魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第八十八話

 水晶と木々の織り成す不可思議で美しい風景。それを彩る蒼炎は幽鬼の如く不気味に揺らめいている。

 中央樹周辺の草原地帯。だった場所というべきか、階層主(ゴライアス)の反撃を受けて無数の亀裂の走った草原の中央にて雄叫びを響かせて佇む巨躯。

 壊滅的な被害を受けるも連続した範囲回復魔法らしきモノで立ち上がった冒険者達が後退し始めていた。

 

「てめぇらいったん下がれっ」

「武器の補充をっ」「糞っ、魔法使いを守れぇぇっ!」

「ボールス、部隊を再編制して、態勢を立て直しなさい!」

「無茶言うんじゃねぇ!」

 

 崩れた戦線。回復魔法にて冒険者は立ち上がったものの、戦線の再結成は不可能だ。

 特に大きいのは【竜を従える者(ドラゴンテイマー)】の保有していた深紅の飛竜と小竜(インファントドラゴン)が撃破された事だろう。

 深紅の飛竜によって抑えられていた結晶竜。深紅の飛竜が撃破された事で戦線に現れたその結晶竜によって戦線崩壊は加速する。

 其処に小竜(インファントドラゴン)が維持していた後方のモンスターの足止めをしていた後方戦線の崩壊も合わさって既に散り散りになりかけている。

 

「結晶竜を潰せ」「あいつをどうにかするんだ」

「馬鹿野郎、ソイツを攻撃するな!」

 

 彼の竜の持つ厄介な蒼炎。触れたモノを結晶塊にするという恐ろしい効力に恐れを成した者が食い止めようと残っていた弓や飛び道具で攻撃するも、逆効果。

 攻撃に被弾した瞬間にそのやせ細った体躯は砕け散り、蒼炎を撒き散らして復活する。残るのは夥しい量の蒼炎の欠片。

 

「避けろ!」「蒼い炎に触るなっ」

「腕がっ」「なんだこの炎!?」「モンスターが来てるぞ!」

 

 まき散らされた蒼炎を回避すべく前線は歪みに歪み、階層主(ゴライアス)の足止め処か、横合いから突撃してくるモンスターの群れを受け止めきれずに崩壊と再生を繰り返している。

 徐々に、崩壊してからの再生までの時間は延び。再生から崩壊までの時間は縮んでいく。

 既に前線の維持は不可能。死者こそ出ていないのは後方から行われる大規模な範囲回復魔法と補助魔法らしき魔力障壁による防御が生きているからだろう。

 

「ベル、無事か」

「ヴェルフ、他の皆は……ミリアは?」

 

 崩壊した戦線の端。階層主(ゴライアス)の反撃を辛くも避けたベルの元に走り寄ってきたヴェルフは苦々しい表情で後方の補給拠点に視線を向けた。

 

「タケミカヅチファミリアの奴らは中衛のモンスターの妨害にいってる。ミリアはリリの所だ、見ろ、あそこで回復魔法連発してるのがミリアだ」

 

 ヴェルフの視線を追ってベルが後方に設営された補給拠点に視線を向ければ、大きな水晶の上に立つミリアが断続的に広域回復魔法をかけ続けて戦線の維持を行おうとしているのが見えた。

 その周辺には大盾を持つ数人の冒険者。その大盾もへしゃげたモノばかりで、よく見れば階層主(ゴライアス)咆哮(ハウル)を幾度か受けたのかその周りには無数の着弾痕が見て取れる。

 

「……どうしよう」

「どうするもこうするも、このまま包囲網を再結成なんて無理だろ……」

 

 二人の視線が自然と階層主(ゴライアス)、その頭上を飛翔する結晶竜に向けられる。

 ベルの手には【英雄願望(アルゴノゥト)】という起死回生の一手がある。

 しかし、その攻撃が通用するとはとても思えない。

 ミリアの放ったらしき巨砲。『アンチマテリアル』を駆使した超威力、長射程という膨大な魔力を用いた一撃で胸を穿って尚、かの巨人は平然としているのだ。

 

「あいつをどうにかしねぇと」

「でも、キューイもヴァンも……何度も倒してたのに再生しちゃうし」

 

 最初にミリアとキューイが交戦し始めた結晶竜。

 幾度か撃破した様子が見て取れたが復活されてしまうという事が判明し、話し合った結果、空を飛ぶあの結晶竜に対してベル達は攻撃手段が限られ過ぎるという事で先に巨人を倒して後から援護するという形になったのだ。

 しかし、あの蒼炎によってキューイとヴァンが撃破され、戦線は完全に崩壊。立て直しもきかない状態でどうしようもない。

 しかも、先程の魔法による攻撃のさ中に見えた巨人の胸に宿る蒼炎。あれによって死亡を免れた可能性すらあるのだ。結晶竜を倒さねば、幾度となく巨人は立ち上がってくるだろう。

 

「クラネルさん、無事でしたか」

「リューさん……その腕……」

 

 駆けてきたリューの様をみたベルは目を見開く。

 彼女の片腕から血が滴っている。それだけならただの負傷だがその手袋を突き破って飛び出している結晶塊を見ればそれがただの負傷ではない事は一目瞭然である。

 

「あの蒼炎に触れてはいけません。貴方もこうなりたくないのなら」

 

 既に左腕は使い物にならないのか血を滴らせながらもリューは鋭く階層主(ゴライアス)を睨む。

 

「私とアンドロメダでゴライアスを止めます。貴方は周囲のモンスターを撃破してミリアさんに伝言をお願いします」

「伝言……?」

「はい、見てください」

 

 リューの視線が後方に位置する補給拠点に向けられた瞬間────癒しの波動が十八階層に弾けて広がる。

 ミリアの使う広域回復魔法だ。クラスチェンジという特殊なスキルによって使う事の出来る限定魔法。

 広がる癒しの波動が近づいてきて、周囲の冒険者を癒し、立ち上がらせる。

 その衝撃波の様な淡い輝きが三人にも届く。

 

「おい、結晶が……」

「嘘、消えた……?」

「はい、見ての通りです。この結晶塊、回復魔法を受けた際のみ消滅するようです────これがあの結晶竜を討滅する大きなヒントかもしれません」

 

 リューの左腕。結晶塊が無数に突き出て血を流していたその腕は、回復魔法が弾けた瞬間に結晶塊が色を失い、灰となって零れ落ちて無数の穴の開いた腕に変化する。其の腕も回復魔法で傷が塞がり、数秒経てば完全に傷が消えた。

 手袋にあいた無数の穴と血の跡のみを残して負傷が消えたのを見たベルとヴェルフが顔を見合わせる。

 

「まずは結晶竜を、その為には、早くこの事をミリアさんに」

「わかりました」

 

 ベルが戦場を駆けようと足を向けた瞬間。ついに階層主の咆哮(ハウル)が補給拠点を直撃した。

 

 

 

 

 飛来した衝撃波を逃す事も出来ずに直撃。緋色の強化『マジック・シールド』によってなんとか防御したものの、補給拠点に設営されていた大型弩(バリスタ)が粉々に砕け散り、周辺で物資を運んでいたサポーターが幾人も吹き飛ばされて倒れ伏していた。

 

「ヘスティア様っ」

「大丈夫だよ、僕は無事だ」

 

 砕けた水晶の残骸の影から顔を出したヘスティア様に安堵しつつも、周囲を見回せばほぼ空になりかけであった武装の類が入っていたらしき木箱の残骸。

 回復薬(ポーション)高位回復薬(ハイ・ポーション)精神力回復特効薬(マインドポーション)なんかが入っていた大きな壺、の残骸。

 

「リリ、無事な物資類を搔き集めて前線に持って行ってあげて。ヘスティア様、出来る限り此処から離れてください」

「ミリア様は何を」

「どうやら、とんでもなく相手の目を引いてしまったらしいので……此処でお出迎えしないといけなくなりましたね」

 

 漆黒の巨人の殺意が此方に向いている。先程の巨大砲撃と、つい先ほどまでの回復魔法連打はとてつもなく敵対心(ヘイト)を高めた様だ。

 いや、確かに回復魔法使う奴とか、高い損傷(ダメージ)与えた奴が狙われるのはゲームでも現実でも当然っちゃ当然だ。

 

「急いで、次の咆哮(ハウル)が飛んでくるわ」

 

 巨人の口内が激しく発光し、此方に咆哮(ハウル)をぶちかまそうとしている。

 さっきみたいに咄嗟に強化なんて出来ない。左腕に装備している竜鱗の朱手甲の強化効果は使い切っているので素の『マジック・シールド』で防がなくてはいけないが……。

 

「ミリア様も逃げるべきですっ」

「…………いや、私動けないのよ」

 

 ドリアード・サンクチュアリ。広域回復魔法が連発できるという利点(メリット)を持つ代わりに、移動不可能の欠点(デメリット)を持つ。

 回復魔法を途切れさせた瞬間、散り散りとなっている冒険者達が命を落としかねない。

 倒れても倒れても回復させているおかげで、彼らは散発的とはいえ攻撃を行えているのだ。ましてや蒼炎撒き散らす結晶竜から撤退するのにも回復が必要だ。つまり今クラスチェンジを解除するのは不味い。

 残っているマガジン数が10を下回っているので、いずれ回復魔法も放てなくなるが、今やめるのは不味すぎる。

 

「ですがっ」

「リリ、ヘスティア様と行って。早くっ」

 

 ゴライアスの足元から苛烈な攻撃が開始されて咆哮(ハウル)が補給拠点の真横の水晶を粉々に粉砕する。

 復帰した冒険者が戦列を無視して攻撃を繰り広げたおかげで、攻撃が逸れた。

 既に諦めて敗走してもおかしくない状況なのに、彼らは一人も欠けずにモンスターに立ち向かっている。何でだ?

 前線の様子を眼を凝らして確認すれば────男が剣を振り上げて叫んでいるのが見えた。

 何を言ってるのかは聞こえないが、どうやら冒険者を鼓舞しているらしい。数少ない魔法使いを守りながら小さな防衛線らしきものを作ってゴライアスの側面から攻撃を幾度も当てている。

 彼らの猛攻のおかげか、ゴライアスはこちらから一瞬気を逸らし、次の瞬間リューさんがその猛攻に加わり、アスフィも援護に入る。

 ゴライアスの動きが止まった。とはいえ未だに此方を狙っているのか殺意が向けられたままだ。

 回復魔法発動の為の詠唱をしようとしたところで、ベルの声が聞こえた。

 

「ミリアーっ」

「ベル君っ」「ベル様!」

「ベル、どうしたの、前線は?」

 

 全力疾走で駆けてきたベルが砕けた水晶片を踏みしめながら此方を見上げてくる。

 

「ミリア、あの結晶竜の攻撃は回復魔法で消せる!」

「……詳しく話して」

 

 回復魔法で消せる? 意味のわからん発言に思わず面食らうが、前線の冒険者たちの中に居る結晶にやられている冒険者を観察しながら回復魔法を発動して、意味を理解した。

 

「結晶は回復魔法で消せる……? 回復薬(ポーション)は効かないみたいだけど、回復魔法で消せるなら……」

「あの結晶竜本体に回復魔法を当てれば……」

 

 残りのマガジン数的に試す価値はあるか? 突破口が無い現状、藁にも縋るしかないが。

 今までの回復魔法の目標はあくまでも『人』と『仲間』だけである。それを『敵』と認識している結晶竜に当てる────正気の沙汰とは思えんが。

 

「わかりました、とりあえず試してみましょう。ダメなら、別の方法を探します」

 

 マガジンが無くなって回復魔法が使えなくなると、近距離でしか使えない『レッサーヒール』しかなくなる。というか他の冒険者で回復魔法使える奴はいないのか? 魔法自体希少なのに加えて回復魔法は更に希少だから仕方ないのか。

 

「聖域を守護する者達よ、非力な我が身が捧げる献身を受け取りたまえ」

 

 詠唱の開始と共に対象を指定する。不規則に暴れ狂う結晶竜を対象にするのは難しいが、当てる。

 

「聖域に降り注ぐ雫よ、癒しとなれ。流るる涙の代わりとし、我が血を捧げよう────」

 

 『苦しい』『痛い』『熱い』様々な苦痛を訴える絶叫。そして『助けて』という叫び。

 ある意味では最も大きなヒントだったのではないかとは思うが、普通に考えて敵に回復魔法当てるという発想が浮かぶ訳も無い。

 

「聖域に響く音色よ、癒しであれ『ヒール・バースト』」

 

 掲げた魔力塊が癒しの波動となって弾ける。広がる衝撃波は途中で広がりを止め、逆に収束し始める。

 中心地点に居るのは、結晶竜。

 『助けて』と叫ぶ彼の竜の体躯が────階層主(ゴライアス)咆哮(ハウル)を受け、粉砕されて結晶を撒き散らす。

 瞬時に結晶の欠片が蒼炎に転じ、其処に癒しの波動が収束し弾けた。

 収束した癒しの波動が効力を失い消え去るさ中。飛び散った蒼炎は球状になり、弾けて蒼炎の欠片を撒き散らしながら結晶竜が再生して絶叫を上げる。『痛い』『やめて』『助けて』と甲高く耳障りな絶叫が響き渡った。

 

「嘘だろ、あの階層主(ゴライアス)、結晶竜を狙った?」

「流れ弾、じゃあないみたいですよ。見てください」

 

 リリが指示した先。漆黒の巨人は無数の魔法に貫かれながらも結晶竜を強く睨み。そして此方を見た。

 その目に宿るのは、殺意だと思われる黒いドロドロとした粘着質なナニか。ヤバい、さっきの敵対心(ヘイト)が可愛く見えるぐらいにヤバい、完全にこっちを標的(ターゲット)にしやがった。

 

「あぁ、今の行動。正解だったみたいですね……攻撃が来ますっ!! ベルっ、ヘスティア様を守ってっ!!」

 

 大正解を引き当てたらしい。ゴライアスの咆哮(ハウル)が連続して此方に飛来する。

 さっきまでの攻撃が嘘だったみたいに、凄まじい連射速度で此方の周辺に着弾する咆哮(ハウル)

 障壁共有で皆を守ろうとしてみるが────大地そのものを耕す様な絨毯爆撃によって上も下もわからなくなるほどに吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 先程までの咆哮(ハウル)がお遊びだったかのように凄まじい速度で連発され、後方の補給拠点が滅茶苦茶にされるのを見たリューとアスフィが気を引こうと攻撃を繰り出すも、既に彼の巨人の目には映っていない。

 危険度の高さからリューが狙われていた先程とは打って変わり、漆黒の巨人は執拗に補給拠点に咆哮(ハウル)を打ち込み続けている。

 

「此方を見ろっ!」

 

 不自然な行動。気を引いていたはずのリューとアスフィを唐突に無視し、漆黒の巨人は結晶竜を狙った。

 回復魔法を当てようとした瞬間に、である。

 その行動は、大正解であったのだと悟り。同時に間違いを犯したのだと気付くも既に遅い。

 

 リューが体を駆けあがりながら嵐の様な攻撃を加えるのも、無数の魔法が突き刺さるのも、アスフィの道具で爆破されるのも厭わずに階層主(ゴライアス)は後方の補給拠点のあった地点を攻撃しつづける。

 リューとアスフィ、他にも数多の冒険者の集中砲火によって大量の傷を負った化け物。魔石にすら届きうるのではないかというどでかい傷を背中に与えるも────傷を塞ぐ蒼炎が巨人の死を遠ざける。

 巨人の咆哮(ハウル)が終わったのは、リュー達の手によるモノではない。巨人がこれ以上の攻撃が必要ないと判断したのだろう。

 階層主(ゴライアス)は空を舞う結晶竜を睨み付け雄叫びを上げた。

 

「くっ……ミリアさん達は……」

「リオン、不味いです。後方部隊は今ので潰滅────回復魔法も途絶えました」

 

 補給拠点のあった地点は大量の土埃が立ち昇っており安否の確認は不可能。十八階層全域をカバーしていた回復魔法の波動が途絶えているのもそうだが、搔き集めた物資類が全て吹き飛ばされてしまったのも大きい。

 前線の士気が一瞬で下がっていく。補給の途絶えた戦闘。

 敵は強大を通り越して理解不可能な領域に達している。

 

「時間稼ぎを続けますが、これ以上は前線の再結成を見込めませんよ」

「…………いえ、まだです」

 

 リューは木刀を強く握りしめ、後方の土煙舞う拠点のあった場所を見つめた。

 

()()()()()()()()

「…………はぁ、わかりました。時間稼ぎに徹しましょう」

 

 漆黒の巨人を見上げ、アスフィは眼鏡の位置を整える。

 

 

 

 

 

 舞い上がる土煙。視界全てを覆い隠すその光景を目にしながらも身を起こした。

 周辺一帯を耕したあの巨人の咆哮(ハウル)によって地形そのものが変化しているのか、非戦闘員すら巻き込まれた今の攻撃で、何人死んだのか……。

 ヘスティア様は無事か? ベルは? リリは何処に行った?

 

「────っ!」

 

 震えながら立ち上がる。遠くの方からはゴライアスと交戦する冒険者の声が聞こえる。

 ヘスティア様、ベル、リリ……何処だ。

 

「ヘスティア様っ」

 

 何も見えない。土煙が邪魔だ。

 いつの間にかクラスチェンジが解けてニンフ型に戻っているが、そんな事はどうでもいい。今の攻撃にヘスティア様が耐えれるか? リリは? ベルは何処だ。

 

 地面にあいた穴ぼこ。爆撃を受けた様にしっちゃかめっちゃかに転がる武器の残骸。残っていた物資類も全部吹き飛んだらしい。

 足を取られて倒れそうになり────腕を掴まれた。

 

「ミリア、無事?」

「ベル……? ヘスティア様は?」

「其処の穴の中に、リリも一緒にいるよ」

 

 最初の方の咆哮(ハウル)で空いた穴の中、ヘスティア様が目を回しており、リリがヘスティア様の介抱をしているのが見えた。

 

「リリ、ヘスティア様は?」

「無事ですよ。目を回していますが……ミリア様の障壁共有のおかげで平気でした」

 

 無駄にはならなかったか。あの連射に驚きはしたが、精度は其処まで高くはなかったみたいで助かった。 

 

「結晶竜の倒し方はわかったけど……」

「問題はゴライアス……」

 

 あの階層主(ゴライアス)の凶行。結晶竜が回復魔法に晒されるのを防いだ。

 其の上で自分に当たる攻撃全てを無視して此方に集中攻撃を行った。

 つまりは、あの結晶竜は回復魔法が当たると何か不味いのだろう。故にあの巨人は自らの損害を度外視してあんな凶行に及んだんだ。間違いなく回復魔法が鍵となるだろう。

 どうにかして回復魔法を当てないとだが……あのゴライアスの狂いっぷりから同じことをしようとしても同じように防がれるんだろう。

 

「ミリア、僕がゴライアスの動きを一瞬止めるから、その隙にって出来る?」

「……本気?」

 

 おい、本気で言ってるのか? いや、ベルなら出来るだろうが、危険過ぎるぞ。

 ベルの【英雄願望(アルゴノゥト)】って溜め(チャージ)が必要だろうし、乱戦気味になってるこの戦場で呑気に溜めさせてくれるなんて……。

 

「大丈夫だから」

 

 オッケー。突破口を見つけたんだ。後は其処を塞ぐ障害物ぶち壊して進むだけだ。

 タイミングは、難しいだろうがやってやろうじゃないか。

 

 ベルの【英雄願望(アルゴノゥト)】と同時に『ヒール・バースト』使って結晶竜を倒す。

 むしろ、最初からそれでよかったんじゃないか?

 

「ちょっと待ってください、タイミングはどうするんですかっ」

「発動直前状態で────あぁ、ゴライアスに狙われますね」

 

 魔法の発動直前の状態で待機しても、間違いなく狙われるだろう。

 ベルがゴライアスを攻撃。その体を消しとばして再生しているさ中に俺が回復魔法を当てる。

 ベルには溜め(チャージ)が、俺には長めの詠唱が必要。

 

 もしタイミングがズレてしまえば、ダメだろう。

 多分だが、二度目はない。次は確実に殺しにくるだろうしなぁ。

 

「大丈夫だと思う」

「まぁ、大丈夫でしょ」

 

 ベルと視線が合った。なんとなくだが、大丈夫な気がする。

 

「ミリアなら大丈夫」

「ベルなら平気よ」

 

 ミノタウロスとの戦いのさ中を思い出す。

 あの瞬きの間のズレが死を招く様なギリギリの戦い。

 ベルと共に、あの戦いを潜り抜けたのだ。平気だと思う。

 

「リリ、使えそうな武装掘り起こして前線に持って行ってあげて。後、ヘスティア様を安全な場所に、私は此処からまた狙うわ」

「……わかりました」

「ミリア、行ってくるよ」

 

 ベル、タイミングは任せる。合わせて見せるよ。

 




 不死(アンデット)には聖属性(回復魔法)が効くってRPGでは定番ですけど、元ネタって何処から出てきたんですかね。

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