黒羽転生   作:NANSAN

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紫音の容姿について質問があったので書いておきます。

黒髪で線が細く、純和風な見た目。瞳は茶色が入っているが、基本は黒。
身長169cm、体重57kg

文弥や亜夜子とも似ているから可愛い。
イメージは原作十三巻表紙の文弥ですかね。


九校戦編6

 大会四日目からは遂に新人戦がスタートする。

 この時点で第一高校は三百二十ポイント。続く第三高校が二百二十五ポイントであり、第一高校は大きなリードを奪っている。三位以下が団子状態の混戦具合を見せていることを鑑みれば、第一高校がどれだけ圧倒的か理解しやすい。

 しかし油断は禁物だ。

 新人戦の得点は本選の半分しかないとは言え、十分に優勝を左右する。ここで三高が底力を見せれば、逆転優勝される可能性も残っているのだ。

 新人戦初日の競技はスピード・シューティング決勝までと、バトル・ボードを予選まで。

 スピード・シューティングには北山雫が、そしてバトル・ボードに光井ほのかが出場するので、その担当エンジニアとして達也も忙しくしていた。

 ほのかの試合が午後からなので、まずは雫のスピード・シューティングである。

 

 

(どうやら問題ないようだ)

 

 

 達也の()によって雫のCADに細工がされていないか知覚できる。誰が細工したかまでは分からなくとも、その程度ならば問題ない。

 そして摩利の時のような、細工の跡は見つからなかった。

 

 

(今日のところは紫音に任せる他ないな)

 

 

 思考の端でそんなことを考えつつ、まずは始まろうとしている雫の試合へと目を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄いじゃない達也君!」

 

 

 スピード・シューティングの全行程が終わった後、真由美は達也を絶賛していた。

 それもそのはず。

 なんと女子スピード・シューティングに出場した三名の一校選手が一位、二位、三位を独占したからだ。ちなみに、各競技では三名ずつ参加者を出すことが出来るので、上手くやればポイントを独占できる。(ただし、昨年度の成績から三つの高校は参加者枠を二人に限定されるので、競技出場人数は二十四名だ。最後に残った三人による変則的な決勝戦を含めると、五回勝てば優勝となる)

 

 

「……優勝したのも、準優勝したのも、三位になったのも選手の力ですよ」

「勿論、北山さんに明智さん、滝川さんも凄いわ。でも、貴方の功績も確かなものでしょう?」

「そうだぞ司波」

「渡辺先輩まで……」

 

 

 達也は戸惑いの表情を見せるが、これは想像以上に凄いことだ。

 雫を含めた三名は全て達也がCAD調整も作戦もプロデュースしており、選手本人の魔法力があってこそという事実を除けば、残りは達也の功績と言える。

 現に、雫も明智も滝川も同意だった。

 

 

「北山さんが予選で使った魔法は大学の方から『インデックス』に採用するかもしれないと打診が来ています」

 

 

 追加で報告してきた鈴音の言葉に一同が驚く。

 『インデックス』とは『国立魔法大学編纂・魔法大全・固有名称インデックス』という魔法辞典のようなものであり、これに掲載されるということは、事実上、新しい魔法を開発してしまったということになる。

 高校生のレベルとして考えるならば、素晴らしい快挙だ。

 大学で魔法研究をする教授たちからしても名誉と言える出来事なのである。

 それが達也の開発した魔法『能動的空中機雷(アクティブ・エアー・マイン)』だった。

 指定した空間を立方体で認識し、各頂点と立方体の中心に合わせて九つの震源を設置する。震源は一番から九番までの変数に対応しているので、発動者は番号指定するだけで好きな場所から破壊振動波を発生させることが出来るというものだ。

 スピード・シューティングの競技内では、これによって一度に複数のクレーを同時破壊し、あっという間に百個のクレーを破壊し尽くした。

 振動系を得意とする雫の魔法出力があってこそと言えるが、この発想は面白い。

 応用すれば、自身を中心とした振動による範囲攻撃も可能となるだろう。

 そういう意図があって新魔法の登録へと至ったのである。

 しかし、達也は表情を変えることなく鈴音に答えた。

 

 

「そうですか。では、開発者名の問い合わせには雫の名で返答ください」

「そんなのダメ!」

 

 

 これにはいつも無表情の雫ですら慌てる。

 

 

「あれは達也さんのオリジナルなのになんで!」

「新種魔法の開発者名として最初の発動者が載ることは珍しくない」

 

 

 というのは建前である。

 達也の正体は天才魔工師トーラス=シルバーだ。プロレベルで活躍できる能力を持った達也が高校生であること自体、反則のようなものだが、これは良しとする。

 ここで言いたいのは、達也がトーラス=シルバーであることを隠す必要があるということだ。少なくとも、新魔法を開発した時点でただの高校生ではないと思われることだろう。大企業からの勧誘程度ならまだしも、魔法師の名家が達也を身辺調査し始めるかもしれない。

 その過程でトーラス=シルバーのことがバレると拙いのである。

 いや、トーラス=シルバーのことだけなら、まだ問題は浅い。しかし、魔法科大学の調査力によって達也が四葉の人間であることが判明するのは最も拙い。

 如何に紫音がフォローに走っているとは言え、迷惑はかけないに限る。

 そんな理由から拒否したのである。

 また、開発者に雫を推したのはこれだけが理由ではない。

 

 

「自分は確かにこの魔法を組み立てましたが、発動できるわけではありません。仮に実演を求められたとして、発動できなければ恥をさらすことになりますから」

「……発動できない魔法をどうやって動作確認したんだ?」

「全く使えないわけではありませんよ? ただ、自分の魔法演算領域では処理しきれず、発動に時間がかかり過ぎるだけです。ただ『使える』とは言い難いですね」

 

 

 摩利は揚げ足を取るように問い詰めるが、達也は淡々と返すだけ。

 これ以上は険悪になると思ったのか、真由美が間に入った。

 

 

「まぁまぁ。今はそんなことで口論しなくていいじゃない。達也君も、この調子で他の選手たちのことも見てあげてね!」

 

 

 

 達也は当然と言った様子で頷き、摩利も取りあえずは納得する。

 そして午後に達也が作戦担当するバトル・ボード予選でも、ほのかが決勝へと駒を進めたのだった。

 なお、この日の夕方には多方面から称賛を受けることになり、達也としては非常に居心地が悪くなったのは言うまでもない。だが、深雪は自分のことのように喜んでいたので、達也としてもそれで良しとするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 大会は五日目となる。

 そして新人戦は二日目だ。

 今日はクラウド・ボール、そしてアイス・ピラーズ・ブレイク予選が行われる。ちなみにアイス・ピラーズ・ブレイクは大量の氷を用意する必要があるので、準備のために午後からとなる。まずは午前中にクラウド・ボールを決勝まで終わらせるのだ。

 そして、今日、遂に紫音の出番がやってきた。

 

 

「あの、大丈夫ですか四葉君?」

「多分……少し寝不足なもので」

 

 

 控室で欠伸をしながら紫音は答える。

 昨日はレギュレーションチェック用の大会テントで一日中、見張りをしていた。結果として工作員を見つけることは出来なかったので、完全な無駄骨である。更には辛うじて動かしている極少数の部下が纏めた報告書を読んでいたので、夜も遅かった。

 それ故、眠いのである。

 ちなみに、紫音に付いているエンジニアは中条あずさということになっている。本当は紫音も達也が良かったのだが、あまりにも達也が人気だったので辞退した。

 そして紫音はCADを全く使わない。

 実質、担当者はエンジニアである必要すらなかった。

 

 

「よ、四葉君は本当にCAD無しでも大丈夫なんですか?」

「はい。邪魔ですから」

「十文字先輩との試合を見てなかったら信じられませんでしたよ……」

 

 

 担当があずさな理由はここにある。

 紫音は全くCADを使用しないと決めていたのだが、普通の者から見れば異常に映ることだろう。そこで、理解のあるあずさが担当になったのである。決まった当初は彼女も涙目だったが。

 

 

「多少の睡眠不足程度でコンディションが崩れるほど軟ではありませんよ」

「でも、四葉君はクラウド・ボールに続いて午後からアイス・ピラーズ・ブレイク予選もあるんですよ? 大丈夫なんですか?」

「魔法の使用は最小限で決めますから。クラウド・ボールもアイス・ピラーズ・ブレイクも」

 

 

 しかし、サイオン量の少ない紫音としては非常に困った事態だった。

 基本的に、紫音は一発一殺の魔法を重視している。習得している戦闘用の魔法は、全てそれに傾倒しているのだ。サイオン量が少ないゆえに、短期決戦を強いられているからである。具体的には、紫音のサイオン量から換算すると、百の魔法発動で辛くなる。

 つまり、九校戦は紫音にとってかなりの鬼門である。

 まず、スピード・シューティングなど論外だ。一度の試合だけで百近い魔法を使う以上、優勝を狙うならば五百発の魔法発動が必要になる。紫音のサイオン量ではとても無理な話だ。

 次にバトル・ボードだが、これも持久力が必要になる競技なので論外。

 モノリス・コードは四葉の名を恐れてチームが組めないので除外。

 消去法でクラウド・ボールとアイス・ピラーズ・ブレイクになったのである。

 この二つならば、最小限の魔法で優勝できる秘策があるため、紫音はこの二つを選択した。本当ならば一つの競技だけにしたかったのだが、四葉の名を持つ以上、それは許されない。

 必ず二つの競技に出場し、優勝しなければならないのだ。

 懇親会で真夜にも発破をかけられたので、余計にそう思う。

 

 

「ほ、ホントに大丈夫なんですか……?」

「大丈夫ですから……」

 

 

 こうして精神統一する時間はあずさを宥める時間として潰えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 紫音のクラウド・ボールを見るべく、達也たちは試合会場へと早めに足を運んでいた。四葉が出るという期待からか、既に会場一杯に観客が詰まっている。

 席が確保できたのは運が良かったからだった。

 

 

「はぁ~。こりゃすっげーな」

「会長の試合もそうでしたけど、やっぱり十師族というのは期待されているんですね」

 

 

 レオの感心に美月も同意する。

 それはエリカや幹比古も同じだった。

 

 

「四葉君が魔法使ってるところなんて初めて見るからちょっと楽しみかも」

「僕も少しだけ話したことあるけど……魔法を見るのは初めてだね」

「え? ミキって四葉君と話したことあんの!?」

「僕の名前は幹比古だ!」

 

 

 そして達也は深雪とほのかに挟まれ、解説役としてその場にいた。

 

 

「お兄様。紫音さんはどのような魔法を使われるのかご存知ですか?」

「ああ、聞いてはいる。光波振動系を使うということらしい」

「え? 加速魔法じゃないんですか?」

「クラウド・ボールなのに振動系魔法?」

 

 

 ほのかと雫が首を傾げたので、達也は表情を緩ませつつ競技用コートに目を向けた。そして第一試合から出場する紫音を眺めつつ口を開く。

 

 

「見ていれば分かるさ」

 

 

 深雪、雫、ほのかだけでなくレオ、エリカ、美月、幹比古も紫音に注目する。競技用のスポーツウェアを纏い、右手にはラケット。装備はそれだけだった。

 

 

「え? CADは?」

 

 

 その事実に気付いたのはほのかだった。

 クラウド・ボールは、低反発ボールを魔法もしくはラケットで打ち返し、相手のコートに落としたらポイントになる。二十秒ごとにボールが最大九個まで追加されるので、三分間の試合において、ラスト二十秒は忙しい戦いをすることになる。

 仮にボールがコートで跳ね返らず落ちた場合も、拾って打ち返して構わない。九個のボールを如何にうまく使い、ポイントを稼ぐかが重要だ。

 そして男子クラウド・ボールではこれを五セット繰り返し、三セット先取で勝利となる。

 しかし、ラケットだけを手に、CADを所持しないスタイルは初めてだった。

 確かに、CADを持ち込まなければならないというルールは存在しないので、持ち込まなければ選手のミスとして処理される。だからルール上はCADを持っていなくても問題ない。

 

 

「まさか忘れた?」

「おいおいおい……」

 

 

 エリカとレオも呆れたような目を向ける。

 しかし、達也は冷静に答えた。

 

 

「そうじゃない。紫音は元からCADを試合で使うつもりはない。ボールは全てラケットで打ち返すと言っていたぞ」

「え? そんな強引な方法なの!?」

「なんでも百年ほど前に流行った『テニヌ』というものをしてみたいらしい」

「なにそれ」

「俺も分からん。だからエリカも気にするな」

「えぇ……」

 

 

 一つもCADを持たない紫音は、クラウド・ボールが行われるコートの中へと入っていった。対戦する相手は八高の選手であり、こちらはラケットを使わず魔法だけで対処するらしい。魔法力とサイオン量に自信があるのだろう。

 CADを持っていない紫音を見て首を傾げていたが。

 

 

「始まるぞ」

 

 

 達也の言葉と重なって試合開始のブザーが鳴る。

 そして、まずは紫音の側に低反発ボールが打ち出された。黒羽として鍛えていた紫音は、当然のようにボールへと追いつき、力を込めてラケットで打ち返そうとする。低反発仕様なので、かなりの力を込めなければ相手のコートに届かないのだ。

 そして八高の選手は紫音を侮っていた。

 何の変哲もない、ただの打球。

 加重術式によって打つ動作が補助されている様子もないため、そこそこのスピードしか出ないだろうと油断してしまった。四葉と言っても期待外れだと錯覚してしまった。

 だが、次の瞬間に異変は起こる。

 ラケットにボールが触れた瞬間、ボールが彼の視界から消えた。

 

 

「え?」

 

 

 動体視力に自信のあるエリカは目を見開く。

 ボールが消えて困惑する達也以外のメンバー。ついに二十秒が経過し、次の追加ボールが発射される。

 それも紫音がラケットで打った途端、消えてしまった。

 

 

「あの、ボールは……?」

「まぁ、見ておけ美月」

 

 

 美月の困惑は正当なものだ。

 しかし、達也は黙って見ておけという。

 すると、一番初めのボールが消えて三十四秒後、つまり先ほどボールが追加されて十四秒後に、ようやく消えたボールが姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――八高の選手のコートで転がりつつ。

 達也はそれを見て不敵な笑みを浮かべつつ一言呟く。

 

 

「あれが紫音の秘策。最小限の魔法で勝利するために使用した『消える魔球』だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




テニヌプレイヤー爆誕
これがやりたかった。


あ、ちなみに仕組みは次話で説明します。量子力学と『調律』の組み合わせとだけ言っておきます。

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