黒羽転生   作:NANSAN

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前回のあらすじを三行で

突如として壇上に現れた真夜様
紫音を名指しからの愉悦
胃が痛い紫音さん頑張れ


九校戦編4

 懇親会の翌日は、休養日として当てられている。明日から始まる九校戦に向けて、選手たちは最終調整をするのだ。

 それは魔法しかり、コンディションしかり。

 技術班は担当選手のCADを最終調整するために奔走し、作戦班も最後の詰めをするので、裏方についてはあまり休めないが。

 そして、その日の夜、紫音は一本の電話を受け取った。

 

 

「俺だ……ああ、完了したか。尋問は? ……それなら俺は必要なかったな。流石に横浜まで行くのは面倒だから良かったよ。結果をいつものコードで送ってくれ」

 

 

 紫音の電話相手は部下の一人である。

 彼は黒羽家が有する部隊に所属しているのだが、紫音は名前も年齢も知らない。コードネームと顔だけでやり取りしている仲である。

 電話を切った紫音はデバイスを立ち上げ、アルファベット二十六文字によるパスワードを打ち込み、送信されてきたメールをチェックする。

 ちなみに今いる場所は人気のない場所。生垣に扮したフェンスに寄りかかっていた。

 

 

(お、仕事が早い)

 

 

 届いたメールをチェックし、添付されているファイルを立ち上げる。その際、黒羽で取り決めている暗号解析ソフトを使用し、暗号化処理を解除した。

 これぐらいは基本である。

 

 

「……ジェネレーターねぇ」

 

 

 溜息を吐きながら読み進めるファイルには、タイトルとしてこのように記されていた。

 『無頭竜(ノーヘッド・ドラゴン)東日本総支部壊滅の報告』

 紫音は既に九校戦の邪魔となる無頭竜(ノーヘッド・ドラゴン)を壊滅させるべく動いていた。昨日の時点で、黒羽の者から東日本総支部に所属する幹部の居場所が特定できたと連絡があった。そこで突入計画を立て、無事に制圧。

 数人ほどこちら側も命を落としたようだが、幹部は全員捕獲したという。

 まさか黒羽の人員に死者を出すほどの激戦になるとは思わなかったので、これには紫音も驚いた。そしてその原因こそがジェネレーターである。

 

 

「洗脳を利用し、人工的に魔法開発を行う実験の成果。理性や自己の放棄を代償に、魔法力を得る。そんなことをしていたとはな」

 

 

 やっていることは四葉の実験に近い。

 四葉一族の大元である、第四魔法研究所では精神干渉を利用して魔法師を強化したり、人工的に作り出す実験をしていたことがある。達也の感情を排して魔法力を植え付けたのも、その実験の一つだ。

 ジェネレーターに関するデータは、後で本家に提出するべきだと紫音は判断する。

 そして次に目を通したのは、無頭竜(ノーヘッド・ドラゴン)のボスに関する部分だった。

 

 

「リチャード=(スン)。表向きの名前は孫公明(そんこうめい)。正体不明と言われていた無頭竜(ノーヘッド・ドラゴン)のボスがこうもあっさり判明するとは。しかもご丁寧に住所や行きつけのクラブまで書いてあるぞ……どんだけ口軽かったんだよ」

 

 

 香港系犯罪シンジケート無頭竜(ノーヘッド・ドラゴン)の由来は、首領(ボス)が全くの正体不明だったからだ。決して表に出ることはなく、用心に用心を重ねているという。部下の粛清でさえ、気絶させてから部屋に連れこんで実行するというのだから筋金入りだ。

 普通の幹部では顔すら知らないレベルだという。

 今回、これだけの情報が手に入ったのは、リチャード=(スン)のプライベートまで知る側近レベルの人物がいたからだった。

 

 

「さて、戻るか……」

 

 

 報告書に目を通した紫音は、デバイスを仕舞ってホテルに向かう。紫音の出場する新人戦は四日目からとは言え、不用意な夜更かしはコンディションに響くので避けるべきだからだ。

 しかしそのとき、紫音は高速で動く物体を観測する。

 先天的特性として可視光線外の電磁波を知覚できる紫音は、赤外線を探知することで暗闇でも人の存在を察知できるのだ。そして、電磁波を放つ存在は、ホテルの外部から侵入してきた。

 

 

(三人か。二百メートルほど先だな)

 

 

 この暗闇なら、まだ向こう側に紫音の存在は察知されていないだろう。侵入者を捕えるべく、紫音は駆けだす。どうやら侵入者は紫音と反対側に走っているらしく、中々追いつけなかった。

 

 

(昼間なら『暗黒流星群(ダークミーティア)』が使えるってのに……)

 

 

 既に日も沈んだ時間帯だ。

 このような時間帯では『暗黒流星群(ダークミーティア)』も使えない。そこで自己加速術式を利用し、物理的に追いつくことに決める。

 普段からCADを持ち歩かない紫音は、フラッシュキャストで記憶域より起動式を呼び出し、魔法演算領域に落とし込んで魔法式を展開する。そして移動魔法と慣性緩和魔法により、紫音は目で追えなくなるほどまで加速した。

 

 

(ん? 強い電磁波?)

 

 

 紫音は不意に空中で強烈な電磁波が集まっているのを観測する。どうやら電子操作系の魔法が発動しているらしい。その狙いは恐らく三人の賊だ。

 つまり、紫音以外に迎撃している人物がいるということ。

 目標との距離は五十メートル以上あるので、向こうの方が早い。これで決まっただろうと考え、紫音は速度を緩めつつ近づいていった。

 閃光と共に雷撃が落ちて、三人の賊は倒れる。

 電磁波を見たところ、迎撃したのは二人のようだった。何かを話していたようで、風に乗って微かな声が聞こえる。近づいていくにつれて、音は意味のある言語として理解できるようになった。

 

 

「お前の場合、発動している術式に問題がある。魔法が上手く発動しないのは術式が原因だ」

「何でそんなことが分かるんだよ!」

 

 

 一人が叫び、いきなりのことで紫音は驚く。

 急いで近づくと、会話している人物の正体が判明した。

 

 

「達也? それに誰だ……?」

「紫音も来たのか」

 

 

 『精霊の眼(エレメンタルサイト)』で初めから気付いていたのだろう。特に驚くこともなく、淡々と確認してくる。逆に、もう一人の方は酷く驚いていたが。

 

 

「まさか……四葉の!?」

「四葉紫音だ。お前は?」

「1-E、吉田幹比古だよ。まさかこんなところで君に自己紹介するとはね」

「吉田幹比古……ああ、理論四位だった奴か」

「覚えているのかい?」

「名前ぐらいは」

 

 

 紫音も名前を聞いて思い出す。

 この吉田幹比古、原作でも重要な位置づけの人物だったはずだ。流石に顔は忘れていたが、名前を聞いて連鎖的にすべて思い出した。

 古式魔法の大家、吉田家の次男であり、嘗ては神童と呼ばれる程の魔法を使っていたという。調子に乗って無茶な魔法行使をした結果、事故を引き起こしてしまい、その後から思うように魔法が使えなくなったのだ。

 本来ならば九校戦に出場できるだけのポテンシャルを持っている人物である。

 今は二科生に甘んじているが、達也と出会ってメキメキと実力を伸ばしていったメンバーだったはずだ。

 

 

「それで……何の話をしていたんだ?」

「達也に、僕の使う術式は無駄が多いって言われてね。吉田家は古くから続く古式魔法の家系だし、その過程で使用する魔法は研究され尽くしてきた。そう言われたら黙っていられない」

「なるほど、さっきの雷もお前の魔法だったのか」

 

 

 紫音は達也が眼で解析したのだと理解した。

 イデアにアクセスし、魔法構造を一瞬で理解する異能は信じられないものがあるのだろう。また、受け継いできた魔法を否定されてしまっては幹比古も怒って当然である。

 一応、紫音はフォローを送ることにした。

 

 

「達也は説明が簡潔すぎる。だから勘違いさせるんだ」

「え?」

「古式魔法というのは、長い歴史の間で受け継がれてきた秘匿性の高いものだ。故に起動式自体にも発動を察知されないように、隠密を目的とした回り道が組まれている。達也はそれを無駄と評しただけだろう。見た目通り、達也は効率性を好むからな」

「……なるほど」

「たとえば呪符で発動するならともかく、CADによる高速処理をするならば隠密性など意味がない。それに起動式には呪文詠唱をしていた名残が含まれているから、詠唱を妨害されないような工夫も組み込まれているんだろ? それもCADを使うなら意味がない」

「なんだか古式のスタイルを真っ向から否定する意見だね」

「……いや、古式を否定するつもりはないけどね。ともかく、最新機器による起動式の高速処理を行うならば、無駄な起動式を削ぎ落して最適化できるって話を達也はしたかったわけだ。だろ?」

 

 

 紫音が目を向けると、達也は大きく頷く。

 幹比古も納得したようで、興奮も落ち着いた。

 そこで達也は倒した三人の賊を指さして指摘する。

 

 

「取りあえずコレの処置をしよう。俺が見張っておくから、警備員を呼んできてくれないか?」

「あ、ああ、それなら僕が―――」

「いや、それよりも先に確認することがある」

 

 

 紫音が暗闇の向こう側に指を向ける。

 

 

「そこにいる三人。何者だ?」

 

 

 達也ですら気付かなかったレベルの、高度な気配隠し。

 幹比古も驚いて紫音の指差した方向に向くと、三人の男が姿を顕した。軍服を纏っていることから、基地の人間なのだろうと予想できる。

 そして真ん中にいた男の一人が紫音に向かって話しかけた。

 

 

「流石は四葉の人間というべきか。まさか隠密が破られるとはな。参考までに見破った理由を聞いても?」

「特異体質で可視光線以外の電磁波が観測できるんですよ。赤外線を感じ取りました」

「なるほど。知覚系魔法によるものだったか。自分の隠密に問題があるわけではなくて安堵したよ。ところで、その賊はこちらで預かろう。ホテルとは言え、軍の施設に侵入した輩だ。構わないな?」

 

 

 紫音は頷いて肯定する。それは達也も幹比古も同じだった。

 

 

「では預かろう。ああ、それと捕獲した経緯を聞きたいから、一人だけ残ってくれないか?」

「ならば自分が」

 

 

 達也が即座に立候補したので、それで決定する。

 事情聴取なら全員に聞く方が良いハズだが、なぜか軍の男は一人だけ残るように指示した。そのことで紫音は疑いを覚える。そこで、思念リンクを繋いだ。

 

 

(達也、一人だけ残れなんて怪しすぎるぞ)

(問題ない。この人は独立魔装大隊の少佐だ。俺に話があるんだろう)

(なるほど。例の風間少佐か?)

(そういうことだ)

 

 

 実はこの男、達也の知り合いだった。

 陸軍一〇一旅団独立魔装大隊。最新の魔法兵器の実験、開発も行う部隊であり、人数こそ少ないが戦力はかなりのものだ。戦略級魔法師である達也が所属している時点で察することも出来るが。

 ともかく、それが達也の属する部隊である。

 そして達也が軍籍を持つことは秘密だ。少なくとも、幹比古がいる場所では明かせない。だからこそ、紫音と幹比古をこの場から去らせたいのだ。

 事情聴取というのは建前なのだろう。

 

 

「行こうか吉田」

「わかったよ……それと僕のことは幹比古と呼んでくれ」

「そうか、なら俺も紫音でいいぞ」

 

 

 そう言いながら紫音と幹比古は去って行ったのだった。

 二人の姿が見えなくなり、声も聞こえなくなるほど離れた頃、風間は達也に話しかける。

 

 

「あれが四葉の跡取りか特尉?」

「正確には候補ですが」

「だが、四葉の姓を名乗らせているのは彼だけだろう? 最も当主に近いのでは?」

「本人はあまりその気がないようですがね」

「あの四葉真夜が養子を取ったと聞いた時には驚いたが……まさか俺の隠密を破るほどとはな。達也とも親しそうだったが、味方と考えて良いのか?」

 

 

 風間は達也が四葉の血筋であることを知っている。そして四葉真夜との契約により、達也は軍籍を所持しているに過ぎないのだ。

 だからこそ、四葉紫音という人間に興味を持った。

 

 

「紫音は味方と考えて良いでしょう。そもそも、彼が四葉を名乗るのは自分と深雪のカモフラージュですから」

「ふ……確かに、分かりやすい四葉がいれば特尉も疑われることがない」

「自分と深雪の周囲にいる脅威も独自に動いて処理してくれます。正直、楽ですね。今回も無頭竜(ノーヘッド・ドラゴン)の対処に奔走してくれましたから」

「こちらでもそれは確認している。だが、一か月ほど前から無頭竜(ノーヘッド・ドラゴン)は水面下に潜り、代わりに反魔法師団体イザクトが活発になり始めた。この賊もイザクトの者だろうと予想している。事情が変わったということだ。特尉も気を付けろよ?」

「イザクト……ですか」

 

 

 本来の歴史において、第一高校は会場へと向かうバスの道中で自爆テロに遭うはずだった。発動を察知させない高度な魔法によって、高速道路の対向車線から車で飛び出し、バスに激突させようとするのである。

 第一高校の優秀な魔法師たちによって無事に食い止められるのが本来の歴史だった。

 しかし、紫音の介入によって自爆攻撃は行われなかった。

 これが意味すること。

 それは無頭竜(ノーヘッド・ドラゴン)は九校戦が始まる前に……つまり初めから動きが沈静化していたということである。

 

 

「イザクト、といえばUSNA東海岸が発祥の過激派組織ですね。魔法師犯罪者によって被害のあった親族がバックに付いていることで有名です。中には大企業の社長などもいるそうですから、資金も豊富と聞きます」

「うむ。知っているなら説明するまでもなかったな。奴らのような過激派にとって、九校戦は格好の的になる。未来の魔法師を潰せる機会でもあるからな」

「肝に銘じておきましょう」

「こちらも可能な限り対処する。その賊はこちらで預かろう。君も戻ると良い、達也(・・)

 

 

 敢えて達也を名前で呼び、風間は踵を返す。横に付けていた二人の部下が手早く縄を取り出して三人の賊を縛り上げ、肩に担ぎあげて去って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やられる描写すら貰えない無頭竜……哀れ


なぜ無頭竜の動きが沈静化したのか、自爆テロがなかった理由、そしてイザクトという原作に登場しない反魔法組織。


九校戦編も少しだけ原作と変えます。
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