としか見えなかっただろう。
「『ファイア』」
響き渡る破砕音。砕け散った水晶の欠片がキラキラと舞う中、唖然とした表情を浮かべたモルドの方に再度
「こんな威力ですけど────こっちがお好みでしたか?」
「ひぃっ」
柄だけになった剣を取り落として後ずさるモルド。そんなに怯えんなよ……、つか周りの冒険者も皆こっち見てるし、なんだよそんなに驚いた表情してどうしたよ。
「皆さんも、此方がお好みでしたか?」
「はんっ、あんなのただのはったりだっ」「パルゥム如きが舐めやがってっ」
挑発に対する反応は芳しくない処か、火に油を注いだようになってしまった。
まぁ、火に油を注ぐと言っても
「『ファイア』『ファイア』『ファイア』」
連続する破砕音。近場にあった水晶を次々に粉々に粉砕して周辺にキラキラとした水晶片が舞う。水晶片が足元の魔法陣の光を受けて輝き、眩しいぐらいだ。
今まさに剣を持ってこっちに突撃をかまそうとしていた冒険者も含め、全員が完全に止まった。
「もう撃てないとでも思いますか? 試してみます? 誰からいきましょう?」
お前か? お前でも良いぞ。其処の黒焦げの魔法使いでもいいな。
次々に
剣戟の音が静まった空間。ようやく一息つける感じか? ……ベルの怪我も気になるんだがなぁ。
「邪魔なので、どっか行ってくれません?」
「…………」
モルドは俯いたまま動かない。其処まで怖がらせた積りはないんだが。
執拗な打撃を受けたベルの傷も気になる。唇でも切ったのか血が出てるんだ、早い所回復してあげたいのに、こいつが居る所為で無理じゃ────俯いていたモルドが雄叫びを上げて突っ込んできやがった。
「舐めてんじゃねぇぞぉおおおおおおおおおおおおおおっ」
……舐めてるのは、どっちだよ。
あぁ、もういいだろ。ベルが一発やり返したっぽいからそれで許してやろうかと思ってたが、ダメだな。
距離はかなりある。相手が此方に辿りつくより先に、殺せる。
「『ピストル・マジック』『リロード』……『ファイア』」
放たれた魔弾が描く軌跡。
手加減なんて一切していない。鉄製の鎧を一発でぶち抜ける威力はある。外す軌道ではない。
ベルを痛めつけたんだ、本当はさんざん痛めつけてから殺したい所だが、一撃で楽にしてやるなんて
────俺の
外す、なんて考えつくはずがない。外れる訳が無い、その一撃が────弾かれた。
真っ直ぐ突っ込んでくるモルドを追い抜いた白い影。ベルが間に割り込んで魔弾を叩き落とし、同時に背後から迫るモルドの剣を受け止めて鍔迫り合いを始めた。
「がああああああああああああっっっ!!」
「あああああああああああああっっっ!!」
おい、なんだそりゃ。モルドは今まさにベルに救われたんだぞ? なのに全力で鍔迫り合いしはじめて────少しずつだがベルを押し込んでいく。折れた剣の先が頬に触れてベルの頬に切れ込みを入れ始めた。
呆気に取られてしまったが、このままだとベルが競り負ける。横槍と言われようが知らん。元々が人質を取る形での卑怯な行いをしたのは相手だ。殺す。
「……はぁ、『ファ────」
「ダメだっ!!」
────は?
「殺しちゃダメだっ!」
「リトル・ルゥゥキィィィッッ!!」
ギリギリギリッとナイフと折れた剣が火花を散らす中、ベルが叫ぶ。
「ミリアにはっ、人を殺してほしくないっ」
何を、言ってるんだ。殺すな? この期に及んで? 馬鹿なのか? これだけの状況で突っ込んでくる阿呆を殺すなと? 無い、其れは無いぞベル。
「『ファイア』」
「ぐぁっ」
「っ!」
モルドの足を撃ち抜く。
モルドが姿勢を崩した事で鍔迫り合いに競り負けかけていたベルが一気に押し返してモルドが倒れ込んだ。
「ベル、其処をどいて」
「……ダメだよ」
で、ベルは俺とモルドの間に割り込んで片膝を突いたモルドを庇い始めた。
なんでそうなるんですかね。
「どいて、って言ってるんだけど」
「もう、モルドを攻撃する必要はないっ」
片膝を突き、痛みに青褪めた表情を浮かべているモルド。ベルをさんざん痛めつけたんだから自業自得な訳で、しかも降伏勧告を無視したんだから、別に殺したって構やしないだろ。
「ベル」
「ミリア、もうこれ以上はやりすぎだよ」
やりすぎって……。
周囲を見回せば、いつの間にかリューさんが参戦していたのか周りの冒険者は一人残らず意識を刈り取られていた。残るのは片膝を突くモルドのみ。
怪我らしい怪我をしているのはベル一人、あとはヴェルフが背負っていた布の塊が無くなっているぐらいか?
リューさんや桜花、ミコトや千草なんかがこっちを見ていた。
「ベル、退いて、そいつが殺せないわ」
「ミリア……」
「ヘスティア様を攫って脅迫する真似をしたのよ。ベルを傷つけたのよ? 傷つけられたのよ? なのに、ダメだなんて意味がわからないわ」
その頬の傷は痛くないのか?
その唇から流れる赤い血は?
痛々しく張れた頬は?
土に塗れた鎧は?
相手が先に手を出してきたのに、やり返すのはダメなのか?
「どいて、そいつは殺すわ」
「ミリア殿……」
モルドの奴は青褪めた表情でベルの背中を見上げてるし、意味わかんない。
「ベルはそれでいいの?」
「うん」
「傷つけられたのに?」
「それでいい」
「許せるの?」
「許すよ」
そっか、そうなのか。ベルは本当に優しいなぁ。甘ったるいぐらいに甘い、理想的な人だ。
けれども、そうじゃないんだよ。
「そっか、じゃあどいて」
「ミリアっ」
「ベルは許した。
ヘスティア様を攫った。
ベルを傷つけた。
報復するには十分すぎる理由がある。
「悪いのは、そいつでしょう? 唆されたのかもしれない、けど
ベルは許すんだろう。甘くて優しいベルなら許せる。
ヘスティア様も、許すんだろう。神として人とは違う目線を持つからこそ、ヘスティア様は許す。
────でも俺は許せそうにない。
「どいて、そいつを殺せないわ」
「ミリア、もういいよ」
「私は良くないっ」
頼むから退いてくれ。なんで邪魔するんだ。その優しさは、そんなのに向けるもんじゃないだろ。
「僕は────
「やーーーーーめーーーーーろーーーーーーーっ!!」
ヘスティア様の声が響き渡った。
ヘスティア様のすぐ後ろにヴァンが不機嫌そうな表情でリリを背中に乗せていた。ヴァンに運んでもらったらしい。
「ミリア君、それ以上は
…………。
「そうだよ、だからやめよう」
…………甘い、甘いんだよ。だって────
「うぉおおおおおおおおっ!!」
折れた剣を手に、モルドがベルの背中を狙った。片足で地を蹴り、
こうなる、こうなるから嫌なんだ。だから────殺した方が楽だってのに。
驚いたベルは反応が遅れている。桜花達も予想外だったのか援護が間に合わない。
だから殺したかったのに。ベルを避ける様に
「────止めるんだ」
ヘスティア様より放たれる神威。下界の者を平伏させる神の威光。
頭を垂れざる負えない
モルドが勢いを失って地面に倒れる。
神威が満ちた事で気絶していた冒険者達が跳ね起きる。
「皆、剣を引きなさい」
維持していた魔法が解ける。────神の威光に耐え切れずに膝を突いた。
冒険者達が逃げていく。モルドも、その仲間も、ヘスティア様を攫い、ベルを傷つけた憎き敵が逃げていく。
許せる、憎い相手を許せる。その精神は理解しがたい。けれども尊敬できる。尊敬できるが、こんな形は嫌だ。
ゴールデンウィーク始まって────気が付いたら日付が三日経ってるとか笑えない。
outwardとかPreyとかやってたらいつの間にか時間がめっちゃ経ってた……。
大変遅れてしまって申し訳ない。休みだからと調子乗ってたら予想以上に時間の経過が早かったというか、時間感覚壊れてたというか……って、今午前4時前ぐらいっ!?
もう昼夜逆転処の話じゃないですね(白目)