最後の物語へようこそ   作:新藤大智

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長らくお待たせしてすみません。忙しかったのと、書いては消してを繰り返してたらいつの間にか三ヶ月が過ぎてました。
一応ラストまで書くことができましたが、色々と削ってかなりシンプルな形になってます。それでも主人公がどのような結末を迎えるのか最後までお付き合い頂ければ幸いです。三日連続投稿で一応の区切りとなってます。



最後の物語へようこそ 第二十五話

 激しい運動をした訳でもないのに呼吸が乱れる。水の中にいる訳でもないのに全ての音が遠ざかっていく。頭が真っ白に染まり、思考を放棄したくなる。

 

 何かの冗談だと思いたかった。バハムートの言葉を嘘だと言いたかった。だが、彼自身の持つ知識と現状を照らし合わせて考えれば、ここまで回りくどい真似をして嘘を付く必要はどこにもなく、本当に父を殺すしか方法がないのだろうと理性が判断してしまう。

 

 ただ疑問もあった。

 

「………俺がそもそも原作に関わらないつもりだったら、この計画は成り立たなかったはずだ」

 

 実にはスピラのどこかでひっそりと暮らすという選択肢もあった。事実、最初の頃は生存第一でそのように考えていた時期もある。それに、ユウナと一緒に旅をしても父を選択する可能性も十分にあっただろう。そうなればこの計画は成り立たないはず。

 

 当然バハムートもその可能性は考えており、そうなった場合の手も用意していた。

 

「その時は千年前の再現をするつもりだった。妹さんを異界召喚でこの世界に呼び出すと言えば、君は否とは言わない」

 

 フラタ二ティーを抜いて反射的に斬りかからなかったことが奇跡に近い。

 

「妹を………彩葉まで巻き込もうとしてたのか、あんたはっ!」

「僕としても出来れば使いたくない最終手段だが、スピラのためなら手段を選ぶつもりはない」

「………っっ!」

 

 一瞬で頭に血が上る。ここまで誰かを憎悪したのは生まれて初めてだった。今にも剣に手が伸びそうになるのを必死で抑えつける。

 

「スピラのためという免罪符があれば、何をやってもいいとでも思っているのか?」

 

 静かに、だが、怒気を孕んだ声で尋ねるアーロンに、バハムートは首を振る。

 

「そこまでは思ってはいない。けど、優先順位の違いだ。一番はスピラで、それ以外は後から付いてくるものに過ぎない」

「………御大層なスピラ愛だ」

 

 今のやり取りで実はバハムートが絶対に揺るがないことを悟る。これまでの言動やゲームでの描写から分かっていたが、バハムートは多少の罪悪感はあれど目的のためならばどのような手段も辞さない。殺すことを拒否すれば、躊躇なく妹を呼び出して人質に使うくらいやってのけるだろう。

 

 そして、万が一そうなってしまった場合、妹の事も問題だが、それ以上に一人残されてしまう母のことも問題だった。彼女は精神的に強い方ではあるが、そうは言ってもやはり普通の主婦だ。もし、最後に残された娘まで意識不明となってしまえば、そのショックは計り知れない。今までは息子と娘の前だからこそ気丈に振る舞ってきたが、その二人まで失ってしまえばどうなるか………。下手をすればそのまま心が壊れてもおかしくはない。それでは樹が心を失ってまで家族を守った意味がなくなってしまう。

 

 ユウナと父を天秤に掛けさせ、ユウナを選べばベスト。仮に拒否したとしても妹を人質にすれば言う事を聞かせることが出来る。二択のようで選択肢はないに等しい。悪辣で、反吐が出るほどに効果的な計画だった。

 

 実は理解した。この世界に呼び出された時点で、いや、それ以前の段階で既に詰んでいたのだと。

 

「………聞きたいことがある」

「僕に答えられることなら」

 

 バハムートに対する憎悪を極力抑え、努めて平静に質問をする。

 

「俺は………スピラに戻って来れるのか?」

 

 バハムートからすれば、戻ってこない方が都合がいいのは間違いない。さらに言えば現状の体もティーダからの借りものだ。借りている以上は何時か返さなければならない。召喚獣のような不安定な状態であっても此方に戻ってこれるのかどうか。

 

「君が望むのであれば異界召喚で再度ここに呼び出すことも可能だ。今度は憑依させる形ではなく、召喚獣やティーダと同じような存在としてだけど」

 

 バハムート曰く、そのような状態でも普通の人間と同じように生活することが可能だそうだ。召喚者が召喚し続ける限りにおいての話しだが。

 

「その辺のことも含めて今後の事を話そう。まず意識が戻ったら彼の病室に行ってほしい」

 

 実の体は現在父親と同じ病院に移されている。此方で一年以上過ごしているが、向うの時間ではおよそ四日程度。多少の筋肉の衰えはあるものの歩行する程度は可能だ。

 

 また、バハムートや他の召喚獣達はこれまで何度も日本とスピラを行き来しており、病院内の見回りの時間帯や防犯カメラの死角をほぼ全て把握している。よって、バハムートの誘導に従えば誰にも気づかれずに樹の病室へと向かうのはそれほど難しい事ではない。日本において彼等のような幻光体は普通の人には認識できないが、エボンの直系であり、幻光虫に慣れた実ならば認識する程度の事は可能だ。

 

 そして、病室に進入したら後は簡単だ。樹に繋がれている人工呼吸器の電源を落とすだけで事は済む。

 

「でも、異変があればすぐに警報が───」

「その辺も僕の指示に従って動いてもらえればいい。人工呼吸器の操作は何度も確認済みだ」

「………本当に準備のいいことで」

 

 本来患者の生命維持に重要な機器に異変があればすぐにナースステーションの警報がなる。そうなればすぐに医者や看護師がすっ飛んでくるはずだが、正規の手順で操作を行えばその心配もない。警報は鳴らず、僅か数分で江本樹は静かに死に至る。

 

 全ての行動をひっくるめても三十分に満たない。このためだけにバハムートは数百年の年月を費やした。

 

「その後は君の判断に任せるつもりだ。スピラに戻るつもりであれば、少なくても金銭に困ることのない生活を約束するし、君の要望には可能な限り答えよう。または、そのまま日本での日常に戻るのであればそれでも構わない。僕らは今後一切君達に関わらないことを誓う。勿論、異界召喚に関する全てを破棄して二度と迷惑をかけたりはしない」

 

 さあ、どうする?とバハムートは問いかける。が、実は返事を返す前に一つ確認しておきたいことがあった。

 

「………向うであんたの依頼を終わらせたら、本当に俺を再召喚してくれるのか?」

 

 これまでの言動から鑑みて、約束を破る程度は普通にしてくると見たほうがいい。可能性は低いだろうが、エボンの血を受け継ぐ実は第二のシンになるかもしれない存在だ。ならば、居ないほうがいいに決まっている。最悪の場合、樹を殺してそのままご苦労様でした、で終わりになりかねなかった。

 

 仮にユウナの事を考えなかったとしても、実には父を殺してそのまま日本に残る選択肢は選べない。いくらばれないと言っても、いくら強制されたと言っても、殺した事実に変わりはなく、どの面下げて母と妹に会えばいいのか分からなかった。少なくとも心を整理するための時間がどうしても必要だ。

 

「君の懸念ももっともだけど、その辺の心配はしなくていい」

 

 スピラを第一に考えているバハムートにとって、実は用が済めば邪魔な存在だ。できることなら日本にそのまま残ってくれた方が有り難いのだが、彼等も一枚岩ではなかった。

 

「その点につきましてはお任せください。私がお兄様を召喚致します」

 

 ユウナレスカが名乗り出る。

 

 確かにバハムートの一番はスピラだが、ユウナレスカの一番は樹である。また、その息子であり兄と呼ぶべき実もスピラより優先度が高い。今までは、樹をこれ以上苦しめないための手段が共通していたから計画に協力してきたが、はっきり言えばその後のスピラがどうなろうとも構わなかった。故にバハムートが約束を破ろうとしても、ユウナレスカがそれを許さない。

 

「貴女が俺を?」

「はい、スピラにお戻りになる選択をするのであれば、私がお兄様を支えます」

「そして、僕等祈り子がティーダを。そういう手筈になっている」

 

 実をユウナレスカが、ティーダを祈り子達が召喚し、彼等の人生が終わるその時まで存在を支え続ける。この無慈悲ともいえる計画に参加するにあたり、彼女が出した条件の一つがこれだった。

 

「………もっとも、私もこの愚かな計画に賛同してしまった一人なのは事実です。お兄様からすれば信じることは難しいかもしれません。ですが、それでもどうか私に任せて頂きたいのです」

 

 そう言って、お願いしますと深々と頭を下げる。実の目には、ユウナレスカが嘘を付いているようには到底見えなかった。そもそも元より信じて任せることしかできない身としては、彼女を信じるより他ない。

 

「貴女は信じられると思います。でも………………少しだけ時間をください」

 

 しかし、すぐに返事を返すことは出来なかった。既に答えは出ている。というよりも選べる選択肢は実質一つだけ。だが、それを明確に言葉にする覚悟が決まらない。

 

「お兄様………分かりました。バハムート、貴方もいいですね?」

「勿論。十分に考えるといい」

 

 実は力なく頷くと、立ち上がり二人に背を向けて歩き出す。

 

「………ティーダ、いや、実」

 

 彼に並ぶ形で歩くアーロンは、前を見据えながら声をかける。

 

「俺はお前の苦しみを理解してやれるとは言えん。そして、情けないことに力になってやれそうにもない。だが、これだけは覚えておけ」

「………………」

「他人の手が入った物語ではあるが、それでもこれはお前の物語だ。どんな選択をして、どんな結末になろうとも誰にも文句は言わせん。俺はお前が選んだ道を肯定してやる。それだけだ」

「………はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の声は」

「ティーダ………だよな?」

 

 祈り子の間の外で待機していたユウナ達は、奥から聞こえてくる怒号に顔を見合わせる。声の主は仲間の一人、ティーダの物だった。

 

「何があったのかしら?」

「分かんないけど、ティーダのあんなに怒った声あたし初めて聞いたよ」

「キマリもだ」

 

 扉を隔てているため内容は聞き取れないが、普段の彼からは想像もつかない激しい感情の発露に一同は驚きを隠せなかった。リュックやワッカと共に賑やか担当のティーダがこれほどまでに怒りの感情を顕わにするとは、一体何が起きているのかと。しかし、中の様子は気になるが、扉の前にはマイカと武装兵が陣取っており、聞き耳を立てることは出来なかった。

 

 それからほどなくして、祈り子の間の扉が重々しく開かれる。

 

「あ、出てきた。二人とも話しを…………ティ、ティーダ?」

 

 中から出てきた二人に、早速何があったのか聞き出そうとしたリュックだったが思わず言葉を詰まらせた。アーロンは眉間に皺を寄せ、何時にも増して険しい表情をしていたが、それはまだいい。問題なのはもう一人、ティーダの方だ。顔面蒼白とまでは言わないが、いつもと比べて明らかに顔色が悪く、足元も少しふらついているようだった。

 

「だ、大丈夫!?中で一体何があったの?」

「………悪い、少しだけ一人にさせてくれ」

 

 駆け寄って心配するユウナに答えることもなく、ティーダは一人試練の間を後にする。その尋常ではない様子に誰も声を掛けることすら出来なかった。

 

「ぁ………」

 

 ユウナは引き留めようとしたが、思わず途中で手が止まってしまう。一言で言うなら危ういと感じたからだろうか。今の彼は、少しの力で折れてしまいそうな脆さを纏っていた。

 

「………アーロンさん」

「俺に聞いても無駄だ。あいつが答えを出すまで話すつもりはない」

 

 残された一同は事情を知るもう一人に目を向けるが、アーロンは口を堅く閉ざした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 べベルのどことも知れない路地裏。人通りの殆どない場所に座り込み、建物の間から見える空をただ漠然と眺める。どれほどの時間そうしていたのか分からないが、気が付けば空はうっすら赤く染まっていた。

 

「流石FFⅩ………容赦ねーなぁ………」

 

 ファイナルファンタジーⅩ。ファンタジーの名を冠するのに、現実は非情であるとまざまざと見せつけられた。

 

 元々原作においても主人公であるティーダの境遇は悲惨の一言に尽きる。和解したばかりの父を倒さねばならず、倒したら倒したで今度は自分も消滅してしまう。続編で復活するエンディングもあれど、それもプレイヤーの行動次第で容易に消滅する程度のもの。下手をすれば鬱ゲーと言われてもおかしくないだろう。

 

 だが、それでも物語が全体を通して暗くならなかったのは、ティーダ本人が残酷な真実を前にしても、持ち前の明るい性格を失わなかったからに他ならない。

 

 青臭くて、無鉄砲で、ただ我武者羅に前を向いて突き進む。時にはただの考えなしの行動をしてしまうこともあったけど、失敗を恐れずに自分の感じたままに物事にぶつかっていく。人によっては馬鹿だと言う人もいるかもしれないが、俺の目にはその姿が眩しく映った。

 

「………すげーよ」

 

 俺はそこまで強くなれそうにない。最後には奇跡的に誰もが助かって、そんでもって主人公とヒロインが結ばれてハッピーエンド。もう既に答えは出ているのに、そんな都合のいい展開ばかりを想像してしまう。そんな方法があればバハムートやユウナレスカが使わない訳がないというのに。ある種の現実逃避でもあるのだろう。何時までもそんな甘い夢に浸っていたくなる。

 

「ティーダ、お前本当にすげー奴だったんだなぁ」

 

 泣き虫のくせに、最後は笑って物語を終わらせた本当の主人公。この世界とゲームは似て非なる世界。だが、俺の中にいるティーダも同じように決断をしただろう、と何故か確信していた。

 

 そんな時だった。

 

『いやー、俺じゃない俺を褒められるのは、なんか変な感じっすね』

「………え?」

 

 ただの独り言に返事が返され驚く。周囲には誰もいなかったはず。

 

「だ、誰だ?」

『誰って酷いな。今までずっと一緒にいたっつーのに』

「その声………」

 

 周囲を見渡せば、そこには予想通りの人物がいた。甘い顔立ちに金髪青目、健康的な小麦色の肌をした一人の青年。そう、まさしくFFⅩの主人公───

 

『知ってると思うけど。俺はティーダ。よろしくな実』

「え、あ、………よ、よろしく?」

『なんで疑問形なんだよ。まあ、混乱するのも無理ないけどさ』

 

 驚きと混乱で頭が回らない。ただ呆然とティーダを見上げることしかできなかった。

 

『隣、座らせてもらうぞ』

「あ、ああ」

 

 よっと、と隣に腰かけるティーダを横目で何度も確認する。やはり本物としか思えない。ただ、よく見れば体が透けているので幻光体、それとも精神体だろうか?そもそもティーダの意識は眠っていると聞いていたがどうやって………

 

 聞きたいことが色々とあるものの、言葉が出てこない。口を開いては閉じてを数回繰り返して、結局何も言えずじまいに終わる。ティーダもティーダで横に座ってから無言のままだ。

 

『………………』

「………………」

 

 二人してただ空を見上げたまま時間が過ぎていく。

 

 何故だろうか、不思議とこの沈黙を気まずいとは感じない。初対面だと言うのに、まるで十年来の親友といるような妙な安心感すらあった。

 

『………俺さ、最初から見ていたんだ』

 

 そして、十分程度そうしていただろうか。ティーダが唐突に口を開いた。

 

『ヘイスガなんて無茶な魔法作ったり、ユウナを助けて大怪我したり、シーモアに挑んだり、べベルに真っ向から乗り込んだり………無茶ばっかりする実をついさっきまで見てたんだ。夢って形でな』

「その、悪い」

『あ、別に責めようって訳じゃないんだ。そもそも実は被害者だし、今ならあの無茶な行動も必要な事だったって理解できるから。バハムートは後でぶん殴るけど』

 

 そう言ってくれるが、ハイスペックなティーダの体を使って無茶をしたのは事実だ。特にヘイスガは自爆技といっても過言ではないし、何度もこの体を危険に晒したことに間違いない。だから恨まれても仕方ないと思っていたが、そんな様子はなさそうだった。

 

『それと、俺が見た夢はスピラのことだけじゃなく日本での事やFFⅩの事もな』

「そっちもか………」

 

 憑依した影響から記憶が流れ込んだのか?なんにせよ、それが本当ならティーダは俺と同程度には現状を把握していることになる。ティーダが目覚めたときにどう説明するか悩んでいた身としては、手間が省けてありがたい反面、FFⅩのことまでは教えるつもりはなかったので少し複雑だ。

 

「それにしても、何時から目覚めてたんだ?」

『ついさっき、バハムートが話している途中でだ。実が精神的に大きなショックを受けたからなのか、叩き起こされたよ』

 

 先程のバハムートが語った真実は、確かに俺にとってかなり衝撃的だった。頭が真っ白になり、何も考えたくない程に。その時の衝撃でティーダは目覚めたようだ。そして、目覚めてからは話しかけるタイミングを見計らっていたと。

 

『………それでさ、俺がこうして出てきたのは謝りたかったからなんだ』

「謝る?」

『スピラやザナルカンドが実の親父さんや実にどんな仕打ちをしたのか知ったから。勿論、謝って済む事じゃないのは分かってる。でも、夢のザナルカンドで暮らしていた者としてどうしても謝りたかったんだ』

 

 そう言って、本当にごめんと頭を下げた。

 

 良くも悪くも実直なティーダらしい。夢のザナルカンドは親父の犠牲の上に成り立っている。それ故にその事実を知ってしまったティーダは罪悪感を抱いてしまった。

 

「分かった。謝罪は受け取っておくよ」

『そうしてくれると助かる』

 

 ティーダに責はないと思うけど、本人が負い目を感じているなら素直に謝罪を受けたほうがいいか。俺としてもティーダの体を好き勝手に使ってたし、お互い様ってことにしておくべきだろう。

 

 謝罪を受け取った後は、何気ない会話が続いていた。ティーダの方から積極的に話題を振ってくる。内容はブリッツボールや日本のスポーツのことなど当たり障りのないものが多く、もしかしたら気を使って話題を選んでいるのかもしれない。

 

 そして、話題が尽きかけた頃、ティーダは若干の躊躇いを見せながら問いかけてきた。

 

『実は………もう決めたのか?』

 

 何を?とは聞かない。この場で聞くことなど決まっている。

 

「ああ、というか選べる選択肢がないからな」

 

 親父は心を失ってまで家族を守ろうとしてくれた。俺もその意思を受け継ぐつもりだ。既に召喚されてしまった俺は仕方ないとしても、これ以上家族を巻き込むことは絶対にさせない。そして、その上でユウナと共に生きて行こうとすれば、俺に残された道は一つだけ。

 

『そうだよな………悪い、無神経な質問だった』

「いや、いいさ。こうしてティーダと話しができて踏ん切りがついたしな」

 

 ティーダは俺以上に悲惨な決意を胸に最終決戦へと赴いた。和解したばかりの父を倒し、そして自分も消えてしまう。それが分かってて物語を終わらせた。

 

 なら───

 

「俺も全部終わらせるよ。親父だけじゃなくてジェクトさんも楽にしてやらないといけないしな」

『………だな。あいつの思惑通りに動かされるのは癪だけど、実の親父さんは千年も苦しんでるんだ。いい加減に死の螺旋から解放してあげないと。まあ、うちのクソ親父はそのついででいいからさ』

「ついで扱いとはひっでーな」

 

 そのあまりの物言いに苦笑する。ジェクトが本当は愛してくれてたことは、もう既に知っているはずなのに。どうしても気恥ずかしくてこんな言い方になってしまうのだろう。不器用な親子だ。

 

『で、事が済んだら実はどうするつもりなんだ?日本に残るのか、それともこっちに戻って来るのか?俺としては戻ってきてくれると嬉しいんだけどさ』

「戻って来るつもりだ。ただ、お袋と彩葉の事が心配ではあるけど………」

 

 初めて人を本気で好きになり、ユウナと共にこれからを歩んで行きたいと思った。また、親父を殺してそのまま日本には居られない。だからスピラに戻ってくるつもりではいる。しかし、そう思う反面、日本に残してしまうお袋たちの事が心配でもあった。二人からすれば親父の突然死に俺も原因不明の昏睡状態が続く。そのショックがどれ程のものか想像に難くない。

 

『そっか………そうだよな、向うに家族がいるんだもんな』

 

 事情を説明出来ればいいんだけどそんな時間はないし、仮に説明したところで流石に信じて貰えないだろう。意識が錯乱していると思われるのがおちだ。スピラに戻ってくると決めたが、そこだけが気掛かりだった。

 

『………なら、こうすんのはどうだろう?』

「ん?」

『お袋さん達にはもう暫く我慢してもらうけど─────────』

 

 そして、ティーダから一つ提案された。

 

「それは………」

 

 問題が根本から解決するわけではないし、諸手を挙げて賛成できるような考えではない。だが、現状の限られた道では、俺にとって最善に近い考えだと思う。

 

『悪い、俺にはこの程度のことしか思いつかないんだけどさ』

「いや、そんなことねーよ」

 

 少なくとも立ち上がって歩き出せる程度には気が楽になった。

 

「サンキュー、ティーダ」

『どういたしまして』

 

 反動をつけて勢いよく立ち上がり、両頬を張る。ヒリヒリした痛み。いまはそれが少し心地いい。そして、ティーダは薄く輝いたかと思うと、目の前から消えて再び俺の中に戻る。

 

「行くか」

『ああ』

 

 路地裏を出て聖べベル宮へと歩き出す。

 

 千年、いや、万年前から始まったこの物語を終わらせるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




実際の病院のシステムがどうなっているのか分かりませんが、ここではそういう物だと思ってください。

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