終焉の聖騎士伝説~オメガモンとなった青年の物語~   作:LAST ALLIANCE

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いよいよ今回から本格的に話が始まります。
この小説はデジモンのゲーム(『リ・デジタイズ』や『サイバースルゥース』のストーリー)を参考にしながら、デジモンらしさを追求していこうと思います。
第1話は聖騎士の新生がタイトルになっていますが、日常の崩壊と非日常の襲来がメインとなっています。ではお楽しみ下さい。


第1話 聖騎士新生

「ふぁ~あ、よく寝た……」

 

 綺麗に整理整頓されている和室。その中で一人の青年が目を覚まし、起き上がりながら大きな欠伸をし、軽く伸びをする。

 八神一真(やがみかずま)。地元の中小企業に勤める25歳の青年。彼は意識を覚醒させながら立ち上がり、視界がはっきりするまで少し遠くを眺める。

 響き渡る目覚まし時計の機械音声(アラーム)が一真の意識を覚醒させた。彼が使う目覚まし時計の機械音声(アラーム)はとあるアニメのオープニング曲。

 そのアニメを毎週欠かさずチェックしている一真の大好きな曲なのだが、もう少し聴いていたいという思いを抑え込み、目覚まし時計の上側のボタンを押し、機械音声(アラーム)を止める。

 

「今日は8月1日。楽しみだな……」

 

 布団から出た一真はカレンダーを見て、今日の日付を確認する。8月1日。一真にとって、この日は友人と会い、色々と楽しい事をする予定なのだろう。

 ウキウキしながら時間を確認すると、置き時計の2つの針は7時と30分の所を指していた。出発する時刻までかなり余裕がある。

 それまでにやる頃を頭の中でリストアップさせながら自室のドアを開けると、玄関のチラシ入れに入っている新聞を取り、リビングへと足を運ぶ。

 

(今日は休日だからまだ誰も起きて来ないよね……)

 

 一真の部屋は1階にあり、彼の両親の部屋は2回にある。一真は眠気覚ましのコーヒーを入れると、新聞を静かに読み始める。

 傍から見ると、何処にでもいる父親のような気がしないでもない。チラシにも目を通すあたり、何かこだわりがあるのだろう。

 

「やっぱり最近は物騒なニュースが多いな……」

 

 一真は溜息を付きながらリモコンを手に取り、操作してリビングに設置されているテレビの電源を付け、ニュース番組にチャンネルを合わせる。

 ニュース番組では昨日あったニュースが報道されている。テレビの画面にはアナウンサーが使っているマイクを右手に持っている男性記者が映っている。

 

『昨夜六時半過ぎ、こちらのマンションから巨大なクワガタのような生物が飛んでいるという目撃情報がありました。警察が調べた所、従来のクワガタとは何もかもが違うと言われている為、更なる目撃情報の収集と調査が進められています』

 

 ニュースの内容は昨日の夕方、とあるマンションから謎に包まれたクワガタのような姿をした新種の生物が目撃されたという事だ。

 テレビ画面には新種の生物の目撃者が住んでいる大きなマンションが映し出され、画面右側のテロップには『新種の生物、またも発見される』と書かれている。

 

「最近このようなニュース、多いな……」

 

 一真は朝食の準備をしながらテレビ画面を見ているが、溜息を付いている。あまり良いニュースではないと考えているのだろうか。

 ここ最近は未確認・新種と思われる生物の目撃情報が相次いでいる。直に何か事件になる事が目に見えているのだろう。だからこそ一真の表情は険しい。

 オーブントースターに食パンを2枚入れて焼きながら、冷蔵庫からベーコンとマーガリンを出す一真。彼はコンロのスイッチを付け、フライパンを熱しながら油を敷いた。

 

(でも新種の生物って一体何だろう……?)

 

 ニュースの内容に耳を傾けながら、一真はフライパンで焼いたベーコンをお皿に移し、チーンと音が鳴ったオープントースターから2枚の食パンを取り出し、お皿に乗せる。

 その2枚のお皿を食卓の上に置き、飲みかけのコーヒーが入っているコーヒーカップを持って来ると、1人だけの朝食を始めた。

 朝食を終えた一真は洗面所で歯を磨いて顔を洗うと、自室に戻って布団を押し入れに片付けてから外出用の服装に着替える。

 クリーム色の洋服箪笥の引き出しの1つを開き、その中から白いTシャツを取り出し、その引き出しを閉める。

 それからその下の引き出しから紺色のジーンズを取り出して引き出しを閉めると、ジーンズにベルトを通す。

 着ているパジャマを脱いで取り出した服を着ると、着ていたパジャマを抱えて洗面所に行き、洗濯カゴの中にパジャマを入れると、そのまま自室に戻る。

 カバンの中にスマートフォンや免許証等の必要な物を一通り入れると、一真は玄関に足を運び、スニーカーを履く。

 そして誰も起きていないにも関わらず、律儀に挨拶をしてから駐車場に泊めてある自分の車に乗り、家を出た。

 

「行ってきます!」

 

 これが一真の休日。家にいてのんびり過ごす時もあれば、こうして外出する時もある。彼の日常はこの日も続く……筈だった。

 

 

 

 8月1日は祝日ではない。それでも一真にとっては大切な記念日。何故なら8月1日はデジモンの日と呼ばれているからだ。

 『デジモンアドベンチャー』で選ばれし子供達が初めてデジタルワールドに旅立った記念日。それがデジモンの日。デジモンファンにとって、この日はアニメのデジモンシリーズ全体の記念日とされている。

 この年の8月1日は例年通りの熱い夏。太陽の日差しが照り付け、歩行者の中には日傘を差したり、帽子を被ったり、団扇で仰いだりしている人がいる。

 歩行者を見守るように広がる青空。そこでは綿菓子を思わせるような複数の入道雲が泳いでいる。まるで下にいる人間達に構わないと言わんばかりに。

 空に届けと言わんばかりに立ち尽くす数々の建物。その室内には冷房によって形成された冷たい空気が流れている。そこは外の熱さを遮断し、涼しく心地よい場所となっている。

 

「着いたか……時間には少し早かったな」

 

 左手首に付けている腕時計をチラ見し、現在の時刻を確認する。今は9時30分。一真は友人と喫茶店の前で待ち合わせをしている。

 車は喫茶店の隣にあるパーキングに泊めてある。そこは料金が安く、使い心地が良い為、色々な目的で使われている。

 

「にしても人多いな……休日の朝だからか?」

 

「よぉ、遅くなって悪いな」

 

「そんなに待ってないよ、武蔵」

 

 一真の所に来たのは石田武蔵。一真の親友であり、待ち合わせの相手。挨拶代わりにハイタッチを交わす。

 待ち合わせを済ませると、一真の車に乗った2人。一真が運転席に、武蔵が助手席に座り、エンジンを吹かしてアクセルを足で踏み、デジモンメモリアルとして聖地巡礼のドライブへと向かっていく。

 

「なぁ一真、今日のニュース見たか?」

 

「見たよ。マンションで巨大なクワガタっぽい謎の生物が目撃されたって奴だろ?」

 

「あれさ、他にも目撃した奴がいるんだけど、そいつの『Twitter』を見る限り、どうもあれクワガーモンっぽいぞ?」

 

「確かなのか? それ」

 

「あぁ。これだ」

 

 信号が赤信号になり、青信号に変わるのを待っている間、武蔵は一真と昨日のニュースについて話をし始める。

 武蔵がスマートフォンの画面を見せると、その画面には昨日の夕方に目撃された巨大なクワガタっぽい謎の生物が映し出されていた。

 

「……確かにクワガーモンだな。というか、クワガーモンって 『デジモンアドベンチャー』で選ばれし子供達が初めて戦ったデジモンだろ? 正確に言うと、彼らのパートナーデジモンだけど」

 

「あぁ、もしかしてデジタルワールドから遥々祝いに来てくれたのかもな」

 

「だと良いけど。ここ最近はよく自然災害が起きるけど、それはあくまでこの世界の話。デジタルワールドという異世界の話になると、話が複雑になる。それに……嫌な予感がするんだ」

 

「それを言うな。お前の言う嫌な予感は高確率で現実になるからさ」

 

「分かった。言わないように気を付けるよ」

 

 悪い事が起こりそうな時にだけ、一真の直感は冴え渡る。それは昔からだ。良くも悪くもその直感に一真や友人達は助けられた。

 平和。戦争や内乱がない状態。それはきっと今のような状態の事を指すのだろう。ありふれた日常。それこそが一真や武蔵にとっての平和なのかもしれない。

 そのありふれた日常を侵食しようと、次第に迫り来る非日常。だからこそ、せめて今だけでもこの平和な時間を楽しんでいたかった。

 平和ボケと言われても仕方ない。戦争や内乱といった争い事はないに越した事はないのだから。

 

 

 

 ゆりかもめの一日乗車券を購入し、デジモンの聖地を巡礼している一真と武蔵。時間は午後0時となった。

 日差しが次第に強くなるに連れて、東京都民も飲む水の量と、タオルで汗を拭く回数が次第に増えて来た。

 その上気温が高くなると、熱中症の恐れが出て来る。それを知っている一真と武蔵はチェーンのラーメン店に入り、昼食を取っている。

 既に彼らの目の前には醤油ラーメンの大盛りが入っている大きな丼が2つ、餃子が盛られているお皿が1つ置かれている。

 

「なぁ、もしこれがデジタルワールドと人間界が繋がったとしたら、どうする?」

 

「どうするも何も僕らには何も出来ないよ。成熟期なら自衛隊でもどうにかなるけど、完全体以降は米軍呼んでもキツイし。というか最悪、世界滅びるよ?」

 

「まぁ、『シン・ゴジラ』のような事になったら嫌だしな……」

 

 夢見がちな武蔵と比べ、一真は現実的だ。大学卒業後に入社した企業をパワハラで1年で退職し、就職活動で苦労しながらも、ようやく今の職場に辿り着けたのだから。

 いつまでも夢を見ている時間もないし、そういう事を語れる年代でもない。それを理解しているからこそ、どうしても言う事が現実的かつ理論的になってしまう。

 

「僕らはただの一般市民だ。何も出来ないよ。政治家や警察、自衛隊じゃないんだから」

 

「じゃあさ、これはどうよ? ある時、究極体デジモンになったとしたら」

 

「そのデジモンによるな。ピンキリいるし、まぁ無難なのは『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』だな。基本負けないし」

 

「……相変わらず、お前と話していると面白くも何ともないよ」

 

「悪いな。見て来た物で色々あったから……」

 

「冗談だよ。お前のような友達がいて俺は嬉しいよ」

 

 申し訳なさそうに謝る一真を見た武蔵はラーメンを啜り始め、一真も同じく目の前のラーメンを啜り始める。

 ちなみのこのチェーン店のラーメンは全国でも美味しいと評判の名店であり、2人がよく来るお店である。

 

 

 

 ラーメン店を出た2人が引き続き聖地巡礼を続けていると、突如として2人の上空に巨大な黒い穴が出現した。

 突如として発生した巨大な黒い穴。それを目にした誰もが立ち止まり、中には指を差したりする人もいる中、一真と武蔵も立ち止まった。

 

「何だ?」

 

「ワームホールか?」

 

 一真の呟きが正解と言わんばかりに、巨大な黒い穴もといワームホールの中心から一体の“何か”が地上に向けて落下し、危なげなく地上に二本の足を着地させる。

 その“何か”の姿を見ようと、周囲にいた誰もが“何か”を目にした途端、驚きと恐怖で固まる事しか出来なかった。

 

「おいおい、マジかよ……一真、お前の予感……やっぱり当たったな」

 

「あぁ、当たったよこの野郎。しかも最悪の可能性だ。よりにも寄って来たのが悪魔(ディアボロス)だしな……」

 

「勘弁してくれよ。究極体デジモン……ディアボロモンじゃねぇか!」

 

 目の前に降り立ったのは悪魔。名前の元ネタとなったのはディアボロス。ギリシャ語で悪魔という意味の単語。

 悪魔の外見はオレンジ色の髪を棚引かせ、胸にエネルギー砲と思われる砲身が埋め込まれ、関節と言う部分が存在しない長い腕を持っている。その名前はディアボロモン。

 名前を知らなくても、その不気味な外見と全身から溢れる強大なオーラで周囲にいた人々は助けを求めて逃げ出したり、中には腰を抜かして倒れ込み、その場から動けなくなった者もいる。

 

「どうする?」

 

「どうするって言っても、あいつ僕の方をじっと見ているぞ? 武蔵、お前なんかどうでも良いみたいだ。あいつは僕を殺したいらしい」

 

「まさか“近くにいたお前が悪い”みたいな感じか?」

 

「まぁそういう事だ」

 

 思わず笑いたくなる程、状況は最悪だ。ディアボロモンは一真の方をジッと見つめ、今にも飛び掛からんと言わんばかりの勢い。

 一真はこの場所から逃げ出したいのだが、究極体が宿す世界を滅ぼす程の強大な力、圧倒的なオーラと殺意、何を考えているか分からない視線に腰を抜かし、夏にも関わらず、寒気を感じている。

 胸の動悸と全身の震えが止まらない。これが究極体。デジタルモンスターの進化の最終段階。ピンからキリがいるが、世界に影響を及ぼしたり、最悪世界を滅ぼす規模の威力を持った攻撃力を持っている者が数多い。

 ディアボロモンはその中でも中堅~上位クラスに名を連ねる実力者。その上厄介な特殊能力を秘めている。

 

「武蔵、動けるか?」

 

「何とか……この場所から逃げ出す事は出来そうだ」

 

「そうか……なら君は逃げろ。僕を見捨ててくれ」

 

「なっ!? 何を言っているんだ……お前を見捨てる事なんて出来る訳が……」

 

「頼む。僕はもう……駄目だ」

 

「一真お前……」

 

 武蔵は気付いた。一真はディアボロモンに殺意を向けられた時点で詰んでしまった事を。その証拠に一真は動く事が出来ず、その場に座り込んでいるままだ。

 走って逃げる事が出来る武蔵と、走って逃げる事が出来ない一真。この時点で一真は運命を受け入れた。

 

「僕を見捨てて逃げてくれ。せめて武蔵、君だけでも……」

 

「何ふざけた事言ってんだ! ここでダチを見捨てたら、俺は一生後悔する事になる! ほら立て! 一緒に逃げて明日を生きるぞ!」

 

「武蔵、危ない!」

 

 動けない一真を立たせながら自分の肩を貸して逃げようとする武蔵。彼の目の前に迫り来るディアボロモンに気付いた一真は、武蔵を助けようと突き飛ばした。

 ディアボロモンの右手の爪が一真の胸を貫き、辺り一面に血の花を咲かせる。思わず時間が停止したような錯覚。それ程の速さでディアボロモンが動いた。

 

「ガッ、アァッ……」

 

「一真ァァァァーーーーーーーー!!!!!!」

 

 周囲に響くは武蔵の叫び声。右手の爪が引き抜かれ、一真は自分が流している血の海の中に倒れ込んだ。

 武蔵はディアボロモンが見ているにも関わらず、一真を抱き起すと、一真は口から大量の血を吐きながら武蔵の顔を見る。

 

「一真しっかりしろ! お前はこんな所で死なないよな!?」

 

「死なないと言いたいけど、ちょっと無理だね……もう駄目だ。視界が霞んで何も見えないよ……」

 

「一真! 一真!」

 

「武蔵……僕の分まで生きろ。ありがとう……こんな僕の友達でいてくれて」

 

「一真ァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 

 一真は武蔵に激励と感謝の思いを伝えると、目を閉じて安らかな顔をしながら深い眠りに付いた。

 目の前で死んだ親友。八神一真。彼を心から大切にしている武蔵は大粒の涙を流しながら、慟哭に満ちた叫び声を上げた。

 

 

 

(ここは……)

 

 一真が目を覚ました場所。そこは上下と前後、それと左右。ありとあらゆる所が真っ黒な空間。辺りをキョロキョロと見渡しながら、一真は自分が死んだ時を思い出していた。

 

(僕は友達を庇って死んだ。その事に何の後悔も無ければ、未練もない。でもただ一つあるとすれば……最後まで当たり前の日常で生き、当たり前の日常の中で死にたかった)

 

 一真は自分が死んだ事に対して負の感情は抱いていない。人間はいつかは死ぬと割り切っているからだ。

 しかし、未練はあった。それは平和な日常で生き、ありふれた日常の中で死にたかったという願いだ。

 

(日常が理不尽な悪意によって破壊され、多くの人が巻き込まれていく。それが何より許せない。僕に力があれば何とか出来たのに……)

 

(力が欲しいか……?)

 

(誰だ!?)

 

 右手を見ながら悔しい思いをする一真。そんな彼の耳に何処かから何者かの声が聞こえて来た。

 その声が聞こえて来た方向と、その声の主を探そうと一真は辺りを見渡すが、声の主は分からず、方向さえも掴めない。

 

(あの悪魔を倒す力が欲しいか……?)

 

(欲しいよ……力さえあれば僕はあの悪魔を倒し、皆を守れるのに……)

 

(そうか。その思いは本物だな)

 

 謎の声が聞こえたと同時に空間を眩い光が照らしだし、真っ黒な空間は真っ白な空間へと作り替えられる。

 その空間の中央に立っている一真。彼の前におぼろげな白い影が現れた。しかし、一真には分かる。その影が一体誰なのかという事が。

 

「貴方は……!」

 

「初めまして、と言うべきだな。私はオメガモン」

 

 白い影はオメガモンと名乗り、一真を唖然とさせた。一真にとってオメガモンは絶対的な英雄であり、憧れでもある。

 

「オメガモン……僕は八神一真と言います」

 

「一真か、良い名前だ」

 

 優しく微笑むオメガモン。彼は聖騎士として完璧だった。忠義も厚く、余程の事がない限りは裏切らない。性格も良い。その上無敵の力を誇っている。

 そんな彼にも未練があった。それは“最後まで盟友達と共に戦えなかった事”だ。“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”が始まる前、敵の首領と幹部との戦いで倒された。2人がかりで、しかも秘奥義を封じた上で。

 彼は最後まで盟友達と共に戦うどころか、“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”に参加する事さえも出来なかった。

 彼の波動(コード)は次世代を担う少年に引き継がれ、彼の意志を継いで電脳世界を平和な世界に戻した。それに関して言えば、何の悔いもない。

 ただ、最後まで盟友達と戦う事が出来なかった事に未練がある。その思いを汲んだのか、何者かが遣わせた。オメガモンは少なからずそう思っている。

 

「貴殿の願いは悪魔を倒し、皆を守る事だな?」

 

「そうです。貴方の願いは?」

 

「今度こそ最後まで戦い抜く事だ。確かに戦う事は出来た。でも盟友達と共に戦えず、一人孤独に死んだ。だからこそ私は願う。次は必ず死ぬまで生き、最後の一瞬まで戦い抜く事を。それが例え戦いであっても、己の運命でも構わない」

 

 オメガモンが抱く真摯な思いと願い。それに胸を打たれ、一真は次に何を言おうか考える事が出来なくなった。

 その時。目の前の風景が変化した。死ぬ最後の一瞬に見た風景。目の前にいるのはディアボロモン。どうやら一度時間が巻き戻り、同じ時間に来たらしい。

 

「ディアボロモン……!」

 

「怖いのだろう? 悪魔が。ディアボロモンが。当たり前の日常を破壊しようとする悪意が。戦え! 勝利しろ! それしか道がない!」

 

 目の前に存在する破滅の悪魔。戦わなければならない。でもその方法が分からない。思わず立ちすくむ一真に、オメガモンは叱咤激励をする。

 一真がディアボロモンと相対すると、目の前に一本の剣が地面に突き刺さっている事に気が付いた。それは真っ白い聖剣。刀身に何かの文字が刻まれている。

 

「オメガブレード……!」

 

「聖剣を引き抜き、戦え!」

 

 オメガモンの言われるがままに、オメガブレードの柄を持って引き抜こうとする一真。しかし、余程地中に深く埋まっているのか、一真はオメガブレードを引き抜く事が出来ず、終いには尻餅を付いた。

 恐怖で震える一真に歩み寄るオメガモンは、彼を見下ろしながら声をかける。その声色は何も変わっていない。

 

「どうした? 戦いたくないのか?」

 

「違う! 戦いたいけど、怖くて出来ないんだよ! 僕は本当に悪魔に勝てるのか、いやそもそもオメガブレードを使って戦えるのか……不安で心配で、怖いんだよ! 自分が使うであろう剣や力が、あいつの力が怖くて戦いたくても戦えないんだ!」

 

「何かと思えば、そういう事だったのか。それで良い。その心を忘れないでくれ」

 

 戦う事への恐怖や不安。自分への情けなさで涙を流す一真。彼の頭を優しく撫でながら。オメガモンは宥め諭すように一真に話し掛ける。

 それは聖騎士からの教え。戦うという行為への心構え。聖騎士としてどう在るべきか。その授業のように思える。

 

「聖騎士にとって一番大事なのは戦いを恐れる事だ。戦う事は私だって怖い」

 

「えっ? オメガモンも?」

 

「そうだ。私にとって最後の戦いは秘奥義を封じられての戦いだった。いわば全力を出せない戦いだった。一真、貴殿は自分と相手の力を怖いと言った。不安で心配でどうしようもなかったのだろう。それで良い。それが正しい。それが一般人たる貴殿の感覚だから。でもそうは言っていられない。こうしている間に悪魔は人々を殺戮しているだろう。貴殿がやらずして誰が皆を守るのか?」

 

「……あぁ、もう1度やってみる!」

 

 心の中に巣食う不安や心配、恐怖といったネガティブな感情や思い。それらを全て気合で捻じ伏せ、一真はもう1度オメガブレードを手に取る。

 刀身が途中まで大地に深々と埋まっている聖剣の柄を掴み、引き抜く為に全身の力を込める。目の前の悪魔を倒す為に。

 もう迷いはない。オメガブレードの柄をしっかりと両手で握り締め、一気に引き抜こうとするが、中々抜けない。

 

「クソッ、抜けない!」

 

 全力を出しても抜けるどころか、1ミリたりとも動かない。まるで埋まっている刀身を何者かが掴んでいるみたいだ。

 でも抜かなければならない。抜かなければ誰かが死ぬ。それに対抗する為に必要なのは力と意志。それをオメガモンから今教えられた。

 

「一真。求められているのは貴殿の決断。求めているのは貴殿の意志。例えもう二度と平和な日常に戻れないとしても、もう当たり前の暮らしが出来なくなるとしても、剣を取って戦う意志はあるのか? その思いは本物なのか?」

 

「……例えこの剣が使えなくても、抜く事なら出来る筈だ! 僕に戦う意思があるのなら……戦えない皆の為に僕が戦う!」

 

 一真の思いに応えるように、オメガブレードはいとも簡単に抜けた。刀身から発する光を受け、目の前の悪魔が消え去っていく。

 

「抜けた……!」

 

「合格だ。貴殿は私の力を振るう資格があると分かった」

 

 オメガモンから告げられた合格証明。それをぼんやりと聞きながら、一真は意識を手放した。オメガブレードが消滅し、聖剣から発せられる光が優しく彼を覆い包んでいる。

 それに気付いた時、一真は意識を手放した。まるで光が一真を現実世界へと送り届けるように。それまでゆっくり休むように告げているようだった。

 

 

 

「ッ!?」

 

「何だ?」

 

 突如として発生した現象にディアボロモンは動きを止め、武蔵が一真の方を見る。何時の間にか血の海は消え去り、一真の身体は光り輝いている。

 一体何が起きているのか。それを考えていると、一真の身体は青空へと舞い上がり、巨大な光の卵へと変化し、静かに上空に浮かび始める。

 先程はワームホールが出現し、今度は巨大な光の卵。周囲一帯にいる誰もがジッと見つめる中、光が次第に消滅し、その中から1体の聖騎士が姿を現した。

 

「マジかよあれって……!」

 

 その聖騎士は地上に向かってゆっくりと降下し、危なげなく地面に二本の足を着地させ、顔の前で交差させていた両手をゆっくりと振り下ろす。

 その聖騎士の姿を見ようと、周囲一帯に集まっていた誰もが目にする中、聖騎士の事を知っている武蔵は興奮を隠さず、大声を上げた。

 

「最高じゃねぇか! 一真の奴、オメガモンになりやがった!」

 

 その聖騎士は全身を純白に輝く聖鎧で身を包み、背中に内側が赤色で、外側が白いマントを羽織り、右肩に金色の三本の突起が付いているアーマーを装着し、右手が蒼い狼を象った籠手となっている。

 左肩には勇気の紋章を象った黄金の盾―『ブレイブシールドΩ』を装備し、左手が黄金の竜を象った籠手となっている聖騎士。

 聖騎士の名前はオメガモン。2体の究極体デジモン、ウォーグレイモンとメタルガルルモンが世界中の人々の平和を願う強い思いで融合合体して誕生した。

 究極体を超えた究極体。超究極体。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に名を連ねる最強無敵のデジモン。

 “巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”が始まる前に命を落としたが、八神一真を依り代にして憑依する形でここに新生した。

 

「すげぇ!」

 

「かっこ良い~!」

 

「美しいわ~!」

 

「綺麗……」

 

 神話に登場しても何一つおかしくない荘厳な美しさ。圧倒的な力。それらを兼ね揃えたオメガモンに誰もが圧倒されている。

 ディアボロモンは強い。自分達の想像を遥かに超えた強さを持っている事を。それは分かる。だが、それ以上にオメガモンの方が遥かに強いという事が彼らにも分かった。

 

(何で僕がオメガモンになれたか、オメガモンが僕を選んだかは分からない。でも僕はオメガモンになった。これは事実だ)

 

 一方のオメガモンこと一真は自分の両手を見ながら感覚を確かめ、目の前にいるディアボロモンと正対する。

 光と闇。善と悪。とある別世界から始まった因縁。その戦いがこの人間界でも始まろうとしている。

 

(僕がやる事は決まっている。やれる事を全力でやるだけ。先ずはディアボロモンを倒す!)

 

 右足を一歩前に踏み出し、両拳を握り締めながら構えを取るオメガモン。ディアボロモンからの重圧は相変わらずだが、全く何も感じていない自分に気が付いた。

 空間をも覆い尽くす殺意を叩き付けられても、全く動じていない。むしろ昂っている自分がいる。兜の中で苦笑いを浮かべながらも、決意を固めたのか表情を引き締める。

 オメガモンという聖騎士は人間界で新生した。そしてこれが始まるのは八神一真ことオメガモンの初陣。その相手は因縁の相手、ディアボロモン。

 




当たり前だった日常が崩壊し、非日常が到来した第1話。
ある意味ではありきたりの展開だったと思います。
この小説のオメガモンは漫画版『デジモンクロスウォーズ』のオメガモンと同一個体という設定です。あんまり関わっていませんでしたが(苦笑)
次回はオメガモンVSディアボロモンです。お楽しみに!
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