黒羽転生   作:NANSAN

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誤字報告が多くて驚きました。
一気に書き上げた分、粗が目立ちましたね。
いつも読者の方々には感謝します。


九校戦編11

 一段落したと連絡を受けた紫音は、ホテルのベッドで眠ることにした。九校戦に真夜が現れたり、予定外の敵が出現したりと大変だったのだ。『調律』がある以上、ストレス性の疲労はないが、身体的な疲労は溜まっていく。

 達也にも言われたことで、ようやく休息の時を持ったのだった。

 一方、達也は達也で困惑していた。

 

 

「自分がモノリス・コードに……ですか?」

「その通りだ」

 

 

 克人が鷹揚に頷き、肯定する。

 新たに第一高校から選手を選ぶことになった時、克人は達也を指名した。既に選手交代という特例がある以上、二科生で技術スタッフの達也が出ても今更だ、というのが彼の主張である。

 この場には真由美の他に、動けるまで回復した摩利も居たので、説得が本気であることが窺えた。

 

 

「自分が出場すれば、一つの競技にしか出ていない一年生にも精神的なしこりを残すことになると思うのですが? 例え大会側が認めても、一高内では不満を持つ者が多いでしょう。先輩方がそれを理解していないとは思えませんが?」

 

 

 しかし達也は遠回しに拒否する。

 実戦に近い魔法競技である以上、達也はある程度の活躍が出来ることだろう。しかし、余計なしがらみを避けたい達也としては、この件を受けたくはない。

 なので辻褄を合わせるかのように、次々と理由を述べていく。

 

 

「特例が許されるなら紫音はどうですか。それこそ、技術スタッフの自分が出るより、三度目の出場を許可する方が受け入れやすいでしょう? なにより、紫音の実力は誰もが知っています」

「残念だけど、それはダメよ。四葉君は強すぎる。これは他校から見てズルいと思われかねないの。今回の件を利用して事を有利に進めたなんてケチをつけられるのは御免だわ。だから四葉君は出せない」

「そもそも、四葉とチームを組んでくれる奴もいないからな。少なくともあたしは知らない」

 

 

 例え紫音がモノリス・コードに出るとしても、チームの問題がある。未だに紫音を怖がっている生徒は多いので、まともなチームになることはまずないだろう。

 それは達也も理解できた。

 

 

「紫音のことは分かりました。ですが、それなら自分に白羽の矢が立った理由が分かりません」

「司波は単純な魔法競技よりも実戦形式の方が力を発揮できるだろう? 寧ろ、他の生徒ではいきなりモノリス・コードに出るのは難しいぞ」

「渡辺先輩。モノリス・コードも立派な魔法競技ですよ」

「揚げ足ばかり取るな。あたしはそういうことを言いたいんじゃなくてだな……」

 

 

 どうにもこうにも達也の説得は難しい。

 なんとかしてはぐらかそうとしてくるのが真由美と摩利にも分かった。

 だが、ここで克人が厳しい口調で達也を咎める。

 

 

「甘えるな司波」

 

 

 その目はまっすぐに達也を見つめていた。

 

 

「お前は二科生だからと……そんな理由を述べてはいるが、少なくとも俺はそんなものは関係ないと思っている」

 

 

 その言葉には確かな重みがあった。

 

 

「ここにいる以上、お前は一年生二百名から選ばれた二十一名の内の一人、技術スタッフとか選手とかの区別は関係ない。お前はここに第一高校の代表として来ているのだ」

 

 

 二科生で補欠ということを理由にするな。

 克人が言いたかったのはそういうことである。

 そもそも、二科生制度自体、嘗て第一高校が新入生の急な追加募集をしたことが始まりだった。当時は百人だった枠が倍の二百人に増やされ、成績順で二つに分けられることになったのである。その際、制服の発注ミスで追加募集の百人分はエンブレムがなかった。

 これがのちに曲解されてブルームとウィードになったに過ぎないのだ。

 克人は、これも意識改革だと言っているのである。

 それも一科生への改革ではなく、二科生に対するものだ。

 お前たちは決して()()()()()()()ではないと示したいのである。

 

 

「司波の出場は第一高校のリーダーである七草が決めたことだ。そして補佐を務める俺と渡辺も許可を出した。リーダーの決定に逆らうことは許されない。

 甘えるなよ司波。

 そして逃げるな。

 代表としての義務を果たせ」

 

 

 克人が伝えたいことは達也にも理解できた。

 補欠であることに、弱者であることに逃げ道を見出すなと言っている。

 如何に感情の薄い達也であっても、ここまで言われては逃げる気も起きない。

 

 

「了解しました。義務を果たします」

 

 

 達也の新人戦モノリス・コード出場が決定したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 九校戦の八日目。そして新人戦の最終日。

 この日は再編した第一高校のチームが残る予選二回分を行い、予選を終了させる。そして決勝トーナメントを行うのだ。

 モノリス・コードは変則的なリーグを採用している。

 予選で四試合行い、勝利数の多い四チームが決勝トーナメントへと進めるのだ。既に第一高校は四高のルール違反による不戦勝があり、その前に一勝していたので、残る予選が二試合ということである。

 相手は二高と八高。

 達也はどちらにも勝つつもりだった。

 

 

「あ、勝ちましたね」

「うむ。期待以上だ」

 

 

 そして達也は見事に勝利を収めた。

 これで予選は四勝となり、その内の一つが不戦勝であることを加味して二位通過となった。ちなみに一位通過は一条将輝と吉祥寺真紅郎がいる三高である。こちらはストレートに四勝したので、文句なしの一位通過だった。

 そして決勝リーグに進出する残り二つは八高と九校。

 先程の予選で八高とは戦ったばかりであるため、第一高校は準決勝を第九高校と試合する。そして第三高校は第八高校との試合だ。

 恐らく、次の準決勝も問題なく勝ち上がれると思われた。

 そんな試合を紫音と克人はスクリーン越しに眺めていた。

 

 

「司波は戦い慣れているように見える。昨日の今日という無茶を要求したが、まさかこれほどまでに応えてくれるとはな」

「チームメイトの残り二人も優秀ですね。あれ、ホントに二科生なんですか?」

「そうらしいな」

 

 

 達也がチームとして選んだのは西城レオンハルト、そして吉田幹比古である。レオは硬化魔法を得意としており、肉体をフル活用した戦闘方法が目立つ。モノリス・コードは直接攻撃が禁止されているので、その自慢も生かされないかと思われたが、達也は意外な解決策を持ってきた。

 その名も『小通連』。

 剣の形をした武装一体型デバイスであり、硬化魔法によって刀身を飛ばすことが出来る。そもそも、硬化魔法とは物体の相対位置を固定するというのが定義であり、これを分子に適応すると硬くなる。

 だが、その定義を拡大解釈すると、もっと大きな物体でも位置を固定できるのだ。

 そこで、『小通連』は刀身を飛ばして硬化魔法で位置を固定し、手元に残った部分を振り回すことで、飛ばされている刀身も自在に動かせるという魔法だ。

 そしてモノリス・コードでは質量体を飛ばして攻撃することは許可されている。

 ルール違反にはならず、レオの肉体を生かせる寸法だ。

 もう一人のメンバーである幹比古は、元から高いポテンシャルを秘めている。そもそも、なんで二科生にいるのかすら分からないほどの実力者だ。元は魔法事故によって一時的に上手く魔法が使えなくなっていただけであり、達也の指導もあって自信を取り戻した。

 先の予選でも古式魔法特有の隠密性を利用し、奇襲を仕掛けて戦場を掻きまわした。更には精霊との『感覚同調』によって視覚を共有し、遠距離からモノリスに記されているコードを打ち込んで送信するという荒業までやってのけた。

 克人が唸るのも頷ける手際の良さである。

 

 

「決勝トーナメントの開始は正午でしたか?」

「その通りだ。まずは三高と八高の試合だから、司波たちの出番はもう少し後だな」

「よほどのことがない限りは三高が上がってきますよね」

「そうだろうな」

「となると、決勝は辛そうですねー。何せ『プリンス』が相手ですし」

「ふ……司波たちが九校を倒すのは確定事項か?」

「少なくとも、自分はそう思ってますよ。達也は()()()使()()ことにおいて群を抜いています。そしてチームメイトにも、上手く魔法を使う方法を教えているようですし」

「老師の言葉か……その点においては一科生の奴らも司波を見習って欲しいものだな」

 

 

 実戦を経験している者であるほど、魔法の使い方に重点を置く。魔法師にとって魔法が使えるのは当たり前のことであり、後は戦いにおいてどのように工夫するかが重要になるのだ。

 紫音の場合、サイオン量の関係で魔法の連続発動は得意とは言えない。

 『暗黒流星群(ダークミーティア)』も何百と撃てる魔法ではなく、戦闘中に使うならば数十回が限界だ。粘っても百回までだろう。

 だからこそ、一撃で多数の相手を仕留めることに特化させた。

 突き詰めた結果、CADが必要なくなるほどに一部の魔法だけを極めてしまったが。戦闘で使う魔法はフラッシュキャストで発動できるが、そうでない魔法は普通にCADを使うこともある。

 尤も、()()()使()()上ではフラッシュキャストだけで十分だが。

 

 

「司波達也……何者か気になるところだな。ただの高校生ではあるまい」

 

 

 紫音は克人の呟きを聞いて冷や汗を流すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 第一高校は、その後も無事に準決勝を突破した。渓谷ステージで九高と試合を行ったのだが、ここでは古式魔法使いの幹比古が大技を披露した。フィールドを霧で覆うことで試合を掌握したのだ。

 相手が霧で迷っている内に、達也がモノリスの鍵を開ける。

 そして幹比古が『感覚同調』で遠距離からコードを打ち込み、勝利となったのである。

 これまでの試合で最も簡単に終わったと言えた。

 遂に、決勝戦である三高との試合である。

 

 

「遂にここまで来たわね……」

 

 

 画面を見つめる真由美の言葉に、周囲が頷く。

 とは言っても、この時点で新人戦の優勝は決まっていた。更に言えば、総合優勝も確定的といって過言ではない。勝っても負けても問題はなかった。

 故に心配事は一つ。

 怪我をしないかということだ。

 

 

「どうやら入場が始まったようです」

「ええ……なんだか緊張するわね」

「画面越しですが、司波君はあまり緊張しているようには見えませんね。残る二人は別のようですが」

 

 

 真由美と鈴音の会話を聞き流しつつも、同じくこの場にいた紫音は考え込む。

 

 

(原作通りなら、達也は一条将輝を倒すはず。こればかりは誤魔化しきれないか……)

 

 

 実は、達也も適当にやって負ける予定だった。

 しかし、試合前に深雪から『お兄様は最強です(意訳)』という激励を貰い、かなりヤル気になっているのである。基本的に深雪の期待には応える達也だ。流石に『分解』は使わないだろうが、フラッシュキャストや『精霊の眼(エレメンタルサイト)』は使うことだろう。

 あくまで魔法競技というレギュレーションがある以上、これがあれば作戦次第で三高にも勝てる。

 いや、勝ててしまう。

 達也が十師族でもない(名目上)、しかも補欠という立場の二科生である以上、一条を倒してしまったというのは外聞に障る。そして何より、達也が目立つ。

 真夜も観戦に来ているので、紫音は今の時点から胃が痛かった。

 急いで『調律』を使う。

 

 

「しかし草原ステージとは、達也も運が悪いですね」

「そうなのよね。こんな開けたステージだと、吉田君の奇襲も使えないし……一番困るのは一条将輝と正面から戦わないといけないってことよ」

「このステージだと、間違いなくモノリスを開く前に相手を気絶させることが優先になりますから」

 

 

 モノリス・コードの勝利条件は、モノリス内部のコードを送信するほか、相手選手を三人とも気絶させることでも達成される。障害物のない草原ステージでは、後者の勝利条件が必須となるだろう。

 実に不利な戦いである。

 真由美も紫音の意見に同意だったのか、困ったような表情を浮かべていた。

 だが、そこに摩利が口を挟む。

 

 

「いやいや。司波のことだから、あたしたちが驚くような作戦を使ってくるんじゃないか? ほら、現にローブとマントなんて用意して被っているぞ?」

 

 

 摩利が指差した画面では、レオが全身を覆うマントを、幹比古がローブを纏っていた。

 ちなみに、これは吉祥寺真紅郎の使う『不可視の弾丸(インビジブル・ブリット)』対策である。『基本コード』の一つ、加重プラスコードを使った魔法であり。狙った対象に対して直接加重を与えることが出来る。

 だが、事象を書き換えるのではなく、書き加えるのが『基本コード』だ。

 つまり、対象をしっかりと認識できなければ魔法は機能しない。

 そこで、吉祥寺の視界を塞ぐために、達也はローブとマントを用意したのである。

 流石にコスプレを彷彿とさせるので、レオと幹比古は恥ずかしそうにしていたが。

 

 

「五十里君にも確認して貰っていたものよね。さっき見せてもらったときには驚いたけど」

「ルール違反ではありませんからね。正確にはルールに記載されていないだけといえますが。彼はそういったルールの穴を突くのも上手いようです」

 

 

 鈴音の発言は的を射ている。

 予選の前にも、達也は『モノリスを開く鍵魔法をぶつけられたら、硬化魔法で開かないように固定すればいい』ということまで言っていたのだ。確かに、モノリスは一度開くと元に戻すことは禁止となる。しかし、鍵魔法をぶつけられても開かないように抑えておくことはルール違反ではないのだ。

 悪知恵が働くのは相変わらずである。

 

 

(ん?)

 

 

 そして試合直前、紫音はデバイスにメールが届いたことに気付いた。

 すぐに中身を確認する。

 

 

『どうして紫音さんが出ていないのかしら? 母より』

 

 

 紫音はパタリとデバイスを閉じ、見なかったことにしてポケットにしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




紫音さんの胃に500ダメージ(自業自得)。
オートスキル『調律』発動。
500回復した。




真夜「紫音さんから返事が来ないわね……」

と悲しむ真夜様がいたとかいなかったとか。
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