ピクシーのサイキックにより謎の襲撃者は吹き飛ばされた。
襲撃者たちは勿論、達也ですら驚いている。
(今、ほのかからピクシーにサイオンが流れ込んでいたな)
これは驚くべきことだった。
しかし残念ながら考察している時間はない。今のピクシーのサイキックに呼応するかのように、凍結していたフォーマルハウトが動き出したのだから。
凍結した細胞という情報体を事象改変させ、フォーマルハウトは動き出す。
七体のパラサイトに憑依された今の彼は正真正銘の化け物だ。人体という限界すら超越し、同胞であるピクシーを破壊するために動き出す。
「っ! 不味いよ達也!」
幹比古は咄嗟に達也へと警告する。
本来は全員に言うべき警告だったが、今は達也に言うべきだと直感が囁いていた。今の幹比古は魔法による解釈でパラサイトの悍ましい姿を観測している。
フォーマルハウトから七体のデーモンが蛇のように溢れて暴れているのだ。まるで八岐大蛇やヒュドラのようだと思わされた。キリスト教的な解釈だが、デーモンと蛇は同一として見られる。幹比古自身がその影響を受けているわけではないにもかかわらず、そのように感じ取れるのは、パラサイトがより深く侵食しているからに他ならない。
すなわち、フォーマルハウトの深層心理の影響を受けているのだ。
七つの頭部をもつ蛇とも表現できる今のフォーマルハウトは、観測能力も人から外れている。辺り一帯が一斉に発火し始めた。
「これは……魔法の暴走、ではないか」
フォーマルハウトの発火念力は視覚を基準に発動される。しかし今はそんなものは関係ないとばかりに次々と発火が発動していた。
しかし達也の眼には魔法の暴走といった兆候は見られない。
ただし安定はしていない。
(おそらくは新たな眼を手に入れたか。俺の『
今のフォーマルハウトがどれほどの知覚系魔法を手に入れているのかは分からない。しかし、仮に達也の眼と同等だとすれば脅威となる。基本的に達也の『
これがフォーマルハウトに備わっているとすると、一度狙われたらいつでも人体発火が発動できてしまうということになる。
「深雪! 領域干渉だ!」
「はい!」
幸運だったのは、まだフォーマルハウトが力に慣れていなかったということだ。いきなり広がった視界に驚いているのかもしれない。
深雪は発火能力を抑え込むため、鎮火の効果を強制させる領域干渉を発動した。
そして達也も危険性を理解した瞬間からフォーマルハウトの完全な始末を決意していた。人体分解魔法を発動するべく、CADを向ける。勿論、軍事機密指定魔法である『
完全な分解ではなく、フォーマルハウトの体内に向けた分解が発動された。
「ぐぅうう!」
分解されたのは心臓。
すなわち人体の急所だ。しかしそれでもフォーマルハウトは呻くだけだった。心臓が消滅すると同時に再生したのである。
更に暴風のようなサイオンを解き放ち、それによってピクシー以外は目を覆う。
魔法師にとってサイオンは感知できる波動だ。それを高密度かつ大量に解き放たれることは、爆音や閃光が発せられることにも等しい。つまるところ、サイオン酔いにも似た状態になったのだ。達也は即座に復帰するも、その時にはすでにフォーマルハウトの姿はなかった。
「逃したか」
もう眼にも映っていない。
何らかの方法で知覚系魔法すら欺いているのだろうと予測できる。そして警官を装って現れた襲撃者たちも姿を消していた。こちらは達也でも追うことができたが、余計なことはしない。何らかの派閥から派遣された部隊だと考えられるためだ。
「ああ! もう、逃げたわね!」
エリカは悔しそうに地団駄を踏む。
レオは未だに酔いが覚めない幹比古に肩を貸しており、そのまま達也に声をかけた。
「どうすんだよ達也」
「……取りあえずここから移動しよう」
残念ながら目的を達することはできなかった。
もうピクシーを利用した誘い出しも不可能だろう。達也の選択は正しい。とにかく、今日のところは帰るということで意見が一致したのだった。
◆◆◆
アルフレッド・フォーマルハウトは七体のパラサイトが宿る化け物であると同時に、元は人間だ。そしてサイオンの波動は元の人間としての形質に依存している。
それゆえ、スターズは荒々しいサイオン波動を検知していた。
「フレディのサイオンを!?」
「はい。総隊長」
「分かっています。すぐに急行しましょう」
一瞬とはいえ恐ろしいサイオン波動を感じられた。
そして機械がそれをフォーマルハウトのものであると示している。ならばスターズが向かわない理由がない。シリウスとカノープスが率いるスターズは即座に移動を開始する。
ただし既に反応は消失している。
達也の眼でも観測できない様に情報次元が誤魔化されているので、当然ながらスターズのバックアップ部隊も観測できないでいる。しかし最後の観測データからAI解析による予測移動ルートの検出は可能で、シリウスたちはそれにそってナビゲートされる。
(フレディ……今度こそ!)
偽者を掴まされること三回。
怪しい車で移動しているなどという曖昧な情報ではなく、間違えようのないフォーマルハウトのサイオンが検知されたのだ。次こそは逃さないという意気込みで走り続ける。自己加速魔法によって自動車ほどもある速さで移動し、跳躍の魔法で倉庫を飛び越え、そして遂に標的を見つける。
「総隊長!」
「今日はバックアップチームも調子がいいみたいですね!」
カノープスもシリウスも歓喜や安堵などの混じった複雑な感慨を覚えた。
ここ最近の任務では情報戦において完全に上回られており、実働部隊である自分たちは何も分からぬままに任務失敗へと追い込まれることが多かった。久しぶりに情報解析を担当するバックアップチームが成果を出してくれたことに対する気持ちとしては妥当なところだろう。
すなわち、見覚えのあるアメリカ人の男、フォーマルハウトがいたのである。
もう警告も必要ない。
アンジー・シリウス、つまりリーナは心の内で躊躇いつつも銃口を向けて引き金を引いた。
情報強化された弾丸がフォーマルハウトを貫く。
「ぐっ……おおおおおお!」
しかしその傷は瞬時に再生され、激しいサイオンを発する。
危険を感じてシリウスが背後に大きく飛び下がる。すると先程まで彼女のいた場所が業火に包まれた。高ランクの魔法師がCADを使って発動するような魔法を瞬時に発動してみせたのだ。
蠢く炎はまるで生き物のように形を形成し、大蛇のようになってシリウスへと襲いかかった。
「総隊長! 退避を!」
しかしそこにカノープスが割り込み、分子ディバイダーによって炎の大蛇を切り裂いた。しかしプラズマである炎に分子分割術式は効果が薄く、すぐに元に戻ってしまう。
そこでシリウスは腕輪型のCADを操作し、装着した左手を炎の大蛇へと向ける。
発動する魔法は『ムスペルヘイム』。気体分子をプラズマ化させ、高エネルギー電磁場を生み出す。炎とはプラズマの一種であり、同じプラズマとしても高レベルな『ムスペルヘイム』ならば押し流すことができると考えたのだ。
シリウスの予想は正しかった。
炎の大蛇は精霊のように独立した情報体を有しており、一種の生物として振る舞うように設定されている。しかしそれでも物理現象としては炎として定義できるものだ。高ランク魔法ムスペルヘイムは確かに炎の大蛇を吹き飛ばした。
「シリウス少佐! やりすぎです!」
ただ、張り切りすぎた。
十代でありながらスターズの総隊長となるばかりか戦略級魔法師として選ばれたシリウスが全力でムスペルヘイムを放ったらどうなるか。それは火を見るよりも明らかである。
カノープスが警告するも既に遅く、シリウスが慌てて魔法をキャンセルした時には何も残っていなかった。
「シリウス少佐……これでは死んだのかどうかの確認もできません」
「……すみません」
「仕方ありません。一旦引くことを提案します」
「はい……」
大きく肩を落としたシリウスであった。
◆◆◆
紫音と亜夜子の奇襲は
結果として、まずは逃げることを優先した。
実をいえばその背後から紫音と亜夜子が追っているのだが、それには気付いていない。しかし彼らは四葉紫音という影に怯えていた。
「お待ちしておりましたヘイグ
監視カメラの陰となる部分に待機させた船から一人の男が現れる。勿論、ノー・ヘッド・ドラゴンの残党であり、
実をいえばノー・ヘッド・ドラゴンのほとんどは
軍や政府との繋がりを強化し、ノー・ヘッド・ドラゴン――あるいは新しい別組織でもよい――を再び力強い組織とするのだ。
「出航の準備はできております。すぐに出しますか?」
「急げ」
「はっ!」
この船もエンジンやモーターの音をほとんど抑えた特別性で、レーダーを誤魔化す装甲もある。また途中で小島に寄り、そこでヘリに乗り換えることになっている。当然だがこれらは
掌の上で踊らされているとも知らず、船にエンジンがかけられる。
そこに船を揺らしつつ飛び乗ってくる影があった。即座に反応した
「待て、そいつが待っていた男だ」
「止めろ呂上尉」
「……
船に飛び乗ってきたのはフォーマルハウトだった。
彼自身に傷はないが、服に穴が開いたり焼け焦げていたりと激しい戦いだったことが分かる。
「失敗したようだな」
「あの同胞を取り戻すのは厄介だ。貴様との約束もある」
フォーマルハウトの律義さには
パラサイトは自己生存本能に忠実で勝手なものだと思っていたからだ。最悪は戻って来なくとも囮として使う予定だったが、こうして戻ってきたのならば使い道はある。
船は静かに夜の海に消えていった。
◆◆◆
「軍への情報統制は? ……そうか。
海の向こうに消えていく船を眺めつつ、紫音は通話で一通りの報告を受けていた。
無事にターゲットが国外に逃げたとのことであり、後は軍に見つからないよう大亜連合まで誘導すれば良い。
「お兄様、達也さんたちも無事に帰ったと報告が」
「そうか」
「それと達也さんたちを襲った者たちについて、どうやら軍の一部である可能性があると……詳細は分かりません」
「どうせ七草家の手の者だろうから気にしなくていい」
その予想は的を射ていた。
ただ今は予想を確かめる暇もなく、確かめたところで利点もない。今回は全てのパラサイトの検体を四葉が手に入れることになった。その結果があれば充分である。
「七草家が対価を支払えば当主様もパラサイトの引き渡しを考えるかもしれないが……今の七草にそんな心の余裕があるとは思えないな」
「逆に九島はそうするのではありませんか? いえ、正確には九島閣下が」
「その場合は渡すかもな。九島家は古式魔法師とも面識があるし、その方面の専門家と連携してウチとは違った結果を出すかもしれない。当主様が興味を持てば普通にあり得る」
九島家にかかわらず、『九』の家の発祥である国立魔法第九研究所は古式魔法と現代魔法を融合させることを目的としている。その関係もあり、十師族の中では最もパラサイトに対する下地を持つ一族といえるだろう。
また四葉真夜はかつて九島烈に師事していたという個人的事情もあり、家としての取引ではなく個人での取引が行われるかもしれない。烈ならばかつての師という立場に甘えることなく、必要な対価を惜しむこともないだろう。
「それと亜夜子、明日にでも達也たちの家に行って今回の顛末をある程度伝えてやってくれ。
「分かりましたわ。文弥と一緒に伺っても?」
「いいぞ。後の処理は俺がしておく。今日はもう休んでも……いや、暫くは休め。お前も文弥も四校の入学準備があるだろ?」
「ありがとうございます」
亜夜子にとって達也は憧れの存在だ。
彼女にとって紫音の提案はとても嬉しいことであった。会うことができるというのは勿論、達也の役に立てるということも含めて。
明らかに機嫌のよくなった亜夜子と共に、紫音も撤退した。
◆◆◆
自宅に戻った達也と深雪は、ひとまずリビングで休んでいた。
ソファで寛ぐ二人の前には深雪が用意したコーヒーが置いてあるものの、二人とも手を付けようとしない。数分の沈黙の後、深雪が口を開いた。
「……申し訳ありませんお兄様」
「いや、深雪が気にすることじゃないよ」
察しの良い達也は深雪の言わんとすることを理解していた。
彼女が謝罪する原因は、せっかく呼び寄せたパラサイトを逃してしまったことである。一度は凍結させたが、結局は逃してしまった。そのことを悔いているのだ。
「私が、あの魔法を使っていれば」
「深雪。それは言っても仕方のないことだよ。コキュートスは叔母上も秘匿を命じておられる魔法だ。特に幹比古がいる前で使うべき魔法じゃなかった。深雪の判断は正しいよ」
「ですが……」
「それを言うなら俺も同じだ」
四葉家には二つのタイプの魔法師が生まれる。
一つは四葉真夜を代表する歪で強力な魔法演算領域を持つ者だ。達也はこれに該当する。そしてもう一つは精神干渉魔法に長けた者だ。紫音の『調律』もこの一種で、さらに言えば深雪もこちらに部類される。
深雪が持って生まれた精神干渉魔法コキュートス。
それは精神を凍結させることで死を与えるというものだ。当然、パラサイトも例外なく殺害することができる。
つまりコキュートスを使えばフォーマルハウトを殺すことができたのだ。
しかし実行しなかった。
四葉真夜から秘匿を命令されているため、パラサイトに何が起こったのか分かってしまう幹比古がいる場所で使うわけにはいかなかったのだ。
「気にしなくてもいい。どうやら面倒は紫音が片付けてくれるみたいだからな」
「紫音さんが……ですか?」
「そのためにわざわざ黒羽ではなく四葉を名乗っているわけだ。秘密主義の四葉がわざわざ本家の名を使わせているだけのことはしてくれるよ。紫音は本家からの恩恵も大いに受けているだろうからね」
「警戒しなくても良いのですか? 信用しても良いのでしょうか?」
「紫音は良くも悪くも四葉の人間らしい奴だ。俺たちを含め、四葉の一族に迫る危機は例外なく取り除こうとする。兵器であろうとする。俺とは真逆の思想だが、あいつなりに家族を想っている奴だよ」
「……随分と信頼されているのですね」
深雪は少しばかり嫉妬の混じった口調になる。
しかし達也は小さく笑った。
「敵ばかり作っても仕方ないぞ?」
「それは……そうですが」
「俺たちは疑心暗鬼にならざるを得ない運命にある。だが、だからこそ信頼に足る人物は必要なんだ。今回の件だってほのかの協力を得たし、エリカには実家の伝手も使ってもらった。幹比古もレオもな。深雪も利用するためにほのかや雫……それに生徒会の先輩方と付き合っているわけではないだろう?」
「もちろんです!」
「パラサイトを逃がしてしまったのは痛いが、次の情報は紫音がよこしてくれるはずだよ」
達也が言った通り、翌日には亜夜子と文弥が訪れ事情を説明される。
あまりにも予想通りだったことに、深雪も思わず笑みを浮かべるのだった。
◆◆◆
七草家の書斎にて、部屋の主である七草弘一は不機嫌さを隠すことなく声を荒げていた。
「失敗だと?」
「はっ。ターゲットには逃げられた可能性があると。また作戦区域で高熱に晒されたと思われる場所が発見されています。高ランクの魔法の痕跡も見られましたので、おそらくは『ムスペルヘイム』が使用されたものかと」
「……死体は見つかったのか? 発動者は?」
「死体の発見は困難でしょう。ムスペルヘイムが発動したとなれば死体が残るかどうかも怪しく、また残っていたとしても魔法発動者によって回収されているものと思われます。発動者についてはUSNA軍と考えるのが妥当です」
弘一の腹心、名倉は淡々と情報を告げる。
そこに感情はなく、客観的な事実だけが述べられていた。
「学生から奪取できないどころかスターズに先を越されるとは……情報部もだらしない。頼る相手を間違えたか」
「情報部は無能ではありません。今回は相手が一枚上手だったということでしょう。そもそもスターズはUSNA軍が誇る魔法師部隊ですから」
吐き捨てるようそう言う弘一に対し、名倉は冷静に反論する。
確かに名倉の意見は間違いではない。しかし窘めるようなその言い方は弘一を更に不機嫌にさせた。ただここで弘一は烈からも警告されていたことを思い出す。
「……四葉、か」
「旦那様。今回の件は手を引いてはいかがでしょうか。これ以上は七草家にとっても良いことがありません」
「そうだな。失った戦力の補充になれば良いと思ったが、ここが潮時か」
そんな潮時などとっくの昔に過ぎている、とは名倉も言えない。いや、敢えて言わない。
ただ弘一の言ったように、吸血鬼事件によって七草家の魔法師も幾らか被害を受けており、その補填をするためにもパラサイトを求めたということに間違いはなかった。ただ、四葉家が一枚も二枚も上手だったのだ。
「出動中のメンバーにも通常業務に戻るよう通達しておこう。下がれ」
「はっ」
暗号通信機を操作し始めた弘一に礼をした後、名倉は下がっていった。
◆◆◆
数日後、紫音は四葉家の本家を訪れていた。
理由はいくつかあり、その一つは新魔法の実験である。他にもバイタルチェックや理論設計中の魔法の視察もあるのだが、やはり最も重要なのは当主との面会である。
真夜の執務室へと呼ばれた紫音の前にいつもの紅茶が置かれ、話が始まる。
「報告書を読ませて貰ったわ。流石の手際ですね」
「ありがとうございます」
「今回の件で紫音さんが提案されていた情報収集魔法の研究に予算を増やすことを決めました。パラサイトという役に立ちそうな検体も手に入れましたから」
「そちらは先に視察しました。半年以内に成果を出せると考えております」
黒羽家は諜報を司る分家だ。
紫音は真夜の養子となっているが、黒羽の矜持を忘れたわけではない。昨年の九校戦で手に入れた
ただし新しい魔法は大規模になるため、四葉本家に研究を委託している。
「そうそう。九島先生からパラサイトに関する取引を持ち掛けられました。応じてもよろしいですね?」
「母上殿のお望みのままに」
「ふふ。今回の成果はほぼ全て紫音さんのものよ。何か欲しいものがあれば用意させるわ」
「では会社の設立をお願いします。開発する情報収集魔法に備えて解析用の企業を設立しようと考えていたところです。表向きをIT系企業として運営し、コンピュータによる情報管理を任せようと思っています」
「いいでしょう。葉山さん手配をお願い」
「畏まりました」
流石に腹心というべきか、葉山は淀みなく答える。おそらくはあとで青木と相談しつつ、紫音の目的に合う企業を設立するか買収するかするのだろう。
「ところで例の男の追跡はどうなっていますか?」
「ノー・ヘッド・ドラゴンにもこちらのスパイを紛れ込ませていますし、少しずつ誘導はしていくつもりです。時間はかかると思われます」
「そう。なら紫音さんもしばらくは普通の学生ね」
「そうなります」
真夜が葉山に目配せすると、一礼して下がっていく。
そして真夜は紅茶を口に含み、暫く無言となった。紫音も急かすようなことはせず、待ち続ける。次に葉山が入ってきたとき、もう一人メイドの少女を連れていた。
「その子は……」
「桜シリーズ、桜井水波ちゃんよ。以前にも言っていたでしょう? 調整が終わりましたから、このまま紫音さんに付けることにします。また一校にも入学する予定だから面倒を見てあげて頂戴」
「はい。しかし桜シリーズということは司波家のガーディアンなのでは?」
「深雪さんのガーディアンとして鍛えるためという名目もあるのよ。家政婦としての技能は充分に備えています。高校二年生になると忙しくもなるでしょうから、紫音さんの家の住み込みメイドとして、家のことを頼みなさいな」
紫音が水波へと目を向けると、彼女は深々と頭を下げた。
「未熟者ですが、よろしくお願いいたします。奥様の言いつけ通り、精一杯お勤めさせていただきます」
新年度は多少楽になりそうだな、と達観した感情を覚える紫音であった。
来訪者編はここまでになります。
や り き っ た !
次はダブルセブン編になりますね。こちらは原作と大きな乖離はない予定ですので、ざっくりとだけ進めようかなと思っています。
話の内容的に紫音の活躍の余地がほぼないってのもありますから。
劇場版? 知らない子ですね。