魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第八十六話

 俯いたまま動かない小さな────小人族の中でもとりわけ小柄なミリアを見下ろしながら、ベルはどうすればいいのか迷っていた。

 ベルはモルドを庇った。自身を傷つけた小悪党と呼べる彼を庇う真似をした。

 本来なら、ミリアの様な反応が正しいのかもしれない。けれども、もしそれをさせてしまったら取り返しのつかない事になってしまうかもしれない。そんな風に感じた。

 皆が心配そうに駆け寄ってくる。けれども誰も口を開かない。

 冒険者が居なくなり、森には嵐が過ぎ去った様な静けさだけが残った。

 

「ねぇ」

 

 最初に口を開いたのは、ミリアだった。俯いたまま、震える声で、怒気を含んだ色合いで、彼女は呟いた。

 

「なんで止めたの?」

 

 顔を上げて立ち上がり、ベルを睨む。小柄な体躯とは思えない圧を放ちながら、怒りの表情でベルを強く睨む。

 

「あいつらに慈悲をかけるって? 馬鹿じゃないのっ!」

「それはっ、ミリアに殺させちゃダメだって思って」

「二人とも落ち着くんだ」

 

 横から静かに歩んできたヘスティアは二人を交互に見てから、頭を下げた。

 

「これは僕の不注意の所為だ。ごめん」

「なんで、ヘスティア様が謝るんですか。そもそも……神ヘルメスがこれを仕組んだんでしょうっ!!」

 

 ミリアの言葉に誰しもが驚きの表情を浮かべる。助けの手を差し伸べてくれた彼の神がこの一連の出来事を仕組んだ。そう言い放つ彼女の言葉。それに対してヘスティアは困ったような表情を浮かべる。

 

「……ヘルメスなら、やりかねないね」

「ヘルメスは敵なのか?」

「見るからに胡散臭い神でしたしね」

 

 ヴェルフとリリの言葉に全員が頷き返す中、ミリアが言葉を続けようとして────足場が揺れた。

 否、階層そのものが揺れている。

 

「じっ地震っ?」

「いえ、これは……」

「ダンジョンが震えているのか……?」

 

 千草、ミコト、桜花が足元を見下ろしながら狼狽える。

 

 

 

 

 

 揺れている。揺れている。ぐらぐらと振動する大地に足をとられそうになり────一番近くに居たベルに腕を掴まれた。

 大きくなる振動。揺れる木々の騒めきはさらに大きくなっていく。不自然な大地の震動。

 

「これは……()()()()()

 

 リューさんの懸念の呟きが響くと共に、振動はまるで脈動と紛う揺れへと変貌していく。

 異常事態(イレギュラー)の前触れ。静かだったキューイがヤバいヤバいときょろきょろし始め、ヴァンは静かに呟く。

 

 

《不味いぞ主。刺客だ、殺意の権化だ、理性亡き怪物が生まれる》

「なんだ、あれ……」

 

 天井を見上げたヴェルフの呟き。天井一面にびっしりと生え茂り、十八階層全域を照らす数多の水晶。その内の太陽の役割を果たしていた中央の白水晶の中で巨大な何かが蠢いている。

 まるで万華鏡のように、水晶塊の中を黒い影が蠢き、黒い影を降り注がせる。薄気味悪い模様を彩るソレは、一際大きな振動と共に水晶塊に亀裂を生み出す。

 

()()……っ!? モンスターっ!?」

「ありえません……此処は安全階層(セーフティポイント)なんです!?」

 

 亀裂を中心に水晶が砕けて降り注ぐ。煌びやかとは言い難い輝きを持つ水晶が中央樹周辺に降り注ぐ。

 ミコトの言葉にリリが悲鳴を上げる様に叫ぶ中、ヘスティア様の声が響く。

 

「おいおい……まさか僕の所為だって言うのかよ」

 

 ヘスティア様の所為? それはどういう意味だろうか。それよりも異常事態(イレギュラー)だ、逃げ────響く崩落の音。洞窟の入り口のあった方面から断続的に響いていた。

 キューイ、入り口は? 塞がった? 逃げ道は? 中央樹から奥の階層に────阿呆か、十九階層以降なんて神を守りながら進めるなんて思えん。

 

 水晶を突き破ったモンスター。黒い色合いだが、間違いなく階層主(ゴライアス)であるそいつは、頭だけを水晶から突き出した。

 十八階層の天井から生首が生えたように現れ、次いで肩が、そして腕までも引っこ抜く様に水晶を砕きながら生まれていく。半身が天井より生えた所で────階層そのものを揺るがす大咆哮を放った。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

 産声と言うには不吉過ぎる、殺意と憎悪に塗れた階層主(ゴライアス)。通常主とは違う、間違いなく亜種であるその化物は、十七階層と言う定住の場を離れ、安全階層(セーフティポイント)に産まれ落ちた。

 水晶を砕きながら上半身を露出させたゴライアスは、身を引き抜くと同時に重力に従い落下する。

 砕けた水晶塊が、細かな煌めくモノから、人を容易に圧し潰せる巨塊までもを引き攣れて落下するソイツは、空中で器用に一回転し、直後に爆音を響かせて直下に存在した巨大樹をその二本の大足で踏み潰した。

 階層内に存在する冒険者もモンスターも問わずに耳に響く巨大樹の悲鳴。下の階層に進む道となっていた樹洞は完全に圧し潰され、それどころか樹そのものが半分ほど地面に埋まり、太い幹がひしゃげる。

 さらに追撃と言わんばかりに中央樹周辺の草原に大小さまざまな水晶が降り注いだ。

 明かるい光を届ける太陽の役割をしていた白水晶は砕け散り、階層からは明るさが消えうせた。無数の罅の入った青水晶のみが天井に残る十八階層は、まるで月夜の晩の様な蒼然とした暗闇に包まれる。

 

 一連の出来事に対する感想を言うなれば────日食の様だなと感じた。

 先程俺達から逃げ出した冒険者、モルド達が襲われている。それは、別に構わないのだが、問題はその黒いゴライアスの動きだ。

 機敏だ、あの巨体に見合わぬ機敏さを以てして冒険者達を蹂躙している。それだけならいい、冒険者の何人かの散発的な反撃を無視して大盾を構えた冒険者を殴り飛ばす。ずっしりと腰を据えて受け止めようとしたドワーフらしき人物がまるで玩具の様に跳ね跳んで森の中に消えて行く。

 所々で立ち上がる火は、ヘルハウンドのもの。他にもミノタウロスにアルミラージ、ガンリベルラ、バグベアー、黒いゴライアスの咆哮に反応する様に一斉に動き出したモンスター。まるで従う様に、ゴライアスの元へ集い、冒険者を蹂躙していく。まさかモンスターを従える能力まであるのか?

 

「……はっ、早く助けないと!?」

 

 は? おいっ!

 

「ベル、待ちなさい」

「ミリア……」

 

 助ける? 襲われてるあいつらを?

 

「ベル、落ち着いて考えてくれませんか?」

 

 此処であいつらを助ける必要はあるか? 否だ、断じて否である。

 どうしてかって? 俺が手を下せばファミリア間のトラブルになる。それは避けるべき事だ。しかし、考えても見て欲しい。

 ────あいつらがモンスターに殺されるのは自業自得な訳で、見捨てても文句なんて言われない。

 むしろ、此処で見殺しにしておけば誰にもいちゃもんはつけられず、ファミリア間のトラブルにもなり得ない最上級の解答だとは思わないのか?

 

「私達が手を下すまでもなく、モンスターが始末をつけてくれるんですよ? どうして助ける必要があるんですか?」

 

 まさにお誂え向きな状況じゃないか。手を下すまでもない。このまま放っておけばアイツらは全滅。俺達はあいつらを囮にリヴィラの街の戦力と合流。俺達だけではどうにかならんが、あの街の奴らと合流すれば勝ち目がある()()()()()()

 

「でもっ」

「クラネルさん」

 

 静かに、リューさんがフードの下からベルを見つめた。

 

「私は、ミリアさんの意見に賛成だ。それは恨みから、ではない。此処に居る戦力を見た上で、助けるというのですか?」

 

 此処に居る戦力。上級冒険者はベル、俺、桜花、ミコトの四人。第二級冒険者でリューさんが、敵か味方か不明のアスフィも含めれば一応二人。後は駆け出しの鍛冶師、サポーター二人の計三人。足手纏いの神が二人。

 しかも普段からパーティを組んで連携を育んだ訳でもない臨時パーティでしかない。

 対する相手は推定レベル4以上の能力を持つ階層主(ゴライアス)

 飛竜二匹が居ても無理だろう。キューイは能力的に俺の一つ上、レベル3程度が限界。ヴァンの方は元がインファントドラゴン、能力的にはレベル2の上位程度。勝つ負ける以前に足止めすらままならない可能性が高いのだ。

 

「…………」

 

 助ける以前に、こっちが全滅しかねないんだぞ? 死ぬ可能性が高いんだぞ? 十七階層で通常の階層主(ゴライアス)に襲われて、何も感じなかったのか?

 

「助けましょう」

 

 あぁ、なんで、こうも……優しい、甘っちょろい人なんだろうか。

 騙そうと思えば、ころっと騙せる。甘いものが苦手な癖に、凄く甘い性格をしてる。襲われたのに、それでも助けると選択してしまうその甘さ────俺がベルの好きな所はソコだ。其の甘さだ。

 あぁ、糞……。

 

「クラネルさん、貴方はリーダー失格だ」

 

 パーティを危険に晒す。戦力差を考慮できない大馬鹿野郎。こんなのがリーダーやってちゃいつか必ず潰滅するだろう。だというのに────

 

「だが、間違ってない」

 

 ────その()()()に何処までも惹かれてしまうのだ。

 

 

 

 

 

 驚きの表情を浮かべたベルに微笑を残し、リューは森から駆け出していく。彼女は一人いち早くモルド達の元へ向かっていった。

 残ったベルがミリアに顔を向けた。俯き、怒りに震える彼女にどう声をかけたら良いか迷い────ミリアが口を開いた。

 

「キューイ、『解き放て(楔を壊せ)』」

 

 ミリアの傍に控えてきたキューイが光と魔法陣に包まれて()()()()()()()()()

 体長は凡そ3M程、5Mに届きうる両翼を大きく広げて甲高い咆哮を上げたキューイを見上げながら、ミリアはゆっくりとした動作でベルに振り向いた。

 

「私は、助けたいとは思えない。ヴァン『解き放て(枷を壊せ)』」

 

 淡々とキューイとヴァンの封印を解き、本来の姿へと戻していく。深紅の翼を広げ、ベルを見下ろすキューイ。灰色の竜鱗の鎧を纏い、ベルを()()()ヴァン。二匹の竜を従えたミリアは静かに、その瞳に怒りを宿しながら呟く。

 

「ですが…………今は一人でも多くの戦力が欲しい。だから助ける。あんな()()()()()肉壁ぐらいにはなってくれるでしょう。無為に消費されるのは勿体無いでしょうから」

 

 酷く冷たい声色で、戦力として彼らを加えると()()()()したミリア。

 決して、『優しさ』や『甘さ』、『お人好し』で人を助けるのではなく、冷たい計算の上で『助ける』のだと言い放ち、ミリアはキューイの背に飛び乗る。力強く翼を広げ、キューイが飛び立つ。声をかける間も無く、ミリアは爆音と悲鳴が響き渡る階層中央部。雄叫びと共に巨人が猛る戦場へ身を投じた。

 

 

 

 

 

 光源であった白水晶を失い、蒼い薄闇が落ちる十八階層。

 西部の湖沼、島の上に位置するリヴィラの街からもその光景ははっきりと見えていた。

 

「なんじゃあ、ありゃ……」

 

 階層中央付近の草原地帯において漆黒の巨人が暴れ回っている。凄まじい叫び声はこの街にまで届き、崖際の広場に自然と集まった冒険者達の耳朶を打つ。

 安全階層(セーフティポイント)に階層主が生れ落ちたという特級の異常事態(イレギュラー)に、保身に長けているはずの彼らですら呆けた表情で立ち竦んでいた。

 

「────ボールス! ボールスッ、いますか!」

「ア、アンドロメダ!? お前、いったい何処から現れやがった!?」

「ボールス、街の冒険者とありったけの武装、道具を集めなさい、あの階層主を討伐します」

 

 リヴィラの街の冒険者の中でも実力者、買取所の主人にアスフィはヤケクソ気味になりながら指示を出す。眼帯をしている主人は慌てて唾を飛ばす。

 

「馬鹿言うなアンドロメダッ、アイツはただの階層主では────」

「退路はっ、既に絶たれました! 南の洞窟は崩れ、中央樹は見ての通り。私達は事実上この階層から脱出不可能です!」

 

 口答えを許さないと言わんばかりのアスフィの反論に目を見張る眼帯の主人。土煙が上がる南の方角に振り向けば、大量の土煙が上がっている様子が確認できた。

 

「じ、時間を稼いで洞窟を掘り返しゃ……」

「笑えない冗談ですね。此処からでもわかる程に盛大に崩落している洞窟を、再開通させるまでにどれほどの時間がかかるんですか? 半日、それとも丸一日? 貴方の言う時間稼ぐ者達が蹴散らされるのとどちらが早いか、見物ですね」

「……オ、オレ達が全員出張らなくても────おい、なんだありゃ」

 

 さらに反論を繰り返し、アスフィの機嫌を損ねようとした眼帯の主人が唐突に中央部の草原地帯で暴れ狂う漆黒の巨人の方を指さして呟く。

 

「さっさと冒険者と物資を集め────

 

話を逸らされて苛立つアスフィが更に言葉を重ねようとするも、冒険者達が漆黒の巨人の方を指さし始めた。

 

「赤い飛竜だ」「インファントドラゴンも居やがる」「階層主と戦ってる?」

「っ! あれは────【竜を従える者(ドラゴンテイマー)】っ!?」

 

 漆黒の巨人の周囲を飛び回り、次々に火砲の様なブレスを浴びせかけていく全長3Mに届きうる飛竜。その背には魔法陣(マジックサークル)を展開しながら小人族の少女がしがみ付いている。

 次々に浴びせかけるのは飛竜が放つ火砲のほかに、背にしがみ付く小人族の放つ魔法が漆黒の巨人の体表に弾けて消えて行く。

 足元に群がるモンスターはインファントドラゴンがその4Mに届きうる巨躯で────ゴライアスの前では対照的に小さく見えるが────蹴散らし、踏み潰し、蹂躙していく。

 

「あのまま時間稼ぎしてくれりゃ……」「化け物同士で潰し合ってくれれば」「あの飛竜ならそうやすやすとやられないし」

 

 連続する火砲の爆炎に包まれて苛立った叫びをあげる漆黒の巨人。振るわれる巨腕を潜り抜ける様に回避した次の瞬間には放たれた火砲がゴライアスの顔を穿つ。血化粧を施しながら戦う飛竜の姿に冒険者達が逃げる算段をつけはじめ────次の瞬間、蒼い炎が弾けた。

 

 

 

 

 

 キューイ、腕の攻撃が来る。回避しろ。

 ヴァン、お前は冒険者を踏み潰さない様に適当に注意しろ。巻き込まない様にしろとは言わん。避けきれなかった冒険者が悪い。キューイ、火砲放て、顔だ。

 キューイの背にしがみ付きながら魔法を放つ。放つ、放って────面白いぐらい効果が無い。

 

「キュイキュイッ!!」

《主ッ! 攻撃が来るぞっ!!》

 

 ゴライアスが口を大きくあけて────咆哮(ハウル)

 『恐怖』を喚起し束縛する通常の威嚇ではない。魔力を込め純粋な衝撃として放たれる巨人の飛び道具。大地を大きく抉り、既に冒険者を数名戦闘不能に陥らせている。

 狙われたキューイは急に弛緩し、翼を大きく広げて舞い散る木の葉の様に風に流され────直撃した衝撃波によってぐるんと一回転した。危うく振り落とされそうになりながらもなんとかキューイの背にしがみ付く。

 

「キューイッ!! 振り落とされかねないので次はちゃんと回避してっ!」

 

 体重が軽いおかげか、それともキューイがそれなりに気を遣ってくれているからか、なんとかしがみ付いているが、魔法攻撃が一切通じていない。

 一番威力の高い『ライフル・マジック』ですら傷跡処か、着弾痕すら残せずに弾けて消える。その漆黒の表皮は高い魔法耐性を持って……いや、物理耐性もかなり高いらしい。キューイの炎でも火傷程度のダメージしか負わせられない。

 下を見ればベル達がモンスターを蹴散らし始めている。モルドは────チッ、死んでねぇのか。

 

キュイキュイ(どさくさに紛れて殺す)?」

《主、あの者は殺すか?》

 

 …………この場で殺せばきっとわからん。だが、ヘスティア様やベルの事を考えるとそれはできん。歯痒いがそれは無しだ。運が良いのか、悪運が強いのか、死者は思ったより少ない。と言うか片手の数で済んでいる。

 モルドの奴には真っ先に死んで貰いたかったが、運が良い奴め。

 漆黒の拳が空気を爆発させる。バァンッというすさまじい爆発音にも似た()()()()()()()。その威力を前にキューイが木の葉の様に舞う。むしろ抵抗して飛ぼうとした瞬間、その嵐の様な一撃で翼がズタズタに引き裂かれて墜落しかねない。

 とはいえ背中にしがみ付いている俺からしたら最悪も最悪。途中から魔法を放つ余裕は無くなり、背中にしがみ付くだけで精一杯だぞ。

 

「キュイ……」

《主っ!》

 

 唐突な叫び。天地がひっくり返ると共に、視界が蒼穹を連想させる焔に包まれる。

 何が起きて────炎だ、熱い、いや熱くない。助けてという叫び声が響いている。苦しい、辛い、痛い、重たい、助けてと甲高く、まるで黒板に爪を立てるかのような甲高い叫び声。

 キィィンッといういう耳鳴りすら伴うすさまじい絶叫。一瞬だけ視界が揺れ、気が付けばキューイの背から離れ、空中に投げ出されていた。

 

「なっ!?」

「キュイキュイッ!」

 

 ガシッとキューイが足で俺の体を掴む。瞬間、凄まじい暴風が荒れ狂い、キューイの足に掴まれたまま右へ左へ、上へ下へとジェットコースターにでも乗せられたかのような────ジェットコースターの方が遥かにマシだ。前に進みながら慣性に振り回されるんじゃなくて、それこそ全方位に無差別に振り回される様な暴風だ。

 暴風が終わった所で頸を抑える。痛めたか? ズキズキと首が痛む。

 

「キュイッ!」

 

 まただ、甲高い絶叫が響いてくる。『助けて』と、『苦しい』と、『重たい』と、『潰れる』と、悲痛に、苦痛に喘ぐ、絶叫。耳障りな程に甲高い、キューイの咆哮とは違った方向性を持つ、憎悪と苦痛に塗れた絶叫。

 耳を抑える事も出来ずに聞いていると────視界がぐにゃぐにゃと歪んでいく。明らかに何かがおかしい。

 

「キュイキュイッ!!」

 

 キューイの声、歪む視界が元に戻っていく。気が付けば漆黒の巨人から大分離れた所を飛んでいた。断続的に響く音と、ゴライアスに飛び掛かる冒険者達。いつの間にか増援が駆け付けて──まて、なんだ、記憶が抜けた?

 明らかに状況が変わり過ぎてる。何が起きてる?

 暴れ狂うゴライアス。それを取り囲んで冒険者が斬りかかり、大型の弩の様なモノで攻撃を繰り返しているが。まるで効果が無い。早く救援に向かうべきだ。

 後衛部隊が魔法詠唱しているみたいだし、其処まで援軍として──おいっ、早くあっちに戻れよっ!

 唐突な急旋回。足に掴まれたまますさまじい慣性に振り回された。おいキューイっ! なんでゴライアスから離れて────なんだアレ?

 

 水晶だ、水晶の塊が空を飛んで────長い尻尾、細く脆そうな胴体、透き通った蒼穹の体躯。結晶で形作られた()()()()()()()()()()()()()

 細い、どの部位も細い、キューイの様なしなやかさと言うよりは、やせ細った不健康そうな体躯をした飛竜だ。顎を大きく開き────甲高い絶叫を響かせる。

 

『キェエエエエエエエエエエッッッ!!』

 

 『熱い』『痛い』『苦しい』『潰れる』、まるで拷問を受けている者が叫ぶ様な悲痛な絶叫。黒板を爪で引っ掻いた様な声だ。『助けて』とも聞こえるが、意味がまるでわからん。

 だが、あれはきっと竜種なのだろう。見た目がやせ細った姿でも、どう見ても非生物の様な結晶の体躯をしていたとしても、声が聞こえるのだ。

 

「キューイ、さっさと片付けてください……」

 

 視界がぐにゃぐにゃと歪み始める────あの絶叫は不味い。何かわからんが、聞き続けたら()()()()()

 瞬時に反転。キューイの方が機動性が高いのか即座に相手に近づいて────翼を以て相手を打ち据えた。

 結晶はまるで硝子細工の様に粉々に砕け散る。見た目同様、その体は非常に脆いのか簡単に粉々に砕け散った。想像以下の耐久。絶叫が途絶え、キラキラとした結晶の粉をまき散らして結晶竜は死んで……。死んだ? 本当にか?

 

 キラキラと舞い散る結晶竜の残骸。落ちていくそれは唐突に燃え上がり()()()()()()()()()

 

 ────は?

 

キュイキュイッ(またダメだった)!!」

 

 また、またってなんだ。アイツは何なんだ? 飛竜だろ? 見た目は少なくとも飛竜だ、結晶の体を持つ飛竜。声が聞こえる。甲高い、助けを求め、苦しみに喘ぐ絶叫が聞こえる。()()()()()()()()!()?()

 

「キュイッ!」

 

 あぁ、嘘だろ。

 

 砕け散ったその結晶竜の破片は、蒼炎へと転じて一塊になって落ちていく。大きな蒼炎の球体に転じたそれは大地に叩きつけられずに地面から数Mの辺りで停止し───空中で停止した球状の蒼炎が弾けた。

 周りに青白い火の粉をまき散らし、先程と寸分違わない姿で結晶竜が蘇る。

 

 その様はまるで不死鳥(フェニックス)の様だ────キューイ、あれの討伐方法を教えてくれ。

 

キュイ(馬鹿じゃないの)!? キュイキュイ(知ってたらもう倒してるよ)!!」

 

 あぁ、うん。なんだあのモンスター、()()()()()()

 キューイ、いったん離脱────出来ん、黒いゴライアスだけでも手に余ってる様子なんだぞ。こっからこの結晶竜をあの前線に連れ戻るだって? あっちはあっちで何とかしてくれ。

 糞、ベル達は無事なのか? この飛竜は何だ? どうやって倒す────仕方ない、キューイ、俺だけを離脱させてくれ。時間稼ぎ頼む。

 

 不死系のモンスターなんて聞いたこと無いぞ、なんか弱点か攻略法があるはずだ。神ヘルメスとかアスフィ、もしくはリヴィラの街の冒険者辺りが知ってるだろ。そいつらから情報を得なけりゃはじまらん。




 ふと思った事『ダンまち×TS幼女』モノ増えてなくない?
 書き始めたきっかけってたしかそんな感じだったけど……全然なくない?
 少しあった記憶あるけど、エタってるっぽいし……?

 なんで増えてないんだろうね。

 設定考えるのが面倒? 割と適当に書いててもなんとかなりますよ。適当に書いてる私が言うんだ、間違いない()。

 なんならこの作品の設定使ってもオッケーですよ。『ミリカン』のキャラに転生だとか、本作主人公のミリアがロキファミリアに入団したIFを書いても別に構わんです。

 ちなみに私はIFとかは書かない。この作品書き終える前にIF√とか書いてたらエタる可能性高いし、まず完結目指します。

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