終焉の聖騎士伝説~オメガモンとなった青年の物語~   作:LAST ALLIANCE

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最近は『Fate/Grand Order』の外伝小説を平行して書き始めましたが、原作に沿った形で進めています。スマホゲーではなく、物語として書いているので。
大方のセリフがそのままだと利用規約の禁止事項「原作の大幅コピー」になると気付いて、一部変更したり、地の文章にしています。それで大丈夫なのでしょうか?
ちょっとペースが落ちて来ましたが、本編が書けたので投稿します。
今回第2章は果たして2クール行くのかちょっと不安(内容は問題ないけど、話数が持つかどうか)ですが、最後まで書いていきます。第3章は肩の力を抜いた話を書きたいです。



第33話 狼の王

―――私が強化して洗脳したアルファモンを倒すとは……オメガモン、恐るべし!

 

 デジタルワールドの何処か。世界樹イグドラシルにいるマキ・イグドラシルは、人間界で繰り広げられたオメガモンとアルファモンの激闘を観終えた。

 自らの手で強化手術を施し、洗脳処置を施したアルファモン。オメガモンを倒す筈が、オメガモンに敗北して元通りになってしまった。その事実にマキは打ちのめされながら、オメガモンの実力が本物である事を認めた。

 流石はクオーツモンを倒しただけはある。自分がホメオスタシス側で一番強いと確信した事は正しかった。マキ・イグドラシルは何かを決意すると、世界樹イグドラシルを後にして何処かに向かっていった。

 

「おい、見ろ!」

 

「まただ!」

 

「今度は誰が来るんだ……?」

 

 人間界。東京湾。つい先程までオメガモンとアルファモンが激闘を繰り広げていたその場所の上空。そこに再び巨大なワームホールが出現した。

 それを見たオメガモンはノルンに優衣を任せて海面に浮かび、地上の公園や橋の上にいる沢山の人々はワームホールに視線を向ける。

 空に浮かんでいるワームホール。そこから姿を現したのはデジモンではなかった。1人の女性だった。神々しい美しさを放ち、黒いドレスを身に纏い、銀髪のショートヘアーに金色の瞳をした女性。海面に向かって落下していくが、危なげなく海面に浮かび上がる。

 

「マキ……まさかこのタイミングで」

 

「あいつよ……あいつが今回の黒幕よ!」

 

「あれが……マキ・イグドラシル」

 

 その女性が今回の事態の黒幕。デジモン達を殺戮しながら人間界を崩壊させ、自分を中心とした新しい世界を創ろうとしている。その計画名は『NEOプロジェクト・アーク』。

 自ら強化手術を施した『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』を率いて、計画を遂行している紙の名前はマキ・イグドラシル。ノルン・イグドラシルの妹と言える存在だ。

 マキと正対するオメガモンは圧倒されている。神としか言えない圧倒的なオーラと存在感。それに呑み込まれないよう、踏ん張っている所だ。

 

「初めまして、オメガモン。こうして会うのは初めてですね」

 

「こちらこそ初めまして。マキ・イグドラシル。この世界を滅ぼし、デジタルワールドを狂わせている邪神よ」

 

「随分と酷い事を言うじゃない……貴方がそう思うなら仕方ないけど」

 

 初対面であるにも関わらず、マキに辛辣な言葉を言い放つオメガモン。敵対する相手には容赦なく、自分が許せない事をしている相手にも容赦しない。それがオメガモンと言う聖騎士のやり方だ。

 マキはそれに苦笑いを浮かべながらも、風のように笑って受け流した。自分が正しいと思っている事を、オメガモンは酷いと言う。それは個人の意見なので大いに構わない。

 

「でも流石ね、オメガモン。クオーツモンを倒しただけの事はあるわ。貴方の力、益々凄みを増している……とまぁ前置きはここまでにして、私がここに来た理由を話そうかしら。私は貴方をスカウトしに来たの」

 

「悪いがその手の勧誘はお断りだ」

 

「最後まで人の話を聞きなさいよ。私は自分が巡って来た道のりを否定しないわ。『厄災大戦』を起こしたのは自分のせいだと思っている。でもね、私にも正義や信念があるの。何があってもデジタルワールドを守る。それが私と言う神様の在り方。何か誤解されているみたいだから、それを正しにここに来たの」

 

「確かに貴女の行動には自分なりの正義や信念を感じる。例え間違ったとしても、デジタルワールドの事を想う貴女は本物だ。私は誤解していたようだな……」

 

「こちらこそ誤解されるような事をして御免なさい。それともう1つ謝らないといけない事があるの。貴方とアルファモンを戦わせてしまった事。同じ仲間を私の目的で引き裂き、戦わせてしまった。言葉では何の償いにならないことを知っているけど、それでも私は貴方に謝りたかった。申し訳ありませんでした、オメガモン」

 

 マキは瞼を重く伏せながらオメガモンに深々と頭を下げ、謝罪をした。後悔はしないと言い切り、後ろを一切振り向かないような彼女が唯一後悔している事。それは自身の目的の為とは言えど、アルファモンを味方にしてオメガモンと戦わせてしまった事。

 これにはオメガモンですら言葉を失った。聞いていた話とかなり違う。演技ではないかと疑ったが、誰がどう見ても演技には見えない。これは一体どういう事なのか。マキ・イグドラシルは過激で攻撃的な性格だと聞いたが、目の前にいるのはどう考えても別人にしか思えない。自分の目と耳を疑いたくなる程だ。

 マキも今更の謝罪などでは何も変わらないことは承知している。欺瞞に満ちた自己満足であっても、デジタルワールドの神として、けじめをつけようとオメガモンに謝罪した。

 

「イグドラシル、私には分からない。私に優しい言葉をかけている貴方が、何故デジモンを殺戮して人間界を崩壊させ、その上で新世界を創ろうとしているのかを。沢山の血と死体の上に新世界を創ろうとしている貴女は、一体何がやりたいんだ!?」

 

「私がやりたいのは人間とデジモンがお互いに手を取り合い、仲良く過ごす世界を創る事。それをするには今のデジタルワールドにいるデジモン達や神を抹殺し、人間界を崩壊させて統合させなければならない」

 

「確かに理想郷を作りたい気持ちは分かる。だが……だからと言って何かもが許される訳がない! 貴女はまた過去の過ちを繰り返そうとしている! また『厄災大戦』のような事になってしまう! 私は貴女の野望を阻止し、デジタルワールドと人間界に真の平和を取り戻して見せる!」

 

 今まで心の中に溜め込んでいた感情を爆発させるように、オメガモンはマキに向かって声を張り上げた。まるで目の前にいる神の二面性に絶望しているように見える。優しく暖かい太陽のようで、冷たく輝く月のような二面性だ。

 聖騎士の言葉はマキに届いていた。何処か可愛げにクスリと微笑みを浮かべているが、それは何処となく苦笑いのような、少し寂しさを帯びた笑い方のようにも見えた。

 

「やっぱり貴方はぶれないわね、オメガモン。貴方らしいわ。でも、私は貴方と戦いたくない。貴方は私を凌ぐ力を持っている……ねぇ、一緒に来ない? 一緒に新しい世界を創らない?」

 

「断る! 私はこの世界と、今のデジタルワールドを守る為に戦っている。新世界の創造には全く興味がない」

 

「それが貴方の答えね、分かったわ。貴方を殺したくはないけど、敵だと宣言されたら仕方ないわね。でも私は貴方を殺せない。殺したくない。殺すくらいならいっそ独り占めしたい。私だけを見ていて欲しい。貴方さえいればそれでいい。決めたわ。オメガモン……私は貴方を独占するわ!」

 

(ヤンデレだァァァァーーーーーーーーーーーー!!!!!)

 

 自分の誘いをあっさりと断られてふんわりとした笑顔から一転し、心から哀しそうな表情になったマキ。彼女は何をどう思ったかは分からないが、オメガモンを殺さずに独占する事を宣言した。その言葉は狂気に満ち溢れ、オメガモンは内心で思わず叫んでしまった。

 ヤンデレとは“病み”と“デレ”の合成語であり、広義には、精神的に病んだ状態にありつつ他のキャラクターに愛情を表現する様子を指す。その一方、狭義では好意を持った人物がその好意が強すぎるあまり、次第に精神的に病んだ状態になることを指している。

 オメガモンとマキはお互いに目の前の相手を倒す事を決意した。何が何でもやらなければならないことをする為に、目の前に如何なる敵が立ちはだかろうとも、決して歩みを止める事は出来ない。何をおいても、何を犠牲としてでも叶えなければならないことを宿しているのだから。

 

ーーーーーーーーーー

 

 マキは二丁の拳銃―アストレアを手にしている。それが彼女の武器。白銀のリボルバー銃の見た目をしているが、その銃身の下にはナイフの形をした銃剣が装備されている。近・遠距離対応の万能兵装。

 対するオメガモンも左腕を掲げ、左手たるウォーグレイモンの頭部を象った手甲からグレイソードを出現させる。

 

「剣を取り、銃を持て。オメガモン、最早敵同士となった私達の間に言葉は不要。語るなら己の武器と力を以て語れば良い。まさかデジタルワールドの神とは戦えないとは言わないよね?」

 

「無論だ。貴女がデジタルワールドの神だとしても、この世界に厄災をもたらすのであれば、完全消去するだけの話だ」

 

 デジタルワールドと人間界を統合して新世界を創ろうとしている神様と、2つの世界を守ろうとしている聖騎士。マキはオメガモンの戦術を知っているが、オメガモンはマキの戦術を知らない。初対戦とは言えど、マキは事前に下調べをした上で挑んでいる。

 マキには情報のアトバンテージがあり、オメガモンにはそれがない。それがどれだけ大きいかはオメガモン自身もよく知っている。それでも戦うしか道はない。

 

「行くわよ、オメガモン!」

 

「来い!」

 

 先制したのはマキ。先手必勝と言わんばかりに、両手に握るアストリアから銃弾を怒涛の勢いで連射する。弾幕を張る事でオメガモンを近付けさせないようにする為。近接戦闘において最も力を発揮する事を知っているからこそ、先ずは近付けさせない事に専念した。

 それに対し、オメガモンはグレイソードを横薙ぎに構えた。刀身がギリギリと唸りながら震えると共に、灼熱の火炎が噴き出す。太陽の聖剣と化したグレイソードを振るい、目の前に灼熱の炎壁を展開する。

 

「小癪な……」

 

「ハアアアアアァァァァァァァァァァァーーーーーー!!!!!」

 

 目の前に出現した灼熱の炎壁。それを見て不快気な表情を浮かべたマキの背後に回り込み、オメガモンは怒涛の攻勢に出た。

 グレイソードから繰り出される連続斬撃。一撃一撃が必殺の領域に足を踏み入れている程の威力と速度を内包している。

 その苛烈としか言えない猛攻をマキは軽やかな動きで躱しつつ、突き出されたグレイソードを右手に握るアストリアの銃剣で受け止めると、刀身から眩い光を伸ばしながら横薙ぎに一閃した。

 オメガモンは身を沈めながら躱すと、何時の間にか展開したガルルキャノンを構えて青色の波動弾を撃ち出す。先程灼熱の炎壁を展開し、マキの背後に回り込んでいる最中にガルルキャノンを展開していた。

 

「グッ!!」

 

―――直撃してこれか……随分と頑丈だな。

 

 青色の波動弾の直撃を喰らい、たたらを踏んで後退するマキ。砲撃の直撃を喰らったにも関わらず、この程度で済むあたり、彼女の防御力も伊達ではない。

 人間とデジモンの完全なる一体化を果たし、オメガモンは生前より強化されたが、そんな聖騎士でもデジタルワールドと渡り合うには辛いみたいだ。

 踏ん張りながら体勢を立て直したマキ。彼女の目が一瞬光ると共に、目にも止まらぬ速度でオメガモンとの間合いを詰めて来た。

 沈みながら右手に握るアストリアを振るい、左手に握るアストリアから銃弾を連射して追い打ちをかける。例え最初の攻撃を躱しても、次の攻撃を確実に当てる。隙の無い二段構えの連続攻撃だ。

 オメガモンは最初の薙ぎ払いを跳躍で躱し、続く連射銃撃をグレイソードの左薙ぎで迎え撃つ。神の力が込められた銃弾を太陽の火炎で焼き尽くそうとしたが、貫通してオメガモンの胸部に直撃した。

 

「グァァァァッ!!!!」

 

 胸部に数発の銃弾を喰らって吹き飛ばされるオメガモン。即座に空中で体勢を立て直してマキとの間合いを詰め、まるで舞い踊るかのような動きと共に、灼熱の連続斬撃を繰り出す。左斬り上げに薙ぎ払い、そして唐竹斬り。

 それに対してマキは2丁のアストリアでグレイソードの連続斬撃を巧みに受け流し、余裕そうな表情を見せている。何処か楽しそうにも見える。

 

―――まだマキ・イグドラシルは本気を出していない。

 

 マキの表情を見たオメガモンがそう考えていると、彼女は左手に握るアストリアを一閃してオメガモンを弾くと、照準を合わせて銃弾を撃ち込もうとする。

 咄嗟にガルルキャノンを構えて青い波動弾を撃ち込んで牽制を狙うが、マキは構う事なく銃弾を撃ち出した。銃弾は青い波動弾と激突するが、数秒の拮抗の後、青い波動弾を突き破り、オメガモンに向かっていく。

 オメガモンはアストリアから次々と撃ち込まれる銃弾を躱しながら、海面を素早く駆けていく。そして海面を強く蹴り付け、巻き上げた海水で自分の体を覆い隠した。

 それを見たマキは銃撃を中断してオメガモンの出方を伺おうとするが、それと同時に海水の幕の中からオメガモンが出現し、そのままマキを飛び越えていった。

 身体を反転させながらガルルキャノンを構え、青色の波動弾を連射する。マキも2丁拳銃から銃弾を連射して迎撃した。その隙に聖騎士は“縮地”を発動し、マキとの間合いを一瞬で詰める。

 

「ッ!」

 

「ハアアッ!!」

 

 銃撃に専念していたマキはオメガモンの行動に対応する事が出来ず、横薙ぎに一閃されたグレイソードを喰らった。後方に吹き飛ばされるが、直ぐに体勢を立て直して海面に浮かび上がる。

 胸部に刻まれた火傷。聖剣の刀身から発せられた太陽の火炎に焼き払われ、受けた火傷。それを見ても表情を変える事なく、彼女は両手に握る2丁のアストリアを構え、銃口に膨大な量のエネルギーを集束させ始める。

 

「『シャイニングブラスト』!!!」

 

「『グレイソード』!!!」

 

 アストリアの照準をオメガモンに合わせ、マキはアストリアから凄まじい光の奔流を撃ち出す一方、オメガモンは刀身から太陽の火炎を発するグレイソードを構え、太陽の火炎を集束して巨大な灼熱の刃を作り上げた。

 太陽の聖剣を凄まじい光の奔流目掛けて振り下ろし、『シャイニングブラスト』を真っ向勝負で打ち破ろうとするが、マキはそれを嘲笑うかのように不敵な笑みを浮かべている。

 今『シャイニングブラスト』を撃ち出しているアストリアは1丁。1丁でオメガモンの放った必殺奥義と拮抗している。これにもう1丁足せばどうなるのか。そう言わんばかりに、マキは更にもう片方のアストリアから凄まじい光の奔流を撃ち出す。

 

「何!? グアアアアァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーー!!!!!」

 

「オメガモンが……負けた」

 

 もう1発の『シャイニングブラスト』の直撃を喰らったオメガモン。苦痛に満ちた叫び声を上げながら吹き飛び、盛りが広がる陸地に激突してしまう。

 陸地に激突したオメガモンは立ち上がろうとしたが、連戦による疲労とダメージが蓄積されているからか、思うように立ち上がる事が出来なくなった。純白の聖鎧の至る所に傷跡が刻まれている。

 その事実に戦いを見ていた全員の心に絶望感を広がっていた。最強の聖騎士のオメガモンが敗北した。誰もが絶望を覚える中、オメガモンに止めを刺そうと、マキが聖騎士の目の前に姿を現してアストリアから1発の銃弾を撃ち込んだ。

 

ーーーーーーーーーー

 

「グハァッ!!」

 

「竜也君!?」

 

 しかし、その銃弾はオメガモンには届かなかった。聖騎士を守ろうと身を挺した竜也の心臓を貫き、結果的にオメガモンは助かった。

 命を捧げてまで自分を助けた竜也を右手で抱えるオメガモン。竜也は口から大量の血を吐きながらも、満足したような笑みを浮かべている。

 

「ハハッ、何とか……助けられました。……良かった」

 

「何が良かっただ! 何故私を庇った!」

 

「貴方に助けられた恩をお返しする為です……」

 

 竜也の答えにオメガモンは押し黙った。もし自分が竜也の立場だったとしても、絶対に同じ事をしていた。そう言い切れるからだ。

 人間として終わりかけていた自分を、カオスモンとなってしまった自分を救ってくれた命の恩人。今こうして生きていられるのも聖騎士のおかげ。その恩を返したかった。たったそれだけの話だった。

 

「俺は本当ならカオスモンとして死んでいました……でも貴方のおかげで人間に戻る事が出来ました。俺の命は貴方に繋いでもらいました……だから今度は貴方の命を俺で繋ぐ……この世界とデジタルワールドの為に」

 

 竜也は震える右手でオメガモンの頬を触った。大きくて優しい触り心地。超合金で出来ているにも関わらずだ。

 彼はずっとオメガモンに何らかの形で恩返しをしたかった。自分の命を繋いだお礼をする為に。それが今回訪れた。自分の命を代償に。

 

「ハハッ、やっとこれから本当の幸せを手に入れる時なのに……俺も常々運がないですね。いや、本当の幸せは既に手に入れてたのかもしれません。オメガモン……ありがとう。この世界と、デジタルワールドを守って……下さい」

 

「竜也君!? 竜也君!?」

 

 竜也は自分の運の無さを嘆きつつも、本当の幸せを手にしていた事に気付いた。オメガモンと言う憧れに出会えた事がそうなのかもしれない。

 天を仰ぎながらオメガモンに感謝と願いを告げると、力尽きたかのように目を閉じた。オメガモンは肩を揺らしながら必死で呼びかけるが、竜也は満足気な笑みを浮かべながら目を開けようとしない。

 

―――人間がデジモンを守った!? 命を捨ててまで……有り得ない! 絶対に有り得ない!

 

「イグドラシル……!」

 

 その様子を見ていたマキは呆然となり、内心で狼狽えている。彼女は人間とデジモンは分かり合えないと判断した上で、今回の計画を遂行している。

 しかし、竜也がオメガモンを身を挺してまで守った所を見て、自分の考えを否定された気がした。その現実を受け入れたくないと言わんばかりに狼狽えている。

 それに追い打ちがかかる。自分の大切な存在が殺された。しかも自分を身を挺してまで守った上で。その事実に悲しみと怒りを感じたオメガモンが凄まじい怒りを見せ、全身から黄金のオーラを放ちながら立ち上がる。

 立ち上がったオメガモンを見て驚くと共に、その怒りの凄まじさに震え上がるマキ・イグドラシル。そんな彼女の様子に構う事なく、オメガモンは自らのエネルギーを竜也に分け与え、彼を蘇生させようと試みる。

 

ーーーーーーーーーー

 

―――此処は……

 

 竜也が目を覚ました場所。そこは上下と前後、それと左右。ありとあらゆる所が真っ黒な空間。彼の内面世界。辺りをキョロキョロと見渡しながら、竜也は自分が死んだ時を思い出していた。

 彼は優れた才能も無ければ、優れた人格もない。取るに足らない凡人だ。それがカオスモンとなり、オメガモンに助けられた事で運命が変わった。

 再び代わり映えしない平凡な生活に戻る筈だった。しかし、神によって抹殺された。命の恩人を凶弾から守った上で。その事には何の未練や後悔はない。でも執着はある。行きたいと言う強い意志が。

 憧れもある。自分を助け、世界を救った大英雄。目指そうと思って努力して来た。でもそれもここで終わろうとしている。このまま終わるのか。否、終わりたくない。そう思った瞬間、竜也の中で何かが目覚めた。

 何もしなかった。何も出来なかった。このまま終わって良いのか。終わりたくない。胸を張って言える事が自分にはない。このままでは自分は消える。自分と言う存在は死ぬ。

 

―――あぁ、そうだよな。まだ終われない。まだ終わりたくない。だって、だって俺は何もしていないし、何も出来ていないから!

 

(ほぉ、何と言う意思の強さだ。流石だ。俺を呼んだだけの事はある)

 

―――だ、誰だ!?

 

 突如として空間に響き渡る声。竜也は周囲一帯を見渡すが、声の主の姿が見えない。何処かから声だけが聞こえて来ただけだ。

 そう思っていると、竜也の目の前に声の主が現れた。巨大な狼の姿をした生物。竜也を見下ろしている。見上げながら竜也は圧倒される。

 

(我が名はフェンリスモン。君達人間で言うフェンリルでもある)

 

―――フェンリル……だと!?

 

 フェンリル。北欧神話に登場する狼の姿をした巨大な怪物。ロキが女巨人アングルボザとの間にもうけた、またはその心臓を食べて産んだ三兄妹の長子。

 神々に災いをもたらすと予言され、ラグナロクでは最高神オーディンと対峙して彼を飲み込んだと謳われている。

 

―――お、俺は櫻井竜也です。

 

(ご丁寧にどうも。君が私を呼んだ。君の抱いた願いが、意志が、思いが私を呼んだ。凄いよ君は……さて本題に入ろう。君は死んだ。肉体と精神は死んだ。だが、まだ魂が生きている。それを使えば生き返る事が出来る)

 

 見た目は怖いとしか言えないが、中身は紳士的で優しいフェンリスモン。圧倒される竜也を見て苦笑いを浮かべている。

 本題に入ると、竜也が復活出来る方法を説明し始める。肉体と精神が死んだ以上、魂を使えば生き返る事が出来る。問題はその方法だ。

 

(私自身を差し出そう。そうすれば君の魂の消滅は無くなり、肉体と精神を得て復活出来る。だが、その代償に君は人間でなくなる。デジモンとなる。その覚悟は君にはあるか?)

 

―――あぁ。俺の命はオメガモンが繋いでくれた。その命の恩人を守って失われるのを、貴方が繋ぐんだ。やってやるさ。

 

(そうか。なら行こうか)

 

 フェンリスモンが告げた方法。それは自分と一体化する事。しかし、それは竜也に人間である事を放棄させる事を迫っている。

 竜也はそれを受け入れた。命の恩人が繋いだ命。それが無くなろうとしている時、神殺しの狼が繋ごうとしている。このチャンスを使わない理由はない。

 フェンリスモンと竜也が握手を交わした瞬間、彼らの間から眩い光が発せられ、その光が優しく彼らを覆い包んでいく。その中で竜也は意識を手放した、まるで彼を人間界へと送り届けるように。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ッ!?」

 

「何?」

 

 オメガモンが自らのエネルギーを竜也に分け与えていると、突如として竜也の身体が空に舞い上がり、巨大な光の卵へと変化していく。

 静かに上空に浮かび上がる巨大な光の卵。それは間違いなく進化の証。オメガモンやマキ、ノルンといった東京湾にいる全員が見守る中、光の卵が消滅し、その中から1体のデジモンが姿を現した。

 地上に向かってゆっくりと降下し、危なげなく海面に浮かぶデジモン。そのデジモンの姿を見ようと、周囲一帯に集まっていた誰もが目にする中、マキは唖然となった。目の前にいるデジモンの存在を知っているからだ。

 

「フェ、フェンリスモン……」

 

「違うな。俺はレクスフェンリスモン! 『厄災大戦』に生まれて朽ち果て、この時代に新たに転生した“狼の王”だ!」

 

 それは『厄災大戦』を終わらせた13体のデジモンの1体。フェンリスモンが新たなる人間と一体化して転生した姿。その名前はレクスフェンリスモン。

 全身を純白に輝く聖鎧に身を包み、巨大な両腕の肘には何かを装備し、鋭い5本の爪を光らせ、両手には籠手を身に付け、狼を象った兜を被っている獣戦士型デジモン。その背中には巨大な“破砕剣(バスターブレード)”のバルンストックを背負っている。

 

「レクスフェンリスモン……竜也君なのか!?」

 

「初めまして、オメガモン。俺は櫻井竜也であり、レクスフェンリスモンでもあります。貴方と同じです」

 

 海面に浮かんでいるレクスフェンリスモンの隣に並び立つオメガモン。聖騎士が驚きを隠せないでいると、獣戦士は苦笑いを浮かべながら答える。

 人間でもあり、デジモンでもある存在。皮肉にも、同じ東京湾と言う場所でレクスフェンリスモンとオメガモンは同列の存在となった。

 

「俺はパラティヌモンと同じく、『厄災大戦』を駆け抜けた13英雄の1体。昔はフェンリスモンと名乗ってましたが、今はレクスという単語を付けています」

 

「“狼の王”か……」

 

「そう言えば貴方の右腕はメタルガルルモンでしたね……これは何と言う運命でしょうか」

 

 目の前にいるデジタルワールドの神様であり、敵でもあるマキ・イグドラシル。彼女を睨みながら背中に背負っているバルンストックを引き抜き、両手に握り締めるレクスフェンリスモン。因縁の戦いとなる。

 フェンリスモンはかつて『厄災大戦』を駆け抜けた13英雄の1体。転生して初めての相手が『厄災大戦』の元凶。何という偶然なのだろう。しかも共に戦うオメガモンの右手がメタルガルルモンなのだから。

 

「マキ・イグドラシル。俺は1人の人間として、1体のデジモンとして貴女の行いを阻止する。デジモン達を殺戮し、今度は人間界を消し去ろうと言う所業。見過ごす訳には行かない!」

 

「何故!? 何故貴方が人間の味方をするフェンリスモン!」

 

「貴女の行いが間違えているからだ。俺の命を救った恩人、オメガモンのおかげで俺が何をすれば良いのかが分かった。俺は貴女のこれ以上の行いを認めない。フェンリルの名にかけて、お前を止めて見せる!」

 

 『厄災大戦』の時、フェンリスモンはどうやらイグドラシルに忠実だったのだろう。その忠義の戦士が寝返った事にマキが動揺している。その慌てぶりを見れば誰でも分かる。

 『厄災大戦』を駆け抜けた13英雄の1体の寝返り。そのインパクトはかなり大きいようだ。それを感じ取ったオメガモンもグレイソードを出現させ、構えを取る。

 

「一真さん。貴方は休んでて下さい。ここは俺に任せて下さい」

 

「何を言っているんだ……初陣で久し振りの戦いなんだろう? 君が戦っているのに僕が休めるか」

 

「ですよね……それなら足を引っ張らないで下さいね、先輩」

 

「んな!? ピンチになっても助けてあげないからな! 八神一真……オメガモン!」

 

「櫻井竜也……レクスフェンリスモン!」

 

『行くぞ!』

 

 一真と竜也はお互いに軽口を戦うと、お互いに名乗りを上げながら武器を構える。マキも両手に握る2丁拳銃を握り締め、銃口を2体のデジモンに向ける。

 そして始まった2対1の戦い。オメガモンは踏み込み、レクスフェンリスモンは両手に握るバルンストックを掲げ、マキは2丁拳銃から銃弾を撃ち込んだ。

 




LAST ALLIANCEです。
今回も後書きとして、本編に出たデジモンや内容の裏話を話していきます。

・マキ・イグドラシルは二重人格でヤンデレ!?

これはちょっとした仕掛け……の予定です。
神様でありながら暴君でもある。一体どういう事なのか。それは後で明らかにします。

・マキの実力

デジタルワールドの神様だけあって強いです。銃剣を付けた2丁拳銃。ガンマン。

・オメガモンの敗北

意外と少ない敗戦となりました。読み返しましたが、意外と負けてないんですね……

・レクスフェンリスモン降臨

狼の王。オリジナルデジモンです。
元ネタは『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』に登場したガンダムバルバトスルプスレクスです。
最初から”デジモン化”しているので、総合性能はオメガモンと互角以上です。
ちなみに竜也君の人格が混ざっている為、オメガモンに対しては敬語です。

裏話はここまでになります。
皆さん。よろしければ感想・評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が究極進化します。

それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

マキ・イグドラシルとの戦いが終わり、櫻井竜也は”電脳現象調査保安局”への加入を決意する。
一方、フェルグスに敗北したパラティヌモンはノルンにあるお願いをする。
果たしてそれは!?

第34話 一先ずの終結
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