黒羽転生   作:NANSAN

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クラウドボールのルール
・3分で20秒ごとにボールが飛び出てくる。
・相手コートに一回ボールを落とすと1ポイント。
・跳ね返らずに落ちたボールはまだ使用できるので、拾うなり魔法で弾き飛ばすなりで再び使用しても良い。
・ボールを落ちたまま放置すると、一定時間で相手のポイントになる。


低反発ボールですし、コートに落ちたボールが跳ね返らず転がってしまうこともあると思うんですよね。だから拾うルールを入れています。これは原作で記述されていないので、一応オリジナル? です。
でも、多分これで正しいと思います。



九校戦編7

 h=pλ

 量子力学においてこのような式がある。

 hとはプランク定数(6.63E-34)であり、pは運動量(質量と速度の掛け算)、λは波長である。この式が意味する事象はとても興味深く、目に見える物質の不確かさを教えてくれる。

 結論から言うが、この式を読み解くと、全ての物質は波動であるということを表しているのだ。

 例えば、電子だ。

 電子の質量は非常に小さく、よって運動量も非常に小さい。そしてh=pλの式に当てはめると、ある程度の波長が算出できる。つまり、電子とは粒子であると同時に波なのだ。

 これは電子における粒子と波動の二重性として有名である。

 だが、これを運動量の大きなボールで計算するとどうなるのか。

 運動量が大きいということは、小数点以下34桁という恐ろしく小さいプランク定数を考えると、波長λは限りなくゼロに近い値となる。つまり、殆ど波動として機能しないレベルということだ。

 人間がボールを波動ではなく物体として認識するのは、波長が限りなくゼロに近いからである。

 

 

「――というのは知っているか?」

「それぐらいは知ってるぜ。今時の高校生からすれば常識だろ」

「うわ、レオがそれを言うの?」

「うるせぇぞエリカ!」

 

 

 達也は唐突に量子力学の物質波について説明をし始めた。いわゆるド・ブロイの式である。

 そしてこのような説明を始めた理由は、これこそが紫音の使った『消える魔球』の正体を表すものだからだ。

 

 

「紫音はクラウド・ボールで使われるボールの持つ物質波の波長へと、周囲の光の波長を『調律』した。ボール表面に到達した光は、限りなくゼロに近い波長へと強制的に書き換えられ、ボールを自然透過してしまう。いや、透過というよりも馴染むと言った方が正しいか。限りなくゼロに近い波長をもつ光という、物理的に不可解な状態が一時的に保存され、光子としてボールをすり抜けてしまう。そしてボールを透過すれば、光は事象の復元力によって元の波長に戻るという仕組みだ」

「だからボールが消えて見えたんですね。ボール表面で光が反射しない以上、私たちの目には反射光が認識できませんから」

「その通りだよ。よく分かったね深雪」

 

 

 達也が解説している間にも、紫音はボールをラケットで打ち返しては視界から消す。透明になったボールは数秒後に相手のコートに転がり、数十秒後に姿を現す。逆に八高選手は何をすることも出来ない。

 初めから八高側に出されたボールならば、ベクトル操作で紫音のコートへと打ち返せる。しかし、紫音はフラッシュキャストで自己加速術式を使い、一瞬で追いついてラケットでボールを八高側に打ち返していた。

 八高選手もなんとか透明化が解けたボールを紫音のコートへと打ち返しているが、その度に紫音は打ち返してボールを消し、相手コートに転がす。低反発ボールなので、力加減をすれば、床で跳ね返らず転がってしまうのだ。これによって、八高選手が拾うまでの時間を稼いでいる。

 紫音が使ったのは光を物質波の波長まで『調律』することで対象を透明にする『透明化』という術式。そして自己加速術式だけだ。しかも、『透明化』によってボールは不可視となり、八高選手は全く反撃できない。

 ちなみに、この『透明化』だが、ボールのようにシンプルな形状ならば魔法演算も楽なので、発動時間も長くなる。ボールが相手コートに落ちた後も三十秒以上は透明なままなので、速攻の反撃も出来ない仕様となっている。

 別の意味で一方的な試合だった。

 あっという間に三分が経過し、紫音の完勝となる。

 

 

「勝っちゃいましたね……CADなしで」

「うわ~。あれはドン引きかも」

 

 

 美月とエリカは頬を引き攣らせている。

 途中から八高選手も泣きそうになっていたが、残る二セット目と三セット目も紫音が奪い取り、第一試合は一高が制したのだった。

 

 

「紫音はサイオン量がかなり少ない。本人の申告では、一般魔法師の平均を下回っているそうだ。だからこそ、あのような戦い方が必須らしい」

「す、すごいです! 私も光波振動系が得意なんですけど、あれほど使いこなすなんて無理です! 私もあんな魔法が使えるんでしょうか?」

「落ち着けほのか」

「ほのか落ち着いて。お兄様が困ってらっしゃるわ」

「はっ……ご、ごめんなさい。つい興奮してしまって……」

「気持ちは分かるが、ほのかには難しいかもしれないな。紫音は光波に限らず、音なんかも自在に操れるそうだ。波長や振動数の事象改変については他の追随を許さない強度を持っている。あれ程の事象改変能力なら『ニブルヘイム』や『インフェルノ』といった超高等魔法も使えるかもしれない」

 

 

 そんなことを言いつつも、達也は紫音がそんな魔法を通常時では(・・・・・)使えないことを知っている。紫音の魔法演算領域は光波や音波などを操ることに特化しているので、分子振動による熱への干渉はあまり得意ではないのだ。

 試合終了後、八高選手は膝から崩れ落ちていた。

 何もできずに敗退したのだから、悔しさは人一倍だろう。

 

 

「心が折れちゃってるかもね。カワイソー」

「珍しく意見が合うねエリカ。僕も八高に同情するよ」

「エリカちゃん……吉田君……」

 

 

 美月が呆れたように声をかけると、エリカも幹比古も目を逸らす。

 だが、会場全体の雰囲気としても八高選手へと同情する目が多かった。

 

 

「さて、深雪に雫。そろそろアイス・ピラーズ・ブレイクの準備に行こう。午後からとは言え、そろそろ最終調整をした方がいい」

「わかりましたお兄様」

「うん」

 

 

 とりあえず紫音の試合を見た達也は立ち上がり、深雪と雫も続く。

 その後、ほのか、レオ、エリカ、美月、幹比古の五人は残って観戦したのだが、やはり『透明化』を使う紫音が一度打ち返すだけで次々と試合を決めて、あっという間に決勝進出。

 赤外線でも、エックス線でも、電波でも観測不能な『透明化』では、知覚系魔法があっても絶対に対応できない。

 事象改変の大きさから維持時間が短い――単純な形状ならば三十秒以上、複雑な形状かつ激しく動き回る対象ならば一秒未満――という弱点はあるものの、数秒で相手コートにボールが届くクラウド・ボールにおいては全く意味をなさない弱点だった。

 最終的には決勝戦の二試合も難なく勝利し、見事に優勝を決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 昼休憩で一高陣営に戻った紫音は、主に先輩から称賛を受けた。特にサイオン量が少ないことを認知している作戦スタッフ陣からの称賛が強かった。

 

 

「お見事でした四葉君」

「ありがとうございます市原先輩」

「ホントに凄かったわ! あんなの初めて見たわよ」

「七草先輩もありがとうございます」

 

 

 紫音がクラウド・ボールで使用したのは自己加速術式と『透明化』のみ。そして紫音が打ったボールは一度も打ち返されず、一方的に試合を運ぶ。

 クラウド・ボール史上、前代未聞の記録と言えた。

 同じクラウド・ボールで優勝した真由美は、運動量を二倍で跳ね返す『ダブル・バウンド』のみで勝利をしたのだが、こちらとはまた違った凄さがある。

 

 

「午後のアイス・ピラーズ・ブレイクも問題なさそうですか?」

「魔法を三回使う程度なら問題なさそうですね」

「三回……? まさか一度の魔法発動で勝負を決めるつもりですか?」

「はい」

 

 

 アイス・ピラーズ・ブレイクは予選のみ行うので、今日だけで三回の試合を行う。つまり、三度の魔法で勝ち抜くと言うことは、一回の試合で一回の魔法しか使わないということだ。

 勿論、紫音はアレを使うつもりである。

 

 

「折角の機会ですから、四葉を名乗る所以と言える魔法をお見せしますよ」

「それは楽しみです。司波さんたちの試合も興味があったのですが、私はそちらを見学させていただきましょう」

「あ、リンちゃんズルい! 私も四葉君の試合を見たいのに!」

「早い者勝ちです」

「いや、好きな方を見に来ればいいじゃないですか……」

 

 

 早い者勝ちも何も、観戦には別に制限などない。

 見に行きたければ、勝手に来ればよいのである。

 そこに腕を布で吊るした摩利も一言付け加えた。

 

 

「しかしアイス・ピラーズ・ブレイクなら明日の決勝が一番盛り上がるだろうな。恐らく三高からは『クリムゾン・プリンス』が出てくるぞ」

「一条将輝ですね。一条家には『爆裂』がありますから、アイス・ピラーズ・ブレイクに出てくるのは確実と言えるでしょう」

 

 

 『爆裂』は液体を一瞬で気化させることによる膨張で対象を破裂させる。つまり、氷を倒すことが目的のアイス・ピラーズ・ブレイクでは圧倒的な力を振るうことが出来るのだ。

 ループキャストを使用すると仮定して、『爆裂』を使えば一つの氷柱を潰すのにかかる時間は平均コンマ五秒となる。つまり、六秒ほどで一条将輝の勝利となるわけだ。

 氷柱に情報強化を施したとしても、『爆裂』にはそれを抜く技法が組み込まれている。元から一条家は生体干渉というテーマがあるので、魔法師が無意識に纏っている情報強化を破り、体内の水分を爆発させるために研究をしている。

 対人戦闘においては『爆裂』ほど殺傷に向いた魔法も中々ない。

 本来ならばレギュレーション違反となる高威力魔法『爆裂』も、氷を破壊するだけのアイス・ピラーズ・ブレイクでは解禁される。

 誰がどう見ても優勝間違いなしと言われているのが将輝なのだ。

 

 

「それでもなお、四葉君は優勝できますか?」

「当然ですよ。僅か十二個の氷を破壊するのに六秒も(・・・)かけるような雑魚相手では話になりませんね」

「そ、そうですか……」

 

 

 言葉は自信たっぷりなのに、妙に真顔な紫音を見て鈴音も動揺したらしい。

 摩利と真由美も呆れていた。

 

 

「本当に規格外だな」

「四葉君が味方で良かったと心底思ったわ」

「母上殿が見ていますからね。無様は見せられませんよ」

 

 

 九校戦は九島烈だけでなく、あの四葉真夜も見ているのだ。どれだけ注目されているのかよく分かる。

 そして最も注目されるだろうと思われるのが、四葉と一条の戦いだ。

 大会委員は、試合を最も盛り上げるために、決勝戦で紫音と将輝がぶつかるようにと試合カードを組んでいる。つまり今日はまだ将輝と相見えることもない。

 観戦するならば明日が一番だろう。

 一高陣営でも、殆どの二年生三年生は明日の試合は見逃せないと話していたのだから。

 

 

「そろそろ選手控室に行きます。予選一回目は第二試合ですが、念のために」

「そうね。あーちゃんも行ってらっしゃい」

「はい! といっても私は何もすることないんですけどね……」

 

 

 紫音はそう言ってあずさを伴いつつ、一高陣営を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 九校戦を観戦する際、全国のファンの中でも富豪と呼ばれる者たちは、特別な観戦室を用意される。彼らは九校戦を支援するスポンサーであり、VIPなのだ。

 だが、九島烈はそれとはまた違ったVIPである。

 魔法界における長老とも言える存在に、適当な部屋を与える訳にはいかない。強化アクリル樹脂製の大きな窓から会場を見渡せる席を用意されていた。

 そしてそこには四葉真夜も同席しており、嘗ての師弟で魔法の談議をしつつ、観戦していたのである。

 

 

「また、お前の子が出るようだな真夜」

「ええ、そのようですね。あの子はサイオン量に問題を抱えていますから、持久力が必要な競技は避けたのでしょう」

「確かに、あのような魔法を有するなら、何百という魔法を使うスピード・シューティングや魔法維持でサイオンを消費するバトル・ボードに出るより、クラウド・ボールに……と考えるのは分かる。しかしアイス・ピラーズ・ブレイクも持久力が必要だと思うがね?」

「普通はそうでしょう。ですが、あの子は使うつもりですよ。『夜』の力を」

「クラウド・ボールでも驚かされたが、アレで本気ではないのか。楽しみにしておこう」

 

 

 アイス・ピラーズ・ブレイク第一試合が終了し、今は新しい氷柱を並べて次の試合準備を行っているところだ。そして第二試合こそが紫音の出番。

 老師は年甲斐もなく気分を高揚させる。

 

 

「しかしお前に息子とは驚いた」

「分家筋からの養子です。血縁上は私の子と言えませんが、使用する魔法は私を彷彿とさせるものです」

「あの子が『流星群(ミーティア・ライン)』を使うのかね?」

「発動過程も、見た目も『流星群(ミーティア・ライン)』とは異なります。ですがその効果はまるで私の力を引き継いだかのように思えるものですよ」

「皮肉なものだな。司波の兄妹ではなく、別の分家の者がその力を得るとは」

 

 

 烈は当然のように達也と深雪のことも知っている。

 そしてこの場には烈の側近と呼べるものが一名、そして四葉家筆頭執事の葉山しかいないので、隠すべき秘密も平然と語られていた。

 

 

「あら、達也さんも深雪さんも分家の子ですよ?」

「とはいえあの二人は深夜の子供たちだ。血の繋がりで言うならば、最も近いのはあの二人だろう?」

 

 

 真夜からすれば、達也と深雪は甥と姪にあたる。

 それに対して紫音は従弟である黒羽貢の息子という位置にあるので、血縁上は達也と深雪の方が近い。烈の言葉も尤もである。

 

 

「ふふ。遺伝などそのようなものでしょう? ただ、今の紫音は私の息子です。最も四葉の血に愛された私の息子」

「血に呪われた、の間違いではないかね」

「あら、幾ら九島先生でも聞き捨てなりませんわね」

「それは失礼したな」

 

 

 烈は四葉の力を危惧している。恐れているといっても過言ではない。

 ただの魔法師一族が、嘗て国を滅ぼしたことから、烈を臆病だと罵ることは出来ないだろう。

 しかし、それは烈の勘違いである。

 今の四葉一族は弱体化していると言ってよい。大漢を滅ぼした時、四葉一族にも死者はいた。優秀な四葉の魔法師は殆ど死んでしまったので、今は巻き返しを狙っている時期と言って良い。

 紫音のような、少数精鋭の強力な魔法師によって力が保たれているのが今の四葉一族なのだ。真夜としては決して烈に手を出させるつもりなどないし、その他の介入を許すつもりもない。

 こうして紫音を表に出し、真夜自身が九校戦へと赴いたのもその一環である。

 

 

「さて、始まるぞ」

 

 

 話を切った烈は興味深げな視線を向ける。

 その視線の先では、ステージに上がった紫音の姿。予選一回目の試合は五高の選手が相手のようである。

 フィールド両サイドにある赤いランプが点灯し、黄色に変わった。

 そして青のランプになった瞬間、試合は始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――そして終わった。

 

 

「ほう」

 

 

 烈は思わず感嘆を漏らしてしまう。

 試合時間、僅かに一秒。

 ランプに青が灯されると同時に、五高選手の陣地を暗黒が蹂躙した。分類上では光波振動・収束系魔法『暗黒流星群(ダークミーティア)』。光を一方向にのみ進むよう、事象改変することで、あらゆる物体を貫通する。

 無数の暗黒がラインとなって降り注ぎ、一秒で十二の氷柱全てを破壊した。

 

 

「真夜の力を『夜』と評するなら、これは『闇』。確かに似ている」

「そうでしょう?」

 

 

 圧倒的な力の前には全てが平伏す。

 紫音は僅か一度の魔法で一試合目を突破。

 残る予選二試合も、一発ずつで勝利を収めた。

 初めの宣言通り、最小限の魔法で圧倒的な勝利を叩きだしたのである。試合を見た誰もが、その様に四葉紫音を恐れた。

 あれこそが『魔王の子』であると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




紫音さんが本気(全力ではない)を出したぞ。
皆喜べ。


ちなみに、原作では五日目にアイス・ピラーズ・ブレイクの予選一回戦と二回戦を行い、六日目に予選三回戦と決勝リーグを行っています。
しかし、本作では五日目にアイス・ピラーズ・ブレイクの予選全てを終わらせることにしました。
あしからず
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