女神転生・影【デスゲームサマナー】   作:どくいも

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8話目

さて、件のフェニックス×タムリン(誘い受け)事件から早数日。

あの後休みを挟んで、フェニックスの心の傷を癒しつつ何度か同じ異界にリベンジを繰り返した。

が、我々はタムリンに遭遇すること自体はできるものの、結局最後までタムリンを討伐することはできなかった。

理由はシンプルである。

 

『こんな侵入者に相手してられますか!私は逃げさせてもらいます!』

 

このタムリン、もはや会うたびに我々から全力で逃走したからだ。

一応相手は、あの異界の主ゆえに異界そのものから脱出するという最終手段をすることはない。

が、しかしそれでも相手は物理耐性持ちの状態異常攻撃持ち。

物理メインの自分たちでは速攻で倒すことはできず、かといって逃走を防止するには地形が悪い。

今回の討伐オフ会の期限が5日間だけということもあり、自分たちは最後までタムリンをどうすることもできずにその異界を後にすることとなったのであった。

 

『で、次はいつリベンジする?』

 

『その言葉、待ってました!!』

 

だが、我々はあきらめるつもりは毛頭もなかった。

残念ながら、自分もはかせも予定があるが故即連日異界攻略&討伐をする事はできない。

ならば、どうせ時間が空くなら、きっちり対策を練ってから再び異界攻略&タム・リンに完全勝利しようという流れになった。

具体的には、はかせは造魔のスキル構成の変更及び対策アイテムの制作を。

フェニックスははかせの助手を。

そして自分は……

 

『というわけで、ノッブちゃんはちょっくら【ムド】持ちの悪魔を仲魔にしてきてね♪』

 

『ははは、こやつめ』

 

はかせがさらっと自分に無茶ぶりをしてきたことに戦慄を覚える。

確かに、あのタム・リンは呪殺弱点があるため、もしサマナーである自分が【ムド】を持つ仲魔がいたら、おそらくあっさりとあのボスを倒せていたであろうことは否定しない。

だが、少し考えてみてほしい。

そもそも自分が【ムド(呪殺系即死)】持ちの悪魔を仲魔に入れるためには、ムド持ちの悪魔と相対せねばならないのだ。

つまり、こやつは確率で即死する呪文を持つ悪魔とゆっくり交渉してきてね♪とかのたまっているのだ。

 

『それじゃぁ、アリガトウゴジャマシター!』

 

『まぁまぁまってまって!

 まずはノッブちゃんにこの悪魔のデータを見てもらいたいんだ!』

 

こちらはその遠回しの死刑宣告から即逃げようしたが、はかせの手八丁口八丁により何とか話を聞くまでに押しとどめられてしまった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

【NAME】≪魔獣≫カタキラウワ Lv9

HP 109

MP 60

【相性】 呪殺無効 破魔弱点

【スキル】・ムド (呪殺属性 敵単体に確率で即死効果)

     ・メパトラ (味方全体の精神状態異常を回復する)

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

そして始まる無数のプレゼンとデータの数々。

こちらが地味に押し返そうとするもそれ以上の好条件のものを抜き出して誘惑してきたのであった。

 

『ほら、みてみて!

 この悪魔、タム・リン対策に最高だと思わない?

 タム・リンの魅了を解除できる回復魔法もちで、しかも呪殺によるアタッカーもできる!

 もしノッブちゃんが、この子を仲魔にできたら一気に戦闘が楽になるんじゃないかな~?

 しかも、メパトラなんて、この先一人で悪魔狩りをするときは尚更必須になるよ?』

 

それは確かに強い説得性があり……

 

『それにね!実際この悪魔が出る異界なんだけど、一回博士たちは行ったことがあるんだよ!

 それでもねぇ、いざ相手すると呪殺なんて一回も当たらなかったよ。

 しかも出てくる悪魔はほとんどが【オンモラキ】っていう凶鳥の悪魔だから、ノッブちゃんの独壇場だよ!

 カタキラウワの方も対して強くないし、何より遅いからノッブちゃんなら見てからムドでも躱せると思うし』

 

かなりの好条件にも思えてくる。

 

『あ!そうだ、もしノッブちゃんが今回の依頼を受けてくれるならこの【ホムンクルス】を1つ贈呈してあげよう!

 これはね~~、持ってるだけで1回だけ【即死攻撃】を防いでくれる優れものなんだよ。

 それに今回は出血大サービス!もしノッブちゃんがカタキラウワを一定数以上討伐したら【呪殺対策防具】をプレゼントしてあげよう!

 どう、これでカタキラウワ討伐したくなったんじゃない?

 え?なら討伐前に渡してくれ?そういうわけにいかない事情がこっちのもあるんだよ、察して』

 

そして、もし依頼を受けてくれるならと提示されたうまい報酬の数々。

 

『……さて、で、結局ノッブちゃんはどうする?

 この先一生呪殺持ち悪魔におびえて尻尾まくって逃げ惑うか。

 それとも今ここで勇気を出して、保険ありありの状態で討伐依頼をこなして【呪殺対策】を手に入れるか!

 道は二つに一つ!

 なんといまなら、アイテムドロップ率アップアプリと異界のゲートサーチまでついてくる!

 さぁ、やる?やらない?どっち!!』

 

『あ、でも冷静に考えたら、【ホムンクルス】を無料でプレゼントはやり過ぎかぁ。

 原価もちょっとした外車ぐらいはするし、手間賃も考えてやっぱりここは有料で……』

 

『やります』

 

かくして、自分はまんまと乗せられる形で〈新宿西口公園・異界の調査依頼〉というなの片耳豚(カタキラウワ)討伐及び勧誘依頼を受ける羽目になった。

なお、依頼とは言うもののカタキラウワを絶対に討伐と勧誘をしなければならないという重い依頼なわけではない。

最低限新宿西口公園にある異界に実際に行ってくるだけでよく、博士的には自分が渡したCOMPアプリの調子を確かめてほしいというのが本音とのことだ。

で、現在、自分はさっさと業魔殿での依頼&現金収入と回復を済ませ、新宿駅へ移動。

現地で沖田さんと合流して、新宿西口公園の異界に侵入していく。

なお、はかせとフェニックスはアイテム制作の準備とやらで不参加である。

色々と納得がいかない。

 

「大丈夫です!ノッブは大船に乗ったつもりでど~~んと構えてください!

 あ、最悪私は【地返しの玉】さえあればムドによる瀕死からは後遺症なしで蘇生できますので。

 検証はしてませんが、両足吹っ飛ばされても4分以内くらいなら、欠損なしノーペナルティで蘇生できるそうですよ?」

 

色々と心強いのかブラックジョークのつもりなのかわからない発言はやめていただきたい。

しかし、こちらとしても沖田さんの強さはこの間の異界探索でよくわかっているし、ついてきてくれるならありがたいことこの上ない。

改めて2人ではかせから渡された異界情報について確認し、ゲートサーチを使用してさっそく新宿西口公園内の異界へと侵入。

そして、件の悪魔を頑張って探す予定であった。

あったのであったが………

 

「ピギィィィィ!!ピギィィィィ!!!」

 

あっさりと目的の悪魔は見つかってしまった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

【NAME】≪魔獣≫〈フードな〉カタキラウワ Lv1

HP 70

MP 34

【相性】 呪殺無効 物理・火炎・氷結・電撃・衝撃・破魔弱点

【スキル】・バウンスクロー 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「弱い」

 

「弱い(確信)」

 

「物理弱点とか、最弱の極みか」

 

「ヒャッハー!!これならオイラでも余裕で勝てそうだにゃ~~!!」

 

しかもなぜかその目的の悪魔である片耳豚(カタキラウワ)は異常に弱体化していたのだ。

もうそれはそれはかわいそうなほどであり、具体的にはお得意の必殺のムドを持っておらず、呪殺される心配はない。

それなのに物理弱点なせいでこちらからの攻撃は全部が一撃必殺になりえる。

その上知能も低下しており、本来喋れる悪魔だそうだがそれすらできていない。

実際にここまで弱いと普通の豚かそれ以下であり、野犬ほどにも脅威に感じない。

田舎の山道で遭遇するイノシシの方が3倍くらいは強そうという感想が出るくらいには弱い悪魔であった。

だが、話がそれだけで終わらないのが今回の困ったところである。

 

 

「ピギィィィィ!!ピギィィィィ!!!」

 

「ブギィィィィ!!フギィィィィ!!!」

「チョッケェェ!!プリィィィィ!!!」

「ピギィィィィ!!ピギィィィィ!!!」

 

◆軍勢〈カタキラウワの群れ〉が現れた!

 

「………なんなのよ、この数!!一体この豚どもは何匹いるの!!!

 こら、近づくなっ!!も~~!!弱いだけのくせにっ!!」

 

「げっ、この豚たち、何匹倒しても全然マグネタイトもマッカもスッカスカだ。

 ……もしかして、これ、下手に仲魔に戦わせるとせっかく貯めたマグがむしろ無駄になる……?」

 

「というか、沖田さん的にもこれ以上は刀がボロボロになるから、色々とげんなりなのですが」

 

「ふっ、みんな情けないにゃ!

 ここはオイラがババーンと活躍して、あの豚どもをマルカジリに……

ギニャー!!!ふ、袋にするのはやめるにゃ!そこは弱点でっ、あべしっ!!」

 

5匹以上のカタキラウワに囲んで蹄で殴られているカブソを管に回収しつつ、今改めて相手している悪魔たちの様子を見る。

この眼前に広がるは無数の子豚悪魔の黒い絨毯。

そう、このカタキワウラ、なんと当初のデータよりも弱体化している代わりにとんでもない数で群れて行動していたのである。

3匹や4匹程度の集団戦ならしたことがあるが、これほど大量に悪魔に集われるのは初めてだ。

しかもこいつら、群れの中で1匹や2匹倒したところで全然めげないし逃げもしない。

むしろ、その数匹を囮にしてその間に数で囲んで襲い掛かってこようとする始末だ。

 

「とりあえず、乱戦のダメージ覚悟であの悪魔の群れの中心に突っ込んでみるか?

 そうすれば、ダメージは受けるだろうが、適当に暴れまわるだけであの群れを四散できるかもしれないし」

 

「いえ、それはやめた方がいいと思いますよ?

 片耳豚(カタキラウワ)は伝承では、股の間をくぐるとその人間から魂を奪って殺すそうですし」

 

「え、それじゃぁ、やけにこいつらがさっきからこっちに向かって突進してくるのは……」

 

「……ムドは持っていないため、即死はしませんよ、多分」

 

ムドを持っていない悪魔でも本当に呪殺できるかどうか、それをわが身を持って確かめる気にはなれない。

無論,仲魔の蘇生代もただではないため、カブソの囮作戦も同様である。

かくして私たちは,虎の子ファイアブレスを使って何とかこの軍勢から逃げ出したのであった。

 

 

 

「で、どうしようか。

 正直、すでに弱体化しているとはいえ何匹か標的の討伐ができたんだから,もう帰ってもいいと思うんだが」

 

現在いるのは新宿西公園異界の片隅,正確に言えば、異界の入り口近くに避難した。

行く先行く先あの黒豚悪魔の群れが待ち構えていたのでどうなることかと思ったが,どうやら異界の入り口付近には近寄れないようだ。

この情報を知れたのは僥倖であった。

 

「賛成~~!」

 

「沖田さんもさすがにムド持っていないとはいえ、カタキラウワとの連戦は嫌ですからね。

 いろんな意味で、心臓に悪いですし」

 

「オイラももう、豚にひき肉にされるのはこりごりニャ」

 

でもまぁだからと言って,これ以上あの悪魔と関わるのは仲魔も沖田さんのどちらも嫌だそうだ。

そりゃそうだ、あれらは数は多くてめんどくさいのに経験値やドロップ、マグネタイト的な意味ではまずい。

なのに、集団戦法を仕掛けてくるという意味で半端に強いのだ。

 

「というわけで、全会一致で帰宅を宣言。

というわけでさっそく帰りまーす」

 

「まって、ちょ、ちょっとマテ!

 せめて、せめてもうちょっとだけ考えてクレ!!

 本当に、本当に困ってるから、何でもなんでも協力するカラ!」

 

しかし、この圧倒的賛成の中で1名だけ,正確には一匹だけがこれに異を唱えた。

それは紅い体に鋭い牙、4足歩行でバラの棘よりも鋭い首輪をしている2尾の大犬の姿をしたバケモノ。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

【氏名】〈妖獣〉ガルム ≪真名・只野 パスカル≫

【クラス】悪魔 

【ステータス】 Lv16

【耐性】 火炎・呪殺無効 氷結弱点

【スキル】ファイアブレス

     かみつき (物理属性 小ダメージ)

     パニックボイス (敵全体 混乱付与)

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「な、なぁ!あんた達、この異界には入れるってことは博士の友達ダロ?

 なら、友達の友達もまた友達ってことで、ここはひとつ助けると思ッテ!!

 あの豚どもの間引きに協力してくれ!!」

 

彼こそが俗にいう悪魔PCこと〈純悪魔系プレイヤー〉の〈妖獣〉ガルムである。

このガルムと出会ったのはつい先ほど、共に同じカタキラウワの群れから逃げている途中で合流したのだ。

なお、彼はかつてここを博士と一緒に攻略した仲間の一人であり、その時ここにいる異界の主を共にぶっ殺して、その日以降この異界を拠点にして行動しているPCだそうだ。

純悪魔プレイヤーの特徴として、人間界で行動するには少なくないマグネタイトを消費しなければならないという制約がある。

そのため、彼は日頃はこの異界でDDS(S)掲示板のオフ会に参加して暇をつぶしつつ、その辺にいる豚や鳥の悪魔をマルカジリ。

そういうある意味では食っちゃね生活をしつつつい先日までこの異界内で自堕落生活をしていたそうな。

 

「ついこの間までこの異界はごく普通の片耳豚(カタキラウワ)陰摩羅鬼(オンモラキ)しかいない異界だったノダ!

 でも、あのように片耳豚(カタキラウワ)が弱体化の反動か群れてしまってからは、むしろ物理攻撃がメインとなって思うように狩ることすらできなくなってしマッタ!

 このままだと俺は餓死するか、あの豚たちに撲殺されてしマウ!

 だから、どうか、どうか!同じPC仲魔の命を助けると思っテナ?」

 

「無理無理。あんなのがうじゃうじゃいる時点でここからの引っ越しをお勧めしますよ~」

 

「で、でも……そうだ!礼なら、礼なら何でも弾むカラ!!!

 なんと今ならこのスキルカード詰め合わせをやロウ!!

 はかせに100万で売ってと言われても拒否したレアものだゾ!」

 

「いや、俺たちにそんなの渡されも使い道ないし。

 それに表業界だと100万なんて雑魚悪魔2、3匹分の討伐報酬だから」

 

「なにそれノッブ、私そんなこと聞いてないんですけど」

 

無論、彼の苦悩はわかる。

が、それでも友達の友達だからと言って素直に言うことを聞いてやる必要もないし、なにより命の危険があるので絶対にNOである。

それゆえ、このまま彼を無視して、この異界から帰ろうとしたのだが……

 

「クゥ~~ン、クゥ~~ン!!」

 

「おい、ついにこいつか弱い犬真似なんてし始めやがったぞ」

 

「しかも、ビジュアルが地獄の犬みたいだから微塵のかわいさも感じないのがやばいですね。

 って!こら!本当に犬みたいに、袖にかみつかないでください!!」

 

だが、彼の諦めの悪さは尋常ではなく、このままでは異界の外までついてきそうな勢いであった。

そのため、後一回実験に付き合ってもらえるならという条件であの軍勢悪魔の群れの討伐に付き合う羽目になったのであった。

 

「本当に、本当に1ッ回だけだからな?

 しかも、だいぶ無茶なことするからな?」

 

「オオ!あ、ありがたい……ありがタイ!!

 感謝、感謝……!!」

 

「む~~、ノッブがそういうなら特別沖田さんもあと1回だけ付き合いますが……

 なにか、勝算でもあるんですか?」

 

「いや、せっかく沖田さんが自分のことをノッブノッブ言うんだから。

 せっかくならそれらしくやってみようかなって」

 

 

 

 

そして数時間後、そこには火の海になった新宿西口公園異界の姿が!!

 

「ヒャッハ~~~~!!!!汚物は消毒だ~~!!!!」

 

「ぴぎぃ、ピぎィィィィィィ!!!!」

 

「おらおら!!燃えろ燃えろ!!悪魔は霧に、豚は焼き豚に!!!」

 

無数に飛び交う火炎瓶に、響き渡る豚どもの悲鳴。

 

「こ、これ、本当にこんなことしていいんでしょうか?

 い、いや、相手は悪魔でここは異界だからいいんでしょうが……それでも……」

 

困惑する沖田さん。

 

「グエッグエッグエッ!!!

 よくもさっきはこのオレサマをぼこぼこにしてくれたな、このミニ豚ドモ!!

 オラッ!!我が段ボールハウスを壊してくれた礼に貴様らを生きたままマルカジリにしてヤロウ!!」

 

嬉々として火の海に突っ込み、豚の集団をかみ殺していく只野ガルム。

 

「ねぇ、凪凪~!

 またこの【ポリタンク】?ていうのが空になったから、お替りお願い♪」

 

異界内の空を飛び、豚の群れに大量の灯油をばらまくモーショボー。

 

「うにゃ~~!!!お、おいらにも火が移った!!

 え?た、確かに火炎耐性は持ってるけど、熱いものは熱いんだニャ!!

 だ、だから回復プリーズ!」

 

火つけ係の少なさと火炎耐性もちゆえに、マッチで灯油に火をつける役になったカブソ。

結局、あの後色々考えたが、あの軍勢相手にまともにかち合うのは悪手だという結論に至った。

範囲攻撃もMP不足ゆえに連発はできないし近接戦も色々とリスキーである、ならばどうするか?

簡単だ、足りないMPや範囲攻撃は外部(ガソリンスタンド)から補えばいい。

かくして思い付きで、焼き討ち作戦を決行してみたが、これが思ったよりもうまくいったのであった。

勝因はガルムのCOMPバックがスカスカであったことと十分な貯金とモーショボーの飛行能力。

念のためと100ℓ以上の灯油を用意したが、この調子だとむしろやや足りなくなるかもしれない。

だが、使い切るころには十分あの豚たちを懲らしめることはできるだろう。

 

「うむ!やはり、焼き討ちは心地よい!

 強敵悪魔と戦うには頭を使うのが一番だってよくわかるんだね!

 それでは、追加の爆炎の術(ファイアブレス)をくらえぃ!」

 

「い、いや、これ、沖田さんの知ってる頭脳戦とはちがう!

 でも、本能寺ファイアーって手段がノッブっぽくて非常にいいかも……あ、クエスト報酬来ました」

 

「お、オレモ」

 

「やった、こっちも……よしっ!新しい封魔管だ!」

 

かくして、自分たちは〈知恵〉と〈勇気〉をふんだんに活用したことによりガルムからの依頼及びはかせの依頼を完了。

それに、さすがに焼き討ち殺法でいっぺんにこの量の片耳豚(カタキラウワ)を倒せれば、マグネタイトや戦利品もそれなりに手に入る。

さらに『フォルマサーチ』のおかげで用途不明のアイテムも無数に手に入った。

おかげで〈クエスト・悪魔100体討伐達成〉をこなせ、管も手に入ったことも考えれば今回の異界探索はおおむね大成功といえるだろう。

さらに言えば、カブソのレベルも1つ上がった、せっかくだから新しい特技の一つでも覚えてくれるとよいのだが。

 

「……って、にゃにゃ!にゃにゃにゃ!!」

 

そんなことを考えていると、討伐最後らへんで突然カブソの様子がおかしくなった。

どうしたのであろうか、もしかして発情期?悪魔なのにそんな馬鹿な。

そんなあほなことを考えていると、横にいる沖田さんが補足をしてくれた

 

「あ!もしかしてこれって、悪魔の【変異】とか【ハイレベルアップ】ってやつじゃないですか?

 あれですよ、ピクシーがハイピクシーになったり、エンジェルがパワーに進化するあれですよ」

 

「あ~~、あれか。

 確かにCOMPにも変化を見守りますか?とかでてるな。

 ……カブソって変異すると何になるんだ?

 まぁ、強くなるならいいか」

 

某国民的育成RPGよろしく謎の光を放つカブソを眺めつつ、特に深いことを考えずにCOMPの画面の〈変化を見届けますか〉の選択肢に【はい】を選択した。

 

「ふにゃぁぁぁぁぁ!!!!

 来た来た来た来たぁァァぁ!!!!!」

 

そうして、限界まで輝くカブソ。

光りながらも姿が変わり、元の枕程度のサイズのそれが膨らんでいき、輪郭に変化が起きる。

伸びる四肢に長い手足。

その身にまとう雰囲気は猫っぽさは残ってはいるが、その体は人の女性のそれ。

暗くてもよく見える光る目に猫のような長いしっぽ。

そう、それはまさしく日本に存在する猫の悪魔の代表。

美しい容姿で人を狂わせるその悪魔の名前は……

 

 

 

「ふぇふぇふぇっ……!!

 わしは〈天女〉【センリ】。

 生まれ変わった儂の姿はどうじゃい?

 姿が変わったが、本質は変わらん、コンゴトモヨロシクニャ」

 

「きもい」

 

「きもっ!」

 

「コレハヒドイ」

 

「……リアル八頭身?」

 

なんとそこにいたのは、悪い意味での猫女人(非猫娘)の悪魔。

顔は猫のままであり全身の獣成分がかなり高いのに、無理に人間と同じ体格を持った様子の笠を被った猫の化け物。

〈センリ〉に変わった元カブソの姿がそこにはあった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

【NAME】≪天女≫<変化下手な>センリ Lv19

HP 200

MP 127

【相性】 衝撃耐性 電撃・呪殺弱点

【スキル】・ひっかき

     ・麻痺ひっかき

     ・道具の知恵・癒

     ・リカーム (対象の死亡〈瀕死〉状態を回復)

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「……うん、取り合えず強いのはよくわかった。

 20レベル以下なのに蘇生魔法覚えたのもちょっと驚いた。

 ……それでもね、うん、なんだ、その、みんな帰るぞ~~」

 

「は~~い、お疲れさんでした~」

 

「ふぇ、ふぇ、ふぇふぇっ?

 にゃ、ニャんじゃその反応は?

 そこは普通に強くなったねとか、おお美しいとかそういう言葉はなしにゃのかえ!?

 センリって、すごい悪魔なんにゃぞ?【ネコまた】のさらに上でこの妖艶さは数多の男を骨抜きにするんにゃぞ?」

 

せっかく見ないふりをしてやったのに、この元カブソ現人猫妖怪はしきりにこちらに感想を求めてくる。

どうやら悪魔と人間の間には決定的な美的センスの違いがるようだ。

でなければこのケモ率80%のネコオババ(非猫お姉さん)は自身が人間の男にメチャモテル姿だと本気でいうわけがない。

けど、はっきり言ってその姿はいろんな意味で一般男子向けではないぞ。

 

「イヤ、流石に犬畜生に堕ちたオレでもいろんな意味でノーサンキューダ」

 

「私も、ちょっと女悪魔として同類扱いはいやかなぁって」

 

「にゃ、にゃぜ!!」

 

モーショボーもPCガルムも自分と同じく、こいつの見た目はNGだったようだ。

あの見た目のキモさは人魔共通、単にこの〈変化下手な〉センリがことさらにきもいだけ。

もしかしたら、この〈変化下手〉の称号が悪さしているだけで【センリ】という悪魔種族そのものは美猫娘揃いなのかもしれない。

が、それでもこのリアル8頭身猫人型がきもいという事実は変わらないだろう。

しかも半端にレベルが上がったせいで、出している消費マグネタイトも2倍以上に増えている。

 

「そういえば、管も新しいのが手に入ったことだし、悪魔合体そろそろやってみたかったんだよ。

 うん、いろんな意味で丁度良かったと思うことにしよう」

 

「え、なにそれ、ちょっと聞いてないんにゃが」

 

「私も賛せ~~い!!

 同じ仲魔(仲間)的にも、一緒に戦うのがこれっていうのはちょっといろいろ堪えられないし。

 というか……うん!せめて、どっちかにふりきってほしいな!」

 

「沖田さんも残念ながらこれは擁護できませんね。

 というか、元カブソのセンリさん、なんか無駄にくねくね動かないでください。

 ただのネコの時は問題ありませんでしたが、今の容姿でやられるのはいろんな意味で目に毒です」

 

「ふぁふぁっ!!

 ちょ、ちょっと、にゃっと上位のネコ悪魔になれたのに!!

 それなのにいきなり悪魔合体はさすがにやめ……やめ、やめっアーーーッ!!」

 

嫌がるセンリを無理やり管へと戻して、ガルムからのお礼を受けとりつつ我々は新宿西口公園異界を後にしたのであった。

 

 

 

「ところで、【ムド】持ち悪魔の勧誘とタム・リン対策は?」

 

「あ」




※なお、今回出てこなかった方の公園にいたはずの悪魔

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【NAME】≪凶鳥≫オンモラキ Lv5
HP 98
MP 59
【相性】 銃・氷結弱点
【スキル】 アギ (火炎属性 小ダメージ)
      一部の魔脈 (MPの最大値を10%アップさせる)

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





★おまけ リクエスト:大雑把な蘇生や悪魔や異能者とサマナーの違いについて
(大体独自設定なので、興味ない人は読み飛ばしてください)

女神転生世界では無数の蘇生アイテムがありますが、〈この作品〉ではそれぞれには大雑把な蘇生制限があります。
ストーリー的に言うなら、【魂が冥界から帰ってこれなくなるまでの時間制限】が。
ゲーム的には【種族による自然回復速度の優劣及び蘇生制限時間】があるというものです。

大雑把な蘇生指標としては【バスター】>【悪魔】>【サマナー】となっています。

これらの違いはゲーム的に言えばわかりやすく言えばこのPC達は隠しパラメータとして【スタミナ】というステータスがあると考えてください。
【スタミナ】が高いほど【平時でのHPMP回復速度】及び【蘇生しやすさ】【不眠不休活動の限界時間】が伸びる。
【バスター】や【悪魔】はそれらのステータスがはじめから高い分、代わりに悪魔をなかなか仲魔にすることはできない。
代わりに【サマナー】ははじめから仲魔を作ることができるけど、【スタミナ】のステータスが低いという大きなハンデを背負っています。

それと、レベルが上がるごとにスタミナも上昇するので高レベルPCほど無茶な蘇生も容赦なく行えますし、サマナーであっても高レベルであれば蘇生魔法の恩恵をあずかることができます。

無論、これ以外にも【死んだらオートで蘇生する】能力を持つバスターや【蘇生術に詳しい悪魔による蘇生】【肉体損傷度が50%以上ならバスターよりも悪魔の蘇生率の方が高くなる】などまたいろいろと話が変わってくる上抜け道や例外もたくさんあるのであしからず。





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