最後の物語へようこそ   作:新藤大智

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最後の物語へようこそ 第一話

 

 

 朝。目覚ましのアラームで目を覚まし、ごそごそと枕元を探りスイッチを切る。目を覚ましたはいいもののどうにも眠気が抜けきらないようでベットの上でしばらくの間ボケーっとしていた。

 

 ある程度の時間そうしているとようやく眠気が抜けてきたのか、思考がだんだんクリアになってくる。その後、盛大な欠伸とともに大きく伸びをした俺はベットを後にして洗面所に向い顔を洗う。

 

 適当に顔を洗い終わった俺は、鏡に映った自分の顔を見る。

 

「………はぁぁ」

 

 もう分かりきっていたことだが、自分顔を確認するたびに自然とため息が出てきてしまう。いや、別に自分の顔が不細工だったりとか変なところにニキビが出来てしまったとかそういうことでため息をついたんじゃない。

 

 むしろ顔の造形はかなりいい。透き通るような蒼眼、鮮やかな金髪、肌はこんがり小麦色に焼けて実に健康的な好青年だと思う。おおよそため息がでる要素は見あたらない。

 

 ならば、なぜため息をついているのかと言うと………

 

「………この体が【本来の自分の体】ならどれだけ良かったことか」

 

 ぽつりと呟く。このルックスでブリッツボールのエースとくればやっぱり相当もてたんだろ?なぁ、ティーダ君?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺がティーダになったのは今から約一年前のこと。高三の二学期の終わり頃。俺の手元に第一志望の大学に推薦で受かった旨を伝える通知が届いた。はっきり言って駄目元で受けた推薦だったので受かった俺はもちろん大喜びだし、家族もある意味俺以上に喜んでくれた。

 

 で、夕食にはちょっと名の知れたレストランに行って美味いものをたらふく食った。少しはしゃぎ過ぎたのか、家に帰ってベットに潜り込むと急に瞼が重くなってくる。

 

 俺はその心地よい眠気に身を任せ、楽し気な大学生活を想像しながら眠りに落ちた。

 

「………で、朝起きて鏡を見たら文句なしにティーダになっていたっつーわけだ」

 

 誰ともなしにぽつりと呟く。いや、確かに俺がもっとイケメンだったらなーとか、願ったことがないわけではないが、こんな形で叶えられるんだったら年齢=彼女いない暦、な俺に戻った方が断然いい。

 

 これが実はよく出来たバーチャルゲームで死んでもコンティニューあり、ってんなら大歓迎なんだけど………本当に残念ながらここにコンティニューボタンは存在しない。死んだらそれでおしまい。一部例外を除いて異界に行きそこを彷徨いつづけることになる。正直それだけは勘弁して欲しい。

 

 それに、もしこのままティーダのままでいたら、シナリオに従ってシンやエボンジュを倒すと消えてしまう。ゲームをクリアしたのは結構前でうろ覚えの所もあるけど、シンだかエボンジュだかラスボスを倒した後、体がだんだんと透けていって死人であるアーロンやジェクトと異界に行ってたのを覚えている。

 

「………やっぱしこのままだとFF的には感動?のフィナーレだが、俺的には問答無用でBADエンド直行になっちまうか………いや、ほんとに冗談じゃないっての………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後もいろいろと世の不条理さを嘆いていたが、現状が変わるわけでもないので早々に切り上げて今後の方針を再確認する。

 

 基本方針としては、祈り子様に現状を打ち明けシンを倒しても俺が消えないですむ方法か元の世界に帰る方法を探る事にした。

 

 バハムートの祈り子様はいろいろな情報を持っていそうだし、実際にⅩ─Ⅱではどうにかしてティーダを生き返らせてた(体を再構成?)はず。少なくとも何か有益な情報を持っているだろう。

 

 いや、確かに人任せというか祈り子様任せというか、行き当たりばったりも甚だしい計画とも呼べない物だが俺は某第二魔法の使い手でもないのでこればっかりはどうしようもない。

 

 まあ、これが現実だと認めた最初の頃は、最悪元の世界に戻れなくてもいいから死にたくない───そう思ってスピラには行かずにどっかに隠れていようと思ったんだけどな。でも、雲隠れの準備をしている時にふと思った。

 

『そういえばジェクトは俺を迎えに来るためだけにわざわざザナルカンドに来るんだよな………』

 

 つまりだ、ジェクトは物語の鍵である俺を見つけるまで探し回る可能性が高い。そして、その過程で文明に甚大な被害を与え膨大な数の死者を生産していくことだろう。

 

 たとえ百万歩譲ってザナルカンドでの犠牲はシナリオなのでしょうがないとしても、俺が逃げ回ったために犠牲が増えるのは後味が悪いどころの話ではない。流石にそんな犠牲の上で安穏とした生活を送れる自信はなかった。おそらく罪の意識に苛まれ、ろくな人生を送れないと思う。だが………

 

「スピラに行くと死亡率がむっちゃ高くなるんだよなぁ………」

 

 スピラはこのザナルカンドと比較してみれば、シンにより死者が大量生産されているため幻光虫の量が半端じゃない。当然魔物とのエンカウント率が高くなるし、魔物の力もこことは比較にならないくらい強い。魔物との戦闘が増えれば当然死ぬ確率も高くなる。

 

 確かに回復魔法を使いこなすユウナや伝説のガードであるアーロン達とパーティーを組んでいれば魔物との戦いで死ぬ確率はかなり低いと思う。だが、中にはモルボルのくさい息とかデスとか石化の魔眼?みたいな強さとは関係の無い厄介な攻撃がある。特にくさい息で全員が混乱+毒+暗闇+etc・・・状態におちいったらかなりピンチだ。前にゲームでモルボルの先制攻撃でくさい息を喰らって混乱状態になってなにも出来ないで死んだこともある。

 

 ちなみにザナルカンドに出没する魔物なんかは幻光虫の密度が極端に低いのでちょっと離れたところから拳大の石でもおもいっきりぶち当てれば簡単に倒せるのがほとんどだ。そもそも滅多に出ることもないけど。

 

 それから、なんと言っても一番やばいのは人間───ぶっちゃけエボンの狂信者の連中だ。一人一人は雑魚かもしれんが、スピラで最大の宗教なだけに人数が人数だし、なにより銃器が怖い。

 

 戦後数十年たって、今では平和ボケという言葉が嫌というほど良く似合う日本において銃なんてほとんど見たことなんてない。ましてや銃口を向けられるなんて事はまずない。

 

 ゲームでの戦闘みたいに銃弾を喰らってもポーションで減ったHPを回復すれば、はいOK、とはいかないだろう。Ⅹ─Ⅱではレンとシューインがエボンの僧兵に撃たれて死んじまったしな。

 

 本当ならエボンの連中とは関わらないか最低でも揉めないかのが一番いいのだろうが物語の進行上バハムートの祈り子様と会う頃には恐らくエボンの連中とは敵対することになると思うし………

 

「………はぁぁ、世界最大の宗教と敵対するなんて勘弁してほしいっての」

 

 絶望的な未来にやってられるかと叫びたくなる。しかもエボンの連中は機械の使用禁止とか言ってるくせに、機械人形やらガトリングやらでバリバリに武装してるのだ。本当にやってられない。

 

 まあ、そんなに嫌ならスピラに行った後で改めてどっかに隠れていればいいじゃん、と思う人もいるかもしれない。俺も切実にそうしたいところなのだが、そうも言ってられない。

 

 と言うのも、ユウナ達が俺(ティーダ)がいなくてもシンの体内に入って直接エボンジュを倒してしまうかもしれないからだ。

 

 俺がいなかった場合のシナリオがどう進むのか分からないが、ありえない話ではないと思う。そうなった場合、何の対策も打たないままエボンジュを倒されてしまうと祈り子様が眠りに着くと同時に俺の体も消えてしまう。

 

 流石にそんなデッドエンドは勘弁して欲しい。ってな訳で色々と考えて、前述の通りにユウナ達と旅をして祈り子様と相談し、解決策を練ることにした。

 

 それにFFファンの俺としては、やはり原作キャラに会いたいって気持ちが無いわけでもないしな。あ、そうそうアーロンとはこっちに来て一ヶ月くらいしてから会った。いやー、生アーロンは画面越しでみる倍は渋かった。

 

 右目の傷や鋭い眼光もそうだが、なにより体から滲み出る雰囲気というかオーラが半端じゃない。アーロンが幾多の死線を潜ってきたことが素人の俺でも容易に伺える。本人は嫌がるだろうが、まさしく英雄や伝説のガードと称えられるのに相応しい風格だった。

 

 俺としては中身が変わったのが何時ばれるか内心ひやひやしていたが、予想に反してアーロンはなにも言ってこなかった。アーロンはティーダが少年だった頃から彼のことを見守っていたのだから、何かしらの変化には気がついている筈なのだが、ブリッツボールをやめるといった時でさえも………そうか、と言っただけで後は何も言わなかった。

 

 これには俺も首を傾げたが、生き残るための準備も忙しかったし、下手に探りを入れられるよりはいいのであまり深く考えないことにした。

 

 後に俺はアーロンが何も言わなかった理由を知るのだが………それはもっと後の話になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………うっし、これで準備完了だな。」

 

 荷物の最終点検をしてホルダーに収める。これで準備万端、スピラ行きの準備が整った。生存率を上げるため出来る限りの準備はしたのだが、おかげでザナルカンド・エイブスとの契約金とかジェクトの遺産だとかほとんど消えてしまった。ここにはもう戻って来れないんだから関係ないんだけどさ。

 

 さて、後は明日のジェクト記念トーナメント決勝戦の途中でシンが来るのを待つだけだ。俺は妙な興奮を抑えながら明日に備え眠りにつく。

 

 

 

 この物語の結末がどうなるのか俺には分からない。

 けど、明るい未来を目指していっちょ頑張ってみますか───

 

 

 

 

 




拙い作品ですが、読んでいただきありがとうございます。
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