最後の物語へようこそ   作:新藤大智

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最初に謝っておきます。ご都合主義、オリ設定、独自解釈をぶっこみ過ぎました。なんとか形にはなっていると思いますが、ちょいちょい矛盾があるかもです


最後の物語へようこそ 第二十四話

「さて、これで懸念事項は消え去った。約束通り真実を話すよ。けど、その前に場所を移そうか。ティーダ、アーロン。君達は付いて来るといい」

 

祈り子様はそれだけ言うと、返答も待たずに祈り子の間へと姿を消した。ユウナレスカも俺達を一瞥すると祈り後様の後を追う。

 

「両名を除き、他の者はこの場にて暫し待っておれ」

 

マイカはというと、祈り子の間の扉を守る様に警備兵を並べるとそう言い放った。どうやら俺とアーロン以外を通す気はないらしい。

 

一方。残された俺達は少しの間その場から動けなかった。あまりの急展開。そして、あのシーモアがここまであっさり死ぬなど今でも信じられない。

 

「あの、これって一体どういう状況なの?シーモア死んじゃったし、あたしにはちっとも理解できないんだけど」

「キマリにもわからない」

「つーか、あの方は本物のユウナレスカ様………なんだよな?」

「………恐らくとしか。それを含めて分からないことだらけだわ。旅がここで終わり?約束?真実?シーモア老師がシンに成り代わる?………駄目ね。重要そうなキーワードは幾つか出ていたけど、推測するには不明確なことが多すぎる」

 

四人は訳が分からない現状に戸惑っている様子だった。無理もない。ある程度事情を知っている俺でさえついて行けない。FFⅩを知らない連中からすれば、現状を把握するのは余計に無理だ。

 

「あの、祈り子様は二人を名指しで呼んでたけどどうして?真実を話すって?それにあのお方はユウナレスカ様………だよね?一体何が起こっているの?」

「あー、なんつーか………」

「お願い、知っていることがあるなら教えて」

 

真っ直ぐに此方を見詰めるユウナに、どうしたものか思案する。ユウナには話してもいいと思っているが、俺の持つ情報もここまで原作が壊れた状況でどれほど当てになるのか………。そもそも俺も知るためにここにいる。ユウナには悪いが、やっぱり祈り子様に話を聞くのが先だ。

 

「悪い、先に祈り子様の話しを聞いてくる。だから、少しだけ待っててくれ」

「でも………それなら、私も一緒に行っ───」

「ならぬ。先程も言うたであろう。ここから先へ進むことが出来るのは二人のみ」

 

珍しく食い下がるユウナだったが、そこにマイカが割って入る。

 

「召喚士ユウナ、お主はここで大人しく待っておれ。何と言おうとここは通さぬ」

「マイカ様………っ………はい………」

 

ここは通さないと断言する様子を見て、ユウナも引き下がるしかなかった。俺は少しだけ罪悪感を覚えながらも、行って来ると声をかけて祈り子の間の扉を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祈り子の間

 

扉を空けた先では、祈り子様が待ち構えていた。部屋の中央に設置された透明なドームの上に浮かんでいる。そして、その傍にはユウナレスカの姿もあった。一応、そちらにも常に気を配っておく。大丈夫だと思うが、魔物としてのユウナレスカを知っていると全面的に信用することは出来ない。

 

「さて、改めてよくここまで来てくれたねティーダ、アーロン。君は何から聞きたいかな?」

 

何を聞きたいか、そんなこと決まっている。

 

「全部です。何故この世界に俺を召喚したのか、俺に何をさせたいのか。その訳を一から全て話してください」

「まさかここまで来て嫌とは言うまいな?」

 

ここまで来たからには、当然全てを知りたい。俺を呼んだ理由だけじゃなく、この世界で起きていること全てを。

 

「分かった。少し長くなるけど、全部話すよ。でもその前に、君はこの世界をどう思ってる?ゲームの中の世界だと思っているかい?」

「………いえ、思ってません。この世界の人達は皆確固たる自分の意思で動いています。到底ゲームの中とは思えない。俺はこの世界がFFⅩと酷似している並行世界のような物だと考えてます」

「そうだね、概ねその認識でいいと思う。そして、同じでなく酷似している世界ということは、FFⅩとは幾つかの相違点があるということだ」

 

相違点があるのは分かっている。全く同じなら俺がここにいる理由がないからな。そこに俺が呼ばれた原因がある。

 

祈り子様は、一拍置いて話し始めた。

 

「………事の始まりは遥か昔。機械文明どころか魔法文明すら存在しない、召喚士達の最盛期。史上最高の召喚士と言われた男が、とある召喚術を目指したことから全てが始まった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機械文明が栄えたのが千年前。魔法文明が栄えたのが三千年前。そして、それよりもさらに遥か昔。事の始まりである一万年前。召喚文明は最盛期を迎えていた。

 

この時代の召喚士達は現代の召喚士達と比べると圧倒的に質、量の両面で勝っていた。ユウナレスカ程の召喚士でさえ、この時代では、そこそこの才能と評価される程度でしかないほどに。

 

そんな中で史上最高と言われた召喚士がいた。その名は十四代目エボン。

 

「エボン?いや、エボンって千年前のザナルカンドの召喚士だったんじゃ………」

「十四代目と言ったろう?エボンとは当代最高の召喚士に与えられる称号のようなものであり、人名ではなかった。この点でまずFFⅩと少し違う」

 

彼は幼いころから砂が水を吸収するかのように召喚術をマスターしていき、一通り召喚術を修めると、今度は独自の召喚術の開発に乗り出す。

 

史上最高と謳われる彼は、その才能に見合った成果を残していった。

 

複数の召喚獣を一度に呼び出す多重召喚。

召喚獣の力を限界まで引き出すマスター召喚

マスター召喚すら超えて限界以上に力を引き出す狂化召喚(ヘレティック召喚)

召喚獣の一部を自分の体に反映させる憑依召喚

召喚術を応用して自分を特定座標に召喚する逆召喚

 

難易度が高すぎて当時の優秀な召喚士ですら使える者が一握りだったが、本当に様々な召喚術を編み出していった。そんな彼はほどなくして十四代目エボンの名を獲得する。誰も反対する者はいなかった。それだけのことを見せつけていたからだ。

 

若くして召喚士の頂点を極めた十四代目エボン。だが、彼はそこで満足することはなかった。今までの召喚術では飽き足らず、さらなる召喚術の高みを追い求めた。

 

それが究極召喚だ。そして、FFⅩとの決定的な相違点となった。

 

「待て、究極召喚とはシンを倒すためにユウナレスカが考案した召喚のはずだ」

「そうだね、アーロンの言う通り。今まで僕らはそれを究極召喚と呼んでいた。けど、実際には出来損ないの究極召喚でしかない」

「出来損ないだと?」

「正確に言えば、本来の究極召喚の第一段階といったところかな。………ティーダ、いや、実。君は究極の召喚って何だと思う?」

 

いきなり究極の召喚と言われても、ゲームでのイメージが強すぎてジェクトが究極召喚獣となった姿しか思いつかない。幻光虫の分解能力を持っていて、シンをも打ち倒すほど強力な召喚獣。それが俺の持つ究極召喚のイメージだ。

 

「召喚術は何も召喚獣という形にこだわる必要はないんだ。君はそれを知っているだろう?」

 

召喚獣ではない?召喚獣でなく召喚された物なんて………いや、ある。一つだけ思い当たる物があった。

 

「………夢のザナルカンド?」

「そう、それが究極召喚に最も近い召喚だ。もし、夢を現実に召喚することができたなら、それは究極の召喚と呼ぶに相応しいだろ?」

 

十四代目エボンが追い求めた究極召喚───またの名を夢幻召喚とも言う。術者の夢(想い)を現実に召喚するというでたらめな召喚術。

 

構想当初は、いくら彼であっても無理だと言われていた。普通に考えれば夢や空想を現実に召喚するなどど無茶にもほどがある。事実、彼を持ってしても究極召喚の第一段階を形にした段階で行き詰まることになった。

 

だが、その研究過程で幾つかの召喚術が偶発的に見つかることになる。その内の一つが異世界の物を召喚する異界召喚という召喚術だ。

 

当初はスピラの何処かにある物をランダムに呼び寄せてしまう術だと思われていた、しかし、明らかにスピラでは再現できない物が召喚されると、この召喚術の本質が判明することになった。

 

究極召喚の開発に行き詰っていたエボンは、異世界の存在に目を付ける。異世界に行けば何か新しい発見や発想が生まれるのではないか、そう考えた。

 

自分ならば危険な世界でもどうにかなる。数多の強力な召喚術があるし、万が一危険になれば逆召喚で逃げればいい。反対する周囲を押し切り、エボンは異界召喚の先の座標を特定すると逆召喚で自分を異世界に召喚する。

 

これがスピラで目撃された最後の姿となる。

 

それから何日経とうとも、エボンが戻ってくる気配はなかった。助けに行こうと言う声もあったが、エボンですら帰ってこれない世界に誰が助けに行けるというのか。

 

やがて、エボンのことは不幸な召喚事故として処理され、異界召喚と究極召喚は禁術として封印されることになった───エボンを異世界に残したまま。

 

「その異世界ってまさか………」

「君達の世界だ」

 

エボンは、百年前の日本に辿り着いていた。

 

日本に来た当初は、物珍しそうに辺りを観察していたエボンだが、やがて違和感に気が付く。この世界には幻光虫が殆どいないことに。これはイコールで召喚術が使えないことを示す。いくら優れたドライバーであっても、燃料のない車に乗った所で何の意味もない。つまりはそういうことだった。

 

召喚先の世界に幻光虫が殆どいないとは、エボンには予想もつかなかった。あって当たり前の物は、失ってから初めてその重要性に気が付くのはどの世界でも一緒だ。召喚術に全てを捧げてきたエボンは絶望に沈んでいたが、そんな時に近くの村に住む一人の女性が声をかけた。

 

エボンにとって召喚術の使えない世界に来てしまったのは不幸だった。だが、そんな中でも幸いだったのが、その女性がこの時代には珍しいほどによそ者に寛容だったこと。彼の顔がアジア系であり、日本人と言えないこともないことだった。

 

一人暮らしをしていた彼女は、絶望に打ちひしがれている彼を放っておけず、無防備にも家に上げて何かと世話を焼いた。最初の頃は無気力状態だったエボンも、彼女の献身的な支えにより、徐々に生気を取り戻していくことになる。

 

さて、一人暮らしの女性の所に男性が上がり込めばどうなるか?一概に同じ結果になるとは言えないが、紆余曲折あったものの、二人は例に漏れずやがて惹かれ合っていった。

 

そして、惹かれ合った二人が行きつく先となれば結婚だ。戸籍のない彼に結婚など出来るのかという問題があったが、ある程度の金と権力への繋がりがあれば、この時代において偽造はさして難しくはない。

 

結婚に際して戸籍の問題はなくなった。が、唯一問題があるとすれば、名前に関してだった。エボンは自分の名前に誇りを持っている。正確に言えば称号だが、この名前を捨てたくはなかった。だが、明らかに日本人らしくない名前であり、周りから奇妙にみられてしまう。彼は戸籍を偽造する際に名前を日本風にするか、誇りをとるかで真剣に悩んだ。そんな彼を見かねて女性は言った。

 

『私の苗字は【江本】です。だから読みようによってはエボンとも読めます。その、私はエボンの名を忘れたりしません。それだけではダメでしょうか?』

 

その言葉に、エボンは力が抜けた様にふっと笑い、名前の変更を了承した。

 

「そして、エボンは江本と名を変え、現代にその最高の召喚士の血脈を残してきた───江本実。君の一族のことだ」

「………っ」

 

話の途中で何となく予想出来ていたが、それでも衝撃が大きい。こんな時は、【悲報 俺氏異世界人の血を引いていた】とかスレでも立てればいいのか?いや、悲報じゃなくてファンタジー好きには朗報か?そんな馬鹿なことを考えつつ先を促す。

 

「………俺がスピラと妙な繋がりがあるのは分かりました。でも、それがどうして俺を召喚することに繋がるんですか?」

 

今までの説明では、まだ俺が召喚される原因は見えてこない。

 

「話を続けよう。十四代目エボンがスピラから去ってからというもの、召喚文明は徐々にだけど衰退を始めた。召喚術の大家同士の争いや魔法文明が始まったことが原因だったり理由は幾つかあるけどね。次いで機械文明が始まり、瞬く間に隆盛の時を迎える。そして、今から凡そ千年前。べベルとザナルカンドで戦争が始まった」

 

両者とも戦争の主力は機械の武器であり、べベルは質、量ともにザナルカンドに勝っていた。ザナルカンドが優位に立てるのは、無駄にある歴史と召喚術くらいだった。徐々に、だが確実に劣勢に陥っていくザナルカンドは、形勢逆転を狙って禁術に指定されている召喚術に手を出してしまう。そして、見つけたのが、異界召喚や究極召喚の文字だ。その時の権力者達は藁にもすがる思いでこれに飛びついた。

 

しかし、如何に厳重に保管されていたとはいえ、なにせ一万年近く前の古い資料だ。劣化が激しく、至る所が霞んでいたり、腐食してしまって解読は中々進まなかった。仮に解読できても難易度があまりに高すぎて発動できない術もあったりした。

 

そんな中、どうにか不完全ながらも異界召喚を再現することに成功。これで異世界の有用な武器でも引っ張ってこれれば、逆転の目も出てくるかもしれない。あまりに楽観的な考えだが、そんな考えすら浮かんでくるほどザナルカンドは劣勢に追い込まれていた。

 

そして、ザナルカンドの召喚士は、祈る気持ちで異界召喚を発動させる。結果、呼び出されたのは武器ではなく、一人の男性だった。正確には不完全な異界召喚だったため、スピラと深い繋がりを持つ男性の精神が呼び出された。

 

「その男性の名前は江本樹………君のお父さんだ」

 

その名前を聞いて、一瞬頭が真っ白に染まった。

 

訳が分からない。親父が千年前のザナルカンドに召喚されていた?しかも精神のみで?まさか、精神のみが召喚されていたから意識不明が続いていたのか?いや、しかし

 

「オヤジが意識不明になったのは十年前です。千年前の機械戦争のときには………」

「ここと地球とでは時間の流れに大きな差があるんだ。その差は実に百倍。この世界が時間経過の早いゲームを元に生まれたからなのか、それとも単純に世界が違うからなのかは分からないけど」

 

つまり、地球の十年前はスピラの千年前に相当する。時間的にはほぼ同時期だ。

 

「召喚した当初はお互いに随分と混乱していたらしいが、父君の調査を進めていく内にとある事実が判明した。それは───」

「規格外ともいえる召喚術の才能です」

 

ここまで一言もしゃべらなかったユウナレスカが、突如として割り込んでくる。

 

「突然申し訳ありません、お兄様。ですが、お父様の事だけは私から話したいと思います」

「え?お、お兄様?お父様?」

 

驚いて視線を向ければ、ユウナレスカが大真面目に俺を見てお兄様と言ってくる。というか、お父様って親父のことなのか?

 

「はい。私は樹お父様に救われ、家族同然に育てて頂きました。なのでお兄様と呼びたいのですが………その、駄目でしょうか」

「いや、あー、駄目じゃないですけど………」

「よかった。ありがとうございます。お兄様にはどうしても認めてもらいたかったので」

 

心底ほっとした表情のユウナレスカに激しい違和感を覚える。ぶっちゃけ誰だこれってレベルだ。先程まで見せていた高圧的な態度や原作のキャラと違い過ぎる。アーロンもユウナレスカの変わりっぷりに目を丸くして驚いているほどだ。

 

いや、だけどこちらの方が素なのか?FFⅩの自分を演じていたと言ってたし、今のユウナレスカからは魔物化するような禍々しさは感じられない。とにかくゲームの時とは全くの別人だ。

 

「すみません、話を戻します。お父様は検査の際に規格外の召喚術の才能を発揮してしまいます」

 

召喚文明最盛期において、史上最高の召喚士と言われた十四代目エボン直系の血筋。その血は伊達ではなかった。江本樹は、召喚獣と異常なまでの親和性を示し、何の知識も経験もなしに召喚獣を従えることができた。また、多重召喚や通常の召喚が他の召喚士のマスター召喚に匹敵するほど召喚獣の力を自在に引き出すことすら可能だった。

 

これが悲劇に繋がった。追い詰められつつあったザナルカンドが、この力を使わない訳がない。ザナルカンドの上層部は即座に江本樹の前線投入を決定する。

 

無論、彼はこれを拒否した。人として医者として、人殺しなどできないと要求を突っぱねた。が、戦時中は勝つためにあらゆる手段が肯定される。上層部は何の躊躇もなく彼を脅した。

 

『君が拒否するならいいだろう。代わりに君の大切な人を呼び出して戦わせるだけだ』

 

無論、そんな器用なことは無理だ。これはただのブラフに過ぎなかったが、そんなこと知る由もない。彼は、家族がこんな危険な世界に呼び出され、戦争に加担させられるなど考えたくもなかった。

 

結局、家族の安全と戦争への加担を天秤にかけた結果、家族の方に天秤は傾く。

 

それから地獄のような日々を過ごした。前線を飛び回り、指示に従って召喚獣で敵を蹂躙していく。元々医者であり、人を救う仕事に何よりの生きがいを感じていた彼にとっては、耐えがたい苦痛な日々が続く。一時は自殺も考えたが、出来なかった。もし自分がいなくなれば家族が呼び出されてしまうかもしれない。それだけは避けねばならなかった。

 

そして、前線を駆け巡り半年が経った頃。彼はべベルからとある街を奪還した際、ユウナレスカとゼイオンに出会うことになる。二人はべベル兵に銃を向けられ、今にも殺されそうになっていたが間一髪のところで召喚獣を盾にしてなんとか助けることができた。

 

ほっとしたのも束の間。彼女達から話を聞けば、戦争で両親は既に亡くなっており、引き取り手もいないとのこと。今まで二人で身を寄せあってなんとか生き延びてきたと聞いて、彼は少し悩みながらも二人を引き取ることにした。

 

恐らく代償行為といった側面もあったのだろう。彼は時折二人を通して日本にいる娘と息子を見ていた。彼女達もそのことに何となく気が付いていたが、不満はなかった。理由がどうであれ、二人が彼に救われたことに違いはなく、確かな愛情と温もりをもって接してくれたからだ。

 

ユウナレスカは成長するにしたがって、せめて父の負担を少しでも減らそうと召喚士となることを決める。幸いと言っていいのか分からないが、彼女は召喚士として極めて高い適性を持ち、正式な召喚士となるのにそう時間はかからなかった。

 

十分な実力が付いたと判断すると自分も戦争に参加することを父に伝える。当然の如く反対されたが、そこは無理に押し切った。会うたびに生気を失っていく父を見ていられなかったからだ。

 

長く続いている戦争は激化の一途を辿り、ザナルカンドで最大の戦力を誇る彼は、連日のようにその力を発揮させられていた。マスター召喚した時と同等の力を発揮する召喚獣達は、敵の兵器を物ともせず、戦場にて建物を薙ぎ払い、敵を無慈悲に消していく。

 

自らの手で行われる破壊と殺戮。敵からは死神と恐れられ、助けたはずの味方からさえ畏怖や拒絶の視線を向けられる。そんな日々は彼の心を少しづつ確実に削り取る。

 

やがて、彼はただ命令に従うだけになっていった。心を空っぽにして、ただ命令に従っていれば耐え難い苦痛から逃れられるから。

 

ユウナレスカが本格的に戦争に参加し、彼の支えになれるくらいの実力を得る頃には、彼の感情は既に殆どが失われていた。もはや命令をこなすだけの機械と言っても過言ではなかった。

 

そして、戦争に参加して十年。積み上げたその比類なき戦績により、彼には最高の召喚士であるエボンの称号が送られた。江本と名を変えたエボンの子孫がスピラに舞い戻る。そればかりか、欲しくもないエボンの名を再び獲得するとは、どれほどの皮肉だろうか。

 

彼がエボンの名を獲得する頃、ザナルカンドは戦況をなんとか拮抗状態にまで盛り返していた。

 

だが、結局出来たのはそこまでだった。いくら優れた個であっても戦況を完全にひっくり返すには至らない。一時的にでも拮抗状態に持っていけただけ奇跡という物だろう。複数の召喚士で取り囲み、とにかく彼をその場に釘付けにする遅滞戦闘など、彼に対する戦術が確立され始めてからは、べベルが再び戦況を優位に傾けていった。

 

更に時は流れ、戦争の末期。ザナルカンドの敗北は、もはや覆らないところまで来ていた。上層部はこのままべベルに蹂躙されるくらいなら、と究極召喚を利用してザナルカンドを永遠の夢として召喚、保存することを決定した。彼はその決定に従い、生き残った数万人もの住民を祈り子にすることで究極召喚を不完全ながらも強引に発動させ、夢と現実の狭間にザナルカンドを召喚した。

 

そして、夢のザナルカンドを永遠に守れとの最後の命令に従って、大量の幻光虫を元にシンを生み出し、世界に厄災を振り撒く存在に生まれ変わった。

 

人々を救うはずの手を赤く染め、心を失い、最悪の魔物に成り果てる。それが江本樹に背負わされた運命。

 

「私が………私がもっと早く支えになれていれば………夢のザナルカンドを召喚するなど馬鹿げた決定が下された時にお父様の傍に居られれば………こんな愚行を防ぐことが出来たかもしれないのに………千年経った今でも悔やんでも悔やみきれません」

 

止めることが出来ずに、申し訳ありませんでした。そう言いながら悲痛な表情を浮かべて深々と頭を下げるユウナレスカ。それを見下ろしながら俺は歯を食い縛っていた。

 

本当は、ふざけるなと叫びたい。思いつく限り罵倒する言葉をぶつけたい。でも、それは当時のザナルカンド上層部に向けるべきであって、ここで叫んだところで意味はない。いや、それどころか親父を支えてくれようとしたユウナレスカを傷つけるだけだ。

 

「反吐が出る悪辣さだな。シーモアも霞むぞ」

 

アーロンがそう吐き捨てるのを聞きながら、俺は深呼吸を繰り返して、煮えくり返った感情を少しでも静めようとする。もっとも、焼け石に水程度の効果しかなかったが。

 

「………ここからは僕が引き継ぐよ。彼がシンとなってしまった後は、およそ原作と同じ歴史を辿ることになった」

 

ユウナレスカは残された究極召喚の資料を基礎に、何とか今の出来損ないの究極召喚を生み出すことに成功する。スピラを救うためといった大層な理由ではない。今の究極召喚を生み出したのは、父と慕った人が魔物として無差別に死を振り撒くことを止めたかっただけだ。

 

結果としては、外側のシンを壊すだけに終わり、彼を楽にすることは出来なかった。その後は、独力では限界があるとしてバハムートと手を組み様々な方法を試みたが、究極召喚以上に有効的な手段を見つけることは出来なかった。以降、数百年の長きに渡って一筋の光さえ見えない期間が続くことになる。

 

だが、ある日、転機が訪れた。

 

「スピラに召喚された君のお父さんの精神と、肉体の間に繋がりを見つけたんだ」

 

バハムートはその繋がりを辿って日本に到達し、父の見舞いに来ていた実と出会う。

 

と言ってもその出会いは一方通行だった。実には出会った覚えなどない。なにせスピラと違って日本には幻光虫が殆ど存在しないので、バハムートは人々に認識されることがなく、謂わば幽霊のような極めて希薄な存在でしかなかった。

 

なんとか話を聞かせて貰おうにも誰からも認識されず、途方に暮れるバハムートだったが、とあるゲームをプレイしている実を見て、計り知れない衝撃を受けた。そのゲームの名はファイナルファンタジーⅩ。まさか自分たちの世界が舞台となっているゲームがあるなど思いもしなかった。

 

それからは、実の後ろに張り付きながらゲームの情報を収集する。無論、そのままその情報が使えると思ってはいないが、自分たちの世界との差異を比較し分析することで使える情報を抜き出していった。さらには家の中や倉庫を隈なく探し、見つけだした十四代目エボンの遺品から残留思念を引き出して、大凡の状況を把握するに至った。

 

スピラに戻ったバハムートは、一つの計画を練り上げると、ユウナレスカ達や他の祈り子にも協力してもらいながら計画の準備を整え、FFⅩの開始時期を待つことになる。

 

「そして、原作開始の一年前。何も知らずにぐっすり眠る君を異界召喚でスピラへと呼び出した。これが君がスピラに来るまでにあった出来事だ。一先ずここまで話したけど、何か質問はあるかい?」

「………今はまだいいです。先に進めてください」

 

聞きたいこととか、言いたいことは腐るほどある。けど、今は話の全容を知ることが先だ。全てを知った後に、どう動くのか決めればいい。………今でも結構我慢しているから事と次第によれば、途中で爆発するかもしれないが。

 

「分かったよ………それじゃあ、君をここに呼んだ理由を。そして君にして貰いたい事を話すとしよう」

 

バハムートが江本実をこの世界に呼び出した最大の理由、それは江本樹が原因だった。

 

FFⅩにおいてシンを完全に消滅させるためには、大本であるエボン=ジュを倒すしか方法はない。ティーダ達はシンの体内に乗り込み、エボン=ジュが寄生した全ての召喚獣を倒した上で、逃げ場がなくなったエボン=ジュに止めを刺した。この手順ならばシンを完全に消滅させることが可能だった。

 

しかし、この世界ではその方法が使えない。簡単に言えばエボン=ジュの性質が違うからだ。この世界のエボン=ジュは原作と違い、江本樹である。正確に言えば、呼び出された精神の成れの果て。これが問題だった。

 

仮にFFⅩと同じ手順で、シンの中にいる江本樹を討伐したところでその行為に意味はない。数年後に何事もなかったかのようにシンが復活するだけだ。

 

何故かといえば、彼の肉体が日本で生きているからだ。皮肉にも彼の肉体が祈り子像のような役目を果たしてしまっている。召喚獣は祈り子像が無事な限り、何度やられても復活できる。それと同じだ。

 

つまり───

 

「日本で彼が生き続ける限りシンは不滅なんだ」

「………おい、待て。まさか、俺にやらせたいことって───」

「そうだよ」

 

バハムートは言った。日本で彼が生き続ける限りシンは不滅だと。ならば、逆のことも言える。

 

 

「日本に戻って君のお父さんを………殺してほしい」

 

 

江本樹が生き続ける限りシンが不滅であるのならば、彼を殺せばいい。ただそれだけの事だ。

 

「…………ざ……んな」

「どれだけ恥知らずな事を言っているのかは承知している。けど───」

「ざけんな!!!誰がそんなことっ!」

 

抑えていた感情が爆発する。獣の咆哮にも似た叫びが祈り子の間に響いた。

 

「アンタは、自分が何を言ってるのか分かってんのかっ!?」

「………勿論、分かってる」

「だったら!俺の答えなんて聞くまでもないだろうが!」

「それでもお願いだ。それしか方法がない」

 

マグマの如き煮えたぎった激情を受けてなお、バハムートは表情を変えずに淡々と返事を返す。

 

「何度も言わせんな!俺が親父を殺すなんてこと引き受ける……………はず…………が………」

 

実はさらに激昂しかけるが、途中で何かに気が付いたように目を見開くと徐々に言葉が弱弱しくなり、最後は沈黙する。

 

「………………………………だから、べベルだったのか」

 

長い沈黙の後、ポツリと呟きその場で項垂れる。

 

普通は特別な恨みでもない限り、自分の親を殺せと言われて殺す奴などいない。無論、実は父に恨みなどある訳もなく、むしろ人々から感謝される父を尊敬している。スピラのためにそれしか方法がないと言われても殺すなどあり得ない。

 

だが、気が付いてしまった。バハムートは、スピラや夢のザナルカンドの何処にでも現れることができる。なのに何故、わざわざべベルで真実を話すなんて回りくどい事をしたのか。

 

「あんたは………スピラの現状を見せつける為に、何より俺がユウナに惚れるのを待ってたな?」

「………そうなれば最善だと思ってた」

 

肯定する言葉に膝を付く。全部バハムートの思惑通りだった。

 

ザナルカンドに召喚された直後であれば、絶対に頷かなかった。スピラなんて知った事かと議論の余地もなく断ったはずだ。だが、彼はこれまでの旅でスピラの悲惨な現状を直接見てきてた。壊滅させられたキーリカやミヘンセッションで散っていった討伐隊の人々。その他にもシンが残していった爪痕があちこちに残されている。これを見て何も思わないほど実は冷徹な人間ではない。

 

そして、なにより一人の少女の存在が大きかった。

 

召喚士ユウナ

 

押し潰されそうな期待と重圧を背負いながらも、それを感じさせない凛とした姿。嘘や隠し事が苦手で、困った人を見捨てられない優しい性格。スピラの幸福を願う純粋で強い心を持った少女。

 

ゲームをしている時からユウナに対する好意は存在していた。そして、そんな彼女が現実のものとなり、ティーダの立ち位置で一緒に旅をしていれば、べベルに来る頃にはそれが恋心に昇華されていても不思議はない。仮に恋愛感情に発展しなくても、ユウナのために何かをしたいと思う可能性は高い。

 

『君はべベルで選択を迫られるとだけ言っておこう ユウナを恨まないでほしい』

 

ベルゲミーネの言っていた言葉を思い出す。彼女はべベルで選択を迫られると、そして、ユウナを恨まないでくれと言ってたが、その意味がようやく分かった。

 

ユウナはシンを倒すまで止まらない。信じていたエボンの教えに裏切られ、反逆者として追い立てられようともシンを倒すことをやめようとはしなかった。時に迷う事があっても、立ち止まることがあっても、シンを倒す術を見つけるまでは絶対に諦めない。例え、これからの自分の人生を犠牲にしようとも。

 

ユウナか父親か

 

シンがいる限りユウナに平穏は訪れない。しかし、シンを倒すには父を殺さなければならない。どちらを取るか二つに一つ。

 

「本当に………本当に親父を殺す以外にシンを倒す手はないのですか?」

「残念だけどない。他に方法があればこんな回りくどい事をせずに、最初に呼び出した時点で君に事情を話している」

 

一抹の願いを抱きながら問いかけるも、即座に否定される。

 

「僕も好き好んでこんな手段を取りたくはない。けど、千年もスピラを隈なく探し回った末の結論なんだ。せめて逆召喚の技術さえ失われていなかったら………いや、どちらにせよ同じ結果か」

 

召喚術の中でも特異な位置に属する逆召喚は、召喚術の中でもさらに使い手を選ぶ。それ故に召喚文明の最盛期でさえ十四代目エボンと他数名程度しか使い手がいなかった。マスター召喚ですら習得できる召喚士が中々現れない現代では、例え詳細が残っていようとも、さらに高度な逆召喚を扱えるような召喚士が現れるのは一体どれほど待てばいいのか………

 

だからこそ、恥知らずと分かっていて江本樹の殺害を頼んだ。現状では日本に到達できる存在は、江本実か祈り子、または死人のみ。彼はバハムートが召喚を解除すれば、精神が日本の肉体に戻る。祈り子や死人達は、シンを通して夢のザナルカンドに行き来できるように、江本樹の精神と肉体の間にある繋がりを辿って日本に行く事ができる。

 

ただし、後者の場合は本当に日本に行くだけだ。身体が幻光虫のみで構成されている存在は、物理的干渉ができなくなってしまう。それに対して、実の場合は自分の肉体に戻るため、当然物理的な干渉が可能となる。

 

つまり、シンを倒せるのは、江本樹を殺せるのは実だけ。

 

「………は、はは………ははは」

 

乾いた笑い声が漏れ出た。今までの話しが事実だとすれば、選べる選択肢は実質一つ。

 

「………ちくしょう」

 

最悪の魔物に成り果て、望まぬ殺戮を繰り返す父。

日本に帰れなくなったとしても、共に歩んで行きたいと思ったユウナ。

 

「………悪い、親父………俺はあんたを………………」

 

釣り合いを許さない天秤は、やがて一方に傾いた。

 

 

 

 

 

 

 




色々と説明不足なところがありますが、バハムートの思惑はこんな形となりました。
ちなみにどこぞのランキングではFFシリーズ内の一番悲惨な主人公の第一位はティーダだそうです。FFⅩは主人公に厳しい。

辛口の批評や感想等あれば是非お願いします。ってな訳で切りがいい?のでこれにて連続投下終了です。次回更新は未定ですが、よろしければ気長にお待ちください。

誤字脱字報告本当にありがとうございますm(__)m

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