終焉の聖騎士伝説~オメガモンとなった青年の物語~   作:LAST ALLIANCE

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今回は物騒なタイトルですが、タイトルのまんまです。
昨日は設定集を投稿しましたが、外伝の予告をしたので真面目に書き始めようか検討しています。オメガモンの出番・見せ場は必要最小限かつ彼にしか出来ない仕事(空を飛ぶ相手担当)みたいな物に留めます。でしゃばるのは良くないので。
ステータスは抑えめ(FGOだと普通にありそうな感じ ☆5)にしてますし、正直戦闘よりも英霊達の交流や皆のサポート(主に精神面)をメインにする予定です。

活動報告もこの後書きますが、ちょっとアンケートの方を実施します。
『Fate/Grand Order』の小説を読みたいかどうか。
今読みたいか時系列に沿って読みたいか(第2章終了後)。
この2つを聞きたいです。感想欄にはコメントせず、活動報告にお願いします。
良いですか? 感想欄ではなく、活動報告にお願いします。



第30話 堕ちた聖騎士

 デジタルワールドのディレクトリ大陸。その北西部にある街。そこは今では荒地に変わり果てている。その荒地で工藤優衣はマキ・イグドラシルと対面していた。

 マキの後ろには3体の聖騎士がいる。アルフォースブイドラモンX・ローラン。スレイプモン・グラーネ。クレニアムモン・フェルグス。

 

「イグドラシル! 一体どういうつもりなの!?」

 

「どういうつもり? 私は新しいデジタルワールドを作る下準備をしているだけよ?」

 

「ふざけないで! 何の罪もないデジモンを一方的に殺戮する事の何処が、新しいデジタルワールドを作る下準備なのよ!? 今の世界に何か不満がある訳!?」

 

 新しいデジタルワールドを作る下準備をしているマキと、その行いを非難する優衣。議論は完全に平行線となっている。3体の聖騎士は2人の議論を見守るだけだ。

 優衣は『プロジェクト・アーク(箱舟計画)』の事は全く知らないが、目の前にいるイグドラシルが非道な所業を行っている事は分かる。だからこそ許す事が出来ない。

 

「大有りよ。今のデジタルワールドはホメオスタシスとの分割統治。デジタルワールドを治めるのは1体の神だけ。これが鉄則。私はその鉄則に基づいて新しいデジタルワールドを創ろうとしているだけよ? どうして責められなきゃいけないのかしら?」

 

「冗談じゃないわ!確かにその鉄則は守らなければならない……でもだからと言って、その鉄則がデジモン達を殺戮して良い理由にも、世界を作り替える理由にもならない! 貴女の勝手な理由で世界を滅ぼさせはしない!」

 

 マキの言う通り、デジタルワールドを治めるのは1体の神様だけだ。今は2体の神様で分割統治している為、自然と負荷がかかっている状態となっている。マキの言い分にも一理ある。間違った事は言っていない。

 しかし、間違った事は行っている。幾ら道理を通そうとしても、やって良い事と悪い事がある。その分別も出来ないのか。優衣が指摘するのはその部分だ。

 

「そう……貴女は知らないのね。私が何者なのかを。良いわ。話してあげる」

 

 マキ・イグドラシル。ノルン・イグドラシルの妹。『厄災大戦』の原因を生み出し、今はイグドラシルの大半を掌握している

 人間によって悪用され、命を弄ばれ、殺され続けるデジモン達の不幸。デジタルワールドを荒らす人間達の横暴。それらを見てしまい、そのデジモンの考え方を認めて一体化した事で今の人格となった。

 彼女の行き過ぎた統治の結果、『厄災大戦』が勃発した。終結後、ホメオスタシスが建造されると共に、マキは力を奪われると共に追放された。それからはノルンとホメオスタシスによる分割統治が始まった。

 しかし、5年前に『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』を率いてクーデターを起こし、イグドラシルを掌握してノルンを抹殺しようとした。

 

「ふ~ん、まぁ言い分にも一理あるかもしれないけど、だからと言って私は曲がらないわ。貴女の計画を邪魔させてもらうから」

 

「待って。話を最後まで聞いて。私は貴女達とは争いたくないの」

 

「急に何? 私を生け捕りにするつもりなんでしょう? 突然態度を変えるなんて貴女は本当に神様なの? あ、そっか。貴女は神様だけどデジモンなのよね? だったら一体化しているデジモンを引き摺り出せば良いんだ……そうすれば貴女は元通りになるから一件落着。後はそのデジモンを倒せば良いから。私はそういうの得意だから任せて?」

 

「い、いや……それよりも提案があるの。貴女や八神一真は凄い力を持っているし、人格もしっかりしている。出来れば戦いたくないし、殺したくないの。私と一緒に来ない? 私が創った新しい世界を一緒に守りましょう?」

 

 ヤンデレみたく狂気に満ちた様子で、早口でまくし立てる優衣。彼女を見ているマキだけでなく、ローラン・グラーネ・フェルグスの3体の聖騎士ですら冷や汗が止まらない。

 若干引きながらも優衣に提案をするマキ。彼女は二度と人間やデジモンが争わない世界を創りたいと思っている。その為にデジモン達を殺戮し、人間界を崩壊させてデジタルワールドと統合させる。

 今の人間・デジモンは邪悪な心に満ちている。お互いに争う事を止めようとしない。全てを滅ぼし、自らの手で新たなる人間・デジモンを生み出す。そして自分がその新世界の支配者となる。そういうシナリオだ。

 

「嫌よ? 今の世界で満足しているし、今の世界だからこそ守りたいと思えるんだから。貴女の考えに乗るつもりはないわ?」

 

「交渉決裂ね……仕方ないわね。ローラン、グラーネ、フェルグス。彼女を捕まえなさい。ただし殺しては駄目よ?」

 

「了解!」

 

「御意!」

 

「お任せを!」

 

「ふ~ん、寄ってたかってかよわい女性を傷付けるのね。良いわ。そっちがその気ならこっちもやってやろうじゃない。究極進化!!!」

 

 マキは心底から残念そうな表情をすると、3体の聖騎士が戦闘態勢に入った。ローランは右腕のVブレスレットから光の剣を出現させ、グラーネは右手に握る聖盾と左腕に装備している聖弩を構え、フェルグスは双刃の巨大な魔槍を握り締める。

 優衣が闘志を燃やすと共に、全身を覆い尽くす程の膨大な光の奔流が発生し、彼女の周囲に眩い光が渦巻き始めた。

 マキと3体の聖騎士が見つめる中、渦巻く光の中で優衣の瞳が赤く輝くと同時に究極進化が始まった。光が消失した後にはアルファモンが立っていた。

 右手でデジモン文字を刻んで魔法陣を描き、中心に突き刺さった光の収束―聖剣グレイダルファーを引き抜くアルファモン。3対1と言う数の上では不利な戦いが始まった。

 

ーーーーーーーーーー

 

「『デジタライズ・オブ・ソウル』!!!」

 

「この程度の攻撃は効かないよ!」

 

「グラーネ、マキ様を頼む!」

 

「分かった!」

 

 先手を打ったのはアルファモン。左手の平を前に突き出し、緑色の魔法陣を描いて緑色のエネルギー弾を連射する。展開されたのは緑色のエネルギー弾による弾幕。

 無数の緑色のエネルギー弾が襲い掛かるのに対し、2体の聖騎士が迎え撃つ。ローランとフェルグスが迎撃し、グラーネはマキの護衛。

 ローランは右腕のVブレスレットから出現させた光の剣を、フェルグスは両手に握る魔槍クラウ・ソラスを振るい、緑色のエネルギー弾を次々と弾き返す。

 その間に“縮地”を発動させたアルファモン。その両手には2本の聖剣グレイダルファーが握られている。一瞬でローランとフェルグスの目の前に出現し、2本の聖剣グレイダルファーを相手の頭上から振り下ろす。

 

「『グレイドスラッシュ』!!!」

 

「クッ!!」

 

「ムン!! 凄い力だが、このまま押し返してくれる!」

 

 ローランはVブレスレットから出現させた光の剣で、フェルグスは魔槍クラウ・ソラスで『グレイドスラッシュ』を受け止めた。

 そのまま鍔迫り合いに移行する3体の聖騎士。その中でフェルグスは右手で持っているクラウ・ソラスに左手を添えて両手で握り締め、薙ぎ払いながらアルファモンを弾き返そうとする。

 それに気付いたアルファモンだったが、フェルグスの努力を嘲笑うようにニヤリと笑う。その笑みに気付いたマキが叫んだ。

 

「ローラン、フェルグス! 気を付けて!」

 

「遅い!」

 

「何!?」

 

「グアッ!!」

 

 マキの言葉に2体の聖騎士が反応するよりも先に、アルファモンが仕掛けて来た。聖剣グレイダルファーは元々光が収束して出来た聖剣。その光を解放して光の波動として両手の平から放った。

 至近距離から放たれた光の波動。幸いにもそれぞれの武器に向けて放たれた為、ダメージを受ける事は無かった。その代わりに2体の聖騎士は吹き飛ばされるが、空中で体勢を立て直して着地する。

 

―――奴らはマキ・イグドラシルの手によってX進化させられただけでなく、強化を施されている。

 

 ここまでアルファモン有利に進んでいるが、彼は気付いていた。目の前にいる聖騎士達はマキの手によって強化されている事を。その証拠に直ぐに立ち上がり、武器を構え直した。普通ならここまで立ち直りは早くない。

 それはマキ達も同じだった。目の前にいるアルファモンは強い。人間とデジモンの一体化。それがどれ程の強さをもたらすのか。改めて思い知らされた。

 

「あのアルファモン、中々侮れないね」

 

「聖騎士らしいかどうかは置いておいて……とにかく強い。それに戦い方が上手い」

 

 ローランとフェルグスはアルファモンの強さと戦慣れに舌を巻いた。自分の武器で攻撃をしたかと思えば、その武器を相手への追撃用に利用して来た。

 全ての行動に一切の無駄がない。一つの攻撃が次の攻撃に繋がり、同時にもしもの保険となっている。戦運びが上手いとも言える。

 再び2本の聖剣グレイダルファーを召喚し、両手に握り締めるアルファモン。それを見たフェルグスは魔槍クラウ・ソラスを握り締めながら、ローランに告げた。

 

「ローラン、ここは私に任せてもらおうか。あのアルファモンはクレニアムモン・フェルグスが一騎打ちで倒す!」

 

「分かった。でも危なくなったら介入するからね?」

 

「私が死にそうになった時は頼む」

 

 『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の一員、クレニアムモン。彼には戦う事にポリシーを持っている。敵と戦う時は常に一騎打ちで挑み、その上で打ち破る事。その相手が強敵であればある程燃え上がり、相手を倒した喜びは至上の物となる。

 始まったアルファモンとフェルグスの一騎打ち。先に動いたのはアルファモンの方からだった。左手に握る聖剣グレイダルファーの剣先をフェルグスの足元に向け、刀身を青色に光らせながら魔法を繰り出す。

 

「“巻き起これ、水流”! 『スプラッシュ』!!!」

 

「この程度の魔法など!」

 

 フェルグスは半歩下がり、自分の足元から噴き上がった水流を躱すと共に、両手に握る魔槍クラウ・ソラスを振るって噴き上がる水流をかき消す。

 その間にアルファモンはもう1度“縮地”を発動する。両手に握る聖剣グレイダルファーを構えながら、フェルグスとの間合いを一瞬で侵略した。

 

「ウオオオオォォォォッ!!!!!」

 

―――速い!?

 

 裂帛の気合を上げながら、アルファモンは聖剣グレイダルファーから交差斬りを繰り出した。フェルグスは咄嗟にクラウ・ソラスで斬撃を受け止め、魔槍を振るってアルファモンを弾き飛ばす。

 空中で体勢を立て直し、地面に着地したアルファモン。背中に羽織っているマントを翻しながら再び“縮地”を発動して、距離を詰めて2本の聖剣グレイダルファーから連続斬撃を繰り出していく。

 フェルグスは魔槍クラウ・ソラスで防御するが、その攻撃速度と威力に驚く。神速の剣技。まるで理性を失ったかのような苛烈な連続斬撃。威力は凄まじいとしか言う事が出来ない。一撃一撃が重くて鋭い連続斬撃。

 

「たかが斬撃程度、我が魔槍で弾き返してくれる!」

 

「―――ッ!」

 

 右足を一歩力強く踏み込むと共に、フェルグスは魔槍クラウ・ソラスを全力で薙ぎ払ってアルファモンを弾き飛ばす。

 たまらないと言わんばかりにアルファモンは吹き飛ばされるが、空中で体勢を立て直して危なげなく着地する。それを見てフェルグスは追撃に出た。

 両手に握る魔槍クラウ・ソラスを高速回転させ始める。ヘリコプターのプロペラのような高速回転が始まった。

 その動作を見たアルファモンの表情が険しくなっていく。フェルグスの行動を見ただけで、次に来る必殺奥義が一体何なのかが分かったからだ。

 

「『エンド・ワルツ』!!!」

 

「フェルグス、本気だね……」

 

「流石にこれなら……」

 

「『フォトン・グレネイド』!!!」

 

 放たれたのは“衝撃波(ソニックウェーブ)”。それが超音速でアルファモンに襲い掛かる。これを受けた相手は衝撃波によって全てのデータが粉砕されるまで、文字通り踊り続ける事となる。

 しかし、アルファモンは動じない。迫り来る超音速の“衝撃波(ソニックウェーブ)”に対し、左手に握る聖剣グレイダルファーを一度消して左手の平を前に突き出す。

 デジモン文字を刻み、魔法陣を描いて『エンド・ワルツ』を真正面から受け止めるアルファモン。魔法陣で受けた衝撃やエネルギーを吸収しながら増幅させ、巨大な光の波動として撃ち返した。

 

「何!?」

 

「『エンド・ワルツ』を跳ね返した!?」

 

「おのれ……!」

 

 クレニアムモンが誇る最強の攻撃技。必殺奥義の1つ。それをあっさりと防いだだけではなく、カウンターとして跳ね返して来た。

 その事実にフェルグスとローランは驚愕し、グラーネとマキも表情には出していないものの、アルファモンの戦術の上手さに舌を巻いている。

 魔楯アヴァロンを使おうにも、ブラックデジゾイド化されている聖鎧のデータにアクセスし、そこから生み出すと言うプロセスを経ない限りは使えない。時間的にアウトとなる。残された手段は回避・防御・迎撃の3択だった。

 フェルグスは3択の中から迎撃を選択した。高速回転させていた魔槍クラウ・ソラスを構え直し、迫り来る巨大な光の波動に向けて一閃する。巨大な光の波動は四散され、瞬く間に消え去っていった。

 

「ほぉ、中々やるじゃないか。流石としか言えない。堕ちても『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』だけの事はあるか」

 

―――こっちは必殺奥義を使っているのに、アルファモンはまだまだ余裕を見せている。これが実力と格の差なのか……

 

 得意のカウンター奥義を迎撃されたにも関わらず、相手の実力を推し量れたのか、まだまだ余裕を見せているアルファモン。それに対し、フェルグスは必殺奥義を用いても押されている状況に焦りを見せている。

 アルファモンが使用したのは普段使っている聖剣と攻撃技、初級魔術とカウンター奥義のみ。この他にもまだまだ引き出しがある為、氷山の一角に過ぎない。

 

「フェルグス。貴方に1つ聞きたい事がある」

 

「何だ?」

 

「貴方達はマキ・イグドラシルの行動に何も思わないのか? 何の罪もないデジモンを殺戮し、人間界を崩壊させて新世界を創る。本当にそれが正しいと思っているのか?」

 

「……本当に人間とデジモンが平和に暮らせるのならば、私は何も言わない。そのやり方がどうあれ」

 

「……そうか」

 

 アルファモンはフェルグスに質問をする。マキ・イグドラシルの推し進めている計画に対し、何も思わないのかと。

 フェルグスは答える。そのやり方がどうであれ、本当に人間とデジモンが平和に暮らせるのならば正しいと。その答えにアルファモンは何か引っかかるような物を感じたが、この場は頷いた。

 

「どうやら堕ちたと言っても、誇りまでは失っていないようだな」

 

「あぁ。そこまで堕ちていないぞ?」

 

「そこまでよ、フェルグス。お喋りが過ぎるわ。それに貴方達じゃアルファモンには勝てないみたいね。下がりなさい」

 

「分かりました」

 

 アルファモンはフェルグスの答えを聞いて理解した。フェルグスは聖騎士としての誇りを失っていない。彼自身の正義に従いながら行動している。

 その様子を苦々しく見ていたマキはフェルグスを下がらせた。どうやらフェルグスが余計な事を話したのだろう。

 

「イグドラシル。貴女には聞きたい事が沢山ある。貴女と一体化したデジモンの正体を教えてもらえないか?」

 

「それは出来ない相談ね。もう1度聞くわ。工藤優衣……アルファモン。私と一緒に新しい世界を創らない? 今推し進めている『NEOプロジェクト・アーク』に参加しなくて良いから」

 

「何回も言わせるな。俺はこのデジタルワールドと人間界を守る。相手が例え神であっても、俺の正義は揺るがない。それにここで俺を倒したとしても、人間界にいるオメガモン達が貴女を倒す。彼らの力を甘く見ない事だな」

 

「甘く見ていないわよ? だからこうするの」

 

「しまっ……!」

 

 マキが右手の平を翳した瞬間、アルファモンは意識を失ってその場に倒れ込んだ。マキの合図を受けたローランがアルファモンを担ぐ。その場から飛び去るマキ、ローラン、フェルグス、グラーネ。

 人間界では八神一真ことオメガモンが2体の聖騎士を退けたが、デジタルワールドではマキ・イグドラシルが工藤優衣ことアルファモンを連れ去った。

 

ーーーーーーーーーー

 

―――“創世の聖騎士”アルファモンこと工藤優衣。マキ・イグドラシルに敗北して連れ去られる。

 

 ガンクゥモンからもたらされた連絡。その事実が“電脳現象調査保安局”に伝わり、一真達主要メンバーの間に衝撃が走った。

 『寿司処 王竜剣』の店主であり、皆の頼れるお姉さん的存在。人間界にいるデジモンの中でも最強の一角。そんな彼女が相手陣営に連れ去られてしまった。

 それによる戦力の損失と、相手陣営が次に何をするか。それを考えて決める為に、薩摩本部長とクダモンは会議室に主要メンバーを呼び寄せた。

 

「オメガモンは上手くやってくれた。向こうの聖騎士2体を退けてノルンさんを助けた。だが、こっちは優衣さん……アルファモンが負けて捕らわれた。戦略的に見れば我々の勝利、戦術的に見たら向こうの勝利だ」

 

「優衣さんは大丈夫なんですか?」

 

「ダメージを受けた痕跡は無かったらしい。捕らえられたと言うのが引っ掛かるけど」

 

「捕らえられたと言う事は、マキは優衣さんを自分の戦力に取り込むつもりでしょう。彼女は一切の無駄を嫌う性格です。優衣さんを殺す手間と労力よりも、優衣さんを味方にする方を優先させる筈です」

 

 薩摩がジエスモンの連絡を皆に伝えると、この場所にいる誰もが押し黙って嫌な雰囲気が流れ始めた。ノルン以外の誰もが優衣の強さを知っている。幾ら相手が神様だったと言えど、敗北したと言う事実を認めたくない。

 その中でノルン・イグドラシルは分析する。マキは優衣を捕らえて殺すより、捕らえて味方にするだろうと。彼女は一切の無駄を嫌う合理主義者な一面がある事を、ノルンは知っている。

 

「問題はこれから動くかだな……代わりに誰かをデジタルワールドに派遣しようか」

 

「その必要はないです。実はジエスモンとガンクゥモンの仲間達が、マキが治める地域の各地でレジスタンスを結成しました。それでも人員や規模はそこまで大きくありませんが……」

 

 優衣がデジタルワールドに来た前後から、ジエスモンとガンクゥモンの仲間となっているデジモン達が、レジスタンスを結成した。

 マキが治める地域の各地で『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に抗おうと、感染デジモンに対処しようとしているが、まだ出来たばかりな為、人員や規模がそんなに大きくないのが実情だ。

 

「僕が行きます。優衣さんを連れ戻す為にも」

 

「私も行かせて下さい」

 

「駄目だ。一真君とアルトリウスさんはまだデジタルワールドに行く時じゃない。人間界にいるんだ。優衣さんが敵になる可能性が出てきた以上、我々の最大戦力の君達を失う訳には行かない。切り札は常に最後まで残しておく物だ。仲間を、デジモン達を信じよう」

 

 他の支部にいるデジモン達をデジタルワールドに派遣すると言う選択肢もあったが、それをすると守りが薄くなる。そのリスクを考えた薩摩は、一真とアルトリウスを諭して人間界に残るように伝える。

 薩摩本部長の言葉を受け、その意図と正しさを理解した一真とアルトリウスは頷き、無言となった。2人は上司の言葉に歯向かうような人物ではない。

 

「ですが、向こうからもまた聖騎士達が来ますよ?」

 

「その時は一真君とアルトリウスさんの出番だ。頼んだぞ!」

 

『はい!』

 

 再びマキが聖騎士達を刺客として人間界に派遣した時、一真とアルトリウスが迎え撃つ事が決まった。会議は終わった後、一真とアルトリウスはトレーニングルームに向かい、次なる戦いに備えて準備を始めた。

 同じ頃。デジタルワールド。情報樹イグドラシルがある場所。そこにはマキ・イグドラシルと『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』が集まっている。

 

「アルファモンを捕らえて戦力には出来ましたね……でもベイリンとシグムンドがダメ―ジを受けましたが、2人は大丈夫ですか?」

 

「心配ないわ。ただ一週間は安静にしてもらおうと考えているの。任務に失敗した処罰も兼ねて」

 

 彼らの目の前には聖騎士1体が楽々入れるカプセルが設置されている。そこに入る事で傷を癒したり、快適な睡眠を取る事が出来る。

 入っているのはアルファモン、ベイリン、シグムンドの3体の聖騎士。アルファモンは“デジモン化”を強制的に加速させて力の底上げをしつつ、洗脳処置を施して自分の味方に引き入れている最中だ。ちなみに気を失ったままだ。

 ベイリン・シグムンドの2体は傷を癒しつつ、疲れを取る為に眠っている。マキは1週間の安静を考えている。人間界に逃亡したノルンを連れ戻すと言う任務に失敗した罰も兼ねている。

 

「今の醜い世界も、人間界もやがてはマキ様が治める新世界となる。人間とデジモンが共存する素晴らしい理想が実現した、美しい世界がもう少しで完成する……あぁ、そう考えると待ち遠しいねフェルグス!」

 

「あっ、あぁ……そうだな」

 

「どうかしたフェルグス? アルファモンを一騎打ちで倒せなかった事を悔やんでいるの?」

 

「はい……出来れば一騎打ちで倒したかったです」

 

「仕方ないわよ。貴方はよく頑張ったけど、今回は相手が悪かった。それだけの話だから気にする必要はないわ」

 

 マキ・イグドラシルが推し進めている『NEOプロジェクト・アーク』。その実現を待ち遠しく思うローランと対照的に、フェルグスは何処か浮かない表情を浮かべている。

 その様子を見たマキ。彼女はフェルグスがアルファモンを一騎打ちで倒せなかったからだと思い、慰めるように声をかけた。

 

「そうだぞ、フェルグス。我々はデジタルワールドの秩序と平和を乱す輩と戦っている。そして、マキ様の推し進める計画を邪魔する者を消し去るだけだ」

 

「そうだな……済まない。ありがとう。ところでマキ様……ガンクゥモンとジエスモンはどうするのですか?」

 

「あぁ~あの2体ね。今は放っておく。確かに裏切り者だけど、自分達が信じる正義の為に戦っているんでしょう? 今回は信じる正義が違うだけ。でも然るべき時に手を下すわ」

 

 グラーネとマキの言葉を聞いたフェルグス。彼は自分を納得させ、マキに自分達を裏切ったガンクゥモンとジエスモンの事を質問した。

 マキは少し考えながらフェルグスの質問に答える。2体の聖騎士の裏切りを容認しつつも、何れは粛清するつもりでいる。それが何時になるかは分からないが、今の所は手を出すつもりはなさそうだ。

 

「承知しております。マキ様に背く者は反逆者ですから」

 

「そういう事。ローランとグラーネも休んで。お疲れ様。他の皆は引き続き『NEOプロジェクト・アーク』の遂行に励んで頂戴」

 

『はい!』

 

「フェルグス。貴方には特別任務を与えるわ」

 

「……?」

 

 ローランとグラーネに休むように伝えると、マキは他の聖騎士達に『NEOプロジェクト・アーク』の遂行に励むように命令する。

 聖騎士達は頷いたその場から立ち去っていく。それを見届けたマキはフェルグスに特別任務の説明を始めた。その内容に驚きつつも頷き、フェルグスは特別任務を遂行するべく歩き出した。

 その場に1人残ったマキ。アルファモンが入っているカプセルを暫しの間見つめると、満足そうに頷いてカプセルを開けた。

 




LAST ALLIANCEです。
今回も後書きとして、本編に出たデジモンや内容の裏話を話していきます。

・マキと一体化しているデジモン

悪い奴ではありません。ただ自分の生まれや経験もあって過激な考え方に至っただけです。
そのデジモンもまた被害者なんです。

・ヤンデレじみた優衣さん

作者がヤンデレ好きだからです(オイ)
神様さえも怖がる程、狂気と恍惚に満ちてました(汗)

・『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』が強くない?

この章の敵なのに……と思われるかもしれませんが、マキ・イグドラシルの手によって後で強化手術受けます。

・何かありそうなフェルグス

今回の章のキーデジモンの1体、クレニアムモン・フェルグス。
何気に主要な位置にいます。何故なら……?

・アルファモンが敵に!?

これでオメガモンVSアルファモンの対戦カードが実現。
『デジモンアドベンチャー tri.』の終盤のバトル再び!?

・優しくも厳しいマキ

攻撃的で過激な所があるけど、上司としては理想的です。
ちなみにフェルグスに与えた特別任務と、最後の行動の答えは次回以降明かされます。

裏話はここまでになります。今回も少なめでしたが、文字数と内容の問題です。
ここから展開が加速しますので、楽しみにしていて下さい。

皆さん。よろしければ感想・評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が究極進化します。

それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

パラティヌモンがフェルグスと戦っているのと同じ頃、ノルンと街を歩いていた一真はとある人物と再会していた。そんな時、ノルンを連れ戻す為に新しい聖騎士が現れた。
その聖騎士は何と工藤優衣ことアルファモン!
大切な仲間を前に一真は!?

第31話 折れた聖剣




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