終焉の聖騎士伝説~オメガモンとなった青年の物語~ 作:LAST ALLIANCE
そこで期待と指摘を受けたので、これからもっと皆さんが楽しめる物語を書いていこうと決めました。楽しめているかどうかは分かりませんけど。
ようやくタイトルがデジモンアニメっぽくなりました。
まだ第1章も本格的に始まったばかりなので、第26話まで勢いを維持しながら頑張ります。
お気に入り登録数も20を達成したので。
ではお楽しみ下さい。
”電脳現象調査保安局”のトレーニングルーム。筋トレを終えて一息付いていた一真の所に、薩摩が来ている。
理由は一真と話をする為。まだまだ新人局員の一真と話をする事で、少しでも職場に馴染めるよう、薩摩も色々な取り組みを行っている。
「オメガモンの力と戦い方に慣れて来たみたいだな」
「薩摩本部長……」
「毎日よく頑張っている。感心するよ」
「いえ……僕は不器用で努力型なので、毎日こうする事でしか強くなれないので……」
「それで良いんだよ。君は自分の性格を理解した上で強くなろうとしている。ただ突っ込むだけしか知らない猪武者じゃない。自分と向き合い、精一杯努力して前進している。立派な物だよ」
一真は薩摩の話を聞きながら、右手に持っている『ウイダーinゼリー』を飲む。彼にとって、『ウイダーinゼリー』は必需品。カバンの中には複数入っている。
戦闘はいつ何処で行われるか分からないから、エネルギー補給は重要。その考えから一真はいつでも飲めるよう、ズボンのポケットに入れている。
「まだ力を手にして少ししか経っていないのに、凄い成長ぶりだな」
「はい。やっぱり毎日努力しているからだと思います」
「それにオメガモンとの“融合率”もあるだろう。少し測定しても良いかな?」
薩摩の頼みを受けて、一度身体検査を受ける事となった一真。その後は定時までかかったが、結果は次の日に出た。
結果が記された紙を見ている一真と薩摩。その結果に一真は胸を撫で下ろし、薩摩は信じられないと言わんばかりの表情をしている。
「良かった……“デジモン化”が思っていたより進んでいない」
「“融合率”が高い……化け物か?」
薩摩が信頼を置く程、検査結果は正確で鮮明。しかし、その結果が凄かった。“デジモン化”が進行せず、“融合率”が過去最高レベル。化け物としか言いようがない。
この時点で一真は化け物レベルなのだが、問題なのはここから更に伸びる可能性を持っている事。しかもまだ未知の力を秘めている可能性もある。
この力を悪しき者達に利用されてしまう。それを防ぐのも本部長たる自分の仕事。近いうちに“デジクオーツ”で何かが起きようとしている。その危機に立ち向かう聖騎士を支えようと、薩摩は決意を新たにした。
日本山田工業株式会社。そこはロボット開発に力を注いでいる企業だが、同時にブラック企業として知られている。
ブラック企業。それは数年前から社会問題になっているが、元々は若者を大量に採用し、過重労働・違法労働・パワハラによって使い潰し、次々と離職に追い込む成長大企業の事を指している。
或いは従業員の人権を踏み躙るような全ての行為を認識しつつも、適切な対応をせずに放置している企業。将来設計が立たない賃金で私生活が崩壊するサービス残業を強制し、若者を使い捨てる所がブラックと言われる理由だ。
今研究室ではロボットの操作実験が行われている。ショベルカーを模したようなロボットが、四角いプラスチックの容器をショベルで掬い上げている。
「良いぞ……この調子だ!」
社員達が真剣で、かつ期待を込める視線で見守るが、突如としてロボットの動きが止まってしまった。まさかの事態に固まる社員達。
直ぐにロボットを手に取り、その原因を探る。原因はオーバーヒート。出力の上げ過ぎにあった。社員達は肩を落とすしかない。
「駄目だ! このままじゃ商品化どころか、ノルマを達成できない!」
社員の嘆き。それはロボットの商品化のみならず、自分達に課せられたノルマを達成できない不安と絶望から来る物だった。
少ない人員と設備。限られた時間と予算。上司からのプレッシャーと無理難題。条件が厳しい中、社員達は必死でやりくりしているが、どうしても限界が来てしまう。設計図を床に叩きつけてしまう程、彼らは限界に来ていた。
「何だ?」
突然、社員達のいる研究室に電子音が鳴り響く。それは備え付けのコンピューターに1通の電子メールが届いた証。
もしかして上司からまたプレッシャーをかけられるのではないか。不安と共に画面を開いてみると、そこにとある映像が映し出された。
『こんにちは。初めまして……日本山田工業株式会社の皆さん。私はムゲンドラモン。皆さんは優秀なロボット技術をお持ちと聞いて、このような形でお願い事をしに来ました』
「お願い事……?」
『私は今とあるロボットを作っていますが、どうも人手不足で思っていたより作業が進みません。ちなみに設計図はこちらです』
「凄い……こんなロボットを!?」
その映像はビデオレター。送り主はムゲンドラモン。彼は自分が作っているロボットの制作のお手伝いをして欲しいと言っている。
その設計図が映し出されると、誰もが画面を凝視する。設計図に書かれているのはとあるデジモンだった。
『このロボットを皆さんと一緒に完成させたいです。もし手伝って頂いたら、そのお礼としてこのロボットを皆さんにプレゼントします。お好きに使って下さい』
「これがあれば上司もギャフンと言うに決まっている!」
『ただ……このロボットを作る部品や組み立て方法が少し特殊なので、皆さんを特別な場所にご案内します。“デジクオーツ”という場所に……』
ムゲンドラモンの目が赤く輝いた瞬間、社員達の目が変わった。まるで何かに憑依されたかのように。何かに取り付かれたように。
そして彼らはコンピューターの中に吸い込まれていき、“デジクオーツ”へと向かっていった。ムゲンドラモンの頼み事を叶える為に。
”電脳現象調査保安局”の仕事は肉体労働が中心になると思うだろう。一真ことオメガモンの戦いを見ていれば、誰だってそう思っても仕方ない。しかし、実際の所は“戦う”という仕事はそこまで比重を置いていない。
仮にも国家が立ち上げた場所。書類仕事が中心になる。普段はデジモンに関する情報を集めたりしている。
「変ですね……このニュースは」
「でしょう?」
仕事中にも関わらず、新聞を読んでいる一真と鏡花。だがこれも立派な仕事。新聞や雑誌、聞き込みでデジモンの情報を集めているのだから。
彼らが見ているのは新聞の一面。そこには日本山田工業株式会社の社員が出社して来ないというニュースが書かれている。
「彼らは皆ロボット開発に携わっている共通点持ち……何か理由がありそうですね」
「もしこのニュースにデジモンが関わっているとしたら……大変な事になりそうよ」
「この前のマリンデビモンの事もありますし……しかもマシーン型のデジモンは結構手強い相手ばかりですから、聞き込みに行きましょうか」
「そうね。この件は貴方とテイルモンに任せるわ」
鏡花に今回の案件を一任された一真とテイルモン。ちなみにテイルモンの人間界での名前は荒木真央。人間体は大人の女性。
その昔、テイルモンは人間界に迷い込んだ事があり、その時知り合った人間の少女と暫くの間、デジタルワールドを冒険していた事がある。
ある程度人間界に詳しい為、”電脳現象調査保安局”の創設にも関わり、リリスモン達に人間界の常識等を教えた事もある。
「ごめん下さ~い」
「は~い」
その日の夕方。とある一軒のお家のインターホンを押した一真。その隣にテイルモンこと真央がいる。彼らが訪問したのは日本山田工業株式会社の社員の1人で、ロボット開発に携わっている立川時雄の家。
彼らを出迎えたのは奥さんの立川友里恵。スーツ姿の1組の男女を見て不安そうになるが、それを察した一真が優しく話し掛ける。
「初めまして。我々は”電脳現象調査保安局”の者です。申し訳ありませんが、今日の朝刊で貴女の旦那さんの名前が出ていたので、何かお力になれるかと思い、お邪魔しました」
「そうですか……主人は帰って来たばかりなので、上がってお茶を飲んで待ってもらっても良いですか?」
(変ね……新聞では出社しないとあったけど、話を聞く限りでは普通に仕事をしている感じ。どういう事かしら?)
真央は新聞の記事の内容と、友里恵の話の間にある隔たりに気付いた。出社しないと書かれている筈が、出社している事になっている。
何か裏技を使っているようだ。真央が1階で友里恵と話をしている間、一真は2階で時雄と話を始めた。
「何か用ですか?」
「(怖い人だな……ブラック企業に勤めていると、心を壊してしまうのかな?)実は新聞に時雄さんの名前が出ていたので、何かお力になれるかと思い、話を伺いに来ました」
友里恵の話だと、時雄は温和で優しい人柄との事。しかし、目の前の時雄は違う。まるで人が変わったかのような印象がある。
まるで何かに追い詰められているような気がする。声を聴いただけで怖い人だと一真には感じられた。
「早く終わらせてくれませんか? 私は今忙しいんです」
「忙しいと言われても……」
「俺は今お前と話をしている暇はないんだ! 俺の夢を邪魔するな!」
頭に血が上っているのか、短気になっている時雄の姿を見た一真は静かに立ち去った。この状態での話し合いは難しいと判断したからだ。
普段はおとなしい筈なのに、何故気難しい人になったのか。仕事が彼を追い詰めているのか。それとも別の事情があるのか。明らかに異常だ。
友里恵と話を終えた真央と共に家を出ると、近くのコンビニでお互いに話し合う一真。彼らは決めた。明日の朝、時雄が家から出た後に何をしているのか。それを調査する事を。
翌日。いつもより早く出勤し、”電脳現象調査保安局”に顔を出した後、立川家の近くで張り込みをしている一真と真央。
彼らの目の前を時雄の車が通過していく。ここまで見れば普通に会社に出勤していると思うだろう。そこまでは良かった。
「あれ? 近くのコンビニに停まったぞ?」
「コーヒーとか何かを買っているんじゃない? ブラック企業だから労働時間長くなるし、ましてやロボット開発に携わっているから、尚更だと思うわ」
「そうですね……僕はブラック企業みたいな所で働いていたのでその気持ちがよく分かります」
「そう言えば、一真君って転職したのよね? どうして新卒で入った会社辞めたの?」
「辞めた理由は幾つかありますけど……やってて成長出来ないと思ったからです」
一真は転職経験持ち。新卒で入った会社を辞めた理由はキャリアアップを望めない事。先輩達を見ても死んだような顔で毎日働き、同じ仕事を延々とやっていくだけ。
永遠に同じ仕事をやって、同じ日々を過ごすのか。しかも給料もそこまで高くないし、休日もそんなに多くない。そんな職場にいるより、もっと自分を伸ばせる職場で活躍した方が良いのではないか。そう思い、剣崎は2年未満で仕事を辞めた。
そこから先は終わりの見えない再就職活動に突入したが、何とか再就職に漕ぎつく事が出来て今に至る。
「色々大変な事や辛い事はありましたけど……でも今は充実していると思います。あの時は生きているようで、死んだような毎日を過ごしていましたから」
「そうなんだ……アンタも大変だったのね。よく頑張ったわ」
「はい。……ん? テイルモンさん、時雄さんの車がお家に戻っていきますよ?」
一真の昔話が終わったと同じ頃、時雄の車が駐車場を出て自宅の方に向かっていく。それが一体何を意味するのか。真央は直ぐに気付いた。
余談だが、一真は基本的にデジモンでも“~さん”と付けて呼ぶようにしている。仕事でデジモンとの付き合いはあるが、礼儀正しさは相変わらずのようだ。
「本当ね……さては、奥さんが仕事に行った時間になるまでコンビニで適当に過ごし、奥さんが仕事に行った時間を過ぎたら家に戻るつもりね?」
「何という事だ! それは俗に言うサボりって言う奴じゃないですか!」
「家に戻って自室で何をしているのか……調べに行くわよ!」
時雄の乗った車を静かに追いかける一真と真央。時雄に気付かれたら今までの自分達の行動が無意味になるからだ。
駐車場に車を泊め、鍵を挙げて家の中に入る時雄。流石に彼の後に続いて家には入る事は出来ない。一真と真央は2階の窓から時雄を監視する事にした。
「パソコンで作業をしているわね……一体何の作業かしら?」
「テイルモンさん、あれ!」
一真が指差したのは時雄のノートパソコン。画面が光り輝き、時雄の姿が消失すると共に画面の中へと消えていく。
これが意味する事は1つ。彼のノートパソコンは“デジクオーツ”に繋がるゲートとなっている事だ。
「“デジクオーツ”へのゲート!?」
「急ぎましょう! 光が消える前に!」
一真と真央は急いで立川家に入ると、2階の時雄の部屋に向かい、パソコンの光に向かって飛び込んでいく。傍から見れば不法侵入なのだが、友里恵にもしもの時は家宅捜査すると言っていたので、その辺は問題ない。
「あれ? 本当なら時雄さんの部屋みたいな風景になるのに……この前と言い、どうも“デジクオーツ”が変わったみたいだな。何処か別の場所に連れて来られた……みたいな」
「恐らく特定の場所に引き込む事が出来るデジモンなのね……今回の相手は」
「となると相手は……究極体」
「えぇ。しかもこの風景は“メタルエンパイア(鋼の帝国)”。今回の相手は強敵よ、一真君」
「マジですか……」
一真と真央が到着した“デジクオーツ”。その風景は時雄の部屋ではなく、まるで人間界にあるような工業地帯のようだった。
真央ことテイルモンはその風景を“メタルエンパイア(鋼の帝国)”と言ったが、これはデジモン達が所属している勢力の1つとして有名だ。
デジタルワールドのフォルダ大陸の峡谷にある工業地帯に栄えている。最初の頃は小規模だったが、今では『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』が警戒する程の大勢力となった。
最初の頃はアンドロモンの思考回路やボルトモンの暴走、メタルグレイモンの肉体の腐敗等の問題を抱えていたが、研究者達の努力によって克服された。負荷に耐えて腐敗しなくなったメタルグレイモン、思考回路の問題を解決したハイアンドロモンを誕生させた。
そして徐々にマシーン型、サイボーグ型デジモンは世界に広まっていくに連れて、勢力は“帝国”と呼ばれる領域に達した。
そんな矢先に四大竜が接触し、“帝国”に竜型デジモンのデータを提供してきた。その意図は今でも明らかになっていない。これにより、“帝国”は“竜と機械の融合”という技術革新を迎えた。
対空迎撃用のメガドラモン。機動力を犠牲にした代わりに、攻撃力が強化されたギガドラモン。陸戦用のメタルティラノモン。水中戦用のメタルシードラモン。これらを開発し、急激に勢力を拡大していった。
そして当時の科学の粋を集めた最高傑作ムゲンドラモンを生み出した後、技術の進歩を踏まえた上で、以前開発したデジモンを改造したカオスドラモン、ギガシードラモン等を生み出した。
「そう言えば時雄さん達は? この近くにいる事は確かなんだけど……」
「一真君。デジモンの『波動(コード)』を探る方法を教えるわ。先ず右手か左手、どっちでも良いから力を溜めてみて」
「力を? 分かりました……」
一真は真央の言葉を聞くと、利き手である右手に力を溜め込む。それに呼応したのか、一真の右手に蒼い光が灯った。
デジソウルとはまた違う蒼い光。オメガモンの右腕のメタルガルルモンをイメージしているようだ。
「その蒼い光でデジモンの『波動(コード)』を探ってみて」
「成る程……ここからはデジモンの力が必要。時雄さんの居場所を探る為にも、という事ですか?」
「それもあるけど、オメガモンの力に慣れる事が一番よ」
「……ここから左に進んだ所から何か巨大な『波動(コード)』を感じます。行きましょう!」
一真と真央は『波動(コード)』が発せられる場所へと向かう。そこは巨大な格納庫みたいな所。恐らく中では何らかのデジモンが造られているみたいだ。
相手は十中八九究極体デジモン。激戦になる事を自分に言い聞かせ、一真は真央と共に格納庫の扉の前に立つ。
「マジか……ブレイクドラモンかよ!?」
「あそこ……時雄さん達がいるわ。新聞に載っていた人達もいる。どうやら“デジクオーツ”に来て、ブレイクドラモンを造っていたのね」
2人が目撃したデジモン。それは頭部と背中にドリル、両腕と胸部にショベルを装備した四足歩行の竜のような姿をしたブレイクドラモン。
彼らの周りには時雄達がいる。彼らは“デジクオーツ”に来てからずっと、ブレイクドラモンを造っているみたいだ。
「でもブレイクドラモンが時雄さん達を呼び込んだとは考えにくい……」
「てことは別の誰かという事になるわね……」
一真の指摘通り、今回はブレイクドラモンが犯人ではない。ブレイクドラモンは優れた機械性能を持っているが、生体パーツがゼロに近いほど減少している為、意思や感情は失われている。そんなデジモンが人間達を“デジクオーツ”に引き込める訳がない。
ブレイクドラモンを見ながら考え込む真央の目の前で、今回の犯人ことムゲンドラモンが姿を現し、時雄達に声をかける。
「流石は皆さん。実に優秀です。素晴らしいロボットがもう少しで完成します。このロボットが完成したら、貴方達の実力は世界に認められたも同然!」
「ふざけるな! あのデジモンが人間界に来て動いてもみろ。とんでもない事になる!」
「ちょっと! 一真君!」
ブレイクドラモンが一体どういうデジモンなのか。それを知っている一真はムゲンドラモンと時雄達を止めようと走り出す。それを慌てて真央が追いかける。
このままブレイクドラモンの完成を許し、人間界に連れて行けば大惨事となる。事前に潰しておかなければならない。その直感が一真を戦いへと駆り立てる。
「誰だ? 連れて来た覚えのない人間が何故ここにいる?」
「簡単だよ。“デジクオーツ”のゲートをくぐってここに来た通りすがりの聖騎士だ」
「お前……八神一真!」
「知り合い……でもなさそうだな」
ムゲンドラモンと時雄達の目の前に姿を現した一真。時雄の反応を見たムゲンドラモンが目を細める中、真央が質問をする。
不気味そうにニヤリと笑いながら、ムゲンドラモンは真央の質問に正直に答える。嘘偽りない本心で。
「どうして“デジクオーツ”に彼らを連れて来たの?」
「このロボットが彼らのお役に立つと思って、事前に集めた部品を使って開発をお願いしたのです」
「嘘を言うな! このデジモンで人間界を侵略するつもりだったんだろう!」
「嘘ではない!!!」
『ッ!?』
はっきりと、かつ強く答えたムゲンドラモン。その勢いに一真と真央が押されると、ムゲンドラモンは話し始める。
自分が時雄達にブレイクドラモンの製造の手伝いを依頼した理由を。そこに込められた切なる願いを。
「私は“デジクオーツ”から見ていた。素晴らしいロボットを開発しようと頑張っている彼らの事を。でも彼らは少ない予算で、少ない部品で延々と働き続けている。それだからか成果が上がらない。彼らを見ている内に私は思った。何とかしてあげたいと。何とか彼らが報われるような、そんな手助けをしたいと。でも残念な事に、この“デジクオーツ”では手助けになるようなデジモンを作る技術はなかった。そこで私は……」
「ブレイクドラモンを造ろうと思った……という事か?」
「そうだ。ブレイクドラモンは欠陥品。戦う事に関して言えば完成品だが、それ以外は欠陥品。だから感情を持たせた上で工事や建設に使えるようにしたいと思った。だが私一体で作り、完成させるには時間がかかり過ぎる上に無理がある。だから……」
「時雄さん達に頼んだという事?」
ムゲンドラモンは悪いデジモンではなかった。“デジクオーツ”から時雄達の事を見て、彼らの手助けをしたいと思って行動した。
例え色々な所に突っ込みがあるとは言えど、その思いは本物だった。そんなムゲンドラモンの思いが正しい事を証明するように、時雄達は口々に援護射撃をする。
「そうだ! ムゲンドラモンさんは俺達に親身になってアドバイスしてくれた。時には褒めたり、注意したりして本当に働いている実感があった!」
「人間界に戻る時も最後まで見送ってくれたし、時々差し入れも持ってきてくれた。今の職場じゃ絶対に考えられないよ」
「俺達を何より大切にしてくれているし、励ましたりしてくれる。そんな上司だからこそ、俺達は協力したいと思った!」
「確かにこのロボットは危険かもしれない。でもムゲンドラモンさんは俺達の為に動いてくれたんだ。気持ちは分かるけど、俺達だって意地がある!」
『……』
彼らは洗脳された訳ではない。ムゲンドラモンに強制された訳ではない。皆ムゲンドラモンの為に、自分達の為に働いてブレイクドラモンを完成させようとしている。
ムゲンドラモンが理想の上司過ぎる。余程今の職場が問題だらけなのだろう。一方的に相手が悪いと言えなくなり、一真と真央は押し黙るしかない。
「もしお前達がブレイクドラモンに手を出そうと言うのなら……私は皆の為にお前達と戦う!」
「僕は貴方と戦いたくはない。でも……僕はオメガモンだ。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の一員だ。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』は自分の信じる正義と信念を掲げている。僕は僕自身が信じる正義を貫く為に、皆の心を解き放つ為に貴方と戦う!」
「そうか。倒せるものなら倒してみろ!」
「やってやるさ。究極進化!!!」
ブレイクドラモンと時雄達の為に戦うムゲンドラモンと、自分が信じる正義の為に戦う一真ことオメガモン。話し合いの解決は最早無理だ。
ムゲンドラモンは右手のムゲンハンドを構えて突進を開始し、究極進化を終えて姿を現したオメガモンはグレイソードを射出して構え、戦闘に突入していく。
ムゲンハンドとグレイソードをぶつけ合う2体の究極体デジモン。その一方で真央は時雄達を止めようと説得する。
「今の内にここから出るわよ!」
「駄目だ! 俺達はこのロボットを完成させる事が仕事なんだ! 仕事を途中で放り投げる奴が何処にいる!」
「その通りです! 皆さん。まだ未完成ですが、ロボットを動かしましょう!」
真央ことテイルモンの説得も虚しく、ブレイクドラモンが起動してしまった。凄まじい雄叫びを上げるブレイクドラモン。
自身の体にダメージを負うことも恐れず、朽ち果てるまで破壊を繰り返す究極の破壊竜がここに降臨した。
「ここを離れて! 危ないわ!」
「やった! 動いたぞ!」
「凄いぞ我々のロボットは!」
「(クッ、このままでは戦いにくい!)ならば……!」
真央が時雄達に逃げるように言っても、自分達が作り上げたロボットがついに動いたという事実に歓喜し、時雄達はその場で喜んでいる。
その場から逃げないでいる人間達。ムゲンドラモンとブレイクドラモンという2体の究極体デジモン。状況は最悪だ。力を満足に振るえない。
そう判断したオメガモンは一石を投じる。ガルルキャノンを展開し、格納庫の一角に照準を合わせ、青いエネルギー弾を撃ち込む。
これで格納庫は木っ端微塵に破壊され、広い場所に出る事が出来た。これで少しは思うように戦える。そう判断し、構えを取り直していると、ブレイクドラモンは左右のショベルアームで攻撃を繰り出す。
「フッ!!」
グレイソードを横薙ぎに一閃してショベルアームを弾くと、オメガモンはブレイクドラモンとの間合いを詰めようと、一歩前に踏み出す。
しかし、その動きを見逃すムゲンドラモンではない。背中に装備してある2門のキャノン砲から砲撃を撃ち込み、オメガモンの動きを牽制する。
近付けないのであれば、間合いを保ちながら砲撃を撃ち込めば良い。そう割り切ると、オメガモンはガルルキャノンから青いエネルギー弾を連射するが、ブレイクドラモンの左右のショベルアームが振るわれ、次々と四散されていく。
「凄い! 期待以上の強さだ!」
「∞(ムゲン)キャノン!!!」
「インフィニティボーリング!!!」
時雄達が歓声を上げる中、ブレイクドラモンはそれに応えるように攻撃を繰り出す。左右のショベルアームから怒涛のラッシュを繰り出し、オメガモンを防戦に追いやり、ムゲンドラモンの攻撃へと繋げる。
背中の2門のキャノン砲から放たれた超弩級の砲撃。オメガモンはそれを背中に羽織っているマントで防ぐと、それを見たブレイクドラモンが追い打ちをかけていく。
体中のドリルを全稼動させ、山を一撃で木っ端微塵に破壊する攻撃を次々と繰り出す。最小限の動きを以て、オメガモンは次々と躱していく。
「そこだ!」
「やっつけろ~!」
「追い込め!」
「グァァァッ!!!!」
「ちょっと待って! 皆目を覚まして! よく見て、貴方達が作ったロボット……ブレイクドラモンを! 貴方達の仕事はあんな破壊兵器を作る事なの!?」
真央の言葉を受け、目の前で繰り広げられている戦いを見つめる時雄達。ムゲンドラモンとブレイクドラモンの連携の前にオメガモンは次第に追い詰められ、ついにブレイクドラモンの攻撃を受けてしまった。
初めてダメージを受けて吹き飛ばされたオメガモン。立ち上がるその様子を見て、ようやく時雄達は目を覚ました。自分達が作った物の本質を。自分達が本当に作りたかった物は一体どういう物なのかを。
「アタシは貴方達がどういう過酷な状況で仕事をしているかまでは分からない……でも、オメガモンは、一真君は目の前の現実に抗おうと必死で戦っている。貴方達はどうなの?」
「自分の力で出来る事をしている……そうだ! 私達が作りたかったのはこんなロボットじゃない!」
「破壊兵器じゃなくて、皆を幸せにするロボットだ!」
言われるがままに、一体それが何なのか分からないままにブレイクドラモンを作ってしまった時雄達。一方、ブレイクドラモンの事を理解した上で破壊しようと戦っているオメガモン。完全に正反対。
やっと時雄達の目が覚めたが、同じようにムゲンドラモンの目も覚めようとしている。時雄達を見て自分が間違っていたと悟ったのか、それともオメガモンの必死な姿に影響されたのか。それは分からないが、どちらにせよ、良い事には変わりない。
「私がやりたかった事……そうだ。私は時代遅れと言われる事が怖くて、悔しくて、皆を見返そうとしていた。でもそれは自分の力でやり遂げないと意味がない!」
「そうだ! それだよ! やっと目を覚ましたなムゲンドラモン!」
ムゲンドラモンが“デジクオーツ”に来た理由。それは“メタルエンパイア(鋼の帝国)”の当時の最高傑作から時代遅れの遺産となるのが怖くて、皆を見返そうとした事。
悔しさや惨めさから今回の事件を起こしたが、ようやく大切な事に気付けた。ムゲンドラモンはオメガモンに深々と頭を下げる。
「済まない、オメガモン。私は大変な事をしてしまった……」
「謝罪は良いよ。とにかくまずは……」
「グオオォォォォォォォォォッ!!!!」
『ッ!?』
突如として雄叫びを上げるブレイクドラモン。全員が一斉に破壊竜の方を見ると、ブレイクドラモンが暴走を始めた。
ムゲンドラモンは“未完成”と言っていた理由。それはブレイクドラモンの暴走抑制の為の装置や措置をまだ取っていなかったからだ。その証拠に、ブレイクドラモンが暴走を始めてしまった。
「オメガモン、私を一緒に戦わせて欲しい。こうなったのも全て私の責任だ。落とし前は私の手で付ける!」
「あぁ、行こう。2人でブレイクドラモンを倒そう!」
「応! 無限の機械竜、ムゲンドラモン!」
「終焉の聖騎士、オメガモン!」
『参る!』
共闘するべく、一緒に並び立つオメガモンとムゲンドラモン。お互いに名乗りを上げると、同時に一歩前に踏み出した。
同時に突進を開始するオメガモン。左腕に宿っているウォーグレイモンの力を解放し、グレイソードを太陽の聖剣に変えていく。
「デストロイドラッシュ!!!」
「“万象一切灰塵と為せ”グレイソード!!!」
「グオオォォォォォォォォォッ!!!!!!!」
ブレイクドラモンは左右のショベルアームを超高速で怒涛のラッシュを繰り出すのに対し、ムゲンドラモンが背中のキャノン砲から砲撃を撃ち出し、ショベルアームを弾いていく。
その隙にオメガモンはグレイソードから灼熱の波濤を生み出し、横薙ぎに一閃してブレイクドラモンを薙ぎ払いながら焼き尽くす。
「決めるぞ、ムゲンドラモン!」
「了解!」
オメガモンはガルルキャノンを構えると共に、ムゲンドラモンは背中のキャノン砲の照準をブレイクドラモンに合わせる。
砲身の内部に集束されていく凄まじいエネルギー。チャージが終わると共に、2体の究極体デジモンは同時に砲撃を撃ち出す。
「ガルル……」
「∞(ムゲン)……」
『キャノン!!!』
「グオオオオオォォォォォォォォォッ!!!!!!!」
オメガモンの大砲から撃ち出された蒼い光の波動と、ムゲンドラモンのキャノン砲から撃ち込まれた超弩級の砲撃。
それが二方向から同時にブレイクドラモンに命中し、ブレイクドラモンは苦痛に満ちた雄叫びを上げながら、データ粒子に変わって消滅していった。
ブレイクドラモンが消え去る様子を見ている時雄達。彼らは自分達が作り上げたロボットが消えるのを寂しそうに見ているが、その内心は新たなる一歩を刻めた恩人たるオメガモンとムゲンドラモンへの感謝に満ちていた。
数週間後。新聞では日本山田工業株式会社に関する記事が出ていた。ブラック企業だったのが優良企業へと変わったのだ。
働き方や予算のかけ方と言った全てを根本から見直し、社長等の重役も一新し、再スタートを切った。そして時雄達はロボットを完成させる事が出来た。
設計や部品を根本から見直した以上に、ムゲンドラモンの教えもあったのだろう。見違えるレベルの成長を遂げていた。
「どうやら上手く行ったみたいですね。彼らの作ったロボットが皆を幸せに出来ると良いです」
「あのムゲンドラモンはどうなったかしら……」
「大丈夫ですよ。ムゲンドラモンは運命と戦い、必ず勝利します。だって……だって、戦いの中で改心出来たんですから」
休憩室で新聞を読んでいる一真とテイルモン。彼らの話題はムゲンドラモン。あの後、デジタルワールドに戻ったムゲンドラモンは、真っ直ぐに“メタルエンパイア(鋼の帝国)”に向かっていった。
己自身と向き合い、己の運命と戦いながら打ち勝つ為に。一真は予感している。ムゲンドラモンが必ず運命に打ち勝ち、きっとまた会える事を。
「そうよね……しっかし、アンタも凄いわね。“デジクオーツ”で暴走している人間やデジモンを救うなんて。流石はオメガモンって事かしら」
「違いますよ。凄いのはオメガモンで、僕は全然凄くないです。でも……僕は人間を、デジモンを愛しているんです。だから戦えるんです。それを教えてくれたのは優衣さんですけど」
「どうやらアンタは生粋のデジモンバカみたいね……」
「ありがとうございます。最高の褒め言葉です」
「フフッ」
楽しそうに談笑している一真とテイルモン。今回の事件で一緒に行動し、解決に導いた事から、お互いに認め合う関係になった。
それを少し離れた所で見守るウィザーモン。彼は仕事があるのか、その場から立ち去りながら、内心一真にエールを送った。
今回の敵として登場したムゲンドラモン。
書いている途中で何だか良い奴になってしまいました。
最初は人間を利用するベタな悪役にする予定でしたけど、気が付いたらこんな事に……こういう事もあるんですね。
何だか1話だけの登場がもったいなくなったので、第1章の終盤に再登場させる事を書いている内に決めました。名前が変わるかもしれませんが。
皆さん、よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメントや応援メッセージ、高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。
では次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!
次回予告
とある休日。鏡花の実家に行くよう誘われた一真。
そこで待っていたのはかつての宿敵、バグラ軍の幹部との再会。
明かされるデジタルワールドで起きている事と、バグラモン達が人間界に来た理由。
そして急遽行われたオメガモンとタクティモンのバトル。
今世界を越えた、因縁の戦いが始まる。
第8話 因縁の再会 オメガモンとバグラモンファミリー