魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第八話

 ふむ……自分の為に怒ってくれる人程、怖いモノは無いなぁ……

 

 エイナさんも、ベル君も、ヘスティア様も、皆良い人()()()

 

 眩し過ぎて目を逸らしたくなる。

 

 けれども、同時にその眩しさに引き寄せられそうにもなる。

 

 俺とは別の意味で人が集まる性格だと思う。

 

 あぁ言う性格を人誑しと言うのだろう。

 

 マァ良い。感情に任せて怒鳴り散らすだけの怒りなんかと比べて心に突き刺さりはした。

 

 ……本題の文字の勉強の方はあんま進まなかった訳だが。

 

 2時間と言う期限はしっかり守ってくれる辺り、エイナさんスゲェ……

 

 …………神様にさ、絵本の読み聞かせしてもらうって恥ずかしい所の話じゃネェよな。

 

 

 

 

 

 数多の階層に分かれる無限の迷宮。凶悪なモンスターの坩堝。

 ……無限の迷宮? マジで? 凄いな。割と真面目にヤバそうな気がする。

 

 そのダンジョンの一階層でベル君と共に下へと降りる最短ルートを外れたルームで二人きりになっている。

 

 ベル君が萎びた草みたいになってるし、俺の方もぶっちゃけ萎びてると思う。

 

「ミリア、大丈夫?」

「大丈夫ですよ。えぇ……それにしてもモンスター、全然いませんね」

 

 モンスター、上層一階層ではダンジョン最弱とも言われるゴブリンとコボルトである。

 

 そしてそのモンスターもさっぱり居ない。上層の第一階層、新米冒険者がモンスターと練習程度に戦うのにちょうどいい位にモンスターはさっぱりでず、出会ったとしても一匹から最大で三匹程度。要するに本当にチュートリアルステージみたいな感覚の場所らしい。

 

 ダンジョン最弱のゴブリン……えぇ(困惑)

 そのゴブリンに良い様にやられたベル君って……そのゴブリンに追い詰められてた俺って……

 

 いや、良いんだよ。うん、だってアレじゃん? RPGゲーの主人公は最初は最弱(スライム)相手に苦戦して少しずつ強くなってく感じじゃん?

 

 ……話は変わるが。この世界はエロゲじゃないよな? TS状態の俺がモンスターにグチョグチョにされる展開はマジで無しな方向で頼みたいんだが……。

 

 そんな事を思いながらも、魔法の練習をする為にダンジョンにやって来たと言う目的は忘れてない。

 

 魔法についてエイナさんに尋ねた所『他の冒険者には絶対に教えちゃいけない』と言われた。

 

 後序に言うなれば『中立とは言え、ギルドの職員も含めてそう言ったステイタスに関する情報は教えちゃダメ』らしい。

 

 ステイタスとは、その眷属の全てをさらけ出しているモノであり、経験からその眷属の性格、内心から深層心理に至るまでをさらけ出すモノであり。基礎アビリティの伸びはその眷属の得手不得手を示し、習得しているスキルや魔法、発展アビリティ等はその眷属の心の内を示すモノとなっているらしい。

 

 基本的に種族スキルや種族魔法と呼ばれているモノがあり。その種族に由来するスキル、魔法は関係ないがそれ以外の珍しい魔法やスキルはその眷属の心や経験を映し出すモノらしい。

 

 まぁ、そう言う意味においては俺のスキル・魔法はどれも『ミリカン』のスキル・魔法であるので、種族スキル・魔法と言えるだろう。要するに心が映し出されちゃ居ないし。そもそも基礎アビリティはオール0Iである。

 

 映し出されるモノもネェってか? それとも、憑依転生の所為か? どちらにせよ都合は良い。

 

 そんな事よりも魔法だ、魔法。

 

 ファンタジー世界に来たなら憧れの一つ抱くのは当たり前の魔法だぞ。

 

「モンスターが出ないのは、まぁ都合がいいので良いですが」

 

「うん、今日は魔法の練習……に来たんだよね?」

 

 一応、武器は持ってきた。と言うがベルくんと同じ新米冒険者に渡されるナイフを一本だけ。

 防具はそのまま着ている華麗なローブである……一応『ミリカン』では、魔法防御に優れる耐魔ローブだったんだが。ぶっちゃけ物理攻撃が基本のダンジョンでどこまで通用するかは未知数である。

 

 まぁ魔法メインで行く場合は変に身重になるよりは軽装で居るのが基本らしいのでエイナさんは特に何か言う訳でも無かったが。

 

「そうですね、魔法の練習です」

 

 そこらの事は全部投げ捨てよう。魔法だ、魔法。一応『ミリカン』内部でガンガン使っていた基礎魔法の様なモノだが、実際に自分の身で使う事になるなんて……夢みたいだ。

 

「さて、詠唱は……『ピストル・マジック』」

 

 右手を『銃』の形にして詠唱すれば。右手の手首の辺りからまるで血管が浮き出る様に複数の線の様なモノが指先、人差し指の先に向かって伸び。そのまま人差し指の先に小さな魔法陣が浮かび上がった。

 

「オォ……これが魔法? 凄い、小さな魔法陣が浮いてる……」

 

 驚いた表情のベルがマジマジと手を見つめているのを見つつ。首を傾げた。

 

 『クラフト・マガジン』ってどうやるんだこれ。

 

 ステイタスを思い出してみても『クラフトマガジン』なんて文字は何処にも有った記憶がない。

 このままだと普通に撃てない気がするんだが……まぁ、モノは試か。

 

「ベルさん、一度、発動詠唱しますので少し離れていてください」

 

「わかった」

 

 素直に頷いて距離をとったベルをちら見してから。指先、『銃口』となる部分を壁に向ける。

 

 跳弾とかしないよな? 『バレットカスタム』なんてシステムがあったクーシー型魔法少女も居たからなぁ。『跳弾(ジャンプバレット)』やら『爆弾(バーストバレット)』とかの恐ろしい弾丸をばら撒くクーシー型の『凶弾狂響』とか居たが、ミリアちゃんは無関係だろう。……ニンフ型も無関係だろ?

 

「『ファイアッ』」

 

 発動詠唱を呟くが、変化無し。一瞬、手に浮かび上がる幾何学模様の線の発光が強くなった気もするが……

 モンスターの居ない迷宮の中。ベル君の前でかっこつける様に『銃』を前に突き出した格好で詠唱して、見事に失敗。かっこわるーい。まぁ、予測はしてたけど……

 

「あれ? 発動しない?」

 

「みたいですね」

 

 拍子抜け、みたいな表情を浮かべたベルに肩を竦める。

 

 まぁ『リロード』してないじゃん? 当然の如く『リロード』が必要なのね。

 魔法なんだからさぁ……弾薬数=魔力量ぐらいにしてくんなかったのかねぇ。

 わざわざリロードしないとなんて……いや、普通に長々と詠唱してぶっ放すのよりは速射性(ファイアレート)は高いと思うけどね?

 

「ふむ……『リロード』」

 

 詠唱と共に光の玉が現れ、其れが右手の甲の辺りにピタリと張り付く。そのまま見ていれば光の玉は何時の間にやら淡く輝く結晶へと変化を遂げた……。

 

 まて、なんか手の甲に結晶がめり込んでる様に見えるんだが……うわぁ……

 

「ミリア!? 大丈夫っ!!」

 

 驚いた表情のベルが近づいてきて手の甲にめり込んだ様に見える宝石をマジマジと見つめてから此方を窺ってくるが……。

 

「痛みは無いので平気ですよ」

 

 特に違和感は無い。ただ、身体から何かが抜け落ちる感覚はしている。

 

 何だと首を傾げつつも、『銃口』を壁に向かって構え、もう一度詠唱してみる。

 

「『ファイアッ』」

 

 詠唱と共に、若干ショボイ音が響き、壁に向かって()()()が放たれる。

 

 バリィッと言う炸裂音と共にダンジョンの壁に着弾痕が……あるぇ?

 

 穴が開いてる。

 

 小さな、指先程度の丸い穴が開いてる。

 

「えっと……これ……貫通してる?」

 

 ベルと一緒に近づいて確認すれば、かなり深々と小さな穴が開いているのが確認できる。光の加減で奥までは確認できないが……

 

「……っぽいですね。予想以上の威力と言うか……これは……」

 

 モンスター相手に使わないと威力わかんないかも。貫通力強すぎて殺傷能力低いとかありそうで怖いんだが……

 

「ゴブリンとかに一度使ってみないと威力の程がわかんないですね」

 

「…………」

 

「ベル?」

 

 ベルが何も言わないのを不思議に思ってベルの方を向くと、なんか拍子抜けみたいな表情を浮かべていた。

 

「えっと……もっと、こう……どかーんみたいなのを想像してたんだけど……」

 

 ベルの擬音に納得した。

 

 もっとこう、魔法魔法した様な『爆裂魔法』的なモノを想像してたらしく。その想像からすると俺の使った『ピストル・マジック』の威力の低さに拍子抜けしてしまったのだろう。

 

 何故魔法と言えば爆発なのか……

 

「まぁ、モンスター相手につかえば……お?」

 

 噂をすれば何とやら、と言えばいいか。まるで示し合わせたようにモンスターが現れたのを見て其方に指先(銃口)を向けて構える。

 

「コボルトですか」

 

 二足歩行の犬っころ。言ってしまえばそんな感じだが可愛らしさは全然なく、爛々と赤く光目がモンスターである事をちゃんと主張してきている。

 

「ベル、下がっていてください……試射しますので」

 

「気をつけてね」

 

 そう言うと射線から離れてくれる。そうしている間にも此方に気付いて走り寄ってこようとしているコボルト二匹。ベルが心配そうな表情を浮かべているが。まぁどうにかなるだろ。

 

 まずは……そうだな。頭に一発ぶち込んでみるか。

 

 指先(銃口)をしっかりとコボルトの脳天に向けて狙いを定める。

 

 枢軸・連合の使う銃器の様に照準器なんて便利なモンありはしない。だが()()()()()()()()()()()()()と言う魔道国独自の照準器代わりの機能があった……んだが。

 

 どうにもこの世界ではそう言った機能は無いらしい。まぁ、先程感覚で撃った感じからするとそう問題は無い訳だが。

 

「『ファイアッ』」

 

 詠唱と共に指先(銃口)から放たれた魔弾が瞬きの間を置かずにコボルトの脳天に突き刺さり――――コボルトの頭が爆散した――――

 

「「うぇっ!?!?」」

『ッ!?』

 

 頭が爆散すると言う信じられない光景に思わず変な声が出た。と言うかベルも多分変な声出してた。ついでにコボルトも驚いて足を止め……と言うか血塗れになっていた。

 

 走っていた二匹のコボルトの内、より近くに居た方の脳天を狙ったためか、爆散した脳髄やらなんやらがもう片方のコボルトにぶっかかっている。

 

 そして頭……下あごから上が粉々に砕け散って、舌が乗っかっている下あごだけが首から上に残された無残な屍は数歩歩いた後にファーっと黒い霧になって消えてしまった。

 

 え? 倒すと霧になって消えるの?

 

 コロンと言う軽い音と共に、魔石(多分)が転がる。

 

 …………うわぁ。うわぁ。なぁにこれ、威力高すぎじゃね?

 

 迷宮の壁の耐久が高いの? コボルトが特別耐久低いの? それとも『ピストル・マジック』の威力高いの?

 

 そう思いながらも指先(銃口)をもう一匹のコボルトに向ける。

 

『ギャギャッ!?』

 

 うわ、あのコボルト両手を上げて投降(ホールドアップ)してるよ……モンスターもそんな事するんだな。

 

 まぁ、倒すけど。

 

「『ファイアッ』」

 

 無慈悲な詠唱の前にコボルト(の頭)は爆発四散。黒い霧(ネギトロめいた何か)になって霧散。モンスター死すべし、慈悲は無い。

 

 口を半開きにして唖然とするベルの前で指先(銃口)を天井に向けつつ手を開いてヒラヒラさせれば、右手に宿っていた結晶も、浮かび上がっていた幾何学模様も霧散して消え去った。

 

「ふぅん……『ピストル・マジック』」

 

 試にもう一度、右手を『銃』の形にして詠唱すれば右手に幾何学模様が浮かび上がり、手の甲に結晶が現れた。

 

 『銃』の形を崩すと途端に幾何学模様も結晶も消え去ってしまう。

 

 左手でも同じ事が出来るのか? 両手に『ピストル・マジック』は出来るんだろうか? 二丁持ち(デュアル)は確かクーシー型の特権だったし、流石に出来ないか。

 

 と言うかそろそろベル君は復帰しても良いんじゃ……モンスターの頭が爆散する光景がトラウマになんなきゃ良いんだけど……俺も予想外だしな。まぁ、ゾンビを吹っ飛ばす系のFPSでは当たり前の光景だったし。俺はあんま気にしないけど。

 

「……すごい」

 

「うん?」

 

 おう? なんか目がキラッキラ光ってる。トラウマになった訳じゃ無さそう?

 

「凄いよミリアっ!! 凄いっ!!」

 

 おぉう、興奮してキラッキラ目を輝かせながら凄い凄いと漏らすベル君。まぁ、喜んで貰えたのなら何よりである。

 

「えぇ、予想以上の威力だったわ……」

 

 ほんとな、予想以上の威力だった。

 

「いいなぁ……僕も魔法欲しいなぁ……」

 

「ヘスティア様もエイナさんも言ってましたよね? 書物等を読んで魔法の知識を深めれば魔法の発現率は増えると」

 

 どちらもそんな事を言っていたが……ベル君は座学がどうにも苦手らしく。同時に書を読むと言う行為もあまり好きではないらしい。体を動かすのは好きな様子だが。

 後、書と言っても、『英雄譚』は好きだが『学術書』は嫌いらしい。

 

「そうだよね……少し読んでみようかな……」

 

 そんな風に考えるベルを余所に魔石を拾いに向かう。

 

 転がった魔石は成人男性の小指サイズ……ミリアの手のサイズだと親指サイズだろうか。そんな小さな魔石を拾って周りに視線をやる。

 

 飛び散った血はどうやら()()らしい。肉片は消えているが飛び散った血が一面にへばり付いている。

 

 ビックリ系ホラゲーのマップに有りそう。扉を空けたら血生臭い臭いで充満したスプラッタ部屋とかで。

 

「そういえばもう一つ魔法あったよね?」

 

 思い出したとでも言う様に期待の眼差しを向けて来たベルに苦笑しつつも、最期の魔法の事を思い出してげんなりする。

 

 ニンフ型の使う最下級の召喚魔法は『プチワイバーン』なのだが……

 

 ミリアの覚えている召喚魔法は『シールワイバーン』である。

 

 『封印されし翼竜(シールワイバーン)』。

 

 名の通り封印されて弱体化しているワイバーンであり、封印解除を行えば下級の『ワイバーン』よりも強い個体になるんだが……

 

 『ミリカン』内部では使()()()()()()()()()()()()()()を争う様な魔法だったからなぁ。

 

「まぁ……詠唱しますね。一応……距離をとっててください」

 

 両手を前に突き出して意識を集中させる。

 

 詠唱文を思い出して脳内で唱えつつ、口に出して詠唱を始める。

 

「『呼び声に答えよ』『サモン:シールワイバーン』」

 

 

 

 

 現れるのは複雑怪奇な魔法陣。

 

 小さく、されど響き渡る竜種独特の咆哮。

 

 大きくなる魔法陣の揺れと共に、魔法陣がギシギシと悲鳴を上げる。

 

 悲鳴は甲高い音に代わっていく。

 

 徐々に、この世ならざる存在を、この世に引き寄せる為の魔法陣が瞬き、輝き、光を放つ。

 

 直視を躊躇う極光の中に、その存在は姿を現した。

 

 

 

 淡紅銀鉱を職人が手塩をかけて精密に削り出したのではないかと言う鉱石の光沢を持つ鱗。

 

 額より突き出ているありとあらゆるモノを貫いて尚傷つく事など無いと言わんばかりの氷晶石を磨き上げたような一本の鋭い角。

 

 まるで溶けた岩がそのまま膜質となったような翼が大きく広がり、逆立って震え、その振動が空気を揺らす。

 

 恐ろしい形相とは別に、その瞳に映るのは英知を示す輝き。

 

 これが竜種か、其れこそ竜種だ。

 

 伝承の中に語られ、討伐する事は英雄の誉れとも言われる最強の種。

 

 その姿が今此処に現れ出でた。

 

 

 

 

 魔法陣の光が弾けとび散り、輝きを纏った翼を振るい、光の粒子を散らす。

 

 そして、その翼竜は大きく咆哮を上げた。

 

「キュィーッ」

 

 可愛らしい甲高い鳴声に、ベルが完全に思考停止しているのを確認しつつも、現れた『封印されし翼竜(シールワイバーン)』に手を伸ばす。

 

「キュイキュイ」

 

 嬉しそうに鳴き声を上げながら、『封印されし翼竜(シールワイバーン)』は()()()()()()()()()()()()

 

 何かがおかしいって?

 

 別に普通だろ。恐ろしい、最強の種?

 

 子猫サイズのワイバーンだぞ? 恐ろしいも糞も無いだろ。

 

 

 ははっ……この魔法はミリア専用魔法でな……通称は、『愛玩用ワイバーン呼び出し魔法(サモン:ペット)』である。

 


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