※追加この鞍馬の里編は、前編、中編は飛ばしていただいてオッケーです。ちょっとした心境の蛇足しかないので。
幻想郷の現代の環境汚染などと無縁な綺麗な蒼い空。
その空は鳥や羽虫などが飛び交うが、それに加え現代とは全く違う物も飛び交っている。
それは妖怪であり、人型の妖怪が飛んでいる時もあれば、異形の妖怪も飛んでいるときもある。
そんな幻想郷の空に今回は一組の男女が飛んでいた。普通に妖怪だが。
このお話はそんな妖怪の射命丸文と鞍馬天鴎の物語である。
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「いや、天さんは普通の妖怪できて無くありませんか!?」
「ん、どうした文。そんないきなり。」
「あ、いや何というか突っ込んでおかなければいけない気がしたので、後なんでしょう、なんともいえない上の存在が前振りをはしょった気がしたので、そのことも言っておかなければいけない気がしました」
「まあ、なんの事かは大体想像がつくけど、言ったらいろいろと可哀そうだからその話題はやめようか」
「なにかいろいろと引っかかりますが、天さんがそうゆうなら止めましょう。これから行くところの方が重要ですしね」
「そうだね、文は見たことはあっても入ったことはないだろう?妖怪の山の天狗もほんの一部しか入った事はないはずだからなぁ。」
「そうですよ、天さんと交換で鞍馬の里に入ったもの達と天魔様ぐらいでしょうか?鞍馬の里の視察で入った者たちがどうなっているかも分かりませんし、天さんに伝え聞いている里の様子だとかなり不安なのですか…」
「はは、大丈夫だよ、いろいろと逞しくなって帰ってくるさ…(死んだ目)」
「え!!天さんなんですかその目!?いろいろと不安になるような反応しないでください!!」
「ふふふふふふ(魂のぬける笑い)」
「え、ちょ、天さん!?わ、私行っても大丈夫ですよね!?」
「大丈夫さ、いろいろと手厚く歓迎してくれるさ…」
「え、ちょっと待ってください?その手厚い歓迎というのは一体どうゆう内容なんですか!?」
「ふふふふふ、色々だよ」
「え!?も、もっと具体的にっ!?」
「着いてからのお楽しみさ☆てへっ」
「え、い、嫌ですよ、筋肉だるまになりたくないですよ!?(超絶マッチョの意)」
「ふふふふふふ(諦めしかない笑い)」
「ひ、否定してください、い、嫌ですよ、私は嫌ですよーー!!?」
とても澄んだ青空に文の悲鳴が響き渡る。
■
「おー、久しぶり」
「「あ、天鴎さん、ちぃーす」
まるで運動部なのかという辺りに挨拶が響きわたる。
その挨拶は門番の二人と天鴎がかわした物だ。
ただ、この里には立派な門がある訳ではなく、里を囲う柵があるだけだで、入り口をただ見張っているだけだが。
文と天鴎は鞍馬の里に着いたのだった。
「それで、天鴎さん、今回はどんな用なんですか?ボスからなんも聞いていないんすけど?」
「んん、ああ、今回は婚約者を紹介したくてな」
ピキッ
空気がわれるような音がした。
いきなり、門番の気配が鋭くなった。
「天鴎さん、今なんて言いましたか?」
「え?婚約者を紹介すると…」
ヒュッ
そんな音と共に鞘に入ったままだが、天鴎の頭に刀が突き付けられる。
門番たちは、嫉妬が入り混じった殺気を向けている。
「天鴎さん、久しぶりに模擬戦してくれませんか?」
その言葉に何となくこの門番の気持ちを察する。
そもそも、門番というのはなかなか出会いというものが無いのだ。
仕事自体は暇ではあるが、重要な役割ではあるのでそれ相応の実力者が配置され、里の安全を守ることにも繋がるので外せない仕事なのだ。
捉え方次第では名誉な仕事でもあるのだが、如何せんこの仕事、出会いが全く無いのだ。
妖怪は普通番が欲しいとかはその長い生のせいかなかなか思わないものなのだが、彼らは不幸な事にここの上司に問題があったのだ。
その上司と仕事柄関わる事が多いので、彼らは出会いが無いにも等しいにもかかわら関わらず『彼女が欲しい~;つД`)』という悶々とした考えに陥っているのだ。
天鴎はあまりそこら辺の事は関わっていなかったが、ここのボスの孫だということとその実力の高さからかなり高い地位にいるのだが、共通の上司を持つものとしてその暴走を止められなかった事がなんとも心残りであったのだ。
天鴎自身にはそこら辺を止められなかったことにやはり罪悪感を感じるので、模擬戦ぐらいは受けてあげることにした。
「いいよ、かかってきて」
体全体の力を抜いて戦闘態勢を整える。
門番二人は躊躇なく踏み込んでくる。その踏み込みは力強く圧倒的に加速力で天鴎に迫る
「まだまだ洗礼されてないね」
天鴎は門番二人にダメ押しをするが、そんなことおかまいなしに門番は連撃をくりだしてくる。
「技がダメなら数と力で押し通すまでです」
門番二人はその連携に加え妖力をそれなりに体にまわして隙のない連撃と高威力の拳をくりだしてくる。
天鴎はそれを捌いているが、威力の高い攻撃に防戦一方になっている。
「やっぱり、妖力を使わないとっ!お前らの相手はキツいな!」
「天鴎さんは妖力使わず二相手してたんですか!!それでも対応できてるとか、やっぱリ化け物じみてますね。」
「妖怪と化け物なんて同じようなもんだろっ?」
「そうゆうことじゃ無いですっ!!」
その言葉を皮きりに、門番たちの攻撃もますます苛烈さをまし始める。
天鴎はますます防戦一方へと押し込まれる。しかし、天鴎も意地で未だに一度も攻撃を通させていない。
「ほらほら、天鴎さん、妖力を使わないと俺たちが押し切りますよ!?」
「それは、困るなぁ!!」
そう言った瞬間、天鴎の体が加速し、門番二人の視界から消える。
門番の二人はいきなり過ぎる急加速に反応などできない。
門番が天鴎の姿を見失ったと、次の瞬間二人は地面に叩きつけられていた。
「え、へ?今何が起きたんですか?」
「ただ転ばせただけだから」
「いやいや、それは分かってますけど、その転ばせるまでにどうやって目の前まで近づいたのかが全く分からなかったんですけど?」
「妖力と歩法を使って近づいただけだよ?」
「歩法が並外れているのは前からでしたけど、天鴎さんそんなに妖力の使い方うまかったですか?」
「おいおい、妖怪の山には妖術を習いにいってたんだぞ?出力系が主とはいえそれが強化系の妖術のプラスにはならない訳がないだろ?俺は出力系の妖術を習得したことで、妖術の全体的な技術力アップに繋がってんの。そしてこれぐらいは妖怪の山に行く前からできてます。」
「うう、裏切り者を成敗しようとしたら実力の差をみせつけられるなんて…」
「いや、俺裏切ってないから。勝手に裏切り者扱いするに止めてもらえる?」
「だって、だって、俺たちと同じ非モテだと思っていたの婚約者なんて連れてくるから…」
「非モテだったのは否定しないけど、結婚できない程酷くはなかったからな?」
「「うがあ…」」
変な断末魔のようなうめき声のような声をだし、門番二人は崩れ落ちる。
「あの、そろそろ通ってもいいかな?」
「うう、別にいいですけど、最後に婚約者だという人を見せてください。そもそも確認しないとだめですから。」
「分かったよ、飢えたお前ら対策に上空に一時避難させていたけど、どうやら正解だったみたいで良かったよ、おーい!文ー!もう下りてきていいぞー!」
「はーい」
空から文が天鴎目掛けて飛んでくる。
しかし、今回は天鴎に突っ込まず天鴎の前に着地する。
密かに受け止める準備をしていた天鴎は表情にはださなかったが、内心かなりのショックを受けていた。
そのせいで瞬くの間天鴎はフリーズする。
「えーと、天さん?戻ってきてくださーい、おーい」
「はっ!?俺は今何を??!」
「飛びつかないだけでなんでそんなにショックを受けてるんですか」
文は何かとんでもないぐらいに自分の存在が天鴎という中で大きくなっているんじゃないかと危惧する。
それ自体は文の中では嬉しい事なのだか、行き過ぎなのは何事においても良くないので心配になる。だが、まがりなりにも、自身が愛しているのは戦いの中で培ったとはいえ、かなりの精神的な強さを持っている。心配する事は無いだろうと思い直す。
「エエート、天鴎サンソチラノオ嬢サンガ婚約者デスカ?」
門番が何とも言えない絶望に染まったオーラを出しながら妙な片言で問い掛けて来る。
「はい、そうですよ!私が天さんの婚約者の射命丸文です、鞍馬の里にはこれからも多く来ると思うのでよろしくお願いします!」
門番の問い掛けに天鴎が答えるよりも先に文が元気よく答える。
そして門番二人にはその姿がとても愛らしく映ったのか、口からギリッと歯を食いしばっている音がする。
「「なんで、なんで、こんな可愛い娘と結婚できるんだ、里では阿修羅とかよばれてたのに!!」」
「俺にはそんな二つ名があったのかよ、全くもって知らんかったぞ」
天鴎はもはや自分がもてないとか関節的にけなされていることには突っ込まず、自身が全く知らなかった二つなに興味を持っている。
多分天鴎がこれ以上何かを言っても同じような反応を返してくるだろうし、天鴎自身ぶっちゃければ面倒くさかった。手合わせまでして、門番にここまで時間をとられるとは思っていなかった。
それに、天鴎は文と同棲生活をし始めた時点で文だけにもてればいいやと幸せだわと思っていたので、非モテだといわれてもダメージは全くない。
それに対してもはや天鴎にも無視されるという事態に陥った門番二人は完全に燃え尽き地面にひれ伏す。
「うう、今ボスから通行許可が降りました。通っていいですよ。」
「ん、あんがと、それじゃあ、行きますかね」
天鴎は軽く門番に礼だけ言って、歩きだす。
門番からすれば少し薄情だが、天鴎からすればしつこいのが悪い。
文からすればあんな状態で大丈夫かと思うが、心が折れても彼らは戦闘大好き鞍馬天狗。
例え落ち込んでいて、視線が思いっきり地面に向いていても、気配だけで周囲を察知できる。
ただし、そこまで心に余裕があるかは彼らのみぞ知ると言ったとこだ。
「すみません、天さん。さっきの門番の人達はどうやって連絡を取っていたんですか?」
どうやら文は先ほどの会話で、いきなりボスからの承諾を取っていた門番二人の連絡方法に疑問を持っていたようだ。
確かに、傍目から見ればいきなり門番が勝手に通ってもいいと決めていたように思える。
しかし、鞍馬天狗はその長い戦いの歴史の中で編み出した連絡方法がある。
「俺たち鞍馬天狗は思念伝達という技を使えるんだ」
「思念伝達ですか?」
「そう、説明すると思念、所謂イメージを共有するものなんだ。イメージを共有できるから、言葉だけでなく映像も共有できるし、集団戦において地図上にすぐに現地の様子を反映できるから戦略を立てやすいし、またその作戦をすぐに兵士に伝達できるから、無類の強さを発揮できる。鞍馬天狗の嫌な信頼と絆があったからこそできたものなんだ」
「ほう、成る程、戦闘の中で発達した技術なんですね、そしてそれを使ってさっきは連絡をとっていたんですね」
「まあ、そうなるな。ただかなり便利な技術だからな、文もそのうち修得するといいよ、そん時は俺が教えてあげるよ」
「そうですね、私も使ってみたいですし近いうちに教えてもらいましょうか」
どうやら、文も思念伝達を使えれば便利だと思ったらしく、修得することにしたらしい。
「でも天さん」
「ん?なんだ?」
「天さんここのボスのお孫さんなのなら、顔パスできるんじゃないんですか?」
「そうだね、まあ確認する必要はないけど様儀式というか、門番の仕事が幻想郷にきてから暇すぎるというか、うんまあ、暇潰しの一つだね」
「無駄な事だと見事に言い切りましたね」
「そだねー」
最近流行った北海道弁みたいな感じで答えを返す天鴎。ただ、天鴎は基本的に公私を切り替えるが、プライベートでは眠いキャラなのでおっとりした感じでこのような語尾が伸びる言葉を使うことが多い。
「にしてもこの里、今あんまり人がいないですね」
「ん?そうだね。昼は皆仕事と鍛錬に出払ってるし、ここら辺田んぼとか畑とか無いから、人いないように見えるね。夕方にならないとにぎわないかな」
以外とそこら辺は真面目な鞍馬天狗。
というよりは動いてないと落ち着かないと言った方が正しい。
ただし、そのおかげで土木は上手いし、田んぼや畑からできる作物などはかなりの量を誇る。消費量も相当だが。
「おおーい!!天鴎!」
「ん?」
遠くから天鴎を呼ぶ女性の声が聞こえる。
「あ、この声は…」
「天鴎!!」
「へ?わ?!」
遠くにいたと思っていた声の主がいきなり天鴎の側に現れる。
そして勢いそのまま天鴎にタックルする。
天鴎はその行動が予想外すぎて上手く受け止められずその少女と一緒に倒れ込む。
そしてそれは、天鴎のマウントポジションを偶然にも謎の少女が取る体勢になる。
その少女は艶やかな黒髪をツインテールに纏め改造された腹だしミニスカ和服にニーソをきた属性満載の美少女だった。
そしてその顔に浮かべるのは超がつくような満点の笑顔。
そして向けられる対象は天鴎ただ一人のみ。
「天鴎!!」
いまだその美少女は天鴎の上で満点の笑顔を浮かべている。
対して文の顔からどんどん表情と目のハイライトが消えていく。
「ひっ!ひいい!?」
「天さん、誰ですかその女は?」
「いやあ、あのー、ですねー」
「言い訳はいりません、誰なんですか?」
「ええっと、あのー、少し落ち着きませんか…」
どうやら天鴎の修羅場がこれから始まるらしい。
「始まるな!!そして俺は無罪だ!?」
はたしてこれからどうなるのか、神のみぞ知る。
『思念伝達』 元ネタは転生したらスライムだった件 からです。
そだねーはカーリングより前から他の物に影響を受け語尾を伸ばす言葉を使っていたりします。
皆さんご存知、ルーミアの「そーなのかー」ですね。
このなんとも締まらない感じが好き。