最後の物語へようこそ   作:新藤大智

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最後の物語へようこそ 第二話

───シン

 

現実のザナルカンドに存在した召喚師であるエボン・ジュの最強の鎧。今までに4人の偉大な召喚師が己の命を代償にして究極召喚によりその存在を滅すが、僅かなナギ節を経て復活し、重力を用いた攻撃───テラ・グラビトンは小さな島なら一撃で跡形も無く消し飛ばす。もはや一匹の魔物というより天災と言ったほうが正しいかもしれない。

 

その荒ぶる天災の真下に俺とアーロンは立っていた。

 

「………いいんだな?」

 

アーロンはシンに向かって問いかける。そして今度は俺を見据える。

 

「覚悟を決めろ」

 

何もかも見通すような鋭い眼差しで。

 

「これは他の誰でもない───お前の物語だ」

 

アーロンが言い放つと同時にシンに吸い込まれる。一瞬の浮遊感。自分という意識が希薄になっていく。俺は必死に意識を繋ぎ止めていたがそれ以上は抵抗できずに意識を手放した。

 

意識を手放す寸前でなぜか懐かしい暖かさを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは───スピラか?」

 

シンに飲み込まれ、スピラに飛ばされた俺はどこぞの遺跡の中で意識を取り戻した。どうやら無事についたみたいだ。現状を確認してからほっと一息つく。

 

俺が今いるのはどこぞの遺跡。老朽化が進んでいるのか水漏れしていて今にも崩れてきそうな雰囲気だ。それに薄暗くじめじめしていて肝試しにはもってこいの場所といったところか。いや、普通に魔物とかアンデット系の魔物がいるから肝試しの意味ないかもしれないが

 

「………って、あれ?遺跡の中?」

 

ふと気がついた。確かティーダが飛ばされた時は遺跡の外だったような気がする。それで歩き回ってたら水の中に落ちてジオスゲイノだっけ?に追いかけられ、逃げついたのがここだったような………

 

「考えたって仕方ないか」

 

ここに居ればそのうちリュックが来るだろうし、ジオスゲイノに襲われなかっただけ儲けものか。俺はあまり深く考えず、燃やせそうな物を集めて持参したライターで火を起こし、暖を取りながらリュックを待つことにした。無論、周囲の警戒も忘れずに。

 

目の前で焚き火が勢いよく爆ぜる。俺は炎を見つめながらザナルカンドで会ったバハムートの祈り子様のことについて思い返していた。

 

『………もう君に賭けるしかないんだ』

 

逃げ惑う人々の合間を縫ってシンの方に近づいていくと、急に時が止まったように人も物もシンも動かなくなる。そんな中どこかの民族衣装みたいな服を着た少年───バハムートの祈り子様が俺に話しかける。

 

原作通りの展開。のはずなのだが、俺は混乱していた。確かに原作通りの展開なのだが、台詞が俺の知っているものと明らかに違っていた。いや、台詞が違うだけならまだいい。けど、今の『君に賭けるしかないんだ』はティーダではなく俺に言ったような感じがした。

 

これは一体………いや、俺の勘違いか?感じた疑問を問いかけようとするもすぐに祈り子様の体が急に透けだした。

 

『時間切れみたいだ』

 

祈り子様が完全に消えると同時に時が流れ出す。俺はその場に立ち尽くしていたが、大きな爆発音と共にはっと我に返った。そして今はアーロンと合流することが先だと考え、このことを一時頭の奥へと追いやっていた。

 

だが、改めてこのことをじっくりと考えて見ると、やはり祈り子様は俺に語りかけていたような気がしてならない。もし………本当にその通りだとしたら、これが指し示すものは──────

 

「………って、んな馬鹿な訳ないよな。何考えてんだか」

 

俺は脳裏に浮かんだ馬鹿馬鹿しい仮説を即座に破棄し、アホか、と苦笑した。だが、何故か不安が纏わりついて離れなかった。

 

 

 

 

 

 

「………ん?」

 

その後、装備点検をしながら待つこと約三十分。何処からともなく何かが蠢く音が辺りに響く。ゴキブリかなんかの昆虫にしては音がでかすぎる。ってことは───

 

「………きやがったか」

 

呟いて上を見ると、二階の廊下に魔物が張り付いていて俺の様子を伺っていた。体長は二メートル程で、その姿はまるで毒蜘蛛のように禍々しく、俺と目が合ったときニィと嘲笑ったような気がした。魔物がゆっくりと近づいてくる。

 

素早く立ち上がり、腰に吊るしてあったジェクトの土産である刀身が赤く染まった両刃の剣を構える。

 

───大丈夫。相手は雑魚なんだ。俺ならやれる。大丈夫だ落ち着け。

 

自分に言い聞かせるように心の中で何度も繰り返し呟く。そして深く、深く、深呼吸を繰り返して平常心を保とうとする。

 

だが、構えてから気がついた。

 

「………は、はは………………なんだよ………情けないな俺」

 

手が小刻みに震え、言ってる声も心なしか震えている。

 

スピラとは比べ物にならないが、平和なザナルカンドでも海辺の近くでは魔物が極稀に出現することがある。これを知った俺はブリッツボールをやめた後、海辺の近くに住むことにした。トレーニングがてら出現する魔物との戦闘を経験するためだ。

 

だが、前にも言ったと思うがザナルカンドの魔物はその体を構成する幻光虫の密度が低いので全般的にかなり弱い。子供でも逃げに徹すれば逃げられるものがほとんどを占めるので、命の危険なんてないに等しかった。

 

しかし、ここスピラではそうはいかない。

 

本当の命の奪い合いがここにある。生か死か。食うか食われるか────ただそれだけの世界。そんな世界に俺はこれから足を踏み入れて行かなければならない。

 

そのことを改めて認識したせいか、体の震えが大きくなり、一歩、二歩と後ずさる。分かっていたはずなのに、今すぐ逃げ出したい衝動に駆られる。

 

そんな情けない感情に囚われた俺だったが、不意にアーロンの言葉が浮かび上がってきて後ずさる足を止めた。

 

『覚悟を決めろ。これは他の誰でもない───お前の物語だ』

 

その言葉が胸の中にすんなり入ってくる。

 

そう………だよな。この物語は借り物なのかもしれない。けど、俺はここにいる。これは俺の物語でもあるんだ───

 

「………覚悟を決めろ」

 

そう自分に向かってつぶやいて。ミシッ、と剣の柄を握り潰すくらいの勢いで握力を込める。手が震えないように、自分を奮い立たせるように、めいっぱい空気を吸い込んで叫ぶ───

 

「震えんな、俺!!ここはまだスタートラインに過ぎない!この先、俺はこんな雑魚とは比べ物になんねーバケモンどもと戦うんだ!!こんなところで怖気づいてんじゃねぇ!」

 

辺りかまわず反響してかなりうるさいが、そんなの今の俺には気にならない。魔物はというと自分が何か侮辱されていると雰囲気で分かったのか不気味な唸りを上げて今にも襲い掛かってきそうだ。

 

俺は初めての明確な殺意に、また震えだしそうになる体を抑えながらあらん限りの力を込めて魔物を睨み付ける。

 

そして、今できる精一杯の啖呵を切った。

 

「やってやる!かかってこいや!!」

 

その言葉と共に、襲い掛かる魔物を迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




拙い作品ですが、読んでいただきありがとうございます。
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