東方鞍馬録   作:Etsuki

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 鞍馬の里後編です

 この回は前話、回想 天鴎の過去をご覧んになっていることを前提として書いております。なので、このお話をご覧になる前に、まだ前話をよんでいない方はそちらをよんでからこの話を読むことをお勧めします。


鞍馬の里 後編

 

 文は天詠に呼ばれた通り、天詠達の部屋に向かった。

 何を話されるのだろうか?天鴎の過去でも、好みでも、食事の作り方でも教えてくれるのかと考えていた。

 そんな、楽しい光景を想像しながら歩いていたら、文が思ったよりも早く天詠達に部屋についた。

 

「失礼します」

 

 文は先ほどよりも緊張はほぐれた、かなりいつもの口調に近い言葉で、入室の許可を求める言葉を言えていた。しかし、その口調は上司に対しての物だったが。

 

「どうぞ、入ってらっしゃい」

 

 襖の奥から、天詠の許可の声が聞こえる。

 文はいそいそと部屋に入る。 

 

「来たわね、さあさあそこに腰かけて」

 

 天詠は好意的な声を文に掛ける。

 文はその指示に従い、机の前に置かれた座布団に腰を下ろす。

 

 天詠はそれを確認すると文の机を挟んで向かい側に腰を下ろす。

 

 ちなみに、僧正坊はずっと天詠が座った隣の座布団で胡坐をかき座っていた。

 

「あのー、今回お招き頂いたのは何故なのでしょうか?」

 

文は呼ばれた内容について大体のあたりは付けていたが、実際には何を話すのかなどは全く分かっていなかったので、とりあえず聞く事にする。

 

「私たちはね、あなたにどうしても話しておかなければいけない事があるの」

 

天詠が文の問いかけについて答える。しかし、その声は文の予想していたよりも低い声音であった。

 

「天鴎の過去とこの鞍馬の役割についてよ」

 

「鞍馬の里の役割、ですか?」

 

文は天鴎の過去というのは予想していたものの一つであったから特に不思議に思いはしなかったが、鞍馬の里の役割というのは予想外であった。

そもそも、役割とは何なのだろうか?鞍馬は謎が多い一族ではあるが、実態は強くなる事に重点を置き、そこに大きな意味は無いものだと思っていた。

それは違うという事なのだろうか?

 

「まずは、鞍馬の役割から話させて貰うわね、いいかしら?」

 

天詠はそう言って文に確認を取る。文はそれに頷き天詠に肯定の意を知らせる。

天詠はそれを確認すると話し始める。

 

「今の鞍馬からは想像できないでしょうけど、鞍馬の里も元はこんな戦闘民族ではなかったのよ。まだ天狗が妖怪の山に集まる前、各地に天狗が散らばっていた時代はね。今の天狗達とそこまで変わりはしなかった。けど、今のようになってしまったのには、切っ掛けがあるの」

 

「切っ掛けですか?」

 

「そう、切っ掛けよ。私達が生まれるほんの前に起こったことだったみたいね。それはね、ある怪物の封印が解けたことだったのよ」

 

 天詠はそこで少し考える様子をみせる。

 

「その怪物はね、私達でも恐れるような怪物だったわ。その力を見せると瞬く間にその怪物の周辺がなにもない荒れ地になってしまうもの。本当に恐ろしい怪物だったもの」

 

 天詠はそこまで言って顔に影が差す。

 

「ただ、その怪物に立ち向かっていったのは当時の鴉天狗の中では私達鞍馬天狗だけだったの。それが私達が他の鴉天狗達と道を別つことになった切っ掛け。天狗の特性的には立ち向かわない方が本来は正常なんだけどね

けど、予想通りその戦いで多くの者が死んでいったわ、怪物に立ち向かった同士たちも、私達鞍馬からも、死者は多く出たわ。そしてあの怪物はそのたびに死者の力を吸収して、その力を増幅させ、更に私達を苦しめた。本当に地獄のような戦いだったわ。

けど、その戦いにも決着はついて、私達が辛くも勝利を勝ち取ったわ。

ただ、これだけでは終わらないの。この戦いで力を付けた鞍馬は次はその力を危惧して私達を滅ぼそうとした神々との戦いに身を投じる事になったの。この戦いでも同士はたくさん死んだわ。神の力が全盛期に近かったからかなり強大だった。けど、この戦いも私達が勝利を収めた。ボロボロになりながらも生き残ったのは私達の他には殆どいなかった。同士の意志を継ぎながら私達は力を付けたのよ」

 

文はそこまで聴いて、もはや顔が真っ青である。

鞍馬の歴史、それは長く辛い闘争の末に築かれているものであり、戦闘狂だったというのは鬼のような種族の本能という訳ではなく、辛く厳しい戦いの中で強いられてきた状況が彼らをそうさせ、彼らもそうするしかなかったのだろう。

鞍馬というのは、自分達が考えているような種族ではない、その背景には辛く苦しい歴史があるのだ。

だから、文はそれを知らなかった罪悪感から言い訳のように言葉を探す。

「でも、でも、誰もそんな事知りませんでした!怪物の事も、鞍馬が神々と戦争をした事も、誰も知りませんでした!歴史のどこにも残っていない、その形跡がない!なんでですか、怪物の事も、神々との戦争も、その歴史と跡が残らない筈がないじゃありませんか!?」

 

文はその口調を強めて天詠に問いかける。

天詠はその顔に無表情を貼り付け、文の問いに答える。

 

「怪物との戦いは情報を抹消したわ、あの歴史は残さない方がいいもの。神々との戦いは神の方が情報を抹消したわ。負けた歴史なんて残さない方がいいもの。」

 

「そんな、鞍馬の偉業が後世に語り継がれないなんて、死んでいった人が浮かばれないじゃないですか」

 

 文の言う事に天詠は顔を振る。

 

「いいえ、文さん、それは違うわ。そもそも鞍馬は名誉を求めてではなくて、その誇りをかけて戦ったもの。歴史には残らなくたって、自身の守りたかった物を守れたのよ、彼らは浮かばれているわ。それに彼らの歴史は鞍馬の中でその心と共に語り継がれているは。それは否定しようのない事実なのだから」

 

 ここで少し天詠の顔は少し明るくなったが、またすぐに暗くなる。

 

「けどね、文さん、神々との戦いが最後の地獄では無かったのよ。」

 

「それは…どうゆう事何ですか?天詠さん」

 

「単純な事よ、私達が滅ぼしたと思っていた怪物は死んだ訳じゃなかったのよ」

 

「!!?」

 

「怪物はその体が散り散りになり、他の生物に寄生ながらも、生きていたのよ。各地でその体を一つにし、世界を滅ぼそうと力を蓄えていたのよ。ただ、私達はその力と体が何百倍にも下がった怪物がそこまで強いとは思ってなかったの。だから最初は侮ってしまった。怪物は複雑な負の感謝を吸収して、また違う力を手にしていた。それのせいでソイツらとの戦いはまた長引いたわ。流石に最初の戦いと比べれば死者は圧倒的に少なかったけどね。けどこちらも無事という訳では無かったわ、確かに死者は出たもの」

 

部屋には暗い空気が漂っている。戦争を経験してきたからだろう。天詠、僧正坊はその戦争を体験しているのだ、その壮絶さを思い出し、暗くなってしまったのだろう。文は鞍馬の壮絶さと共に、天鴎が何を体験してきたのかを想像して、暗くなっていた。

 

「でも、鞍馬は生き残っている、今こうして生きている。決して歩んんで来た道が無駄になった訳じゃ無い。今まで築き上げてきたこの力があるなら、家族を大事なみんなを、守れる力がある。もう決して、この手から誰も零させる事なんてない。それは確信できるわ」

 

「天さんもそうやって、力をつけてきたんですね…」

 

「ええ、そうね、けどあの子が強くなる事を決意したのはまた別の理由があるわ」

 

「別の理由ですか?」

 

「ええ、そうよ、元々話そうとしてたあの子の過去。決して明るくなんてないあの子の過去よ。あの子を深く傷つけた過去よ。この話しも決して明るくなんて無いわ、だから心して聞いて頂戴」

 

「はい…分かりました…」

 

文は本当の事を言えば聴きたくなど無かった。これまでの天鴎との生活が壊れるような、自身が天鴎と向き合えなくなるような過去を話すんじゃないかと思い怖かった。しかし、文は天鴎と夫婦になると決めたのだ。夫婦なら知らなければいけない、向き合っていかなければいけない。天鴎の過去を。今知らなくても、いずれその過去とは向き合わなければならないのだから。

 

 そして語られる天鴎の過去。文は初めて天鴎という存在の新たな側面を知った、綺麗事では決してない負の過去。それは、文からすれば想像している物よりも酷かった。

幼い体に刻みつけられた傷と恐怖、母親を失った悲しみ、幼い天鴎に重くのしかかる、大人でも発狂しかねない罪悪感。そして本家では覚えていたとしても、天鴎の母親がその存在を消されたという絶望。

文は知った。天鴎のあの強さは決して天鴎の優しさからくる物ではない。天鴎のぐちゃぐちゃに混ざって行き場を失った負の感情。それらが天鴎を突き動かし、その強さを作り上げた。鞍馬の本来の目的とも遠く離れた復讐の為の力。天鴎にとってはそれは忘れたくとも忘れる事ができない過去を振り切ろうと自身を騙し続けた末の産物だ。それは文にとっても天鴎にとってもあまりにも重かった。

 

「ごめんなさいね、こんなに暗い話をしてしまって。でもどうしても話しておきたかったの、鞍馬の歩んできた歴史は茨の道なんて生易しいものじゃないわ。だからこそ、こんな日の当たらない道にあなたを巻き込んでしまうかもしれない事知っておいて欲しかったの。それに、あの子には可哀そうだけど、鞍馬と関わりを持ちたくない、こんな闘争と血で彩られた場所に関わりたくないというのなら、天鴎にはあなたと夫婦になることは諦めて貰うつもりよ。無暗に死なせるよりは何倍もマシだもの」

 

 文は顔を俯かせたままだ。

 甘い事をいうようだが、文からすれば全く心の準備などできていなかったのだ。こんな重大な事を受け止めるような覚悟をしていなかったのだ。

 天鴎を好きになったのも、今の(・・)負の部分の何もかもを隠した天鴎に徐々に惹かれていったからだ。

 天鴎は確かに好きだ、いや大好きなのだ。しかし、天鴎が背負っているものはあまりにも大きい。自身が彼の為に何ができるのか?自身が夫婦として何ができるのか。天鴎は文といたらこのままずっと自身を隠し騙しながら生きていくのか?いろんな事が文の中でぐるぐると回る。

 

「ごめんなさい、いきなり過ぎたわね。やっぱり混乱するしかないわよね。分かってたはずなのに、あの子のことになって焦り過ぎたわ」

 

「いや、いいんです。辛いだろうにわざわざ話しをしてくれてありがとうございます」

 

 文は天詠を気遣う言葉をかける。この中で一番辛いのは天鴎を間近で見てきた天詠と僧正坊だろうから。

 

「すいません、今日はもう休ませてください。やっぱり私の中でももうちょと整理してみます」

 

 文は天詠から話された事はあまりにも重く、またかなり量もあったことから、すこしまいっていた。

 なので、今回はもう一回休んで天詠への返事はまた明日にでも一旦保留にする事にした。

 

「ええ、文さん自身がよく考えてみるといいわ。あなかがどれだけ天鴎を好きかは知っているけど、だからこそあの子の過去に向き合うのはとても辛いことだとおもうの。あの子を無条件に受け入れるのなんて…長年付き添った者でも難しいもの」

 

これは、天詠達の経験からくる言葉だろう。天鴎の精神状態が最初はかなり酷く、優しい天鴎との違いに戸惑ったに違いない。

「そうさせて貰います…」

 

文はそれだけ言って、天詠達の部屋を出た。

「はぁ…」

 

文はおもわず壁に背を付けため息を吐いてしまう。

 もう一度文は天鴎の事を考えようと、先ほど聞いた話を思いだそうとする。しかし、半分程思い出した所で思い出すのをやめる。心が悲鳴を上げそうだったからだ。

 こんな気持ちになるなんて文は初めてであった。

 天鴎を好きな気持ちは自分の中にしっかりとある、先ほどの話で天鴎を思う気持ちが揺らいだ訳ではない。その他にも嫉妬でも怒りでも哀れみという訳でもない。

 哀しい、そして無性に怖かった。今まで文の見てきた天鴎の姿は力強く弱さなど一つも見えなかった。しかし、話の中の天鴎は弱く、あまりにも不安定で、文にはとても儚く消えてしまいそうに思えた。

 

 文は壁に預けていた背中を持ち上げて、天鴎の元へ急いだ。

 

 部屋へ急ぐ足に速さが知らずの内に速くなっていく。

 

 天鴎が自分の前から何も言わずに消えるはずなんてない。文はそう思いながらも、天鴎が過去に起こった事を自分が知ったとわかったら、忽然と自身の前から消えてしまうんじゃないかと思った。今までの優しさが文には嘘には思えていなかったから、余計に強くその想像が脳裏を過り続ける。

 

 文は音を立てながらも、部屋の前に着く。そして、部屋の襖に手をつける。天鴎がいなかったらと一瞬嫌な想像が頭を横切り躊躇したが、一気に襖を開く。

 

「おっと、どうしたんだ?そんなに強く襖を開いて」

 

 

 

 いた…

 

 

 文は天鴎を見てそう思った。

 天鴎はこちらを不思議そうに見ている。天鴎は座ってこそいるが、体制が楽なものだったから、今まで部屋でくつろいでいたのだろう。

 

 文は天鴎の元に足早に近づく。

 

「どうしたんだ?文、そんな鬼気迫ったような顔して?」

 

どうやら、知らずの内に文は大分顔に力が入っていたらしい。

しかし、文はそんな事にお構い無しに、天鴎に抱きついた。

 

いる、いる、確かにここに天さんはいる。間違いなんかじゃない。天さんはここにいるんだ。

 

「?」

 

天鴎は文の無言からの抱きつき、それらが先程まで明るかった文とは全く違う行動だから不思議に思ったが、文の体温が心地良かったのか、そのまま何も言わずに、文の頭を撫で始める。

 

文もその体温を感じて先程までの哀しみと恐怖が少し薄れてきた。しかし、まだそれが完全に消える訳ではない。

文は未だに負の思考が頭から完全に離れた訳ではない、先程のショックを引きずったままだ。

 

文は天鴎の顔を見る。

天鴎はそんな文を見て、文に微笑みを返すだけだ。その顔から、天鴎が話しに出てきたような体験をしているようには思えなかった。大事な物を失い、復讐にその身を燃やした者の顔なんかじゃなかった。

 

文はその事実に頭が混乱する。なんでこんな顔をできるのか?なんでこんなに穏やかでいられるのか?なんでこんなにも優しくいられたのか?なんで、私なんかと真摯に向き合ってくれたのか?

 

文はもう訳が分からなくて、つい言葉に出してしまう。

 

「天さんは…なんでそんなにも優しくできるんですか?」

 

「?」

 

天鴎はその言葉に困惑するしかない。何故優しくできるのか?その言葉の意図がわからない。

もしかしてこれが嫉妬とかいうやつか?嫉妬なんてどうゆう要素があったのかなんてわからないが、可愛いもんだなぁ。

全く見当違いの事を天鴎は考えていた。

けれど、天鴎は今の質問に答えは返しておくべきかと思い、口を開く。

 

「文が好きだからだよ」

 

ビグッ

 

天鴎の腕の中にいた文が震える。

文はその言葉にどんな意味を持つのか上手く理解できなかった。

天鴎はただ本心からの言葉を言っただけだか、あの話しを聞いた後だと、過去を知らない無知な文が好きなのか、それら無しで文が好きなのか、分からなかった。

それらは不安となり蓄積され、文は知らずの内に口にだしてしまった。

 

 

「私聞きました、天さんの過去を…」

 

「!!?」

 

天鴎はその顔を歪める。今までの穏やかな顔が一瞬で消えた。恐怖と不安に支配された、嫌な顔。

それは文の知らない、本当に消え入りそうな、弱々しい顔だった。

 

文はその顔を見て…今までに感じた事がない程…どうしようもなく…胸が痛んだ。

 





 悲報 鞍馬の里 エピローグ 

 書かないと。

 鞍馬の里編長すぎますね。
 
 あと、鞍馬の歴史はまた詳しく書くことがあったら書きたいですね。

 
 登場人物が気にしてないだけですが、天さんは『俺、参上』ダサT着てますね。
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