最後の物語へようこそ   作:新藤大智

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最後の物語へようこそ 外伝2

「実っ!」

「ちょ、ま、待った、ユウ……ぐっ!?」

 

幾ら華奢な体形とは言え遠慮なしに飛び込んでくる優奈に、青年──江本実は、慌てて受け止めようと踏ん張るも、奮闘空しくそのまま押し倒される形で床に倒れ込む。咄嗟に鞄をクッションにしたので怪我はない。精々が咽ってしまったことと尻餅を付いたので臀部が少々痛む程度で済んだ。痛みと予想だにしない出来事に驚いて混乱状態のまま考える。

 

(この子はあのユウナだよな?どうしてこっちに………)

 

実は目の前の女性がただユウナに似ているだけのそっくりさんじゃなく、あの世界で一緒に過ごした最愛の人であると抱き止めた時に本能的に感じ取っていた。一体どういった経緯でこの世界にユウナがいるのかは分からない。しかし、今はまた再会することが出来た奇跡を素直に嬉しく思っていた。もし、人目がなければこのまま抱きしめて二人の世界に入り込んでいたかもしれないほどに。

 

だが、周囲の状況がまるで目に入っていない様子のユウナと違い、実は周囲の状況を把握して喜んでばかりもいられなかった。痛いほどの静寂と二人に注がれる視線。そして上がる絶叫。

 

「わ……わた、私の嫁が寝取られたああああぁぁぁぁぁっ!」

 

実は最愛の人との再会を喜ばしいと思う同時に、入学して僅か半月で平穏な大学生活とさよならしなければならない事を悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一言で言うなら現状はカオスだろう。萌菜は絶叫し、美亜はおろおろしながら挙動不審になるばかり。比較的早く冷静さを取り戻した(様に見える)夕映は頭に手を当ててこの状況を把握しようとする。

 

何時も思慮深く、どんな男からの告白もきっぱりと断ってきた優奈。それが突然公の場で男を押し倒しその胸の中で物凄く幸せそうな顔をしている。

 

(うん、意味が分かんないわ)

 

もしかしたら、先程話にあった心に決めた人と言うのがこの人の事なのだろうか?大雑把な推測を立ててみるも、それ以上の事はさっぱり分からない。

 

何時もであれば困った時には頼れる親友に相談を持ち掛けるのだが、今回に限ってはその頼れる親友こそが事の原因であってそれも無理。兎に角まずは話を聞いてみない事にはどうしようもないので、一先ず人目を避けて落ち着いて話が出来る場所に移るべきだと結論付ける。先程から周囲の状況が目に入ってない優奈では話にならないので、男性の方に提案する。

 

「えーと、色々と聞きたいことがあるんだけど、まずはちょっと場所を移さない?」

 

男性はその提案に困り顔のまま頷くと、優奈を正気に戻そうと呼びかける。

 

「ユウナ、おい、ユウナってば」

「んふふ、なぁに?実」

 

やっと反応したと思えば今まで一度も見たことのない、ふにゃっとした笑顔を見せる優奈。夕映は思わず誰だこいつと叫びたくなるが、それは脳内に留めてぐっと堪える。いや、可愛いことは可愛いのだが、普段の凛とした佇まいの優奈どこいったと言いたい。

 

「俺もまた会えて嬉しいんだけどさ」

「どうしたの?」

 

抱き着かれたままの男性は、頬を掻きながら言いにくそうに切り出す。

 

「ちょっと場所を変えようか。このままじゃあいい見世物だ」

「場所?場所がどうし………………ぁ」

 

一瞬何のことか分からないと言った風に小首を傾げる。だが、すぐに何かに気が付いたようにはっと顔を上げ、蒼ざめた顔で周囲を見渡すと私のところで視線が止まる。いや、そんな助けを求めるような目で私を見られても困るんだけど………

 

「えーと、意外と情熱的だったんだね」

「………っっ!」

 

とりあえず率直な感想を述べると、蒼ざめた顔色が今度はボンっと真っ赤に染まる。優奈は慌てて何か言い訳をしようと口を開くが、余りの恥ずかしさに言語崩壊を起こしたようで、あうあうっと意味不明な言葉しか出てこない。そして、とうとう恥ずかしさが限界を超えたのか、再び男性の胸に顔を押し付けて、いやいやをするように表情を隠してしまう。………なんだろうこの可愛い生物は。

 

「はいはい、恥ずかしいだろうけどいい加減に落ち着ける場所に行くぞ」

「ち、違うの………これは記憶が………こんな所で思い出すなんて………ぁぅぅ」

 

実と呼ばれた男性は羞恥に悶える優奈に苦笑しつつ、その身を胸に抱えたまますっと起き上がった。

 

立ち上がった彼を真正面から見据える。身長は私と同じ170cm前後で中肉中背。だが、華奢な体格とはいえ成人女性を抱き抱えたまま軽々と起き上がるとは意外に力強いようだ。顔に関しては、失礼かもしれないがどこにでも居そうな普通の顔立をしている。性格に関しては分からないが、ぱっと見た感じでは優奈が惚れそうな要素は何処にもなさそうに見える。

 

って、思ったんだけど───

 

特筆すべきはその目と雰囲気か。恥ずかしがる優奈に向ける視線は、慈愛の籠ったとても優しい眼差し。自分に向けられた訳でもないのに思わず少し見惚れてしまう。また、周りからの突き刺さる様な視線を受けつつ自然体でいられるなど、包容力と言うか超然とした雰囲気が彼にはある。単純な外見からは普通の人といった印象しかないが、外からは計れない何かを内に秘めているように感じた。

 

「それでどこか落ち着いて話が出来る場所に心当たりはある?」

「あ、うん。ええと、それじゃあゼミで使ってる教室でいいかな。今の時間なら誰もいないし」

「了解、案内よろしく」

 

取りあえず優奈を彼に任せて、私はまだ混乱中の美亜ちゃんと寝取られた等と呟いて壊れたままの萌菜を引き連れて場所を移す。

 

(それにしても………)

 

いやはや周りからの視線が痛いのなんの。彼と優奈に対する注目に比べたらまだマシかもしれないが、それでも渦中にいる私の方にも状況説明を求める視線が押し寄せる。いや、この現状を知りたいのはむしろ私の方なんだけど。

 

これは明日は色々と質問攻めにされること確定だろう。そう思うと軽く溜息を付きたくなったが、同時に優奈をいじる絶好のネタが目の前に転がっているのだ。その程度の代償は甘んじて受けようではないか。その代わりに優奈を弄り倒すつもりだが。

 

(さて、一体どんな話が飛び出てくるのやら)

 

他人の色恋沙汰ほど面白い物はない。それが優奈のものとなれば尚更だ。一先ず質問攻めにされる未来は忘れることにして、どんな話が飛び出すのか今から楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずは自己紹介からでいいかな。私は緑川夕映。優奈とは中学からの親友。とりあえずよろしく」

「わ、私は天城美亜と言います。優奈先輩の後輩で、その、よろしくお願いします」

「緑川さんに天城さんね。俺は江本実。こちらこそよろしく。で、こっちの人は?」

 

あれから俺達は野次馬を掻き分けて、とある空き教室に逃げ込むと軽く自己紹介。緑川さんと天城さんとは何事もなく名前を交換するが、もう一人の子はハイライトの消えた遠い目で何やらぶつぶつ呟いてて少し怖いんだが。

 

「萌菜、あんたいい加減に正気に戻りなさい」

 

その様子を見た緑川さんは、何の躊躇もなく延髄チョップ食らわせた。

 

「わた、私のよ………へぶっ!ちょ、ちょっと、痛いじゃないの!」

「いつまでも話が進まないからよ。ほらとっとと自己紹介」

 

そうやって強制的に正気に戻すと悪びれた様子もなく自己紹介を促す。萌菜と呼ばれた女性は、抗議の声を上げつつも、俺をじろりと睨み付けると天海萌菜とだけ不機嫌そうに告げる。何故か分からないが嫌われているようなので、当たり障りないように此方も名前だけ返す。

 

「さて、それじゃあ………」

 

軽い自己紹介が終わると緑川さんがニマニマと口角を上げ、俺と机に突っ伏して悶えているユウナを交互に見る。その仕草にどことなく若い頃のリュックに近い印象を受けた。

 

「詳しい話を聞かせて貰いましょうか?」

 

まあ、公衆の面前であんなことをしたんだから当然聞かれるよなあ。とはいえ、俺自身現状を把握できていないので、どう説明したものか悩む。

 

前世で夫婦でした、なんて馬鹿正直に言ってみる?そんなの当然却下だ。どう考えても頭のおかしい奴と思われるだけ。

 

お付き合いしています。これも微妙。ユウナの方の状況が分からないのであまり迂闊な事は言えない。ユウナと緑川さんの反応からして現在付き合っている人はいないと思うが、万が一の可能性もないとは言えないだろう。昔から先程の様に衝動的に行動してしまうこともあるし。

 

ただの知り合い。これもなしだ。あんな大胆な事をしてただの知り合いでは説明がつかない。となると、本当にどうしたものか。ある程度口裏合わせをしておきたかったが、そんな暇はなかったしな………

 

「その、お昼の時に話した人だよ」

 

どう返答するか悩んでいると、おずおずと顔を上げたユウナが答える。顔はまだ赤いままだが、少しは落ち着きを取り戻したようだ。というか、お昼の時の話とは?

 

「お昼の話って?」

 

同じ疑問を抱いた天海さんがユウナに尋ねる。

 

「ええと、「あ!お昼の時の話って、もしかしてこの方が先輩が言ってた心に決めた人なんですか!?」………う、うん」

「ほほう、優奈があんな突拍子もない行動に出るくらいだから、何となく察しは付いてたけどこれで確定って訳か」

 

天城さんが心底驚いたように声を上げ、緑川さんはやっぱりと頷いていた。いや、心に決めた人ってどういうことだ?ユウナは先ほどまで記憶を失ってたんじゃないのか?

 

「え、で、でも、それって告白を断るための方便だったんじゃ………」

「ううん。嘘じゃなくて本当のことだよ」

「………え?マジで?なんでこんな何処にでもいそうな冴えない男に優奈が?」

「いや、あんたそれは流石に失礼でしょ」

「そ、そうですよ、仮にそう思っても口にしちゃ駄目ですよ」

「だ、だって!」

「だってじゃないっての、まったく」

 

まあ、俺とユウナが不釣り合いに見えるのは仕方がないので別に気にするまでもない。スピラでもそういった類の視線は普通にあったし、付き合って最初の頃は真っ向から不釣り合いだと言われたことも何度かある。なので今更このくらいで落ち込んだりすることもなく普通にスルーだ。それよりか、

 

(ユウナ説明よろしく)

(えと、その、夢でね───)

 

三人が言い合ってる間に小声でユウナに状況説明を求める。その結果、ある程度の事情を把握することが出来た。

 

ほとほと夢には何かと縁があると言うか振り回されると言うか。ユウナはこっちに転生してからスピラでの記憶を殆ど忘れていた。だが、夢という形で俺の事を何となく意識していたらしい。そして、俺がユウナの名前を口にした瞬間に全ての記憶を取り戻したと。

 

で、その結果

 

(向こうとこっちでの80年近い想いが一気に溢れちゃって)

(衝動的に行動してしまった、てこと?)

(うん。ごめんね、どうしても抑えられなくて)

 

しゅんとするユウナに気にするなとアイコンタクト。そういった事情があるなら仕方ないだろう。いや、むしろ生まれ変わってもそれほど想っていてくれてたのかと嬉しくなる。

 

「ほら、謝っておきなさいよ。優奈に嫌われてもいいの?」

「わ、分かったわよ………その、いきなり冴えないとか言って悪かったわ」

「ああ、大丈夫。そこまで気にしてないから」

 

ユウナとの内緒話をいったん打ち切る。正面を向けば天海さんからの謝罪の言葉があった。といってもまだ口を尖らせているので内心では不満もあるだろう。謝罪の言葉があっただけましと思っておくべきか。

 

「でも本当に驚いたわ。まさか優奈が男を押し倒すなんて想像もしなかったし」

「全くですよ。一瞬目の前で起こった事が理解できなくて夢かと思っちゃいました」

「私は今でも夢だと思いたいけどね」

「お願いだからさっきの事は忘れて………わ、私だって自分の行動が信じられないんだから」

 

先程の出来事を蒸し返す面々に、再び顔を真っ赤にしてプルプル震えるユウナ。若い頃はリュックやルールーにからかわれ、似たような反応をしていたことを何となく思い出す。まあ、俺もユウナをいじっていた側だからあんまり人の事を言えないが。

 

「それで、そっちはどうなの?」

 

久しぶりに見る初々しい反応に、思わず和んでいると急に話が振られた。

 

「どうなのって?」

「優奈はご覧の通り貴方に惚れてるみたいなんだけど、そっちは優奈をどう思ってるのかなって」

「ゆ、夕映、ちょっと」

「押し倒して心に決めた人って言っちゃったんだから、もう告白したも同然でしょ。ならそれに対する返答が気になるじゃない」

「それは………」

「確かに。私も気になります」

「まさか優奈の気持ちを裏切ったりはしないでしょうね?」

 

四対の視線が俺に向けられる。そのうち二つは興味津々。色恋沙汰に興味がありますと分かりやすく視線に出ている。まあ、この位の年頃の女の子なら他人の色恋に興味があって当然だろうな。で、もう一つは下手な事を言ったらただじゃおかない、って感じだ。ジロリと擬音が聞こえてきそうなほど鋭い目付きをしている。俺はこの子に何か失礼な事をした覚えはないんだがなぁ。

 

そして、最後の一つ。ユウナはただ真っ直ぐに此方を見詰めながら、静かに口を開いた。

 

 

「実の隣に………私の場所はまだあるのかな?」

 

『実の物語に………私の場所はあるのかな?』

 

 

その言葉であの時、べベルでの出来事がフラッシュバックする。ファイナルファンタジーⅩ。スピラと呼ばれる世界。ユウナと結ばれた記憶。そして、親父を殺した記憶も。

 

(あれからもう60年以上か)

 

他に方法がなかったとはいえ、あの時の事は今でも夢に見ることがある。理性では既に整理を付けたはずだが、やはり心の奥底では割り切れるものではなかったらしい。多分俺が生きている限り一生消えない傷となって残り続けるのだろう。

 

(だけど、それでも───)

 

あの時のことは辛い記憶であると同時に、ユウナと結ばれることになった大切な過去でもある。初めて本気で愛した人。優しく穏やかで、それでいて自分の中に揺るがない一本の芯を持つ俺にとって最高の女性。それはこれまでも、これからも変わることはない。

 

だから、俺もあの時から変わらない答えを返そう。

 

「勿論、特等席が空いてる」

「………よかった」

 

日本に帰ってきてから今までは誰とも付き合う気はなく、ましてや結婚するなど最初から捨てている。色々と、本当に色々あったが、俺はスピラで十分幸せな人生を過ごしたのだ。だから残りの日本での人生は、半年も不安なままで待たせてしまったお袋と彩葉の為に使おうと思っていた。

 

けど、ユウナと再会して計画は崩れつつあった。やっぱり俺はユウナに心底惚れてしまっている。ユウナが胸に飛び込んで来た時。微笑んでくれた時。記憶を失っても俺の存在を感じてくれてたと知った時。それだけで、どうしようもないほどに嬉しくなっている自分がいた。

 

逆にユウナが他の誰かと結ばれたらと想像するだけで胸が痛む。眼差しを、言葉を、笑顔を、想いを、それらを受ける俺じゃない誰かを思うだけで暗い感情が抑えられない。精神が肉体に引っ張られている影響もあるのだろうか?これでも80年以上生きてきたのに、まるで思春期の真っただ中の若者のような自分に思わず苦笑するしかない。けど、それがどこか心地よくもあった。

 

「ふふ、また一緒に居られるなんてすっごく嬉しいよ」

「俺もだ。これからまたよろしくな」

 

手を握り、二人で笑い合う。

 

先程計画が崩れたと言ったが、家族を支えていくという大前提に変わりはない。ただそこにもう一人大切な人が加わるだけ。

 

これでもスピラではそれなりの人生経験を積んできたので、こっちでも程々に上手くやっていく自信はあるし、いざとなればちょっとした反則技もある。出来れば使いたくないが、就職活動等でよっぽど躓いてしまった時には遠慮なく使うつもりだ。親父の遺産や保険金で生活はどうにかなるとはいえ、家族を支えると誓っておいて脛齧りで生活するなどあり得ない。まあ、それらの心配をするのは、まだ大分先の話だろうけどな。

 

今はユウナと再び出会えた幸運に浸らせてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優奈と実は世界を越えて再会を果たした。スピラと日本。本来は繋がるはずのなかった世界の二人。そんな二人が奇跡的に出会い、またこうして再び結ばれるなど一体どれほどの偶然なのだろうか。いや、ここまでくると運命であり、必然と捉えるべきなのかもしれない。

 

「おめでとう、優奈。想いが叶ってよかったじゃん」

「先輩、おめでとうございます!」

「ありがとう」

 

優奈は夕映と美亜からの祝福を受けて、はにかんだような笑顔を見せる。その表情を真正面から見た夕映達は、同性にも関わらず思わず見惚れてしまう。

 

「ぐぎぎ、本当はあんまり言いたくないけど、お、おめでとう」

「うん。萌菜もありがとう」

 

一人だけ複雑そうな顔をしていた萌菜も、その一点の曇りもない笑みを見て観念したかのように祝福の言葉をかけていた。もっとも実に対する視線がよりきつくなったが。

 

「でさ、二人の出会いは何時頃なわけ?中学に上がった時には居なかったよね?やっぱ小学校の同級生?」

「それとも小さかった頃の幼馴染とかそんな関係なんでしょうか?」

「私としてはこの男の一体何処に惚れる要素があるのか聞きたいわね?」

「そんな一気に質問されても困るんだけど………」

 

夕映達は新たなカップル成立を見届けると、今度は目を好奇心に輝かせ(若干一名を除く)質問攻めを開始する。

 

優奈は今まで彼氏を作ろうと思えば、その日の内にでも作ることはできた。今現在も超が付く優良物件を幾らでも選べる立場にいる。であるにも関わらず、今までどんな良い男であっても男女の関係には一切ならなかった。一番仲がいいと言える男でも、それなりにお喋りをする男友達止まりであり、そこから先には一切踏み込ませない。

 

そんな優奈が心に決めた人と言い、さらには感情が高ぶったとはいえ公衆の面前で抱き着いて押し倒すほどの行動を見せたのだ。二人の関係や過去に何があったのか興味が沸くのも当然だろう。

 

だが、それを受ける優奈は少々困り顔だ。世の中には聞いてもいないのに、自らの馴初めを喜々として語るバが付くカップルもいるが、二人はそれに当て嵌まらない。というか、絶対に話せない。仮に、馬鹿正直に惚れたきっかけを話ても、幾ら優奈を信頼している夕映達であっても信じることは出来ないだろう。冗談だと思われればまだ良い方で、最悪は頭を心配されて黄色い救急車が呼ばれることになるかもしれない。

 

二人きりの時に出会っていれば、カバーストーリーを作って口裏を合わせてから夕映達に紹介するという方法も取れたのだが、自分の衝動的な行動でそれも無理になってしまったと、優奈は内心で反省しきりだった。

 

「ほれほれ、お姉さんにあんた達の馴初めを教えてみ?」

「どんな素敵な出会いをしたのか、後学の為にも教えてください!」

「夕映、あんたおっさん臭いわよ。まあ、私も同意見だけど。で、どうなの?」

「え、ええと、その私達の出会いは………」

 

優奈は、三人の圧力にたじたじになりながらも何とか矛盾がないように架空の出会いをでっちあげる。だが、元々嘘を付くのが苦手な優奈では直ぐに行き詰ってしまった。どうしようと、思わず実に視線で助けを求める。内心で優奈がわたわたする様子を懐かしんでいた実は、流石にそろそろ助け舟を出そうかと話に割って入る。

 

「そっから先は俺が話すよ」

「ん?彼氏君から?」

「ああ、ちょっと複雑な事情もあるもんでさ。それで───って、悪い。電話だ」

 

そんな時だった。実のスマホが鳴り響く。見れば妹の彩葉からだったので、一言断ってから電話に出る。

 

「もしも───」

「もしもし、お兄ちゃん!?今友達からラインでとんでもない情報が来たんだけど、これって本当なの!?」

 

電話に出るなり、いきなり凄い勢いで捲し立てられる。一体何事だと面食らってしまったが、直ぐにそのとんでもない情報とやらに思い至った。

 

「ねえ、ちょっと聞いてる!?」

「ああ、聞いてるって。それにしても、もうお前にまでその話が行ってるのか」

 

あれからまだ一時間と経っていないにも関わらず、随分と先程の出来事が拡散しているようだ。講義の終了直後で目撃者が多かったこともあり、あれだけ注目を集めてしまったのだからある意味仕方がないか、などと実は思っていた。

 

もっとも、そんな考えはすぐに消し飛ぶことになる。

 

「う、嘘!?じゃあこれって、本当に本当なの!?」

「ああ、それは本当な「お兄ちゃんが講義室で北瀬先輩を押し倒したって!」………………はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんか妙なハイテンションで仕上げてしまったので後で修正入るかも。次回更新は未定です。
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