最後の物語へようこそ   作:新藤大智

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今回は短めで話があまり進んでなかったり。


最後の物語へようこそ 第十四話

 

 

 

 異界は故人と会える唯一の場所である。会えると言っても会話が出来る訳でもなく、実際は等身大の幻影、つまり思い出のような物だが、それでも人はここを訪れる。決断するため、前に進むため、あるいは諦めるため、理由は人其々に。思い出は優しく背中を押してくれる。

 

(もっとも、家族がここにはいない俺にはあまり関係のない事なんだけど)

 

 ただ静かな場所なので今の俺には丁度良かった。その辺の岩場に腰かけ、目の前に広がる幻想的な光景をただ無心で見詰める。

 

「隣いいかな?」

「………え?あ、ああ」

 

 どれくらいの時間をそうしていたのか分からない。頭を空っぽにしていたため、気配に気が付かなかった。よいしょ、と近くの岩に腰かけるユウナに空返事を返す。

 

「………………」

 

 先程のことがあるのでどうにも気まずい。俺は異界の景色を見ているふりをしながら、ユウナが何か言う前に先んじて謝ることにした。

 

「さっきは変なこと言って悪かった………混乱させちまったよな?」

「ちょっと驚いたけど大丈夫だよ」

「そっか、それならよかった。でも、出来ればさっきの事は深く考えないでくれると助かる」

「私としては………ううん、ティーダがそう言うのなら、わかったよ」

「サンキュー」

 

 追及がなくなったことにほっとする。今までにない感情の起伏に俺自身戸惑っていた。暫く気持ちを整理する時間が欲しい。

 

「それで、ユウナの方は結論は出たのか?」

 

 自分の事を一時棚に上げ、結論は出たのか尋ねる。ユウナはその問いに頷いた。

 

「ここに来て思い出したんだ………十年前、父さん達がシンを倒して街中が大騒ぎだった。普段は物静かな街なのに、あの時だけは皆ではしゃいで凄く嬉しそうで………………やっぱり、シンを倒すことが一番なんだなって」

「ああ、それ以上の明るい話題なんてあり得ないと思う」

「それに私は不器用だから、あれもこれもなんて欲張ってたらどれも中途半端になっちゃう。だから、シンを倒すことだけに集中しようと思うんだ。シーモア様には申し訳ないけど、分かってくれると思うし」

「………だな」

 

 俺は頷きつつも、シーモアに関することだけは、あり得ないと内心で否定する。三度殺してもなお蘇ってきた、あの執念の塊のような男がそう簡単にあきらめる筈がない。

 

「おーい、ユウナ。どうだ?結論は出たか?」

「あ、ワッカさん。はい、大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」

「迷惑なんかじゃないぜ?もっとゆっくり考えたっていいくらいだしな。なあ、ルー?」

「ええ、ワッカの言う通り。重要な事なんだからもう少し時間を掛けても構わないのだけど………その顔はもう結論が出てるみたいね?」

「うん。今からシーモア老師に返事をしに行こうと思う」

 

 ユウナの結論が出たので、異界を後にする。異界には入らずに外で会っていたリュックとアーロンと合流し、シーモアの屋敷へと引き返す。

 

 ───と、そんな時だった。

 

「なんだ?異界の方が騒がしいな?」

 

 振り返ってみれば、異界の出入り口付近で人々が何やら騒いでいる。人だかりの中にぽっかりと空いた空間。そこにいたのは、

 

「あれは………まさか、ジスカル様!?」

 

 予想通り、シーモアの父であり、先代の族長ジスカルその人だった。もっとも、それは出来そこないの死人───つまり幻影に過ぎず、言葉を発することすら出来ない紛い物だ。そんな体でうめき声を上げ、必死に何かを伝えようとしている。

 

「ジスカル様………どうして?」

 

 生前とは似ても似つかわしくない姿に呆然と呟くユウナ。

 

 グアド族の族長であるジスカルは葬儀の際に異界送りを受けている。だが、その上でこうして姿を現したということは、極めて強い迷いと未練に縛られているということに他ならない。それが何なのかは先に話した通りだ。

 

「迷っているな。ユウナ、今一度送ってやれ」

「………はい」

 

 ユウナはアーロンの言葉に従い、異界を送りを施す。ジスカルの幻影は苦悶の表情を浮かべながら消えていったが、その場に一つのスフィアを残した。ユウナはそれに気が付くと拾い上げて懐に仕舞い込む。

 

(今ここであれを壊し………いや、やっぱ駄目だ)

 

 ユウナが拾い上げたスフィアを複雑な感情で見詰める。あのスフィアは今後の計画に重要なアイテムだが、同時に厄介なアイテムでもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………シーモア様に会ってきます。皆はここで待っててください」

 

 ユウナは屋敷に到着するなり言い放つ。先ほどのジスカルの件が影響しているのだろう。その表情にはどこか陰りがあった。見かねたアーロンは釘を刺す。

 

「ユウナ、ジスカルのことはグアドの問題だ。お前が気にすることはない」

「………………」

 

 ユウナは返事をすることなく一人屋敷へと入っていく。その後姿を見送りながら思考する。

 

(やっぱりこうなるか)

 

 正直に言えば、あの場ですぐにでもあのスフィアを粉々に砕きたかった。そうすればユウナが悩んだり苦しまないで済む。

 

 だが、ジスカルの残したスフィアはシーモアの内面を皆に知らしめるための重要なアイテムだ。仮にあのスフィアの証言なしでシーモアを糾弾したとしても、まだ紳士然とした態度を崩していないので、恐らくは受け入れて貰えない。

 

 俺とて皆から結構信頼されていると思うが、相手はエボンの四老師。奴が今まで聖人の仮面を被りながら築き上げてきた実績と信頼の前では、どうしたって分が悪い。

 

 もしかしたらキマリ、アーロン、リュックは説得出来るかもしれないが、ユウナ、ルールー、ワッカはそう易々とは受け入れられないだろう。シーモアの内面を暴くには、やはりあのスフィアが必要だ。

 

(………マカラーニャ寺院。そこでケリを付ける)

 

 原作通りに事を進めていればマカラーニャ寺院でシーモアは死ぬ。正確に言えば真実を知ったティーダ達を殺そうとして戦闘となる。そして、その戦闘で返り討ちにした結果がシーモアの死に繋がるのだ。

 

 その後、シーモアを異界送りしようとしたところで、トワメルに見つかってしまう。結果、異界送りをすることが出来ずにシーモアは死人として蘇り、挙句の果てに魔物に変異して何度もティーダ達の前に立ち塞がってくる。今回はトワメルが来る前に、なんとかしてユウナに異界送りを完遂してもらうつもりだ。

 

(上手く事を進められればシーモアとの因縁はここで断ち切れる。原作から外れてしまうし、べベルでのイベントがどうなるか未知数になっちまうが、それでもこの先何度も襲われるよりはマシだ)

 

 魔物に変異したシーモアは『一撃の慈悲』という召喚獣に対する絶対のアドバンテージを持ち、体力も人間だった頃とは比べ物にならない。さらには石化などの特殊攻撃も使って来る。こうなると倒すのはかなり困難であり、最悪は全滅してしまう可能性も十分にありえる。

 

 ゲームではスフィア盤を成長させれば力押しで通せるが、現実にはそんな便利な物は存在しない。ここでケリを付けておかないとどんどんパワーアップして、それが三度も襲ってくる。はっきり言って冗談じゃない。

 

 それに対して人間であるシーモアに対する戦術は簡素ながらも構築済みだ。あまり使いたくないが切り札も用意した。準備万端とまでは言えないが、勝算は十分にある。ただし、問題は………俺が覚悟を決められるかということ。

 

 覚悟───つまり、シーモアをこの手で殺す覚悟。

 

 ここで因縁を断ち切るには、シーモアを殺してユウナに異界送りをして貰うということが絶対条件となる。

 

 当初の計画では殺さずに無力化できないか考えていた。どれほど憎たらしい敵であっても、ユウナに対する行動を鑑みても、流石に殺したいとまでは思えなかったからだ。

 

 だが、今ではそうも言っていられない。ルカで見せつけられたアニマの力───強大だとは思っていたが、現実に目の当たりにしてみると、あれは俺の想像を完全に超えていた。

 

 睨み付けただけで魔物を葬り去る力。それはさながら神話のバロールの直死の魔眼だ。しかも、殆どためもなく連発可能ときた。

 

 あの力を行使する相手に無力化?………無理だ。手加減してどうにか出来るとは到底思えない。また、無力化に成功した場合、その後どうするかという問題もあった。

 

 仮に殺さずに無力化しようとして、失敗すれば待っているのは俺達の死。ジスカルの幻影が出てきたことで、シーモアの内面が原作と変わらないということが分かっている。肉親ですら手にかけたシーモアが、今更俺達を殺すことを躊躇するはずもない。

 

 俺はまだ死にたくない。そして、仲間をユウナを殺されることなんて到底許容できない。ならば取るべき手段は一つだけ。

 

 ───覚悟を決めろ

 

 スピラに来る前にアーロンから言われた言葉を思い出す。この死が渦巻くスピラでは、中途半端な覚悟は何の意味も持たない。寧ろ邪魔ですらある。それ故の言葉。

 

 チラッと横目でアーロンを見れば、あの時と同じ目をして俺を見ていた。今後の展開についてアーロンは知らないはず。だが、今までの経験から何かを感じ取っているのかもしれない。

 

(人を殺す覚悟など決めたくはなかった。けど………)

 

「お待たせしました」

 

 俺が考え込んでいる内に屋敷からユウナが出てきた。シーモアは既にマカラーニャ寺院に向ってしまったらしく、この屋敷にはいなかったそうだ。だが、そんなことよりも、

 

「ユウナ、何があった?」

「………何もないです」

 

 アーロンが俺達を代表して尋ねた。ユウナの表情にはいつになく強い迷いが見受けられる。帰って来た答えは何もなかったと否定しているが、表情を見れば何かあるのは確実だ。だが、ユウナはそれでも何でもないと言い張る。

 

「ふ、隠し事が下手だな」

「本当に………何でもないんです。それよりもシーモア様はマカラーニャ寺院へ向かったそうです。私達も行きましょう」

「あ、おい、ユウナ待ってくれ!」

 

 皆に顔を見られたくないのか、それだけ言い放つと先頭に立って先に進んでしまう。それは先ほどの俺を見ているかのようだった。

 

 リュックとワッカは慌てて付いて行き、ルールーとキマリは心配そうにユウナを見つめるも、無言でその後に続いた。アーロンは俺に一瞥をくれると踵を返した。

 

 俺は最後尾に残り、皆の背中を見渡す。

 

(………迷うな、迷った分だけこの中の誰かが死ぬと思え)

 

 自分に言い聞かせて───覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───雷平原

 

「………あーあ………とうとう来ちゃっ………きゃああっ!?」

 

 リュックが憂鬱そうな声で呟くと同時、稲妻が鳴り響く。その音と光に驚いたリュックは悲鳴を上げて蹲った。

 

 ここは雷平原と呼ばれている危険地帯。正式名称はガンドフ雷平原。一年を通して雷雲が晴れることはなく、昼夜を問わず何時もどこかに雷が降り注いでいる。ここを無事に抜けるには、なるべく避雷針の近くを通るのが鉄則だ。もっともそれでも完全に安全とはいえないが。

 

 ゲームでは雷避けなどと言うミニゲームがあり、二百回連続で成功するとルールーの七曜武器を強化できる火星の聖印が手に入るのだが、現実でやるのは狂気の沙汰だ。一発だって避けられる気はしない。

 

 グアドサラムからマカラーニャ寺院に向かうには、この平原を通過することになる。雷が大の苦手なリュックにとってはまさしく地獄だろう。

 

「あ、あのさ、ちょーっとだけグアドサラムに戻らない?」

「なんだ、リュックは雷苦手か?意外だな」

「ぅぅ、小さい頃に馬鹿アニキの雷魔法が直撃して以来どうしても苦手で………」

「あー、それはご愁傷さまだな」

 

 雷平原の洗礼に早くも心が折れかけているリュック。いつもの元気な姿はなく、思いっきり腰が引けていた。

 

「か、雷が弱まるかもしれないし、一端戻ろうよ」

「ここの雷は止むことはないわ。一気に突っ切った方がまだましよ」

「無理だと言うのであれば………短い付き合いだったな」

「う~~~~あ~~~分かったよ、行くよ、もう!」

 

 リュックの弱音をばっさりと切り捨てるアーロンに対して、やけくそ気味になって叫ぶリュック。だが、何を思ったのか、俺の方に近寄って来ると手をおずおずと手を差し出した。

 

「あ、あのさ、できれば手、手を貸してくんない?」

 

 そこまでダメか。なんか原作より酷くなってる気がするのは気のせいか?ここも魔物がそこそこ生息する危険地帯には変わりないんだが………一つため息をついて手握る。

 

「ほら、でも魔物が出たらちゃんと動けよ?」

「う、うん。ありがとう。がんば…………きゃうっ!?」

 

 …………やっぱ駄目そうだな。ここにいる間はリュックの働きに期待できそうにない。リュックの手を引っ張って歩き出す。

 

 ───それにしても

 

(そういえば、あいつも雷が苦手だったな……)

 

 こうして震えるリュックの手を引いていると、日本にいる妹のことを思い出してしまった。小学校の低学年くらいまでは、雷が鳴る度にこうして手を握ってやってたっけなぁ。今までは望郷の念が沸いてしまうのでなるべく思い出さないよう心掛けていたが、リュックと妹がダブって見えて不意に思い出した。

 

(元気でいてくれるといいんだけど)

 

 この世界に来てから一年以上が経過してしまった。俺の体がどうなっているのかも心配だが、それ以上に残された家族の事が心配でもある。

 

(とと、いけね。今は周囲を警戒しないと)

 

 すぐさま気持ちを切り替える。見晴らしのいい平原とは言え、いきなり発生する魔物もいる。警戒は怠れない。

 

 暫くの間、リュックのお守りをしながら進む。しかし、とにかく歩きづらい。というか、リュックが雷が鳴るたびに手をぶん回して驚くので腕がおかしくなりそうだ。

 

 避雷針から離れすぎないようにクネクネとした道を進んでいくと、やがて道の先に旅行公司が見えてくる。

 

「あ!ねね、ほら、あそこに宿が!ちょっとだけ休んで行こうよ!」

 

 それにいち早く反応したのはリュックだ。目を輝かせて一休みを提案する。

 

「駄目だ。ここの雷はやむことがないと言っているだろう。一気に抜けたほうがいい」

 

 が、速攻で却下されていた。

 

「わ、わかってるけどさ、理屈じゃないんだよ!ねー、頼むからー!ちょこっとだけでいいからー!」

「だってさ、どうする?」

「………ふぅ」

 

 よほど雷に参っているのか、子供のように駄々をこね始めるリュック。アーロンは呆れたように眉間を揉み解していた。

 

「………私も少しだけ疲れました。休んでいきましょう」

 

 結局はユウナの一言で休んで行く事になった。いつもは疲れていても無理をして大丈夫だと言い張るユウナだが、今回はスフィアを確認するための口実だろう。もっとも、リュックにとっては福音だったようだ。

 

「ほら!早く行こう!」

「はー、まったく現金なやっちゃな」

「うっさい!雷が平気なワッカはいいけど、あたしは本当にダメなの!」

「はいはい、そこまでにしときなさい。さっさと行くわよ」

 

 一先ず休息をとるために旅行公司に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Ⅹの最強の召喚獣といえばメイガス三姉妹と言う人が多いと思います(俺もそう思う)が、個人的にアニマの方が敵対したくないです。

また、毎回の誤字脱字報告感謝です。とても助かりますm(__)m

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