今日の幻想郷はあいにくの雨であった。
外の世界と比べてまだ文明が未発達な人間の里に建っている家々に雨音を響かせ、人の手がほとんど入っていない幻想郷の地に根を生やしている自然豊かな植物たちに恵を運び、雨の好きな妖怪たちに活気を与える。
見方によっては様々な姿を見せる幻想郷の雨。
そんな雨が降り注ぐ空を、一人の天狗の少女が飛んでいる。
このお話でお馴染みの射命丸文である。
文は仕事場に行く際に雨から身をしのものぐ物を持ってきていなかったので、幻想郷でも最高峰に位置するその自慢の身軽さで、雨の中を家まで急いでいた。
「あああ!もう!今日は家の方で書類仕事と新聞製作しようと思っていたのに、急な呼び出しで行ってみれば、処理しきれなかった書類押し付けられて、時間食っちゃたし、しかも雨も降ってくるし、なんで今日はこんなについてないんですか!?」
愚痴を言えば言うほど、今日のスケジュールをぐちゃぐちゃにした上司への怒りで空を翔けるスピードが上がる。その分、文の体を叩きつける雨の力も強くなるが、文はそんな事気にせずにスピードを上げる。
文がスピードを限界まで上げれば、すぐにでも家に着く。
元々天鴎が建てた家は妖怪の山に建っているのだ。距離はそこまでないのだから。
しかし、それと引き換えに、雨の中で全力飛行すると衣服が全部びしょ濡れになってしまうが。
「天さん~、ただいまー」
文は引き戸を開け、玄関で天鴎に帰った事を伝える。
「?」
しかし、ここで文は不思議に思った。
いつもならすぐに『おかえりー』と返事を返してくれるのに、その返事がない。それに気遣いが上手い天鴎だからタオルでも持って玄関に出てくるだろうかと思っていたから、少しこの反応が以外だった。
「畑の様子でも見に行ったんでしょうか?」
品種改良でかなり丈夫な野菜になっていると聞いていたが、やはり野菜は育てる上では大変デリケートなのだろう。今日はいきなりの雨だったから天さんも急いで畑にいったのかもしれない。
とりあえずびしょ濡れのまま玄関に突っ立ていたら風邪をひいてしまう。
靴と靴下を脱いで、廊下を濡らしてしまわないように注意して、着替えとタオルを取りに向かう。
今の時期は夏が過ぎて肌寒くなってきたころだ。
文は風呂でも沸かそうかと小走りになりながら廊下を進む。
そんなことを考えながら進んでいると文はびっくりする光景を庭に見つけた。
庭にはいつと変わらないダサTに袴という格好で雨の中佇む天鴎の姿を見つけたのだ。
「え?天さんなにしてるんですか?」
文も初めてみる理解できない光景に戸惑ってしまう。
しかし天鴎はそんな文に気付く様子もなく、ただひたすらに空を見上げている。
雨雲がそんなに憎々しいのかと思う程に睨みつけている。
そんな天鴎を見ていた文は動けなかった。
天鴎の周りすら見えなくなる圧倒的な集中力に文は目を離せなくなり、引き込まれてしまった。
天鴎はそこで何分か空を睨みつけていた。
そして唐突に天鴎の纏う雰囲気が変わる、刹那、天鴎の姿が視認できなくなる。
「ええええええええええええええええええええええっっっ!!?」
文はいきなり過ぎる展開に驚きの声を上げてしまう。
文は今天鴎が何をしているのか理解しようと、状況を把握しようと庭の様子を観察する。
すると庭にはなにも見えないが、ヒュンヒュンという音は聞こえてくることに気づいた。
さらに、文はこの音に聞き覚えがあることに気づいた。
「この音って、だいだい天さんが特殊な足運びをして高速移動してる時の音だったはず」
そう、この風を切る音は天鴎が高速移動する際になる音なのだ。
「つまり、天さんは高速移動をして何かをしているということになりますね?」
しかし、文は天鴎がここで何をしているのかが分からない。
なぜなら、天鴎がここにいるのは
天鴎の使う歩法は踏み込む力の全てを推進力に使うため、よく漫画とかで見る思いっ切りジャンプしたら土埃が舞うなんてことが起きないのだ。
だから、着地で地面が割れることもなければ、踏み込みで地面が陥没することもなく、なにごともなかったような地面しかのこらないのだ。
今、庭では絶賛天鴎が高速移動している証拠のヒュンヒュンという音は聞こえるのだか、庭には多くの水たまりがあるにも関わらず、水が雨の当たる衝撃でしかはねないのだ。
「本当に天さんはびしょ濡れになってなにをしているの?」
文は衣服が濡れているからこの現場をスルーしてさっさと脱衣所に向かおうかとも思ったが、なんとなく天鴎が気になってこの場で天鴎のこの謎の行動が終わるまで待つことにした。
■ 数分後
ビシュンッッ
そんな風を切る音を出しながら天鴎は庭に面している廊下にいきなり現れた。
「ひゃあっっ!」
文はいきなり現れた天鴎にびっくりして声をあげてしまう。
「あれ?文帰ってきてたの?え!というかなんでびしょ濡れなの?」
天鴎は逆にびしょ濡れの文に驚いてしまう。
文も文で天鴎の謎の行為になぜびしょ濡れになってでも観察していたのか不思議だったが、だがやはり文の職業からしても答えは一つだろう。
「野次馬根性ですね」
「あ~、文って新聞記者でもあったよな~」
天鴎はその答えに妙に納得できたという。
「それよりも天さん!今何していたんですか!?」
「うん?それが気になっていたの?」
「はい、そうなんですよ!..」
天鴎はその答えに苦笑いして口を開く。
「修行だよ」
「あれが修行ですか?どんな内容かもわかりませんでしたが?」
「足腰と判断力と歩法を鍛える修行だ」
「あの高速移動にそんな意味が?」
「あるよ?高速移動で雨を避けつつ、雨に当たらないように体をどう動かすか思考して、避けきれないと判断した雨は指で弾くんだ。それを雨で濡れた服が乾くまでやるんだ」
「服が乾くまでって…、それはヤバいですね」
「まあでも、かなり高速で動くからすぐ乾くんだけどね」
「それでも避けることだって困難な雨を何十分も避け続けるなんてすごいですよ」
「そうか?まあ、この修行は雨が降った時にいつもやってたからそんなにスゴイって感覚ないんだよな」
「なんでなくなるんですか…」
文はこんなところでも天鴎の異常っぷりを思い知らされることになった。
「それよりも文、お前びしょ濡れなんだからはやくタオルとりに行こうか、ついでに風呂沸かしてやるから」
「へくしょいっっ、確かにそうでしたね、あ~早く温まりたいですね」
「はあ~、なんでそんなになるまで見ていたのやら、そんなことならいつもより早く上がればよかった」
「別に天さんが気に病むことはないですよ。こんなになるまで見ていた私が悪いんですし」
天鴎はその言葉と文の野次馬根性に一つため息をつき、脱衣所に向かったのだった。
■ 小話その1 完
■ 小話その2
「ふああ~~、やっぱり本当に綺麗ですね~~」
「うん、やっぱり最高に綺麗だな~」
「やっぱり空から見るのとは全然違う表情を見せますねー」
今天鴎達は太陽の花畑に来ていた。
今日も真夏にふさわしい炎天下の中、美しい向日葵に囲まれたここだけは違う風が吹いているようだった。
それに天鴎は前回一人で来た上に、幽香となぜか戦うことになったのだ。
天鴎からすると今日は文と二人でゆっくりと綺麗な向日葵を見れるのだ。
幽香が嫌という訳ではないが、正直言ってゆったりできる機会にわざわざ戦うことになるのは嫌なのだ。ただ前回は天鴎自身が完全に幽香の殺気にあてられて戦うことにノリノリだったので幽香一人が悪いという訳ではないのだが。
「にしても、ここら辺にはあの花妖怪がいるというのであまり近よらなかったんですよね」
「うん?幽香のことか?」
「はい、そうです。風見幽香のことですよ。そういえば前ここに来た時に戦ったって言ってましたよね」
「ああ、なんか切っ掛けはよくわからんのだが、いつの間にか戦うことになっていた」
「まあ、そんな風に強者には喧嘩をよく仕掛けるらしいので、幻想郷の中でも強者に位置する鴉天狗が喧嘩を売られると思っていたので、あまり近寄らなかったんですよね」
「まあ確かにな、あいつは戦いを楽しむ奴だとは思うよ」
「本当にそうだと思うので、こんなふうにゆっくりとこの向日葵畑を楽しめる日が来るなんて思っていませんでしたよ」
そう言い文は向日葵畑を眺める。辺り一面に広がる太陽のような黄色、さんさんと降り注ぐ日光に、向日葵の花弁を揺らす心地の良い風。
文もなかなか感じることのない空間に感動していた。
「いや~、それにしてもさすがですね。四季のフラワーマスターと呼ばれるだけありますね」
「え?幽香ってそんな二つ名で呼ばれてるの?」
「はい、この二つ名は結構有名ですけど?」
「え?なんというか、その二つ名微妙に英語とか入ってて少し恥ずかしい名前なような」
「勝手に人の事を貶すのは止めてくれないかしら?」
「!?」
「おう、幽香」
いきなり何もないところから風見幽香がでできて文は言葉が出ない程驚く。天鴎はごく自然に幽香に挨拶する。
「久しぶりね、天鴎」
「おう、幽香も久しぶりだな」
「え?え?」
文はいまだに現状を把握できていない。
「にしても、わざわざこの花畑にまできて私を馬鹿にしに来たの?」
「ああ?いや、このとっても綺麗な向日葵畑を見に来たんだよ」
「なら他人が勝手につけた二つ名で私の事を馬鹿にしないでくれるかしら?」
「いや、馬鹿にしてない、馬鹿にしてないって、だたちょっと恥ずかしい二つ名だなーって思っただけだよ」
刹那、幽香の手が天鴎の頭にアイアンクローをきめ、そのまま天鴎を持ち上げた。
「それをやめなさいと言っているのよ」
「四季のフラワーマスター?」
「や・め・な・さ・い!!」
天鴎はアイアンクローをされながらも笑顔を崩さない。
「ごめん、ゴメン、GOMENN☆、もういいでしょ?ちょっ、離して、その手」
「いやよ、あなたまだ私をおちょくっているわね?」
「ソンナ―、キノセイダヨー」
「まだ分からないのかしら?」
幽香はさらにその天鴎を掴む手を強める。
「え?え?え?え?」
文はまだ混乱中だ。
「Flower Master of the Four Seasons」
「ただ英語にしただけじゃない、あなたまだ私の言ってることが分からないの?」
「オフコース」
「あら、随分堂々と言うのね?」
天鴎は堂々なぜか片言で幽香の逆鱗に触りにいく。滅茶苦茶触りに行く。
「と、とりあえず、落ち着いてください。て、天さん?なんでそんなに幽香さんおちょっくっていきいきしてるんですか?」
「なんとなく!」
「はあ」
天鴎はもしかすると、前回挑発するような発言をしたことをまだ秘かに根にもっているのかもしれない。
「あなた、そんな性格だったのね、はあ。なに言ってもダメそうね。もういいわ、諦めてあげる」
「え?まだおちょっくっていた…」
ズカンッッ!!
幽香は天鴎が言い終える前に日傘を天鴎の頭に叩き込む。
天鴎は無言のまま幽香にはった押され、大地と熱いキスをするはめになる。
すると、天鴎の腕が横に動き、手が動く、手は硬く握られたままだが、親指が一人天高く上を向く。それはあまりにも堂々としていて、あまりにも主張が激しくて、なにかを成し遂げた後のような感動のようなものすら感じ取れるなにかがあった。
「幽香!ナイスツッコミ!」
「アンタはっ私に何をやらせたいのよっ!!」
ズガァァァッッ!!
幽香は力任せに天に掲げている親指ごと思いっ切り天鴎の手を踏み潰す。
「え、て、天さん、大丈夫ですか?」
文は戸惑い気味に天鴎に問いかけるが、天鴎は踏まれていない方の腕でひらひらと手を振り、大丈夫だとアピールする。
「本当に、こいつはムカつくやつよね」
「ははは、まあいつもこんなに誰かをいじっているのは珍しいですけどね」
「それでも私にとってムカつくやつの事には変わりないわよ」
文は天鴎の方に近づいて、今日は珍しい反応するなーとか思いながら天鴎を起こそうとすると、天鴎のひらひらと動いていた手がいきなり止まり、グッと、親指を突き立てた。
「え?え?天さん次はなんですか?」
文は天鴎がなんでそんな動きをするのかが分からなくて、天鴎に問いかける。
「文、ナイスパンティー…!」
そう、今文は天鴎の横に幽香がいるので邪魔にならないように、天鴎の前から回り込んだのだが、すると丁度天鴎が顔を上げると、目の前にミニスカートの中の秘密の花園が広がっていたのだ。
「なっ!天さん、何をみてるんですかっ!!?」
文はとっさに風の妖術を展開する。
「人前でそんなこと言わないでくださいっっ!!」
天鴎の体が文の妖術によって地面に埋まる。
文は肩で息をしながら、顔は赤面している。
「あなたも大変ね」
幽香は文をいたわるように言い、天鴎をさらに強く踏みつぶす。
「なんでこんな奴が強いのかしらね?」
「ははは、人には外見からは全く想像できない過去があるんですよ」
文は苦笑しながら答える。
『そうなのだ!!』
天鴎がいつの間にか持っていたパネルで、文の言葉にこたえる。
「どこから取り出したっ!!」
幽香は偉そうに答える天鴎のパネルに思いっ切り蹴りをいれる。
ついでにと言わんばかりに天鴎の頭に蹴りを入れる。
すると、天鴎はまたどこから取り出したのか、白旗を持ってひらひらと振っていた。
「何?あなたまだ余裕ありありなんでしょ?なんでそんなになってるのに白旗なんて取り出せたの?というかどこに持ってたの?」
『企業秘密♡』
天鴎の持っていた白旗にそんな文字が浮かび上がる。
「何?『企業秘密♡』ううぅ?何?あなたは私におちょくる事にどれだけ力を入れてるの?そんなのが天下の鞍馬天狗なの?鴉天狗はあなたのこんな姿を見たらさぞ軽蔑するでしょうね?そもそもあなた奥さんがいるのに他の女性おちょくる為に、私にツッコミさせる為にここまで入念に準備してくるって、恥ずかしくないの?一人の旦那として、大人としてどうかと思うわよ?あなた本当にそれでも何百年も生きてきた大妖怪なの?」
ここに来て、幽香はなにかがプッツンしたのか、正論で天鴎をまくしたてる。
幽香も人をからかうのは好きなはずだが、それを忘れて話しまくる。
『す、すみませんでした(涙)』
天鴎はその言葉の棘を纏めてぶっ刺したような物言いに心が折れてしまったようだ。
幽香はそのまま、天鴎の頭を掴み、頭だけあげさせる。
「あら、そんなので反省しているのかしら?…してないわね」
ボコオオオッ!!
幽香は問答無用で答える隙も与えずに、今度は一切何もしていない天鴎の頭を思いっきり地面にめり込ませる。
「私に鬱憤を感じさせた罰よ。そこで反省してなさい」
大分理不尽な理由で天鴎を地面にめり込ませたが、天鴎も天鴎でおとなげなかったので今回ばかりは仕方がないだろう。
「はあ、なんでこんな奴が強いのかしら?一体普段どんな修練をしているのかしら?」
幽香はため息をつきながらも、天鴎のこのタフさなどはどこからくるのか不思議に思ったようだ。
「ああ~~、そういえば最近修行の一つに雨を避けるなんて事をしていましたね」
文は幽香の呟きに反応し、最近庭で修行していた雨避けを思い出し、呟く。
「雨を、避ける」
幽香は文の言った言葉を反芻する。
「確かに、強くなるための修行というのはいいわね。足腰も鍛えられるし、体力もつけられる、さらに判断力の強化もできる。試してみる価値はあるわね」
「え?ええ~?!」
文はまさか幽香が本気で受け取るなんてありえない思っていたので、文は戸惑ってしまう。雨を避けるなど天鴎のようなイッテルやつらしかしないような修行だと思っていたからだ。
「とりあえずそれを目標にしましょうか」
幽香はそう言って忽然と消えてしまった。
文はツッコミの機会を失ってしまった。
「あ、そういえば天さん」
そう思って文は天鴎を見ると、天鴎はえぐれてしまった地面を埋めなおしていた。
「いつの間に…」
先ほどまで地面に埋まっていた天鴎がいつの間にか抜け出していた事にも驚いたし、律儀に埋めなおしている余裕とどこから取り出したのか分からないスコップがあるのも驚いた。
「はあ~、向日葵畑でも見ますか…」
なんかいろいろと疲れた文はとりあえず当初の目標通りに向日葵畑を眺めることにした。
「はあ~、癒されますね~~~」
文はそのままゆったりと過ごしたのだった。
「お餅食べる?」
「天さん、本当にそれどこから取り出していたんですか?」
永遠の謎であった。
■ 小話その2 完
遅れてすみません。最後も少し適当ですけど許して下さい。
内容もあまりに意味を持っていないようなものですけど、暖かい目で見守って下さい。
次回は本編です。
多分……