最後の物語へようこそ   作:新藤大智

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最後の物語へようこそ 第二十三話

「………実っ!!」

 

 その声を聞いて、反射的に飛空艇の甲板から飛び降りる。

 

 飛空艇から地面までは、高さにして優に二十メートル以上はあったが、両足をバネのように使って衝撃を吸収し、無事に着地。背後からも続々と着地を決める音がする。

 

「ユウナ!」

 

 ゲームとは違い、聖べベル宮のほぼ真上から急降下して飛び降りたので、ユウナとの距離は目と鼻の先だ。武装した僧兵もまだ駆けつけていない。幾つか想定していた中でもかなりいい状況だろう。となれば───

 

「待たせて悪い!」

「ううん!助けに来てくれただけで………って、きゃあっ!?」

 

 ここは、とにかく速攻でこの場を切り抜ける。階段を五段飛ばしで上り、逆に下りてきたユウナを有無を言わさずに両手で抱き上げる。右手は背中にまわし、左手は膝の裏あたりに添える。そう、俗にいうお姫様抱っこというやつだ。

 

 抱きかかえられたユウナは、一瞬ポカンとした表情になるも、直ぐに自分の体勢に気が付いたのか顔が真っ赤に染まる。

 

「こ、この格好って!?」

「ジョゼ寺院で言ったろ?今度は格好良く助けてみせるってさ」

「あ、あの時の………うんっ!」

 

 ウェディングドレスなんて着ていたらまともに走れる訳もなく、そのために必要な措置でもある。まあ、私情が大いに入っているのは否定しない。それにユウナが軽いとはいえ、人一人抱えて走るのは病み上がりの体には結構な負担だったりする。

 

 だが、この役目だけは他の誰であろうと譲れない。

 

「貴様………」

 

 ユウナを救出し、いざこの場から脱出しようとすると怒気を孕んだ声が壇上からかけられる。そこには何時もの仮面を脱ぎ捨て、憎悪に染まった瞳で俺を睨むシーモアの姿があった。こっちに来てすぐの俺ならば、その狂相に怯んでたかもしれない。だが、今となってはそよ風程度の圧力だ。

 

「あんたにユウナは勿体ない。返して貰うぞ」

 

 それだけ言い放って皆の元へと駆ける。可能なら置き土産で一発ぶん殴っておきたいところだったが、目的を履き違えるつもりはない。今はこいつに構わず、当初の予定通り二人に合図を送る。

 

「リュック!ワッカ!」

「オッケー!」

「おうよ!」

 

 待ってましたとばかりに、二人は手にしたアルべド印の閃光手榴弾を手当たり次第にばらまいた。数秒後、視界を真っ白に染め上げる光の奔流が辺りを覆い尽す。

 

「なんだ、この変な………っっっ!!?目、目がァアア!」

「っっ!光で目がっ!?」

「くそったれ!何も見えん!おい、侵入者を逃がすな!」

 

 閃光手榴弾の存在を知らない一般の僧兵は、その大部分がまともに閃光を見てしまったようだ。そこかしこから呻き声が上がっている。ちょっぴり悪いことをしたと思いつつも、容赦はしない。次の一手を打つ。

 

「アーロン、キマリ!」

「ああ」

「ユウナの前はキマリが守る!」

 

 二人は一瞬の逡巡もなく、敵に真っ向から突っ込んでいく。俺達を囲むように展開しつつあった包囲網の一角は、二人の突撃を受けて戦国○双の雑魚の如く吹き飛んでいった。

 

 そして、包囲網から抜け出すと同時。我らが最恐の黒魔法使いに最後の仕上げを頼む。

 

「ルールー、よろしく」

「ええ、任せなさい」

 

 薄く笑ったルールーは、魔力をその身に充実させ詠唱を開始。呪文詠唱は一瞬の内に十数回行われ、発動の条件を満たすと同時、天より雷の雨が降り注いだ。………何気にリュックが、あばばばと泡吹いているが、そこはスルーしておこう。

 

 青白い稲光が収まった後は、まさに死屍累々といった様子だった。といっても、流石に殺してはいない。式の会場にいた警備兵は殆どが倒れ伏しているが、使用したのが威力を抑えたサンダーだったので重症者もいない。これで暫く時間を稼げるだろう。

 

(なんとか上手くいって良かった………)

 

 一先ず山場を無事に超えられたことに安堵の溜息を漏らす。急遽決めた穴だらけの作戦にしては、最高に近い結果が得られたと思う。というのも、こんな無茶な作戦がまかり通ったのは、幾つかの予想外の要因があったからだ。

 

 一つ目の要因は、エフレイエの襲撃がなかったこと。奴の索敵網は、べベルを中心に周囲数キロに渡り敷かれている。それ故に気が付かれずにべベルに近づくのは無理だと諦めていたのだが、索敵範囲に入っても一向に襲ってこなかったのだ。というより影も形もなかった。もしかしたら祈り子様が手を回したのかも知れないが、正確な所は分からない。何か薄気味悪いものを感じるが、ともかく戦わずに済むのであればそれに越したことはない。

 

 二つ目は上の理由に関連しているが、エフレイエを倒さなかったことにより、聖べベル宮の真上から急降下するまで気が付かれなかったことだ。ゲームではエフレイエを倒した際に、大量の幻光虫が周囲に拡散してしまい、そこから接近に気付かれてしまった。今回は倒してないので発見されるのが相当遅れたため、乗り込む難易度がかなり下がったのだ。

 

 三つ目の要因は、プロテスの性能が思いのほか高かったことだ。知っている人が殆どだろうが、プロテスとは肉体の防御能力を劇的に引き上げる補助魔法を示す。この世界の効果時間はおよそ三十分間程度であり、プロテス状態であれば銃弾も致命傷にならず、当たっても物凄く痛いで済むらしい。ただし、流石に砲弾を受ければ即死こそしないが、まず動けなくなるだろうから注意とのこと。

 

 もともとティーダの肉体性能からすれば四、五メートルの高さから飛び降りてもどうにかなる。だが、流石に二十メートル以上の高さから飛び降りれば無事では済まない。それを無傷で済ませることができたのは、偏にアルべド族の白魔法使いがかけてくれたプロテスのお蔭だった。これがあったからこそ躊躇なく飛空艇から飛び降りて、ユウナを助けることができた。ほんとプロテス様様である。

 

(と、まあ、ここまでは文句のつけようがない位に順調だ。順調なんだけど………)

 

 あの絶望のキスイベントは阻止できたし、誰一人として怪我もせずにユウナを救出することが出来た。ほぼ最高の結果といって良いだろう。だが、あくまでここまでの話しだ。祈り子様が語る内容次第でどうにでも変わってしまう。

 

(さて、一体どんな真実が飛び出すことやら………)

 

 ユウナを無事に助け出せた喜びも束の間。俺達は一直線に祈り子の間を目指す。

 

 そして───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっと辿り着いた。

 

「よくここまで来てくれたね。待ってたよ」

 

 聖べベル宮の包囲網を抜けた俺達は、試練の間へと直行する。試練を手早くこなすと祈り子の間に到着。正確に言えば一歩手前の控室にあたる部屋なのだが、そこには一人の少年───バハムートの祈り子様が待ち構えていた。

 

 俺は即座に問い詰めたくなる気持ちを抑え、一先ずは様子を窺うに留める。流石に皆がいる前で問い詰めるのは不味いだろうし、アーロンも黙ったままなのでそれに習う。焦ることはない。ここに俺を招いたのは向うだ。ならば向うから何かしらのアクションを起こすだろう。

 

 俺とアーロン以外は、武器を構えて警戒していたが、やがてユウナが何かに気が付いたように恐る恐る声をかけた。

 

「この気配………貴方は………もしや祈り子様でしょうか?」

「うん、そうだよ」

「えっ、嘘………このちみっこい子が祈り子なの?」

「リュック!?だ、駄目だよ、そんなこと言ったら!」

「ああ、気にしてないから大丈夫。この姿はあまり表に出さないから信じられないのも無理はない」

 

 驚愕の表情を浮かべる面々に、祈り子様は肩を竦めてみせる。まあ、確かに召喚獣としての姿から今の姿を結びつけるのは無理だろう。失礼は失礼だが、リュックの反応も分からんではない。口に出したら駄目だけど。

 

「し、失礼いたしました。あの、私はビサイド島より参りました召喚士ユウナと申します。祈り子様、シンを倒す力をどうか私にお貸しください」

 

 ユウナは戸惑いつつも、その場に跪き、祈りを捧げる。目の前にいるのは最強の召喚獣と名高いバハムートの祈り子様。召喚士としての成長のためにも、そして、これからガガゼト山やザナルカンド等といった過酷な環境を踏破していくためにも、その絶大な力は必須となるだろう。

 

「召喚士ユウナ。悪いけど僕が君に力を貸すことはない」

 

 だが、その祈りは、ばっさりと切り捨てられる。

 

「………え?な、何故でしょか?」

「簡潔に言えば必要ないから」

「必要………ない?」

 

 そのあまりにも簡単な言い分に、閉口するユウナ。

 

「お待ちください!いくら祈り子様の仰る事とはいえ、納得できません。ユウナはこれまでシンを倒すために旅を続けてきました。それなのに今更必要ないとはどういう事ですか!?」

「そうっすよ!このまま引き下がる事なんてできません!」

 

 見かねたルールーとワッカが割って入る。二人は人生の全てを掛けてシンを倒すと決意したユウナを見てきた。必要ないからと、そんな簡単な説明で到底納得できるはずもない。

 

「………私が力不足だからでしょうか?」

「いや、僕から見ても君の力は十分だ。過去の大召喚士と比べてもなんら遜色ないほどには評価している」

「ならば何故ですか!?」

 

 せめて納得のいく理由を!と、普段は温厚なユウナであっても声を荒げて詰め寄った。

 

「さっきも言ったはずだよ。もう必要ないんだ。君の役目は既に終わっている」

「私の………役目?」

「召喚士ユウナ。君はこれまでよく頑張ってくれた。その気高い意思と覚悟は、スピラを救うのに十分に貢献してくれた。だから───」

 

 困惑するユウナに、まともに答えるつもりがないのか、祈り子様は淡々と言い放つ。そして、

 

 

「これまで本当にお疲れ様。君の旅はここで終わりだ」

 

 

 その言葉と同時に、背後で荒々しく扉を開く音と十数人分の足音が響き渡った。

 

「っち、お前達!呆けてないで構えろ!」

 

 突然の出来事に即座に反応できたのはアーロンのみ。背負った大太刀を抜き放ち、通路の入口へと向けた。俺も遅れて戦闘態勢を取るが、内心は混乱状態から抜け出せていなかった。

 

(なんでこんなに早く追手が!?)

 

 このタイミングで大勢の足音。となれば十中八九追手が来たとしか考えられない。だが、それにしてもあまりに早過ぎる。俺達がここに来てまだ数分だぞ?閃光弾にルールーのT・サンダーのコンボを食らったら、まともに動けるようになるまでそれなりの時間が必要なはず。なのに、もうここまで来るなんてありえない。

 

 仮に別部隊が動いたとしても、時間的に見て最初からここに来ると知って動かなければ………いや、まさか───

 

「おい、バハムート、これは貴様の差し金か?」

 

 アーロンは視線を通路に向けたまま祈り子様に問いかける。考えたくもないが、俺も同じことが頭に浮かんていた。

 

「………そうだよ。万が一にも逃げられたら厄介だからね」

「そんなっ………」

 

 祈り子様の返答に、もはや絶句することしか出来ない。祈り子様は俺に何かさせたい事があり、ここに呼んだのではなかったのか?ここに誘い込んだのは捕らえる為の罠だったのか?俺の脳裏に様々な考えが浮かんでは消えていく。

 

 俺は祈り子様を問いただそうとするが、時すでに遅し。

 

「くく、一網打尽という奴だ」

 

 耳障りな声が響く。声の主は僧兵を従えたキノック老師。此方を小馬鹿にした表情で見下していた。

 

「ユウナ殿ならば、逃げる前に祈り子の間へと行くと考えるのは当然のこと」

 

 奥からはさらに二人が現れる。一人はシーモア。そして、もう一人はエボン教の頂点に立つ人物、

 

「さよう。実に分かりやすいな、召喚士ユウナとそのガード共よ」

「………マイカ様まで」

 

 ヨー・マイカ総老師。スピラの覇権を握って半世紀になる絶対なる権力者。彼はロンゾ族やグアド族との融和政策を打ち出し、それを実現させるなど数々の功績を打ち立て、民からは慈悲深く温和な人物であると思われている。しかし、その正体は死人。エボンの秩序を乱すものは、誰であろうが許さない冷徹な顔を持つ。

 

「大層な歓迎っぷりだ。トップ3が揃い踏みとはな」

「なぁに、遠慮することはないぞアーロン。同期の好だ。この盛大な歓迎をたっぷりと味わい尽くしてくれよ?」

 

 キノックの合図と共にライフルが向けられる。

 

 不味い。この状況は相当不味い。閃光弾での目晦ましは打ち止め。プロテスの効果はまだ続いているが、持ってあと数分程度。後ろは祈り子の間があるだけで行き止まり。前に進もうとも武装した僧兵が道を塞いでいる。シーモアがいなければ召喚獣で蹴散らすという手段もあったかもしれないが、呼んだ瞬間に一撃の慈悲が飛んでくるだろう。絶体絶命のピンチといって良い。この状況を、どうするか………

 

(もう一度使うしかないか?)

 

 二度と使いたくなかったヘイスガの使用を考える。ヘイスガでシーモアさえ葬ってしまえば召喚獣が使用可能となる。そうすれば強引に突破口を開けるかもしれない。

 

 だが、幾つか問題もある。

 一つ目が、今のシーモアを一撃で殺せるかということ。ただの人間だった頃ならプロテスがかかった状態でも首を刎ねることはできた。しかし、今のシーモアは魔物化しているため、当然人間だった頃よりも体力、防御力は飛躍的に上昇している。死ぬ気でヘイスガを発動させて攻撃したとしても、一撃で仕留め切れるかと言われれば、絶対の自信はない。

 

 二つ目に、仮に首尾よくシーモアを倒したとしても、召喚獣がこちらの味方だとは限らないことだ。この罠を仕掛けたのがバハムートの独断ならいいのだが、最悪全ての召喚獣がグルの場合もある。いや、むしろそちらの可能性の方が高い。そうだとすれば、ここから逃げられる確率はほぼゼロだろう。

 

 ヘイスガを使ったところで結局無駄になる公算がでかい。下手すればそのまま死んでしまう。

 

(なら、ここは原作通りに大人しく捕まって浄罪の路に落とされるという手もあるか?)

 

 ………いや、だめだ。原作を知っていて罠を仕掛けてきた以上、大人しく捕まっても何かしらの手は打ってあると考えるべき。あるいは浄罪の路に落とすと言う処罰ではなく、そのまま処刑になるかもしれない。

 

(どちらにせよタダでは済まないか。なら、大人しく捕まるよりもいっそのこと………)

 

 あまりに分の悪い賭けになりそうだが、せめてもの意趣返しにバハムートの思惑をぶち壊して、あの余裕ぶったシーモアの首をもう一度刎ね飛ばしてやるのもいいだろう。

 

 自分でも過激な思考に染まりつつあるのは自覚している。或いは自棄になっているのかもしれない。だが、それでも今までの努力も苦労も覚悟も、全てが無駄になるよりはましだ。

 

 俺はヘイスガを発動させる準備を整えるために、アーロンの陰に隠れてカプセルをホルダーから取り出す。

 

「おっと、そこのお前、動くな」

「………っち」

 

 その動きをキノックに見咎められた。いくら慎重に動いたとしても、流石にここまで注目されていてはちょっとの動きでもばれてしまうか。

 

「無駄な抵抗はやめておけ。大人しくしていれば貴様らは公平な裁判で裁かれる。だが、ここで抵抗するのであればそのまま射殺もやむなしだ」

「待ってください!私達は────」

「黙れ、どんな理由があろうと貴様等はエボンに反逆し盾突いたんだ。有無を言わさずに殺されないだけ有り難いと思う事だ」

「っ、それは………」

「それで、どうする?大人しく捕まるか、抵抗するか?」

 

 俺はどっちでもいいぞ、と嗜虐的に笑いながら片手を上げるキノック。それに呼応するかのようにライフルの引き金に指がかけられた。

 

 やはり大人しく捕まった所で処刑される道しか見えない。あるいはユウナだけは生き延びられるかもしれないが、その場合も結局はシーモアの操り人形になってしまう。

 

 やっぱり戦るしか───

 

「ふむ、少し待たれよ、キノック老師」

 

 そう、思った瞬間だった。皺枯れた声が割り込んでくる。

 

「マイカ様?如何なさいましたか?」

「なに、少しばかりこやつ等と話がしたくてな」

「………は、ですがお気お付けください」

「分かっておる」

 

 話がしたいと言うマイカに、キノックは怪訝そうな表情を浮かべるも素直に従う。マイカはゆったりと前に出てくると口ひげを撫でつつ、俺達を見渡した。

 

「さて、召喚士ユウナ一行よ。此度は、よくもエボンの聖なる儀式に泥を塗ってくれよった。そればかりかシーモア老師に危害を加える重罪まで犯した」

「お言葉ですが、マイカ様。先に罪を犯したのはシーモア老師の方です!老師は父君ジスカル様をその手で───」

「そのようなこと既に知っておる」

「………ぇ、マイカ様………知っていてなぜ………」

「エボンに逆らい秩序を乱した。この事実こそが重要なのだ。エボンの老師としては、この罪見過ごすわけにはいかぬ。それ以外は些細なことよ」

 

 親殺しを些細な事と言ってのけるマイカに絶句するユウナ達。元々エボンの民ではないリュックでさえも、その歪な考えに息を飲んだ。

 

 マイカは現状の維持こそが最良だと考えている。エボンの名の下、召喚士が命を投げだしてシンを倒し、数年間の平和を享受する。そして、またシンが復活し、それを倒す。千年続いた死の螺旋。死してなお、それを維持することに全てをかけている。

 

「エボンの秩序を乱した汝らの罪は重い。その罪は極刑にすら値するであろう。儂はスピラに仇為す者を何人たりとも許しはしない」

 

 失意の溜息を付く。期待していなかったが、話して分かってくれる相手じゃないか。しかも裁判をすると言ったのにその前に極刑を宣告されるとはな。だが、これで気持ちが固まった。こうなれば徹底的に───

 

「だが、それとは別に話しておきたいことがあってな?先の聖べベル宮での大立ち回りは誠に見事であった。あそこまで鮮やかに警備を抜かれるとは思わなんだ」

 

 ───いきなり何だ?突然の話題転換と褒め言葉に眉を寄せる。

 

「儂は齢百に近いが、あれほど見事なものを見せて貰ったのは初めてであった」

「ふん、で?それがどうした?」

「いやなに、然るに褒美を与えようかと思ったまでのこと。そら、何が欲しいか、述べてみよ」

「………呆けたか?ヨー・マイカ、貴様何を言っている?」

 

 状況が飲み込めない。マイカは何を言っているんだ?先程まではエボンに反逆したのを許さないと言っておきながら、見事な大立ち回りだった?褒美を与える?………やっぱり状況が全く飲み込めない。

 

「マイカ様?」

「反逆者を相手に何を………」

「なに、単なる戯れだ」

 

 シーモアやキノックですらマイカの言葉に困惑の様子を見せている。

 

 一体何なんだ?マイカは何がしたい?ここで俺達を見逃せと言えば見逃して貰えるのか?僅かな希望をチラつかせて後で絶望を味わわせるためか?だが、そんな事をして何になる?

 

 分からない。混乱状態にある頭を必死に回転させるが、いくら考えてもマイカの考えが読めない。

 

「あ、あの………」

「ふむ、いきなり言われても困惑するのも当然か。ならば儂が自ら選んでやろう。そうさな───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ─────この痴れ者の死、なんぞ如何であろうか?」

 

 

 

 

 その言葉と共にドスッ、と鈍い音が聞こえた。音の発生源はシーモアの背中。簡単に現状を説明すれば、今まで背後に控えていた僧兵が短剣でシーモアの心臓を貫いていた。

 

「………は?」

 

 それだけの事なのだが、目の前の光景に理解が追いつかない。背後から刺されたシーモアでさえも、何が起きたのか分からないといった顔をしている。

 

 そして、静寂を貫いて絶叫が上がる。

 

「────がっっっ!?マイカ、貴様これはどういう事だ!?」

 

 マイカはシーモアの叫びを無視して冷静に観察を続けていた。

 

「ふむ、流石に魔物化しているだけあって、心臓を貫いても即死とはならんか」

「ぐっ、こんなちっぽけな短剣で、私をどうにかしようなど………………っ!?」

 

 シーモアは力任せに短剣を引っ張り出そうとするも、短剣はビクともしない。それどこころか短剣を掴んでいる手が爛れ始めている。

 

「それは主の為に特注した一品でな。聖堂にて十年以上も祈りを捧げた特別な清めの塩を混ぜ込んである。主のような存在にはさぞ効くであろう?無論、それだけではない」

 

 マイカが片手を上げると、今まで俺達に向けられていた銃口が一斉にシーモアに向けられる。

 

「マ、マイカ様?これは一体………」

「キノック。貴様は何もせずに黙って見ておれ。詳細は追って話してやろう」

 

 口をあんぐりと開けて間抜け面を晒していたキノックは、ようやく我に返ったように恐る恐る尋ねる。が、マイカの威圧を受けてですごすごと後ろに下がることしか出来なかった。

 

「マイカ、貴様………何のつもりでこんなことをっ………」

「先程も言うたであろうが。儂はスピラに仇為す者を何人たりとも許しはしない」

 

 呪詛の如き叫びが木霊する。が、マイカは眉すら動かさずに淡々と話す。

 

「何を馬鹿なことを………それならば、そこにいる者達の方がエボンに仇を───」

「人の話しはきちんと聞くがいい。儂は『エボン』と言う小さな枠ではなく『スピラ』と言ったのだ。シーモア=グアド。貴様がシンに取って代わり、スピラを死で満たそうという考えは既に知っておるわ」

「っっ!?」

 

 シーモアの顔にはっきりとした動揺が浮かび上がる。誰にも打ち明けたことのない己の計画を何故知っているのか。

 

「何故儂が貴様の計画を知っているのか。それは、とある御方から聞いたからだ」

「………とある御方だと?」

 

 その言葉にはっとして祈り子様を見る。シーモアの計画を知っていて、尚且つ権力の頂点を極めたマイカが敬う相手など極々限られる。

 

「マイカ、少々時間を掛け過ぎですよ」

「これは申し訳ありませぬ」

 

 そう思ったのだが、違った。とある御方とは、祈り子の間から新たに姿を現した人物。

 

「馬鹿な………お前は………」

「感謝なさい、シーモア。この私がわざわざザナルカンドから出向いて来たのですから。もっとも、貴方の方はついででしかありませんが」

 

 誰もがその存在に目を奪われた。

 

 彼女は、一見して若い女性の姿をしていた。抜群のスタイルをこれでもかと強調する煽情的な衣装を身に纏い、鮮やかな銀髪を自身の身長と同じくらいにまで伸ばしている。

 

 エボンの信徒であれば、一度はその人の肖像画を目にしたことがあるだろう。大召喚士とはまた別格とされ、半ば神格化された存在。本来はザナルカンドの最奥にいるべき者。死の螺旋の原点。

 

「なぜ………なぜ、お前がここにいる!?答えろ!ユウナレスカ!」

 

 感情を顕わにしたアーロンがその人物の名を叫ぶ。俺も信じられない思いで一杯だが、特にアーロンが受けた衝撃はどれほどのものか。

 

 十年前にジェクトを究極召喚の祈り子に変え、ブラスカと共に死に追いやった存在。そして、アーロンに致命傷を負わせ、死ぬ原因となった存在が目の前にいる。

 

「久しいですね、アーロン。十年振りですか。死人に言うのも変ですが、お元気そうでなにより」

「………御託はいい。俺は質問に答えろと言ったはずだ」

「せっかちは死んでも変わりませんね。まあ、いいでしょう。私がここに来た理由は二つありますが、その内の一つはあれをここで確実に処理するため」

 

 すっ、と指さす先には、憎悪と苦痛に顔を歪めているシーモアがいた。

 

「何故、私を………マイカも貴様も、死こそが救いだと理解していたはずだ」

「ええ、物語での私達はそうだったようですね。だから今までそのように演じていただけのこと」

「物語………演じていた?………一体何を言っている?」

「っ!そうか、あれを知っているのか」

 

 シーモアには分かるはずもないが、俺とアーロンには今ので十分に伝わった。物語。演じていた。そこから考えられることは一つしかない。

 

『悪いが私の口からは何も言えん。バハムートからは余計な発言を禁じられているからな。ただ、君はべベルで選択を迫られるとだけ言ってこう。そうなるように仕組んだのは私達だ。正確には後二人いるが、真実を知った時に恨むのは私達だけにして欲しい』

 

 ベルゲミーネがあの時言っていた二人とは、つまりマイカとユウナレスカのこと。考えてみればこの二人を味方に引き入れることが出来れば、何をするにしても融通が利く。

 

 そして、もう一つ分かった。『万が一にも逃がしたら厄介だからね』とは、シーモアのことだったのか。だが、タイミングといい、言い方といい、誤解を招く様な発言は本当にやめてほしい。危うく自滅覚悟で無意味な特攻をするところだった。

 

「死に行く者にこれ以上は蛇足というもの。この私が貴方の為だけに組み上げた術式で、痛みもなくこの世から消して差し上げましょう」

 

 ユウナレスカはエボンの印を切ると、ゆったりとした動きで舞い始める。どこまでも美しく、それでいて恐ろしくも感じる。キーリカで見たユウナの異界送りと似ているが、何処かが決定的に違う。死そのものを体現したかのような舞い。

 

「………消える?………この私がこんなところで?」

 

 腕の一振りごとにシーモアの体が崩れる。見る見るうちに体の半分以上が消失し、もはや消滅から逃れられないのは誰の目から見ても明らかだった。

 

「………認めたくないが、ここまでか。だが、私を消したところで、スピラの悲しみは消せやしない。絶望しかない世界で、せいぜいもがき足掻くといい」

 

 そして、死の舞踊が終わりを告げる。

 

「消えなさい『異界葬送』」

 

 体を構成していた幻光虫が強制的に分解され、シーモアという個は完全にこの世から消し去られた。その場に残されたのは、微かに漂う幻光虫の残滓のみ。

 

 FFシリーズでも屈指のしつこさを誇っていた男は、今俺の目の前であっさりと消滅した。

 

 

 

 

 

 

 




誤字脱字報告ありがとうございます。本当に助かります。

次回はさらにご都合主義、オリ設定、独自解釈がふんだんに盛り込まれております。大丈夫だ問題ない。という方は読んでやってください
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