終焉の聖騎士伝説~オメガモンとなった青年の物語~   作:LAST ALLIANCE

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今回の話は第1章の終盤までのスタイルを確立させる大事な話です。
基本的に『時を駆けるハンターたち』を参考にしていますが、所々変更しています。
序盤はヤバい設定を投下していますけど、どちらかと言うと説明回でもあります。

ではお楽しみ下さい!



第6話 聖騎士の初陣 プールの悪魔

 ”電脳現象調査保安局”のトレーニングルーム。そこには最新鋭の設備が整っているが、その一角にあるランニングマシーンでは一真が走り込みをしている。

 優衣ことアルファモンと模擬戦をした次の日から、新人研修に突入した一真。軍隊式の訓練や座学を経て、ようやく新人局員として働き始めた。月末に初めての給料を貰い、早速親の為に引き出して手渡した。実に親孝行な一真だ。

 仕事が一段落した為、今は身体を鍛えている。やる事がないからではない。これからの戦いに備え、今の内にやれる事をやる。そう考えた上で走っている。

 以前行った山登りの成果なのか、或いは模擬戦でオメガモンの力を更に引き出させた事による恩恵なのか。いや新人研修による賜物なのだろう。身体能力がまた向上している。

 

(そう言えば“デジモン化”の影響がない……やっぱりディアボロモンとの戦いの時は力に慣れる為に起きたみたいだな。身体が慣れて来たみたいだし……それにグレイソードの力も僕が引き出したっぽいから何もなかったし……)

 

 元々体育会の部活動に入っていた為、一真自身はトレーニングを行う事に全くの抵抗がない。増してや、オメガモンの為に、確固たる正義と信念の為に戦うのであれば猶更だ。

 走り込みの中で銀髪の髪に触りつつ、”電脳現象調査保安局”に入局して1ヶ月の間に起きた出来事について振り返っていた。

 この1ヶ月間の間に様々な事があったが、デジモン関係の出来事は無かった。だから一真も安心して研修に励む事が出来た。

 正局員として働き始めたのは今日が最初。先程まで人間界とデジタルワールドの現状について話を聞いていた。

 

「初めまして、一真君。僕はウィザーモン。デジタルワールドの在り方や人間界との関わり合いについて研究している学者さ」

 

「テイルモンよ。へぇ~貴方が優衣の言っていた人ね。良い男じゃない」

 

「ありがとうございます!(マジかよ……まさかリアルでこの2体のデジモンにお目にかかれるとは! デジモン万歳!)」

 

 講師は魔法使いのような姿をした魔人型デジモンのウィザーモン。そして助手はネコのような姿をした聖獣型デジモンのテイルモン。

 この組み合わせに生粋のデジモンファンたる一真は内心大喜びしているが、内面を押し隠して姿勢を正す。

 これから大切な話がある。一体何が起きているのか。自分が戦う相手は誰なのか。為すべき事は何なのか。それを知らなければならない。

 

「一真君。これから話す話は大事な話だから注意して聞くように。先ず、今現在何が起きているのかを説明するね」

 

 ウィザーモンが合図を送ると、テイルモンがタブレットを動かす。すると、一真の目の前のスクリーンにパワーポイントが出現する。

 そこに書かれているのはデジモンの出現に関する情報。デジモン達は何故どのようにしてデジタルワールドから人間界に来ているのか。その理由だった。

 

「今は人間界にデジモン達が目撃されたりしているけど、その理由は“デジクオーツ”という世界が原因なんだ。人間界とデジタルワールドを繋ぐ道、その中間にある世界なんだ」

 

「“デジクオーツ”……そこはオメガモンの姿でいけますか?」

 

「いけるよ? オメガモンは次元を越える能力を持ち、様々な世界を行ったり来たり出来るから」

 

 人間界とデジタルワールドの中間にある世界、“デジクオーツ”。デジタルワールドからその世界に迷い込み、人間界に来るパターンが多い。

 その場所にはオメガモンの姿でいけるという事。次元を越える能力を持っている為、様々な世界を行ったり、世界に来たりする事が出来るからだ。

 

「一応“デジクオーツ”には専用のゲートがあって、そこから入る事も出来るけど、デジモンが開通させたルートからも行けるんだ」

 

「と言う事はこの世界とデジタルワールドは繋がっている事になるんですか?」

 

「それは分からないけど、可能性は無きにしも非ずだね」

 

「“デジクオーツ”が無くなれば、人間界とデジタルワールドを繋ぐ道はどうなるのか。それはまだ分からないわ。でも“デジクオーツ”の存在が分かったのはつい数日前。貴方が撃退したクワガーモンを調査した結果なの」

 

 オメガモンがクワガーモンを撃退して冷凍標本にして持って来た時、ウィザーモンとテイルモンの方で解析を行った。

 その結果、“デジクオーツ”の存在が明らかになった。それでも一真には疑問がある。幾つか気になる事があるからだ。

 

「分かりました。ですが気になる事がもう1つ。誰がクオーツモンを復活させたかという事です」

 

「それは僕達でも分からない。でも分かる事がある。クオーツモンのデジモンが奪われ、シャウトモン達皆が負けたという事だ」

 

「何ですと……!?」

 

 クオーツモン。デジクオーツを生み出した張本人であり、一真が今回の事態の黒幕と考えているデジモン。

 増大し続ける人間界のデジタルパワーによって生まれた歪みのような存在だったが、クロスハートとバグラモンの戦いで生じたエネルギーによって自我を持ってしまった。

 自身の体を粒子化してばら撒いて人間界に“デジクオーツ”を広げ、吸収して自身を強化するためにデジタルワールドからデジモンを“デジクオーツ”に引き入れた。

 戦いの結果、最終的にデジタマになり、現在はシャウトモンによってデジタルワールドで保管されていた。しかし、何者かによって奪取され、復活してしまった。シャウトモン達は倒されると言う事実込みで。

 

「どうやら事態は思っているより深刻みたいですね。だから優衣さんは僕に……」

 

「そういう事みたいだね。話はここまで。それじゃあ休憩にしよう」

 

 これがウィザーモンとテイルモンから話された内容。それは一真の心に突き刺さる。戦うべき相手。やるべき事。それでも一真は進む道を選ぶ。

 相手はクオーツモン。そして彼を蘇らせた黒幕もいる。これから待ち受ける過酷な戦いに向けて、一真は己を鍛え上げようとトレーニングルームへと向かっていった。

 

 

 

「デジモンの『波動(コード)』?」

 

「えぇ。それが光が丘高校から放たれているの」

 

「僕の母校から……?」

 

 昼食を食べ終え、仕事に戻った一真のディーアークに反応があった。その反応を鏡花と一緒に見ると、光が丘高校からデジモンの反応が感じられた。

 光が丘高校。それは一真が通っていた進学校。まさか、母校でデジモンの『波動(コード)』が発せられているとは思ってもみなかったのだろう。

 

「どういう事なのか調査してきて欲しいの。貴方の母校なら話が早いでしょ?」

 

「分かりました。行ってきます」

 

「アポはこっちでするから頼むわよ」

 

 ”電脳現象調査保安局”の仕事の1つ目。デジモンが関わる電脳現象の発生に気付いた時、現場に向かって調査活動をする。

 一真が現場に赴こうと自家用車が置いてある駐車場まで向かっている最中、鏡花が電話で光が丘高校に連絡を入れる。これで準備は万端。

 ここから光が丘高校まで30分程。一真の心は闘志で滾る。卒業生として後輩達を助ける為に。オメガモンとして正義を貫く為に。

 

「君が我が校の卒業生、八神一真君か」

 

「はい。よろしくお願いします。藤宮校長」

 

 高校の応接室。卒業生の一真とは初対面となる藤宮孝也。彼が今の光が丘高校の校長先生だ。一真が卒業した数年後に校長先生となった。ちなみに一真の時は相川和也校長だった。

 早速藤宮校長から聞き込みを開始する一真。流石に生徒の名前は個人情報とプライバシーの観点から聞く事はしなかったが、一体どのような生徒達なのかを聞き出した。

 話を一通り聞き終えた一真は母校を後にし、立ち寄ったコンビニの駐車場に車を泊め、スマートフォンで鏡花に報告する。

 

「……以上が校長先生から聞いた話でした」

 

『成る程ね……生徒達の集団失踪事件が起きていて、被害者は皆何か悩みや不安を抱いているのね』

 

「はい。勉強や部活、受験とか……どうやら犯人は彼らの抱く負のエネルギーを吸収し、強くなっていると思われます」

 

『中々の知能犯ね。そのデジモンがいそうな場所は分かったの?』

 

「プールから『波動(コード)』を感じました。恐らくプールに潜伏しているみたいです。今は手出しできませんでしたが、夕方~夜なら……」

 

『水中戦が得意なデジモンね……分かったわ。一度戻って来て』

 

 校長先生から話を聞き、学校中を歩き回って調査した結果、一真は今回の事件の全貌を掴みつつあった。

 犯人は水の中に生息しているか、水中戦が得意なデジモン。狙っているのは何らかの事情で心に負の感情を抱いている生徒達。狙う理由は極めてシンプル。自分が強くなる為。

 報告を終えた一真は”電脳現象調査保安局”に戻り、鏡花・ウィザーモン・テイルモンと作戦会議を行う。確実に犯人を撃退し、デジタルワールドに連れ戻す為にも。

 

「……成る程。これは手強い相手だね。何か作戦はあるのかい?」

 

「あります。卒業生だった時の経験を活かす時です!」

 

「どうやって?」

 

「僕が生徒に変装するんです!」

 

 一真は鏡花・ウィザーモン・テイルモンに作戦を説明する。まだ実家には高校生の時に着ていた制服が眠っている。しかもデザインは今でも変わっていない。

 その為、着こなしてそれ相応の振る舞いをする。特に将来の不安を抱えている姿を見せる事で。相手を誘い出し、その上でオメガモンに究極進化して“デジクオーツ”に引き込み、撃退してデジタルワールドに連れ戻す。

 作戦は極めてシンプル。だからこそ鏡花・ウィザーモン・テイルモンは疑問に思う。果たしてこの作戦で上手く行くのかと。

 

「僕の直感は悪い時に当たりますが、“奴は必ず今夜仕掛ける”と囁いています。恐らく力を欲する為に、そして今まで成功しているので必ず来るでしょう」

 

「分かったわ。この案件、貴方に一任するわ」

 

「ありがとうございます」

 

 鏡花から作戦を一任され、深々と頭を下げる一真。早速作戦を行う為に自宅に戻り、高校時代の制服を用意する。その表情は最早一人前の戦士にしか見えない。

 生徒達が失踪する時間帯は毎回決まっている。夕方~夜にかけて。部活動や勉強に専念している時間帯だ。

 

 

 

「ハァ~困ったなぁ……この成績じゃ志望校には合格しないよ」

 

 夕方。時間帯は大体午後の6時と言った所か。光が丘高校の玄関から1人の男子生徒が出て来た。彼が手にしているのは模擬試験の結果。

 一見成績が良く、有名な大学に入れそうな感じがする結果表。しかし、第一志望の大学の判定はCランク。どうやら思ったより手応えが無かったようだ。

 男子生徒は顔を俯け、どうすれば良いのか途方に暮れる。今は9月。本番のセンター試験は1月の中旬。頑張ればまだまだ可能性が見えて来る。それでも悲観しているのには何か理由があるのだろう。

 

「僕の志望校、結構人気だからな……勉強法とか時間とか色々見直さないときついぞ、これ。まぁ頑張ろう」

 

 理由は志望校にあった。彼が目指しているのは上位の国立大学。レベルや志望者も多く、合格するには並大抵の努力では無理だ。

 これで勉強方法等の見直しを迫られる結果となった。結果表をカバンの中に入れ、男子学生は自宅に向かって歩き出す。

 その男子生徒をプールの中から見つめている影があった。彼を捕らえようと触手が伸びていくが、男子生徒は触手を掴み取った。

 

「成る程……こういう手口で生徒達を拉致していたのか」

 

「!?」

 

 犯人であるデジモン。彼の手口は至ってシンプル。自分を強化する負のエネルギー。それを心に宿している生徒を拉致する。

 潜伏場所は学校のプール。9月に突入し、水泳の授業はもう行われていない。それを利用しての犯行だった。

 

「もうお前の好きにはさせない! 一緒に行こうか、“デジクオーツ”に! 究極進化!!!」

 

 男子生徒に扮した一真が吼えると共に、全身を覆い尽くすと言わんばかりの光が放たれ、一真とデジモンの周囲を包み込むかのように光が渦巻く。渦巻く光の中で一真の黒い瞳が空色に輝き、一真は叫ぶ。

 渦巻く純白の光はやがて光の繭へと変わると、そのまま消えていった。一真はオメガモンに究極進化しながら“デジクオーツ”に向かっていった事となる。

 

 

 

「ここが“デジクオーツ”か……」

 

 初めて“デジクオーツ”に来たオメガモン。デジタルワールドとも、人間界とも異なる風景を見て目を細める。

 一真が知っている“デジクオーツ”。それは荒廃した人間界のような世界。或いはゲートが開かれた人間界の場所を模した地形や建造物がある。

 そうなると、学校やプールやグラウンドがある世界になる筈だ。しかし、目の前の風景は違う。広がるばかりの大海。全然話が違う。

 

(奴のテリトリーか?)

 

 思案しているオメガモンに突然襲い掛かる2本の触手。海中から放たれるが、オメガモンは直ぐに躱し、触手を伸ばして来た相手を睨む。

 触手を放って来た相手。今回の事件の犯人。それは背中に2本の触手を生やした悪魔のような姿をしたマリンデビモン。

 

「貴様が犯人だったか……マリンデビモン」

 

「おのれ……オメガモン。貴様のせいで私の計画が!」

 

「何の罪もない学生達を拉致した事を、このオメガモンは許さない!」

 

「ギルティブラック!!!」

 

 マリンデビモンは口から猛毒を含んだ墨を放つ一方、オメガモンはウォーグレイモンの頭部を象った左手を振るい、グレイソードを射出する。

 射出したグレイソードを左横に薙ぎ払い、青白い剣圧を飛ばして猛毒を含んだ墨を消し去ると、マリンデビモンは猛毒を含んだ墨の弾丸を連射して来る。

 左肩のブレイブシールドΩで防ぎながら、反撃のタイミングを伺っているオメガモンは気付いた。完全体のマリンデビモンが究極体に匹敵、もしくは同等の力を持っている事に。

 

(まさか生徒達の負のエネルギーを吸収し、パワーアップしたのか?)

 

「考え事している余裕はあるのか!」

 

 言葉と共に突き出された1本の触手の攻撃を胸部に受けるも、オメガモンは身に纏う純白の聖鎧でダメージを受けない。

 それでも衝撃までは無効化出来ず、オメガモンの動きは一瞬止まってしまう。その隙を逃さず、マリンデビモンは2本の触手によるラッシュを繰り出す。

 オメガモンは最小限の操作でグレイソードを振るいながら触手を弾いていくが、マリンデビモンはニヤリと不気味な笑みを浮かべる。

 その真意を探ろうとオメガモンが険しい表情をした途端、2本の触手で聖騎士の右手を絡め取り、そのまま海中へと引き摺り込んでいく。

 

「何!?」

 

「海の中じゃ力は発揮出来まい!」

 

 海中で対峙するオメガモンとマリンデビモン。聖鎧は錆びず、マントは水に濡れないが、流石に海の中では戦いにくい。

 何よりマリンデビモンは名前の通り、水中戦や海中戦を得意としているデジモン。幾らオメガモンでも不利なフィールドに連れ込まれた事になった。

 一応オメガモンも海中戦はこなせるが、経験があり、戦い方を知っているマリンデビモン相手には一苦労だ。ましてや、何らかの理由で強化されているのでなら猶更だ。

 

「ハァッ!」

 

「遅い!」

 

 グレイソードを構えて斬り掛かるが、海中にいる為か動きが遅く、キレがない。マリンデビモンに躱され、2本の触手の攻撃を今度は腹部に受ける。

 然程動じないオメガモンに、マリンデビモンは更なる追撃に出る。猛毒を含んだ墨の弾丸を連射する事で、オメガモンを防戦に追いやる。

 ギルティブラックを左肩に装備しているブレイブシールドΩで防ぎながら、初めての海中戦に苦戦するオメガモンは考える。

 

(幾ら奴のスペックが上がっているとは言え、所詮は金メッキ。でも先ずはここから抜け出す……いや私だけ逃れても意味がない。攻撃が海中にいるマリンデビモンに当たらなければ意味がない。何とかこの場所をマリンデビモンにとって不利な場所に書き換えれば……)

 

 オメガモンに考えさせる時間を与えてはいけない。そう言いたげにマリンデビモンはオメガモンを攻撃する。

 グレイソードと2本の触手。お互いの武器で戦う2体のデジモン。しかし、海中戦のエキスパートでもあるマリンデビモンが優勢に立っている。

 

―――駄目だ……このままじゃレギュラーになれない……部活なんて止めてしまいたい。

 

―――成績が伸びない……これでは志望校に手が届かない。

 

―――次のテストで高得点を取らないと駄目だ。留年しちゃうよ……

 

(これは生徒達の声! マリンデビモンが強くなった理由はやっぱりこれか!)

 

 “デジクオーツ”に迷い込んだデジモンは、一部の例外こそあれど、人間の心に影響される。人間の悪い心に影響されれば、負の感情を爆発させたかのような行動を取り、人間界に厄災をもたらす。

 今回の場合、高校生達の心に巣食う闇を利用する形で、マリンデビモンが生徒達を拉致して自分の力を底上げさせている。

 

「貴様……何の為に生徒達を誘拐した!」

 

「決まっているだろう? 強くなる為だ。人間達はこいつらのようにすげぇパワーを持っているからな……」

 

「私利私欲の為だけに生徒達を利用するとは……この生徒達は目の前の現実と戦い、負けないよう抗っている。その思いを踏み躙ろうとする悪魔は……このオメガモンが許さない!」

 

 一真が見ていた模擬試験の結果はかつて自分が受けた物。自分も同じ思いをしてきたから、彼らの抱える事情が分かる。

 それに付け込み、自分の私利私欲の為だけに利用しているマリンデビモン。その悪事を許す事が出来ないとオメガモンが言い放つと、メタルガルルモンの頭部を象る右手の目の部分に光が灯る。

 

「“蒼天に坐せ”!!!」

 

「何!?」

 

 オメガモンが右手に宿るメタルガルルモンの力を解放した瞬間、周囲の風景が一変した。海水が一瞬で凍り付き、周囲一帯に絶対零度の冷気が流れる世界へと変わった。

 ニブルヘイム。北欧神話の九つの世界のうち、下層に存在するとされる冷たい氷の国。ギンヌンガガプと呼ばれる亀裂を挟み、ムスペルヘイムの北方にあるとされる世界と成り果てた“デジクオーツ”。

 あまりの寒さに動きを止めたマリンデビモンと、平然としているオメガモン。これでマリンデビモンの戦術は封じた。先程までの戦い方も封じた事になる。

 

「貴様……汚いぞ! こんな真似をして!」

 

「そういう貴様も同じ事をしていただろう? これで振り出しに戻ったな」

 

「クソッ、でも強くなった俺は究極体級の力を得た。お前なんかに負けねぇ!」

 

「マリンデビモン。今の貴様を言い表すならこの言葉がお似合いだ。“身の程知らず”と」

 

 言葉を言い終えると同時にマリンデビモンの触手が襲い掛かるが、オメガモンはそれをメタルガルルモンの頭部を象った右手で弾き、グレイソードを横薙ぎに振るう。

 腹部に真一文字の斬り傷を刻まれ、吹き飛ばされるマリンデビモン。刻まれた斬り傷を触りながらも、目の前の現実を受け入れられないでいる。

 

「何故だ!? 何故こうも押される!」

 

「貴様の力が偽りだからだ!」

 

 究極体級の力のマリンデビモン。究極体デジモンの中でも、最強の『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の一員のたるオメガモン。力の差は歴然だ。

 その後もグレイソードの連続斬撃でマリンデビモンは追い詰められるが、自分が拉致してきた生徒達から負のエネルギーを吸収し、力を更に高めながらエネルギーを回復した。

 

(まずい! このままでは生徒達が危ない! 短期決戦で仕留めなければ……それ以前にエネルギー源となっている生徒達とマリンデビモンを隔離しなければ!)

 

 オメガモンは負のエネルギーを吸収し続けるマリンデビモンより、拉致されてきた生徒達の心配をする。このままでは彼らが危ない。そう判断したからだ。

 先ずは生徒達から負のエネルギーを放出させないようにする。それがマリンデビモンの強化の阻止と、生徒達の保護へと繋がる。

 メタルガルルモンの頭部を象った右手の口部分から巨大な大砲を展開し、砲口を生徒達のいる場所に向ける。

 右手に宿す絶対零度の冷気を砲身の内部で凝縮させ、砲弾形に圧縮して撃ち出す。絶対零度の冷気弾が生徒達のいる場所の地面に着弾すると、彼らを覆い包むように拡散する。そうして出来上がったのは絶対零度の氷壁。

 

「これでもう生徒達には手出しできまい!」

 

「クッ、だが貴様を倒せば問題ない!」

 

「それはどうかな?」

 

 オメガモンはガルルキャノンの弾種を冷気弾からエネルギー弾に切り替えると、体内に貯蔵してある破壊エネルギーを砲身の内部で凝縮させ、砲弾形に圧縮してマリンデビモンに向けて撃ち出す。

 胸部にエネルギー弾を喰らい、吹き飛ばされるマリンデビモン。オメガモンは直ぐに追撃に出る。一瞬で距離を詰め、左手に宿っているウォーグレイモンの力を解放する。

 

「“万象一切灰塵と為せ”グレイソード!!!」

 

「グアァァァァァァァァァァァァァーーーーーー!!!!!!」

 

 解放すると同時に、刀身が太陽の灼熱に纏われたグレイソードを大上段から振り下ろし、マリンデビモンを斬り下ろしながら焼き尽くす。

 これが戦いの終わりを告げる一撃となった。オメガモンはデジタルワールドへ繋がるゲートを開き、マリンデビモンを送り返した。そして拉致された生徒達と共に“デジクオーツ”から脱出し、人間界へと戻っていった。

 

「俺、レギュラーを目指してもう1度頑張るよ! そんで目指すは全国制覇!」

 

「志望校に合格する為に、これからも頑張るわ!」

 

「留年だけはしねぇよう、ちゃんと授業を受けるぞ!」

 

(一緒に頑張ろうな、皆)

 

 数日後。光が丘高校の近くを歩く一真が見たのは、自分が“デジクオーツ”から救出した生徒達が活き活きとしている所だった。

 ある生徒は部活動に、ある生徒は大学受験に、ある生徒は留年回避に勤しんでいる。誰もが色々な問題を抱えつつも、現実と向き合って精一杯生きている。

 その様子を見た一真はニコリと微笑み、その場から歩き去る。自分がした事の達成感や、確かな手応えを感じながら。

 

 

 

 話を変える事を許して欲しい。この人間界には鏡花ことリリスモンやウィザーモン、テイルモンがいるが、実はもう何体かデジモン達が暮らしている。その一部を紹介しよう。

 

「ここを直して……良し。これで動くかな?」

 

 とある休日。白衣を着ている人間がコンピューターの修理を終え、タオルで額の汗を拭っている。彼の名前は獏良皇太郎(ばぐらこうたろう)。

 一真が住んでいる街の郊外にある大きな家に住んでいる研究者の男性。実はかなりの有名人であり、世界的にも名前が知れ渡っている。

 

「起動は……良し。操作の方も……完璧。修理は終わりました」

 

「ありがとうございます、バグラ先生!」

 

「先生はよしてくれ。私はしがない研究者だ」

 

 獏良が依頼人から先生と呼ばれているのには理由がある。彼は科学者であり、研究者。ノーベル賞も幾つか取っており、様々な技術や便利な道具を発明しては実績を残している。その知識と実力を賞賛され、“生きる神話”や、“人間国宝”と言われている。

 とは言えど、本人は人格者である為、常に謙遜している。それが余計に彼の株を爆上げしている要員になっているのは皮肉な話だ。

 

「陛下、ただいま戻りました」

 

「お帰り、タクティモン」

 

 帰宅して来たのは1人の男性。獏良にタクティモンと呼ばれたが、人間界での名前は禎島拓郎(ていじまたくろう)。有名私立高校の数学教師であり、剣道部の顧問。渋い顔つきだが、オーラが凄まじい。

 分かりやすい説明と的確な指導で毎年ハイランクな大学の合格者を出しつつ、剣道部を毎年全国制覇に導いている超優秀教師。クラス担任でもあり、様々な悩みや事情を抱えた生徒に寄り添い、彼らを導いている為、保護者からも非常に人気が高い。

 一部ではGTT(グレート・ティーチャー・テイジマ)と呼ばれているが、本人は全く意識していない。

 

「という事はブラストモンも戻って来たな?」

 

「はい、その通りです」

 

「ただいま~買い物してきたぞ~!」

 

「お帰り、ブラストモン」

 

 ブラストモンと呼ばれた男性は若本大輔(わかもとだいすけ)。筋肉質で優しそうな男性で、普段は建築会社に勤めている。

 人間離れしたパワーと純真な性格で会社の人気者であり、休日は農業に勤しんでいる事から、“最強若本”と言われている。ちなみにメロンをプレゼントすると、喜びのあまり踊り出すという謎の行動パターンがある。

 

「ただいま~あら、皆もう帰って来たの?」

 

「リリスモン、お帰り~!」

 

「あぁ、我々もちょうど今帰って来た所だ」

 

「兄上、ただいま戻りました」

 

「お帰り、弟よ」

 

 そこに帰宅したのは鏡花ことリリスモンと獏良の弟の遼太郎。遼太郎は一真が卒業した大学の教授。学部が違ったから会う事は早々無かったらしい。

 獏良一家の夕食。彼らは目の前の美味しい料理を食べながら、酒を酌み交わす。しかし、話している内容はシリアスだった。

 

「リリスモン。今の情勢はどうなっている?」

 

「ようやく電脳現象の原因が分かりました。“デジクオーツ”……デジタルワールドの歪みが人間界に悪影響をもたらしています」

 

「最近の怪事件やデジモンの目撃情報はそういう事だったのか……」

 

 拓郎ことタクティモンの表情が曇ると、皇太郎達の表情も曇る。彼らはこれが厄災の前兆だと感じ取っているからだ。

 タクティモン。武人デジモンの数万年分の怨念のデータを練り固めて作られ、ゼロアームズ<オロチ>のデータを元に建造された刀“蛇鉄封神丸”を振るう武人。その実力はオメガモンに勝るとも劣らない。

 

「保安局の皆は本当によく頑張っています。特に一真君ことオメガモンが……」

 

「君が言っていたあのオメガモンか。私とタクティモンが倒したあの……」

 

「えぇ。あの時に確実に強くなっていますわ。今の彼が希望の光。誰が転生させたのかは分かりませんけど……」

 

「恐らくはホメオスタシス(デジタルワールドの安定を望む者)だな……」

 

 一真ことオメガモンの事を言われ、皇太郎とタクティモンの表情が気まずくなる。かつての因縁の相手との再会。恐らく在り得る事から、会った時にどう言葉をかけて良いのか正直分からないからだ。

 その途端、食卓に嫌な雰囲気が流れる。その空気を察した遼太郎は話題を逸らそうと、皇太郎に話し掛ける。

 

「兄上。今回の背後には七大魔王が関わっていると思います」

 

「フム……その可能性は無きにしも非ずだな」

 

「私はバルバモンじゃないかと思います」

 

「同感だ。今デジタルワールドに残っているのはバルバモンとリヴァイアモンだけだ。リヴァイアモンは身体も大きい上にパワーもある。ただ……策略家ではないな」

 

「あの……俺、馬鹿だからこういう難しい問題はよく分からないけど……バルバモンは多分違うと思う」

 

『?』

 

 手を挙げながら、大輔はゆっくりと自分の意見を伝える。その内容に全員が首を傾げ、大輔の方を見ると、大輔は考えをまとめながらゆっくり話していく。

 大輔ことブラストモン。かつてはデジタルワールドの北方の山地で天災のごとく恐れられていたが、気まぐれな性格で簡単な嘘に騙される“愛すべき馬鹿”。

 しかし、根は優しく純真で、自分が馬鹿である事を自覚している。本人が自覚していないだけで、実は頭の回転は悪くない。

 

「俺が知っているバルバモンは……策略家。自分が必ず勝てる状況を作って動く……そういうイメージがある。俺のように突っ走る事しか知らない奴じゃない」

 

「確かに……デジモンキングのシャウトモン相手に無策で挑む事はしない筈だ」

 

「となると、黒幕は別にいるという事だな? でもこれ以上考えても机上の空論となる。ここまでにしよう」

 

 シリアスな話はここまで。皇太郎はお開きを宣言すると、途端に食卓は賑やかなムードが流れ始めた。

 

 

 

「ここにいましたか、皇帝陛下」

 

「あぁ。ここは私が気に入っている場所だからな」

 

 夕食が終わった後、皇太郎は満天の星空を見上げながら一人考え事をしている。そこに来たのは鏡花。

 皇太郎は自分が気に入っている場所で誰かと話したり、酒を酌み交わす事が大好きな一面がある。中々風流だ。

 

「何か考えていましたね?」

 

「そうだ。何故私がこの世界に転生したのかを……その理由を考えていた」

 

 皇太郎はそう言いながら右腕に目を落とす。彼の右腕は義腕のようになっているが、これは彼の生前に関係している。

 獏良皇太郎。又の名をバグラモン。かつて“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”にて、バグラ軍を率いた皇帝。バグラ軍を創設する前にデジタルワールドの神に戦いを挑むが、敗れて裁きの雷を受けて右半身を失った。

 辺境の地に堕ちた所、偶然発見した世界樹“イグドラシル”を発見し、その一部を削り出して作り上げた義肢で補った。

 

「私は堕天使。大罪人。前の世界では歴史に刻まれたであろう大戦を起こしたのだから。私がもっと……人間とデジモンの可能性を信じていれば、こんな事には……」

 

「いえ、陛下。貴方は正しかった。貴方が立ち上がらなければ、世界は変わる事がなかった。貴方は何一つ間違えていませんでした。少なくとも……私はそう思います」

 

「ありがとう。どうやら……私がこの世界に来た理由が少し分かった気がするよ。前世の償い。きっと転生してくれた神様がもう1度チャンスを与えてくれたみたいだ」

 

 バグラモンがバグラ軍を創設した理由は、別にデジタルワールドを支配したり、神に復讐したりする為ではない。悪に生まれたデジモン達の拠り所を作り、世界の行く末を見極める力を得る為だ。

 彼がいたデジタルワールドにはこのような決まり事があった。一度その姿に生まれたデジモンは死ぬまで性質を変える事は無く、善は善、悪は悪として生きなければならないという不平等な在り方。

 そして、悪に生まれたデジモンは世界を呪うことを宿命づけられ、いつか必ず正義の元に全ての名誉を奪われて滅ぼされるという理不尽な在り方。

 バグラモンは弟のスカルナイトモンを見てデジタルワールドの在り方に疑問を持ち、何度も神に詰め寄ったが、何も変わらなかった。その後に反逆し、堕天する事になった。

 

「リリスモン。結果的に、君を戦いに巻き込んだ事になる。済まない」

 

「いえ、この世界に来てからいつかは戦いに参加しなければならないと思っていました。それに……また陛下とこうして一緒にいられるだけで私は幸せです」

 

 実の所、鏡花ことリリスモンは”電脳現象調査保安局”の創設メンバーの1人。優衣にとっては姉御みたいな物。一真から見れば信頼できる上司。バグラモンからすると奥さん。

 様々な顔を持ち、色々なキャラを見せているリリスモン。デジタルワールドから人間界に来て、様々な苦労を積み重ねた結果、色んな意味で成長したと言えるだろう。

 

「随分な物好きだな、君は」

 

「陛下には負けます」

 

「アハハハッ、そうか。そうだな……私は今度こそこの世界と、デジタルワールドに沢山の希望をもたらし、眩い光で照らしたい。それが私に出来る事であり、前世の償いでもあり、彼らが魅せた可能性を更に繋げる事だと信じている」

 

 バグラモンが行っている研究は全て信念の為に行っている。人間の心に希望をもたらし、その光で照らす。皆が前を向いて生きられるように。生まれて良かったと心から思えるように。それが彼なりの前世の償いだ。

 リリスモンも同じだ。来たるべきデジタルクライシスに備え、他の七大魔王の面々と共に”電脳現象調査保安局”を創設した。他の面々は今では別々の道を歩んでいる。

 

「それに……私達は1人ではない。手を取り合い、共に立ち向かえる仲間がいる」

 

 バグラモンとリリスモンの他に、タクティモンとブラストモンもいる。更にはスカルナイトモン改め、ホープナイトモンもいる。

 彼らは前世の記憶と力を持っている。タクティモンは元々持っている武力と智謀、ブラストモンは凄まじいパワーと強靭な防御力、ホープナイトモンは聖騎士の力と相棒の聖闘士アックスモンがいる。

 

「また長い時間を共に生きると思うが、これからもよろしく頼むぞ?」

 

「はい。こちらこそ」

 

 少し離れた所で見守るタクティモン、ブラストモン、ホープナイトモンも思わず笑顔になる中、バグラモンとリリスモンは夫婦のように寄り添う。

 こうして何らかの理由で転生し、何らかの理由でデジタルワールドに来たバグラモン一家。彼らが一真ことオメガモンと再会し、戦いに参戦する日はそう遠くない。

 




第1章は1話完結型のデジモン絡みの事件が中心となります。

・基本的な流れ

デジモン関係の事件が起きる→調査する→犯人を突き止める→オメガモンが戦う→勝利してデジタルワールドに送還する

 こんな感じです。大雑把に書きましたが。
そしてオメガモンという最強のデジモンが主人公なので、どうしたらバトルが盛り上がるかという事を考えると、同格以上の相手を出し続けるのは限界があります。
そこで相手を何らかの方法で強化したり、オメガモンに全力を出させないように話を展開させるようにしました。特に第1章は。第2章からは違くなりますけど。
でも第1章でもそういう制約なしのバトルは今後も何回か書いていく予定です。

皆さん、よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメントや応援メッセージ、高評価を頂くと、作者のやる気が超進化しますので。

では次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

ロボット開発に携わる社員達にムゲンドラモンの誘惑がささやかれる時、”デジクオーツ”のゲートが開く。
調査にあたる一真とテイルモンが見た物はブレイクドラモンだった。
果たしてムゲンドラモンの目的は!?

第7話 ムゲンドラモンの誘惑 ブレイクドラモン大暴れ!



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