最後の物語へようこそ   作:新藤大智

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最後の物語へようこそ 第五話

 グアドサラムから見渡すことの出来る異界のような幻想的な風景。ほんの入り口にすぎないが、ある程度立ち入ることのできる異界とは違い、人の介入を一切許さない精神の高次元領域。そこに、一体、また一体と人知を超えた存在達が集結しつつあった。

 

 彼らは、ある者は人のような姿を、ある者は馬のような姿を、またある者は竜のような姿をしていてまとまりがなかった。唯一の共通点といえばその圧倒的なまでの存在感だろうか。やがて最後の一体が到着すると同時に竜の姿をした存在が口を開いた。

 

「………彼に会ってきたよ。僕達が■■■■した■■■■■の■■■■に」

 

 そう言うと竜の姿をした存在は振り返り、先ほど到着した存在に問いかける。

 

「君も………彼に会ったんだろ?」

「ええ。彼女に呼ばれたときに少しだけ」

「………彼は選んでくれるかな?」

「私は………選んでくれると思います」

 

 それを聞くと竜の姿をした存在は向き直り、集まった存在たちを見渡す。そして再び口を開いた。

 

「僕も同意見だ。というわけで、当初の予定通りに行こうと思うけど………異議はないね?」

「………………」

 

 人知を超えた存在たちは沈黙を持って肯定する。

 

「決まりだね。それじゃあ、今後は予定通りに────」

 

 会合が終わると一体、また一体とその場を去っていく。最後に残った竜はポツリと呟いた。

 

「悪夢が終わった後、僕は地獄に落ちるだろうね………いや、そんな上等なところには行けないか………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 期待の星であった従召喚士が召喚獣を得て正式な召喚士になったその夜、ビサイド村はお祭り騒ぎだった。広場を中心に村の人々が集まり、ユウナに祝いの言葉を送ったり、美味しそうな料理の数々を薦めている。

 

 ユウナはその一つ一つに丁寧に対応していた。俺はその様子を少し離れた所からぼんやりと眺める。その後、お祭り騒ぎが始まって三時間、四時時間と経ち、十時を過ぎる頃になると村の人々もポツポツと自宅へと帰っていく。

 

 ユウナと談笑していたおばあさんとじいさんが帰るのを見ると、飲み物片手にユウナの側に移動する。

 

「ここ座っていい?」

「うん、どうぞ」

 

 俺はユウナの前に座り、自己紹介をする。

 

「どうも、初めまして。俺の名前はティーダ。年は十七。一応旅人で今はビサイドオーラカの一員かな」

「初めまして。私の名前はユウナっていいます。まだ新米だけど召喚士で、君と同じ十七歳だよ」

 

 そう言うとニッコリと微笑む。リュックの笑みを太陽のようだとするなら、ユウナの笑みは月の様に神秘的だった。俺がその笑顔に少し見惚れていると、ユウナが実は俺のことを知っていると言い出した。

 

「へ?なんで知ってんの?」

「えっとね、ワッカさんがオーラカの期待の星だって皆に言ってたから」

「………それ本当っすか?」

「うん、本当っす」

 

 俺はその言葉に思わず頭を抱えてしまった。………ワッカの奴、なにハードル上げてくれちゃってんだよ。ていうか、なんとなく視線を感じると思ったら原因はそれか。

 

「ふふ、あんまりワッカさんを怒らないであげて。悪気があった訳じゃないから」

「………まぁ、それは俺も分かってるけどな」

 

 ポリポリと頬を掻いて一つため息。ユウナはそんな俺を見て苦笑していた。

 

 その後、俺とユウナはブリッツボールのことなどとりとめもない話をしていた。ワッカの影響なのかユウナは思ってたよりブリッツに詳しく、気がつけば一時間以上話してた。本当はもう少し話していたかったが、明日起きられなくなるので頃合いを見てそろそろ宿舎に戻ることにした。

 

「明日は同じ船で出発だよね?」

「ああ、俺はこのままワッカに着いて行くから多分そうだと思う」

「よかった。また船でブリッツの話聞かせてね?」

「あいよ。それじゃ、もう今日は遅いからここまでにしてまた明日な」

「うん、お休みなさい」

「お休み」

 

 俺はユウナと別れて宿舎へと向かう。ベットにもぐりこんだ俺はたっぷり昼寝をしたにもかかわらず、数分後には規則正しい寝息をたてて夢の国へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝。窓から差し込む強い日差しに俺は強制的に起こされた。一つ大きな欠伸をしながらベットから下り、洗面所で顔を洗って眠気を覚ますと外に出る。

 

「………ん?おー、寝ぼすけ。やっと起きたか」

 

 外に出るとそこにはワッカと

 

「………………」

 

 少し不機嫌そうな女性───ルールーがいた。ルールーは整った顔を僅かに顰めて鋭い視線で俺を見ている。突き刺すような視線にびくびくしながら自己紹介をすると、少し間を置いてからルールーよ、と一応は返してくれた。

 

 しかし、なんだ………その、昨日は遠目でチラッと見ただけだったが、こうして向き合うと目のやり場に非常に困る。俺も健全な青少年なのでついつい目線が、どーん!と自己主張する二つの膨らみに向いてしまいそうになる。それはまずいと慌てて目線を下に向ければ、大きく開いたスカートの裾を覆う十数本のベルトの間から艶かしい素足がもろに見えてしまう。実に目に毒だ。

 

 俺は目のやり場に困って視線を泳がせていると、視界の端にワッカがちょいちょいと手招きをしているのが見えた。これ幸いとワッカの傍に移動する。

 

「あのよ、お前は魔物との戦闘では剣を使うんだよな?」

「………え?ああ、そうだけど?」

「なら、これいるか?名はフラタニティって言って、結構な業物なんだが」

 

 そう言って一振りの剣を差し出した。刀身が蒼く透き通った綺麗な剣だ。

 

「へぇ、綺麗な剣だな。………って、もらっていいのか?」

「おう、そいつを贈った奴は使おうともしなかったからな、家で埃を被ってるより何倍もいいだろ」

「………そっか。じゃあ、遠慮なくもらっとくよ」

 

 俺は剣を受け取りながらチラッとルールーの様子を伺う。やはりというか表情がまた少し険しくなっている。まあ、恋人だったチャップの形見を赤の他人に使われるのに抵抗があるのは当たり前か。ジェクトの土産の剣より軽いし切れ味が良さそうだから遠慮なく使わせてもらうけど。

 

「そんじゃ、この剣は大切に使わせてもらうよ。ありがとな、ワッカ」

「なに、いいってことよ」

 

 ワッカはそう言って照れくさそうに笑っていた。俺達がそんなやりとりをしていると、ユウナが大きめの旅行鞄を持って寺院から出てきた。それを見たルールーがユウナに声をかける。

 

「ユウナ、その荷物は置いていきなさい。邪魔になるだけよ」

「あ、私の荷物は何もないの。これはお世話になる寺院へのお土産だから」

 

 お土産だから、そう言って持っていこうとするユウナだったが、

 

「ユウナの旅はそんなんじゃないだろ?」

「………そっか。そうだよね」

 

 ワッカの一言で思い直し、お土産は置いていくことにしたようだ。ユウナは鞄を置いてくると今までお世話になった寺院に向かって深々と一礼する。それを見届けてから俺達は村を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達が浜辺に着いて十分くらいすると、連絡船が到着する。

 

 ちなみに試練の間に乱入しなかったせいか、キマリは襲ってくることはなかった。一応対策は練っていたが、戦わないですんだのは嬉しい誤算だった。

 

 オーラカの選手達に続いて俺達も船に乗り込む。この船はリュック達の船と違い、機械を思わせる部品がほとんど見当たらず、エボンの教えを意識した作りになっていた。だが、その航行速度は中々のものらしく、動力にある生物を使っているらしい。その生物の名を尋ねると、FFをやったことがある奴なら誰でも聞いたことがある有名な名前が出てきた。俺はその名を聞くと、近くの船員から動力室のある場所を聞き出し、その部屋に直行した。

 

 ゆっくりと扉を開けるとそこには、

 

「おお、本物のチョコボだ」

 

 まわし車の中で休んでいるチョコボがいた。俺は側にいた飼育係りの人?に許可を貰いチョコボの嘴を軽く撫でる。するとチョコボがクエっと気持ち良さそうに鳴いて擦り寄ってきた。

 

 ………なにこの可愛い生物。めっちゃお持ち帰りしたいんだが。いや、本気と書いてマジと読むくらいに。

 

 その後、十分にチョコボを堪能した俺は船の甲板に出てみると、偶然乗り合わせた人々がどこから嗅ぎつけたのかユウナの周りに集まっている。中にはユウナを拝んでいる老人までいて、ちょっとした騒ぎになっていた。俺はユウナの周りに人気がなくなるまで待ってから、声をかける。

 

「風が気持ちいいな」

「うん、そうだね」

 

 ユウナは風で乱れた髪を整えながら答える。なんというか、そんな何気ない動作の一つ一つがすごく様になっているな。

 

「ねえ、聞いてもいいかな?」

「ん?なに?」

「今はオーラカに入ってるけどティーダもまだ旅の途中だって言ったよね?」

「まあね」

「どうして旅をしてるの?」

「………知りたいことがあるからかな」

「知りたいこと?」

 

 小首を傾げながら聞いてくる。それは現実に帰る方法か、シンが消滅した後も俺が消えない方法。なんて今はまだ正直に言うわけにはいかない。

 

「それは秘密っすよ」

 

 訳あり顔でそう言ってお茶を濁した。ワッカほどではないが、今はまだユウナもエボンの教えを妄信的に信じている所がある。言っても混乱するだけ。下手すると不信感を抱かれかねないし……………とにかく今はまだ言うべき時期じゃないのは確かだ。

 

「秘密って………………っ!な、なに!?」

 

 ユウナはそんな俺を見て何か言おうと口を開こうとしたが、その瞬間、船が大きく揺れだした。俺とユウナは船から振り落とされないように慌てて手すりに掴まる。

 

 それと同時、俺達の乗る船よりも遥かに巨大な背びれがその姿を現した。

 

「………っ!シン!?」

 

 まさかこうも早くシンに出会ってしまうとは思っても見なかったのか、ユウナは目を見開いて叫ぶ。甲板にいた他の人々は、シンのサプライズ演出●違ったらスルーしてください●とばかりに船に上がってくるコケラに既にパニック状態だ。

 

「ユウナ、ティーダ!無事か!?」

「ユウナ、少し下がってなさい」

 

 そこにワッカ、ルールーが素早く駆けつけ、甲板に這い上がってくるシンのコケラを次々に倒していく。キマリはユウナの前に仁王立ちしてユウナに近寄ってくるコケラを片っ端から切り捨てる。俺はワッカ達の邪魔にならない程度にコケラの相手をしていたが、揺れて足場の悪い船の上では持ち前のスピードが生かせず思うように戦えない。

 

「ユウナ!召喚獣は!?」

「………………だめ!誰かが召喚してて呼び出せないの!!」

 

 ワッカの叫びにユウナが召喚を試みるが、他の召喚士がヴァルファーレを使用中らしく、呼び出すことはできなかった。くそっ、なんて間の悪いと悪態をつく。が、そうしたところで状況は好転しない。すぐに気持ちを切り替えて目の前のコケラ共に集中する。

 

 シンはそんな俺たちを知ってかしらずか、巨大な尻尾を海面に叩きつけて膨大な水しぶきを巻き上げながら猛スピードでキーリカに向かって行く。キーリカに家族がいる船員はワイヤーフックを打ち込んででもシンを止めようともした。だが、そんな物でシンを止められるはずもなく、ワイヤーはすぐに切れてしまい海辺にあった集落はシンの直撃を受けて嘘のようにあっさりと壊滅した。

 

「………う、嘘だろ………なんで………………」

「そんな………………」

 

 キーリカに家族を持つ船員達は壊滅していく集落の様子を見て魂が抜けたかのように崩れ落ちる。他の乗客達も茫然自失となってただ立ち尽くす。

 

 ワッカは拳を床に叩きつけ、ルールーとキマリは険しい表情でシンを睨み付けていた。ユウナは口を真一文字に結び、杖をぎゅっと握り締めながら何かに耐えるようにその様子を見ている。

 

「私、シンを倒します」

 

 ユウナが不意に呟いた。それはすぐ近くにいた俺がかろうじて聞き取れるくらいの小さな声。

 

「───必ず倒します」

 

 だが、キーリカを見据える瞳と小さな声には絶対の意思が込められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はその言葉をひどく複雑な気持ちで聞いていた。

 

 俺の第一目標は生き残ること。だから何の解決策も何も見つからないままシンを倒される訳にはいかない。実を言うと気は進まないが、解決策が見つかるまでユウナ達がシンを倒さないように妨害することも視野にいれていた。

 

 例え白い目で見られようが軽蔑されようが、自分の命には代えられないと心の片隅ではそう思っていた。だが、今改めて自分に問う。

 

 もし、何の解決策もないままユウナがシンを倒そうとしたら………それを止められるか?

 

「………………」

 

 ユウナの独白を聞いてしまった今、俺は即座に答えを出すことができないでいた。消えたくない、でもユウナの覚悟を踏みにじることはできない。色々な思いが頭を駆け巡り、俺自身どうしていいのか分からない。

 

 もし、何の解決策もないままユウナがシンを倒そうとしたとき、俺は………

 

 

 

 

 

 

 

 




拙い作品ですが、読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字等々あればお手数ですが、お知らせください。
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