最後の物語へようこそ   作:新藤大智

13 / 29
FFⅩ─2・5は買うのはやめておきます。ちょっぴり怖いもの見たさもありますが、変な刺激を受けそうなので。


最後の物語へようこそ 第十三話

 無事に最後の仲間であるリュックを迎え入れることが出来た俺達は、マカラーニャ寺院を目指して再び歩き始めた。

 

「あ、そうそう、次に魔物が出て来たらあたしに任せてよ。どの程度動けるか知っておいた方がいいでしょ?」

 

 目的地に向かう道すがら、リュックは魔物が出て来たら自分に任せてくれと言い放つ。

 

「確かに。リュックの動きを知っているのはティーダだけだから、確認はしておいたほうがいいわね」

「でも、あまり無茶はしないでね?」

「大丈夫!こうみえて経験豊富だから!」

 

 経験豊富と聞いて変な想像をしてしまった俺は多分アホだな。まあ、それは置いてくとして、リュックのポジションはとりあえず俺と同じく中衛となった。前衛はキマリとアーロンで十分だし、後衛が出来るほどの遠距離能力は有していない(機械を使えれば別だが)。また、咄嗟の機転も利くし、俺と同じく素早さに自信があるため、遊撃的な立ち位置が無難だろうとの判断からだ。リュックとしても自分の判断で自由に行動できるほうが好みのようなので、その辺はすんなりと決まった。

 

「………お、いたいた。一匹だし丁度いいや。あたしがサクッとやっちゃうね」

 

 魔物との戦闘の機会はすぐに訪れた。街道の端っこをうろうろしている魔物を発見。大きさは大型犬ほど。見るからに鈍重な動きをしている。だがその反面、全身が鎧のような外皮に覆われており、攻撃を通すのは中々難しそうだ。アルべド族ということを秘密にしている以上、手榴弾などの高火力攻撃は使えないはずだが、リュックはどのようにこいつを倒すのだろうか。

 

「お?あー、あいつは確か硬い特性持ちだったが大丈夫か?」

「大丈夫。任せて任せて。ビシッとやっちゃうよー、っと」

 

 言いながら軽やかに、されど力強く踏み込む。最初の一歩で殆ど最高速まで加速したリュックは、魔物との間合いを一気に詰める。

 

 リュックが突貫していった魔物の名はバニップ。硬い特性持ちの魔物だ。持ち合わせている攻撃方法はシンプルに体当たりのみであり、防御力に特化した魔物である。負けることはまずないだろうが、リュックの攻撃力では削り切るのに結構な時間がかかるだろう。

 

「よっ、ほいほいっと、もう一丁!………最後にこれで終わりっと!」

 

 と、思っていたら戦闘は割とあっさりと終了してしまった。時間にして五分もかかっていない。手榴弾を使えば簡単に始末できると思っていたが、それもなしでこの短時間で倒すとは俺の予想を大幅に超えてきた。

 

「ほー、ティーダが言うだけあって確かにいい動きだな。ここまで動けるとは思わなかったぜ」

「いや、ぶっちゃけ俺もここまでとは………」

 

 特別なことはなにもしていない。速さと手数で終始魔物を圧倒していた。

 

 リュックは間合いを詰めた後、初撃は外皮の硬さを確かめる為に普通に攻撃。右手に装着した鋭い刃付きのグローブで殴りつける。が、非力なリュックでは当然の如く大したダメージは与えられなかった。

 

 ただ単純に殴っているだけでは大したダメージを与えられないことを確認すると、次は外皮に覆われてない薄い箇所を狙う。即ち関節部や鍛えようのない眼球などだ。如何に硬い特性を持っていようと、ここを狙えばある程度のダメージは通る。狙える箇所は限られてしまうが、リュックは正確に攻撃を加えていく。

 

 無論、相手もそこまで馬鹿じゃない。何度か攻撃を受けて関節部が狙われていることはすぐに理解する。魔物は基本的に本能に従って動くので動作は単純なものになりがちだが、流石に防御の薄い箇所を狙われて無反応という事はなかった。狙われている関節部分を庇う様に動く。特に目は腕を振り上げて庇う仕草をしていた。

 

 しかし、狙われている箇所を庇う様に動けば、他の箇所の防御が手薄になる。キーリカで戦ったシンのコケラのように攻撃を捨てて完全に丸くなっている訳ではないので、完全防御とはいかないようだった。

 

 その隙を見逃すようなリュックではない。持ち味の俊敏さを活かして前後左右へと目まぐるしく立ち位置を変え、僅かに狙える関節の隙間から一撃一撃を積み重ねてダメージを蓄積させていく。

 

 やがて、リュックの猛攻に耐えきれなくなったのか、最後は破れかぶれのように庇う動きをやめて体当たりで特攻を仕掛けてきた。だが、大したスピードもない直線的な動きなど絶好のカウンターチャンスでしかない。

 

 リュックは突進を紙一重で躱しながら、カウンターで眼球部分に拳を打ち込む。そして、グローブに付けられた刃の内の一本がそのまま脳天まで貫いたのか、魔物の体がビクンと震えるとその体を幻光虫へと変えていった。

 

 淡く光って消える幻光虫を見届けると、リュックは振り向きざまにドヤァ!とばかりに胸を張る。

 

「どう?そこそこやるもんでしょ?」

「ええ、その歳でそこまで動けるのなら大したものだわ」

「俺もルーの感想に同感だ」

「凄かったよリュック」

「えへへ、ありがとう」

 

 あまり褒められることに慣れていないのか、リュックは素直な賞賛の言葉に照れくさそうに頭を掻いていた。

 

(それにしても、本来の戦い方じゃないのにここまでやれるのか………)

 

 素直に凄いと思う。なにせ先程の戦い方はリュックの領分ではない。船の上で軽く聞いただけだが、リュック本来の戦闘方法は肉弾戦と手榴弾などの武器を併用したスタイルだという。

 

 まずは自慢の俊敏さで相手を攪乱しつつ、ある程度ダメージを与えた所で手榴弾や高火力の武器で止めを刺す。俺と出会った時のように開幕で手榴弾ぶっぱの時もあるが、基本的な戦闘方法は上記のようなものだ。

 

 確かに相手はこの辺でも比較的弱い部類の魔物だった。だが、ここまで鮮やかに倒せる連中はそう多くないだろう。俺も無傷で倒すことは可能だろうが、硬い特性持ちが相手ならリュックよりも手古摺っていたことは確実だ。

 

 それをこの短時間で倒すのだから、リュックが自分で経験豊富と豪語するのも納得だ。これならば、アルべド族特有の武器が使えずとも十分に戦力になってくれるだろう。

 

 つーか、俺よりも普通に強い。切り札を使えば勝てるだろうが、普通のタイマンでやれば十中八九俺が負けるだろう。

 

 前衛にキマリ、アーロン。中衛に俺とリュック。後衛にはルールーとユウナとワッカ。今迄でもかなり安定した戦闘が可能だったが、さらに強化された感じだな。これで魔物からの危険度がまた減った。まあ、だからといって油断していいわけではないが、純粋な戦力の強化は嬉しい限りである。

 

 また、それにプラスしてリュックが加入してからほんの二、三時間程度しか経ってないにも関わらず、パーティー内の雰囲気は随分と明るいものになっていた。それまでのパーティーの雰囲気が暗かったという訳ではないが、リュックが生来的に持つ明るい性格の所為なのか、以前よりも賑やかなのは明らかだ。原作で自分を賑やか担当と言っていただけのことはある。

 

 新たにリュックが仲間に加わって場の雰囲気も戦力的にも中々いい感じだ。ミヘンセッション以降どこか陰のあったユウナも、リュックとの絡みで笑顔が増えてきたし、それを見守るルールーやキマリの表情も優しいものだ。ワッカに至ってはリュックの軽い雰囲気と気が合うのか、この短時間の間にマブダチといっても良いくらいに気安い仲になっている。

 

 時折騒ぎ過ぎだとルールーから注意が飛ぶが、本気で周囲への警戒を怠っている訳でもなのでそれもご愛嬌だろう。最後にアーロンだけは微かな警戒心があったようだが、警戒するのも馬鹿らしくなったのか徐々に警戒を解いている。一時はどうなることかと思ったが、最終的には良い感じに収まったようで、俺はほっと胸を撫で下ろした。

 

 ───が、この後に訪れるイベントを考えれば、そうも言ってられなかったりする。

 

(………そろそろか)

 

 幻光河の次に通過予定の地『グアドサラム』。明るいパーティーの雰囲気と裏腹に、そこに近づくに連れて俺の足取りは徐々に重くなっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 ───グアドサラム

 

 グアドサラムはジョゼ大陸の中央付近に位置し、亜人種の一種であるグアド族が本拠地を構える土地だ。巨大な空洞のような内部は植物の根が張り巡らされおり、その根を避けるようにして居住空間を確保している。

 

 この地はスピラでも有数の観光名所となっている。というのも、グアドサラムには異界と繋がる唯一の道があるためだ。異界───つまり死後の世界。生者も足を踏み入れられるため、厳密に言えば違うのだが、今はそう捉えていい。

 

 中にはおどろおどろしい光景を思い浮かべる人もいるだろうが、現実は真逆。異界は大気中に高密度の幻光虫が漂う空間であり、そこには巨大な瀑布や美しい花畑や青白い光を放つ月など神秘的な景色が広がっている。

 

 また、ここは故人と会える唯一の場所としても有名だ。詳しい原理は未だに解明されていないが、有力な説では故人を想い浮かべると幻光虫が反応してその幻影を投影するからだという。

 

 ある者は生き別れた家族を懐かしむため、ある者は重大な決断をする勇気を貰うため、またある者は行方不明となった者の生死を確かめるために日夜スピラ中から人々が訪れている。

 

 異界はいまでこそ一大観光地帯であるが、数十年前までは気軽に行ける場所ではなかったという。現在のグアド族はエボンの民の一員として名を連ねているが、ほんの数十年前までは自身を異界の管理者であると豪語し、高すぎるエリート意識からヒトを見下す一面を持っていた。そして、ヒトもグアド族の高すぎるプライドと顔面を覆う葉脈のような身体的特徴に拒否感を感じていた。故に、互いの間には大きな溝があったのだが、先代の族長ジスカルの時代に状況は一変する。

 

 ジスカルは一族の掟を破り、ヒトの中から伴侶を選んだのだ。ヒトとグアド族の友好のために。無論、掟を破ることは族長と言えど、いや、族長だからこそ許されるものではない。上が模範を示さねば、下に示しがつかないのはどこも同じ。だが、ジスカルが今までに示してきた実績と不断の努力により、グアド族とヒトは徐々にだが友好関係を築き上げていった。

 

 友好の広がりは同時にエボンの教えを受け入れる動きに繋がる。多少の時間はかかったものの、グアド族の大部分がエボンの教えを受け入れるようになり、内部で完結していた閉鎖的な空気は消え、同胞たるエボンの民に異界を解放するまでになった。そしてさらに数年後、ジスカルはグアド族で初めて老師の地位を授かることとなる。これにより、ヒトとグアド族との友好の切っ掛けとなった人物として、ジスカルの名はグアド族の栄光の歴史の一ページに刻まれることとなった。

 

 だが、そんな輝ける栄光の歴史の裏側では、その流れにより歪められてしまった存在もいる。当然、その人物とはシーモアその人。今でこそ熱烈な支持を受けているが、その幼少期は悲惨の一言だ。ヒトとグアド族の友和の初期段階において、シーモアは友好反対派に汚らわしい混血児として母共々離島に島流しにされてしまう。

 

 ジスカルは族長として優秀であったが、父としての立場との板挟みになり悩まされていた。そして、悩んだ末に族長としての立場の方に天秤が傾いてしまった。それがシーモアが歪んでいく原因であり、最愛の母を失ったことで決定的なものとなってしまった。

 

 シーモアは、その歪みを抱えたまま成長し、長としての地位を受け継ぐことのできる準備を整えるとジスカルをその手で殺した。そこには、幼き日の自分や母を守ってくれなかったことに対する憎しみや恨みの感情は一切ない。

 

 自由に行動するのに邪魔だから。ただそれだけの理由で肉親を手にかけた。

 

 シーモアは生に対して何の希望も持ち合わせていない。死こそがスピラに残された唯一の救いであるという思想に憑りつかれているため、何の躊躇もなくこのような行動に出られる。聖人の如き外面とは真逆、内面はまさしく狂人そのものといって過言ではない。

 

 俺達はグアドサラムに入ると、そんな狂人の屋敷に招待されていた。そして、シーモアが姿を現すと映像スフィアが部屋に投影される。その後に起こることはもう分かるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スフィアの再生が終了した直後、シーモアの隣には顔を真っ赤に染めたユウナの姿があった。そしてポツリと呟く。

 

「………………結婚を申し込まれました」

 

 出来れば聞きたくなかった。

 

 その言葉に動揺が走る。アーロンだけは動揺を見せなかったが、いつもは冷静沈着なキマリやルールーですら動揺を隠しきれてない。ワッカ、リュックは文字通り目を点にしている。

 

「マ、マジでか?」

「………うん」

 

 ワッカが恐る恐る確かめるように聞くが返ってきた答えは肯定。

 

(覚悟してたけど………駄目だ。敵意が抑えられそうにないな)

 

 俺は沸き立つ感情を抑え、ユウナに微笑みかけるシーモアを一瞥するに留めた。あまり長いこと視線を送っていると敵意を感知されそうだ。今度は床に視線を落とし、深呼吸をして心を落ち着かせようとするが、正直焼け石に水か。

 

 事の発端はつい数時間前。グアドサラムに入り、トワメル=グアドというシーモアのお付きの老人に屋敷に招待されたことだ。トワメル曰く、シーモアがユウナに大切な話があるそうで、屋敷に招待したいと言っているそうだ。ユウナは大切な話とはなんだろうかと疑問を抱きつつ、断る理由もないので素直に招待を受けた。

 

 一方、俺としてはこの後の展開は嫌と言うほど分かってしまうので、ここはスルーしてとっとと雷平原に進みたかった。だが、理由もなくエボンの四老師の言葉を無下にすることはできない。

 

 屋敷の広大な客間で待つこと暫し。トワメルが過剰にシーモアを持ち上げる中、本人が登場する。そして、簡単な挨拶を済ませると映像スフィアを部屋に投影。

 

 映し出されるのは、見上げるほどの高い建造物が所狭しと並んでいる近未来風の都市群。建物と建物の間には透明のパイプラインで結ばれ、そこを高速でシャトルが行き来している様子も映っている。

 

「これは異界を彷徨る死者の思念から再現した貴重なスフィア………そして、ここが千年前に繁栄の極みにあった機械仕掛けの都市ザナルカンド」

 

 そこは厳密に言えば俺がいた夢のザナルカンドとは少々異なるが、ほんの少しだけ懐かしさがこみ上げてくる。そして、場面は変わり、とある一室が映し出される。そこにいたのは二十代半ば程の一人の女性。その女性に見覚えのあったユウナは思わず叫ぶ。

 

「ユウナレスカ様!」

「ええ、歴史上初めてシンを倒し、世界を救ったお方です」

 

 召喚士ユウナレスカ。突如として現れた厄災シンを初めて倒した召喚士だ。彼女はシンを倒したが、大召喚士には数えられていない。というのも、大召喚士とはまた別格とされ、半ば神格化されているほどの存在である。そしてユウナの名前の由来にもなった。

 

「しかし、ユウナレスカ様はお一人で世界を救ったのではありません。無敵のシンを倒したのは………」

 

 コツコツと部屋に近づいて来る足音。派手な鎧に身を包んだ男性が姿を現す。男性───ゼイオンとユウナレスカが抱き合う姿が映された。

 

「二つの心を固く結んだ永遠に変わらぬ愛の絆です」

 

 そして、その後すぐにユウナの耳元で何かを囁くシーモアの姿があった。

 

(………とうとうこの場面がきちまったか)

 

 予想通りの展開に天を仰ぐ。スフィアの再生が終わり、そこに残されたのは顔を真っ赤に染めたユウナ。どうしたのかと尋ねるリュックにポツリと呟く。

 

「………………結婚を申し込まれました」

 

 自分では気が付かなかったが、無意識に拳を握りしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユウナの使命は知っているはずだが?」

 

 静まり返った客間でアーロンが半ば威圧的に問い詰める。召喚士の使命はシンを倒すこと。その妨げになるようなことをエボンの老師がなぜするのかと。

 

 一般人なら縮こまってしまうであろう威圧感の中、シーモアは微笑を崩さないで返す。

 

「もちろん知っています。召喚士の使命はスピラに安定と平穏をもたらすこと………ですが、なにもシンを倒すことだけが全てではありますまい。シンに苦しむ民の心を少しでも晴れやかにする。それもまた民を導く者の務めかと。私はエボンの老師としてユウナ殿に結婚を申し込んだのです」

 

 その言葉を額面通り取れば一理あるかもしれない。

 

「スピラは劇場ではない。一時の夢で観客を酔わせても現実は変わらん」

 

 だが、アーロンの言葉に全てが集約されている。確かに二人の結婚はスピラにとって明るいニュースとして伝わるだろう。だが、それもほんの一瞬だ。大部分の民の生活にはほとんど関係がない。謂わば線香花火の如く散っていく泡沫の夢みたいなものだ。

 

 シンの脅威は変わらず、夢はすぐに醒める。ましてや、それすらもシーモアの本当の目的のための隠れ蓑に過ぎない。そんなことにユウナを巻き込むじゃねーよ!と声を大にして言ってやりたい。

 

 そんなことを思っていた所為だろうか───

 

「それでも舞台に立つのが役者のつとめ」

「だったら一人芝居でもしてれば?」

 

 あ、と気が付いた時には遅かった。無意識のうちに口から言葉が滑り出ていた。アーロンとシーモアに注がれていた視線が俺へと移る。しくじった。心の中で舌打ちするが、口に出してしまったものはもう取り消せない。

 

(何やってんだ、俺は………)

 

 敵意を悟られないようにしていたのが、これでは全部水の泡だ。けど、やってしまったものは仕方ない。

 

「………キミは?」

「どうも、ユウナのガードをしているティーダといいます」

 

 若干棒読みになっているが、すぐ完全に敵対することになるだろうし、もうこのままで通すか。

 

「ティーダ殿ですか。分かりました。それで、先ほどの一人芝居とは?」

「いえ、深い意味はありませんよ。シーモア老師がシンを倒せばいいんじゃないかと思っただけですから。ナギ節に勝る吉報なんて存在しないでしょうし」

「………なるほど、確かにそういった意見もありますね」

 

 探るような目つきのシーモアを真正面から見返す。自分でも子供じみた考えだと思うが、目を逸らすのはなんか負けた気がして嫌だった。少しの間視線が交差していたが、やがてシーモアの方から目を逸らす。

 

「私も一召喚士として旅に出ていたらそうしていたでしょう。しかし、私は召喚士でありながら恐れ多くも、グアド族族長とエボンの老師の地位を授かりました。シンを倒すことが至上の命題とはいえ、その責任ある立場を投げ出すことはできないのです」

「そうですか、それは失礼しました」

 

 何を言っても無駄だろうと分かっているので、形だけの礼してこの場は引く。シーモアの探るような目つきは相変わらずだが、それ以上の追及はなく、再びユウナに向き合う。

 

「ユウナ殿、今すぐにお返事をとは言いません。どうか、じっくり考えてください」

 

 ユウナは曖昧にコクリと頷くと、アーロンは強引に話を切り上げる。

 

「そうさせてもらう。出るぞ」

「あいさー」

 

 俺もそれに乗っかって屋敷を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋敷を出ると、パーティー内に微妙な雰囲気が漂っている。賑やか担当のリュックも流石にこの場では迂闊な事が言えないのか、何か言い出そうとしては口を閉じてを繰り返している。

 

 そんな中、最初に口火を切ったのはルールーだ。

 

「大召喚士の娘ユウナとグアド族族長のシーモア。その二人がエボンの名のもとで種族の壁を越えて結婚か。確かにスピラにとっては明るい話題になるわね」

「でもよ、アーロンさんの言う通り、ほんとに一時の夢って感じだ………なんつーか、余計なことに巻き込まれちまったな」

 

 ルールーの言葉にワッカはガリガリと頭を掻きながら返す。ちなみに、元々シーモアを気にいらないと言い放っていたキマリもワッカと同意見のようで深く頷いていた。アーロンは………まあ、言わなくても分かるか。

 

「余計なこと………なのかな」

 

 だが、ユウナにとってこの話は“なし”ではなかったようだ。この話を持ち掛けられた時から考え込んでいたようだったが、不意にポツリと呟く。

 

「私が結婚することでスピラ中の人達が喜んでくれのなら、少しでも明るい気持ちになれたら………そんな風に役に立つことができたのなら、それも素敵だなって思うんだ」

 

 ユウナの言葉を聞きながら、やっぱりこうなったかと気が重くなる。

 

 原作ではこの後異界に行き、色々と悩んだ末にシンを倒すことが一番だとして、この話を断るつもりだった。それで終われば万々歳なのだが、異界から出現したジスカルの幻影により状況は一変してしまう。

 

 ユウナはすぐにジスカルの幻影に異界送りをして再度異界に送るが、この時に幻影が一つの映像スフィアを落とすのだ。内容は自分は息子に殺されるであろうこと。そして、この映像を見た者はシーモアを止めて欲しいということ。

 

 これにより、ユウナはシーモアの真実の一端を知ってしまう。そして、自分との婚約を材料にしてシーモアに父殺しの罪を償うことを求めるつもりで行動することになる。無論、シーモアが罪を受け入れる訳はない。つまり、最終的にユウナはシーモアと敵対することになる。

 

 だが、例え本心からじゃなくてもユウナの口からシーモアと結婚するなどと言う言葉は聞きたくもなかった。ましてや、べベルでの“あのシーン”を思い浮かべると………いや、これ以上は考えるのはやめておこう。

 

「こういうこと、今まで想像してなかった………だから、よく考えてから返事をしたいと思うの」

「あたしは、結婚して旅をやめちゃうのもアリだと思うな」

「お、おい、リュックお前はユウナの結婚に賛成なのか?」

「うん、全てはユウナの選択次第だけどね。ワッカも絶対に反対って訳じゃないでしょ?」

「それは………そうだが」

 

 リュックとしては、今回の話はむしろ都合がいいのかもしれない。究極召喚を使ってユウナが死んでしまうより、結婚して旅をやめさせてしまったほうがいいとの考えだろう。もっとも、シーモアの本性を知れば話は別だろうが。

 

「結婚したとしても旅は続けるよ。私は召喚士だもん………シンを倒すって決めたんだから、倒すまで絶対に諦めない」

「………そっか、そだよね」

「ごめんね、リュック」

「ううん。いいの」

 

 ユウナはリュックに謝ると、ゆっくり立ち上がり俺達を見渡す。

 

「私、異界に行ってきます。異界に行って父さんたちに会って考えてみます」

「そうね………気が済むまで考えなさい」

「うん。それじゃあ「ユウナっ」………どうしたの?」

 

 そして、異界に行く事になったのだが、思わずユウナを呼び止める。正直、呼び止めた今でも言うか言わないか迷っているが、どうしても一言だけ言いたくなってしまった。

 

「あー、なんだ、ユウナはさっき自分が結婚することでスピラ中の人々が喜んでくれたら嬉しいって言ってたよな?」

「うん、そう思ってくれる人達がいたら嬉しいなって思う」

 

 その言葉はユウナらしいと言えばユウナらしい。俺としてもできれば水を差すような真似はしたくない。

 

 けど、今回だけは別だ。

 

「悪いけど、その中に俺は入ってないから」

「………え?」

「ただそれが言いたかっただけ」

「それって、あの………」

「うっし、そんじゃ異界に行こうか」

 

 ユウナが何か言いかけるが、それを遮って一直線に異界へと向かう。後ろからユウナや皆が付いて来る気配を感じるが、振り返ることなくただひたすら真っすぐに進む。異界がシーモアの屋敷から一本道で助かった。これなら初めてここに来た俺でも迷うことなく辿り着ける。

 

 それにしても───

 

(あーあ、俺は何を口走ってるんだろうな?ただでさえユウナは色々と抱え込んでいるのに………我ながら呆れ果てる)

 

 異界へと向かう道すがら、先程からの行動を思い出して無性に頭を掻きむしりたくなる。頭では余計な事を言わないようにしようと思っているのだが、何故かさっきから感情に任せて色々と口走ってしまう自分が居た。

 

昔からあまり自分の意見は言わず、典型的な周囲に流されるタイプだったのに………自分でもらしくないと思うが、どうにも感情の抑制が効かなかった。

 

 結果、恐らくシーモアには俺の心情をある程度見抜かれただろうし、ユウナを無駄に困惑させてしまった。シーモアの件はそれほど問題ないとしても、今思えば最後にユウナに言ってしまった一言は完全に蛇足だ。

 

(少し頭を冷やさないとな………)

 

 一先ず落ち着こう。俺は初めて目にする異界の光景に目もくれず、隅の方でただ一人気持ちを落ち着けることに専念することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公の葛藤が表現できてるかどうか………どうにも自分で書いてると独りよがりになりがちなので、唐突過ぎると感じたり、ただ単にうじうじしているだけと感じた方がいたら申し訳ない。

それから、読んでくださって感想や評価、またお気に入りに入れてくださった皆様、ありがとうございます。やっぱり数字に表れるとやる気が出ますね。
また、毎度誤字報告ありがとうございます。いつも見落としがあるようで凄く助かります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。