黒羽転生   作:NANSAN

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来訪者編アニメに嬉しくなって投稿。
いやぁ…リーナがポンコツしてますねぇ。

やっぱり来訪者編が長いからか、カット多めな印象です。


ダブルセブン編2

 新学期が始まれば新体制が始まる。

 紫音の所属する風紀委員会にも新入生を迎え入れ、新たな活動をスタートさせていた。そして新入生の中でも特に注目を浴びているのが、教職員推薦枠の七草香澄、生徒会推薦枠の七草泉美である。昨年の紫音も同じく教職員推薦であったことから、これは風紀委員の中でも予想されていたことであった。

 

 

「で、俺に双子の面倒を見ろと?」

「そういうことよ。面識あるんでしょ?」

「まぁ、いいですよ」

 

 

 紫音は十師族という立場である。日本最高峰の魔法師一族である七草を押し付けられても困らない。残念ながら四葉と七草は仲が悪く、直接的な繋がりはない。しかしながら個人的な繋がりから紫音は二人とそれなりの関係性を築いていた。

 面倒だとは思ったが。

 風紀委員長の千代田花音も面倒を押し付けることができて満足という態度を隠そうともしない。

 

 

「そろそろ部活勧誘週間も始まるから、一人でも動けるように教えてあげて」

「了解です」

「七宝って子と因縁があるって聞いたから注意しておいて。もしもの時は四葉君が責任を持つのよ」

「……気付いた時は対処します」

 

 

 色々押し付けることができて花音は終始笑顔であった。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 魔法科高校は魔法師育成を目的とした専門学校だが、その部活動も充実している。純粋な運動系の部活もあれば、魔法競技の部活、文化系の部活、はたまた技術系の部活まで存在するのだ。しかしながら新入生は一科生と二科生を合わせても二百人しかいないため、当然ながら新入生の奪い合いは熾烈を極める。

 よって混乱を最低限とするため、第一高校には部活勧誘週間が設けられていた。

 ただし、大人しく勧誘するような者は滅多にいない。

 新入生を奪い合うだけならいざ知らず、喧嘩や魔法の撃ち合いに発展することもしばしば。そこで生徒会、風紀委員会、部活連が協力して取り締まることになっている。

 紫音も風紀委員として見回りに勤しんでいた。

 

 

「異常なしと」

 

 

 自嘲するように呟く。

 一年経っても四葉の名前は絶大な効力を発揮しており、紫音が歩き回るだけで治安が良くなっている。下手に暴れまわるとこの世から消されるなどという眉唾な噂まで流れているほどだ。

 四葉紫音が見回りをする効果だけは、生徒会長となった中条あずさもありがたがっていた。

 しかし暴走する生徒が自然消滅するのは紫音の周りだけである。

 インカムが鳴り、嫌な報告が耳に飛び込んできた。

 

 

『ロボ研ガレージで問題が起こった。来てくれないか?』

「達也か? ロボ研となるとかなり遠いが」

『済まないが七宝琢磨と七草香澄が暴走している。回収してくれ。泉美が一応のストッパーになっているが、それもいつまで持つか分からん。不味そうなら俺と深雪でも何とか仲裁してみる』

「は? いや、とにかく急ぐ」

 

 

 香澄の暴走と言われると急ぐ他ない。

 おそらくは風紀委員として張り切り過ぎてしまったのだろうと予想するが、香澄ほどの魔法師が暴走したとなると周りにも被害が出かねない。

 

 

(千代田先輩に怒られるな)

 

 

 紫音はフラッシュキャストで自己加速術式を起動し、目的地へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 時は少し遡る。

 ロボ研ガレージ前にて、ロボ研とバイク部が睨み合っていた。ちなみにバイク部は自動二輪車を作ったり改造したりを目的としているため、実際に乗るわけではない。

 

 

「いい加減諦めたらどう? スミス君はロボ研に入るのよ」

「はぁ? 耳が腐っているのかしら? スミス君は一言も言っていないわ。それに先に声をかけたのはこっちなんだから遠慮しなさいよ」

「勧誘に早い者勝ちなんてないわ。小学生じゃあるまいし。時代遅れのレシプロエンジンに脳までシェイクされちゃったみたいね」

「誰が時代遅れですって!? 等身大メイドロボで遊んでいるオタクは私たちには理解の及ばない高尚なことを仰るのですねぇ!」

 

 

 スミスという可愛らしい男の子の新入生を挟み、口汚く罵り合う女子生徒たち。

 その背後でも部員たちが剣呑な雰囲気を出していた。

 

 

「あ、あの、僕は……」

 

 

 すっかり新入生のことを置き去りにして。

 まさに一触即発という空気が満ちていく。だが、今にも爆発しそうなそれを止めた者たちがいた。

 

 

「そ、そこまでです!」

 

 

 現れたのは部活連執行部の十三束鋼であった。そして見習いとして付き添っている七宝琢磨も割り込む形で二つの部活の間に入る。余程張り切っているのか、気付かぬうちに渦中の新入生スミス・ケントを押し出してしまっていた

 また一歩遅れて連絡を受けた達也と深雪も到着する。何もない時は生徒会副会長として部活連本部に待機しているのだが、連絡を受けると直行して仲裁することになっている。去年まで風紀委員だった達也の技能が生かされた形だ。

 

 

「ケントじゃないか」

「あ、司波先輩!」

 

 

 そしてスミス・ケントと達也は知らぬ仲ではなかった。入学式の時に迷っていた彼を助けたという経緯があり、その関係で彼は達也を慕っている。

 嬉しそうに達也の元へと駆けて行った。

 勿論、問題が起こっているとは知らない達也は彼に尋ねる。

 

 

「何があった?」

「その、どのクラブに入るのか決めていないので。今日は見学して帰ろうとして、それで」

 

 

 要領を得ない説明を理解しようと達也が試みている間に、状況が更に変化する。

 

 

「風紀委員です!」

 

 

 聞き覚えのある声に思わず目を向けた。

 

 

「あら、泉美ちゃんに香澄ちゃんですね」

「そのようだな……ケント、つまりロボ研とバイク部に巻き込まれたわけだな」

「はい……」

「分かった。もう大丈夫だから離れてもいいよ。ここは俺たちが何とかしておくから」

「わかり、ました。お願いします」

 

 

 ケントは後始末を任せて良いのか迷ったようだが、一礼して去っていった。

 その間に琢磨は目じりを吊り上げながら声を張っていた。

 

 

「ここは部活連執行部が対応している。風紀委員は他所に行ってくれ」

「生徒の諍いは風紀委員の管轄だと思うんだけど?」

 

 

 一瞬怯んだ香澄も強気で返す。

 これが口論の始まりとなった。

 

 

「ここは俺たちが預かると言ったんだ。聞こえなかったのか七草?」

「ふぅん……」

 

 

 香澄は意味ありげに見つめる。

 そして馬鹿にしたような態度で続けた。

 

 

「七宝君、私のこと知っているんだ。生憎だけど、風紀委員が部活連執行部に従わないといけない理由なんてないんだ」

「七草……喧嘩を売っているのか?」

「喧嘩を売るつもりなんてないよ。どうしてもって言うなら買ってあげるけどね」

 

 

 互いの眼に剣呑な雰囲気が宿り、じりじりと戦意が高まっていく。

 泉美も後ろで溜息を吐いているが、まだ止めるつもりはないようだ。このままでは不味いことになりかねないと考えた達也は七草姉妹の世話役である紫音へと連絡し始める。

 琢磨は香澄の挑戦的な笑みに我慢の限界を超えたのか、左の袖を軽く引っ張り上げた。そこから戦闘にも使える自身のCADを覗かせる。

 

 

「この七宝(おれ)に喧嘩を売るのか?」

 

 

 対する香澄も左袖を持ち上げ、小さめだがお洒落なCADが目に映った。

 

 

「目一杯安く買い叩いてあげる。二度と七草(わたし)に喧嘩を売るなんて考えないようにね」

「ちょっと香澄ちゃん」

「泉美は下がってて」

「もう……」

「なんだ? 二人一緒じゃなくていいのか?」

「負けた時の理由が欲しいなら泉美も呼んであげるけど?」

 

 

 もはや仲裁のためにやってきたということも忘れているらしい。CADに右手を添え、いつでもテンキーを押せるように構えている。

 ロボ研とバイク部の喧嘩も中途半端なまま止まっていることすら眼中になかった。

 流石にこれは不味いと思ったのだろう。十三束が止めに入る。

 

 

「ちょ、ちょっと待った! 二人とも落ち着いて!」

 

 

 彼は慌てたことだろう。

 服部から面倒を見るように言われていた七宝が暴走気味で死闘を始めようとしているのだ。しかも相手は風紀委員で、更に七草である。このままでは周囲にまで被害が出てしまうかもしれないのだ。

 しかし先輩である十三束が間に入ったにもかかわらず、二人は止まる様子がなかった。

 

 

「邪魔しないでください先輩」

「どうか落ち着いて七宝」

「十三束先輩はそいつを庇うんですか?」

「七草さんも落ち着いて!」

 

 

 ここまでヒートアップすると、場を解散せざるを得ない。

 そこで達也はすぐ隣へと視線を向ける。向けられた深雪は意図を理解したのか、周りに向かって宣言する。

 

 

「皆さま、もうお戻りなった方がよろしいのではありませんか。生徒会はこの件を問題にするつもりはありません」

 

 

 それが決め手となったのだろう。

 この場からはぞろぞろと去っていく。残っているのは達也と深雪、そして争う『七』の魔法師たちとそれを止める十三束だけとなった。

 また、丁度そこに紫音も到着する。

 魔法を使って建物の間を飛び越えてきたらしく、空からいきなり現れて達也の側に着地した。達也は初めから知っていたので特に表情も動かさないが、深雪が驚きを露わにする。

 

 

「紫音か、丁度いいところに来た」

「状況は?」

「七草と七宝の喧嘩だ」

「把握した」

 

 

 最小限の会話で察した紫音は、まず二人の間に入る。その際に十三束が安堵の表情を浮かべていたのは言うまでもない。ちなみに彼と紫音は去年まで同じクラスだったので面識がある。

 

 

「そこまでにしておけ。お前たちの仕事を忘れたのか? それと十師族、および師補十八家の者である自覚をしろ。学校で私闘がしたければきちんと申請することだ」

「四葉先輩、でも」

「分かったな香澄」

「……先輩が言うなら。それに決闘するほどでもないですし」

「何!」

 

 

 大人しく引き下がる香澄に対し、琢磨は尚も噛みつこうとする。だが、それを紫音が睨みつけて抑えた。一瞬だけ怯えたものの、すぐに悔しさや苛立ちを滲ませる。そして一礼し、速足で去っていった。

 

 

「ありがとう四葉君、僕もこれで!」

「ああ」

 

 

 そして十三束も軽く頭を下げて七宝を追いかけていった。

 ひと段落したことで紫音も軽く息を吐き、振り返って双子を睨みつける。

 

 

「俺の言いたいことは分かるよな?」

「はい……」

「すみません先輩」

「それならいい。わざわざ言葉にすることですらない」

 

 

 しかしこれで終わりにはならないだろうな、とは紫音も考えていた。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 七草香澄と七草泉美にとって姉の真由美は頼れる人物という認識である。一応は兄もいるのだが、異性であり歳も離れているので関わる機会は少ない。困ったことがあれば真由美を頼るというのが常であった。

 彼女の部屋を訪れた双子に対し、真由美が尋ねる。

 

 

「二人ともどうしたの?」

「すみません。ちょっと意見を伺いたいことがありまして」

 

 

 泉美の言葉に真由美は『おや?』と首を傾げる。

 勉強や魔法のことならば質問があると表現するハズだ。なので別の意図があるということである。

 

 

「いいわよ。何が聞きたいの?」

「お姉ちゃん、七宝家の当主ってどんな人か知ってる?」

「七宝家の?」

 

 

 何故そんなことを聞くのか一瞬理解できなかった。

 しかしすぐに思い当たることがあったらしく、ジッと香澄を問い詰めるような目を向ける。

 

 

「香澄、あなたまさか……」

「な、なに?」

「あなたまさか七宝君と諍いを起こしたんじゃないでしょうね?」

 

 

 大正解である。

 香澄は思わずを目を泳がせ、それを見て泉美も溜息を吐いた。そして泉美は誤魔化しきれないと考えたのか、正直に学校でのことを話す。

 

 

「――というわけでして、香澄ちゃんは悪くありません」

「はぁ。まぁいいわ。四葉君にもまたお礼を言わなくちゃね。それで七宝家の当主がどんなお人柄かという話だったわね」

 

 

 真由美は目を閉じ、少しだけ思案を巡らせる。

 そしてゆっくりと瞼を開きつつ呟いた。

 

 

「私も直接お目にかかったわけじゃないけど……堅実で用意周到、といった印象かしら」

「堅実で」

「用意周到?」

 

 

 双子は目を見合わせる。

 今日の琢磨の態度からはとてもそんな雰囲気を感じ取れない。つまり、今日の態度は七宝家の総意ではなく個人的なものだったということだろう。ある意味で安心だったが、逆に何をしてくるか分からないという怖さも出てきた。

 

 

「そうね。少なくとも七草家(わたしたち)に喧嘩を売るよう、息子に言い聞かせるような人ではないと断言できるわ」

「何考えているんだろ? 家からの指示だって無視できないはずなのに」

「もしかして個人的な後ろ盾があるとか、でしょうか?」

「まっさかー」

「……」

「……」

 

 

 あり得るかもしれない想定。

 二人は笑って済ませられない可能性を否定できなかった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 同時刻、七草邸は客人を迎えていた。

 より正確には七草弘一に対する個人的な客人である。その名を小和村(さわむら)真紀(まき)。その父が映像メディア企業を経営しているのだが、彼女本人の職業は女優であった。経済関係者や魔法関係者が訪れるのは珍しくないものの、芸能関係者というのは滅多にない。

 しかも彼女が案内されたのは食堂である。

 弘一と一対一での食事会が行われていた。

 

 

「ほう。ならばお父上は反魔法師主義者との密約を反故にすると?」

「はい、その通りです。彼らの言う反魔法主義は非常に悪質で害悪なプロパガンダだと私は思っております。そして父上も説得によってようやくそれを理解して頂けました」

「ありがとう。あなたは話の分かる人のようだ」

 

 

 真紀は浮かべそうになった笑みを抑え込み、女優としての微笑みを維持する。

 そしてここぞとばかりに今日の目的へと話題を移行し始めた。

 

 

「私は魔法をもっと社会的に評価されるようにしたいのです。軍事、治安維持にも必要だということは存じていますが、私はそれよりも娯楽映像に可能性を見出しています」

「娯楽、ですか?」

「勘違いして頂きたくないのは、魔法師を見せ物にしようとしているわけではないということです。魔法と大道芸を同一にしているわけではありません」

「ほう」

「具体的には……そう、たとえば映画の撮影です。本来はスタントマンが危険を承知で行うことでリアリティを追求するのですが、そこに魔法師の活躍の余地があります。その価値は計り知れないでしょう」

 

 

 弘一は彼女の言わんとすることを全て理解する。しかし敢えて口に出すことはなく、彼女を気持ちよく喋らせることにした。

 

 

「それで?」

「魔法師の中には実戦レベルに達せず、その道を諦めてしまう方が多いと聞きます。そのような方々に道を示したい。それが私の願いです」

「なるほど」

「私は彼らに相応しい価値を見せられる場を提供できます。勿論、相応の報酬も」

 

 

 実戦レベルの魔法師を囲う集団は既に存在し、新参者である彼女に入り込む余地などない。十師族などがその最たる例だ。特に七草家は様々な外部魔法師を雇用しており、実戦レベルのプロ魔法師を豊富に取り揃えている。

 だからこそ、弘一の眼鏡に適わなかった者をターゲットにした。

 今回の食事会はそのための予防線のようなものである。

 しかしながら、彼女は七草家の当主という人物を見縊っていた。

 

 

「ふむ。あなたは交渉人として優秀のようだ。しかし本音を隠し過ぎている。しかもあからさま過ぎだ」

 

 

 真紀は思わず動揺を表情に出してしまう。しかし持ち前の女優としての矜持によって即座に平静な顔へと戻した。

 だが弘一は止まることなく畳みかける。

 

 

「確かに今仰られたことも事実で、正直な理由なのでしょう。しかしそれだけではない。あなたはもっと直接的な力として魔法師を集めようとしている。あるいは未来に向けた伏線といったところですか」

 

 

 見透かされた、と内心で舌打ちするも既に遅い。

 ここから巻き返す方法を即座に考え出し、それを口にする。

 

 

「……お見それしました」

 

 

 彼女の取った手段は正直に話すということだった。

 ここではぐらかせば二度と七草家の協力を得られないだろう。ならば七草家にも利益がある、あるいは損はさせないということを説明して納得させる必要がある。

 だが、そんなものすら弘一は見抜いていた。

 正直に謝罪したというプラスポイントによって勝利を掴み取った。

 

 

「いいでしょう。七草家とその縁に手を出さない限りは何も言いません」

「本当ですか!?」

「ええ、お約束します」

 

 

 彼女の目指す新しい秩序。

 その最も大きな懸念を排除できたことに安堵した。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 小和村真紀は一目で分かる高級車から降りると、高層マンションへと入っていく。その最上階のフロア全体が彼女の自宅であり、二十四時間体制で女性ボディーガードが見張っている。女優というだけでは説明できない厳重な警備体制だが、これらは娘を愛する父の心であった。

 彼女の父は複数のメディア系企業を傘下に収める持株会社の社長であり、北山家にこそ及ばないが立派な上流階級に区分される人物だ。

 帰宅した彼女はまず、シャワーを浴びて汗を流す。

 十師族という権力の化け物を相手に汗一つ流さず会話できるほど、彼女は熟達していない。服を脱ぐ段階で自分が酷く緊張していたことを思い出させられた。

 そしてガウンを着込み、テーブルにワインとグラスを用意する。

 グラスに注がれた赤い液体には口をつけず、ただ回しながら香りを楽しんでいた。

 

 

(これで計画が一歩進んだわね)

 

 

 駆け引きに勝利できるほど甘くはなかった。

 しかし必要なものは手に入れた。

 結果は満足といったところである。

 そこにボディーガードが扉を開けて現れる。

 

 

「お嬢様、七宝様がお越しになりました?」

「あら? 今日は約束していないのだけど……まぁいいわ。通して」

「かしこまりました」

 

 

 どうしたのだろうか、という疑問と同時に今日のことに違いないと自分なりの結論を出す。

 七宝琢磨(・・・・)が現れるまで、彼女は存分にワインの香りを堪能した。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

「こんばんは、真紀」

 

 

 勝手知りたる様子で入室した琢磨は遠慮することなく彼女の前まで進み、対面のソファに腰を下ろした。これだけで彼が頻繁にここへと訪れていることが分かる。

 真紀はひとまず尋ねた。

 

 

「今日はどうしたの?」

「分かっているだろう? 七草とのことだ。君のことだから失敗はないと思うが……」

「ええ、問題は無かったわ」

「そうか」

「それよりも学校はどうなの? 学生の内から有望な人材を見繕うのでしょう?」

 

 

 会談を成功させた真紀はご機嫌な様子だ。

 しかし対照的に琢磨は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。上手くいっていないのだろう、ということを察した真紀は慰めるような甘い口調で問いかけた。

 

 

「何かあったの?」

「ああ、想像以上に七草と四葉が食い込んでいる。おそらく生徒会は七草、風紀委員は四葉だ。取りあえず俺は部活連に根を下ろしたけど……それも時間がかかりそうだ。今の部活連会頭が去年の生徒会副会長らしくてね。そこにも七草が絡んでいる可能性が高い」

「それは大変なのね」

 

 

 思春期の男を喜ばせるのは簡単だ。

 否定せず、共感してあげればよい。理論整然とした正解はいらない。ただ彼の答えを認めるだけでよいのだ。真紀はそれを心得ていた。

 しかし悠長にそんなことばかりをしているわけにはいかない。同調しつつも提案は忘れない。

 

 

「まずは新入生から輪を広げてはどう?」

「俺たちの目的は仲良しクラブを作ることじゃない。次世代の……新秩序(ニューオーダー)を手にすることなんだ。学校の中で派閥を作ってお山の大将になったところで意味なんてないよ。たとえば北山家の令嬢やその友人の光井ほのか……彼女たちは有力候補だ」

「そう……でも一つ忠告よ。ちゃんと『先輩』は付けておきなさい。普段から気を付けないと、いざという時も出ちゃうわよ?」

「わかったよ」

 

 

 琢磨は、そして真紀はどこかにある勢力に入るだけで満足するつもりはない。自分たちが新しき秩序となり、頭角を現すことが目的なのだ。

 そのために、琢磨は父である七宝家当主の意向にも密かに逆らっていた。

 

 

 

 

 

 




そういえば原作も完結しましたね。
新シリーズの大学生編も始まりましたが…そっちはまだ読んでないですね。とりあえず3巻くらい出てから買おうかなと思ってます。

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