終焉の聖騎士伝説~オメガモンとなった青年の物語~ 作:LAST ALLIANCE
今回はヒロインによる修行回。色々と詰め込みました。
ヒロインとは?と思われるかもしれませんが、ヒロインの形は人それぞれ。
こういうヒロインもありだと思います。
ではお楽しみ下さい。
「ありがとう、優衣さん。一真君を助けてくれて」
「どういたしまして。でも……まさかカオスデュークモンが来るとは思ってもみなかったです」
”電脳現象調査保安局”の本部長室。そこでは薩摩と優衣が話をしている。一真を助けた事にお礼を言う薩摩と、肩を竦めながらそれに答える優衣。
優衣は一仕事を終えた時に薩摩からの連絡を受け、オメガモンとカオスデュークモンが戦う砂漠地帯に向かった。そこでオメガモンを助けてカオスデュークモンを圧倒した。
「カオスデュークモンが?」
「はい。敵も本気です。オメガモンの力を調べに来たと思ったら、オメガモンを殺しにかかっていました。つまりは……」
「オメガモンの事を脅威に感じたという事だな?」
「そうなります」
クダモンは優衣の言葉を繋げる。その答えに頷いて答える優衣と、困ったように思案する薩摩とクダモン。
確かにオメガモンの力は戦いを経験する度に戻ってきている。それは事実だ。だがその速度が現状に追い付いていない。
「明日は私が一真君を鍛えます。それくらいは大丈夫ですよね?」
「あぁ、問題ない。好きにしたまえ」
「ありがとうございます」
そこでアルファモンとして戦っている優衣が、先輩として一真を鍛える事にした。その決断に薩摩が了承すると、優衣は早速修行メニューを考える為に本部長室を後にした。
その様子はまるで恋する乙女のようだった。何しろ鼻歌交りでスキップしていたのだから。薩摩とクダモンはお互いに顔を見合わせ、苦笑いを浮かべていた。
(仲間ね……まさか私に仲間が出来るとは思ってもみなかったわ)
その日の夜。優衣は自室のベッドに寝転がりながら一真の事を考えていた。自分と同じ『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の一員のデジモンになれる青年。オメガモンの力を持ち、戦い始めた新人局員。
優衣にとって後輩であると共に同じ仲間。共通項が多いのだから。年齢も同じ。これは何かの偶然なのだろう。
(それに明日は一真君を独り占め出来るんだし♪ 思い切ってデートしようかな? でも先ずは修行しないと……一真君には強くなってもらわないと困るから。いずれ殺される事になる。あの時のように……私がアルファモンになった時のように)
優衣はベッドの近くに置いてある写真立てを手に取ると、悲しそうな表情でその写真を見た。その写真には十数人の子供達と優衣、数人の大人が写っている。彼女はそこで眠りに付いた。自分がアルファモンになった時の事を思い出しながら。
工藤優衣。彼女は物心つく前に両親を失い、天涯孤独の身となった。親戚もいなかった彼女はに入れられ、そこで生きるしかなかった。
そこで出会ったのは様々な事情を抱えた子供達。両親に見捨てられ、心に深い傷を負った子供。両親から愛情を注がれず、暴れる事でしか意志を伝えられなかった子供。離婚等の問題で何もかもが敵と思い込み、憎しみを持ってしまった子供。
彼らと共に過ごす事に戸惑いながらも、優衣は生きるしか無かった。そんな時、1人の施設の職員との出会いが彼女の運命を変えた。
(私もあの人のようになりたい……)
その職員は優衣にとって父親と思える存在だった。太陽のように明るく皆を笑顔にし、月のような優しさを併せ持つ男性。その名前は堀江淳史。
堀江の事を父親のように慕うようになってから、優衣は穏やかで優しい少女へと成長していった。それから色んな子供達と真正面からぶつかり合い、その上で分かり合った。
優衣は中学生の頃に現実を知った。18歳を過ぎたら、つまり高校を卒業する時には児童養護施設から出ていかなければならない事を。その上で決断した。子供達が笑顔で暮らせる社会にする為に、堀江のような大人になる為に、大学に行って児童福祉系の仕事に就く為の勉強をする事を。
しかし現実は非情だった。優衣が高校を卒業する年の夏、デジモンが彼女のいる児童養護施設を襲撃して来たのだから。
突如として玄関が轟音と共に吹き飛ばされた。何事かと思って職員達と優衣が向かうと、そこには1体のデジモンがいた。
全身に青色と黄色の装甲を身に纏い、右手に手甲と一体化した槍を装備したサイボーグ型デジモンーダークドラモン。デジタルワールドの機械化旅団“D-ブリガード”の最終決戦兵器と推測されている。
あくまで噂の域を出ない情報だが、コードネーム“BAN-TYO”と呼ばれる“目標”を排除する作戦で撃墜されたタンクドラモンが回収され、“D-ブリガード”の研究機関においてダークドラモンへと進化したと言われている。
究極進化の際に大量の“ダークマター”が使用されたらしく、進化後に暴走・逃亡し、現在は“D-ブリガード”もダークドラモンの消息をつかめていないらしい。今でもコードネーム“BAN-TYO”を探し、彷徨っていると言われている。
「俺の名はダークドラモン。工藤優衣は何処にいる?」
「優衣ちゃんに何の用だ!」
「用のない人間は消えろ」
「ウワァッ!」
ダークドラモンはつまらないと言わんばかりに右腕を振るい、堀江を吹き飛ばす。幸い、殺すつもりは無かったのか、地面に強く叩き付けられる結果となった。
目の前の相手は誰がどう見ても人間ではない。ただ目標を殺すだけしか知らない殺戮兵器。自衛隊でも歯が立たず、核爆弾でも倒せないような相手。
職員達が恐怖で動けない中、ダークドラモンはゆっくりと優衣の所に歩み寄る。そして優衣を見下ろし、残忍な笑みを浮かべる。
「冥土の見上げ話として教えておこう。お前はデジモンになる力と素質を宿している。分からんだろうがな」
「デジモン……ですって!?」
「こいつは驚いた……その反応から察するに、俺達デジモンの事を知っているようだな。お前がなれるのはただのデジモンじゃない。デジモンの中でも最強と言われている『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の一員。その抑止力でもあり、名前は知られていながら決して存在することが無いと言われた、言わば神話の中の聖騎士だ」
「そのデジモンってアルファモンの事!?」
児童養護施設にいる間、子供達と一緒になってテレビアニメを観ていた優衣。彼女は有名どころのデジモンならば分かる。
自分がデジモンになれる素質を持っている事に驚いたが、取り分け驚いたのはそのデジモンがアルファモンだったという事。
「正解だ。いい冥土の土産になっただろう? 自分の運命を呪いながら死ね!」
「優衣ちゃん!」
(私……このまま終わるの? 大切な物を知らず、ようやく知り始めたばかりなのに理不尽な力によってそれを奪われてしまうの? 嫌だ。私はまだ何もしていない。勉強も、仕事も、恋も、結婚も……このまま終わるのは嫌だ! 私は絶対……諦めない!)
目標である優衣を抹殺しようと、ダークドラモンはギガスティックランスを突き出す。それを阻止しようと手を伸ばす堀江。目を閉じて死を覚悟する優衣。
しかし、彼女は終われない。自分にはしなければいけない事が、やりたい事があるのだから。叶えたい夢がある。それらをするまで自分は死ねない。死ぬ事は許されない。だから諦めない。諦めたくない。
そう思った瞬間、優衣の全身から眩く輝く光が放たれ、ダークドラモンを吹き飛ばしながら彼女を覆い包んでいく。
(私、死んだのかな……?)
(いや死んでいない。貴女はまだ生きている)
優衣が目を覚ました場所は真っ黒な空間。自分が死んだと思い込み、俯く優衣の目の前におぼろげな黒い影が現れた。
若い男性の声だが、威厳がありながら親しみが込められている。その矛盾に戸惑いながらも、優衣は目の前を見る。
(え~と、貴方は?)
(俺の名はアルファモン。聖騎士さ)
(えぇ、知っているわ。貴方の事……貴方が私の中に宿った力なんでしょう? ダークドラモンから聞いた)
(そうか……それなら理解が早い。その前に俺がどういう経緯でこの世界に来たのかを簡単に話そう)
おぼろげな黒い影、もといアルファモンは優衣にゆっくりと話し始める。自分がこの世界に来るまでの経緯を。
アルファモン、もといドルモン。彼はイグドラシルによって創られた実験体デジモン。X抗体を持っている為、他のデジモンから狙われたり、拒絶されたりしてきた。
それでも様々なデジモンとの出会いや経験を経てアルファモンとなり、デジタルワールドの危機を解決する大活躍を見せた。
ドルモンとして復活した時にアルファモンの力は失われたが、どうやらドルモンとアルファモンに分離したらしい。それが何者かによってこの世界に導かれたとの事。
(そうなんだ……貴方も大変だったんだね)
(貴女も大変だったみたいだな……俺はよく分からないけど、貴女は凄いと思う。だからこそ主に認めたいが、俺を受け入れると、貴女はもう今までの日常には戻れない。辛く険しい闘いの日々が待っている。それでも良いか?)
(……私にはもう帰る日常がない。施設を出ても先が見えない日々を送る可能性がある。だったら貴方と共に戦い続ける道を進むわ。それに……私は両親がいない。貴方のような人がいて、一緒にいられるのはとても嬉しいし)
(そうか……ならばここに契約は完了した。これより俺の運命は貴女と共にあり、貴女の運命は俺と共にある。よろしく頼むよ)
(よろしくね、アルファモン)
優衣とアルファモンが握手をした瞬間、真っ黒な空間に光が差し込む。その中を優衣とアルファモンは手を繋ぎながら、進んでいく。
現実世界。優衣の全身から放たれた眩い光が消え失せると、優衣がいた場所には1体の聖騎士が立っている。
全身を漆黒に光り輝く聖鎧で覆い包み、背中に内側が青く、外側が白いマントを羽織り、背中に翼のような物を備えた聖騎士。彼の名前はアルファモン。
「馬鹿な……アルファモンになっただと!? そんな馬鹿な事があるのか!?」
「随分な事をしてくれたな、ダークドラモン。落とし前を付けてもらおうか!」
「抜かせ! 目標は速やかに排除する!」
背中の噴射口から青い光を放ちながら、アルファモンに向けて突進を開始するダークドラモン。その感情に満ち溢れた突進と、最後まで作戦を遂行しようとする強い意志。
その在り方に目を細めるも、アルファモンがダークドラモンを倒す事は変わりない。 ダークドラモンの目の前から姿を消し、ダークドラモンの背後へと回り込む。発動したのは瞬間移動。
「何!? 何処だ!?」
「ここだよ」
目の前にいた筈の目標を失ったダークドラモンが動きを止めると、アルファモンは自分に注意を向けようと一言呟いた。
当然の事なのだが、その一言を聞いたダークドラモンは振り返る。完全に虚を突かれたダークドラモン。アルファモンはその顎を右足で蹴り上げ、宙に打ち上げながら左回し蹴りで蹴り飛ばす。
「クッ……! やるじゃねぇか!」
蹴り飛ばされながらも空中で体勢を立て直し、多少後退しながらも地面に着地したダークドラモン。流石としか言いようがない。
ここで終わるデジモンではない。先程以上のスピードで突進を開始し、アルファモンに向けて右手に仕込んでいる槍を突き出す。
「ギガスティックランス!!!」
「フッ!!」
アルファモンは頭を少しだけ動かしてギガスティックランスを躱しながら、左手でデジモン文字を刻みながら緑色の魔法陣を描く。
その魔法陣から数発の緑色の光線が放たれ、ダークドラモンの全身に直撃しては確実にダメージを与えていく。
「グァッ!! グウウゥゥゥゥゥッ!!!!!!」
「吹き飛べ! デジタライズ・オブ・ソウル!!!」
『……』
後退しながら仰け反るダークドラモンに、更に追い打ちをかけるアルファモン。緑色の魔法陣から緑色の波動を放ち、ダークドラモンを吹き飛ばす。
圧倒的な力でダークドラモンを追い詰めていくアルファモン。その様子に子供達と職員達は言葉を失う。目の前にいる聖騎士は優衣。それは分かっている。自分達を守る為に戦っている。その事実を認め、現実を受け止めている最中だ。
「召還! 聖剣グレイダルファー!!!」
立ち上がっている最中のダークドラモンに近付きながら、アルファモンは右手で魔法陣を描く。その中央に右腕を入れて光の集束を引き抜き、聖剣グレイダルファーを召還する。
そこから剣戟が開始される。間合いではダークドラモンの方は優位に立っているが、ダークドラモンは押し負けている。
その理由は2つある。1つ目はタイムロス。間合いにおいて優位に立つ事は、攻撃する回数と速度が鈍る事を意味している。槍を突き出した後、突き出した槍を戻すという作業が必要不可欠になるからだ。
2つ目は両者の実力差。総合スペックで見ると、アルファモンがダークドラモンを上回っている。タイムロスを利用しながら間合いを詰め、確実に攻撃を当てていく。
20回程斬り合った所でアルファモンがダークドラモンを蹴り飛ばし、左手で魔法陣を描く。その中央に左腕を入れて聖剣グレイダルファーを引き抜き、2本の聖剣を十字に構える。2刀流の構えだ。
「クロス……ブレード!!!」
アルファモンは神速の勢いで突進を開始し、ダークドラモンに向けて十文字に構えた聖剣グレイダルファーを振り抜く。
それをギガスティックランスの一閃で弾くダークドラモン。何とか力を振り絞ってアルファモンを上空高く打ち上げるが、それこそがアルファモンの狙いだった。
「グレイドスラッシュ!!!」
大上段から振り下ろされた2本の聖剣グレイダルファー。ダークドラモンはX字に斬り傷を刻まれ、苦痛に満ちた叫び声を上げながらデータ粒子へと変わっていく。
そのまま消滅していくのを静かに見守るアルファモン。2本の聖剣グレイダルファーを戻し、背後にいる人間達に微笑む事で戦闘の終了を告げた。
それから1ヶ月後。修理された玄関を眺める優衣の目の前で、一台のランボルギーニの車が泊まった。
車から降りて来たのはスーツ姿の女性―桐山鏡花。優衣は鏡花から”電脳現象調査保安局”に来ないかとスカウトされた。一旦返事を保留し、堀江等の職員と相談した結果、”電脳現象調査保安局”で仕事をする事を決めた。
しかし、幾つか条件を定めた。勤務開始は高校卒業後。それまでの間は児童養護施設で過ごす事。これは子供達といられる時間を全うしたいと言う優衣の希望だった。
そして訪れた最後の日。別れを惜しむ優衣と子供達は全員大泣きし、それに職員達も貰い泣きする程だった。それから”電脳現象調査保安局”に勤務し、今に至る。これが優衣の過去であり、彼女の歩んできた人生だ。
「そうだったんですね……」
「その後は仕事しながら修行に明け暮れたわ。色んな世界に行ったし……」
次の日。”電脳現象調査保安局”に出勤した一真。朝礼を終えて昨日の戦いのレポートを書き終え、鏡花に提出し終えた。その段階で休憩室に入り、コーヒーを飲みながら優衣の過去話を聞いている。
それから優衣ことアルファモンは異世界に行っては、数々の神話を打ち立てた。“ウィッチェルニー”で炎・地・水・風の4つの属性の魔法を全てマスターした。あらゆる世界に存在する聖獣・魔獣・神獣と戦い、お互いを認め合って配下にしてみせた。
他にもまだまだあるが、一真は理解した。工藤優衣ことアルファモンは規格外の存在である事を。彼女に比べると自分はまだまだだという事を。
「それでね、一真君。今日はこの後の仕事は全部カットしてもらったわ」
「えっ!? 何でですか?」
「ちょっと用事が出来たの。私に付き合ってもらうわよ? い・い・わ・ね?」
優衣から唐突に告げられたこの後の予定。その内容に一真は驚き、固まってしまう。この後の仕事は全て無しになり、優衣と一緒に行動する事になったのだから。
これが健全たる男性ならデートとかそういう事を期待するだろう。しかし、ここは仕事場。”電脳現象調査保安局”の仕事内容から、推測するに答えは自然と出て来る。
「でも……」
「い・い・よ・ね?」
「はい……でも優衣さんの仕事のお手伝いですか?」
「違うわ。これは貴方にとって必要な事よ?」
「私に……ですか?」
「昨日一真君はカオスデュークモンと戦った。最初は圧倒したけど、相手は手抜き。ギアを上げてきたらあっさりやられた。これじゃあ困るの。後々の戦いでは。だから今日は私の修行に付き合ってもらうわよ?」
一真の普段の一人称は“僕”だが、仕事の時は“私”に切り替えている。不思議そうな表情の一真に、少し真剣な表情をしながら優衣が答える。
優衣の指摘に一真は言葉を失い、項垂れた。昨日帰宅してから初めての敗北を味わい、殺された経験から戦う事に対して恐怖を抱いてしまったからだ。
正直、今の一真は戦う事に対して恐怖心を抱いてしまった。でも優衣はそんな自分を見捨てず、強くさせようとしてくれている。それは素直に感謝しなければならない。
「ありがとうございます……」
「緊張しなくて良いわ。ちょっと内容がハードだけど……それでね、ここではない別の世界で修行するからちょっと待ってね……」
そう言いながら優衣は両手でデジモン文字を刻んで魔法陣を描くと、一真と共に異次元の世界へと向かっていった。
アルファモンとなってデジモンの力を行使できるとは言えど、単独での次元移動は中々出来る事ではない。工藤優衣、恐るべし。
一真と優衣が来た世界。そこは誰もいない無人世界。雲一つない晴れ渡った青空が広がっている。修行には最適な場所とも言える。
修行という事になっているが、傍から見ればデートやピクニックにしか見えない。一真も昨日の戦いを切っ掛けに更に強くなろうと、自分を奮い立たせる。
「良い天気ね……絶好の修行日和よ?」
「はい……」
早速山登りを開始する一真と優衣。優衣は楽しそうだが、一真は真剣だ。それでも心は晴れ渡っていく。木々の間から差し込む木漏れ日。風が吹くと共に葉と木が揺れたり、擦れたりする音。
優しい景色と優しい音が心を癒していく。少なくとも一真にはそのように感じる事が出来た。これが全身で自然を感じるという事なのか。
「この世界にはよく来るんですか?」
「まぁね。修行もそうだけど、疲れた時とか癒されたいと思った時は、必ず来るようにしているよ?」
2人が山登りをしている理由。それは体力作り。スポーツでもそうだが、大事なのは体力だ。ましてや戦いになると、体力や精神力が物を言う時もある。
それに足腰を鍛えるトレーニングも兼ねている。歩き始めてから直ぐに理解した一真と、いつも歩き慣れた道を進む優衣は楽しく山道を登っていった。
数時間後、山の頂上に座り込む一真と優衣。途中で一真が挫けそうになるが、自分を奮い立たせて持ち直した。
「しんどいな……ちょっと休ませてください」
「良いわよ? でも思っていたよりもやるじゃない。オメガモンの力を持っているだけあるわ」
息を切らしながら、座り込む一真。余裕そうな笑みを見せる優衣。しかし、この数時間で2人が通ったコースは凄まじい。
ロッククライミングや軍隊の訓練をジョグレス進化したような障害物ばかり。200メートル以上ある坂を全力ダッシュ。崖から崖に飛び移る。
優衣は全く止まらずに出来たが、一真はそうはいかなかった。多少止まってしまったが、オメガモンになった事で身体能力が向上したのか、優衣の予想よりも上手く出来た。それでも翌日は筋肉痛間違いなしなのだが。
「慣れて来たのでしょうか? まだ数日しか経っていませんし、数回しか究極進化してませんが……」
「一真君、貴方きっと……“融合率”が高いのよ」
「“融合率”……?」
一真がオメガモンになってまだ数日しか経過していないが、それなりに戦う事も出来、身体能力が向上している。
その事実を優衣は一真のデジモンとの“融合率”が高いと分析した。“融合率”という聞き慣れない単語に一真が首を傾げると、優衣は答え始めた。
「デジモンとの相性とか同調率の事よ? 低いと適応負荷で身体がもたないし、逆に高いと“デジモン化”の進行が早まるけど」
「……やっぱり何事も程々がちょうど良いんですね」
“融合率”はデジモンとなった状態を数値化した値の事だ。元々持っている資質である程度決まるが、それを唯一引っ繰り返せるとしたらその人の精神状態。
怒りや強い思いによって闘志が高まれば上昇するし、恐れや迷いを抱いて闘志が失われると、低下する事もある。
それでもある程度高くないと話にならない。低いとデジモンの適応負荷が起こり、デジモンの力が発揮出来ないどころか、フィードバッグで自滅する事だってあるからだ。
「そうね。だって……一緒にここまで来れたじゃない。後ろを見て」
「わぁお……」
後ろを振り返った一真が目にした瞬間、言葉を失った物。それは絶景としか言えない程、神秘的に美しい風景だった。
山の頂上から見える圧倒的な大自然。白い雪を帽子のようにかぶっている山々。轟音と共に流れ落ちる巨大な滝。きっと精神統一等の修行にはもってこいなのだろう。その先にあるのは巨大な湖。太陽に照らされてキラキラとした輝きを放っている。
「すげぇ……!」
「辛い事や苦しい事の後には必ず楽しい事や幸せな事が待っている。世の中はそういう物よ?」
一真が住んでいる都会とは違い、空気が澄み渡っている。少し冷たい風が吹き渡るが、それが汗や上がった体温で火照った身体を静めていく。更に足元に目を移すと、美しい花々が咲いている。まるで世界を映し出すように。
一生懸命になって辛い道や苦しい障害を乗り越えた先。そこに待っていたのは誰も目にした事のない素晴らしい景色。何時の間にか一真は感動のあまり泣き崩れ、それを優衣が優しく見守る。
お昼の時間となった。大自然を眺めながらの昼食。ピクニックと言えばお弁当箱の中に入っている美味しいメニュー。
そこまでは共通項なのだが、問題なのは中身だった。普通ならば唐揚げや卵焼き、タコさんウィンナーが来るのだが、優衣が用意したお弁当箱の中にはお寿司が入っていた。これには一真もびっくりだ。
「優衣さん、何でお寿司?」
「あぁ~ごめんなさい。私ね、実は親戚がいたの。その人がお寿司屋さんをやっていて、休日はそのお手伝いをしているからつい……」
「これはその親戚の方が握ったんですか?」
「違うわ。私が握った」
「そうですか。じゃあ頂きます!」
先程までのトレーニングでお腹が空いたのだろう。一真は手を合わせ、優衣の握ったお寿司を食べてみる事にした。
一真はグルメな人間。舌が肥えている為、食事にはうるさいのだが、一貫のお寿司を食べた瞬間に無言となった。
「……すげぇ。美味しい。何も言えねぇや」
「ありがとう。これでも回らないお寿司屋さんで修行しているの。今の職場がなくなっても食べていけるように」
「そうですか……僕は前の仕事の社長からいつでも戻って来て良いと言われていますけど」
「良い職場に巡り会えたのね。羨ましいわ。私はこの職場しか知らないから……」
遠くを眺める優衣の瞳は何処か寂しそうでいて、一真の事を羨んでいるように見えた。優衣の過去を今朝聞いた一真は、何とも言えない複雑な表情となりながらも深くは問い詰めなかった。
その後は一緒にお寿司を食べ、十分程休憩してから山を下りていく。その最中に一真は優衣に一つ質問をする。
「優衣さん。昨日のアルファモンは優衣さんでしたよね?」
「そうよ? でも私はそこまで強くない。だからこそ毎日こうして修行している。色んな事をやっているわ」
「僕はどうやったら強くなれますか?」
「……と言うと?」
一真の唐突な質問。どう答えて良いのか。それとも一真の真意を探りたいのか。優衣は一真に話を続けるように促す。
優衣に促される形で、一真は話を再開する。そこにはオメガモンとして戦う事への戸惑いや苦悩があった。
「僕はまだ戦うという事が分かりません。怖いんです、戦うのが。悪い奴を懲らしめるのは抵抗ありませんけど、でも昨日のカオスデュークモンとの戦いで格の違いを見せられました。アルファモンの戦いでも……こんな僕でも強くなれるのか、足手まといにならないのか、不安で仕方ないんです……」
「それで良いわ」
「……はい?」
「最初は誰だってそういう物よ。全く気にする事はない。誰だって自分が一番大事だから、自分が傷付く事を怖がるのは当たり前の事。貴方は誰かを思いやる優しい人。そしてその人の為に戦える強い心を持っている。それは私も理解しているわ。ディアボロモンの戦いを観たからこそ私も分かったの」
優衣は一真の抱える戦いへの戸惑いや恐怖をありのまま受け止め、否定しなかった。それが一真の強さに繋がると考えているからだ。
誰だって戦う事は怖い。それは優衣だって同じ。最初は今のように強くなかった。でもそれを乗り越えた先に今の強さがある。優衣に出来て一真に出来ない事は何一つない。
「誰かを思いやり、誰かの為に戦う事が出来る人が弱い事はない。貴方は強い。だって、貴方はオメガモンだから」
「僕が強い……?」
「えぇ。貴方にも分かる時が来る。大切な人が出来て、その人を守る時とか。でもだからこそ、今感じている恐怖や戸惑い……それに優しさを忘れないで欲しいの。戦えない人々の為に戦うと決意したのなら、その人達に寄り添いながら戦う事が求められる。そして何より自分を大事にする事。貴方は誰かの為に戦うから、自分の事を顧みない気がするから」
「はい……おっしゃる通りです」
会ってまだ時間が経過していないにも関わらず、優衣は一真の性格を見抜いていた。分かりやすい訳ではないが、アルファモンの力も関係しているのだろう。
或いは寿司職人としてカウンターからお客さんの仕草や会話を見たり聞いたりして、観察眼を養ったようだ。
「それにね。前に進む事を恐れていたら、何時まで経っても強くなれないわ。それに相手とも分かり合えない。凄く悲しい事だけど、何事にもとにかく挑戦してみる事も大事。私達は年齢的にまだ若いから、まだまだチャンスがあるわ」
「前に進む……ですか」
「そう。私もアルファモンになりたての時は剣術の練習に明け暮れたり、独学で魔法を学ぼうと色んな世界で修行を重ねた。何事にもとにかく挑戦して来た。傷ついたりするのを分かった上で挑戦し、色んな相手と戦って来た。そうしている内に分かったの。強い心……精神力の強さが大事な事を。例え何度傷付いても立ち上がる強い心。それは直ぐに出来る物じゃない。でも鍛える事で手に入るわ」
「鍛える事……」
「そうね。貴方に必要なのは経験ね。先ず色んな事をやってみる。色んな事を知る。何事も勉強よ? けど貴方はいつか私を超える聖騎士になれるわ。強くて優しい聖騎士に」
「ありがとうございます……」
優衣は一真に忠告をした。“空虚な聖騎士になってはならない”と。確固たる正義と思いが無ければ、オメガモンの力に翻弄されて虚しい勝利しかもたらさない。
流石に真意までは伝わったかどうかまでは分からないが、一真は優衣の言葉を胸に刻み付けた。
広大な草原に降りて来た一真と優衣。ここからが一真にとって本番。優衣ことアルファモンと戦わなければならない。
草原の中央で対峙する2人の人間。真剣な表情を浮かべている優衣と、戸惑いを浮かべている一真。
「さて、模擬戦を始めましょうか」
「どうしても……やらないといけないんですか?」
「決まっているじゃない。貴方の為よ。貴方の心に巣食う闇を解き放つ。それが私の使命。最後まで貫く! 究極進化!!!」
優衣は『電脳核(デジコア)』に内包されている力を解き放ち、光を膨れ上がらせながら進化の繭を形成する。
繭の中で優衣の身体が変貌していくと共に巨大化していく。アルファモンの情報が優衣の身体に読み込まれ、身体情報を流出させながら戦闘経験を蓄積される。保有能力を具現化し、再現させる。これが人間からデジモンになる事の意味。いわゆる究極進化。
「アルファモン!!!」
「戦うしかないのなら……仕方ないか。究極進化!!!」
「そうだ。それで良い」
「オメガモン!!!」
姿を現したアルファモンを目の前にし、ようやく一真も戦う意思を固めた。優衣と同じように、『電脳核(デジコア)』に内包されている力を解放して進化の繭を形成し、オメガモンへと究極進化する。
姿を現した2体の聖騎士。同じ『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の一員。それが模擬戦とは言えど、戦う事になる。屈指の好カードと言えるだろう。
戦う気力に満ち溢れるアルファモンと、何処か戸惑っているように見えるオメガモン。そんな対照的な2体の聖騎士が戦いの準備を始める。
「聖剣グレイダルファー、召還!」
アルファモンは両手で魔法陣を描き、中心に手を入れて突き刺さっている光の収束を引き抜いた。聖剣グレイダルファー。それを両手に握り締め、目の前で十字に構える。いつもの二刀流の構えだ。
対するオメガモンも戦闘態勢を整えた。右手を前に突き出し、メタルガルルモンの頭部を象った右手の口部分からガルルキャノンを展開する。
更に左腕を振るい、ウォーグレイモンの頭部を象った口部分からグレイソードを射出させてかた左手を後ろに引き、地面と水平に構える。
「行くぞ!」
先に動いたのはアルファモン。左手に握る聖剣グレイダルファーを振り上げ、地面を這う黄金の剣圧をオメガモンに向けて放つ。
牽制の一撃であり、力試しの一撃でもある。それを前にしたオメガモンは空高く飛び上がり、急降下の勢いと共にグレイソードを突き下ろして来る。
「ハァッ!!」
耳をつんざくような金属音と轟音が鳴り響くと共に、2体の聖騎士の周囲から凄まじい破壊の衝撃波が撒き散らされていく。
アルファモンは右手に握る聖剣グレイダルファーを下段に構え、振り上げる事でグレイソードの軌道を捻じ曲げる。
しかしそれだけでは終わらない。オメガモンはグレイソードを弾かれた勢いを利用し、背中に羽織っているマントを翻しながらアルファモンの背後に回り込み、後頭部に向けてグレイソードを薙ぎ払う。
「ッ!」
アルファモンは背後を振り返り、迫り来るグレイソードに驚きながらも、直ぐにその場から飛び退いて後退する。
そして左手に握る聖剣グレイダルファーの剣先をオメガモンに向け、魔法陣を描く事なく魔法を発動させ、凄まじい水流を放つ。
「スプラッシュレイザー!!!」
回避するのか。それとも迎撃するのか。選択肢は2つある。オメガモンは回避する事を選択し、スプラッシュレイザーを回避する。そこから迎撃するという選択を取った。
ガルルキャノンの砲身の内部で自らの生命エネルギーを圧縮させ、砲弾形に凝縮したエネルギーを連射していく。合計3発の青色のエネルギー弾がアルファモン目掛けて襲い掛かる。
「フフフッ……」
しかし、ガルルキャノンの連続砲撃は無駄打ちに終わった。アルファモンの姿が消失し、先程までいた場所を3発の青いエネルギー弾が虚しく通過していった。
ただ姿を消したのではない。周りの風景に溶け込むようにして姿を消した。まるでカメレオンのように。
周囲一帯に『波動(コード)』を放ちながら、突然の奇襲に警戒しながら辺りを見渡すオメガモン。その背後にアルファモンが現れ、左手でデジモン文字を刻んで魔法陣を描く。
「グアァァッ!!!!」
突如として出現した紫色の魔法陣。そこから伸びた4本の鎖に四肢を捕らえられ、魔法陣に磔にされたオメガモン。
紫色の魔法陣からは凄まじい電撃が放たれ、オメガモンに苦痛の叫び声を上げさせる。その上、拘束した相手のエネルギーを吸収する事も出来る。
「(パワーを上げる……この拘束から逃れる為に!)グッ……ウオォォォ……!」
魔法陣の拘束から逃れようと、オメガモンは全身に力を溜め始める。それに応じて拘束力が強まっていくが、口から苦しそうな呻き声を上げながらも、力を溜め込む。
次第に大きく、はっきりしていくオメガモンの声。それに応じて力が増していく。誰が聞いてもはっきりと、確実に分かるレベルで。
その瞬間、オメガモンの全身から純白の閃光が放たれる。それはアルファモンを驚かせ、背中に羽織っているマントで防がせる程強烈にして鮮烈。
「オメガバーーストッ!!!」
オメガモンが放った技名はオメガバースト。エンシェントグレイモンの必殺技。強烈な閃光を放つと共に、周囲数キロを破壊する超爆発を引き起こす物。
その輝きは超新星爆発を思わせ、そのスピードは回避する事を絶対に許さない程、凄まじい。その爆音が響き渡ると共に、世界を静寂が包み込む。模擬戦の一切の音さえも消し去る恐ろしい技。
大地は瞬く間に蹂躙され、アルファモンが全身に纏っている漆黒の鎧にも傷が刻まれ、中には罅が入っている所もある。
最早“技”ではない。“天災”の領域だ。抗う方法はない。それに耐えるか、同じ“天災”で迎え撃つだけ。それ程までに圧倒的な力。破壊による蹂躙。
「やるものだな……だがここからが本当の戦いだ」
立ち上がったアルファモンは宣言する。ここからが本当の戦いだと。今までは腕試しだったようだ。
更なる進化を宣言した途端、全身を覆い尽くす程の膨大なエネルギーの奔流が発生し、アルファモンの周りにエネルギーが渦巻く。
「ウオォォォォォーーーーー!!!!! アルファモン、突風進化(ブラストエボリューション)!!!」
渦巻くエネルギーの中でアルファモンの両眼が輝く中、アルファモンの真の力が解放される。エネルギーの繭が消失した後、リミッターを解除したアルファモンが姿を現す。背中の黒い翼のような物から黄金の翼が生えている。
それはアルファモンが放ったデジ文字の魔法陣の作用により、オウリュウモンが奇跡的な進化を遂げた姿。その名はアルファモン・王竜剣。
「アルファモン・王竜剣!!!」
ついに本気を出したアルファモン。昨日の戦いの展開によく似ている。もしかすると、昨日の戦いを知った上で自分を鍛えに来たのか。そう思っても無理はない。
オメガモンはグレイソードを横薙ぎに構えるが、先程のオメガバーストで使用したエネルギーにより、体力が半分以下にまで落ちた事に気付いた。
このまま長期戦に持ち込むと危ない。ガルルキャノンの砲撃は最小限に止め、なるべくグレイソードによる近接戦に持ち込むしかない。
それを理解した上で自分にオメガバーストを使えるように仕向けたのか。だとしたら、目の前の相手は恐ろしい。強い上に頭も切れる。完全なる格上。正攻法では勝てる確率は限りなく低い。
(それでも戦うしかない!)
オメガモンが自分を奮い立たせながら闘志を燃やす中、アルファモン・王竜剣は左手でデジモン文字を刻み、魔法陣を描いてその中心から王竜剣を引き抜く。
王竜剣を両手で握り締めると同時に突進を開始。オメガモン目掛けて大上段から王竜剣を振り下ろし、オメガモンはそれをグレイソードで受け止める。
「(な、何というパワーだ!)グアアアァァァッ!!!!!」
受け止めたまでは良かったが、問題はここからだった。受け止めきれず、防御した上から斬り下ろされた。アルファモンが振り下ろした王竜剣。それが凄まじい程重く、まるで宇宙を斬り裂かんと言わんばかりの一撃だった。
王竜剣ことオウリュウモン。彼は元々更なる戦闘力を追求した実験体の“プロトタイプデジモン”の究極体。彼が剣になった事で、その戦闘力の全てが攻撃に集約される。
王竜剣を振るう事はオウリュウモンに内包された全ての力を扱う事。なので、王竜剣は普通のデジモンでは使う事すらできず、並大抵のデジモンがまともに戦える剣でもない。
そんな凄い武器を振るう聖騎士相手に正攻法では勝ち目がない。そう判断したオメガモンは斬り傷が出来た事に顔をしかめつつも、後方に跳んで距離を取る。
「逃がすか……メテオバレット!!!」
しかし、アルファモン・王竜剣はオメガモンに休む時間を与えない。王竜剣の剣先を向け、3発の火炎弾を撃ち出す。
グレイソードを横薙ぎに振るい、三日月型の剣圧を飛ばして3発の火炎弾を消し去るオメガモン。だが、メテオバレットはアルファモン・王竜剣にとってオメガモンを攻撃するのではなく、オメガモンに隙を作らせるだけに放った初級魔術。
「ッ……!」
「―――黄鎧」
グレイソードを構え直したオメガモンが見た物。それは大河の土砂流のごとく荒れ狂いながら、突進して来るアルファモン・王竜剣。
防御しようとするも時既に遅し。自然災害としか言えない巨大な土砂流の台風を思わせる、斬撃の嵐。それに斬り刻まれ、オメガモンは地面に倒れ込んだ。
「思い上がるなよ、オメガモン。俺とさえまともに向き合う事の出来ない貴方が、これから先に待ち受ける戦いで勝ち残れる筈がない!」
「アルファモン……私には貴方と戦う理由がない!」
「まだそんな事を言うのか……理由はある! 強くなる為だ。貴方は何の為に戦う!」
「戦えない人々の代わり……力のない人々を守る為に!」
「なら何故守ろうと決めた!」
「私が守りたいと思った理由……」
オメガモンの心を深く抉っていくようなアルファモン・王竜剣の質問。それはまるで、優衣が一真にしているような感じだった。
守りたいと決めた物ははっきりしている。だが、戦う理由がはっきりしていない。それが今の一真であり、今のオメガモン。
「今の貴方に足りないのは正義と、それを支える信念。それがない聖騎士は虚しい聖騎士だ。ならばここで終わらせるのがせめてもの救い……覚悟! 究極戦刃王竜剣!!!」
刀身に黄金の光を纏わせた王竜剣で斬りかかるアルファモン・王竜剣。対するオメガモンは何も出来ず、自分に振り下ろされる王竜剣を見つめる。
(私は悔しかった……盟友達と最後まで戦えなかった事が。秘奥義を封じられ、敵の幹部と首領に倒されたのが。だから私は託した。私が倒せなかった敵を……必ずや私の力を継いだ誰かが倒すと)
もし聖杯戦争にオメガモンが参戦するとしたら、叶えたい願いは“最後まで戦い抜く事”だろう。“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”の前の戦いでバグラモンとタクティモンに倒され、仲間達と最後まで戦い抜く事が出来なかった。
オメガモンの心残りであり、果たしたい願い。それがどういう訳か知らないが、新生して果たすチャンスを掴む事が出来た。
(それが一真と一体化してチャンスを掴んだ……そのチャンスを手放したくない。私が戦う理由は……一体何の為に? 何の為に今まで戦って来た? 誰かに押し付けられたのではない。義務や使命の為……? 違う。私が戦う理由は一真の為だ。彼の大切な物を奪った代わりに、彼が大事にしていた物を守る為に戦う! それが私の戦う理由だ!)
目の前から迫り来る王竜剣。それをグレイソードで受け止めるオメガモン。その瞳は光が灯り、アルファモン・王竜剣を思わず唸らせる程。
オメガモンは一真と一体化し、彼が大切にしていた物と引き換えに新生した。ならばやる事は決まっている。いや最初から決まっていた。
「ほぉ……」
「私は義務や使命で戦って来た訳じゃない。人を、デジモンを、世界を守りたいという思い。皆を愛しているから私は戦っている!」
「そうだ! それで良い! それだよ、貴方が戦う理由は!」
グレイソードを振り抜きながら、力強く宣言するオメガモン。吹き飛ばされながらも空中で体勢を立て直し、アルファモン・王竜剣は着地した。
その表情は何処か楽しそうに見える。ようやくオメガモンこと一真がスタートラインに立てた。そんな気がするから。
「私はこの世界で甦った事で大事な事を忘れていた。私が戦う理由を。そして一真の事を。究極進化出来るようになっただけで戦えると思っていた。自分の事ばかりで、一真の事を理解しようとも、彼に宿る力を引き出そうとしない、私の愚かさが分かったよ。ブランクさえ埋めれば、また生前のように戦えると思い込んでいた自分が情けない!」
「オメガモン……」
「人間は道具じゃない。我々と同じだ。それぞれ名前がある。人間とデジモンは同じ。今を生きる者達。手を取り合い、共存出来ると私は信じている。私は一真の大切な物を奪ってしまった。私の大切な物を取り戻した代償に。だから守りたい。せめてこの世界の人々の命を、日常を、世界を! その為に私は戦う!」
オメガモンが叫ぶと共に胸部に埋め込まれた紅い宝玉が眩い輝きを放ち、全身を覆い尽くす程の膨大なエネルギーの奔流が発生し、周囲一帯に凄まじい量のエネルギーが渦巻く。
戦場における様々な情報が分析され、予測された結果が直接オメガモンの脳に伝達されていく。『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』が発動した証だ。
(何だ……この文字?“万象一切灰塵と為せ”……? 一真、これが君の力なのか?)
『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』で伝達された謎の言葉。首を傾げるオメガモンがグレイソードを見ると、刀身がギリギリと唸りを上げている。まるで未知なる力に歓喜のあまり震えているように。しかも灼熱の火炎が噴き出すおまけ付きだ。
どうやらグレイソードの力を引き出す言葉のようだ。居合抜きのような構えを取り、オメガモンは力強く宣言する。
「“万象一切灰燼と為せ”!」
宣言と共に解放されたグレイソードに秘められた力。刀身の全体から太陽の灼熱が発せられ、2体の聖騎士の周囲一帯が火炎に包まれる。
これが人間とデジモンが一体化した事で得た新しい力。それにオメガモンのみならず、アルファモンですら驚いた。
「これが……オメガモンの新しい力……!」
「そのようだな。貴殿も新しい魔法を習得出来たみたいだ。行くぞ、ここから反撃開始だ!」
先程と同じ刺突の構えを取り、心を昂らせるオメガモン。火炎で温度が上がっている地面を強く踏み締め、前進すると共に突撃を開始。
強化された脚力と全身の瞬発力を最大限に活かした踏み込み。それが爆発的な加速となり、瞬間的に神速の領域に足を踏み入れる速度を叩き出す。
草原を駆け抜ける純白の閃光。その巨体が凄まじい破壊を撒き散らしながら、神速超過の衝撃波で背後を薙ぎ払う。
「フッ!」
(さっきより力が上がっている! スピードも、何もかもが!)
突き出されたグレイソードを王竜剣の一閃で弾くアルファモン・王竜剣。先程より総合スペックが上昇している事に気付きつつも、反撃する事も忘れない。
返す刀で大上段から王竜剣を振り下ろす。先程までならこのカウンターをオメガモンは喰らっていた。しかし、今のオメガモンは違う。
弾かれたグレイソードを振るって王竜剣の斬撃を受け流し、大きく一歩を踏み込みながらグレイソードを薙ぎ払う。
「グァッ!!」
初めてアルファモン・王竜剣に入ったダメージ。確かな手応えを感じるオメガモンとは対照的に、アルファモン・王竜剣の顔は険しくなる。
今の斬撃は太陽の火炎で焼き払われたような物。太陽の熱量を鎧越しに感じつつ、直ぐに後退しながら距離を空ける。
グレイソードの間合いから逃れながらも、王竜剣の間合いの範囲内。その絶妙な距離を保ちつつ、アルファモン・王竜剣は斬り掛かる。
「“燃え上がれ”!」
「何!?」
オメガモンが吠えると同時に、太陽の灼熱は灼熱の波濤となった。驚くアルファモンの攻撃を受け流し、返す刀で斬り付ける。
攻防一体の灼熱の波濤。それを卓越した剣技で自分の手足のように自由自在に動かす事で、オメガモンはあらゆる攻撃を受け流し、あらゆる敵を焼き尽くす事が出来る。
「アイスランサー!!!」
更にまた距離を取ったアルファモン・王竜剣。どうやら先程のような斬り合いを捨てて、遠距離から魔法の攻撃に切り替えたようだ。
完全に状況は逆転した。それでもアルファモン・王竜剣は戦いを諦めない。左手でデジモン文字を刻み、空色の魔法陣を描く。
「アイスランサー!!!」
(何のつもりだ……この魔法攻撃は無意味なはずなのに。まさか!)
魔法陣から放たれた複数の氷の矢。グレイソードを薙ぎ払い、灼熱の波濤で瞬時に消し去る。予定調和の如き結果。それにオメガモンは引っ掛かりを覚える。
一体何を考えているのか。そう思った瞬間、予測結果が伝達される。それを見る暇も与えないのか、目の前にアルファモン・王竜剣が出現し、王竜剣を薙ぎ払って来る。
「永世竜王刃!!!」
「グレイ……ソォォォォーーーーーーードッ!!!」
放たれた王竜剣の渾身の薙ぎ払い。オメガモンはグレイソードを下段に構えると共に深く腰を落とし、強靭な足腰から来る反動をグレイソードに乗せ、カウンター攻撃として灼熱の波濤で焼き尽くす。
太陽の熱量と輝きを併せ持った斬撃。それを前にしては、流石のアルファモン・王竜剣も沈むしか無かった。模擬戦はオメガモンの逆転勝利。新たなる力を得た堂々たる勝利だった。
”電脳現象調査保安局”の何処かにあると言われているお寿司屋。それは“寿司処 王竜剣”。優衣が店主をしているお寿司屋。
一真との修行を終え、仕事を終わらせた優衣。彼女は仕事が終わった後、“寿司処 王竜剣”を開いて寿司を握っている。
「成る程。……修行の方は成功したという事か」
「はい。経緯はどうあれ、一真君はオメガモンになりました。修行が成功してくれないと困ります」
「随分と辛辣……でもないな。事実として、今デジタルワールドと人間界に危機が訪れている」
「でも彼は歴代最強のオメガモンになるでしょう。間違いないです」
「つまりは強いという事か……大事に育てなければ」
この日のお客は薩摩&クダモン。彼らに寿司を振る舞いながら、優衣は一真の修行の全てを報告した。その結果に満足している薩摩と、ドライな一面を見せる優衣と、険しい表情のクダモン。
彼らは気付いている。今デジタルワールドと人間界に危機が訪れている事。現在起きている現象がそれを裏付けている。
この小説のヒロイン、工藤優衣。
『Pixiv』様で書いていた前の小説では、寿司職人・お姉さま・滅茶苦茶強いヒロインでしたが、この小説でも引き続きこの路線で行こうと思います。
ただ設定は若干変えてあります。アルファモンが『X-evotuion』出身だったり。
いきなり主人公の修行回が来ましたが、これは職業=聖騎士という事もあり、一種の新人研修(内容はアレだけど)として結構スパルタ的だったと思います。
でもこうでもしないといけない事情がありますが、それは次回以降説明します。
それと色々と詳しい話も進めていこうと思います。
次回から本格的なスタート(やっとです。始まるのが遅いとか言わないで下さい)になるので、お楽しみに。
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次回予告
新人研修(?)が終わり、いよいよ本格的に動き出す事となった一真。
現在起きている人間界とデジタルワールドの危機を説明され、不安を抱くも早速来た案件に挑む事に。
第6話 聖騎士の初陣 プールの悪魔