東方鞍馬録   作:Etsuki

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また期間が空きました。書きたくなったから書いた感じの話です。


先代巫女と神隠し

 幻想郷の東の端にある神社、博麗神社。何を祭っているのかも分からないそこには博麗の巫女と呼ばれる者が住んでいる。

 

 今代の博麗の巫女は博麗現霊。

 人里の者たちからも慕われている人格者だ。

 

 そんな現霊の元に最近人里で起きたとある事件の情報が届いていた。

 

 曰く、最近里の人間が神隠しにあっていると。

 

「はあ、最近は何事もなく平和だったのにねぇ」

 

 現霊は遠くをみながらそう呟く。

 

「あの大賢者様からは鞍馬の天狗には気をつけなさいと言われていたけど特に何かをするわけではないし、気になることも無かったんだけどねぇ、まあ文句を言っても仕方がないか」

 

 そう言い現霊は体を伸ばし、体の調子を整えていく。

 

「さてと、久々の異変だ、気を引き締めないとね」

 

 そういうと共に彼女は人里へと歩きだした。

 

 ◼️

 

「なあ、最近変わった事はないかい?」

 

 この質問を投げかけるのも何度目だろうか?

 神隠しの異変の解決に動きだしたはいいが全くと言って手がかりを掴むことができない。

 そもそも原因が分かっていれば神隠しにあうことなんてないだろう。原因が分からないからこそ神隠しなのだから。

 

「はあ、これはなかなかに厄介だなぁ」

 

 現霊は茶屋で一息つきながらため息を吐く。

 朝に出かけ今はもう昼過ぎ。それなりの人に聞き込みをしたがそれらしい情報を持っている者はおらず、霊力で辺りを探ってみたものの特におかしなところもない。

 

 この調子だと原因を見つけられそうにない。お手上げだ。

 

「どうした物か…」

 

 とりあえず、原因は分からないが神隠しにあった者の家族には状況を聞き出す事ができた。

 最後に神隠しにあったのは丁度一週間前。

 それに神隠しには会うのは総じて夜らしい。それだけは分かった。しかしそれだけだ。

 

 幻想郷には宵山の妖怪もいるのでその線を疑いはしたがとっくの前に封印されており今は人間一人を夜の暗闇の中でとはいえ一つの痕跡も残す事なく消すのは不可能だ。それにやつの性格的にそんな真似をする事はないだろう。

 

 ううむ、では他に誰がやりそうか?

 現霊が答えのでない考えに浸っていると子供の声が聞こえてくる。

 

「あ、現霊の姉さんだ!!」

「本当だ!!」

「こんなところで何してるの?遊ぼ遊ぼ!!」

 

 現霊はそんなふうにはしゃぐ子供に一瞬のうちに囲まれてしまった。

 

「しまったなぁ」

 

 現霊は思わず額に手を当てた。

 こう囲まれてしまっては抜け出す事も振り切る事も困難だ。それに何より次回あった時に子供たちが拗ねており対応がとんでもなく面倒くさくなる。

 現霊は子供たちの視界に入った時点で相手をする事が決定してしまっていたのだ。

 

「遊ぼ遊ぼー!!」

「ほらこっちこっちー!!」

 

 現霊はその席に駄賃をなんとか置き、そのまま子供たちに引っ張られるままに子供たちの遊び場に連れていかれるのであった。

 

 ◼️

 

 一頻り、子供たちと遊んだ後、一人の子供が現霊を引っ張ってあるところに連れて行ってくれた。

 ある所にはある物があった。

 現霊の腕程もあるとんでもない大きさの骨であった。

 

「ふふーん、姉ちゃんすごいでしょー」

「ああ、凄いな」

 

 そう言いながら現霊は子供の頭を撫でた。

 

 ふむ、それにしてもこれはなんの骨だろうか?

 妖怪?それとも肥大化した獣か?特にこれには邪気を感じないしこの骨一本しかないようだから特に力はないようだが。

 

「これねー丁度一週間前にここで見つけたんだー!」

 

 一週間前か丁度最後の神隠しと同時期に見つけたのか。

 

「すごく大きかったから姉ちゃんにも見せたかったんだぁ、絶対びっくりすると思って!!」

「ああそうだな、お前がこんな物を見つけれるのんて驚いたよ」

 

 とりあえず現霊は子供の気を落とさないように言葉を掛け、頭を撫でる。

 

「これは、他の子も知っているのか?」

「ううん、僕と姉ちゃんだけが知ってるよ」

 

 どうやら、この子は私にどうしてもこの事を自慢したくて他の子にも秘密にしていたらしい。その子供心が可愛くてまた頭を撫でる。

 

「このでっかーい骨がここにあるのは僕と姉ちゃんだけの秘密ね!」

「ああ、分かった、私とお前の秘密だ」

「そうだ!指切りしよう指切り」

 

 そう言って小指を前に出してくる。

 私もそれに応じた。

 

「「指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます、指切った」」

 

「アハハッ」

 

 子供は私と指切りできたことが嬉しかったのか無邪気に笑っていた。

 

 

 ◼️

 

 

「で、何の情報も得られないからとりあえず御阿礼の子である私のとこに来たと」

「まあ、そういうことだ」

 

 私はいま稗田の一族の家にお邪魔している。

 

「情報が欲しいなら鈴奈庵にでも行けばいいじゃない」

「情報がたくさんあってもその中から情報を集めるのは大変だろ、それよりかはいろいろな妖怪の情報を集めて累積してるここの方が有益な情報が出そうでね」

「幻想郷縁起を書いておられるご先祖様はまだ転生してないよ」

「知ってる」

「はあ、知ってるなら何でここに来たのやら…」

 

 そう言い今代の御阿礼の子はため息を吐く。

 

「お前さんのことだから最近起きてる神隠しの事も気になって独自に調べてると思ってね。合ってるだろ?」

 

 その言葉に御阿礼の子は嫌そうな顔をする。

 

「はあっ、合ってるよ、確かに私自身で最近起こってる神隠しに付いては調べてる。にしてもなんでアンタには簡単にバレのやら」

「これでも長い付き合いじゃないか、だいたいは分かるよ」

 

 その答えに現霊はじっとっとした目線を向けられるのだった。

 

「まあいいわ、ついてらっしゃい。とりあえず情報は共有してあげる」

「ああ、ありがとう」

 

 現霊は御阿礼の子に従い書斎へ向かった。

 

「で、随分と散らかしてるじゃないかこれは」

「失礼ね散らかしてないわよ、ただ興が乗りすぎでちょっと多く借りちゃっただけよ」

「これがちょっと?」

 

 御阿礼の子の使っている書斎はかなり散らかっているというか本がそこかしこに置いてあり、足の踏み場が全然ない。それに本もかなり積み重なっているから移動するのも一苦労だ。

 

「なぁ、これ絶対に神隠しに関係ない本も大量に借りてるだろ?」

「あら、そんな事ないわよ」

「いや、そんなことないだろ…」

 

 試しにそこら辺の本を手に取ってみる。

 『町外れの恋』そんなタイトルをしていた。

 洋物のラブロマンスだ。

 現霊はそれをみて呆れるように首を振った。

 

「大方、神隠しが何か分からなくて息抜きに読んだ本が面白くて止まらなかったとかいうパターンだろ。本当、気移りしやすいんだから」

「ちっ」

 

 御阿礼の子は現霊の前だと言うのに隠す気もなく舌打ちする。

 それに現霊は苦笑いを浮かべる。

 

「それで、何か情報は掴めたのかい?」

「全く」

 

 御阿礼の子はぶっきらぼうにそう言い放った。

 

「候補としては宵闇の妖怪とか天狗とかが状況からみて候補に挙がったけど、幻想郷縁起みてる限り違う感じがするのよね。他に確信的な情報が上がるでもないし、お手上げって感じ」

 

 御阿礼の子は椅子に深く座りながら現霊へ言葉をかける。

 現霊は御阿礼の子の発言からして当てが外れたようだ。

 

「そもそも現と幻想の境界があるこの場所で神隠しなんて起こらないって言う方が不自然だしね。境界の管理にも近い事をしてる巫女さんにそんな事言ったら失礼なんだろうけどね」

「いや、別にいいさ。だが、博麗結界が不安定になって神隠しが起こったとは考え難い。仮にもあの大賢者が携わっているんだ、そんなへまをするとは思えない」

「確かにねー」

 

 現霊からすれば八雲が関わっているとは思えないらしい。

 確かに紫は周りくどくて胡散臭い手ばっかり好む傾向にはあるが正直言って里の人間を拐っても得などなく評判を落とす結果にしかならない。動機がないと言うわけだ。

 

「だが、神隠しに合う人間は定期的に消えている。本来の神隠しは何の関連性もなく唐突に消える筈だ。けど、今は何かの法則めいた物が存在する」

「そうさなぁ、巫女様の言う通り確かにこれは何者かの思惑が働いているように感じるなぁ」

「ううむ、けど動機が全く分からない」

「ああ、不透明過ぎる」

 

 そうだ、この神隠しを行うことで得をする存在が何か分からない。

 人食い妖怪ではない。彼らは現霊が定期的に祓っているし、証拠を何一つ残さずに人を拐う事はできない。

 では他の知性の高い妖怪たちになるのだが、それこそ心当たりがない。彼らが今更人間を拐っても大した養分にもならなければその労力に見合う事もないだろう。ただ手間が掛かるだけだ。

 

 現霊は考えれば考える程どツボにハマっていく。

 

「ああ、どうしても心当たりがない、仕方がない。人里での夜の警備を密にするしかないか…」

「何?あんた今日ここに泊まってくの?」

「ああ、そのつもりでいたのだが」

「はあ、ちょっと止めてよねー」

 

 その言葉に現霊はニヤニヤとしだす。

 

「ちょっ、ちょっと何よその顔」

「いや、何やはり新婚の二人は熱々だなーっと思ってな」

「はっ!ちょっ!そんなんじゃないしっ!!」

 

 御阿礼の子は現霊に対し声を荒げるが現霊はただ微笑を浮かべて見ているのみ。

 そんな現霊に対し御阿礼の子は即行で顔が赤くなっていく。

 

「もういいわアンタなんて知らないわよ」

「すまんすまんだから機嫌を治してくれよ、私だって夜中ずっと起きてなきゃいけないんだ、流石に博麗神社まで帰るのは辛いんだよー」

「知りません」

 

 そんな風に姦しい時間は過ぎていった。

 

 

 ◼️

 

 

 夜中、人里のパトロールをしていた現霊だが、特に異常を見受けられなかったので町中を歩く事はせずに御阿礼の子の家の前で待機することにした。

 

「にしても本当に何か起こるようには思えないなぁ」

 

 現霊はそう言いながら夜空に浮かぶ満月を見つめた。

 見事な満月だ。こんな日には酒を飲みながら満月を肴にするに限る。

 

「お疲れ様、疲れてない?」

 

 そう言いながら御阿礼の子が後ろから声を掛けてくる。

 

「まだ起きていたのか」

「ええ、ちょっと気になることがあってね」

 

 そう言いながら御阿礼の子は一冊の本を持っていた。

 

「あ、あとこれ差し入れ」

「ああ、ありがとう」

 

 おにぎりが手渡された。

 シンプルな塩味だったが、丁度小腹が空いていたので助かった。

 

「それで気になることってなんだ?」

 

 現霊が御阿礼の子にそう問う。

 

「なんでも無縁塚には鬼の骨が埋まっているらしいのよ」

「それがどうした?この神隠しと関係あるようには思えないが?」

 

 現霊は唐突に出された話題に首を傾げる。

 

「いや、なんでもその鬼の骨は大元は無縁塚にあるらしいんだけど、その他の骨は各地に散らばってるらしいの」

「それで?」

「こうゆう月夜になると散らばった骨を他の弱き存在を魅了して本体の元に持ってこさせるらしい。そして骨を持ってきた存在の養分を吸い取り満月の夜に復活するっていう言い伝えがあるの」

「つまり、今まで神隠しにあった物はその鬼の骨を見つけてしまった者たちと言いたいのか?」

「ああ、その可能性は高いと踏んでいるわ」

「ありえない話じゃな……」

 

 現霊は言葉の途中で目を丸くしてしまう。

 

「どうしたの現霊?」

 

 御阿礼の子が思わず問いかける。

 だが、現霊はそれどころじゃない。

 現霊は思い出したからだ、昼間自分が子供たちに連れられてある物を見たから。

 骨だ、彼女はある子供に自分の腕程もある骨を見せられていたのだ。

 あの時は特に何の力も感じなかったから印象にもあまり残っていなかった。しかし、今思い返せばあれは鬼の骨だったのだ。

 

「ちょっと、現霊どこにいくのよー!」

 

 現霊は思わず走り出していた。

 向かうのは昼間行った子供たちの遊び場の奥、骨のあったところだ。

 そこに骨があれば杞憂で済む、しかしそこに骨がなければあの子供が魅力され骨を無縁塚に持っていったに違いない。

 あの子が何処の子かは分からない。

 だから骨が直接あるのかどうか確かめた方が早い。

 

「遅かったか…」

 

 巨大な骨はもう無くなっていた。

 そこに禍々しい妖気だけを残して。

 

「急がねば」

 

 子供が喰われてしまう。

 まだ、幼いあの子が、妖怪の毒牙にかかってしまう。

 現霊は無縁塚へと急いだ。




稗田阿求あたりの設定では転生から転生の合間に閻魔様の元で百年程支える時期があるらしいのでその設定を使って今回は稗田の一族の御阿礼の子を出すだけに留まりました。
このお話しも原作開始時に近い時期とは言えまだ霊夢も生まれてない時期なのでまだ生まれてないことになっています。
次回は現霊と元祖女難の相のあの人の絡みがあります。
筆が乗ったらまた書きますので楽しみにしててくださいねー。

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