やはり、寄せ集めの青春ラブコメは間違っている 作:苦土重焼燐
怠い授業(理数系)が終わり、いそいそと帰り支度をする俺。
何でそんなに急ぐ必要があるのか、理由は簡単だ。
リア充グループ、この教室ではトップカーストに位置付けられるグループの中で、此方の様子を窺っている人物がいるからだ。
そう、今朝、俺に死の宣告を授けた空気を読める系痴女の由比ヶ浜。
アイツがチラチラと此方を向くせいで、他の奴も釣られる様にチラチラチラチラうざい事この上無い。
帰宅の準備も終わった、機は熟した。
音を起てないように、席を立ち上がり何食わぬ顔で教室を後にする。
「せーんぱいっ」
教室を出るや否や、栗色の髪を靡かせて近付いてくる可愛らしい一年生の姿が見えた。
こんな奴に慕われる先輩って奴は、さぞ素晴らしい奴だろうな。羨ましい羨ましい、さっ、俺は帰ってプリキュアと洒落混もう、あぁ、素晴らしい素晴らしい。
一年生の脇を通り過ぎて、歩みを進めていく。ラノベとプリキュアと小町が待っているユートピアに向かって。
「せんぱい?」
ほら、先輩ってやつ呼んでんだから返事くらいしてやれよ、可哀想だろ。
「せんぱい!」
あれ、おかしいな。
歩みは進んでるのに、声が一向に遠くならないんだけど、そろそろ耳鼻科に行かないと不味いのかな。
「ふっ!」
「んぉ!?」
突如として、俺の尻に衝撃が走る。
どれくらいかと言うと、タイキックの三歩前くらいと言うべきか。
振り返ってみると、先程の一年生が不快感を表しながら、俺の目の前にいた。
「なんだ、俺に用か?」
「さっきからずっと呼んでるのに、無視とかセンパイは酷すぎますっ!! 思わず蹴る所でしたよ!」
「いや、君、蹴ったよ」
「そんな事、どうでもいいんですよ!」
俺としては全然良くないんだけど、後輩に蹴られただけでなく、その事をどうでもいいの言葉で締め括られた事は遺憾であります。
「で、センパイ。今暇ですよね」
「失礼な奴だな、一色の声が耳に入らないほど急いでいるんだが」
「へー、それでですね。ちょっと手伝って欲しいんですよ、生徒会関係で」
「あの、聞いてた? 俺の話」
なんでナチュラルに会話が進んでるんだよ。『そうなんですね、すみませんでした。では』の流れだったろ。察せよ。
「今日、書記の子と副会長が休みで人が足りないんです」
「そっか、頑張れよ」
「うぐぐ……待って、下さい、よぉ!」
「離せ……一色……!」
即離脱しようと思ったんだが、制服の裾を咄嗟に捕まれて、一色を引き摺る様な形で廊下を進んでいく。
「そもそも、葉山にっ、頼めば、良いだろ……!」
「こんなことっ、葉山先輩に……頼めない、じゃ、ないです、かぁ!」
「くっ……重い……!」
女の子と言えども、人一人引き摺って歩くのはコストパフォーマンスが悪い。
こうなった一色は、梃子でも動かないだろう……はぁ……。
「センパイ」
「解った、解ったからもう観念する――っ!?」
足を止めて、いざ振り替えると瞳から光が消えた一色が俺の制服の裾を掴んだまま静止していた。
「ど、どうした?」
「いえ、なんでもないですよ」
何でもないと言いつつ、瞳に光りは戻らないし無表情が怖いんだけど……。
「ヒキタニくーん!」
俺が一色に戸惑ってると、その後ろから戸部が駆け寄ってきた。
いつもは、くだらない事で騒いでる馬鹿だと思ってたけど、イマコノトキダケは友人にランクアップするのも吝かではない。
「ヒキタニ君、カラオケ行かない? 今、結衣っちとダベってたんだけどさぁ、やっぱこういうのって人数居た方が盛り上がるんだわー! いろはすも、もち行くっしょ?」
「そ、そうだn――」
「戸部先輩、先輩と私はこれから仕事があるんで無理ですね」
「そ、そっか、また今度一緒に行くっしょ、じゃーな、ヒキタニくーん!」
一色が振り向きながら話した途端、戸部は体を跳ねらせ颯爽と去って行ってしまった。
もっと食い下がって来いよ、戸部!
アイツの方が空気を読んじゃうとか、なに、俺。死んじゃうの?
「仕事ですから仕方がないですよね、先輩?」
「お、そうだな……」
此方に向き直るが、やはり何も変わらない。
相槌こそは打ったが、内心『とべえええええええええええ!』って叫んでた。中の人違うんだけど。
「さっ、生徒会室にいきますよ」
裾から袖に切り替えた一色は、俺を連行していく様に歩き出す。
気分は処刑台に登る服役囚っといったところ。
生きて帰れるかな……助けて、小町……。
―――――――――――――――――
場所は変わり、生徒会室では書類仕事が待っておりました。
書類∠ シャス シャスシャス!
「ありすぎだろ……」
机の上には紙の山がこれでもかってくらいに連峰を思わせるが如く並んでいる。
「センパイの為に用意しといたんですよ、嬉しいですか?」
「あー嬉しい嬉しい」
にひひっと笑う後輩を尻目に、もうどう言い訳しても逃れられないのなら、受け入れるしかないと俺は思うんだ。
「つーか、お前。さっきなんで怒ってたの?」
「怒ってませんよ? こんな可愛い後輩が怒ると思いますか?」
「俺を蹴るくらいには怒ってたよね……」
「先輩にデリカシーが足りないからですよ」
……まさか、コイツ。
人を引き摺って歩く=くっ……重い……
を
一色が掴んでる=くっ……重い……
と、聞こえてしまったのだろう……まぁ、これは俺が悪かったか。
「あれだぞ、お前自身は言う程重くないぞ。俺は非力だから、人を引き摺るって言う事で重いと明言しただけで、お前を重いとは一言も言ってないからな」
「何ですか、今更彼氏気取りでフォローしているつもりですか?まだ彼氏ではないので告白の段階からお願いしますので無理ですごめんなさい」
「本当に早口過ぎて、もう何言ってんのか解らないんだが……振られたってのはいつもの事だから解るんだが」
「それ以外も解って欲しいんですけどねぇ、仕事も圧してますし早い所やっちゃいましょう!」
キャハッとでも効果音が付きそうな一色の号令により、仕事に取り掛かる俺達。
仕事よりも、一色を相手する方が難航したのは内緒である。