黒羽転生   作:NANSAN

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追憶編
追憶編Ver.S


 二〇八四年六月三日。

 当時の紫音が四歳のとき、一つの魔法実験が行われることになった。

 実験の内容は危険のあるものだったが、未成熟だからこそ成功しやすいと判断され、第四研究所にて実験は行われた。

 

 

「楽にしなさい、紫音さん」

「は、はい……」

 

 

 紫音は前世の記憶を持っており、年齢の割には成熟した考えの持ち主だった。早期の段階から『魔法』という概念を教え込まれ、彼の持つ特異な魔法『調律』が研究されていた。

 当時分かっていた『調律』の性質は三つ。

 ①分類は精神系統だが、観測した物理的波動にも効果が及ぶ。

 ②精神波長を操作することで、他者と精神的にリンクできる。

 ③精神的にリンクした場合、互いが心で思ったことが伝わる場合がある。

 まだ魔法の強度も低く、少し心が読める程度の魔法として認識されていた。だが、ここで第四研究所は、他者と自分の精神波長を操作することで、魔法演算領域を操作できる可能性に行きつく。

 つまり、魔法演算領域を操作することで、自分に新しい演算領域を増設したり、非魔法師を魔法師に変えたり出来るようになるのではないかと考えられた。

 その検証実験として、紫音に四葉真夜の魔法演算領域を埋め込むという実験が行われたのだ。

 現在、紫音は椅子に座らされて真夜と対面しており、非常に緊張していた。

 如何に前世の記憶があると言っても、目の前にいる四葉家の当主に対して平静でいられるはずがない。それに、ここには真夜の他に司波深夜――旧姓、四葉深夜――もいた。

 『夜の女王』と『忘却の川の支配者(レテ・ミストレス)』の二人が臨む実験。

 見守る第四研究所の研究員ですら、実験前から冷や汗を流している。

 

 

「準備は良いかしら深夜?」

「ええ、今日は体調も優れているわ。それに骨子は紫音さんに担当して貰いますから、負担も少ないでしょう。(わたくし)は精神構造の安定化と固定化を手助けするだけですから」

「そう、なら始めましょうか」

 

 

 真夜は紫音の手を取り、微笑む。

 深夜は二人に手を重ね、精神構造干渉の準備に入る。

 そして紫音は自身の持つ『調律』の力に意識を落とし、真夜の魔法演算領域を自分の内部にコピーし始めた。

 だが、紫音の魔法は万能に精神を改変するものではない。

 浅い領域を調律し、リンクするだけならともかく、魔法演算領域の精神波長パターンを調律して自分と同期させるのは初めての試みだった。故に、紫音の魔法演算領域が間違って書き換わってしまわないように、深夜の精神構造干渉で安定化させる。

 そんな実験だった。

 第四研究所のテーマは『精神干渉魔法を利用した精神改造による魔法力の付与・向上』。

 紫音が他者の精神波長を自分の内部に調律できることを利用し、自分自身の魔法演算領域に加えて、四葉真夜の魔法演算領域を得ることが出来るかという実験。

 これが成功すれば、紫音はただ一人『夜』の魔法を継ぐことになる。

 そればかりか、四葉の秘術級魔法を全て習得することすら可能になるかもしれない。

 精神という謎に包まれた領域の先駆者となり得る可能性を秘めていた。

 故に、危険と知りつつも実験を行ったのである。

 仮に失敗して精神に異常をきたした場合、幼い状態ならリカバリーも難しくないだろうというのが、実験の後押しとなった。

 これに対して黒羽貢のみは渋い反応を見せていたが、結局は承諾。

 何故承諾したかについては、当主である四葉真夜しか知らない。何かの交渉があったのだと推察されているが、紫音も深夜も研究員もわざわざ聞き出そうとは思わなかった。

 

 

「紫音さん。『調律』はどの程度で終わりますか?」

「最低でも三十分以上はかかると思います。こんなレベルまで調律するのは初めてなので」

「深夜」

「今のところは紫音さんの内部に異常はありません」

「いいえ、今聞いているのは貴女の体調です」

「そちらも問題ないわ」

 

 

 電磁波を始めとした波動を観測できる紫音にとって、物理的な調律はそれほど難しくない。今のところは音を衝撃波に変える『音壊』のみが実用レベルとして習得できている魔法だが、練習を積めば他にも出来ることが増えると思っている。

 だが、本来の用途である精神の調律はかなり難度が高い。

 精神構造の把握ができない紫音は、意味の分からぬまま波動パターンを自分の内部に再現しているため、先の見えない不安がある。

 精神構造干渉を扱う深夜がいなければ、実験を行う気になれないほどだった。

 

 

(あー……しかし俺が自分の魔法演算領域を真夜様のものに調律していたら、俺の『調律』も使えなくなるんじゃないか? その辺はどうなってるんだろ?)

 

 

 紫音の魔法演算領域と真夜の魔法演算領域は全く違う。

 特異な精神系統に特化している紫音に対し、真夜は歪で特殊な魔法に特化している。四葉一族はこの二人のように二種類の魔法師が生まれる傾向にあるのだ。

 そして精神系の紫音に対して、真夜のように特殊な魔法を使うための魔法演算領域を植え付けた場合、元あった紫音の魔法演算領域が消えてしまうのではないかという疑いがあった。

 ただ、紫音はそれほど気にしていない。

 実際、『調律』といっても当時は大したことがなく、ちょっと心が読める程度の能力だったからだ。

 

 

(いっそ真夜様の『流星群(ミーティア・ライン)』の方がカッコよくていいかも?)

(あら、そう思ってくれるのなら嬉しいわ?)

(はいっ!? 真夜様!?)

(表層のリンクが確立しているようね。思っていることが筒抜けよ?)

 

 

 思わず紫音は慌てる。

 今回は思考が繋がらないように調整していたつもりだったが、未熟な紫音ではキッチリ出来ていなかったらしい。

 恥ずかしさで魔法が乱れる。

 今度は深夜がそれを思念リンクで指摘した。

 

 

(紫音さん、乱れているわよ)

(す、すみません深夜様……)

 

 

 何とも不思議な気分である。

 外から見ている研究員には理解できていないだろうが、現在、紫音と真夜と深夜は思考レベルで繋がっていた。そのため、心で思ったことがそのまま相手に届いてしまう状態なのである。

 慌てる紫音に対し、深夜は落ち着いてアドバイスを送った。

 

 

(心を落ち着けて真夜を意識しなさい。(わたくし)が調律した魔法演算領域を再構築し、安定化させますから、貴方の魔法演算領域が失われることはありません)

(そこも聞いていたんですね……)

 

 

 だが、安心した紫音は改めて『調律』に集中する。

 結果として四十八分で全ての実験は終了することになった。

 全ての行程が終了したことを深夜が告げる。

 

 

「終わりました。予定通り、真夜の魔法演算領域は紫音さんの中で構築されました。ただし、私の魔法で構造切り替えの仕組みを入れています。いわば、二重人格に近いと思ってください。

 ただし、私も魔法演算領域に対して魔法を行使するのは初めてです。『調律』された対象を整えただけとはいえ、エラーが生じている可能性はあります」

「そう、なら早速だけど検証して頂戴」

 

 

 真夜の声で研究員の一人が的を用意する。

 すると突然、真夜が『流星群(ミーティア・ライン)』を発動し、的を砕いた。

 

 

「やって見なさい。紫音さん」

「はい」

 

 

 魔法師にとって魔法とはイメージだ。

 無意識化にある魔法演算領域は、自分自身のイメージが肝になっている。

 紫音は研究員の一人が用意した的に対し、真夜の魔法を発動しようとした。

 ところが、紫音の予想に反して的は黒いラインに破壊される。

 予定外の魔法発動を見て、真夜と深夜は驚いた。

 

 

「これはどういうことかしら?」

「私が先ほど言った、エラーが生じているようね」

 

 

 深夜が混乱する紫音に触れて精神構造解析をする。

 数分後、結果だけを簡潔に述べた。

 

 

「真夜の魔法演算領域は紫音さんの中で情報化して存在しているようね。これについては成功と言えるわ。ただし、本人が真夜の魔法演算領域をどうやって使うか理解していないようね。今の魔法は紫音さんの魔法演算領域から出たもの。

 真夜の魔法演算領域が影響を与えて変質してしまった……。

 それどころか、私の魔法演算領域も影響を与えてしまった可能性があるわ

 『調律』の効果が及び過ぎた結果ね。

 途中で心を乱したのがいけなかったのでしょう」

「つまり、要練習、ということかしら?」

「ええ、それに新しい調査も必要でしょう。紫音さんの人格にもきっと何かの影響があるわ」

 

 

 前世の記憶があった紫音に変化があったとすればここだろう。

 無意識の領域に真夜と深夜の精神性を受け継ぎ、その魔法にも影響されたのは事実だ。

 この日から、紫音は真夜と深夜に対して共感を示すようになる。一部の精神性を受け継いだことで二人に影響されやすくなり、達也と深雪に対しても特に目をかけるようになるのだった。

 ある意味、四葉一族としてこの世界に定着した瞬間となった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 調査ファイル

 対象:黒羽紫音、五歳(二〇八五年九月時点)

 

 実験後の経過観察によって、黒羽紫音の魔法演算領域に悪くない影響が出ていることが判明した。

 『調律』の魔法は四葉真夜の魔法的性質、及び司波深夜の魔法的性質に近付き、効果の特化と向上が見られた。

 ①電磁波を調律し、一方向に絶対透過させる(『流星群(ミーティア・ライン)』の性質を受け継いでいると思われる)

 ②精神波長の調律によって、他者の魔法演算領域に干渉できるようになった。(精神構造干渉に影響されていると思われる)

 これによって『調律』の魔法的効果の向上を確認。

 第四研究所のテーマを鑑みれば、非常に興味深い結果となった。

 これを元にして司波達也に魔法演算領域を埋め込む実験を計画。詳細についてはファイルN-32K30を参照すること。

 

 また、当初の目的であった四葉真夜の魔法演算領域も正常に機能していることを確認。後に黒羽紫音が『流星群(ミーティア・ライン)』を発動したことで実験の成功を確信した。

 ただし、精神的構造変化に伴い、一時的な混乱も観察できた。

 四葉真夜と司波深夜の精神性が混じったことで、仕草に女性らしさが見え隠れすることがしばしば。カウンセリングを繰り返すことで解消されたが、これからも観察が必要と思われる。

 

 四葉真夜の魔法演算領域を二重人格のようにして構築した際、黒羽紫音の内部で精神的解離性が一部見られたと推察される。保有サイオン量がおよそ三分の一に減少し、一般的魔法師の平均を大きく下回ることになったことから、ここで魔法演算領域に分割が生じたと思われる。ただし、魔法力自体の低下は見られず、謎は多い。

 恐らく、四葉真夜の精神構造パターンをサイオン情報体として保存し、必要に応じて『調律』により再構築していると思われる。これは司波深夜の見解に一致する。

 これにより、黒羽紫音へと多数の魔法演算領域を再構築させるのは現実的に不可能と断定。

 当初の実験を離れ、別のテーマへと推移する。

 

 

 

 

 

 以下、最重要機密につき、電子データ化を固く禁じる。

 

 

 黒羽紫音の『調律』による非魔法師の魔法師化。

 精神構造を波動パターンとして認識し、調律することで非魔法師に疑似的な魔法演算領域を構築することに成功。同様に、魔法師の魔法演算領域を黒羽紫音の構造パターンへと変化させ、更に操ることも確認。

 他人の精神に黒羽紫音の魔法演算領域パターンを構築することで、増設メモリのように魔法力を増幅させることが出来ると判明。

 

 魔法師を非魔法師に

 非魔法師を魔法師に

 

 そのような改造が可能であると断定された。

 更に、『調律』の魔法力増幅能力により、非魔法師をも利用した魔法力の極大化も可能。

 これにより、精神系統戦略級魔法兵器の実用化が可能と推察される。

 

 

 仮称・戦略級魔法『リベリオン』の開発を開始。

 Project Rebellionの計画書はファイルK-23L98に記載。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 紫音さんの実験。
 ここから前世の性格と微乖離しました。

 あとはサイオン量がメッチャ少ない理由もですね。元から多いとは言えなかったのに、実験のせいでさらに低下です。


 追憶編はこの一話で終わりますので、次回は来訪者編ですね。ストーリーの構築は終わっているので、今は原作を読み直しながら矛盾点を洗い出しています。大まかな流れは原作に沿っていますが、内容としてはだいぶ変わっていますので、結構大変ですね。
 予告通り、遅れます。
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