終焉の聖騎士伝説~オメガモンとなった青年の物語~   作:LAST ALLIANCE

12 / 48
どうも。実際にオメガモンになったら、色々と生活するのに大変そうだと思うLAST ALLIANCEです。
今回はかなり意外なキャラ達が登場しますが、これもこの小説の特徴です。
ではお楽しみに!


第3話 スカウトされ、転職する聖騎士

「朝か……」

 

 8月2日。この日は月曜日。社会人にとって、月曜日は凄く嫌な曜日だ。休日から平日に引き戻され、労働を余儀なくされるのだから。

 不安や心配で落ち込む人もいるが、今回の八神一真の場合は違う。何しろ状況が余りにも特殊過ぎる。

 

(そうだ……僕は昨日死にかけてオメガモンとなった……)

 

 時刻は6時。普段なら30分後に目を覚ましている一真だが、この日はいつもよりも早く目を覚ました。

 その理由の出来事。ディアボロモンの襲撃で死にかけ、オメガモンとなって復活。そこからディアボロモンとの戦闘に突入し、苦戦しながらもディアボロモンを倒す事に成功した。

 昨日は戦闘による疲労と、能力を使用した事によるフィードバックで早めに休んだ。寝たのは9時。そこから9~10時間睡眠を取ったと言える。

 能力を使用した事によるフィードバック。それは頭痛という形で起きていたが、目を覚ました時には無かった。どうやらキチンと休めば治る仕組みになっているみたいだ。

 

「もう僕は人間でなくなった……戻れないんだな昨日までの日常に……」

 

 起き上がった彼は両親に気付かれないよう、静かに涙を流した。オメガモンとなった彼はもう戻れなくなった。当たり前だと信じていた日常に。

 その証拠が一真の心臓。ディアボロモンによって殺された時に破壊され、オメガモンとして新生した時、人間の心臓ではなくなった。

 心臓は心臓なのだが、それはデジモンの心臓。その名前は『電脳核(デジコア)』。人間の心臓とは同じ音を、それでも人間とは違う鼓動を確かに鳴らしている。

 オメガモンが繋いでくれた命。それは実感しているし、感謝はしている。それでも代償が大き過ぎる。もう二度と取り戻す事が出来ない物と引き換えだったのだから。

 

「でも前に進まなきゃ……これは現実なら受け入れるしかない。これからどうなるかは分からないけど、僕はやれる事をやるだけだ。そして死ぬまで生きる」

 

 それでも彼は前に進む。自分の命を繋ぎ止めている聖騎士の為にも。“戦えない全ての人々の為に戦う”と決めた自分の為にも。そして助けを求める人々の為にも。

 目覚まし時計の上側のボタンを押して機械音声(アラーム)を止めると、ティッシュで目の部分を拭いて立ち上がると、リビングへと向かっていく。

 

「おはようございます」

 

「おはよう……あら、今日は早いのね。昨日しっかり眠れた?」

 

「おかげ様で」

 

 リビングに入ると、両親に挨拶する一真。それに答えたのは母親の八神涼子。大人の色気を漂わせる為、買い物に出ては必ずナンパされる程の美しさだ。

 しかし、彼女のマイペースぶりに付いていけず、心をバキバキに折られる人が続出している為、一部では“ナンパ殺し”の異名を持っている。

 

「一真、昨日の白い騎士がニュースに出ているぞ~?」

 

「そうだね……(言えないよなぁ。その白い騎士が僕でしたなんて)」

 

 父親の総司がニヤニヤと話し掛けると、一真は苦笑いを浮かべた。まさか昨日の白い騎士が自分だった事を口が裂けても言う事は出来ない。

 ニュース番組では昨日のオメガモンとディアボロモンの激闘が報道されている。その映像を見た一真は何かに気が付いた。

 

(変だなぁ……東京湾にいた誰かが撮っていたとは思えないくらい、精密な映像なんですけど)

 

 その映像はまるで近くで撮っていたと思える程、とても臨場感がある。まるで特撮番組を見ている気分になれる程に。

 こうして見ると戦闘の自分の未熟さを突き付けられるが、仕方がない。何しろ昨日が初めての戦闘だったのだから。がむしゃらに、必死に戦うしか無かった。

 後オメガモンの能力を使えた為か、後半はディアボロモンを圧倒する事が出来たが、そのフィードバックが大きかった。

 

(強くならないとな……心も、体も)

 

「2人共、朝ご飯出来たわよ~!」

 

 一真がそう思っていると、朝食の準備が終わった事を涼子が伝える。その知らせを聞いた2人は食卓に備え付けの椅子に座り、手を合わせてから朝食を食べ始める。

 朝食を食べ終えた一真は洗面所で歯を磨く。心臓が『電脳核(デジコア)』に変わったぐらいで、それ以外に変化はない。そう思っていた。そう信じていたかった。

 

「……あれ? 僕って髪染めていないよな?」

 

 髪をよく見ている一真。僅かではあるものの、銀色のメッシュが入っている。彼の髪は短めだからこそ、余計に目立ってしまう。

 一真は髪を染めた事は一度もない。元々の黒い髪をずっと維持し続けて来た。それなのに僅かに髪が銀色に染まっている。考えらえる理由は一つだけしかない。

 

―――“デジモン化”が始まっている。

 

「勘弁しろよ……もう少しだけ人間でいさせてくれよ」

 

 その事実に打ちのめされ、目の前が真っ暗になった一真。やはり昨日の戦いで能力を使ってしまった。

 それでも両親を心配させまいと思ったのだろう。気を取り直してうがいをしてから顔を洗い、自室に戻って布団を押し入れに片付ける。

 そこからパジャマを脱ぎ、仕事用の服に着替える。一真の仕事用の服はスーツ。白いシャツの上にワイシャツを着てボタンをかけると、ネクタイを結んでズボンを履く。

 上着は手に持ち、車の中に吊るしてあるハンガーにかける。それが一真のやり方。しわがつかないようにする為だ。

 先程まで着ていたパジャマを抱えて洗面所の洗濯カゴの中に入れると、そのまま自室に戻って充電していたスマートフォンを仕事用のカバンの中に入れる。事前に財布や免許証は入れてある。

 玄関で革靴を履いて会社に向かおうとしている一真だったが、彼の自宅の前に一台の車が泊まった。その車はランボルギーニの車。

 その車の助手席から一人の女性が降りて来た。その女性は鋭い釣り目をしていて、黒い長髪をしている。スーツが似合う長身で、メリハリがあるボディラインが特徴。

 彼女が玄関のドアの目の前に立ってインターホンを鳴らすと、これから仕事に出掛けようとしていた一真が応対する。

 

「は~い!」

 

「すみません。貴方は八神一真さんですね?」

 

「はい。私が八神一真ですが、どちら様ですか?」

 

 その女性を一目見た瞬間、一真は気が付いた。彼女はデジモンである事を。しかも究極体デジモンの中でもかなりの実力者である事を。

 まさかディアボロモンと同じく、自分を抹殺しに来たのか。そう思って表情を強張らせるが、女性は懐から名刺を取り出し、一真に差し出す。

 

「初めまして。私は桐山鏡花(きりやまきょうか)。”電脳現象調査保安局”の主任をしています」

 

「”電脳現象調査保安局”……?」

 

 女性の名前は桐山鏡花。”電脳現象調査保安局”の主任。聞き慣れない組織の名前に一真が戸惑っていると、鏡花はニコリと微笑んだ。

 一体何を言いたいのか。それを考える一真だったが、鏡花は笑顔を崩さぬまま、一真の手を取った。

 

「えっ?」

 

「急でごめんなさい。実は貴方を本部に連れて来いと言われているので、ちょっと良いでしょうか?」

 

「いや仕事があるのですが……」

 

「あぁ、会社さんには事前に連絡しておきました」

 

「えぇっ!?……分かりました」

 

 何という手回しの良さ。自分が社会人で、何処の企業に勤めているのか。初対面なのにそれを知っている。恐らく事前に調べたのだろう。

 企業にはあらかじめ連絡をしてあると言われた為、何処か安心できるが、一体何の用事で自分を連れて行こうと言うのか。それが不安で仕方がない。

 それでも行くしかない。”電脳現象調査保安局”の本部に。自分が何の為に呼び出されたのか。それを知ってから決断しても遅い事は何もない筈だ。

 悩んだ末に答えを告げる一真。答えは最初から決まっていた、それでも悩んでいたのは相手が何者なのか分からなかった為。

 ランボルギーニの車の後部座席に乗った一真はシートベルトを締めると、鏡花から受け取った名刺を見る。そこに書いてある”電脳現象調査保安局”が気になり、鏡花に聞いてみる。

 

 

 

 

「鏡花さん、貴女のいる”電脳現象調査保安局”はどういう組織ですか?」

 

「簡単に言うと、この世界で起きている電脳現象を調査したり、解決している組織よ?」

 

「電脳現象?」

 

「昨日現れたディアボロモンのように、ここ最近デジモンが人間界で目撃されている。私達はそれを電脳現象と呼んでいるの」

 

 どうやら敬語は普段から言い慣れていないから、慣れていなかったのだろう。一真の質問に鏡花は普段の様子で答えていく。

 電脳現象。それはデジタルワールドこと電脳世界と関りがあると思われる現象。この場合はデジモンが人間界に迷い込んだ事を指している。

 

「何で人間界にデジモンが? ディアボロモンは分かりますけど……」

 

「昨日のディアボロモンは貴方狙いだったみたいね。でもいつものは違う。実は最近デジモン達が人間界で目撃される回数が増えてきているの。デジタルワールドにいる仲間と原因を調査しているけど、どうも答えが出ていないの」

 

「人間界とデジタルワールドが融合するんですか? 或いはデジタルワールドで何かが起きているとか……」

 

「う~ん、色々考えられるけど、確かな裏付けがない限りは机上の空論になるわ……」

 

 一体デジタルワールドで何かが起きているのか。鏡花達は一連の電脳現象の裏で起きている事が気になるのだが、それが分からない以上、とにかく調査活動を積み上げていく事しか出来ないでいる。

 

「でも一つだけ分かっている事がある。今回の黒幕はデジタルワールドを支配するだけでなく、人間界にも手を出そうとしている。その証拠が昨日よ。ディアボロモンを送り込み、貴方を消そうとした」

 

「何で僕なんですか?」

 

「そこまでは分からないわ。でも貴方はオメガモンとなり、ディアボロモンを倒した。凄い立派よ? だって貴方みたいにデジモンになれる人間なんかこの世界にはいないから。けどこれで奴らに目を付けられる。ここからが本当の戦いよ?」

 

「はい。分かりました」

 

 鏡花達が分かっている事。今回の事態には黒幕がいて、デジタルワールドと人間界を狙っている事。その黒幕の正体と目的までは分からないが。

 その上でディアボロモンを倒した一真を褒めるが、ここから本当の戦いが始まると忠告をする。鏡花の表情は真剣その物だから、説得力がある。

 

「ところで鏡花さん。貴女はリリスモンなんですね」

 

「正解。よく分かったわね」

 

「昨日オメガモンになりましたから。貴女を見ただけでシルエットが思い浮かびましたよ」

 

 鏡花の正体はリリスモン。『七大魔王』の一角であり、『色欲』を司る魔王型デジモン。『七大魔王』とは悪魔・暗黒系のデジモン達の頂点に立つ七体の魔王型デジモン。

 『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に対抗出来る力を持った数少ないデジモン勢力の一つだが、まとまりの無さが最大の弱点だ。

 

「よく『七大魔王』が人間界に来る気になりましたね。しかもちゃんとした仕事出来るのが驚きですよ……」

 

「そう思うでしょ? でもね、一真君。今のデジタルワールドは大変な事になっているの。私達のいるダークエリアも例外じゃないから、バルバモンとリヴァイアモンの皆も人間界に来て、それぞれ仕事をしているわ。いつか紹介するけど」

 

「えぇっ!?」

 

 どうやら事態は思っているよりも深刻らしい。ダークエリアにいる『七大魔王』の過半数が人間界に来ているのだから。

 普通なら絶対に有り得ない事態。だからこそ深刻なのだが、『七大魔王』の面子が真っ当な仕事をしている姿を想像する事が出来ない。

 一真は事態の深刻さは理解してはいるものの、それよりも先に『七大魔王』がまともに仕事をしている姿を想像出来ず、頭を抱え込んでいる。

 

「何か色々とあるんですね……頭が痛いです」

 

「そう言えば、一真君。貴方……“デジモン化”が始まっているでしょ?」

 

「ッ!」

 

 鏡花ことリリスモンの真剣な表情。その瞳に触れて欲しくなかった事実を言われ、一真の表情が強張る。

 一真の髪に入った銀色のメッシュ。それを目にした時点で鏡花は気付いていた。一真の身体で“デジモン化”が発生している事を。

 

「……やっぱりね。昨日使ったでしょ、『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』」

 

「はい……すみません」

 

「誰も貴方を責めたりしないわ。貴方は初めて戦った。しかも相手は究極体のディアボロモン。よく頑張ったわ。能力を使ったのは仕方ない事よ。これから頑張って、二度と能力を使う必要がないくらい強くなりましょ?」

 

「はい!」

 

 本来、鏡花ことリリスモンは悪に対しては寛大だが、善に対しては冷酷非道の施しをすると言われている。

 しかし、立場が立場なのか、或いは人間界で生きる中で様々な苦労を積み重ねたのか。優しくも厳しいお姉さん的キャラとなっている。

 

「実は昨日の戦いを私も観させてもらった。ディアボロモンが来た時から倒されるまで、独自の方法で。だから今日のニュースにその時の映像をリークしたの。皆に今起きている事実を知って欲しくて」

 

「そうだったんですか……」

 

「さてもうそろそろ近付いて来たわよ? 貴方の転職先の”電脳現象調査保安局”が」

 

「転職先!?」

 

 鏡花があっさりと言った“転職先”という言葉。確かに会話の流れ的には正しいのかもしれないが、いきなり言われると、心の準備がまだ出来ていない。

 一真が口をポカーンと開けた状態で固まっていると、それを見た鏡花がクスクスと意地悪そうな笑みを浮かべる。

 

「今日は挨拶代わりの顔出しだから、それが終わったら企業さんに行って退職の手続きをしてもらって」

 

「あっ、はい……」

 

「私達は貴方を正社員として迎え入れるわ。ようこそ、”電脳現象調査保安局”……通称“DATS”へ」

 

 鏡花から差し出されたパンフレットを受け取った時、一真の中で“ピシリ”という音が聞こえると同時に、“バリン”という大きな音が鳴り響いた。

 この音は当たり前だと信じていた日常が崩れ去り、非日常が訪れたという知らせ。もう二度と今までの日常には戻れない。そうパンフレットには書かれているように思えた。

 

 

 

 

 

「私は薩摩廉太郎。”電脳現象調査保安局”、“DATS”の本部長だ」

 

「薩摩のパートナーのクダモンだ。よろしく」

 

 鏡花に案内され、本部長室に入室した一真。彼を出迎えたのは常にサングラスをかけた、厳しくも熱い男性―薩摩廉太郎。

 もう1体は薩摩の肩に乗っているクダモン。左耳にイヤリングを付け、聖なる薬莢を常に尻尾に巻きつけ、白い狐のような姿をした小型のデジモン。

 

「八神一真です。又の名を……“終焉の聖騎士”オメガモン」

 

「うん。君の事は鏡花から聞いている。昨日はありがとう。おかげで大勢の人々が守られた」

 

「やはりオメガモンの波動(コード)を宿しているだけあって、凄まじいな」

 

「薩摩さん、一つ質問良いですか?」

 

「なんだ? 答えられる範囲内だったら何でも答えるぞ?」

 

「薩摩さん……大門大という人物と一緒に居ましたか? 何か同じ名前の人を知っているので……」

 

 一真が丁寧に自己紹介をすると、薩摩は昨日のディアボロモンとの戦いの事を感謝して頭を下げ、クダモンは一真を見ながら感心する。

 そんな2人を見て一真は手を挙げると、質問の許可を薩摩に求める。それを薩摩が了承すると、一真は目を光らせて質問をする。

 

「そうだが、それはどうかしたか?」

 

「やはり思った通りだ。貴方はこの世界の人間じゃない。別世界から転生したのか、連れて来られたのか……どちらにせよ、僕が知っている薩摩さんだという事が分かりました」

 

「よく分かったな、一真君。君の言う通り、私はこの世界にどういう訳か転生した薩摩廉太郎だ。クダモンもデジタルワールドから派遣されてきた」

 

「マジですか……あの有名人と一緒に仕事が出来るなんて夢みたいです」

 

「私も最初は驚いたよ。私のいた世界の出来事が物語として伝えられているんだからな。でも生きてくうちに思ったよ。そういう世界があってもおかしくないと」

 

 薩摩廉太郎。彼は『デジモンセイバーズ』の舞台となった世界の出身。全てが終わった後は警察官として働き、天寿を全うしたが、何者かによって転生させられ、”電脳現象調査保安局”、“DATS”の本部長としてまたデジモン関係の出来事と戦っている。

 彼のパートナーデジモンはクダモン。正体はオメガモンと同じ『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の一員であり、『デジモンセイバーズ』の時は人間達を監視する目的でイグドラシルにより送られたスパイだった。

 人間がデジモンにとって善き存在なのか、悪しき存在かを見極めるのかがその任務だったが、監視を続けている間にその心には人間への親しみが生まれた。イグドラシルが人間全滅を決定した後はイグドラシルに反旗を翻して人間側に付き、かつての仲間と対立した。

 今回は最初から人間側として何者かによって派遣されてきたと薩摩は説明するが、一真はその言葉に何かの引っ掛かりを感じた。

 

「派遣されてきた? えっ? クダモンことスレイプモンも別世界から来たんですか?」

 

「それは私から説明するわ。デジタルワールドはこの世界が相互関係で成り立っているの。どちらかの世界が存在するから、もう片方も存在出来る。でもどちらかが滅びれば、もう片方の世界も自然に消滅するの」

 

「そんな……そんな理不尽なシステムで良いんですか!?」

 

「“生命は運命られた時の中で生きるべし”。これがデジタルワールドの掟よ」

 

「僕は認めません。例え死ぬと分かっていても、最後の一瞬まで美しく生きていたい。その為なら泥臭く抗いますよ」

 

「……貴方がオメガモンに認められた理由が何となく分かった気がするわ」

 

 人間界とデジタルワールドの相互関係。それはお互いがいてからこそ初めて成り立つ。そのシステムの為、どちらかが滅びれば、もう片方が自然消滅してしまう。

 その在り方に納得行かないのが一真。彼は真剣な表情で自分の考えを伝えると、鏡花が優しく微笑んだ。

 

「あれ? じゃあ僕がなったオメガモンはデジタルワールドの『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の?」

 

「違うわ。“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”の時のオメガモンよ? 何か懐かしいと思ったら、そういう事だったのね。私から見たら久し振りと言った所ね」

 

「やっぱり……という事は……」

 

「えぇ、そうよ。私ことリリスモンも“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”を経験しているわ」

 

(マジかよ……今回の事態はヤバさも規模も過去最高じゃん)

 

 鏡花ことリリスモンはバグラ軍の最高幹部、“三元士”として、“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”に関わった。オメガモンとは敵だった関係だった為か、直ぐに彼の正体に気付く事が出来た。

 頭がパンクしそうになる情報量だが、『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』で脳に直接送られる情報量に比べれば、どうという事はない。

 きちんと整理したものの、今回の一件は一真が知っている出来事以上の深刻さと規模を兼ね揃えている。正直頭を抱えたくなる。

 

「なので、是非君の力を合わせて人間界とデジタルワールドの平和を取り戻したい。もちろん何もしない訳ではない。局員として迎え入れ、正当な報酬を渡そう」

 

「えっ……?」

 

 薩摩が差し出したのは雇用契約書。雇用主と使用者の両者間で、労働条件を明らかにする為に交わす契約書。

 その内容を見た一真は驚いた。先ず条件が良過ぎる。国家公務員と同等以上の給料。ボーナスも年2回ある。しかも相当な金額だ。今の仕事より高給取りになる。

 更に週休2日制である為、土・日曜日は休日。休日に仕事があったら振替休日あり。残業は認めない。必ず定時上がり。とにかく凄く条件の良い職場だ。命の危険さえ無ければ。

 

「下の名前を書く欄に名前を書いてくれ」

 

「書くしかありませんよね。答えは最初から出ていますから」

 

 オメガモンになった以上、オメガモンとして戦う道はない。既に答えは出ている。一真は書類に目を通してから、懐のポケットから取り出したボールペンを書いていく。

 それが終わって薩摩に手渡すと、薩摩は満足したように頷き、鏡花に渡した。鏡花は一度退室してプリンターでコピーし、原本を薩摩に、コピーを一真に渡した。

 

「一真君。君もこれで“DATS”の一員となった。その証としてこれを渡そう」

 

「これは……」

 

 薩摩が一真に渡した物。それはディーアーク。デジモンのアニメ・漫画シリーズの主人公達が所持する小型のコンピューター。

 デジヴァイスの一種であるディーアーク。それは”電脳現象調査保安局”、“DATS”との連絡用ツール。

 

「これで連絡を取り合おう。今日は顔合わせだから、職場に行って退職の挨拶をするように。鏡花君、後は頼んだぞ?」

 

「分かりました。薩摩本部長」

 

 鏡花に案内されて本部長室から退出した一真。その後ろ姿を見送る薩摩とクダモン。彼らは内心で考えている。

 今回の事態の黒幕の事を。一体何を考え、何をしようとしているのか。それでも戦うしかない。一真を巻き込んだとしても、人間界とデジタルワールドを守らなければならないのだから。

 

 

 

 

 

「そうか……”電脳現象調査保安局”に勤務するになったのか。残念だな……やっと慣れて来た時だったのに」

 

「本当に……すみません」

 

 台番株式会社。一真が長く、辛い再就職活動の末に内定を勝ち取り、やっとの思いで入社した企業。そこの応接室で一真は社長の姫矢准二に挨拶をしていた。

 改めて自分の口から退職理由と明日から”電脳現象調査保安局”に勤務する事を説明すると、准二は穏やかに笑いながら了承した。

 准二にとって一真は実の息子のように可愛がり、やがては会社の幹部になって欲しいという思いもあった。

 しかし、一真は人間として、デジモンとしてこの世界を守る為に戦う道を選んだ。その意志を尊重した上で、一真の背中を押している。

 

「良いよ。自分の道を歩めば良いんだ。例え人間でなくても、人間の心を持ち続ける限り、君は人間だ。何か困った時があったら、いつでもここに来てくれ。私はいつでも待っているよ」

 

「姫矢社長……ありがとうございます!」

 

 准二は実の息子を病気で失うという辛い経験を味わっている。その為、実の息子と何処か似ている一真を可愛がってきた。

 例えデジモンになっても、人間の心を持ち続ける限り、自分は人間である。その格言を胸にした一真のディーアークの電子音が鳴り響き、一真はディーアークの電子画面を見る。

 

“とある山中でクワガーモンが目撃され、とある村に向かって進んでいる。避難活動が始まったが、間に合うかどうかが分からない。クワガーモンを撃退して欲しい”

 

 それがディーアークに映し出された内容。薩摩からの指令。ここから離れたとある山中にある村に向かっているクワガーモン。

 村の住民の避難活動が進められているが、その村は高齢者が多く、中々避難活動が完了しない。そこで、クワガーモンを撃退するように、一真に指令が下された。

 倒すのではなく撃退し、デジタルワールドに連れ戻すのだろう。どうやらクワガーモンは何らかの理由でデジタルワールドから人間界に迷い込んでしまったみたいだ。

 

「どうやら早速仕事が入ったみたいだね。いってらっしゃい」

 

「姫矢社長……行ってきます!」

 

 一真は仕事内容を一通り把握すると、懐にディーアークを戻し、准二に深々と挨拶してから応接室から退室する。

 会社の前で立ち止まり、オメガモンに究極進化しようとした一真が見た物。それは新しい場所に向かおうとしている自分を見守る社員達の姿。

 一真は社員全員に愛されていた。何事にもひたむきで取り組み、常に学習しながら成長していくその姿に刺激され、全員が前を向いて努力し続ける。

 これも全ては一真のおかげ。だからこそ、彼らは一真を送り出す。これまでのお礼とこれからの活躍を願って。

 

「(皆さん……本当にありがとう。僕は皆が笑顔でいられるように戦う!)行くぞ。究極進化!」

 

 社員全員に向かって深々と頭を下げ、笑顔を浮かべながらサムズアップをした一真。彼は深呼吸をして落ち着かせると、オメガモンに究極進化しようと精神を集中させる。

 その思いにオメガモンが応えるように、『電脳核(デジコア)』が鳴動すると共に純白に輝き始める。“究極進化”の言葉が一真がオメガモンになる時の合図。

 純白に輝く光が膨れ上がる共に、一真の身体が変わり始める。『電脳核(デジコア)』に宿っているオメガモンの情報を自らの身体に読み込ませながら、書き換えていく。

 そして書き換えた情報を流出させながら、戦闘経験を蓄積させる。保有能力を具現化させ、保有している武器を実体化させる。これが人間からデジモンへの究極進化のプロセス。

 

「オメガモン!!!」

 

 一真がオメガモンへの究極進化を終えると、純白に輝く光が消え去った。そしてその場から飛び立ち、クワガーモンのいる場所へと向かっていく。

 ディーアークから立体地図として詳細な情報を送られているが、オメガモンには不要だった。何故ならデジモンの『波動(コード)』を探知する能力を持っているからだ。

 強豪デジモンなら全員所有している能力でクワガーモンのいる場所を突き止めると、その場所の方角に向かって一直線に飛んでいく。

 

 

 

 

とある山中。村に向かってゆっくり進んでいく、1体のデジモンがいた。赤い色の甲殻で体を覆ったクワガタ虫のような姿をした昆虫型デジモン。クワガーモン。

 その目の前に危なげなくオメガモンが降り立つと、クワガーモンは立ち止まる。オメガモンの全身から放たれる威風堂々とした威圧感。それに圧倒されている。

 

「クワガーモン、ここから先は通す訳には行かない!」

 

 若い男性の声だが、聖騎士らしい威厳と迫力に満ち溢れているオメガモンの声。その決然たる口調と大きさが意志の強さを物語っている。

 それでもクワガーモンは前に進む。進むしかないと言わんばかりに。戦えと言う本能に従う様に。

 

「(戦うつもりか……ならば!)勝負だ、クワガーモン!」

 

 本当は平和的に行きたかったが、相手がその気なら仕方ない。オメガモンは戦闘態勢を取りながら、クワガーモンに不可視の波動を叩き付ける。

 自らの『波動(コード)』を相手に放って無力化させたり、動きを止めたりする技。大抵のデジモンならば戦意を失ったりするが、クワガーモンはそうではない。

 目の前で戦う気が満々なクワガーモンを見て、オメガモンはやはり戦闘が不可避である事を突き付けられる。

 

「クワアアァァァァァッ!!!!」

 

「ウオオォォォォォォーーーーー!!!!」

 

 始まったクワガーモンとオメガモンの戦い。頭部の巨大な鋏で攻撃するクワガーモンと、両手の籠手で防御するオメガモン。

 相手は成熟期デジモンのクワガーモン。しかも倒すのではなく、デジタルワールドに送還する事が目的。これまで数多の強豪デジモンとの戦闘経験が豊富なオメガモンでも、このようなスタイルは初めてな為、何処か戸惑い気味だ。

 しかもここは人間界。デジタルワールドなら全力を出す事が出来るが、人間界はそうではない。人間界とデジタルワールドは世界の強度とかが違う。全力を出せば世界の危機は約束されたような物だ。

 

(このクワガーモンのパワーは……成熟期を上回っている!)

 

 オメガモンが防戦に徹している理由はもう1つある。クワガーモンの強さに驚いているからだ。本来、クワガーモンは成熟期。オメガモンが全力を出せなくても余裕で倒す事が出来る進化段階。

 しかし、それを一段階上回る完全体級の強さ。どういう理由なのかは分からないが、オメガモンを押している。頭部の巨大な鋏でオメガモンの左手を挟み、力を込めながら破壊しようとする。

 

(どんな理由があってこの世界に迷い込んだのかは分からない。だが、だからと言って無関係な人々を巻き込んで良い理由にはならない!)

 

「クワァッ!?」

 

 正義感の強い一真の性格と、『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の使命、そして自らの正義を信じて戦うオメガモンの在り方。この三つが重なり合った時、『電脳核(デジコア)』が鳴動し、オメガモンの力を上昇させていく。

 胸に宿すのは熱い闘志。それを反映するかのように、オメガモンの左手たる黄金の竜の眼が輝き、灼熱の火炎が宿っていく。

 その余りの熱量に熱さを感じ、クワガーモンは飛び退こうとするが、オメガモンは追い打ちをかける。右膝蹴りをクワガーモンの腹部に叩き込み、クワガーモンを蹴り飛ばす。

 

「私の、『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の力を見せてやる!」

 

 オメガモンが力強く構えを取りながら言い放つと、立ち上がったクワガーモンが巨大な頭の鋏を光らせながら突進して来る。

 それを見たオメガモンは姿勢を低くしながら駆け出し、左ストレートをクワガーモンの腹部へと叩き込む。

 

「ガァッ!!」

 

「フン!!」

 

 腹部に走る衝撃と苦痛。息が詰まり、動きを止めたクワガーモンにオメガモンは更なる追い打ちをかける。

 低い姿勢のまま飛び上がりながら、強烈としか言えない右アッパーでクワガーモンを打ち上げ、右回し蹴りで蹴り飛ばす。

 それでも立ち上がるクワガーモン。中々のタフさだが、それでもフラフラしている。これ以上の戦闘続行は無意味だとオメガモンは判断すると、右手の狼の頭部の口部分から黒光りする巨大な大砲を展開する。

 

「ガルルキャノン!!!」

 

 砲口をクワガーモンに向けると共に照準を合わせ、右腕に宿る絶対零度の冷気を砲身の内部に流し込む。

 砲弾の形に圧縮させると共に、絶対零度の冷気を極限まで凝縮させる。一発の冷気弾が出来上がったのを確認し、必殺技名を叫んで絶対零度の冷気弾を発射する。

 絶対零度の冷気弾。その内部には絶対零度の冷気が凝縮しており、それが超音速でクワガーモンに向かって襲い掛かる。

 

「クワァッ!!」

 

 クワガーモンの胸部に絶対零度の冷気弾が命中したと同時に、クワガーモンの全身が一瞬で氷漬けとなった。

 これで任務は終了。オメガモンはクワガーモンの氷像を抱えて飛び立ち、”電脳現象調査保安局”へと向かっていった。

 

 

 

 

「これは何とも凄い昆虫標本だな……」

 

 ”電脳現象調査保安局”。任務を完了させたオメガモンから後の事を頼まれると、薩摩は“氷漬けにされたクワガーモン”を眺めている。

 後でデジタルゲートを開き、デジタルワールドに送還するのだが、オメガモンのやり方に薩摩は舌を巻いている。

 

(流石としか言えないが、気になる所があるな……後で調べてみる必要があるな)

 

 それはオメガモンがピンチや防戦から一気に巻き返す事。しかも引き金は強い思い。間違いない。一真は『アルフォース』と呼ばれる力の持ち主だ。

 デジモンの強い大切な物を想う気持ちや喜びや楽しみなどで発生し、強力な回復能力や進化を促す聖なるオーバーライト。それが『アルフォース』。

 薩摩は独自に調査する事を決めた。八神一真がオメガモンとなって、一体何がどうなったのかという事を。

 




今回は『デジモンセイバーズ』から薩摩さん&クダモン、漫画版『デジモンクロスウォーズ』からリリスモンが登場しました。
デジモンオールスターズみたく、色んなアニメ・漫画作品からキャラやデジモンを出していきたいです。皆さんが違和感がない形で。
次回は主人公&用語紹介になりますが、第4話の執筆と同時並行で進めます。
では次回をお楽しみに! LAST ALLLIANCEでした!


次回予告


”電脳現象調査保安局”に初出勤し、仕事を覚えていく一真。
彼に届いた一通の挑戦状。それはカオスデュークモンからだった。
砂漠で行われる聖騎士と暗黒騎士の一騎打ち。果たして……?

第4話 暗黒騎士の襲来


暖かい感想やコメント、総合評価を出来ればお願いします。
作者の執筆意欲が増しますので。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。