寒い冬が過ぎ、心地の良い春が過ぎ、憎らしい程に暑い夏が幻想郷きた。
夏、と言えば俺たちの間ではもはや必ず行くと言っても過言ではない所がある。
お察しの通り、太陽の花畑だ。
とおおおおおおおおおおおおおおっても、残念なことに文は仕事で来ることはできなかったが、嬉しいことに幽香がお茶を淹れてくれるというので、外でお茶をすることになった。
少し小高い所に机と日陰を作るための大き目の傘を置き、向日葵をよく見渡せるようにセットする。
そうやって、少し汗をかくような仕事をした後に幽香が淹れてくれたよく冷えた麦茶は美味しい。
どうやら幽香、普段は紅茶などを嗜んでいるようなのだが、緑茶や麦茶なども普通に飲むらしく、今回はこの絶景とともにいろいろなお茶をだしてくれるとのこと。
いやあ、ありがたいね。ただ眺めるだけでも癒されるのに、こんなにサービスまでしてくれるなんて、もうすっかり知り合いから友達くらいにはなったんじゃないだろうか?
まあ、ツッコミをやらせまくったんだし、今更なのかもしれないけど。
「ありがとうな、幽香。今回はお茶まで淹れて貰っちゃて、お礼できることがあったら今度させてくれ」
「あら、別にいいわよ。ここまで机と椅子、傘まで運んで貰ったんだからこれぐらいは普通にしてあげるわよ」
「ああ、その好意ありがたく受けとっておくよ」
なんだろう、今回は幽香が妙に優しい。
でも、本来はこっちが素の性格なのかもしれないな。俺と幽香は俺がここに通うようになるまで幽香が俺の事を敵対視していたから、厳しい態度をとっていたのだろう。
「それに私あなたとお話をしてみたかったの」
「ん?話?」
幽香がお茶を淹れながら言う。
お話ね…
全く幽香が何を話したいのか想像がつかないが、とりあえず聞いてみるか。
「ふーん、で、何を話すんだ?」
幽香はこの問いに即答する。
「ねえ、天鴎?あなたはどうやって強くなったの?」
「さっそく質問か」
にしても、また答えにくい質問を…
「ひたすら修行……かな?」
マジで、本当にこれしかない。
幽香がどういう意図でこの質問をしてきたのかは知らないが、もっと具体的に言って貰わないと幽香が望んでいる物は答えられない。
「随分と大雑把ね…」
「仕方がないだろ四六時中鍛錬鍛錬、そしてそれを試す為の実戦、それをひたすら繰り返す、シンプルで簡単で分かりやすい事しかしてないんだから?」
「本当にそれだけとは考え難いわね」
「じゃあ、これ以上なにを言えばいいんだよ、せめてもっと具体的に質問してくれ」
「なら、精神的にはどうだったのよ?なにか精神的主柱がないとそこまで修行を続けられないでしょう?」
精神的にね~、まあ、俺はずっと罪悪感だけで動いていたからな。
珍しいだろうし、参考にもならないだろう。
復讐心でもなければ誰かを守るためでもない。父親や母親の家族に対しての罪悪感に突き動かされ刀を振り回していたのだ。
幽香からすれば信じがたい事だろうが、だからと言ってここで嘘を言っても何もならないし、他に特に気の利いた事も言えない。
「俺の場合は罪悪感が一番の行動理由だったな」
「罪悪感?」
「そう、俺の犯した過ちを償う為の贖罪、それをする為の方法が全く分からなくて、罪悪感だけが積もって、どうしようもならなくなって、修行だけにすがっていたよ」
「それは…本当?」
「ああ、紛れもなく本当だが?」
俺の言葉を聞いて幽香は驚いたような表情を見せる。
まあ、幽香が強くなった理由は俺よりももっとまともなのだろう。
花畑とかも守る必要があっただろうからな。
「どうだ?おかしいだろ?」
幽香はその言葉に少し考える顔をしていたが、すぐに答える。
「いえ、おかしいというより、意外、という言葉が正しいわ」
「意外?」
「そう、意外だったわ。鞍馬天狗ってもっと仲間意識が強いと思っていたから、何かを守るためとかが理由だと、それに以外と似てると思ってね」
痛いよ、そこ突かれると滅茶苦茶痛いよ、俺の心が。
しかたがないじゃん、俺不貞腐れて不良少年だったからよ、里の皆とちょっと価値観違うんだよ。皆と違う修行しかしてこなかったから皆といる時間も作れなかったんだよ。
あれ?けどなんか似てるって言われたな?何が似てるんだろう?
「以外と似てるって、何が似てるんだ?」
「私が強くなった理由よ」
「強くなった理由?」
「私も強くなった理由なんてものはまともじゃなかったわ。罪悪感が原動力になっていた訳ではないけど、何かを守るためでも、誰かに復讐するためでもなかったは、そういう点では似ているっていうことよ」
「じゃあ、何がお前の原動力だったんだ」
幽香は少し考えるように頭を傾げる、そしてこちらを見つめる。
次の言葉は唐突に出てきた。
「本能よ」
へ?…本能?
そりゃあ、またあ…なんというか、突飛というか、なんというか、俺たちに似てるな!!……なんて口が裂けても言えない。俺が問答無用でボコられるだろう。
「あら?驚いて声もでないかしら?」
「え?いや、なんとも返事がしにくい理由だなって」
「別に何を言っても怒らないわよ」
え?本当に?
前に二つ名をいじった時は滅茶苦茶怒ってたじゃないの。
大丈夫かなあ?怒らないかなあ?まあ本人がいいって言ってるんだし、大丈夫だよなあ?遠慮なく、言っちゃうよ?
「俺たちにてるな、俺たちも本能で動くしな」
「ふふ、そうね、その通りよ。私もあなた達と同じ戦闘本能で動いてるわ」
……え?戦闘本能?
……え?戦闘本能?
……え?にかい二回言っちゃったよ?幽香が戦闘本能で動く理由が全く分かんないんだけど?
「戦闘本能で動いてるの?他の原因があるんじゃないの?花妖怪なんだから、花を守るっていう本能もあるだろ」
「最初はそうだったかもしれないわ、けど今はもう戦闘に愉しみしかないわ」
「花を見る趣味があるのに?楽しみは他にもあるだろう?」
「あら、天鴎?あなたは私をどう見ているのかしら?」
「たくさん趣味があって意外と充実した生活をしてそうにみえる」
「ふふふ、私はあなたから見て随分と幸せそうに見えているのね?けど残念、私はあなたが思っている以上に心は空っぽなのよ?」
「空っぽ?ならなんで花なんか愛でているんだ?」
「花?ああ、あの子たちも私の本能を満たしてくれる道具にすぎない、あなたが私の趣味と言っているものはなんの中身もない空虚なものよ?」
なんだ?幽香は一体俺に何を求めている?
「幽香は一体俺に何を言って欲しいんだ?お前は何を得たいんだ?」
「…得たいもの?そうねえ?私はあなたと闘って、何か感じた事のないものを感じた。あなたと闘って私の未知の部分に触れる事ができた?私はそれを知りたい、私はそれを得たい」
背中に嫌な汗が流れる。
「だから天鴎?分かるでしょ?私が今から何をして、私は今から何をあなたに望むのか?」
ああ、なんとなくだか、理解してきてるよ…
「私が何かを得る時なんて一つしかないわ?戦う時よ」
刹那、幽香の腕が跳ね上がりその手に持っていた日傘を眼前に突きつける。
「落ちなさい」
次の瞬間日傘の先に極光が奔る。
俺はこの一連の動作がいきなり過ぎて反応できない。
「マスタースパーク」
回避行動は、無理っ!!防ぐしか、ない!!
俺がそう覚悟した瞬間、目の前が光で覆われる。
「ぬっ!くうっ!?」
幽香の放つレーザーの圧倒的質量によって吹っ飛ばされる。
だが、俺も腕を交差させ、体に妖力を流し、ダメージを受け流す。
「あら?耐えきったようね」
まあ、かなり驚かされたけど、ダメージを最小限に抑え込んだ。
「ああ、これくらい対処できる」
「そうみたいね、あなたようやく妖力を使ってくれたみたいだしね」
へえ、幽香、気づいてたんだ。
「あなた、前闘った時、妖力を一切使っていなかったでしょう?」
「ああ、そうだよ、ご名答」
「まあ、しかたがないわ、私が弱かったのがいけないもの。けど、覚悟しなさい、今の私は前回の私とは全く、違うわよ?」
そう言うと、幽香が圧倒的速度で踏み込んでくる。
「チイッ!」
俺は腰を落とし、しっかりと地面を踏み、幽香を迎え撃つ。
「舐めない方がいいわよ?天鴎」
刹那、幽香が視界から消えた?いや違う!左右に体を振ったんだ、そのせいで視界から消えた。
どっちだ?右か?左から来るのか?
右から動く気配を感じる、俺はそちらに視線を向ける。
「なっ!」
しかし、それは幽香ではなく多くの蔦が絡まり巨大になった植物の拳だった。
俺がそれを認識すると同時に左からも動く気配を感じる。
しかし、この妖力の気配からして幽香なのは確実。
認識してしまえば、対処は容易い。
「そこっ!」
迫ってきている幽香には視線を向けずに肘打ちを放ち、体勢がずれた勢いを利用して蔦に蹴りを放つ。
「なっ!?」
この感覚は?蔦!?
後ろから迫ってきていると思っていた者は、幽香じゃなくて人型にした蔦だったんだ。それに大量の幽香の妖力を込めて俺の認識を欺いた。
なら、幽香本体はどこから来るんだ!?
「上よ」
その言葉と同時に上を見る。
そこには、日傘を振り下ろした幽香の姿があった。
ガンッ!!
「やっと、私が有利な形で一撃をお見舞いすることができたわね」
俺は幽香の日傘を頭で受け止めることしかできなかった。
「出し惜しみはなしよ?天鴎。あなたの妖力の限界はこれぐらいじゃないでしょ?」
ああ、久しぶりだよ、こんなに綺麗に一撃をいれられたのは、こんなんじゃ、こんなんじゃ
「せいぜい私を、楽しませなさい」
嗚呼、なんて最高なんだ…
滾ってきちゃうじゃないか
刹那、目の前が爆発した。
そう錯覚するほどの圧力が幽香を襲う。
風圧が自身の頬をきる。遥か彼方まで駆け抜けていく。
それほどまでに凄まじい存在感が、天鴎にはあった。
風が通り過ぎると、そこにはそれらを放っていたとは思えない程落ち着いた天鴎が立っていた。
あれほど凄まじかった妖力を感じ取れない程に穏やかだ。
けど、幽香には分かる。あの体の中には、圧縮された莫大な妖力がその体に力をかしていると。
天鴎も幽香も、笑った。両者の実力を理解して、笑った。自信に満足を与えてくれると、笑った。
二人がこの余韻を楽しみ終えたのなら、また始まるのだろう…
修羅の、戦いが
東方鞍馬録を書き始めてはや一年以上が過ぎていました。作者は最早この話の初期の頃のテンションを忘れており、どんな設定を追加しているのかもうる覚えです。それぐらい時間が経っているのに今までこのお話しを読んでくれている方々ありがとうございます。
未だに霊夢がいる時間軸にも入れていませんが、これからも末永くお願いします。