最後の物語へようこそ   作:新藤大智

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引き続きオリ設定、独自解釈、ご都合主義が満載となっております。ご注意ください


最後の物語へようこそ 第十八話

「シーモア老師───お覚悟を」

 

 片や最強の一角を占めるアニマを従えたシーモア。

 片や最弱と呼ばれるヴァルファーレを従えたユウナ。

 

「…………は」

 

 普通に考えればどちらが勝かなど考えずとも分かることだが、現時点においてヴァルファーレの力はアニマを上回る。

 

「…………ははは」

 

 今までシーモアに余裕があったのは、アニマの優位性があったからだ。ユウナの手持ちの召喚ではアニマに太刀打ちできないと思っていたからこそ、俺が速攻で片を付けようと思っていた。それが、ここにきて戦力はこちらが圧倒的に有利となった。

 

 はずだが───

 

「は、はははははははははは!!!」

 

 なぜこいつは嗤っていられるんだ?普段は一切表情に感情が現れないグアド族だが、今は狂相とでも言うべき歪な形の笑みが浮かべられている。

 

「………何がそんなにおかしいのですか?」

「くくく、いや、私としたことが失礼しましたユウナ殿。実に素晴らしいものを見せられて興奮のあまり我を忘れてしまいましたよ。やはり貴女であれば究極召喚に手が届く。それだけでなく確実にシンを倒せる。前言を撤回します。貴女は是が非でも我が手中に収めよう。例えどんな手段を使ったとしても」

「貴方の物になどなりません」

 

 召喚獣同士の対決で此方の力がアニマを上回れば、あとは人間同士の対決でこちら側が圧倒的に有利。人数、質ともに確実に勝っていると断言できる。しかし、立場は完全に逆転したはずなのに、この余裕はなんだ?勝利の二文字を目前にして嫌な予感が纏わりついて離れない。

 

「ヴァルファーレ」

 

 ユウナの言葉に反応し、ヴァルファーレは急激に上昇。天井ギリギリで止まると、首を激しく振り、長い鬣を旋回させる。旋回させた鬣は眼前に一つの魔法陣を浮かび上がらせ、高速で回転を開始した。同時にその咥内には今まで溢れさせてた魔力が収束し、放たれるその時を今か今かと待ちわびる。やがて限界まで貯めこんだ魔力は魔法陣に向って濁流の如く放出される。これが、

 

 ヴァルファーレの持つオーバードライブ技。シューティング・パワー。

 

 高速で回る魔法陣は、膨大な魔力を数十条もの光の矢に変換してアニマへ射出する。光の矢は一本一本が最上位魔法を軽く上回る威力を誇る力の奔流とでも言うべきものだ。まともに受ければアニマと言えども塵も残らない。

 

「アニマ、戻れ」

 

 一方でシーモアは予想外の行動に出ていた。アニマの召喚を解除すると、今までとはどこか違った召喚陣を浮かび上がらせる。

 

(………他に切り札が?バハムート?いや、メーガス三姉妹?どっちにしろ今のヴァルファーレなら勝てると思うけど)

 

 地面に展開された召喚陣から何かが出てきたと同時、シューティング・パワーが炸裂する。光の奔流は次々に何かに襲い掛かり、着弾と同時に轟音を撒き散らし大爆発を引き起こす。立っているのもままならない程の揺れ。無秩序に放てば寺院ごと吹き飛ばしてしまうのではないかと言う威力だった。

 

 超火力での怒涛の連続攻撃。普通の召喚獣ならば中核を破壊され、跡形も残らない。だが、視界が徐々に晴れてくると、グアドガードであろう倒れている影が二つ。そして、巨大な影が浮かび上がってきた。

 

「………そんな……今のでダメなの?」

 

 汗が吹き出て頬を伝う。今のを耐えるとか本気で勘弁してくれ。

 

「素晴らしい、その一言です」

 

 完全に土埃が消えたその先に居たのは白髪の異形だ。シーモアを守る様にその身を盾にしてシューティング・パワーを受けきった姿はボロボロだが、いまだ健在。俺はその姿にどことなく見覚えがあった。

 

「まさか“究極召喚としてのアニマ”をここまで削るとは」

 

 白髪に角を生やしたミイラのような異形。本来眼球があるはずの場所には暗い闇が埋められており、見ているだけで正気を持っていかれそうになる。

 

 そう、それはオーバードライブ技、カオティック・Dを使用した際にだけ現れる異次元に潜むもう一対のアニマ。鎖で繋がれた通常のアニマと違い、呪縛を解き放ちその力を完全に開放した正真正銘の化け物。これこそが『究極召喚アニマ』だった。

 

究極召喚という単語にその場に居合わせた全員が顔色を失う。

 

「究極召喚!?なぜシーモア老師が………いえ、しかし、究極召喚を使えば使用者は死んでしまうはずです!」

「ええ、確かに世間一般ではそう言われていますね。ですが、正確には究極召喚を使ってシンを倒すから死ぬのです。究極召喚自体は使ったところで死ぬことはありません」

「そんなっ………」

 

 そう、実はそれ単体で使っても死ぬことはない。シンを究極召喚で打倒すると、その中に潜むエボン=ジュがその究極召喚に乗り移り、新たなシンとして存在を作り変えてしまう。その時の存在自体を書き換えられる苦痛は想像を絶する。

 

 強い絆を利用した究極召喚は召喚獣と召喚士が心を文字通り一つしなければいけない。つまり、それが仇になる。心を一つにした召喚獣の苦痛は召喚士に直接フィードバックされ、そのショックにより召喚士は命を落とすのだ。

 

 究極召喚を得た歴代の大召喚士達は手にしたと同時にシンに挑むため、この事実を知る者はエボン上層部でもさらに一握りの者のみ。ユウナ達が知る由もない。そして、俺としてもそのことは知っていたが、流石にアニマに究極召喚としての真の姿があるなんて思いもしなかった。

 

「でも………もう一度、お願い!」

 

 相手が何であれ、ユウナは諦めようとしない。ヴァルファーレはオーバードライブ技こそもう撃てないが、まだ無傷で存在しているのだ。最後の瞬間まで諦めることはないだろう。

 

 しかし───

 

「無駄です」

 

 相手はシンを打倒すべく生み出された究極の名を持つ召喚獣。いくらマスター召喚により力を限界まで引き出されたとはいえ、勝ち目はゼロに等しい。

 

 通常のアニマとは違い、究極召喚としてのアニマは鎖から解放された為なのか肉弾戦を好む傾向があった。無造作に打ち出された振り下ろしの拳がヴァルファーレを襲う。しかし、間一髪でこれを回避するとアニマの拳が地面と接触する。

 

 瞬間、比喩でなく大地が揺れた。

 

「きゃあっ!」

「うおおおおっ!」

 

 立っていることもままならないほどの揺れ。まるで直下型の地震だ。ただの拳一発で局所的な地震を発生させるその力。生ける厄災と言われるシンに対抗するのも頷ける。

 

「手を休めず続けなさい」

「■■■■■■■■■■■■!!」

 

 しかもそれが通常攻撃なので魔力の貯めもなく、連発可能なところがさらに恐ろしい。今は何とかヴァルファーレが避けているが、限られた空間では何時かは追い詰められてしまう。

 

 いや、というかその前に寺院自体がいつ崩壊してもおかしくない。地面には深いクレーターが幾つも出来ており、攻撃の余波で建物を支える柱が何本も折れている。もはや無事な場所を探す方が難しいほどだ。

 

(………冗談きついっての。早く決めねーと)

 

 揺れる地面に四つん這いになりながら右奥に仕込んだカプセルを一個噛み砕く。右奥のカプセルの中身はポーションではなくエーテルだ。先ほど消費した魔力が急速に回復する。切り札を使うには最低でもヘイスト二回分の魔力を確保しておかないといけない。

 

「っっ!ヴァルファーレ!?」

 

 俺が魔力を確保しているうちに、追い詰められたヴァルファーレはついに拳を打ち込まれてしまう。たった一発で崩れゆく姿にユウナが悲鳴に近い声を上げた。物理的な力だけであるならば、恐らくもう一か二発は耐えられただろうが、その拳に特殊な力が上乗せされているため耐えきれなかったのだろう。

 

 それは幻光体の分解能力と呼ばれる究極召喚だけが持つ特殊能力。

 

 シンの体は大量の幻光虫で構成された幻光体だ。即ち、召喚獣に近い性質を持っている。厄介なのは召喚獣と比べても遥かに膨大な量の幻光虫を重力魔法で引き寄せているため、通常の攻撃方法では傷を負わせても膨大な量の幻光虫ですぐに再生されてしまう。

 

 その再生を阻害するのがこの分解能力だ。回復に使うための幻光虫自体を分解してシンの再生能力を封じ込める。この能力があるからこそ唯一シンを打倒できる手段としてスピラの希望となりえたのだ。

 

 もっとも、今回はシンと似通った性質を持つヴァルファーレもそれと同じことをされ、幻想に還ることになってしまったのだが………

 

「さて、それではそろそろ終わりにしましょう」

「ま、まだです!」

 

 ユウナは消えゆくヴァルファーレを唇を噛みしめ見送ると、次の召喚獣を呼ぼうと杖を振る。が、マスター召喚を破られたユウナには、もはや勝ち目はないだろう。隠そうとしているようだが、焦燥した表情がそれを物語っている。

 

「ユウナ、待った」

「………ティーダ?」

 

 俺はユウナの召喚に待ったをかける。魔力は十分量確保できたし、準備は整った。後は札を切るだけだ。

 

「取って置きの札を切る。もう一度だけ俺に任せてくれ」

「でも……………うん、わかったよ」

 

 ユウナは一瞬迷いを見せるが、召喚をキャンセルして素直に引き下がってくれた。ちらりとアーロンに視線を送れば頷くのが見える。もう一回任せてくれるようだ。

 

 深く深呼吸をして呼吸を整える。これがラスト。今度こそ確実に決める。

 

「また加速魔法ですか?確かに厄介な魔法ではありますが、距離を取って注意していれば対処は可能。そもそも今のアニマの攻撃を掻い潜れますか?」

 

 ヘイストを発動してないときの俺でも全力で集中すればアニマの攻撃を避けることができた。ということは通常のアニマであれば、ヘイスト状態の俺を捉えるのはまず無理だ。

 

 しかし、現在の相手は肉弾戦を得意とするアニマだ。各種ステータスも上昇しているだろうし、もしかしたらヘイスト状態といえども動きを捉えられてしまうかもしれない。捉えられたが最後。あんな非常識な威力を持つ拳なども掠っただけで死んでしまうかもしれない。

 

 それらを加味した上で俺は答える。

 

「はっ、余裕」

「………ほぅ」

 

 シーモアは目を細め、警戒心を顕わにする。これは強がりでもなく、ただの事実だ。

 

「ヘイスト」

 

 再び加速魔法を発動。俺を除いた全てが緩やかな時を刻む。

 

「やはりそれですか。ですが───」

 

 俺が使える魔法は二つ。その一つが加速魔法ヘイスト。そしてもう一個は………

 

「“もう一回ヘイスト”」

「───っ!?アニマッ、今すぐ───こ───────ろ───────────────」

 

 異常に気が付いたシーモアがアニマに命令を下し、アニマは拳を振り上げた状態となるがもう遅い。加速状態からさらに加速。結果、コマ送りのように緩慢だった世界が更に遅く、いや、ほとんど停止状態となる。

 

 これが切り札 『超加速魔法 ヘイスガ』

 

 簡単に言えば本来はあり得ないはずのヘイストの重ね掛け。その効力は疑似的な時間停止の領域にすらあった。

 

 通常のヘイスガはヘイストを全体化する魔法のことだが、このヘイスガはファイアとファイガの関係のように、より威力を高めた魔法のことを示す。まあ、俺が勝手にそう定義しただけだが、ヘイストとは桁が違う効力なのであながち間違いじゃないと思う。

 

 ザナルカンドで初めてヘイストの発動に成功した時、俺は心底喜んだ。これの有無で生存率が劇的に変わるし、仲間にもかければ戦闘がかなり楽になるはずだと。

 

 しかし、喜んだのも束の間。俺はどういうわけか他人にヘイストをかけてあげることが出来ず、自分にしか使う事が出来なかった。さらにヘイストを試していくうちに発動時間の短さ、連続使用の不可、魔力の消費量が非常に高いなどの欠陥に気が付く。

 

 結局、効果は高いがゲームで使っていた時のような便利な魔法ではないとの結論に落ち着くことになる。FFⅩでもっとも使い勝手のいい魔法だっただけに、正直落胆を隠せなかった。

 

 そして、落胆しながらもヘイストを試しているうちに、ふと思ったのだ。

 

(そういや、重ね掛けは出来ないんだっけ?出来ればとんでもないスピードになるんじゃないか?)

 

 同じ魔法は重複しない。後で調べて分かったことだが、それは魔法文明が始まって三千年以上の長い年月の中で分かり切っていた法則だ。しかし、この時は駄目で元々だとヘイスト中にもう一回自分にヘイストをかけてみた。

 

(………え、出来た?)

 

 結果は何故かすんなり成功。俺は思わぬ結果に喜んだ───後で地獄が待っているとも知らずに。

 

 先にも言ったが普通はあり得ない現象だ。ヘイスト中にヘイストを使用する実験は既に何度も検証されていたが、効果が上乗せされる現象など一度も確認されていない。ちなみに他の魔法も同様だ。本来ただの無駄撃ちになるだけだったはずのヘイストの重ね掛け。しかし、俺の場合は驚くほど簡単に成功してしまった。

 

 あの時はどうして成功したのかさっぱり分からなかった。だが、今ならなんとなく分かる。おそらく“俺とティーダ”の両方に魔法がかかったのだろう。しかし体は一つだから効果が上乗せされた。そんなところだと思う。

 

 まあ、もしかしたら見当違いの推測かもしれないが、原因はどうでもいい。効果が上乗せされるという結果が重要なのだ。俺だけに可能な魔法の重ね掛け。これは対人戦での、というかシーモア戦での切り札になると確信した。

 

 だが、問題もあった。時の止まった世界が展開されると同時に俺の顔が苦痛に歪む。

 

(本当に………これだけは使いたくなかった………)

 

 最初の攻防で決めきれなかった自分自身を呪いたくなる。

 

 ヘイストはゲームの時と違って体への負担が大きい魔法であると言ったが、当然ヘイスガはその比ではない。通常の倍速以上で行動を可能にするヘイスト。そこからさらに倍速以上に加速することで疑似的な時間停止の域にまで達するヘイスガ。その尋常ではない負荷は、ただ発動するだけでティーダの鍛え抜かれた肉体に苦痛をもたらす。

 

 一歩踏み出し、二歩、三歩と足を進めれば全身の筋肉から悲鳴が上がる。まるでギチギチと千切れそうな音が聞こえてくるかのようだ。内臓は急加速による慣性により押し潰され、いっそのこと口から全て吐き出したいほどの激痛と気持ち悪さをもたらす。

 

 また、体に浸透した魔力の被膜が神経の伝達速度を劇的に引き上げてくれるおかげで、この時間が極限まで圧縮された世界でも俺だけは動けるのだが、同時にそれらを処理する脳への負担も尋常なものではない。例えるならバットで頭をカチ割られたかのような痛みを常に伝えて来る。

 

 効果は絶大。対人戦で使えば恐らく最強に近い魔法。しかし、その反動もまた効果に比例して絶大だった。

 

(ぐっ、………くそったれ…………マジで洒落にならねぇなぁ………っ!)

 

 正直に言えば、今すぐヘイスガを解除してこの痛みから逃げ出したくなる。スピラに来た当初の俺だったら、多分痛みに耐えかねてとっくに解除していてもおかしくない。

 

 事実、ザナルカンドで初めて発動させてしまった時はたったの二歩でギブアップ。すぐに解除してその場で七転八倒していたところを通りがかった人に助けられ、即座に病院送りだ。あれ以来、よほどのことがない限りこれだけは封印しようと心に誓った。

 

 けど、歩みを止めることはしない。一歩、また一歩と歩を進める。

 

 全身の筋肉が断裂し、骨は歪み、幾つかの内臓が傷ついたのか、口からは血の味しかしない。切り札と言えばカッコいいが、自爆技もいいところである。あまりの激痛に思わず気が遠くなりかけるが、気力を振り絞って耐える。今この時だけは絶対に足を止められない。

 

 

 純白のウエディングドレスに身を包み、拳を握りしめて耐えるユウナの姿。

 

 

 ここで完全にシーモアを始末出来なかったら、訪れるかもしれない未来の光景。それが足を進める原動力となっていた。

 

 這い蹲ってでも必ず成し遂げる。体感時間で数秒。俺以外の連中からすればコンマ数秒にも満たない時間で、驚愕の表情のまま固まっているシーモアの眼前に辿り着く。そして、両手で握りしめたフタタ二ティーを掲げる。

 

 僅か二、三十メートル程度の移動。たったそれだけで俺の体はボロ雑巾のような有様となっていたが、目の前の男の首を取れるのであれば高くはない代償だ。

 

(許してくれなんて言わない。ただ───)

 

 全ての力と気力を振り絞り、フラタ二ティーを一閃。手応えは殆ど感じなかった。刃は狙った首筋を滑るかのように通過して、

 

(そのまま死んでくれ)

 

シーモアの首を刎ね飛ばした。

 

 

 

 




色々と突っ込みどころ満載だと思いますが、当作品において究極召喚とかヘイストについてはこのような設定となってます。

毎度誤字脱字の報告感謝です。m(__)m

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