終焉の聖騎士伝説~オメガモンとなった青年の物語~   作:LAST ALLIANCE

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今回で最終回になります。実質後半はエピローグ状態なのですが。
ここまで読んでくれた読者の皆様、本当にありがとうございました。
別の小説でもよろしくお願いします。


第39話 聖騎士と青年

「勝った……オメガモンが勝った!」

 

 お互いに背中を向けたまま、静止しているオメガモンと邪神ミレニアモン。邪神ミレニアモンがゆっくりと崩れ落ち、地面に倒れ伏せたその瞬間、オメガモンの勝利が確定した。

 デジタルワールドと人間界を統合させ、新世界を創ろうとした邪神を倒した。その事実に歓喜し、アーサーパラティヌモン達が歓声を上げる中、オメガモンは両手の武器を戻して微笑みを浮かべる。

 

「私が……負けた……」

 

「あぁ。私と一真殿の勝ちだ」

 

「何故……何故私を『初期化(イニシャライズ)』しなかったのですか!?」

 

 地面に倒れ伏せている邪神ミレニアモンは元々の姿―秋山千冬に戻っていた。彼女は目を覚まして天井を見上げながら呟くと、立ち上がってオメガモンに尋ねる。

 最後の攻防でオメガモンは『初期化(イニシャライズ)』を解除し、『グレイソード』を使用して戦いに終止符を打った。そうすれば邪神を初期化する事が出来た。それを自ら放棄した事が千冬には信じられない。

 

「貴方が哀しき悪だからだ」

 

「何!?」

 

「貴方と戦っていた時、大切な物を守れなかった悲しみや世界への憎しみ、力がない事への無力さが伝わって来た。その時に決めた。貴方の命を奪わない事を」

 

 オメガモンが邪神の命を奪わなかった理由。それは彼女が悪ではないと気付いたから。彼女はやり方がかなり強引だが、悲しい過去を秘めていて、自分のような犠牲者を出さない世界を創ろうと計画を進めて来た。

 人間とデジモンが手を取り合い、共に生きていける理想郷。その理想郷を作る為に、目の前の試練を乗り越えようと頑張っている人々や、今を生きている人々を消し去ろうと言う考えは間違っている。これではかつて自分から全てを奪おうとした理不尽な悪と同じではないか。それをオメガモンは千冬に気付かせようとしている。

 

「貴女は転生する前、一人の人間だった。理不尽な悪に全てを奪われ、世界に絶望して邪神になった。私は貴女の抱いている思いや掲げる理想は間違っていないと言える。でも、やり方が駄目だった。何の罪もない人間やデジモン達を殺戮し、新世界を創る事はまた貴女のような犠牲者を生み出してしまう! そして私のような存在を生み出してしまう! もう止めようよ……こんな悲劇は。ここで終わりにしよう」

 

「私のような者がまた生まれると言うのですか……!?」

 

「可能性は無きにしもあらずだ。私は気付いた。お互いに同じ物を見ているのに、何処か違う景色を見ている事に。それはお互いに歩んだ道が違うからだとやっと気付いた。私は一真殿と出会い、人間の美しい所や醜い所を沢山見て来た。沢山の事を教えられ、大切な事を改めて思い出させてくれた。私も貴女の言う、人間とデジモンが共に生きていける世界を実現させたいんだ!」

 

 オメガモンの真っ直ぐな思いが込められた言葉。それに応じるように、アーサーパラティヌモン達も歩み寄り、彼女に手を差し伸べる。

 邪神と謳われる自分に手を差し伸べようと言うのか。全ての黒幕とも言える相手を許そうと言えるのか。戸惑いながらも聖騎士達を見渡す千冬の目の前で、オメガモンは自ら進化を解除して一真の姿に戻った。

 

「これからも僕らは未来に向かって突き進みます。貴女はどうしますか、秋山千冬さん?」

 

「私は……私も一真さん、貴方の言う世界を実現させたいです! 人間とデジモンが共に生きていける世界を見てみたいです!」

 

「一緒に実現させましょう。人間とデジモンが共に生きていける理想の世界を……そしてやり直しましょう。大丈夫ですよ、これから始まるんですから」

 

 一真は優しい笑顔を浮かべながら千冬に手を差し伸べると、千冬は一真の優しさに涙を流しながら頷き、その手を取った。お互いに目を合わせ、頷き合う一真と千冬。

 2人に寄り添うアーサーパラティヌモン達も貰い泣きしている。こうして長いようで短かった戦いは幕を閉じた。

 

ーーーーーーーーーー

 

 戦いが終わった後、人間界に戻った一真達。一部始終を全て報告すると、薩摩は一真の死が近付いている事を知り、涙を流した。クダモンも自分の命を捧げ、2つの世界を救った一真の意志に泣く事しか出来なかった。

 八神一真が生きられる時間は残り少ない。その現実を突き付けられ、局員達の間では動揺が走るが、一真の一喝によって静まった。他人の心配をしている暇があるのなら、自分に出来る事をやろう。その言葉が局員の心に届いた。

 

「これで良かったんでしょうか?」

 

「それは分からないよ。僕が良かったと思えば良かったし、他人が悪いと言えば悪いと思われるだろうね……」

 

 両親に報告したら大泣きされ、悲しい思いをさせてしまった一真。それに同行していたアルトリウスは複雑な表情を浮かべている。

 親を残して死のうとしている一人息子。両親がこれを知ったら悲しむ筈。一真も悲し気に表情を浮かべているが、一度決まった現実を覆す力はない。

 

「でもこれから始まるんだ。僕らの世界が。やらなきゃいけない事は沢山ある」

 

「はい。人間は誰もが必ず失敗します。アーサー王もそうでした。完璧な人間など何処にもいませんけど、失敗から逃げるか、そこから這い上がろうと進む道を選ぶ事が出来ます。目の前のチャンスを活かすかどうか。それは我々の手に委ねられています」

 

「あぁ。人間界とデジタルワールドがこれから手を取り合えるか。それは僕らの頑張り次第だね。アルトリウスさん。今までありがとう。オメガモンをよろしくね」

 

「私の方こそ、今までありがとうございました。どうか……お元気で」

 

 一真とアルトリウスは握手を交わした。お互いにこれまでの日々への感謝を告げると、一真はアルトリウスにオメガモンの事を託し、アルトリウスは一真に再会出来る事を願う。

 邪神ミレニアモンとの最終決戦が終わって数日後。一真は自室で安らかに息を引き取った。両親や優衣、アルトリウス達等の自分の仲間達に囲まれ、彼らへの感謝を告げて幸せそうな表情で命を燃やし尽くした。

 

ーーーーーーーーーー

 

 それから数か月後。デジタルワールドと人間界で大きな動きが見られた。人間界にデジモンの出現の頻度が激減した事を踏まえ、大幅な人事異動が行われる事となった。

 オメガモンを含んだ『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に所属している聖騎士達。彼らはマキが吸収した事で、『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の大半が不在となったデジタルワールドを守る為にデジタルワールドへと戻っていった。正確には人間界からデジタルワールドにお引越ししていった事となる。

 アーサーパラティヌモン。彼女は聖騎士王の二つ名の通り、『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』を統べるポジションに落ち着いた。生前のアーサー王と同じポジションとなり、同じ間違いを二度と繰り返さない事を誓っている。

 ちなみにクレニアムモンがダブってしまった事については、フェルグスが人間界に残る事が決まった。それに伴い、スレイプモンことクダモンも人間界に残る事を決めた。やはり薩摩と一緒にいたいみたいだ。更に人間界で何か起きた時への備えになる。

 桜井竜也ことレクスフェンリスモンは人間界に残り、会社員への転職を決めた一方、オメガモン・Alter-Bはデジタルワールドに移住する事を決めた。どうやら人間界にはあまり馴染めなかったみたいだ。

 バグラモン一家は人間界に残る事を決めた。どうやら人間界での暮らしに馴染み過ぎた為、愛着が芽生えたらしい。これにはオメガモンも苦笑いを浮かべるのがやっとだ。

 『七大魔王』の面々も人間界に残る事を決めた。デジタルワールドでの刺激のない日々に嫌気が差していた為、人間界では仕事に追われながらも有意義な日々を送れる事に喜びを見出せたようだ。

 ノルン・イグドラシルと秋山千冬。彼女達は神の力をホメオスタシスに託すと、超巨大な図書館となった世界樹イグドラシルで司書として仕事をしている。助手としてウィザーモンとテイルモンを雇い、ウィザーモンを歓喜させ、テイルモンを呆れさせたと言う。

 ホメオスタシス。彼女は『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』が仕える主君として、デジタルワールドを治める神様として仕事をしている。デジタルワールドも分割統治から単独統治へと変わり、先ずは復興政策を打ち出して復興に励んでいる最中だ。

 

「一真殿……」

 

 人間界。かつて一真が最初にオメガモンとなった場所。東京都のお台場。そこにいるのはオメガモンではなく、八神一真そっくりの人間。彼の名前は八神カズマ。オメガモンの人間体であり、人間界で活動する時の名前。

 オメガモンは完全に人間とデジモンが融合した聖騎士となったが、その代償に八神一真を失った。自分が一真を殺した。今でもその罪悪感に苛まれ、その場所に行く度に小さなお墓にお花を添えている。そのお墓は皆でお金を出し合い、作った物だ。

 果たして一真が幸せだったのかはオメガモンには分からない。彼は自らの命を燃やし尽くした事で、人間界とデジタルワールドの2つの世界だけでなく、彼らの命と生きる日常を守り抜き、笑顔でこの世を去った。

 しかし、オメガモンは確信している。もし輪廻転生と言う理がこの人間界にあるのならば、きっとまた何処かで出会えると。その予感があった。

 

―――オメガモン。君は人間達と共に、そしてデジモン達と共に生き続けてくれ。そして僕が叶えられなかった理想を叶えて欲しい。人間とデジモンが共存できる世界の実現を。今までありがとう。また会おうね。

 

「一真殿……」

 

(私の命は一真殿によって繋がれた。一真殿が守った世界を守り続ける。それが一真殿から託された使命。そして人間とデジモンが共存できる世界を実現させてみせる!)

 

 オメガモンことカズマが思い出したのは一真の最後の言葉。一真が亡くなる事で、オメガモンは人間の姿になる術を会得しなければならなくなった。彼が選んだ人間はもちろん一真。数日間の修行の末、ようやく一真の姿になる事が出来た。

 その努力の成果を見届けた一真。人間とデジモンと共に生き続け、彼らが共存できる世界の実現を改めて約束し、これまでの感謝を告げると、息を引き取った。次に目を覚ました時、八神一真はオメガモンとなっていた。

 自分の盟友であり、恩人の彼の名前を名乗る事を決めたオメガモン。彼は一真が守り抜いた世界をこれからも守る事を胸に誓い、彼の理想を叶える為に、明日に向けて歩き始めた。

 




LAST ALLIANCEです。
今回も後書きとして、本編に出たデジモンや内容の裏話を話していきます。

・ミレニアモンとの和解

本当はオメガモンのライバルにしたかったのですが、本編に書いた通り、不毛な争いを繰り返したら、また犠牲者が出てしまうと考えて和解に落ち着きました。

・一真の死

前回でも触れていましたが、今回の戦いで一真は命を燃やし尽くしました。
続編では彼は登場しません。
FGOとクロスした小説ではとある方法でオメガモンとなり、転生しますけど。

裏話はここまでになります。
この小説が今回で終わるのは、サブタイトルの”オメガモンとなった青年”が死を迎えると言う事で、一度終わりにしようと思ったからです。
バッドエンドかと言われればバッドエンドかもしれませんが、主人公から見ればハッピーエンドです。続編では主人公は出ませんが、名前は結構出てくる予定です。
続編はカオスデュークモンの事(スルーしてた訳ではないです)や、厄災大戦で活躍したデジモン全員集合等、この小説で回収しきれなかった事をメインにやっていきます。
主人公はオメガモンではなく、別のデジモンにします。タイトルはオメガモンですが、彼は『時を駆ける少年ハンターたち』のタイキ君みたいなポジションにしようと思います。
ここまでお付き合いして頂き、ありがとうございました!

続編等の別の小説でお会いしましょう! LAST ALLIANCEでした!

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