黒羽転生   作:NANSAN

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来訪者編5

 二〇九五年一二月二五日。

 この日は魔法科高校において二学期が終業されることになっている。式典などは特になく、午前中まで授業を行って解散。それだけだ。

 しかし、紫音はある人物から呼び出しを受けていた。

 勿論、七草真由美である。

 内容は昨日あった事件のことだろうと容易に想像できた。

 

 

(さて、向かうか)

 

 

 指定されたのは空き教室。

 生徒会長の役目が終わってからも、相変わらず権力を使いまくっている。七草だからと言えばそれまでだが、それでいいのかと言いたくなることもある。

 とはいえ、別に紫音が口出し出来ることでもない。

 そんな呟きは心に仕舞い、空き教室へと向かった。

 念のためにノックをするが、返事はない。そこで扉を開いたところ、中には誰もいなかった。どうやら真由美より先に着いてしまったらしい。

 教室に入り、適当な椅子に座って待っていることにした。

 そして数分後、扉が開けられ、真由美が入ってくる。

 

 

「あら? 待たせちゃったみたいね。ごめんなさい」

「構いませんよ。三年生は色々と忙しいでしょうから」

「ふふ。ありがとね」

 

 

 受験生であるため、これでも真由美は忙しい。魔法科大学への合格は殆ど確定なのだろうが、だからと言って勉強を怠るわけにはいかないのだ。

 そして、成績優秀な真由美は他の生徒から質問を受けることも多々ある。今回もその手の生徒に捕まったのだろうと予想できた。

 真由美は紫音の近くに座り、手早く本題へと入る。

 

 

「さてと。早速だけど本題に入りましょうか」

「分かりました。昨日のことですよね?」

「ええ。妹達のこともあるから、ちゃんとお礼を言わないと。それに、四葉君には十師族七草として言っておきたいこともあるから」

 

 

 真由美はそう言うと、座ったまま頭を下げた。

 

 

「まずはありがとう。香澄と泉美を守ってくれて感謝するわ。それに、あの子たちが後を付けたりしてごめんなさい。私の方からきつく言っておいたわ。赦してくれないかしら?」

「感謝と謝罪は受け取ります。それについては深く掘り下げないことにしましょう。今日の本題は……別のことでしょう?」

「……そうね。父から伝言を預かっているわ。本当のことを言えば、そちらが本題よ」

 

 

 紫音はやはり、と考える。

 わざわざ、誰にも話を聞かれない場所へと呼び出されたのだ。単純にお礼や謝罪だけならカフェでも問題ない。そういった秘密の伝言があると考えるのが普通だった。

 真由美はしっかりと紫音の眼を見て、七草弘一から預かっている伝言を述べる。

 

 

「『今回の件、四葉は行動を控えて貰う。四葉は戦略級魔法師の護衛にだけ努めよ』……です」

「……まぁ、そう来ると思いました」

「この事件は七草家と十文字家で捜査するわ。警察は既に動いているし、ウチも伝手のある部署と手を組むことになっているわ。それに十文字家代表代理、つまり十文字克人君ともね。この後、彼を七草家まで連れていくことになっているの」

「そうですか……」

 

 

 昨日のテロ事件。

 テレビでは魔法師による事件だと騒がれ、反魔法師団体が今朝からデモ活動をしている。死者はいなかったが、カフェの店員が魔法によって重傷を負ったのだ。メディアでもそのことが酷く強調されていた。

 しかし、テロ実行犯の魔法師が警察病院で殺害されたことについては、どのメディアでも述べられることがなかった。恐らく、七草が先に手を回して隠蔽したのだろうと予想できる。

 ただでさえ、魔法師にとって不利な事件が起こったのだ。その上、犯人が第三者によって消されたとなれば、余計な憶測すら呼びかねない。

 魔法師犯罪者の不適切な管理を問われることにもなる。

 そちらへ対応していたが故に、実際の事件の方へ手回しする余裕がなかったのだ。

 また、犯人が始末されたことによって生まれた別の懸念がある。

 

 

「犯人が消されたということは、組織的な犯行ということですよね。それも警察病院の警備を簡単に掻い潜ってしまうほどの。しかも、凶器として使用された魔法デバイスも奪われたと聞いています。その辺のテロ組織ではありえません。

 七草と十文字は、それを調査する。そして四葉は何もするな。

 そういうことですよね?」

「ええ、やっぱり四葉君も知っているのね。一応、犯人が始末されたこと、証拠品のデバイスが盗まれたことは秘密になっているハズなんだけど……

 まぁ、いいわ。ともかく、これからも何かしらの事件が起こると予想されています。ですが、四葉家は静観するようにしてください。自衛は構いませんが、能動的な行動は控えて貰います

 これが十師族七草家としての申し出です」

 

 

 そう言われると、紫音としては少し困ったりする。

 今回の事件で、七草も十文字も掴んでいない情報が幾つかある。まず、犯人が吸血鬼であることだ。そして後ろから手を引いていると思われる顧傑(グ・ジー)。最後にUSNA軍魔法師部隊スターズの介入である。

 犯人が使っていた武装デバイスが『分子ディバイダー』であること、そしてそのデバイスが盗まれたことを考えれば、既にスターズがこちらに来て対処している可能性が高い。

 朧げな原作の知識を当て嵌めると、戦略級魔法――特に『マテリアルバースト』――についても探りを入れてくるはずである。これについては真夜からも情報を貰っているので、殆ど間違いない。

 そこまで分かっている状況で、何もするなと言われるのは癪だ。

 一連の事件は全て関連しているため、ここで首を縦に振ると、全ての事件で四葉は介入できなくなってしまう。

 簡単には了承できない案件だった。

 

 

「お断りします」

「……理由を聞かせて貰えるかしら?」

「今回のテロ事件ですが、偶然にも俺がいたカフェが狙われたという風に捉えるのは些か出来過ぎです。戦略級魔法師である俺を狙った事件だと考える方が良いでしょう」

「そうね」

「そして、戦略級魔法師が直接狙われる場合、考えられる敵は二つです。一つは反社会系の魔法師排斥団体。もう一つは他国です。特に、仮想敵国ならば日本の魔法戦力を低下させるために戦略級魔法師をテロに見せかけて殺害することを厭わないでしょう。

 証拠品である武装デバイスを盗み、実行犯を消したことから、後者である可能性も充分にあります」

 

 

 紫音はそう言うが、本心では前者だと考えている。

 より正確には顧傑(グ・ジー)が自分を狙ってきたのだと殆ど確信していた。周公瑾から奪った情報、淡い原作知識を合わせれば自然と答えは出る。顧傑(グ・ジー)が吸血鬼を利用し、恨みのある四葉を標的として、まずは紫音に狙いを定めたというのが本命の予想だ。

 とはいえ、今回は後者である方が都合も良いので、そのまま説明する。

 

 

「相手が国家であるならば、俺も十師族四葉家として動くべきではありませんか? 確かに、横浜事変のような、表立った戦争ではありません。しかし、これは立派な攻撃行為です。既に始まっている攻撃に対して、何もするなと言うのは聞き入れられません」

「……相手は他国じゃなくて、反魔法師団体かもしれないわ」

「反魔法師団体が魔法師を使ってテロを行うのですか?」

「うっ……まぁ、そうよね……」

 

 

 真由美は観念したように話し始めた。

 

 

「本当は、今回の事件が他国による攻撃である可能性が高いことも分かっているわ。特にUSNAが何だか不穏な動きを見せているみたい。あの国は一応同盟国だけど、完全な味方じゃない」

「そうですね」

「横浜事変の時もそうよ。本当なら、すぐにUSNAから援軍や救援がくるはずだった。でも、やってきたのは殆ど全部終わってからだったわ。あれはわざと遅らせたとしか思えない」

「大亜連合とUSNAの間に何かしらの取引があったと思った方がいいですね。横浜へ攻撃する際、USNAは敢えて援軍を遅らせる……とかの」

 

 

 証拠はないものの、少し考えれば誰でもわかることだった。そのことも含めて、USNAの動きが怪しいのである。

 同盟国とは言え、USNAからすれば日本に優れた魔法師がいることは許容できないのだろう。立場は対等であっても、相手より優位に立ちたいと考えるのは当然だ。故に、大亜連合と秘密の契約を交わした。

 大亜連合は横浜を襲撃し、技術者や魔法師を拉致、魔法データバンクから情報をゴッソリ奪い取る。

 USNAは日本の戦力が低下したことで、少し優位に立てる。

 そんな利害の一致があった。

 しかし、結果として二種類の悪夢を呼び寄せることになる。紫音の『日蝕(エクリプス)』と達也の『質量爆散(マテリアルバースト)』によって大亜連合軍は壊滅。USNAも未知の魔法に対して怯える結果となってしまった。

 ならば次にUSNAが起こす行動は何か。

 答えは日本が保有する戦略級魔法師の調査、または始末である。

 紫音も真由美も『可能性』や『かもしれない』などという言葉で濁しているが、今回の相手がUSNAであることは殆ど確定という前提で話していた。

 

 

「四葉が保有する戦略級魔法兵器こと、俺が他国に狙われている。それならば、四葉はしっかりと動かせていただきます。正式な抗議があるならば、四葉の本家へと伝えてください」

「はぁ……分かったわ。父にもそのように伝えます」

 

 

 真由美はあの父親にこのことを伝えなければならないと考えて溜息を吐いた。今回の件は七草や十文字の監視地域で起こったことであり、四葉に余計なことをするなと言うのは簡単だ。

 しかし、紫音が正式に戦略級魔法師として公表されたことが枷になる。

 紫音は国家レベルで守られなければならないし、四葉も紫音を守る義務が生じる。

 昨日の事件が紫音を狙ってのことだとすれば、寧ろ積極的に四葉が動かなければならない。担当地域を理由に縛り付けることは出来ないのだ。

 この際だから四葉も七草も協力すれば良いのに、と真由美は考える。しかし、過去の確執がそれを許さない。特に弘一が無駄に四葉を意識してライバル視しているせいで、いつまでたっても微妙な関係が続いているのだ。

 そしてその夜、四葉本家にいる真夜に向けて、七草から抗議文が送られた。

 しかし、当然の如く真夜は拒否。息子を守るために動いて何が悪いと言われれば、流石の弘一も言い返せない。

 結局、四葉は四葉で独自に動くことが決まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 二〇九五年一二月三一日、大晦日。

 紫音は今年、四葉家に戻っていなかった。いつもならば元旦に行われる慶春会に出席するべく、本家へと帰っている。しかし、今年は少し事情があるので、東京に留まっていた。

 理由はUSNAへの警戒である。

 紫音が監視されている可能性を考え、四葉本家の場所を悟られないために、紫音は東京で待機することになったのだ。これは真夜の決定であるため、紫音も文句はない。

 だが、この日の夕方、紫音はテレビ電話で真夜と会話をしていた。

 

 

「今年も終わりね紫音さん」

「はい、明日の慶春会に出席できず、申し訳ありません」

「構わないわ。東京に残っているようにと命じたのは私なのだから、紫音さんが気にする必要はないのよ」

「ありがとうございます」

 

 

 挨拶はこのぐらいにして、真夜は本題に入る。

 

 

「紫音さんには幾らか連絡があるのよ。それを踏まえて、色々と動いて貰う予定よ」

「連絡ですか。USNAのことですか?」

「それも含めてになるわね。なら、まずはUSNAのことから伝えましょうか。どうやら、達也さんの魔法を探るためにスターズが投入されたみたい。まだ『マテリアルバースト』の使い手が達也さんだとは分かっていないみたいだけど、候補の一人には挙がっているわ。これは前にも言ったわね」

「はい。以前にも聞きましたが、スターズまで投入するとは……」 

「もう一つは吸血鬼ね。まだメディアでは報道されていないのだけど、血液が抜かれた変死体が見つかっているの。関連があるかどうかは不明瞭だけど、行方不明者も多数いるそうよ。この吸血鬼はUSNAから来たみたいね。スターズの本命はこちらかしら」

 

 

 ここは原作通りだ。

 紫音も真剣な表情で頷く。

 

 

「それでこの吸血鬼なのだけど、どうやらUSNA軍の脱走魔法師兵のようね。武装デバイスも大量に盗まれて、日本に持ち込まれたそうよ。クリスマスイブに紫音さんを襲った犯人も、恐らくはこの脱走魔法師ね。捕縛後に犯人を始末したのはスターズで殆ど確定よ。

 気になる吸血鬼の正体だけど……これは止めておきましょう。私も確定情報を持っているわけではないわ。また今度にしましょう。

 それよりも、この吸血鬼を日本に手引きした人物の方が重要ね」

顧傑(グ・ジー)ですね?」

「ええ、紫音さんが前に捕えた周公瑾という男の背後にいる人物。大漢出身で、元崑崙方院の魔法師。四葉に恨みを持っていると思われる要注意対象よ。

 紫音さんが狙われたのも、戦略級魔法師だからというより、四葉だからと考えた方が納得できるわ。これからも狙われると考えて動きなさい」

「心得ています」

 

 

 紫音が周公瑾から情報を吸い出した時、顧傑(グ・ジー)の情報も幾らか得ることが出来た。そこから感じ取れた顧傑(グ・ジー)の評価は不気味の一言。

 ともかく、四葉に対して並ならない感情を抱いていることだけは非常によく理解できた。

 

 

「紫音さんへの依頼は三つよ。まずはスターズが達也さんに向ける疑惑を取り払うこと。次に顧傑(グ・ジー)を排除または捕縛すること。最後に吸血鬼の捕獲ね。

 予測している吸血鬼の正体と、紫音さんがテロ犯に見た不可思議な精神波長……このことから、吸血鬼は四葉にとって有用なものであると考えているわ」

「承知しました。仮にスターズと戦闘になった場合、私はどこまで力を見せても構いませんか?」

「そうねぇ……」

 

 

 真夜は可愛らしく首を傾げてから答えた。

 

 

「見せるだけなら全部見せても構わないわ。『調律』の力も、『夜』の力もね」

「わかりました。ありがとうございます」

「ああ、そうそう。念のために言っておくわ。()()はまだ使ってはダメよ」

「……そもそも、()()はまだ未完成ですからね。それに、()()は『闇』や『夜』よりも遥かに致死性が高い魔法です。使う場面も限られますよ」

「ふふ……念のためよ」

 

 

 紫音は現在練習中の、ある魔法について思考を巡らせる。

 ()()を会得するために、紫音は幾つもの死体を作り上げた。元は真夜の命令で会得を始めた魔法であり、練習台も真夜が用意した。

 出来れば、()()を使う機会は無い方がいい。

 仮にその魔法が使われることがあれば、その時こそ、四葉は世界に対して再び最恐のイメージを植え付けることになるだろう。

 そんなことを考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 年が明けたら余裕が出来る予定だったのですが、ものの見事に裏切られました。悲しいです。

 感想欄に質問があったので、ここで答えておきます。

 分子ディバイダ―を紫音が回収しなかった理由ですが、単純に回収できません。凶器を勝手に回収したらダメですから。可能だとすれば、警察にデバイスを回収された後に手を回すぐらいだと思いました。
 先にUSNAに回収されたんですけどね。

 あと戦略級魔法師になった時、政府からの護衛を断りましたよね。これは常に付き添っているSPやSS的な護衛の意味です。
 たとえ断ったとしても、裏で勝手に護衛しています。
 本文にこのことが書いてなかったっけ? と思って見直したところ、書いてなかったので追加しておきました。これは単純に私のミスが招いた誤解ですね。申し訳ないです。
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