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【凶鳥】モーショボーは、少女の姿をした悪魔である。
より正確に言うなら、愛を知らぬまま死んでしまった少女の霊がなるといわれる悪しき鳥の姿をした悪魔。
このかわいらしい姿もあくまで囮、その本質は旅人を誘惑し、隙を見せるとくちばしで頭をつつき、穴をあけ、脳みそを吸い取るという残虐行為をするためのものである。
さて、そのモーショボーの中でも彼女、〈おませな〉モーショボーには夢があった。
辺りのモーショボー仲間が、いかに人間の脳をむさぼるか、そもそも人間とは何なのか、そんな低俗な話をしているころ、彼女はすでに心の奥底には一つの夢があった。
そう、彼女は【恋】をしたかった。
それも同じ悪魔やケダモノ相手ではない、人間にあって恋したい。
彼女は周りの友が妖虫系悪魔の効率的な殺し方を模索しているときに、別の女妖精(ピクシーちゃん)から人間との恋愛のすばらしさについて聞いていた。
周りの友がバカな男悪魔を囲んで棒でたたいている時に、別の女悪魔(リリムさん)から男と女の駆け引きなるものを聞いて赤面していた。
かくして彼女は、どんどん周囲のモーショボー仲間からはぐれる代わりに彼女はほかのモーショボーとは違う思想、つまりアイデンティティ、個性である〈おませ〉を得ることとなった。
そんな彼女がもはや自分の古巣である群れから離れることに何も躊躇がなくなったころに彼女は決心した。
「そうだ、人間界にいこう。」
そう決心すると彼女は早かった。
自分のいる場所から最も人間界に近いとされる異界へ出向き、マグネタイトがたまるまで潜伏する。
そして、人間界と魔界がつながるとき、又はこの異界に来れるほどの人間が来たとき、その人間と恋人になるのだ。
そう、これは完璧な作戦のはずであった。
残念ながら、自分のいけた異界がじめじめした薄暗い雰囲気であるが、それでも人間といずれ恋できると思えば安いものだ。
ここにいる遠縁の同胞たちは知能は低いが害はなく、唯一自分を攻撃するのはあの毛むくじゃらの1匹のみ。
幸いそいつはうすのろで空を飛べないため、自分は安全。
それにいつか自分を迎えに来る王子さま的にはあれぐらいは倒せるくらいの人であってほしい。
「さぁ、まっててね♪未来の私の王子様♪
いつか私を迎えに来て、もしくは私が迎えに行くから♪」
……なんて、考えていた時期が彼女にもありました。
「おらっ!!さっさと私の仲魔になれ!!
今すぐ仲魔になるんだよぉ!!!」
「おうおう!姉御が優しく言ってる間にさっさと仲魔になるにゃ!
もし断ったらどうなるか……わかってるかにゃ?」
「い~~や~~~~!!
絶対に嫌!!!私には夢があるの!!!だから、私は、絶対にあんたたちの仲魔なんかにはならない!!」
そう、彼女は絶賛ピンチに陥っていた。
淡い恋へのあこがれを抱いた純情悪魔少女は、現在邪悪なサマナーによってとらえられ、縄でしばれられ脅されていた。
ゴウランガ!何たるヒレツメイタ事か。
おおブッタよ!眠っておられるのですか!
「にゃ~~に~~?
姉御が下手に出れば、調子に乗りやがって!
ちょっとまた痛い目を見たいようだニャ!」
猫のような姿をした悪魔が爪を研ぎながらモーショボーへと近づく。
彼女は自らの身に降りかかる暴力を予感し、思わず身をすくめる。
「まぁまて、カブソよ。
この悪魔の言うことももっともだ。
話を聞いてやろうではないか」
「え、何その差別。
オイラの時は脅し一辺倒で交渉とかなかったのに、ひどくにゃい?」
何か言いたげだったが刀に脅されてすごすご引き下がるカブソを尻目に、モーショボーは改めてそれを見た。
すらりとした長い肢体に、引き込まれるような黒い髪。
胸と顔からそれが女性であり、その目はどこかこちらを引きつけるように感じた。
「(これが……)」
そう、これが彼女のかつての友達から聞いたそれであり、またそれとは違う者。
悪魔より弱い体のはずなのに、悪魔を御するほどの力を持つ。
悪魔より少ない知識しか持たぬはずなのに、それを上回る知恵を繰り出す。
なにより、我々悪魔の食事でありながら、同時になぜか悪魔は彼らから目を離すことができない、そんな存在。
〈人間〉
その中でも特に【いろんな意味で憧れでありながら要注意】とされる【デビルサマナー】であることを彼女は瞬時に理解できた。
「……さて、で、かわいいかわいい悪魔ちゃん?
いや、〈おませな〉モーショボーちゃんとでも呼ぼうか。
君の願いは何かね?私としては君を仲魔にできるなら、多少なら融通するつもりだが」
その【デビルサマナー】はわざとらしい、身振り手振りを加えながら彼女にそう言ってきた。
だが、彼女とて悪魔、やすやすとそんな演技に騙されるつもりほど甘いつもりではない。
「……だめね!
私の夢は、あなた如きにかなえられるようなてーぞくな願いじゃないの!
あなたがあの悪名高い、でびるさまなーとか言うのだってのはわかったけど、こればっかりは無理ね!」
彼女とって悪魔の意地やらプライドやらがある。
人間に脅されたからと言って、なんでもはいはいと答える訳にはいかないのだ。
「それは誰かの命令に従ってるとか、任務だからか?
具体的には、メシアとかメシアンとかガイアとかガイアーズとか」
「そんなわけないでしょ!!
私の夢は私のものよ!!」
「それはたとえ今ここで殺されても……叶えたいほどのものか?」
その【デビルサマナー】がそう呟くと、その手に持った刀をモーショボーの首元に添える。
どうやらその【刀】はただの数打ちなんぞではない。
首に当てられただけで、まるで全身の血が凍るような寒気。
圧倒的な死の気配がそこにはあった。
「そ、それでも……よ」
それでも、モーショボーは涙目ながらにそう言いはなった。
彼女とてある程度は覚悟していた、人間界へ行った弱い悪魔の末路を、力ない悪魔が住処から出ていくその意味を。
もちろんそれはほいほい殺されて、はいそうですかといえるほどのものではない。
だが、それでも命惜しさに自分の夢を捨てるくらいなら、この身を捨てるのも惜しくない。
それぐらいの覚悟はできていたのであった。
「……」
「……(ヤッベ、ドシヨコレ、…」
「……(…ロセッ!コロセッ!ア、イヤナンデモアリマ、ニャー!!」
モーショボーはすべての覚悟を受け入れ、目をつぶりすべてを受け入れるつもりだった。
わずかに、皮膚に食い込んだ刀身が自分の最期を告げいているような気がした。
あぁ、さらばいと短き悪魔生よ、彼女の脳裏に走馬灯のような何かが流れて……
それはやってこなかった。
「……ならば、私が今からお前の夢を絶対にかなえてやる。
だから、貴様はつべこべ言わず俺のものになれ。
いいな?」
「……えっ、あっ♪は、はいっ……」
眼を開けた瞬間、首筋から離れた死の気配と、目の前にあったサマナーの真剣なまなざし。
その激しい告白と放たれる圧倒的な強いマグネタイトの波長に、悪魔モーショボーたる彼女はあっという間に魅了されてしまった。
「よっし!なんか知らんがうまくいった!
それじゃぁ、さっそくこのまま契約を……」
「ちょ、ちょっとまった!!
え、いや、違うの!!そうじゃないの!!
ちょ、ちょっとあまりにも男らしい発言に胸キュン……って違う!!」
「え~」
「え~~じゃないの!!!」
ぱっと崩れたそのサマナーの態度と表情、さらにはモーショボー自身の口から出た言葉。
どちらもそれはあまりにも予想外過ぎて、彼女は大いに困惑してしまった。
なんで自分は、思わずYESと答えてしまったのか?そして自分のこの胸の動悸はなんなのか?
もしかして不整脈?いや違う、これは……でもそんなわけがないと、モーショボーは怒涛の反論を開始した。
「そ、そもそも、わ、私は女であなたも女よ!!
そ、それなのに、私の夢(人間と恋人関係になる)を叶えるなんて!
そういう(恋人)関係になるのはおかしいのよおかしいわよ!!」
「いや、そもそも自分は(魂は)男だし。
(サマナーと仲魔の関係には)男女関係ないでしょ」
なお全然関係ないが、吊り橋効果という言葉や優しい刑事と厳しい刑事という言葉があったりなかったりする。
「ええぇぇぇ!!た、確かにそれはい、一理はあるけど、女同士でそういうのはアブノーマルだと思うの!!」
「でも、夢をかなえるのに性別は関係ないだろう?
それに(サマナーと仲魔の関係で)男だから女だからで一緒になるかならないかを決める方が不純じゃないか?」
「は、はうぅぅぅぅ!?!?」
なお、さらに関係ないが、彼女は一度もサマナーに【自分の夢=人間と恋人同士になること】だとは言ってないし、サマナーもモーショボーの夢が何かなんて知ったこっちゃない。
「モーショボー、オマエがこのまま意地を張ってもただここで犬死をするだけだ。
オマエには夢があるんだろう?それに、ここで死ぬべき物ではないのは私でもはっきりわかる。
ではどうするべきか、賢い君ならわかってるはずだ。」
「うう……でも、だって……」
モーショボーは悩んだ、とても悩んだ。
かつての友人女悪魔達(頭お花畑なピクシー&男大好き夜魔達の素敵コンビ)のアドバイス。
自分の夢、ジェンダー問題などなど、まるで1秒が無限に感じられるほど彼女は悩んだ。
なお、発端がサマナーの脅迫&麻痺ひっかきで、現在が縄で捕縛され中だったことは忘れた。
乙女の恋の前には出会いの仕方など些細な事なのである。
そして、彼女は意を決してこう言った。
「……ねぇ、サマナー。
あなたが誠意を見せてくれたら、仲魔になってあげてもいいわよ?
なに、簡単な事よ。もっと私に近づいて、この目であなたの顔を見せて頂戴?」
「……。」
「うふふふ♪
あなたもサマナーなら知ってるでしょう?
私はモーショボー、愛を知らない悲しき少女の悪霊。
ヒトの脳を食いむさぼる悪魔……そんな私でも受け入れてくれるなら……って、あ♪」
彼女のある意味では予想通り、ある意味では彼女の予想外にあっさりサマナーは彼女に近づいて、その身を縛る縄を外してくれた。
その人間から放たれるマグネタイトや美しい目は、非常に心地よいものであり、彼女の心に何かこみあげてくる。
悪魔ではない人のぬくもりのそれが、悪魔であるモーショボーの身と心にどんどんしみわたっていった。
「うふふ、ここまであっさり悪魔に近づいて、あっさり開放しちゃうなんて……
なんて危なっかしい人なのかしら?」
「なぁに、君のことを信頼してるからね」
そのサマナーのおどけながらも美しい横顔と射貫くような視線に、モーショボーの乙女回路的な何かにキュンキュン来ていた。
かつての悪魔知り合いの【惚れた方が負け】とかいう言葉がぱっと脳裏に浮かんび、変な納得が彼女の心を支配した。
……なお、人によってはサマナーの手には刀が握られ続けているため、微塵も信頼しているようには見えないかもしれない。
が、そんなものモーショボーの目には見えてい(ても/ないため)関係ないのだ。
関係ないったら関係ないのだ。
「うふふふふ……♪」
かくして、モーショボーの心は決まった。
先ほどまでは相手の人間をまるで死神のように恐ろしく感じていたのに、今ではその逆に感じていることにモーショボー自身おかしく感じて思わず笑みを浮かべてしまう。
モーショボー自身、今の自分の気持ちが嘘か本物なのかは分からない、それでも、この気持ちが本物かどうかをこの人と一緒に確かめてみたい。
そう思える程度にはすでに彼女はこの人間に惹かれていた。
かくして、彼女は意を決してこういったのであった。
「えへっ♪もう、まったくしょうがない人なんだからぁ♪
それじゃぁ、自己紹介するね?
私は〈凶鳥〉モーショボー!これから、よろし「ブモォォ!!!!ヨウヤクミツケタゾ!!!!」……」
なお、彼女の意を決した告白返しは無情な妨害を受けた模様。
「こ、こほん!
ちょっと変な妨害を受けちゃったわね!
で、でもまって!もう一回やり直すから!やり直すから!!」
もちろん、彼女とて、一世一代のセリフを言おうとしていたのでリテイクを要求した。
が、世の中はそんなに優しくないらしい。
「ブモモモォォォ!!
チビアクマ!ウルサイ!邪魔スルナラオマエカラコロスゾ!」
「もうタイムアップにゃ~~!!!
こうなったらもう戦うしかないにゃ!!!」
「っくっそ!
結局はこうなるのかよ、いくぞ!!」
なぜだかよく知らない間に、戦いが始まるムードになり、勝手に始まる戦闘。
もちろんここまで来て、このサマナーの敵になるとかそういう選択肢はすでに彼女の中にはない。
しかし、それでも自分の本気の言葉や決意をうやむやにされたこと。
憧れのシチュエーションを壊されたこと。
その他色々のもやもややいら立ちが無数に重なり……
「殺す」
この日、モーショボーは初めて、純粋な殺意が何たるかを学んだ。
その後数秒、モーショボーの魔法で異界の主たるノズチの巨体が宙を舞った。
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「≪ザン≫ッ」
「グワッー!!」【WEAK!!】
「≪ザン≫ッ」
「グワッー!!」【WEAK!!】
「一斉攻撃チャンスだにゃ!やっちゃうかにゃ?」
「→はい」
「グワッー!!グワッー!!」【大ダメージ!!】
「ッグ、バカニスルナッ!!≪マハジオ≫ォォォォ!!!≪会心波≫!!!」
「ハイ雑魚乙」【サマナーをかばいながら電撃吸収!HP回復!!】
「見てから回避余裕でした」【会心波をモーショボーをつかみながら完全回避】
「」
「≪ザン≫ッ」
「グワッー!!」【WEAK!!】 ※以下上のセリフを死ぬまで繰り返す
「ヨ、ヨモヤ、コノ龍ノオウタルオレサマガ……バカな……」
結局あの乱入からその数分後、空気の読めなかった龍王ノズチは無事、マグネタイトへと変換されるのであった。
勝因は大体モーショボーが【ザン】を覚えていたがおかげである。
2足歩行敵に足払い+弱点攻撃を続けると相手は死ぬ、実にシンプルな結果だ。
「人間~~~♪私って強いでしょ?
ほめてほめて~~♪」
「うんうん!
モーショボーは強くてかわいいな!
最高最高!」
「えへ、えへへへへへ♪
そうでしょうそうでしょう!もっと褒めてくれてもいいのよ?」
さて、なんかよくわからないうえいろいろあったが結局私ことTSイケイケ系サマナーである自分は、あの後流れでモーショボーの勧誘に成功。
そのままの流れで悪魔討伐、つまりは異界の主ノズチ討伐にも成功したのであった。
一時は自らの死を本気で覚悟していたが、終わってみればあっけないものである。
なお、カブソは死んだ。
死因はマハジオも会心波どちらも一人では防げない上、私もモーショボーも特に奴をかばうとかはしなかったからだと思われる。
戦況に影響しない戦力だったからね、仕方ないね。
いわゆるコラテラルダメージ、勝利のための致し方ない犠牲というやつである。
「……ほう!本当に倒してくれたか!!
さすがだと言っておこう」
そうして自分たちがノズチを倒してしばらくたった頃に、そいつはのこのこと現れたのであった。
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【NAME】≪龍王≫ゲンブ Lv42
HP ??
MP ??
【相性】 火・破魔無効 氷結耐性
【スキル】 ??
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圧倒的威圧感に迫力。
ノズチすら子供に見え、この地下道パンパンにするほどの巨体なカメの姿をした悪魔、ゲンブであった。
どうやらこいつが本体というやつなのだろうか?
〈分け身〉であるゲンブは本体ならばこの地を守護しているにふさわしい悪魔といって言ったが、これならばたしかに言うほどのことはあるかもしれない。
モーショボーも思わずその壊滅的な巨大差に、こちらにひしっとしがみついてきてくれた、やったぜ。
『ふむ……よくぞ、あの邪悪な不届きものを仕留めてくれたな。
礼を言うぞ、人の子よ。』
「いや、色々言いたいことはあるけどさぁ……
それだけ強いなら自分でやれよ、自分で」
『いやいや、そういうわけにもいかんかったのじゃ。
運悪くわしがここに出るための出入口を占拠していたのがあいつだったからのう。
無論、あやつを押しつぶすほどのパワーで無理やり顕現すれば何とかできなくもなかったが、それやると今度は守護すべき人里にまで影響が出てしまう。
……というか、おぬしは別の儂が見初めただけあって、さすがの胆力じゃな。』
ゲンブがその巨体にふさわしい大声で笑うもんだから、こちらの耳が痛い痛い。
「それよりおっちゃん。
依頼を達成したんだから、お礼頂戴よお礼。」
『うむ、せかすなせかすな!
これをこうして……はい!できた【サバトマ】』
巨大ゲンブから魔力が放たれる。
すると、こちらの空中目の前に魔法陣が浮かび、そこから一体の悪魔が現れた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【NAME】≪精霊≫アクアンズ Lv14
HP 110
MP 95
【相性】 氷結反射 破魔・呪殺・精神無効 火炎弱点
【スキル】・エナジードレイン (万能属性 MP・HP吸収)
・メディア (HP回復 全体)
・ブフーラ (氷結属性 単体 中威力)
・スクカジャ(命中・回避上昇 味方全体)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「強い(確信)」
『じゃろう?』
その輪郭がぼやけた人の水型の悪魔をアナライズした結果すごいものが出てた。
確かにこれは、素晴らしい悪魔である。
火炎以外に弱点がないし、それ以外は超耐性も優秀。
エナジードレインという、自己MP回復手段を持ちつつ、全体回復に補助と強力な単体攻撃魔法まで!
おおよそ今の自分のパーティが持っていないすべての要素をこの悪魔は持っていた。
しかも、この世界ではどうだかわからないが、悪魔合体において【精霊】はとても有用な存在である。
たしかに、これならいろんな意味で今回の死線を乗り越えた甲斐があるだけの悪魔といえるだろう、これを仲魔にしない手はない。
ともなれば……
「よっし、そうなりゃまずは解約だな。
カブソは……って、ちっい!あいつ死んでいやがるせいで管から出てこねぇ!
相変わらず肝心な時にアレだな!」
どうやら、死んでいる仲魔を強制契約解除することはできないようだ、また一つ賢くなった。
となれば、手持ちの封魔管が2本しかない現在の仕様上、もう一体の方を解約しなければならないが……。
「……え?
なに、その目は、え?え?
違うわよね?なんでこっちの方を見てるの?」
確かに今回のノズチとの戦闘において、この娘(悪魔)には大いに助けられた。
今のパーティ唯一のまともな攻撃魔法もちなこともそうだし、優秀な耐性もそうだ。
さらにはこの娘は【ディア】を使えるため、ある意味ではこの娘だけで自分のパーティに必要であった要員は揃えられたともいえよう。
命を救ってもらえた恩義もあるし、割と勢いでの発言とはいえ、契約してくれたら彼女の目的とやらを達成する助けをする的なことを言った覚えもある。
「(でも、このアクアンズが優秀過ぎるんだよなぁ……)」
しかし、だからこそ、ここで切り捨てたいのも本音だ。
彼女の目的がよくわからない以上、もしそれが超困難だった場合や極悪非道だった場合、うまく目的をあきらめさせる必要がある。
それに今回命の危機を味わって分かったのは、力はありすぎて困ることはない。
特に仲魔はできるだけ強力であるほどいい。
情にかまけて、あんまり強くない悪魔を使い続けるのはどちらも共倒れになり、不幸な結末しか呼ばない。
具体的に誰とは言わないが、今回はそれをとくに痛感した。
せめて、管がもう数本あれば話は変わるのだろうが、それはないものねだりというやつなのだろう。
「ね、ねぇ!
な、何とか言ってよ!そ、そんなのうそでしょ!!
あなたは私との約束、守るって言ったわよね?
私の生涯のパートナーになるって言ったわよね!!覚えてるんだから!」
そこまでは言ってない。
思わずそう突っ込みそうになるが、半泣きになりながらこちらに抱き着いてきたモーショボー相手にそんなことを言うほど野暮ではない。
……無論、ここで殺しては契約解除すらできなくなってしまうため抱き着いてきたモーショボーを振り払わない。
泣き叫ぶ少女の姿にこちらの良心がチクチク刺激されるが、こちらも命がかかっているのだ。
そう意を決して、彼女に契約解除を告げようとし……
「………うそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつき……」
「ひえっ」
モーショボーが謎の点滅を開始。
本能の警告に従って、改めて彼女をアナライズした
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【NAME】≪凶鳥≫〈おませ?な〉モーショボー Lv15
HP 120
MP 136
【相性】 銃・火炎弱点 衝撃無効 電撃吸収
【スキル】 ・ザン (衝撃属性 単体攻撃)
・ディア(HP回復 単体)
・自爆 (自爆属性【防御できる相性は無い】 使用者の死亡と引き換えに敵味方全体にダメージ)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ヤダナー、モーショボーちゃん!
私ガ君との約束を破るわけがないじゃないか!」
「え?」
「むしろ、離してって言ってもお前を開放するつもりはないぞ?
約束は意地でも達成してやるから、覚悟しておけよな!」
やっぱり、約束を破るのはよくないよね☆
人情最高!契約第一!
というわけで、モーショボーちゃんとの契約が継続になることが決定されました。
「あ!どうしてもいやで、そっちから契約解除したいなら、こっちも考えないこともry」
「そ、そんなことない!!!
えへ、えへへへへ♪ご、ごめんね!サマナー、わ、私勘違いしちゃったみたいで……
うそつき呼ばわりして本当にごめんね!
……そ、それにしても一生離さない、離さない……か❤」
『……ふむ!色々サービスしたつもりだったが、どうやらイラン世話だったようじゃな!
悪魔と人間にも、愛や友情は成立する!!
実にいい話じゃ!!』
「あ、愛なんて!
ま、まだ私とお姉さんはそんな関係じゃ……♪」
かくして、無情にもゲンブの召喚した精霊はあっさりと送還されてしまったとさ。
初めての異界クリアであり、とってもめでたいはずなのに、なんだか達成感以外の感情で目頭が熱ったのであった。
※なお、更新データ
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【NAME】≪魔獣≫〈いたずら下手な〉カブソ Lv12
【相性】 火炎耐性 電撃弱点
【スキル】・ひっかき (物理属性 小ダメージ)
・麻痺ひっかき (物理属性 小ダメージ+麻痺)
・道具の知恵・癒 (回復アイテムに詳しくなり、また使用できる)
【状態】 ≪DYING≫
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆