魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
蒼白い炎を撒き散らしては蘇生を繰り返す結晶竜。
飛び散る蒼炎によって十八階層は薄青く照らし出されていた。
苦痛の意味が篭った絶叫。砕け散るやせ細った体躯からは幾度目かの蒼炎がまき散らされていた。
キューイの背から落ち、茂みに飛び込んだ直後に蒼炎が周囲を包み込む。
『マジック・シールド』のおかげで難を逃れた、というよりはこの蒼炎は攻撃能力は極めて低いらしく『マジック・シールド』が殆ど削られない。
意味のわからないモンスターである。
「キューイ、時間稼ぎを────あぁ、とりあえず殺し続けてください」
いずれ削り殺せる……か? 蘇生にも限界がある、と信じたいモノだが。
激しく空中を舞うキューイ。その翼、尾が幾度となく結晶竜を砕き殺し、蘇生するさいの蒼炎がまき散らされる。
響く轟音。ゴライアスと戦っている冒険者達の奮闘の音も響いてくる。目を其方に向ければ今まさにゴライアスの背に無数の武器を突き立てる冒険者の姿が確認できた。
…………腕の一振りで全員吹っ飛ばされてるんだが。というかなんだ、上級冒険者が虫けらの如く吹き飛んでる。近づきたく────あの凄まじい勢いで動きまわってるのリューさんか。
「キューイ、ゴライアスには絶対に近づけないで」
あそこに炎まき散らす飛竜が突っ込んだら大惨事なんてもんじゃなくなる。近づけるなよ。
周囲に散る蒼炎。不思議な事に火の粉として舞い散っている。不自然に、不気味に水晶の周囲を舞っているし、触れると危なそうな気がする。勘というか、本能的な部分で『これはヤバいモノだ』と訴えかけてくる様な感覚。
出来る限り飛び散る蒼炎を避けながらゴライアスの方へ足を進める。
総勢数百名にも及ぶ冒険者の戦列。
もとより連携を捨て去り、各々が目の前の目標に適度に振り分けられた程度のモノの中、一際大きな巨体にてモンスターを薙ぎ払うインファントドラゴン。
その小竜の動きを見ながらボールスやリヴィラの冒険者は驚いていた。
「おいおい、テイマーが離れてるのに暴れる気配がねぇぞ」
「こっちを避けて攻撃してくれてんのか? こりゃやりやすい、あの小竜を盾にしつつ展開しろ」
「あっちから来るのは任せてよさそうだな」
後方に魔法使い達が集まり、詠唱の為の準備をしているさ中、前衛壁役としてゴライアスの動きを封じようとしていたアスフィはチラチラと爆ぜる蒼炎の方へ視線を向けて眉を顰めた。
「ミリアさんがあの結晶竜を止めてくれている様ですが……」
正確にはミリアの飛竜が、であろう。
ミリア本人は途中で気を失ったのか飛竜の脚に掴まれてぐったりとしている様子であり、インファントドラゴンの指示出しやその他連携について伝えたくとも出来ないという状況になっており、なおかつ未確認の新種である結晶竜についても気になる点は様々ある。
「ですが、今は構っている余裕が────ありませんねっ」
飛び退った瞬間に着弾する
不穏な気配を感じ取ったゴライアスが其方に注意を向けた瞬間にリューが連続で木刀にてその肉体を打ち据える。抉れ、飛び散り、無数の傷を生み出して即座に離脱した彼女は舌打ち交じりに悪態をついた。
「固い、それに動作も早い」
通常の
「【
「きやがったかっ! 早くあの竜を仕留めろよっ」
補給拠点らしき場所に転がり込んだ瞬間、冒険者に首根っこ掴まれて怒鳴られた。
取り囲む冒険者の顔に見覚えはない。というか【魔銃使い】より【
「ちょっと、放してくださいっ。というかあの結晶竜については私が聞きたいですよっ!」
中層にあんなモンスターが居るなんて聞いてないぞ。
「お前が召喚したんじゃないのか」「おいおい、どうなってんだ?」「
あの結晶竜について知ってる事は────ないみたいだな。糞、不死身の竜なんてふざけんなよ。キューイはさっきから『疲れた』だの『辛い』だの言ってるし。
あの結晶竜は相変わらず『助けて』だの『痛い』だの悲鳴上げてるし。なんなんだ。
「ミリア君っ」「ミリア様っ」
「ヘスティア様、リリも此処に居たのね」
どうやら無事な様子だ。安心すると同時に不安も生まれた。他の面々は何処だ?
「ミリア君、あの飛竜は?」
「わかりません。痛いとか苦しいとか叫んでますけど、キューイの攻撃で粉々に砕けてもすぐに元通りになるんです」
「……本体が別の場所にあるとかかな?」
本体が別の場所に────それならキューイが気付きそうだが。って、ヴァンの所の前線は安定してるが、ゴライアスの方の歩みが止まってないぞ。
「情報が欲しいんですよ、あのまま殺し続けても意味なさそうですし」
「僕はわからないけど……リリ君は知っているかい?」
「すいませんがリリにもわかりません。ですが、知ってそうな神は知ってます」
知ってそうな神?
「神ヘルメスです」
「やぁ、呼んだかい?」
飄々とした笑みを浮かべた神ヘルメスが気さくそうに話しかけてきた。お前、よく顔出せたな……。
「おっと、嫌われてるのはわかるけど、今はそんな事気にしてる場合じゃないだろう? あの結晶竜について知りたい事があるんじゃないかな?」
「ヘルメス、知ってる事を全部教えてくれ」
無言で睨むと神ヘルメスは肩を竦めた。良いからさっさと話せ────ゴライアスの方も気になる。
「さて、あの結晶竜。蒼い炎を撒き散らすアレについて、似た特徴の竜を知ってる。出現階層は中層」
ヘルメス曰く、とあるファミリアが中層の未調査領域へ足を踏み入れた際に出現したモンスターらしい。
唐突に現れて絶叫の様な咆哮を上げながら襲い掛かってきたそのモンスター。
やせ細った様な頼りない体躯の結晶で形作られた竜。
当時第一級冒険者も参加していたその未調査領域調査。そこで出会い────調査団は潰滅したらしい。
「いや、倒し方教えてくださいよ」
「ないよ」
は? いや、無いじゃないだろ。モンスターだろ?
「いや、だからね? 目撃例はその一件のみ。その際には今と同様、何度倒しても延々と蘇生され続けて撤退に追い込まれただけだよ。当然、討伐記録なんてありはしない」
つまり、今現在において倒し方不明の不死身のモンスターって事か?
「困った事に、ね?」
「ヘルメス、それはおかしいだろう」
「僕も伝聞でしか聞いたことが無いし、彼らが調べた未調査領域を後から何度も調べたけど何もいなかったし、それ以降確認も取れていない事からギルドでは『ダンジョン内における過重な
いや、いやいやいや。あれが幻覚? 冗談はよせよ。
「冗談じゃないよ」
……。あぁ、糞、黒い
いや、待て、とりあえず黒い巨人を仕留めるか。あっちは相当固いみたいだが、死なない訳ではなさそうだし。……殺せるよな?
キューイ、とりあえずそのモンスターの足止め。絶対にこっちに近づけるなよ。
────
激しく紅蓮の炎と蒼穹の炎がせめぎ合うのが遠くに確認できる。結構距離があるが、空を飛ぶ飛竜からすればこの距離はあって無い様なモンだし……。
「ヘスティア様、クラスチェンジを────スナイパーで」
魔法使いが集まって詠唱してるっぽいし、其処に参加して一撃であの巨人を仕留めて、続いて結晶竜を仕留める。仕留め方わからんとか泣き言言ってる余裕はないみたいだしな。
今から大急ぎで詠唱中の魔法使い達と合流してでかい一撃をぶち込めば良いか。いや、この場から撃つか?
「わかった」
ヘスティア様が背に触れる。温かな感触と共に服越しに魂を撫でられた様な感触と共に、クラスチェンジのタイプが変更された。
ステイタスの更新と異なり、簡素に終わるクラスの変更。終了と同時に背負っていた銃杖を構える。
ヴァンの方は、問題なさそうだ。クラスの変更、生えてきた獣耳と尻尾がうざったいなこれ。
神ヘルメスは目の前の光景に目を奪われていた。
ベル・クラネルに対する神の試練を与えた事。それに対するミリア・ノースリスの怒り具合。
彼女の底はとうの昔に知れていた。彼女は『英雄の器』とは程遠い人物であった。神ヘルメスはそう断じたし、同時に
魔法の扱いに関する才能は、きっと他の誰よりも高い。遠くから彼女の魔法が飛来した際にはアスフィですら反応できずに帽子を穿たれた。
もしその魔弾がヘルメスの脳天を穿っていれば、そう考えると空恐ろしいモノがある。
だがそれでも彼女に対する評価はそれどまりだったはずだ。
だというのに、今目の前で彼女は
「『スナイパーライフル・マジック』」
小柄な小人族の少女。身長は凡そ100C程度、パルゥムの中でも更に小柄な少女。今は魔法か、またはスキルの影響か
使い古したローブを着込み、ライフル銃にも似た長杖を構え、足元に
その杖の先端に小さな魔法陣が展開され、
「ひとつの
彼女の足元の
「これは正確無比な天秤『リロード』命の重さをはかるモノ『リロード』重さをはかりましょう『リロード』」
詠唱の進行と同時に、連なる五つの魔法陣が点灯していく。膨大な魔力が杖を通じて魔法陣に注ぎ込まれ、今すぐにでも爆ぜそうな程に魔法陣が揺らめく。
周りのサポーターの騒めきを他所に、彼女は静かに詠唱を続ける。
目の前の光景をヘルメスは喉を鳴らしながら見ていた。まるで別人に切り替わったかのような────
「引き金の重さは貴方の重さ『リロード』きっと、貴方の命は羽の様に軽い『リロード』」
五つの魔法陣が点灯し、輝きを灯して発射態勢に至る。どれ程の威力の魔法なのか想像するのも難しくない程の魔力が溢れ出る様に回りの冒険者は息を呑む。
たかが【
魔法を扱わない冒険者にも、圧として彼女の放つ魔力を感じ取れる。空間そのものが揺らぐ程の魔力を込められた魔法。
その状態のまま、ミリア・ノースリスは静かに敵を見据え、前線で戦う魔法使い達が魔法を放つのを待つ。
神ヘルメスはその様子を見て口元に笑みを浮かべた。
冒険者達の判断は非常に合理的であった。竜には竜をぶつけておけと、深紅の飛竜と結晶の飛竜のぶつかり合いが離れた位置で行われているさ中にゴライアスを仕留めて、その後に結晶竜を仕留める。そんな作戦を立てたのだ。
最前線。ゴライアスの
ボールスはその様子を見ながらも後方に設営されたはずの補給拠点方面をちらちらと見て呟く。
「何処の魔法使いか知らねえが、良い魔力じゃねぇか」
己たちの後方。補給拠点の方からひしひしと伝わる魔力の流れ。
彼らの真後ろにて詠唱する魔法使い達を束ねて漸く届きうる様な膨大な魔力。そんな魔力を扱える大魔法使いがこの階層に居たなんて情報をボールスは知らない。
リヴィラの街に居た冒険者は全員招集してこの場に居る。補給拠点に居るのは全員がサポーターか能力の低い冒険者程度。彼らがこんな魔力を扱えるはずもない、つまり知らない誰かが後から合流してきたか。
「おいお前ら、後ろの奴に負けてるぞ」
ボールスの言葉に魔法使い達が眉間に皺を寄せる。彼らとて加減しているつもりは一切無く、最大限の集中力を以て最高量の魔力を込めた一撃を見舞おうとしているのだ。それを軽々と上回るという事は────少なくとも第三級の魔法使いが後方に居るという事だ。
目の前のゴライアスはリューとアスフィが囮となってくれているおかげで魔法使いへの攻撃頻度は少なく。なおかつ補給拠点の方に放たれる
その巨体を支える二本脚に執拗に攻撃を受けているからか、幾度となく姿勢が揺れてまともに遠距離に
「よぉし、前衛引けえぇっ! とんでもねえのぶち込むぞ!」
詠唱の完了を確認すると同時にボールスが叫ぶ。
前衛の冒険者が一瞬で蜘蛛の子を散らす様に逃げ去っていけば────ゴライアスが
遠く離れた場所に居る膨大な魔力の流れか。至近距離で数人纏めて詠唱している魔法使いか。もしここでゴライアスに知性が欠片でもあるのなら、後方を狙っただろう。
前線に立つ魔法使い達は前衛壁役によって固く守られているのだから。だが、ゴライアスには知性等存在しなかった。故に、近い場所の魔法使い達めがけて
前衛壁役最後の仕事だと言わんばかりにドワーフ達が肩をぶつけ合い、タワーシールドでその攻撃を防ぎきる。
「撃ちやがれぇっ!!」
杖を、
『────────────────────ッッ!?』
連続で見舞われる多属性の攻撃魔法。着弾と共に火炎弾が弾け、次の瞬間には雷の槍が突き立つ。氷柱の雨が降り注ぐさ中に風の刃が混じり血を飛び散らせ、凍り付かせ、焼き尽くす。
一部『魔剣』の攻撃も加わる中、怒涛の砲火の光に姿を消しかける
目がくらむほどの砲火に冒険者達が動きを止めるさ中、響き渡った重低音によって砲火が弾け散る。
後方に設営された補給拠点。高台に位置する場所より静かに詠唱を完了した小人族の放つ
「
────極光が巨人の胸を穿ち抜いた。
聴覚が麻痺する程の爆音。さらにそれを上書きする巨砲の一撃が終わりを迎えた。
立ち込めた煙は巨砲によって綺麗に吹き飛ばされ、中央にたたずむ巨躯が冒険者達の視線に晒される。
胸にぽっかりと空いた穴。
向こう側が見て取れる大穴を胸に開け、顔面全体を中心に黒い体皮は大きく傷つき、抉れ、赤い血肉を晒している。
口から蒸気の様な白い煙を拭きながら、ドスンとゴライアスが膝を突いた。
冒険者達の歓声が上がる。
「後は結晶竜だけ────」
結晶竜の方に視線を向けようとして、ボールスは目を見開いてゴライアスを見た。
膝を突き、膝を突いて、ゴライアスは止まった。
本来なら魔石を砕かれたモンスターは瞬時に灰になる。目の前の
「嘘だろ……」
胸に穿たれた大穴。既に倒したと歓声を上げる冒険者達。
そんなさ中、リューは目を見開いたまま顔を引き攣らせていた。
周りの歓声に同じく声を上げて喜んでいたベルも、リューの様子に気付いて歓声を上げるのをやめた。
『────フゥゥゥ』
ほぼ同時に冒険者達の視線は死に体のゴライアスに集まる。
死に体と化したゴライアス。その全身からは赤い光の粒子が立ち昇っていた。みるみるうちに傷が消え失せていく。
胸の中央を穿ち背後の風景すらも見える程の大穴が塞がっていく。胸に穿たれた穴を塞ぐ様に
その信じられない光景に呆然とした冒険者達の目の前で、黒い巨躯が再度立ち上がる。
戦いの終わりだと体から力を抜き────瞬時に目の前で行われた再生に冒険者達の反応は遅れる。
「自己、再生……ッ!?」
自己再生等という領域を超えた、蘇生という反応。胸に穿たれた、間違いなく
「まさか────」
呆然と立ちすくむ冒険者、魔法使い達の目の前で、
固く握りしめられた両拳を力強く振り下ろす。
大草原が揺れた。
凄まじい爆発を引き起こし、放射状に広がる衝撃波は大地を抉り、前衛を一緒くたに吹き飛ばす。それだけにとどまらず、後衛の魔法使い達にまでその衝撃は届き、魔法使いを守っていた盾役も含めて前線の全てを吹き飛ばした。
無茶苦茶に魔力を込めた影響か、銃杖がボロボロと黒焦げになって崩れて塵になる。そんな魔力が上がった事で起きた副作用の現象すらも頭から吹き飛ぶ信じられない光景。
包囲網が崩壊した。ゴライアスの一撃が、前衛として包囲網を張っていた冒険者全てを吹き飛ばした。まるで虫けらか、玩具の様に冒険者が吹き飛び、大地に叩きつけられて戦闘不能に陥る。
「……は?」
「嘘だろっ!」
「そんな……ベル様っ」
運が良いのか、中衛としてモンスターの足止めを行っていた冒険者やヴァン。後方に設営されているこの補給拠点にまで被害は及んでいない。
しかし、最前線に出ていたのは
中衛のモンスターの足止めを行っていた冒険者は
後衛の補給拠点に居るのは
最前線が崩壊するということは、ゴライアスの討伐に致命的過ぎる。
というか、そもそもだ、あのゴライアスの胸を穿つ一撃。どう考えても即死するだろうはずの一撃だったはずなのに蘇生しやがった。つか、あの胸の穴を塞いだ蒼炎、どうかんがえても結晶竜の奴だよな?
「ヘスティア様、クラスチェンジ、サンクチュアリに」
「っ! わかったっ!」
今すぐ範囲回復で前線を立て直して────ダメだ、ヴァン、ゴライアスの足止めしろ。あのまま前進されたら瀕死になった冒険者が無抵抗で引き潰されて……あぁ、後方のモンスターが雪崩れ込まない様に足止めも……あ────
不協和音の様な咆哮。ゴライアスの頭上をいつの間にか飛行する結晶竜が蒼い炎を撒き散らして冒険者達に襲い掛かろうとしているではないか。
「っ! 障壁共有っ!」
スキル発動。目一杯広げた範囲の冒険者が『マジック・シールド』に包まれて守られる。蒼炎の火力自体は低いが、それでも一気に数十人単位で喰らえば流石に魔力消費が馬鹿にならん。
つかキューイは何してんだっ!
慌ててキューイと結晶竜が戦っていた場所に視線を向けると、キューイが体から無数の結晶塊を生やして死んでいた。いや、待て、なんだそれ、そんな攻撃────攻撃? 体の内側から食い破る様に突き出た結晶によって死んでいるキューイ。魔力の残滓が体から零れ落ちている様子から、まだ死んでから数分も経っていないが。なんで死んだっ!?
ヴァンっ、その結晶竜を引きはがせっ。障壁張りながら回復魔法使えんっ。
ヴァンがブレスで結晶竜を攻撃して注意を惹き付けたのを確認すると同時に詠唱開始。ヴァン、正体不明の攻撃に気を付けろよ。
「聖域を守護する者達よ、非力な我が身が捧げる献身を受け取りたまえ。聖域に降り注ぐ雫よ、癒しとなれ。流るる涙の代わりとし、我が血を捧げよう────聖域に響く音色よ、癒しであれ『ヒール・バースト』ッ」
杖を失った代わりに両手で魔力の塊を頭上に掲げる。発動した範囲高回復魔法が弾けて、俺を中心に波動の如く光が広がっていく。
光の波動が前線にまで届き────遠すぎて回復効果が低いのか立ち上がる冒険者は半数程しかいない。
二度、三度と繰り返し発動してようやく前線の冒険者の殆どが立ち上がってくれた。
結晶竜が大地に吐きつける蒼炎。火力自体は低いおかげか問題はなさそうだが。
キューイの死因がわからんがとりあえず結晶竜を片付けないと話にならないのはわかった。
どうにかしてあの結晶竜を片付け────ヴァン、どうした?
動きがおかしい。ヴァンが身を捩って苦悶の咆哮を響かせている。ヴァンの周囲には蒼い炎の欠片が舞い散っている。なんか、嫌な予感がする。
身を捩り、尻尾を振るい、モンスターを弾き飛ばして暴れ狂い────グシャバキィッと体の内側から食い破る様に無数の結晶塊が生えた。
「は?」
いや、待て、なんだあれ? いや、いやいやいや、おかしいだろ。
あ、もしか、して?
「ヘスティア様、もしかして、あの蒼い炎、相当ヤバいやつなんじゃ……」
「…………かもしれない」
同じ光景を目にしていた冒険者達も言葉を失う。
あぁ、あの舞い散っていた蒼炎。あれって────直撃すると
『マジック・シールド』で無効化してなかったら、多分俺もあんなふうに死んでたんだろうね。
どうにかして結晶竜を戦場から引きはがさないと。
誰かに援護────あ、障壁張ってないと冒険者に被害が出そうだ。
殺しても蘇生する結晶竜。振りまかれる蒼い炎はよくわからんが『体を内側から食い破る結晶塊を生やす』効果があるっぽい?
んで
!CURSED!
不死人……バジリスク……呪い…………うっ、頭が…………
自分からトラウマを抉っていくスタイル……もう『燻りの湖』には行きたくないよ。
まぁ、攻略上必要のない所だから行かなくて良いんだけどね()