なんとなく設定を思いついたので衝動的に書き始めました。更新速度はまだ不明ですが、最低でも二か月以内には更新するのではないでしょうか?
はじまり1
四葉家当主、四葉英作は魔法演算領域を解析することのできる特異な精神分析能力者だ。その彼は生まれたばかりの子に解析をかけ、潜在的な魔法能力を解析していた。
「整える力、混沌を正す力。この子は『調律』とも言うべき力を備えている」
それを聞いた一族は驚いた。
半年ほど前に四葉深夜の息子として生まれた司波達也は『分解』と『再成』という世界すら壊せる力を持って生まれた。まさに混沌の子。恐怖のあまり、赤子の内に殺すことすら提案された呪いの子。その提案こそ当主こと四葉英作の手で却下されたが、不安はまだ漂っていた。
だが、それと対を為すように生まれた調和の子。
精神干渉系魔法を先天的に宿す事も含め、多くの期待を寄せた。
――
四葉において裏工作を担う一族、黒羽の長男が生まれたのだった。
だが、彼こそが司波達也を越えて混沌をもたらすなど、まだ誰も知らない。
◆◆◆
「今日も終わったか」
十歳になった紫音はベッドに倒れつつ呟く。
(転生して早くも十年。慣れたもんだな)
黒羽紫音は生まれながらにして前世の記憶を持っていた。ちょっとした事故で亡くなった後、神様的な何かに会って転生させて貰った過去がある。
なんでも、面白――もとい若くして亡くなったし可哀想だから創作世界にぶち込むということらしい。取りあえず三つぐらいは特典やると言われたのでしっかりと選ばせて貰った。
紫音は当時のことを少しだけ思い返す。
『じゃあ、演算能力高め、記憶能力高め、健康な体で。とりあえずこれで一流大学狙えば平穏無事な生活も出来るでしょ』
『え、ちょっ!? もっと豪華なのにしないの!? ほら、Fate的な宝具とか、一方通行的な反射能力とかさ!? それぐらいないと原作に絡めないよ?』
『いや、何か問題があれば原作主人公がなんとかしてくれるでしょ? だから俺は一流の国公立大学に入って良いところに就職しようかと。いや、記憶力もあれば言語学習も楽だし、海外に出るのもアリだな』
『想像以上に安定志向で詰まんねぇ……じゃあいいや、君の願いに適当なプラスアルファ加えるよ。そうじゃないと面白くない。あとは主人公の近くに生まれるように設定しちゃおっと』
『無理やり関わらせるのかよ!?』
そんなやり取りがあって生まれたのが今の紫音だ。
原作『魔法科高校の劣等生』において重要な位置づけとなる四葉一族、その分家である黒羽の家系で長男として生まれた。紫音も前世で原作は知っている。
面倒な場所に放り込まれたと辟易したものだ。
しかし慣れとは恐い。
地獄のような魔法の特訓、礼儀作法、言語、暗号解析、ハッキング、その他諜報活動に必要な技能をこれでもかというほど叩き込まれたにもかかわらず、今ではそれが普通となっている。
(それにしても、俺の立ち位置はオリジナルキャラ。つまり原作に登場しないはずの人物って訳だし、どう動くか悩むよな)
一応、原作が開始するのは中学生になってからだ。追憶編と呼ばれる内容で、主人公であり公式チートとも言われる司波達也が戦略級魔法『
十年経った今でも、それぐらいは覚えている。
(とりあえず、俺たち黒羽は関わらないけどな)
沖縄戦自体は紫音に関係ない。パーティに参加するために沖縄には赴くものの、次の日には本土へと引き上げるからだ。なのであまり気にしてはいない。
一番気にかけなければならないのは、高校からである。紫音は達也と同学年であるため、同じ時期に高校へと入学することになる。恐らく……というよりも確実に魔法科高校へと入学することになるだろう。問題は何処の魔法科高校に通わされるかだ。第一高校から第九高校まで存在する魔法科高校において、メインとなるのは主人公の入学する第一高校だ。
しかし司波達也と司波深雪の兄妹を入学させる以上、同時期に四葉一族を一か所に集めないために、紫音は他の高校へと行かされる可能性が高い。有力なのは原作で黒羽文弥と黒羽亜夜子の双子が通う四校だ。
ちなみに、紫音からすれば文弥と亜夜子は弟と妹にあたるので、非常に可愛がっている。
(ま、なるようになるか。問題があれば達也がなんとかしてくれるだろうし)
そんな思考のもと、紫音は意識を落としたのだった。
◆◆◆
紫音は黒羽の長男として多くの訓練を受けている。魔法戦闘訓練はその内の重要事項であり、自身の持つ特異魔法の練習も兼ねて訓練には参加していた。
「『
紫音が手を翳した先にある的が、黒いラインによって貫かれる。漆黒のラインは無数に展開されているので、的は一瞬にして穴だらけとなった。
魔法を解除すると黒いラインが消える。
「発動数がかなり上がりましたな。真夜様の『
「ありがとう」
紫音の特異魔法は『調律』。
それは混沌を整然とさせることのできる精神系の魔法だ。本来は対象の心を落ち着かせたりするのが目的だが、物理にも干渉できる。それによってミクロレベルでの調整を可能とするのだ。
今回の場合は光の調律。
本来、光は乱反射することによって人の目に届き、立体感や色相を感じさせている。しかし、空間上をランダムに走り回る光が一方向に調律された場合、それは凶器へと変貌するのだ。どんな障害であっても反射吸収をさせず、一方向に進み続ける光となるのである。
つまりはあらゆる対象を貫く流星となるのだ。そして光が一方向に進むということは、その部分の光が目に届かないということになる。結果として黒いラインが空間中に残るので、漆黒のレーザーが飛んでいるように見えるというのが『
名前の由来は四葉家現当主の四葉真夜が使う『
『
この魔法で最も恐ろしいのは、攻撃速度が光速であることだ。
つまり、気付いた時には死んでいるのである。
「紫音様は一般的な魔法こそ凡庸ですが、事象干渉力と特異魔法は次期当主候補としても充分。その歳でこの実力なら、まだ狙えますぞ」
「良いよ別に。俺の能力は黒羽に向いている。当主は深雪に任せるよ。今のところは彼女が筆頭候補だからね」
「紫音様がそう言われるのなら構いませんが、自分としては微妙な気分ですな」
教官役の男は複雑そうな目で紫音を見つめる。
まだ十歳という若さでありながら特異魔法を使いこなす紫音は、大人の目から見て異常だ。だが、それは紫音が特典として選んだ演算能力に起因している。紫音は思考能力や計算能力の向上というつもりで選んでいたのだが、効果は無意識下の魔法演算領域にまで及んでいた。
結果として紫音は魔法発動に必要な
通常はCADを使って半秒以内に魔法を発動するのが実用レベルだ。しかし、紫音はCADなしにその基準をクリアしていたのである。
惜しむらくはサイオンが非常に少ないことだろう。
それこそ、平均的なサイオン量を下回るほどである。こればかりは遺伝の他に運の要素が強いので、鍛えたところで生まれ持った量で満足するしかない。
また、サイオン量の少なさこそが紫音が当主筆頭となれない理由でもあった。並みはずれた特異魔法と演算能力を持ちながら深雪に筆頭の座を取られたのは、偏にサイオン量が少ないからである。
「さて、紫音様。本日は訓練相手の他に司波達也も来るそうですよ」
「あー、いつものね」
「はい。亜夜子様と文弥様も混ざられるそうです」
「じゃあ俺は魔法じゃなくて体術を教えてもらうとしようかな? 俺と達也では特異魔法の撃ち合いにしかならないし。流石に『分解』は食らいたくない」
「何をおっしゃいますか。紫音様が本気になればガーディアンごとき――」
教官の男がつらつらと達也の悪口を述べるのを見て紫音は密かに溜息を吐く。主人公の幼少が酷いものだというのは知っていたが、実際に目にするのと文章として読むのとでは違ってくる。見ているだけなのに精神がガリガリと削られているように感じたほどだ。
なお、初めて『調律』を使ったのは自分自身である。強制的に安定化させなければ吐いていたかもしれないほど過酷な環境に紫音は置かれていた。
(ま……原作通り亜夜子と文弥は慕っているみたいだし、とりあえずはこれでいいか。下手に関わって原作が変わっても面倒だ)
いつかは原作を変えるかもしれないが、それは今ではない。
今の過酷な環境が達也を創り上げているのは確かだ。将来に影響があっては困る。まことに自分勝手な発想と分かりつつも、紫音は止めるつもりがなかった。
ちなみに、亜夜子が達也を慕っているのは魔法のヒントをもらったからである。
黒羽亜夜子が得意とする収束系魔法『極散』。
これは『拡散』という魔法の究極形であり、熱や光や音を平均化するというもの。紫音の『調律』にも似ていることから、やはり兄妹なのだと分かる。そしてこの『極散』は達也の『分解』がきっかけで生まれた魔法だった。
亜夜子は達也から詳しいプロセスを教わり、自分なりに『極散』を完成させたのである。『拡散』までなら扱える魔法師も少なくないが、『極散』ともなると話が変わってくる。理論上は誰でも使えるが、少なくとも今は亜夜子だけしか使えない魔法だった。
そして双子の弟である文弥も姉に釣られて達也を慕っている。
(さて、原作開始の日までにアレを完成させようか)
その日まで、イレギュラーは力を蓄え続ける。