四月十五日、七草弘一は珍しい相手からメールを受け取った。
メールと言っても正式な文書で、しかも相手は四葉真夜である。
「ほう」
訝しげに暗号化した文書をデコードして、内容を確認する。
そして思わず息を吐いた。
「これは、ふむ」
珍しい相手というのは間違いない。
また因縁のある相手であり、数か月前には辛酸を舐めさせられた。正直、苦手意識が生まれてしまったのは間違いない。だが送られてきた文書の内容は弘一とて無視できないものであった。
「なら」
主な内容は面会の約束を求めるものだ。
しかも個人的ではなく十師族としての面会である。四葉紫音を代理として遣わすとあるが、あまり油断できることではない。とはいえ断るほど狭量でもない。
答えは一つであった。
◆◆◆
四月十六日、午後八時五十五分。
七草邸の前に黒塗りの車が停まった。そして先に降りた運転手が後部座席の扉を開く。中からは黒スーツに身を包んだ紫音が現れた。
そのまま七草邸の門を潜る。
出迎えたのは真由美であった。
「久しぶりね四葉君」
「七草先輩が直々に出迎えてくださるとは。お久しぶりです。大学の方はどうですか?」
「まだ少し慣れないけど、楽しんでいるわよ。さ、どうぞ上がって」
「ええ、お邪魔します」
真由美は父の執務室へと案内する道中、実に意外そうといった口調で尋ねた。
「それにしても驚いたわ。まさか四葉君がうちに来るなんて」
「母上の、四葉家当主様の代理ですよ」
「それでもびっくりよ。うちの使用人には任せられないから私が出ることになったんだから」
「それは御迷惑をおかけしました」
「ふふ。気にしないで。それに四葉君には妹たちもお世話になっているし」
妹たち、というのは香澄と泉美のことで間違いない。
真由美からすれば二人とも風紀委員に所属することになるとは思わなかったのだろう。探る意味も込めて続ける。
「今年の首席は四葉の縁者だと聞いたわ」
「水波のことですね。あの子の一族は四葉家で世話をしている魔法師です。俺の世話役として来てもらうついでに第一高校を受験させました」
「驚いたわねぇ。十師族の血縁というわけでもないのでしょう?」
「四葉家は少数精鋭を基本としていますから。それに縁のある魔法師一族は四葉家で世話をして、魔法力の向上に努めさせています。勿論、実戦訓練も含めて。水波とて訓練ではありますが実戦経験済みの魔法師なんですよ」
「世話をしているってそういう意味なのね。うちとは大違いだわ」
七草家は十師族の中でも極めて大きな魔法師コミュニティを形成している。その理由は魔法大学を卒業した魔法師を大量に雇い入れているからだ。勿論、魔法師の名門として家々との付き合いから雇い入れられる者も多い。しかしわざわざ出資してまで魔法師を育てているわけではない。
あくまでも家としての付き合いを利用したものばかりだ。
四葉の言う少数精鋭の秘密に迫れたからか、真由美も感心した様子であった。
「でも本当に驚きの連続だわ。今まで四葉の後継者なんて聞いたことなかったのに……」
「そればかりは
「そう、なのね」
真由美も四葉を襲った悲劇は知っている。
だからこそ、四葉の名を隠している一族のことも納得できた。まさか第一高校に紫音以外の四葉がいようとは思わないが。
やがて紫音は一つの扉の前まで案内される。
そして真由美が軽くノックする。
「お父様、四葉君をお連れしました」
◆◆◆
弘一は眼前に座る少年をサングラス越しに眺めつつ、まずはどう口火を切るか悩む。
いきなり四葉代表として接するか、あるいは娘の学友として接するか。弘一は少しの間だけ思案し、やがて言葉を口にした。
「よくぞいらっしゃられました。国家公認戦略級魔法師殿をお招きできて喜ばしい限りです。五輪澪殿はお招きしたこともあったのですが、君は初めてですね。こうして直接話すことも」
「こちらこそ。しかし今日は四葉家当主代理として訪れています。戦略級魔法師としてであれば、またいずれの機会にでもお招きに応じましょう」
「そうですね。本題といきましょうか」
余計なことは話さない、か。
そんな風に内心で考えつつ、弘一も脳内を切り替える。今日の会談の内容は予め文書によって知らされていた。しかしより深い認識の共有という意味で、前提から話し始める。
「昨日の文書を確認しました。我々七草家としても認知しています。海外から紛れ込んでいる反魔法師団体に偽装した工作員をね」
「それは良かった、と言っておきましょう。流石は七草家です。相談した甲斐がありました」
「私としては四葉家から相談してきたことに驚いていますが……流石は黒羽といったところですか」
主導権を握るためにもジャブを放つ。
四葉の懐刀にして工作のプロとして黒羽家があることは弘一も認知していた。そして紫音が黒羽家の血縁ではないかということも調べていた。
ところが紫音は表情一つ動かさず、答えを返した。
「お褒めに与り光栄です。それに七草家こそ、海外の工作員を早期に確認し、手を打たれた。影から政治家やマスコミに情報を流し、反魔法師団体を煽って分裂を促しておられるのでしょう?」
「ええ、その通りです」
反魔法師団体を支援する。
それは十師族として叛逆にも等しい行為だ。しかし弘一は否定しなかった。そんなことをしても意味がないと理解していたから。
「反魔法師団体などと一括りにはしていますが、我々の敵は要するに世論です。彼らの語る魔法師の危険性や魔法師と一般人の不平等性は誰かが根拠に基づいて語る意見ではありません。意見ならば我々も否定の材料と主張を以て対抗するが、世論はそうもいかない。だからこそ、反魔法師団体そのものに働きかけ、世論の分裂を促す。それが最も効果的でしょう。大火より
「同意します。しかし生温いと言わざるを得ませんね」
「ほう?」
「どうせならばその火を返してやらなければ」
紫音の言葉に弘一は興味を引かれた。
同時に若い、とも考える。
確かに反撃できるならばそれに越したことはない。この国の魔法師の地位を貶め、魔法師弱小国にしてしまおうとする勢力には頭を悩ませてきた。それが一掃はできずとも、しばらく抑え込めるならば万々歳である。
しかしその難しさも理解していた。
世論は簡単ではない。
反撃ができるならば弘一もやっている。
「どうするのか、聞かせて頂きましょう」
「物事は根本的に解決するべきです。昨今のマスコミがあることないことを報道し、世論を掻きまわしていることは御存じの通りでしょう? この際ですから、そちらから攻めましょう」
それを聞いて弘一は落胆した。
分かり切っている対処法だが、しかしだからこそ難しい。露骨なことをすれば逆効果になるだろう。言論の自由を盾に言いたい放題する相手を鎮めるのは至難だ。
だが、紫音は弘一の落胆を察しつつも言葉を続けた。
「何も無策というわけではありません。マスコミを叩くならば、同じマスコミです」
「競合させるのですか?」
「いえ、特定メディアの報道が不当であり、信じるに値しないということを世論に知らしめます。真実を暴きたがるジャーナリストの精神を利用して」
「罠に嵌めると?」
「第一高校という場所は格好のネタになると思いませんか? 特に反魔法師を主張するメディアはこぞって取材したがるでしょう。そうでないメディアも、ですが」
それがどんな意味を含んでいるか、七草家当主として考える。
弘一にとって四葉を襲った悲劇は他人事ではない。かつては四葉真夜の婚約者でもあった彼にとって、あれは忌まわしい事件であった。また弘一本人もその時の事件によって片目を失っている。普段からサングラスを着用しているのは義眼を隠すためであった。
第一高校は自分の娘が通う学校だ。
そこが薄汚いハイエナによって荒らされることは望まない。たとえ他の誰かが傷つき、命を落そうとも弘一は絶対に娘を優先する。
(第一高校にメディアが訪れる場合。その標的となるのは……)
弘一はじっと紫音を見つめる。
「自分を餌とするおつもりですか?」
「高校生の戦略級魔法師……すなわち有事の際には超法規的に軍人としての働きが求められる立場です。こぞって自分を質問攻めにするだろうと思いますよ」
「なるほど」
戦略級魔法『
それは手を出し辛い微妙な立場である。本来、未成年の従軍は法律によって禁止されている。一方で十師族という枠組みは超法規的な立場だ。様々な面で政府から優遇される特別に与る一方、有事の際にはその魔法の力を振るうことが求められている。
かつて九島烈が組織した魔法師を守るための枠組みだ。
学生でありながら軍人としての命令系統に組み込まれた紫音に対し、メディアがどのような反応を示すかは予想に難くない。また謎のヴェールに包まれた四葉に興味を示すことも間違いない。
「では四葉殿は私にどのようなことをお望みですか?」
「話は簡単です。
「なるほど。先んじて工作している
「パイの奪い合いを十師族でするわけにもいかないでしょう」
「尤もです」
七草が負うべきリスクは最小で、かつ最大の利益が期待できる。四葉と手を組むということに思うところこそあれど、悪くない提案だ。
しかしここで容易く頷くほど七草は軽くない。
「良い考えですが、残念ながら机上の空論ですね。今のところは」
「勿論、既に具体案もあります。民権党の神田議員をご存知ですね?」
その名に弘一は驚かされた。
神田という人物は国防軍に対して批判的な若手の国会議員だ。魔法師の人権を謳いつつ、国防軍から魔法師を排除しようとしている。弘一もよく知っていた。
「随分と刺激的な
「魔法科高校が軍人養成学校になっていると主張してやまない勢いのある政治家と、学生身分でありながら国土防衛の要となっている四葉の後継者。実にマスコミ好みだと思いませんか?」
「策はあるので?」
「諜報と工作は黒羽の得意分野ですから」
「……いいでしょう」
紫音がそれ以上を述べるつもりがない、ということを理解して言葉を止める。正直、プレゼンとしては充分だった。弘一としても協力することは吝かではない。
また吸血鬼事件での失敗を挽回するチャンスでもある。
「こちらから四葉の動きを邪魔することはありません。寧ろこの国を守る十師族として、是非とも協力いたしましょう」
「ご理解いただき感謝します」
◆◆◆
訪れた時と同様、真由美に見送られた紫音は待たせていた車へと乗り込む。
後部座席の隣には本家から預かっているガーディアン見習いの水波がいた。
「おかえりなさいませ」
「水波、どうだった?」
「こちらを監視する目が幾つか。その中には十文字家の者もおりました」
「他は?」
「紫音様を監視する国防軍の者、七草家の縁者です」
「ならいい」
四葉が七草を訪れるという事件によって勢力が動くと考え、監視の監視を黒羽に依頼していた。そのリアルタイムの報告は全て車内待機していた水波へと届くようになっていたのである。
「しかし十文字家、か」
昨年まで第一高校に在籍していた十文字克人とは少し前に対立した。また克人は四葉が十師族に同調せず独自路線を走ることを危惧しており、今後も敵として立ち塞がる可能性が否めない。
また克人本人が清廉とした性格であることから、小さな被害をも嫌うだろう。
(確か黒羽の調べでは十文字家が七草のマスコミ操作について探りを入れていたとか……まぁいい。邪魔になるならその時に対処しよう)
魔法師に対する反発の世論は少しずつ高まっている。
その原因を遡るとほぼ必ず大亜連合の影が見られることも問題だ。沖縄、横浜と二度に渡って侵攻を阻まれただけでなく、マテリアル・バーストによって鎮海軍港までも消滅させられた。執念深いあの国が諦めるはずもなく、今度は工作によって弱体化と混乱を狙っているのだ。
あえて逃がした
その前に邪魔な工作は一掃しておかなければならない。
多少の被害は、未来の大損害を見据えて目を瞑る。
「俺たちを監視している奴らには手を出すな。そう伝えろ」
「かしこまりました」
ひとまずは敵でないため、そう指示を出した。
◆◆◆
国立魔法大学は元々軍事基地であった場所を潰して建てている。国家プロジェクトである魔法師の育成のためとはいえ、わざわざ軍事基地に建設するくらいだ。魔法大学と軍は非常に密接な繋がりがあると言えるだろう。
とはいえ、大学は大学だ。
防衛大学校とは異なり、軍服の着用が義務付けられているわけでもない。普通の大学生と同じように、学校敷地内では服装も自由だ。
今日の真由美は比較的露出の多い服装であったが、それを咎める目もなかった。
「十文字君、お待たせ」
そんな彼女はカフェテリアで待ち合わせをしていた。
先に到着していた克人へと声をかけ、対面の椅子に座る。
「いや、俺も五分ほど前に来たばかりだ。わざわざ悪いな」
「気にしないで。十文字君が呼び出すなんて余程のことなんでしょう?」
しかもこんな場所に、と言葉を続ける。
確かにカフェテリアは大学内でもオープンなスペースであり、特に二人は有名人だ。また歳の近い十師族ということで婚約者なのではないかという噂もある。
だが朴念仁な克人にそんな考えはなかった。
「目立たない場所の方が問題だろう」
確かにその通りだが、そうじゃない。真由美は内心で溜息を吐く。
ただ克人は彼女の態度に気付いた様子もなく、電子ペーパーを広げた。その中には「軍用魔法師の実態」「青年の兵器化」「魔法師に支配される国防」「優遇される魔法師」などの見出しから始まる記事が並べられている。
真由美は今度こそ、溜息を吐いた。
「嫌なニュースね。魔法師の人権を代弁しているように見せかけているけど、その実態は魔法師の権利を奪い取るための世論操作じゃない」
しかし克人はそんな愚痴を無視してCADを操作し、遮音フィールドを展開する。大学内は特定の場所に限りだが魔法の自由な使用が許可されている。このカフェテリアもその一つだ。
だからこそ、克人もこの場所を選んだのだが。
「そんな重要な話なの?」
「万が一にも聞かれるわけにはいかんのでな。それより、先週あたりからマスコミの反魔法師報道が急激に増加している」
「気付いているわ」
「そしてその報道には二つの方向性がある。一つは魔法師に対して純粋な疑念を発信する、昔から反魔法師の態度を取っていた報道機関のもの。もう一つは七草が先も言っていたような態度のものだ」
「そうね。後者のものが特に増えてきた印象かしら」
相槌を打つ真由美に対し、克人はじっとその眼を見つめる。
思わず真由美もたじろいだ。
「な、何?」
「……二つの違いがあるのは、それぞれのソースが違うからだと考えられる」
「反魔法師にも勢力の違いがあるということ?」
「その通りだ。そしてその一つだが……」
克人は一度言葉を止め、眼差しを強くする。
元から強面な彼がそんなことをすれば、彼をよく知る真由美ですら身を引いてしまいそうだ。
「……その一つだが、七草家が背後にいる可能性が高い」
「なんですって!?」
反射的に立ち上がり、テーブルを強く叩いた。
遮音しているとはいえ、周囲を大いに驚かせる。一方で克人は落ち着けとばかりに静かな口調のままだった。
「あくまでも可能性だ。しかしそれなりの確証もある。だからこそお前に相談した」
「確かにあの狸親父は謀略好きだけど、まさか魔法師にとって不利になるようなことなんて……」
「七草殿には何か目的があるのかもしれない。それに七草以外にも関わっているのかもしれない。しかし国防軍と大学の繋がりを非難する勢力を支援していることは確かだと思う」
「まさか父が表面的なことに騙されているとでもいうの!? それは酷い侮辱よ!」
「そうではない。だが、七草殿はそうすることが魔法師にとって良いことになると判断されていると考えている」
真由美はそこで息を整え、心を落ち着かせる。
克人の人となりを知っている以上、悪戯のつもりで言っているわけではないだろう。十文字家代表代理としての発言だと考えらえる。
「つまり、十文字君は私にアポイントを取って欲しいわけね?」
「そうだ。頼めるだろうか?」
「いいわ。もしも本当なら父を問い詰めるわよ。同席させてもらうけどいいわよね?」
「構わない」
本題を理解した真由美は父の予定を頭の中で整理する。
全てを把握しているわけではないが、ある程度のことは知っていた。そしてしばらくの後、克人へと問いかける。
「今日の夜は空いている?」
「ああ」
「それなら、今夜うちに来てくれるかしら?」
「分かった」
それを聞いてすぐ、真由美は父にメールを送った。
◆◆◆
「良く調べたものです」
夜、尋ねてきた克人に対して弘一はそのように返答した。
彼の前で述べられた克人の推論は当たっているもので、調べられたのならば隠す必要もないと判断したのである。
一方で同席した真由美は激怒した。
「お父様! なんてことを!」
「落ち着きなさい真由美」
「これが落ち着いていられますか! お父様のなさっていることは十師族に対する反逆行為です! ひいては国家に対する裏切りですよ!」
間違いない、と克人も同調する。
しかし弘一はぬけぬけとした態度を崩さず答えた。
「裏切りではない。お前は考え違いをしている」
「そんな――」
「七草」
それでも食って掛かろうとする真由美を克人が止めた。
そして改めて問いかける。
「七草さん。私は十文字家代表代理としてあなたに問いたい。何が目的でそのようなことをなさっているのか、充分な説明をしていただく」
「いいでしょう」
弘一は子供に諭すように、優し気な口調で答える。
「克人君、まずは誤解を解いておきましょう。確かに私は反魔法師を報道するマスコミを支援していますが、それはあくまで資金援助に留まるものです。一種の投資活動ですよ。それを通して得られるものを望んではいますがね」
「直接的なマスコミ工作ではないと?」
「ええ。そもそも、今回のことで直接的な操作は下策です。何故なら、少しずつ増加している反魔法師の風潮は世論として燃え上がろうとしているのだから」
「それが問題だと?」
「ええ。問題ですね。世論は言葉のモンスターだ。しかも飼い主がいない、非常に厄介なものだ。だからこそその発言に責任の所在がなく、ただ風潮として世間に残り燃え続ける。我々が反論しようとしても、それをするべき相手がいない。実に困ったことだと思いませんか?」
世論とはすなわち、国民の総意だ。
多数決が生み出した概念だけ浮き上がった意見ともいえる。誰かが発信した意見と異なり、その誰かを排除することで消えるようなものでもない。
だからこそ、世論を消すには同じ世論しかない。
国民が反魔法師主義を馬鹿馬鹿しいと思わない限り残り続ける。たとえ本音でなかったとしても。
「世論を潰しやすくするためには、その勢力を二つに分けるのが良い。だからこそ、私は膨れ上がりつつある反魔法師論の中に一石を投じたのです。最近になって増加している反魔法師報道は私が何もしなくとも増加したということを理解してください」
「だから矛先を変えた報道をさせていると?」
「魔法師そのものに対する反発と、国防軍に対する反発。この二つの根底には同じ考えが根付いています。しかし表面的には二つに分かれた。これによって消しやすくなったでしょう? それについては四葉家が協力してくださることにもなっています」
これは驚いた、という表情が克人に現れる。
一方で真由美は何かを察したかのように呟いた。
「まさかこの前……四葉君がうちにやってきたのは」
「そうだ。このことについて相談していた」
「珍しいこともあると思ったら……」
まさに点と点が繋がった、という思いだった。
これには克人も眉を顰める。
「つまり七草さんは四葉と共謀してネガティブキャンペーンを煽っていると?」
「罠を張っていると言っていただきましょう。私とて無為に煽るつもりはありませんよ」
「ではその罠とは?」
「魔法科高校、ひいては魔法大学と軍の繋がりを否定的に報道しているマスコミを基点として世論に訴えかけます。それによって反魔法師の意見全体に波及させます。一部を覆すことで全体にまで効果を及ぼすことが期待できます」
「具体的には?」
「第一高校に国会議員がお忍びで視察に行きます。マスコミを連れてね。対応は四葉紫音君がしてくれるそうです。彼は自分の立場の使い方を心得ている」
それは学生身分でありながら国防にかかわる重要な人物であるという意味だ。
四葉紫音ほど国防軍と魔法師の関係を端的に表せる者はいないだろう。克人もそれはすぐに分かった。それに反魔法師の主張は元から破綻している。核兵器を封じ込めることができるのは魔法師であり、魔法師に対抗できるのも魔法師だ。故に国防の観点から魔法師と軍の関係は切り離せない。
確かに準備さえ整えておけば不可能ではない。
しかしそれは第一高校に被害をもたらしかねない行為でもある。
克人は厳しい視線を向けた。
「多感な時期ゆえに心無い言葉で傷つき、魔法師としての生命を奪われる者がいるかもしれません。十文字家当主代理として七草家および四葉家のマスコミ操作に対し遺憾の意を表明し、ただちにネガティブキャンペーンへの関与を止めるよう求める」
「七草家は十文字家に対し書面での抗議を求める。回答は抗議状を見て行いたい」
「では家に戻り次第、したためましょう。四葉家にも同様に」
弘一は立ちあがり、静かに告げる。
「真由美、十文字殿がお帰りだ。見送って差し上げなさい」
克人は無言で一礼し、弘一もそれに返した。
あっさり終わらせるつもりだったのに、書いている内に色々付け足したくなる。
当初は五話くらいで終わらせる予定だったんですけど絶対終わらない。
今回の話は賛否両論ありそう。
まぁでも弘一さんも大人だし、こんな感じかなとイメージしました。なんか原作から推察するに、この人もトラウマ抱えてるかんじがするんですよねぇ。
真夜様ほど自分勝手じゃないけど、全てにおいて七草家と子供たち優先って感じがします。